【ニュース・ヘッドライン】
- DRCでエボラの臨床試験開始も、アビガンは見送り
- オプジーボ、小細胞性肺癌の市販後薬効確認試験がまたフェール
- ティッシュー・アゴノスティック抗癌剤が承認
- amifampridineが新薬として承認
- アステラスのゾスパタが米国でも承認
- MSDの新規抗HIV薬がEUでも承認
- ポテリジオがEUでも承認
- シャイア、TakhzyroがEUでも承認
- 武田のALK阻害剤がEUでも承認
- FDAがIDH阻害剤の分化症候群リスクを警告
- FDA、Lemtradaの卒中・動脈剥離リスクを警告
【今週の話題】
DRCでエボラの臨床試験開始も、アビガンは見送り
(2018年11月26日発表)
エボラは2014年にギニアなどで大流行し、1万人以上が死亡したのち、沈静化した。数年毎に流行する傾向があり、今年はコンゴ民主共和国(DRC)で400人以上が発症(疑い例も含む)、200人以上が死亡した。WHOやMSF(国境なき医師団)などが対応に当たっているが、今回も、紛争や公衆衛生・現代医療に対する知識不足・不信が障害になっているようだ。米国政府職員は危険地域への出張が禁じられており、CDC(疾病管理予防センター)の経験豊富な職員も足止めを食らっている。
2014年との違いは、薬やワクチンについてある程度の感触が掴めていること。ワクチンは、発症者の濃厚接触者にring vaccinationして感染を輪の中に封じ込めるために、MSDの遺伝子組換え型弱毒化生ワクチン、V920/rVSV-ZEBOVが用いられている。
薬はカナダ政府機関が創製しMapp Biopharmaceutical/LeafBioが開発生産するモノクローナル抗体混合薬、ZMappがデファクト・スタンダードになっている模様。他にも候補は多いが、臨床試験が終わらないうちに前回の流行が終わってしまったため、エビデンス不足の状態。ZMappの供給体制は十分とは言えないため、DRC政府は3種類の開発品の治療効果をZMappと比較する臨床試験を開始した。
まず、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)がDRCやスイスなどの研究組織と共同開発した、感染生存者から単離した抗体、mAb114。一つで済むなら生産性が向上する。次に、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGS-5734(remdesivir)。Filovirus系ウイルスに有効と考えられている核酸医薬で、動物試験では感染の3日目に投与を開始する用法で生存率100%だった。最後に、リジェネロンのREGN-EB3。エボラウイルスに対する3種類の完全ヒト化抗体の混合体だ。
前回はフランスなど一部で富士フィルム富山化学のアビガン(favipiravir)も用いられ、現在も出動に備えて備蓄されているはずだが、今回の試験には採用されなかった。WHOが公開したエキスパート評価によると、患者に便益をもたらすかどうか、大きな不確かさ(considerable uncertainty)があるとのことだ。用量も明確ではない。フランスの国立研究機関の推奨量は日本でインフルエンザ治療に承認されている用量の初日は3倍、維持用量は2倍となっている。
これらのことから、上記4剤の何れも入手できない時のバックアップという位置付けに留められている。
リンク: WHOのプレスリリース
【新薬開発】
オプジーボ、小細胞性肺癌の市販後薬効確認試験がまたフェール
(2018年11月26日発表)
BMSは第三相CheckMate-451試験がフェールしたと発表した。進展段階の小細胞性肺癌で白金薬ベースの一次治療に反応または安定化した患者を組入れて、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の二剤による維持療法の延命効果を検討したが、偽薬を有意に上回らなかった。
この併用は4月に米国で小細胞性肺癌の三次治療に用いることが承認されたが、加速承認で、19年7月までに全生存期間が向上することを示す臨床データを提出しなければならない。10月のCheckMate-331二次治療試験のフェールに続くセットバックで、最悪、承認取り消しの可能性も出てきた。
リンク: BMSのプレスリリース
【承認】
ティッシュー・アゴノスティック抗癌剤が承認
(2018年11月26日発表)
FDAは、Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)のVitrakvi(larotrectinib)をNTRK融合蛋白陽性の切除不能転移性固形癌用薬として承認した。代替的治療法がない場合、または治療後に進行した、成人小児が適応になる。NTRK融合蛋白陽性でもこの薬剤に抵抗性を持つ変異は適応外。
抗癌剤の適応は原発部位や転移部位毎に決定されるのが一般的だが、癌原性遺伝子変異を標的とする分子標的薬は当該変異を持つ複数の部位の癌に有効性を示すことがある。her2やEGFRに対するモノクローナル抗体が一例だ。
Vitrakviは固形癌であれば発生組織は問わない、tissue agonosticな抗癌剤として承認された。同様な事例としてはMSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)がマイクロサテライト不安定性が高い癌に承認されているが、最初の適応が組織不問なのはVitrakviが初めてだ。
NTRKはニューロンの制御に関与するtropomyosin receptor kinasesの遺伝子で、他の遺伝子と融合してレガンド結合ドメインを喪失すると、恒常的に活性化する。該当するのは癌の0.5~1%、米国で1500~5000人と稀。臨床試験では17種類の癌が組入れられたが、軟組織肉腫や唾液腺腫、幼児線維肉腫などが比較的該当率が高いようだ。
成人は100mgを一日二回、経口投与、小児は体表面積に応じて調整する。臨床成績はORR(客観的反応率)が75%、6ヶ月反応持続率は73%、1年持続は39%。有害事象は神経や肝臓、胚・胎児毒性。
報道によると、WAC(卸取得価格)は月32800ドル。バイエルが米国で共同販促、海外は独占販売する。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Loxo社のプレスリリース
amifampridineが新薬として承認
(2018年11月28日発表)
FDAはCatalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)のFirdapse(amifampridine phosphate)をランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)治療薬として承認した。19年第1四半期に発売予定。価格がどの程度高騰するのか、12月のロンチ計画発表が注目される。
LEMSは電位依存性カルシウムチャネルが自己抗体に攻撃される自己免疫疾患で、筋力の低下や自律神経障害などを伴う。二人に一人は小細胞性肺癌などの腫瘍を併発しており、癌の治療に応答する。血漿交換やステロイドも有効である模様。米国の患者数は3000人と推定されている。
amifampridine(3,4-DAP)はカリウムチャネルブロッカーで、90年代にLEMSに有効であることが発見され、未承認のまま広く用いられるようになったが、品質や供給力に懸念が表明されている。今回のリン酸塩(3,4-DAPP)はフランスの研究所が創製したもので、欧州ではバイオマリン(Nasdaq:BMRN)が09年に発売した。
ここで、温故知新型新薬に付き物の問題が発生した。これまで3,4-DAPを用いていた患者は、3,4-DAPPにスイッチすると費用が数十倍に急増してしまうのだ。批判が大きかったのか、コスト意識が強い欧州では売れなかったのか、バイオマリンは12年に北米の権利をCatalystにライセンスした。
このような経緯があるので、Catalystが米国でどのようなプライシングを行うか、注目される。また、3,4-DAPを販売しているJacobus Pharmaceuticalsも正式に承認を取る方針である模様なので、競合品の動向も気になるところだ。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Catalyst社のプレスリリース
アステラスのゾスパタが米国でも承認
(2018年11月28日発表)
FDAは、アステラス製薬のXospata(gilteritinib、和名ゾスパタ)を再発・難治性FLT3変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認した。遺伝子内縦列重複変異(ITD)あるいはチロシンキナーゼドメイン変異(TKD)を持つ、AMLの3割程度が対象。FLT3阻害剤は昨年、ノバルティスのRydapt(midostaurin)がAMLの一次治療併用薬として承認されたが、再発治療の承認は初。
120mgを一日一回、経口投与する。臨床試験では21%の患者が完全寛解/部分的血液学的回復を伴う完全寛解を達成した。FDAは重要な有害事象として可逆性後頭葉白質脳症症候群やQT延長、膵炎の監視を勧告。稀に分化症候群が見られる。胚胎児毒性あり。報道によると、WAC(卸取得価格)は30日分が22500ドル。日本では9月に承認され、薬価は30日分が約175万円。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アステラスのプレスリリース(和文、29日付)
MSDの新規抗HIV薬がEUでも承認
(2018年11月28日発表)
MSDの新規非核酸系逆転写阻害剤、Pifeltro(doravirine)とlamivudine及びtenofovir disoproxil fumarateを配合したDelstrigoがEUで承認された。初治療に用いるのも可。同じNNRTIであるSustiva(efavirenz)より安全性が高いとされる。ギリアドが創製したTDFの合剤が用意されていることもポイントか。米国では8月に承認。
リンク: MSDのプレスリリース
ポテリジオがEUでも承認
(2018年11月26日発表)
協和発酵キリンの抗CCR4ポテリジェント抗体、Poteligeo(mogamulizumab、和名ポテリジオ)がEUで承認された。全身治療歴を有する成人の菌状息肉腫(MF)およびセザリー症候群(SS)に用いる。米国では8月に承認。日本では12年にCCR4陽性成人T細胞白血病で初承認、今年8月に上記用途も承認された。
リンク: 協和発酵キリンのプレスリリース(英文)
シャイア、TakhzyroがEUでも承認
(2018年11月30日発表)
シャイアの抗血漿カリクレイン抗体、TakhzyroがEUでも遺伝性血管浮腫の発作予防に承認された。二週毎に皮注、管理良好なら四週毎も可。第三相試験では発作を87%削減した。
15年に承認マイルストンを含め65億ドルで買収したDyax社の開発品。米国では8月に承認。シャイアと買収で合意した武田薬品にとっても重要な新薬だ。
リンク: シャイアのプレスリリース
武田のALK阻害剤がEUでも承認
(2018年11月28日発表)
武田薬品のALK阻害剤、Alunbrig(brigatinib)がEUでALK陽性非小細胞性肺癌用薬として承認された。ALK阻害剤の先輩であるcrizotinibに不応不耐の患者に用いる。臨床試験では確認ORR(客観的反応率)が53%、メジアン反応持続期間は13.8ヶ月、脳転移症例における頭蓋内ORRは67%だった。致死的有害事象の発生率は3.7%で、肺炎、突然死、呼吸困難など。米国では昨年4月に承認された。
医薬品開発拠点間の優勝劣敗は世界共通の現象で、例えばロシュはジェネンテック頼みの状態が続いている。武田薬品も日本の生産性低下をミレニアムのアウトプットや企業買収で補い、今回、現経営体制下では初めて大型買収に踏み切ることになる。それと比べれば小さいとはいえ、17年のAriad社買収も総額54億ドルと大きな買い物だった。Alunbrigはファーストインクラスのcrizotinibよりは良さそうだが競合品は数多いので、投資を回収するには工夫が必要だろう。
リンク: 武田のプレスリリース(和文)
【医薬品の安全性】
FDAがIDH阻害剤の分化症候群リスクを警告
(2018年11月29日発表)
FDAは、Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)が開発しセルジーン(Nasdaq:CELG)が販売するIDH2変異型難治再発AML(急性骨髄性白血病)用薬Idhifa(enasidenib)に関して、分化症候群のリスクを患者も含めてきちんと認識するよう警告する安全性情報を発出した。今年5~7月の安全性報告で分化症候群に関連する死亡が5例報告されたことが引き金のようだ。
臨床試験では14%の患者で発生した。治療開始後、早いケースでは10日、遅い事例では5ヶ月程度で発生。症状は急性呼吸器不全や肺浸潤、胸水、リンパ節腫脹などだが、当初は心原性肺浮腫や肺炎、敗血症と酷似のこともある。
Agios社はIDH1阻害剤Tibsovo(ivosidenib)も今年、IDH1変異型難治再発AMLに米国で承認されたが、こちらも分化症候群のリスクがあるようだ。IDH阻害剤は分化を促すことで癌を抑制するメカニズムなので、分化症候群の発生は已むを得ないのかもしれない。問題は、これまで、急性前骨髄球性白血病用薬であるレチノイン酸くらいでしか起きなかった珍しい有害事象であるため、馴染みの少ない医療従事者がいても不思議はないことだ。
FDAが承認時から枠付き警告されているリスクを改めて念押ししたのは、このような懸念が背景かもしれない。画期的新薬はマスコミが良いことばかり書いて深刻な副作用を割愛しがちであることにも問題意識を持っているだろう。
FDAの研究者は土曜日に始まったASH米国血液学会でIDH阻害剤の分化症候群リスクに関する発表を行う予定。抄録によるとIdhifaの臨床試験では19%の患者で発生、5%が致死的だった由。
リンク: FDAの安全性情報
リンク: Norsworthyら(ASH抄録)
FDA、Lemtradaの卒中・動脈剥離リスクを警告
(2018年11月29日発表)
FDAは、サノフィのLemtrada(alemtuzumab)で稀だが深刻な卒中や動脈剥離が報告されていることを警告した。かってはMabCampath/Campath名でB細胞慢性リンパ性白血病用薬としても販売されていた抗CD52ヒト化抗体だが、年一回、5日連続で一日一回静注する多発性硬化症治療薬Lemtradaとして14年に米国で承認されて以来、世界で13例報告された。
うち、出血性脳卒中が7例、虚血性が2例、残りは頸動脈剥離などの複合例で、一人は死亡した。一例を除き投与後1日以内に発症。タイミング的にサイトカイン症候群と関連する可能性もあるが明確ではない。
深刻な自己免疫疾患や点滴箇所反応、甲状腺がんや黒色腫、リンパ増殖性疾患などのリスクもある難しい薬なので他の薬で再発を抑制できない難治性患者だけに使われているはずだが、出番が一層減ることになりそうだ。
リンク: FDAの安全性情報
今週は以上です。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。