2018年12月16日

2018年12月16日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • トレムフィアがコセンティクスに勝つ 
  • NBIX、valbenazineのトゥレット症候群試験はフェール 
  • イグザレルトを入院患者の血栓塞栓予防に適応拡大申請 
  • CHMP、持効性インターフェロン・アルファなどの承認に肯定的意見 
  • EMA、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞再発予防効果を認めず 
  • シャイアの慢性便秘治療薬、米国でも承認 


【新薬開発】


トレムフィアがコセンティクスに勝つ
(2018年12月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン社は、中重度乾癬治療薬Tremfya(guselkumab、和名トレムフィア)の直接比較試験で奏効率がノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を上回ったと発表した。夫々の薬の過去の臨床成績から推測された通りの結果だ。

Tremfyaは乾癬の病理に係るIL-17の分泌に関与するIL-23のp19サブユニットを標的とする抗体医薬で、MorphoSys社との創薬提携の産物。一回100mgを最初の2回は4週毎、その後は8週毎に皮注する。Cosentyxは抗IL-17抗体。150mgを毎回2回ずつ、最初は毎週、6回目からは4週毎に皮注する。

今回のECLIPSE試験は1048人の患者を両剤に無作為化割付した二重盲検試験。主評価項目は48週時点のPASI90奏効率。結果はTremfyaが84.5%、Cosentyxは70.0%で有意な差があった。二次的評価項目のPASI75奏効率は84.6%対80.2%で、非劣性。

シーケンシャルに実施されたPASI75の優越性解析がフェールしたため、それ以降の解析は仮説検証的ではなく仮説探索的と評価されるが、12週時点のPASI75は89.3%対91.6%で、Cosentyxのほうが上回ったが非劣性。有害事象による治験離脱は5.1%対9.3%、深刻有害事象は6.2%対7.2%だった。

リンク: ヤンセンのプレスリリース

NBIX、valbenazineのトゥレット症候群試験はフェール
(2018年12月12日発表)

ニューロクリン・バイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)は、valbenazineの後期第二相トゥレット症候群試験がフェールしたと発表した。POC試験もフェールしており、意外感は小さい。

valbenazineは小胞モノアミントランスポータ2阻害剤で、ドパミンなどの神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に係るドパミン神経系機能異常を改善する。17年に米国で遅発性ジスキネジア治療薬として承認された。日本は田辺三菱製薬がライセンス。トゥレット症候群は平均6歳で運動性・音声チックを発症する希少疾患。

リンク: NBIXのプレスリリース


【承認申請】


イグザレルトを入院患者の血栓塞栓予防に適応拡大申請
(2018年12月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン社は、Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)をmedically ill患者の静脈血栓塞栓(VTE)予防に用いる適応拡大をFDAに申請した。

承認用途の一つである関節置換術などを受ける患者ほどではないが、心不全、脳卒中、呼吸器不全、感染症、炎症などの治療で入院中の要安静患者はVTEのリスクがある。治療ガイドラインはXa阻害剤などの抗凝固薬による予防を推奨しているが、今回の申請は退院後も投薬を続けるのが特徴だ。

申請の根拠となった二本の第三相のうち、MAGELLAN試験は、入院中及び退院後も最大35日間投与したところ、VTEリスクが低分子量ヘパリン(承認用法である入院中と退院後10日間の投与)より有意に小さかったが、出血リスクは増加した。MARINER試験は退院後の期間だけを比較したところ、フェールした。

このため、退院後35日コースは難しそうだが、入院期間中だけなら、他のXa阻害剤も承認されているので、承認される可能性がありそうだ。

リンク: ヤンセンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、塩野義の新薬二品などの承認に肯定的意見
(2018年12月14日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、塩野義製薬の新薬二品などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

塩野義製薬のlusutrombopagはトロンボポエチン受容体作動薬。待機的な観血的手技を受ける成人慢性肝疾患患者の血小板減少症を治療薬。日本では15年にムルプレタ名で、米国は今年8月にMulpleta名で承認された。製品名は現時点ではlusutrombopag Shionogiだが、後日変更されるのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

Rizmoic(naldemedine)はオピオイドの副作用であるオピオイド誘発性便秘症の治療薬。末梢ミューオピオイド受容体を拮抗してオピオイドから保護する。下剤による治療歴を持つ成人患者に用いる。日本はスインプロイク、米国はSymproic名で共に17年3月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

希少疾患用薬は二新薬が肯定的意見を得た。Besremi(ropeginterferon alfa-2b)は長期作用性インターフェロン・アルファで投与頻度は2週間に一回(長期維持療法では4週間毎も可)。適応は既存のPEG化インターフェロン・アルファと異なり、症候性脾腫を伴わない真性赤血球増多症の治療に用いる。ウイーンのAOP Orphan Pharmaceuticalsが2009年に台湾のPharmaEssentia社(TWSE:6446)から欧州の権利を取得して開発、承認申請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

Trecondi(treosulfan)は他家造血幹細胞移植の前治療(『コンディショニング』)に用いるアルキル化剤プロドラッグ。2年無イベント生存率が向上する。ドイツのmedac Gesellschaft fur klinische Spezialpraparate mbHが承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持された主なものは、まず、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)が創製し欧州では武田薬品が開発販売している抗CD30抗体薬物複合体、Adcetris(brentuximab vedotin)。CD30陽性ホジキンリンパ腫の再発治療などに承認されているが、今回はステージIVの一次治療として、伝統的なABVD併用レジメンのうちbleomycinに代えてAdcetrisを用いる。ABVDと比較した試験で修正PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.77、p=0.035だった。米国では3月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

次に、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のPARP阻害剤、Rubraca(rucaparib)。白金薬感受性卵巣癌の再発治療で白金薬レジメンに部分/完全反応した成人の維持療法に用いる。現在は三次治療に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、ノバルティスが心筋梗塞再発予防薬として適応拡大申請していた抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab)は、申請撤回となった。米国では10月に審査完了通知を受領している。CANTOS試験の成功が学会・論文発表された時は驚いたが、何か裏話があったのだろう。

EMA、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞再発予防効果を認めず
(2018年12月14日発表)

EMAは、オメガ3脂肪酸(EPAとDHAの混合体)を心筋梗塞患者の心血管リスク削減に用いても十分な効果は認められないと判定した。欧州の一部の国で承認されている用途だが、適応取り消しになる。尚、高トリグリセライド血症の治療には引き続き使用できる。

当レポートでも何度か書いたが、オメガ3脂肪酸の近年の心血管アウトカム試験はフェール続きだ。承認の根拠となったGISSI Prevenzione試験の結果が再現できていないのだから、この試験の信憑性を疑わざるを得ないが、高力価スタチンの登場など医療全体の進歩で限界的な薬の限界効用が低下してしまったことが原因かもしれない。

尚、EPA・DHAを一日1gではなくEPAだけをもっと高量投与した試験は良好な結果になっており、今後の魚油ベースの治療の主流になりそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


シャイアの慢性便秘治療薬、米国でも承認
(2018年12月14日発表)

FDAはシャイア(武田薬品が買収予定)のMotegrity(prucalopride)を慢性特発性便秘治療薬として承認した。2mg(重度腎障害は半量)を一日一回経口投与する。腸の穿孔や閉塞、クローン病などの重度炎症性疾患は禁忌。自殺思慮・行動が警告注意事項になっている。

元々はジョンソン・エンド・ジョンソンが創製した5-HT4受容体作動剤で、Propulsid(cisapride)のリコールで懲りたのかMovetis社に導出、欧州で09年にResolor名で承認された。米国は04年に遺伝子毒性や癌原性懸念からFDAが治験許可を停止、開発が遅れた。

シャイアはリサーチ・アンド・サーチの先駆けで昔からインライセンスや企業買収に活発だ。2010年にMovetisを4.2億ユーロで買収、12年にFDAが治験再開を認めた後に米国の権利もJNJから取得し、心血管リスク評価などを行って今年3月に承認申請したもの。

リンク: Motegrityのレーベル(Drug@FDA収載)






今週は以上です。

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