2018年12月23日

2018年12月23日


【ニュース・ヘッドライン】

  • JAK阻害剤が相次いで円形脱毛症の後期臨床試験入り 
  • イクスタンジの適応拡大試験成功 
  • ロキサデュスタットはアストラゼネカの第三相も成功 
  • バベンチオ、卵巣癌試験がまたフェール 
  • ファイザーの黄色ブドウ球菌ワクチンもフェール 
  • FDAがBPDCN用薬を承認 
  • FDA、アレキシオンの長期作用性PNH治療薬を承認 
  • リムパーザ、適応拡大承認、別の適応拡大試験成功 
  • キイトルーダ、メルケル細胞腫に承認 
  • セルビエのアスパラギン枯渇剤が承認 
  • アストラゼネカ、COPDのFDCがEUでも承認 
  • FDAもフルオロキノロンの警告強化 


【今週の話題】


JAK阻害剤が相次いで円形脱毛症の後期臨床試験入り
(2018年12月23日発表)

イーライリリーに続いてファイザーがJAK阻害剤の後期第二相/第三相円形脱毛症試験をClinicalTrials.govに治験登録した。どちらも21年頃に成否が判明する見込みだ。POC試験の良好な結果が再現されるか、注目される。

円形脱毛症(AA)は自己免疫疾患で、細胞傷害性T細胞が毛包組織を攻撃する。米国の患者数は約50万人で、半数は20歳までに発症する。ファイザーのコンパウンドのPOC試験では被験者の平均年齢は36歳、7割が女性だった。finasterideなどの5アルファ還元酵素阻害剤が適応になる男子アンドロゲン性脱毛症とは対照的だ。

AAはウィッグで隠すこともできるし軽症なら自然に治ることもあるようだが、患者のニーズが強いようで、FDAはPatient-Focused Drug Development Initiativeの対象に選定、臨床試験のデザインの妥当性や薬効と副作用のバランスを検討する時の参考にすべく、新薬開発の早い段階で患者のヒアリングを行った。

JAK阻害剤は免疫細胞などのインターロイキン受容体の細胞内シグナル伝達に係る酵素を阻害する。リウマチ性関節炎治療薬Xeljanz(tofacitinib)が複数の研究者主導試験で良好な成績を上げ、注目されるようになった。

イーライリリーは今年9月、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)でAAのP2b/3試験を開始した。インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスしたJAK1/2阻害剤で、中重度リウマチ性関節炎治療薬として日米欧で承認されている。

ファイザーはPOC試験でJAK3阻害剤のPF-06651600やJAK1/TYK2阻害剤PF-06700841を24週間投与して効果や安全性を偽薬と比較した。主評価項目のSALT(severity of alopecia tool)スコアは偽薬比で前者が33ポイント改善、後者は49ポイント改善しどちらも統計的に有意だった。このスコアは完全脱毛が100、毛髪喪失無しが0、被験者142人の平均ベースライン値は88.1だったので、かなりの改善だ。

忍容性は有害事象による治験離脱が各2人と5人、偽薬群は2人で、JAK1/TYK2阻害剤が見劣りする。深刻有害事象である横紋筋融解症は各ゼロ、2人、ゼロとここでもJAK1/TYK2阻害剤が見劣りする。そのせいか、今回ステージアップしたのは、効果の面では数値が見劣りするJAK3阻害剤のほうだった。

P2b/3試験では、頭部毛髪50%以上喪失、全頭型、または汎発型の成人青年で直近の顕著な脱毛から10年以内の患者660人を組入れて、PF-06651600の5種類の用量用法を偽薬と比較する。主評価項目は24週後にSALTスコアが10以下に低下した患者の比率。ハードルを高く設定したのは偽薬効果(治療とは関係ない自然な改善)を抑制する意図なのではないか。

イーライリリーのP2b/3の主評価項目は36週時点の奏効率で、判定基準はAA-IGA(Achieving Alopecia Areata Investigator Global Assessment)が1以下に改善かつベースライン比2ポイント以上改善、となっている。

リンク: PF-06651600のP2b/3試験登録(ClinicalTrials.gov)
リンク: baricitinibのP2b/3試験登録(ClinicalTrials.gov)


【新薬開発】


イクスタンジの適応拡大試験成功
(2018年12月20日発表)

アステラスとファイザーは、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の第三相ARCHES試験の成功を発表した。転移性ホルモン感受性前立腺癌を組入れてアンドロゲン除去療法にXtandiを追加する効果を検討したところ、PFS(放射線学的評価による無進行生存期間)がアンドロゲン除去療法だけの群を有意に上回った。適応拡大申請に向かうだろう。データは学会発表の予定。

Xtandiはジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤Zytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)やXtandiを発明した医学者が次世代品として創製したErleada(apalutamide)と適応拡大競争を行っている。本試験は当初は2020年に開票の予定だったが、治験デザインを変更し前倒しした経緯がある。Zytigaは今回の用途で先に承認を取得したが、Xtandiもキャッチアップの見込みが立った。

リンク: 両社のプレスリリース

ロキサデュスタットはアストラゼネカの第三相も成功
(2018年12月20日発表)

アストラゼネカは、roxadustat(JAN:ロキサデュスタット)の第三相試験二本が成功したと発表した。末期腎障害の貧血を治療する試験で、一本は保存期の患者を組入れて偽薬と比較、もう一本は透析期患者にエポエチン・アルファと比較したところ、どちらもヘモグロビン上昇が有意に大きかった。

roxadustatは、酸素欠乏時に活性化される転写因子であるhypoxia-inducible factorのスクラップに係る酵素、HIF2-PHの阻害剤で、赤血球などの新生を促す。エポエチンと異なり経口投与可能。米国のFibroGenが創製、日欧中東アフリカなどではアステラス製薬と、それ以外の国ではアストラゼネカと、共同開発している。先ごろ、中国で承認。日本では来年3月までに承認申請される見込み。

エポエチンは使いすぎると心臓疾患のリスクが高まる懸念があり、roxadustatもFDAが07年にクリニカルホールドを命じたことがある。HIFは70以上の遺伝子の発現に係るので、安全性をしっかり確かめる必要があるのだ。エポエチン対照試験は中国で行われた試験でも効果が有意に上回ったが、両刃の剣と考えることもできるので要注意だ。アストラゼネカの今回の二本は何れも2000人以上を組入れており、他の試験も含めれば1万人規模に達する。来年上期に心血管リスクのプール分析を行って、米国での承認申請につなげる考え。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

バベンチオ、卵巣癌試験がまたフェール
(2018年12月21日発表)

ドイツのメルクと開発販売パートナーのファイザーは、Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)の第三相JAVELIN Ovarian 100試験が中間解析で独立データ監視委員会に無益性認定されたため中止すると発表した。卵巣癌の一次治療試験で、carboplatinとpaclitaxelの併用に更にBavencioを追加する効果を検討したが、PFS(無進行生存期間)がcarboplatin・paclitaxel二剤併用群を上回る可能性は著しく小さいという結論に達した。

白金薬抵抗性難治性の卵巣癌を組入れた第三相もフェールしたことが発表済み。抗PD-1/PD-L1抗体は適していないのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

ファイザーの黄色ブドウ球菌ワクチンもフェール
(2018年12月20日発表)

ファイザーはPF-06290510(SA4Ag)の後期第二相試験を中止すると発表した。中間解析で独立データ監視委員会が無益性認定したため。

黄色ブドウ球菌の複数の抗原を配合したワクチンで、待機的脊椎固定術を受ける患者の術後侵襲性黄色ブドウ球菌感染症を予防することが期待されたが、実現しなかった。類薬ではMSDのV710などもフェールしており、開発が難航している。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認】


FDAがBPDCN用薬を承認
(2018年12月21日発表)

FDAは、Stemline Therapeutics(Nasdaq:STML)のElzonris(tagraxofusp-erzs)を芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)用薬として承認した。2歳から適応になる。集中化学療法と骨髄移植という標準療法に不耐の患者の充足されないニーズに応えた。

BPDCNは稀だが進行の早い血液癌。他の血液癌と類似しており、判別にはCD123(IL-3受容体アルファ)などの検査が必要。ElzonrisはIL-3と断片化ジフテリアの融合蛋白で、21日サイクルで最初の5日間、静注する。小規模な臨床試験で初めて治療を受ける患者13人のうち7人が完全反応または臨床的完全反応を示した。再発難治患者15人に投与した試験では2例だった。

命に係わる毛細血管漏出症候群が枠付き警告。肝機能検査が推奨されている。妊婦禁忌。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Stemline社のプレスリリース

FDA、アレキシオンの長期作用性PNH治療薬を承認
(2018年12月21日発表)

FDAはアレキシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のUltomiris(ravulizumab)を発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬として承認した。審査期限は来年2月だった。同社のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)と同様に補体系のC5に結合・阻害する抗体で、末端半減期が3-4倍長く、点滴静注頻度が3回目からは8週毎と、Solirisの2週毎より少ないことが長所。効果は直接比較試験で非劣性だった。

用量は体重に応じて三種類設定されているが、60-100kgの場合、年間薬剤費(WACベース)は58万ドル程度となりSolirisと大差ない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アレキシオンのプレスリリース

リムパーザ、適応拡大承認、別の適応拡大試験成功
(2018年12月19日発表)

抗PD-1/PD-L1ほどではないがホットな分野がPARP阻害剤だ。開発が難航し開発主体も変遷したが、卵巣癌や乳癌に効果が確認され、BRCA悪性変異型以外での有効性も散見されるようになった。

代表的な製品であるアストラゼネカのLynparza(olaparib、和名リムパーザ)は、末期卵巣癌で白金薬レジメンによる一次治療に完全または部分反応した患者の維持療法に用いることがFDAに承認された。11月に申請受理が発表されたばかりなのでサプライズだ。

BRCA遺伝子に生殖細胞系または体細胞系の悪性変異がある癌が適応になる。SOLO-1試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが偽薬比0.30、3年無進行生存率は60.4%で偽薬群の26.9%を上回った。

翌日、白金薬感受卵巣癌の三次治療におけるORR(客観的反応率)やPFSを化学療法と比較したSOLO-3試験の成功も発表された。

Lynparzaは米国では生殖細胞系BRCA有害変異のある卵巣癌の4次治療、白金薬に反応した卵巣癌の維持療法、生殖細胞系BRCA有害変異のあるher2陰性転移性乳癌で化学療法歴のある患者、に承認されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: 同(SOLO-3試験成功、12/20付)

キイトルーダ、メルケル細胞腫に承認
(2018年12月19日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を難治性局所進行性または転移性のメルケル細胞腫の成人小児に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。進行癌に対する全身性治療歴を持たない患者50人を組入れた第二相試験で、完全反応率が24%、部分反応率は32%だったことに基づく加速承認で、今後の試験で延命効果を確認する必要がある。

メルケル細胞腫と言えばメルク/ファイザーのBavencio(avelumab、和名バベンチオ)の最初の適応症だ。今回の適応拡大はMSDにとっては小さな一歩だが、二度の世界大戦中に米国政府に資産凍結を受けるまでMSDの親会社であったドイツのメルクにとっては、上記の適応拡大試験フェールと合わせて、痛い。反応率はBavencioの試験のほうが低いが、二次、三次治療の患者が多かったので比較できないだろう。

MSDにとっては、非小細胞性肺癌の適応拡大申請のPDUFA(米国のユーザー課金制度に基づく承認審査期限)が4月11日に延期されたことの方が痛いだろう。モノセラピーの適応を現状のPD-L1著高発現(TPS≧50%)から1%以上に対象患者拡大するもので、追加データを提出したことが申請内容の大きな変更と判定されたようだ。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース(肺癌審査期限延期について、12/20付)

セルビエのアスパラギン枯渇剤が承認
(2018年12月20日発表)

セルビエの長期作用性アスパラギン枯渇剤、Asparlas(calaspargase pegol-mknl)がFDAに承認された。生後1ヶ月から21歳までの急性リンパ性白血病の多剤併用療法に用いる。類薬であるシャイアーのOncaspar(pegaspargase)などと薬効や安全性は大差ないが、投与間隔が3週毎と長く、有効期間も長い。

AsparlasもOncasparも元々はSigma-Tau Pharmaceuticalsの製品だったが、バクスターがアスパラギン枯渇剤ポートフォリオを9億ドルで買収、そのバクスターをシャイアーが買収、そのシャイアーが、武田薬品に買収を持ちかけられていた今年4月に、腫瘍学事業をセルビエに24憶ドルで買収したという経緯。

リンク: レーベル(Drugs@FDA収載、pdfファイル)

アストラゼネカ、COPDのFDCがEUでも承認
(2018年12月20日発表)

アストラゼネカは、Bevespi Aerosphere(glycopyrronium、formoterol fumarate)がEUでCOPDの維持療法薬として承認されたと発表した。長時間作用性ムスカリン受容体拮抗剤と長時間作用性ベータ2作用剤の固定用量合剤(FDC)で、加圧式定量吸入器(pMDI)を採用している。一日二回、吸入する。13年に買収したPearl Therapeuticsが多孔質粒子技術を用いて開発した。米国では16年に承認された。

グラクソ・スミスクラインのLAMA・LABA合剤、Anoro(umeclidinium、vilanterol、和名アノーロ)と直接比較した試験ではピークFEV1が非劣性、トラフFEV1は非劣性ではなかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDAもフルオロキノロンの警告強化
(2018年12月20日発表)

FDAは、フルオロキノロンが大動脈破裂・解離リスクを高めることを警告する安全性情報を発出した。大動脈瘤などの血管疾患、高血圧、高齢などの高リスク患者は、他に治療方法がない場合を除いて、使うべきではない。処方する時は、発症したらすぐ連絡するよう患者に伝える。

11月18日号で書いたように、EUはキノロン系合成抗菌剤の規制を強化し、キノロン系の一部は承認を停止、残りの製品やフルオロキノロンは深刻な疾患などに適応限定した。理由は深刻で不可逆的なこともある有害事象の懸念で、具体的には、腱炎、腱断裂、関節炎、下肢痛、歩行障害、知覚異常を伴う神経症、鬱病、疲労、記憶障害、睡眠障害、聴力や視力、味覚、嗅覚の異常が列挙されているが、大動脈破裂解離は言及されていない。

FDAによると、過去3年間に4本の疫学論文が刊行されていて、何れも、フルオロキノロン使用者は大動脈破裂解離のリスクが2倍前後高いと推定している。FDAの有害事象報告システムには15年12月時点で15例が報告されていた。18年4月までに56例が追加されたが殆どは訴訟代理人による報告とのことなので、診断・報告の信憑性や客観性は不確かということになる。そもそも、疫学的研究には様々な制約があるので、2倍程度なら誤差の範囲内かもしれない。

それでも、複数の集団における異なった手法での推定が皆同じような結果になったことは軽視できない。別の文献によると、一般人口における発症頻度は10万人当たり年9回だが、高リスクグループ(85歳以上など)では300回と急増する。このような人たちは、リスクがリアルであった場合に備えて、使わないのが生きる知恵なのかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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