2016年8月21日

2016年8月21日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、米国でPAR-1阻害剤の販促を中止へ
  • JNJ、Darzalexを適応拡大申請
  • PortolaのXa中和剤は審査完了に


【今週の話題】


MSD、米国でPAR-1阻害剤の販促を中止へ
(2016年8月15日発表)

Philadelphia Inquirer誌の報道によると、MSDはPAR-1阻害剤Zontivity(vorapaxar)の米国での販促を9月2日付けで打ち切ることを決定した。販売・管理スタッフ148名をレイオフすることがフィラデルフィア州のウェブサイトで公表されたため、発覚した模様だ。米国でFDAの販売承認を取得することは容易ではないが、それで終わりではない、医師や患者の支持を得ることが最も重要であることを思い知らされる。

Zontivityは、トロンビンが血小板を活性化する時に用いる受容体、PAR-1を阻害する抗血小板薬。MSDが09年に400億ドル余で買収したシェリング・プラウの開発品で、作用がアスピリンなど既存の抗血小板薬と補完的であるため併用が可能で、血小板活性化プロセスが動き出した時に作用するため不必要に出血リスクを高めないことが期待された。

最初の第三相試験はフェールした。心血管疾患リスクを十分に削減できなかっただけでなく、頭蓋内出血のような重大な出血事故が増加したため前途が憂慮された。ところが、二本目の試験は成功。サブポピュレーション分析の結果、脳卒中・TIA既往を禁忌とすれば便益が利益を上回るという結論になり、心筋梗塞歴を持つ患者や末梢動脈疾患患者の心筋梗塞リスクを削減する用途で承認申請され、14年に米国で、15年にはEUでも承認された。

しかし、対象患者層が若干異なるとはいえ、最初の試験がフェールした理由や、脳卒中・TIA既往以外なら本当に大丈夫なのかという疑問は残る。また、もし服用中にTIAが発生した場合に、医師や患者が気付いて投薬中止することはできるのか?自動運転技術の開発者なら、センサーが夕日で利かなくなるのは仕方ない、ビデオを見ていて速やかに対応できなかった人間が悪い、と言えるかもしれないが、医療は空論を排し、医師も患者も完全ではないことを承知した上で対応を決めなければならない。

Zontivityは第三相試験の結果が出るまでは年商50億ドル以上の超大型薬になると考えられていたが、承認申請の時点では、承認が危ぶまれた。承認されたのは意外だが、結局、承認されなかったのと同じようなことになりそうだ。

リンク: The Philadelphia Inquirerの記事
リンク: フィラデルフィア州政府サイト、8月のレイオフ通知

【承認申請】


JNJ、Darzalexを適応拡大申請
(2016年8月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、Darzalex(daratumumab)を多発骨髄腫の二次治療に用いる適応拡大申請をFDAに行ったと発表した。優先審査を要請した。

デンマークのジェンマブが創製した完全ヒト化抗体で、多発骨髄腫の表面に過剰発現する膜貫通型外酵素、CD38に結合し、アポトーシスを誘導する。多発骨髄腫の3~4次治療薬として15年に米国で、今年5月にはEUでも、承認された。

今回の用法は、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)またはVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)とdexamethasoneを併用するRd/Vdレジメンと三剤併用するもの。Rd併用試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオがRdだけの群と比べて0.37、Vd併用試験ではVdだけと比べて0.39だった。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


PortolaのXa中和剤は審査完了に
(2016年8月17日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)はXa阻害剤の抗血小板作用をオフセットする遺伝子組換え型ヒトXa因子を開発し、AndexXa(andexanet alfa)として米国で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。主として生産に係る追加情報を要求された模様だ。詳細は不明。バイオ薬なので色々なケースが考えられる。

同社は、同じ薬をIndexXaという商品名でEUで承認申請し、受理されたことも発表した。

Xa阻害剤はバイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を始め複数の新薬が登場した。ワーファリンより作用のオンセットやオフセットが早いが、それでも、服用中に交通事故にあったり緊急手術が必要になった時のために、中和剤があったほうが良い。

AndexXa/IndexXaはEliquis(apixaban、和名エリキュース)やSavaysa(edoxaban、和名リクシアナ)、低分子量ヘパリンのLovenox(enoxaparin、和名クレキサン)など様々な直接的・非直接的Xa阻害剤の解毒に使えるようなので、いざという時に備えることができる。

日本はEliquisを販売しているBMS/ファイザーが権利を保有している。

リンク: Portolaのプレスリリース
リンク: 同(EU申請受理、8/19付)



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

0 件のコメント:

コメントを投稿