2016年8月7日

2016年8月7日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 脊髄性筋萎縮症用薬の第三相中間解析が成功
  • アドセトリスのCTCL試験が成功
  • オプジーボも肺癌にはPD-L1高度発現が必要?
  • Keytrudaが欧米で適応拡大承認



【新薬開発】


脊髄性筋萎縮症用薬の第三相中間解析が成功
(2016年8月1日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)とバイオジェンは、nusinersenが幼児期発症型SMA(脊髄性筋萎縮症)の第三相試験で中間解析用主評価項目を達成したと発表した。治験登録によると、日本の医療施設も参加している。バイオジェンはオプトイン・オプションを行使、数ヶ月内に承認申請とグローバルEAP(未承認薬の早期アクセスプログラム)を開始する考えだ。

SMAは筋力の低下や筋委縮が進行する。幼児期に発症するI型は座ることができず、II型は歩行能力を獲得できない。この二つのタイプでは、神経筋の成長・機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子(SMN1)の欠損がしばしば見られる。劣性遺伝で両親から欠損遺伝子を引き継ぐと発症する。患者数は日米欧合わせて3~3.5万人と推定されている。

Ionisは元々はISIS Pharmaceuticalsという社名だった。私自身はあちらをISISではなくISILと呼ぶように心していたのだが、昨年12月に、命を救う薬を開発する会社であることを明確にするためにこちらが社名変更した。

RNAに相補的なオリゴヌクレオシドを用いて遺伝子の一部を改変し機能できなくするアンチセンス技術を持つ。1998年に米国で承認されたCMV治療薬、Vitravene(fomivirsen)は販売不振で販売中止になったが、2013年にApoB-100アンチセンス薬、Kynamro(mipomersen)を発売した。

nusinersenは、SMN2遺伝子のスプライシングを変えることによって機能喪失変異を乗り越えさせ、SMNを発現させる。 腰椎穿刺により髄腔内投与する。今回の第三相試験は、生後6ヶ月以内に症状兆候を発現した月齢7ヶ月未満の患者122人を組み入れたシャム対照試験。プレスリリースによれば中間解析の主評価項目として事前に設定された、HINEスコアの運動機能項目の目標達成率がシャム群より有意に高かった。

バイオジェンは7500万ドルを払ってオプトイン・オプションを行使した。売上ロイヤルティは最大で10%台半ば。目標達成報奨金は最大1.5億ドル。

リンク: 両社のプレスリリース

アドセトリスのCTCL試験が成功
(2016年8月2日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と武田薬品は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の第三相再発性CD30陽性CTCL(皮膚T細胞リンパ腫)試験が成功したと発表した。17年上期に適応拡大申請する予定。

AdcetrisはADC(抗体薬品結合物)と呼ばれるトロイの木馬型医薬品。抗体部位が腫瘍細胞のCD30に結合して細胞内に入り込み、毒物が細胞の中から攻撃する。アイディア自体は昔からあったが、抗体と毒物を繋ぐリンカー(血液中では強固・安定し、細胞内では酵素によって分解されなければならない)が難しかったが、ついにAdcetrisが11年に米国で承認された。現在は、クラシカル・ホジキン型リンパ腫と全身性異形成性大細胞性リンパ腫の再発治療などに承認されている。武田薬品は北米以外の開発販売権を持っている。

今回の第三相は、再発性のCD30陽性CTCLを組み入れて、Adcetris単剤投与の反応率(4ヶ月以上持続することが必要)を医師の選んだ薬(methotrexateまたはbexarotene)と比較した。結果は、56.3%対12.5%となり有意に上回った。代理マーカーによる薬効評価だが、事前にFDAのSPA(特別プロトコル評価)を受けたりEMAと相談したとのことなので、問題はないだろう。尚、CTCLの50%がCD30陽性とのこと。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

オプジーボも肺癌にはPD-L1高度発現が必要?
(2016年8月5日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-026試験の結果を発表した。PD-L1陽性末期非小細胞性肺癌の一次治療試験で、PFS(無進行生存期間)が標準療法群を上回りチェックメイトを掛けるはずだったが、コンピュータソフトと戦ったプロ棋士と同様に、果たせなかった。詳細は未だ明らかではないが、私のゲスワークは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)と同様にPD-L1高発現癌だけに絞り込めば効果があるのではないか。

抗PD-1抗体Opdivoは悪性黒色腫など多くの癌で承認されているが、欧米は同じ腫瘍でも一次治療、二次治療の別や併用薬、用量用法を一つ一つ承認を取らなければいけないので大変だ。米国の場合、未承認の用法用途でも権威のあるコンペンディアやガイドラインに収載されていれば公的・民間保険の対象になるが、メーカーが積極的に販促するためには正式承認が必要なのである。同じ抗PD-1抗体であるKeytrudaというライバルがいるようなケースでは尚更だ。

第三相入りはMSDに先行、米国発売では後手を踏んだが、16年12月期上半期の売上高はKeytrudaの約3倍に達し、一番重要な販売競争では大差をつけている。その主因が、非小細胞性肺癌に用いる時にPD-L1発現検査が不要であることだ。両剤とも二次治療に承認されているが、KeytrudaはPD-L1発現癌限定なので、事前検査が必要。費用や時間、もし陰性だった場合の患者の失望などを考えれば、Opdivoのほうが気軽に使える。未承認用途である一次治療用途では尚更だ。

Keytrudaは、PD-L1発現率50%以上を対象とした第三相一次治療試験が6月に成功した。しかし、検査が必要である限り、一次治療の正式承認が遅れてもOpdivo優位は変わらないと考えられていた。それだけに、CheckMate-026試験がフェールした衝撃は大きい。

まあ、勝てなかったといっても相手は標準療法(扁平上皮腫はgemcitabineとcisplatinもしくはcarboplatinの併用、またはpaclitaxelとcarboplatinの併用、非扁平上皮腫はpemetrexedとcisplatinもしくはcarboplatinの併用)なので効かないという意味ではないが、承認審査の上では薬効のエビデンスがないことになるので、承認申請が遅れることになる。

この試験ではPD-L1発現率が5%以上の患者だけを主解析対象としたが、Keytrudaと同様に強発現に限定すればもっと良い数値が出るかもしれない。既にオフレーベル使用されているのだから、可能な限り早く詳細を発表することが望まれる。

BMSの株価が下落したことも含めて波紋が大きかったためか、BMSは追加的なプレスリリースを発出し、抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)併用一次治療試験も進行中であることを強調した。

この併用レジメンは悪性黒色腫で既に承認されているが、PD-L1を高発現している癌では効果がOpdivo単剤とそれほど変わらないように見える。どちらも極めて高価な薬であり、また、免疫療法特有の深刻な副作用も持っているので、無駄撃ちは避けたい。上記のYervoy併用試験では、PD-L1陰性患者にOpdivoと標準療法を併用する群も設けられているので、標準療法だけと比べてどの程度上乗せできるのか、明確になるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース(第二回)

【承認】


Keytrudaが欧米で適応拡大承認
(2016年8月5日発表)

MSDは、FDAがKeytrudaを転移性頭頸部扁平上皮腫に用いる適応拡大を承認したと発表した。白金薬による治療の次に用いる。用量は他の適応症のような体重相関ではなく200mg固定。投与頻度は三週間に一回で同じだ。

一方、欧州では再発性非小細胞性肺癌の適応拡大が承認された。昨年10月の米国承認と同じ内容で、PD-L1が強発現する癌で、白金薬による一次治療の次に用いる。EGFR陽性やALK活性化変異陽性ではEGFR阻害剤やALK阻害剤による治療も優先される。

IL-2のような過去の免疫強化療法は反応が長期間続くことが長所だが、反応する患者は少なく応答予測性も低いことが難点だ。抗PD-1モノクローナル抗体は反応率がIL-2より高く、その上、IL-2が承認されていない癌の幾つかにも効果がある。高価な薬だが、適応はさらに広がり巨大市場を形成するだろう。だからこそ、BMSやMSDに続いて、ロシュやアストラゼネカ、ベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーなど多くの製薬会社が抗PD-1/PD-L1薬の開発競争に手を挙げた。

Keytrudaはオルガノンが06年に英国のMRC Technologyに依頼して創製したとのことだ。07年にシェリング・プラウがアクゾ・ノーベルからオルガノン・バイオ・サイエンスを110億ユーロで買収した時も、その2年後にMSDがシェリング・プラウを400億ドル超で買収した時も、全く注目されなかったパイプラインがこんなに重要な薬になるのだから、薬の開発はサプライズに満ちている。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース(EU非小細胞性肺癌承認、8/2付)



今週は以上です。

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