2025年4月19日

第1203回

【ニュース・ヘッドライン】

  • DJT:COVID-19は武漢の研究所で生成された 
  • ACIP、サプライズは無し 
  • イーライリリー、経口GLP-1作用剤の第3相で主目的達成 
  • カムザイオスの非閉塞性肥大型心筋症試験はフェール 
  • アイリーア8mgを黄斑浮腫に適応拡大申請 
  • Ironwood、腸管不全治療薬の承認申請を完了できず 
  • アイリーア8mgの投与間隔拡大は承認されず 
  • ケネディ長官はNovavaxのコロナ・ワクチンに否定的? 
  • デュピクセントが米国でも蕁麻疹に適応拡大 
  • レコルダティ、クッシング病用薬がクッシング症候群に適応拡大 
  • レケンビがEUでやっと承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


DJT:COVID-19は武漢の研究所で生成された
(2025年4月19日)

ホワイトハウスは、ウェブサイトのCOVID-19関連頁を模様替えして、SARS-CoV2の起源は中国武漢の研究所と主張するサイトを肩を震わせんばかりのトランプ大統領の写真とともに公開した。これまでの通説である自然発生説を否定し、大統領自身がタスクフォースのリーダーとして抜擢したが直ぐに意見が対立し仲違いしたFauci博士を、誤った理論の推進者として非難。EcoHealth Allianceの当時のプレジデントであったDaszak博士を、NIH(米国立衛生研究所)から補助金を得ておきながら武漢の研究所で機能獲得研究を進めたとして批判。米連邦下院選定小委員会がこの問題を調査するのを妨害したとしてNY州の当時のCuomo知事を批判した。

武漢研究所起源説はおそらく現在でもコンセンサスではないだろう。Daszak博士はNIHが助成金対象から一定期間除外する処分を行ったので、なんらかの違反が認められたのだろう。Cuomo知事は選定小委員会が司法省に告発したとのみ記されているので、事実かどうかは未決着なのだろう。不確かな主張に事実を混ぜることで全体の信憑性を高めるレトリックだが、実際は、主張の中に一つでも誤りがあると全体の信憑性が低下する。

真実だろうが誤報だろうが、どっちにしろ誰かが書くんだから先に言ったもの勝ち、というMajiでTokuする5秒前戦術は日本のメディアの専売特許ではないようだ。

リンク: 米ホワイトハウスの当該ウェブページ


ACIP、サプライズは無し
(2025年4月15-16日開催)

トランプ政権発足後、医薬品に関する様々な委員会がストップしていたが、CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が半年ぶりに開催された。幾つかの変化の兆しが見られたが、今のところはドラスティックな変化は見られない。尤も、CDCがACIPの決議を一部変更した前例もあるので、トランプ政権下では尚更、予断を許さない。尚、CDC長官はまだ空席で、司法省選任検察官(trial attorney)などCDC外での様々な経歴を持つが医学研究のバックグラウンドはなさそうなMatthew Buzzelli首席補佐官(chief of staff)が代行することになる。

各種報道によると、ACIPではCOVID-19ワクチンやHPVワクチンのワーキング・グループが接種勧奨対象の見直しに言及した。次回、6月25-26日の会議で票決に進む模様だ。

COVID-19ワクチンは現状では全国民に接種勧奨しているが、25/26年は高齢や免疫低下などリスク因子を持つ人に限定する方向のようだ。現状では65歳以上や免疫低下者などのブースター接種は6ヶ月以上おいて二回接種を勧奨しているが、一回に減らすなどの変更を検討している様子。今回初めて知ったが、英国(75歳以上または長期介護施設入居者の場合)、カナダ(80歳以上または長期介護施設入居者)、オーストラリア(75歳以上)でも高リスク者に年二回接種を勧めている。WHOの調査でも国毎に区々のようだ。

まあ、政府が勧奨しても国民が躍るとは限らず、米国の場合、65歳以上の接種率は44%に留まるようだ(24/25年シーズン)。65歳未満の接種率はもっと低く、今回の方針変更素案は、現状を追認したと受け止めることも可能だろう。

もう一つはHPVワクチン。接種回数は2回ではなく1回でも十分という研究結果が公表されているが、ワーキング・グループも1回接種を選択肢に加える当否を検討している。一方、推奨年齢である9~14歳の上限年齢を20歳、26歳、あるいはもっと上まで拡大することを検討している模様。FDAの承認範囲をはみ出るオフ・レーベル用途になるが、過去のワクチンでも前例があるとのことだ。

コスタ・リカで2万人超を組入れて進行中のESCUDDO試験の結果が6月にも判明する模様であり、どちらに転ぶにせよ、重要なエビデンスになりそうだ。MSDも一回接種と二回接種の比較試験を開始すべく、規制機関と協議しているようだが、いつものことながら、売上減に繋がりかねない臨床試験は結果が出るまで時間がかかる。

このほかで特筆すべきはRSVワクチン。50~59歳の高リスク者に推奨することで14人全員が一致した。GSKのArexvy(FDA承認済み)、ファイザーのAbrysvo(18~59歳の高リスクに承認済み)、mResvia(18~59歳の高リスク者に適応拡大申請中)が対象。昨年6月のACIPでは結論保留となり一部企業の株価にも影響した模様だが、前進した。

リンク: 4/15-16のACIPで用いられたプレゼン・スライド

【新薬開発】


イーライリリー、経口GLP-1作用剤の第3相で主目的達成
(2025年4月17日発表)

イーライリリーはLY3502970(orforglipron)の第3相二型糖尿病試験で主目的を達成したと発表した。他にも複数の第3相が進行中で、年内に肥満症向けに、26年には二型糖尿病にも、承認申請する考え。

18年に中外製薬から全世界開発販売権を取得した、経口GLP-1作用剤。第一選択権を持つロシュは行使しなかったようだ。GLP-1作用剤は巨大市場に育ってきたが、一時期、生産が間に合わず米国では調合薬局品が重宝されたことがある。orforglipronは小分子薬でイーライリリーは供給面の懸念がないとしている。

今回のACHIEVE-1試験は米中印日墨の施設で薬物治療を受けていない二型糖尿病患者520人を偽薬群と3mg群、12mg群、36mgの各群に無作為化割付けして一日一回投与し、40週後のHbA1c低下を比較した。試験薬群1mgで開始、4週毎に3mg、6mg、12mg、24mg、36mgの刻みで目標用量まで漸増した。HbA1cのベースライン値は8.0%。

FDAや医師・患者にとって重要でレーベルに記載されるであろう、treatment-regimen-estimandベースで見ると、各群0.4%、1.2%、1.5%、1.5%、製薬会社が重視するefficacy estimandベースでは各群0.1%、1.3%、1.6%、1.5%だった。前者の方が偽薬群の数値が大きいのは、おそらく、十分な効果が得られない症例にレスキュー・ドラッグを投与するよくあるプロトコルだったのだろう。試験薬群の成績はそれほど変わらないので、途中で投与を止めてしまい血糖値がリバウンドした症例が多くなかったのだろう。

副次的評価項目の体重(ベースライン値は90.2kg)は、各群1.7%、4.5%、5.8%、7.6%低下した。efficacy estimandベースでも1.6%、4.7%、6.1%、7.9%低下した。プラトーには達していないとのことで追跡を続ければもっと差が開くかもしれない。有害事象治験離脱率は各群1%、6%、4%、8%。ファイザーが競合品の開発を中止する主因となった肝臓安全性のシグナルは見られなかったようだ。

第2相二型糖尿病試験では45mgもテストしたが効果は36mgと大差なかった。12mg群と36mg群の差も0.1%程度で、今回は、ほとんど同じだった。但し、体重に関しては今回も3~4%の差があった。経口GLP-1作用剤も二型糖尿病と肥満症で承認最大用量が変わるのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


カムザイオスの非閉塞性肥大型心筋症試験はフェール
(2025年4月14日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、心ミオシン・アロステリック・インヒビターCamzyos(mavacamten)が第3相非閉塞性肥大型心筋症(noHCM)試験で主目的を達成しなかったと発表した。同薬は22~23年に米欧で閉塞性肥大性心筋症(oHCM)の治療薬として承認され、日本でも3月に承認されたところ。

今回のODYSSEY-HCM試験は成人のNYHAクラスがIIまたはIIIの症候性でnoHCM患者580人を組入れて、48週間投与後のKCCQ-23 CSS(症状評価尺度)とpVO2(最大酸素摂取量)を偽薬群と比較した。oHCMの第3相では両方とも有意に改善したが、noHCMでは、第2相に続き、フェールした。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


アイリーア8mgを黄斑浮腫に適応拡大申請
(2025年4月17日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は米国でEylea HD(aflibercept 8mg/0.07mL製剤)を網膜静脈閉塞症患者の黄斑浮腫治療に適応拡大申請した。また、承認されている全適応症に関して、4週毎投与をずっと続ける用法追加も申請した。優先審査バウチャを使用して優先審査を獲得、審査期限は8月19日。

前者の適応は、第3相QUASAR試験で4週毎投与を3回施行した後に8週毎に移行した群と、5回施行後に移行した群のどちらも、BCVA(最高正視力)が既承認のEylea 2mg/0.05mL製剤を4週毎投与した群と非劣性だった。有害事象は眼に関する治療時発現有害事象が若干多かった。

後者は、4週毎に3回投与した後に、現在承認されている8~16週毎ではなく4週毎を続けるというもの。オリジナルの製剤と同じになってしまうが、患者の個人差にフレキシブルに対応できるようにする意図なのかもしれない。オリジナルの製剤はシミラーが発売されたので一人でも多くHD製剤に誘導する意図もありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


Ironwood、腸管不全治療薬の承認申請を完了できず
(2025年4月14日発表)

Ironwood Pharmaceuticals(Nasdaq:IRWD)は1月に米国でapraglutideのローリング承認申請に着手したが、FDAに追加第3相試験の実施を求められたと発表した。短腸症候群に腸管不全を合併し経静脈栄養に依存する成人患者164人に週一回皮下注した第3相STARS試験で経静脈栄養量を25%減らすことに成功したが(偽薬群は12%減)、薬物動態分析で試験薬の曝露が想定より小さいことが判明したことなどがボトルネックになったようだ。経営が厳しい模様で、ゴールドマン・サックスに戦略的代替策の提案を委託した。

類薬では武田薬品のGattex(欧州ではRevestive、日本ではレベスティブ)が12~21年に米欧日で承認されている。23年にZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)が米国でZP 1848(glepaglutide)を承認申請したが、市販を予定する用量に関するエビデンスが不足と指摘する審査完了通知を受領、追加第3相を実施する予定。

リンク: Ironwoodのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アイリーア8mgの投与間隔拡大は承認されず
(2025年4月18日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はEylea HD(aflibercept 8mg/0.07mL製剤)の最大投与間隔を現在(加齢性黄斑変性と糖尿病性黄斑浮腫では16週毎、糖尿病性網膜症では12週毎)から最大24週に広げるべく米国で用法追加申請していたが、審査完了通知を受領した。安全性や薬効の問題ではないとのことだが、何の問題なのかは明らかではない。

リンク: 同社のプレスリリース


ケネディ長官はNovavaxのコロナ・ワクチンに否定的?
(2025年4月10日発表)

Novavax(Nasdaq:NVAX)は米国でCOVID-19ワクチンNuvaxovidのEUA(非常時使用認可)を通常承認に切替えるべく申請していたが、審査期限が過ぎたのに音沙汰ないと4月2日に発表したのに続いて、効果や安全性を信じている、しかしまだ公式な回答がない、と発表した。HSS(米連邦保健福祉省)のR.F.ケネディ長官がTV番組で科学的根拠に懐疑的な見解を示したと報じられており、アナリストやジャーナリストの問い合わせが相次いだのだろう。

22年に欧日米で承認された最初の製品は第3相偽薬対照試験で症候性感染を大きく抑制した。その後に投入された変異株対応ワクチンは免疫原性試験しか行われていないが、mRNA陣営も同じである。強いて言えば、24/25年用で採用した抗原はJN.1系統のもので、ファイザーやモデルナのKP.2系統より流行が少し前だが、この二つの系統は塩基配列がそれほど違わないとされている。

長官はコモン・センス・キラーなので、当方には思いもつかない、コペルニクス的転回を『チ。』したのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


デュピクセントが米国でも蕁麻疹に適応拡大
(2025年4月18日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と共同開発販売パートナーのサノフィは、FDAが抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を慢性特発性蕁麻疹に適応拡大したと発表した。12歳以上のH1抗ヒスタミン治療に十分応答しない患者に追加投与する。抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に十分応答しない患者を組入れたLIBERTY-CSU CUPID試験のスタディBは中間解析で無益認定されたが、H1不十分応答でバイオ薬未経験の患者を組入れたスタディAと、同様な患者の追加試験であるスタディCでは症状スコアが偽薬追加群比有意に改善した。

DupixentはスタディAとBに基づき23年に承認申請されたが主要国で承認されたのは日本だけで、米国は審査完了通知を受領した。EUは2月に申請撤回した旨、発表されたが、今回のリリースには承認審査中と記されているので再申請したのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


レコルダティ、クッシング病用薬がクッシング症候群に適応拡大
(2025年4月16日発表)

レコルダティは、FDAがIsturisa(osilodrostat)の適応症を従来のクッシング病からクッシング症候群全体に変更することを承認したと発表した。手術が適さない、または術後も十分に改善していない、成人のクッシング症候群における内分泌性コルチゾール血症の治療に用いる。

クッシング病は下垂体の異常が原因でACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が過剰に分泌され、血中コルチゾールが増加、顔がむくんだり、皮下出血しやすくなったり、血圧上昇など様々な症状を合併することがある。クッシング症候群は、下垂体だけでなく、副腎の良性腫瘍などが原因のものも含まれる。

Isturisaは20年に米国とEUで、21年には日本でも、承認されたが、欧日とは異なり、米国ではクッシング病に限定されていた。

リンク: 同社のプレスリリース


レケンビがEUでやっと承認
(2025年4月16日発表)

エーザイと開発販売パートナーのバイオジェンは、Leqembi(lecanemab)がEUで承認されたと発表した。アミロイド病理が確認された、二組の遺伝子セットともにApoEエプシロン4変異型ではない、早期アルツハイマー病(軽度認知障害又は軽度認知症)の治療に用いる。

同薬は米日では23年にApoEアレル不問で早期アルツハイマー病に承認されたが、EUは大幅に遅延した。ARIA(アミロイド関連造影異常)という抗アミロイド・ベータ抗体に固有のリスクに対する懸念や、EMA(欧州薬品庁)の手続き上の瑕疵により、CHMP(医療用製品諮問委員会)の審査が長期化。CHMPが肯定的意見に転じた後も、欧州委員会が新たな安全性情報(具体的な内容は公表されていない)に基づき再検討を求め、CHMPが再び肯定的意見を出した後も、欧州委員会がアピール・コミッティーに上程するなど、滅多に見ない波乱万丈な推移だった。

ApoEエプシロン4アレルを二つ持つホモ接合型患者はアルツハイマー病のリスクが高いが、ARIA罹患リスクも高いため、適応外とされた。第3相Clarity AD試験のサブポピュレーション分析では、適応と合致する患者は1795人中1521人(リスクを検討する必要があるためホモ接合型が大目に組入れられた)。このユニバースにおける治療効果は、CDR-SB(ベースライン値は3.2)が18ヶ月後に偽薬群は調整後で1.752悪化したが、試験薬群は同1.212の悪化に留まり、進行を31%抑制した。ホモ接合型も含む全体の解析では各群1.66と1.21の悪化、進行を27%抑制した。但し、今回の解析は全体の解析と手法が異なり、比較することはできない。

ARIAの発生率は出血型(ARIA-H)が13%、浮腫型(ARIA-E)は9%だった。下記プレスリリースには偽薬群の数値が記載されていないが、CHMPが24年11月に肯定的意見を纏めた時のプレスリリースによると、各7%と1%。リスクがなくなるわけではないが、試験薬群の全体の解析では各17.3%と12.6%(偽薬群は9.0%と1.7%)だったので、ホモ接合型を除外することでリスクを抑制できることになる。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好酸球性COPDに適応拡大)
25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)


今週は以上です。

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