2025年4月5日

第1201回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国のワクチン行政に不吉な兆し 
  • 二重特異性抗体が胆管癌に良績 
  • グルココルチコイド受容体拮抗剤の卵巣癌試験が成功 
  • MSD、肺動脈高血圧症用薬の心血管アウトカム試験成績を発表 
  • BeiGene、抗TIGHT抗体の第3相がフェール 
  • Sunosiの鬱病試験はフェール 
  • 向精神薬iloperidoneの代謝物を承認申請 
  • リベルサスの心血管便益を承認申請 
  • オゼンピックを二型糖尿病患者の末梢動脈疾患に承認申請 
  • 大塚製薬、抗APRIL抗体をIgA腎症に承認申請 
  • Aldeyra、再び審査完了通知を受領 
  • Milestone社、抗不整脈薬が承認されず 
  • CHMPが高リン血症治療薬などに肯定的意見 
  • DMD用薬atalurenがEUで承認取消へ 
  • ETA受容体拮抗剤がIgA腎症に承認 
  • ユプリズナがIgG4関連疾患に適応拡大 
  • 血友病の短鎖RNA介入薬が承認 
  • イミフィンジが膀胱癌の周術期補助療法に適応拡大 
  • ノバルティスの放射性医薬品が適応拡大 
  • IDMCがSarepta社のDMD用薬の治験継続を支持 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


米国のワクチン行政に不吉な兆し
(2025年4月2日発表)

Novavax(Nasdaq:NVAX)はCOVID-19ワクチンの非常時使用認可を通常承認に切替えるべくFDAに申請していたが、4月1日の審査期限を迎えても返答がなかったことを明らかにした。一部報道を追認した格好。トランプ大統領、ケネディHSS(保健福祉省)長官、マカリーFDA長官というオルターナティブ系トリオの誕生で薬品行政は(も)混乱の最中にあるが、承認審査にも余波が及び出したのかもしれない。

PDUFA(処方薬ユーザー課金法)は、承認申請者に課金し審査費用の一部を負担させる代わりに、例えば新規活性成分を含有する薬の場合は受理から6ヶ月または10ヶ月以内に審査結果を報告することを求めている。拙速を慎むために年度審査件数の1割程度の超過は容認されているので、今までも超過は発生していたが、ケネディHSS長官がワクチンの安全性についてコンセンサスとは異なる見解を持っていることや、ワクチンなどの生物的製剤を所管するCBERのヘッド、Peter Marks氏が意に反する意見表明を命じられて辞任したことと相俟って、達観を許さない状況だ。

リンク: Novavaxのプレスリリース

【新薬開発】


二重特異性抗体が胆管癌に良績
(2025年4月1日発表)

米国マサチューセッツ州ボストンのCompass Therapeutics(Nasdaq:CMPX)は、CTX-009(tovecimig)が第2/3相胆管癌試験で主評価項目のORR(客観的反応率、最良応答ベース、独立中央放射線学的評価)を達成したと発表した。副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)などの解析は進捗が想定より遅いため、25年第4四半期に発表する見込み。成功なら承認申請に向かうのではないか。

このCOMPANION-002試験は一次の全身性治療歴を持つ切除不能進行性/転移性/難治性胆管癌168人をpaclitaxel・CTX-009併用群とpaclitaxelだけの群に2対1割付けして、ORRを比較した。各群17.1%と5.3%となり、差の両側p値は0.031だった。各群44.1%と33.3%の患者が疾病安定化を達成しており、これも含めれば2割程度の差がある。

CTX-009は腫瘍細胞の成長に必要な血管新生を促すVEGF-Aと、抗VEGF療法抵抗性に関わるDLL4(Delta-like ligand 4)の両方をブロックする二重特異性抗体。胆管癌は米国で年23000人が罹患し、8割以上は分子標的薬の対象にならず承認されている薬がないとのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


グルココルチコイド受容体拮抗剤の卵巣癌試験が成功
(2025年3月31日発表)

米国カリフォルニア州のCorcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)は、CORT-125134(relacorilant)の第3相卵巣癌試験で主目的を達成したと発表した。 欧米申請する考え。

経口グルココルチコイド受容体拮抗剤で、内分泌コルチゾール血症(クッシング症候群)の第3相離脱試験が成功、昨年末に米国で承認申請された。類薬と異なり薬物誘導性副腎不全や低カリウム血症、QT延長、内膜肥大、子宮出血などの副作用リスクが小さい模様だ。

今回のROSELLA試験は、白金薬抵抗性の卵巣癌患者381人を組入れて、nab-paclitaxelベースの治療に追加する便益をオープンレーベルで検討した。主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.70、p=0.008、メジアン値は6.5ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の5.5ヶ月を上回った。

もう一つの主評価項目である全生存期間は中間解析段階で、ハザードレシオ0.69、p=0.012、メジアン値は16.0ヶ月と11.5ヶ月となっており、良さそうに見えるが、統計的有意性には言及されていない。どちらかが達成されれば成功認定するプロトコルと記されているので、おそらく、未だ有意水準には達していないのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、肺動脈高血圧症用薬の心血管アウトカム試験成績を発表
(2025年3月31日発表)

MSDは、昨年11月、Winrevair(sotatercept-csrk)の第3相ZENITH試験が中間解析で独立データ監視委員会により成功認定されたことを明らかにしたが、データをACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。このActRIIA・IgG1融合蛋白は成人の肺動脈高血圧症(PAH)治療薬として24年に米欧で承認され、11月には日本でも承認申請されている。エビデンスとなった第3相STELLAR試験では、6分歩行テストなどの改善に加えて、臨床的転帰を改善する効果も示唆された。

今回の試験は、PAH機能クラスIIIまたはIVで、標準療法による治療を受けているが推定死亡リスクが高い患者172人を組入れて、全死亡、肺移植、または増悪による24時間以上の入院が発生するリスクを偽薬追加群と比較し、救命薬としての便益を本格的に検討したもの。結果は、メジアン10.6ヶ月の追跡で発生率が17.4%と偽薬群の54.7%を下回り、ハザードレシオは0.24とPAH試験では滅多に見ない良い数字が出た。副次的評価項目の全生存期間もハザードレシオが0.42と大変良い方向が示唆されたが、繰上げ完了されたことも響いたのだろう、各群の死亡者数が7人と13人と少なく、有意性認定の閾値には到達していない。結合組織関連PAHのサブグループでも有害事象は全集団と大差なかった模様だ。

大きな便益が確認されたことから、PAH機能クラスIIまたはIIIの新患を組入れた第3相HYPERION試験は打ち切られた。

21年にAcceleron Pharmaを115億ドル(エンタープライズ・バリュー・ベース)で買収して入手したコンパウンド。

リンク: MSDのプレスリリース


BeiGene、抗TIGHT抗体の第3相がフェール
(2025年4月3日発表)

BeiGene(百済神州、Nasdaq:ONC、SSE:688235)は、抗TIGHT抗体BGB-A1217(ociperlimab)の第3相肺癌試験を中止すると発表した。中米欧などの施設でPD-L1陽性非小細胞性肺癌の一次治療を受ける患者を組入れて、同社の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab)と併用する効果をKeytruda(pembrolizumab)単剤と比較していたが、独立データ監視委員会が中間解析で続行しても主目的を達成できる可能性は低いと判定した。

同時・併用化学放射線療法を受ける患者に上記二剤を併用する第3相も途中で中止されている。ノバルティスが欧米日などにおける開発販売オプションの行使を見送るなど、ネガティブなニュースが続いている。

リンク: 同社のプレスリリース


Sunosiの鬱病試験はフェール
(2025年4月1日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、ナルコレプシーや閉塞性睡眠障害の治療薬として米欧で承認されている選択的ドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤、Sunosi(solriamfetol)の様々な適応拡大試験を進めていて、3月に第3相成人ADHD試験が成功したばかりだが、鬱病試験はフェールした。但し、重度のEDS(過度日中眠気)を伴うサブグループには効果が見られた模様で、このような患者に絞って年内に第3相を開始する考え。

今回の第3相プルーフ・オブ・コンセプト(まま・・)試験、PARADIGMは、成人の鬱病患者300人に偽薬または300mgを一日一回、6週間に亘り経口投与して、MADRSを比較した。重度EDS51人では臨床的に意味のある群間差が見られたが、検出力がないため有意水準には達しなかったようだ。CGI-SやPGI-Iなどでも差があった。それ以外の295人では差が見られなかった由。

事後的サブグループ分析には悪魔が潜むが、四の五の言わずに速やかに確認的試験を決めたのは好感が持てる。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


向精神薬iloperidoneの代謝物を承認申請
(2025年3月31日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)は米国でBysanti(milsaperidone)を急性双極障害I型と統合失調症の治療薬として承認申請したと発表した。活性成分は米国で両適応に承認されているFanapt(iloperidone)の代謝物。エビデンスは生物学的同等性試験と推測される。教科書的なライフ・サイクル・マネジメントだ。Fanaptが未承認である鬱病アジャンクト用途でも年内に第3相試験を開始する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


リベルサスの心血管便益を承認申請
(2025年3月30日発表)

ノボ ノルディスクは、昨年10月、Rybelsus(semaglutide、経口投与用)が第3相SOUL試験で主目的を達成したことを公表したが、データをACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表すると共に、欧米で承認申請し受理されたことを明らかにした。

19~20年に二型糖尿病治療薬として米欧日で承認されたGLP-1作用剤で、Ozempic/Wegovyの活性成分を経口投与できるようにしたもの。今回の試験は欧米中印日などの施設でアテローム性心血管疾患または慢性腎臓疾患を合併する二型糖尿病患者約9650人を組入れて、標準療法に追加する便益を検討した。主評価項目のMACE(心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、または非致死的卒中)のハザードレシオは0.86、p=0.006、100人年当りの発生率は3.1イベントと偽薬追加群の3.7イベントを下回った。

副次的評価項目の主要腎疾患は両群大差なかった。深刻有害事象の発生率は47.9%対50.3%と、心血管イベント抑制作用が寄与してRybelsus群のほうが小さかった。

Rybelsusは第3相心血管安全性試験であるPIONEER 6でMACEの偽薬比ハザードレシオが0.79だったが、元々、非劣性であることを確認するデザインであったためか、優越性解析は有意水準に達しなかった。今回、組入れを3倍に増やし、点推定値はやや悪化したものの、再チャレンジに成功した。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: McGuireらの治験論文(NEJM)


オゼンピックを二型糖尿病患者の末梢動脈疾患に承認申請
(2025年3月29日発表)

ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)の二型糖尿病患者の末梢動脈疾患(PAD)治療効果を検討した第3相STRIDE試験の結果をACC(米国心臓学会)とLancet誌で発表した。歩行能力を改善する効果が見られ、欧米でレーベル追加申請した。

欧米アジアの施設で症候性PADを合併した二型糖尿病患者約790人を組入れて、1mgを週一回皮下注する効果を偽薬と比較したもの。大半の患者がスタチン及び抗血小板/抗凝固薬を服用していた。主評価項目は52週後の定常負荷トレッドミル(12%勾配)テストの改善。試験薬群は1.21倍に改善したが偽薬群は1.08倍に留まり、倍率推定値は1.13、p=0.0004だった。深刻有害事象の発生率は両群大差なかった。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Bonacaらの治験論文(Lancet)


大塚製薬、抗APRIL抗体をIgA腎症に承認申請
(2025年3月31日発表)

大塚ホールディングは、大塚製薬と米国子会社がsibeprenlimabを成人のIgA腎症の治療薬として承認申請したと発表した。この疾患の新薬が続々と現れている。

in silico創薬を目指すMIT(マサチューセッツ工科大学)発ベンチャー、Visterraを18年に4.3億ドルで買収して入手した、抗APRIL抗体。第3相標準療法アド・オン試験、VISIONARYで、第9月uPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が偽薬比有意に、かつ臨床的意味のある、改善を示した。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


Aldeyra、再び審査完了通知を受領
(2025年4月3日発表)

米国マサチューセッツ州のAldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)をドライアイの治療薬として承認申請しているが、23年11月に続いて、2回目の審査完了通知を受領した。一回目の主因はFDAが要求する兆候改善試験二本と症状改善試験二本のうち後者が不足していること。同社はチャンバー試験(数十分風を当てて目の赤さや涙の量をテスト)で症状改善効果も確認し結果を提出したが、FDAは、ベースラインにおける群間の偏りなど方法論的問題を指摘したようだ。

もう一本のチャンバー試験とフィールド試験の結果が本四半期中に判明する見込みで、同社は、FDAと追加提出を相談する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


Milestone社、抗不整脈薬が承認されず
(2025年3月28日発表)

Milestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)はCardamyst(etripamil)をPSVT(発作性上室性頻脈)の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。承認申請後に公表されたnitrosamine検査に関するガイドラインに即した情報を提供するよう求められた。また、審査期間中に出荷前検査施設の所有者が代わった模様で、再査察が必要になった。

発作時に自己点鼻するスプレイ用短期作用性カルシウム・チャネル・ブロッカー。北米の第3相で一本目はフェールしたが、奏効認定基準を厳しくした二本目が成功、30分内に洞調律に至った患者が54%と偽薬群の35%を有意に上回った。23年10月に承認申請したが、第3相試験で発生した有害事象に関する記録が不十分と見做され受理されなかった。24年3月に再申請したが、今度も不首尾に終わった。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMPが高リン血症治療薬などに肯定的意見
(2025年3月28日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのAveroaが申請した経口鉄クエン酸協働複合体(ferric citrate coordination complex)、Xoanacylフィルムコート錠は、成人慢性腎疾患患者の鉄欠乏性高リン血症の治療薬。米国のAkebia社からAuryxia(クエン酸第二鉄)を欧州などでライセンスしたもの。日本では日本たばこがライセンス、14年にリオナ(クエン酸第二鉄水和物錠)として承認され鳥居薬品が販売している。

リンク: EMAのプレスリリース

参天製薬のRyjunea(atropine sulfate)は3~14歳の患者における近視の進行を抑制する。進行率が年0.5D以上で-0.5Dから-6.0Dに達した患者に、0.1mg/mL点眼液を毎日就寝前に点眼する。活性成分は20年前に承認されており、低濃度・異適応製品のハイブリッド承認となる。

米国のSydnexisから欧州などの市場でライセンスしたもの。同社は日本では濃度が0.25mg/mLの製品をリジュセアミニ点眼液0.25%として3月に発売したところ。こちらはシンガポールの国立眼科・視覚研究所と共同開発した。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り。

  • アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib):成人の自家造血幹細胞移植不適な未治療マントル細胞腫にbendamustineおよびrituximabと併用。米国では1月に承認。
  • ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab):切除可能なステージIIA~IIIBの非小細胞性肺癌に術前化学療法に追加、術後に単剤投与。昨年10月に承認された米国と異なり、PD-L1発現が1%以上の患者に限定される。
  • 同、Opdivo Qvantig(nivolumab、hyaluronidase):従来の点滴静注用製剤と異なり、皮下注射する。多くの適応で代替可能。米国では昨年12月に承認。
  • 百済神州(BeiGene)の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab):成人の進展型小細胞肺癌の一次治療にetoposide及び白金薬と併用する。RATIONAL-312試験で全生存期間のハザードレシオが0.75、メジアン生存期間15.5ヶ月と偽薬併用群を2ヶ月上回った。米国では未承認。
  • JNJの子会社、Janssen-Cilag InternationalのTremfya(guselkumab):成人の中重度活性期クローン病、但し伝統的薬又はバイオ薬に応答不十分、応答喪失、不耐の場合。米国で3月に承認、日本でも承認申請中。

  • 一方、インサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)は適応拡大申請が否定的意見を受けた。米欧日でFGFR2融合やその他の再編成のある切除不能局所進行/転移胆管癌の二次治療薬として承認されている抗FGFR阻害剤。今回申請されたFGFR1再編成のある骨髄性/リンパ性新生物は、米日では承認済みだが、CHMPは45人に6ヶ月投与のみと症例数が少なく、対照試験ではなく、条件付き承認の可能性も探ったが会社側がレジストリ・ベースの市販後薬効確認試験の実施を拒否したため、患者にとって残念な結果になった。薬は算術。

    リンク: EMAのプレスリリース

    イーライリリーの抗アミロイド・ベータ(p3-42)抗体、Kisunla(donanemab)は早期アルツハイマー病の治療薬として新薬承認申請されたが、否定的意見となった。クラス・イフェクトである深刻なアミロイド関連造影異常の発生率が1.6%と比較的高く、3名が死亡した一方で便益がそれほど大きくないとみなされた。同社は審査期間中に適応をApoEを持たない患者に限定することを提案したが、それでも発生率が0.8%、1名死亡に低下する程度であったため、結論は変わらなかった。

    類薬であるエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)も最初は否定的意見となったが、再審を経て、ApoE4ホモ接合以外に肯定的意見を獲得しており、少なくとも今のところは、明暗が分かれている。

    リンク: EMAのプレスリリース(donanemabについて)

    尚、エーザイと開発販売パートナーのバイオジェンは、Leqembiの欧州委員会での審議について、アップデートを行っている。欧州委員会は、1月にCHMPが肯定的意見をまとめた後に浮上した安全性情報について確認するよう求めた。CHMPは2月に肯定的意見維持を決定、順調なら欧州委員会が4~5月に承認することになる。両社によると、Standing Committeeでの討議の結果、Appeal Committeeの意見を求めることになった。インプリケーションには言及していない。EMA勧告後のEUにおける手続きについては知識が乏しいが、当方の想像は、常設委員会では賛成票が可決に必要な水準に届かなかったため、上位者で構成される委員会に上程し、それでも意見がまとまらなかったら、承認しない、またはEMAに差し戻すという流れになるのではないか?

    リンク: 両社のプレスリリース

    イーライリリーがAmyvid(florbetapir 18F)の適応拡大申請を撤回したことも公表された。アルツハイマー病におけるアミロイド・ベータ蓄積のPET検査薬として承認されている。抗アミロイド・ベータ薬の応答をモニターする用途で申請されたが、CHMPは追加試験が必要と判定した。

    リンク: EMAのプレスリリース


    DMD用薬atalurenがEUで承認取消へ
    (2025年3月28日発表)

    PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、欧州委員会がデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)の条件付き承認を更新しないことを決定したと発表した。市販後薬効確認試験がフェールしたため、11年もの市販歴が終了することになる。

    承認前に実施された後期第2相も第3相もフェールしていたのでEUが条件付きとはいえ承認したことの方がサプライズだった。奇妙なのは、その段階では承認しなかったFDAが、フェールした追加第3相試験に基づく承認申請を認めたこと。複数の副次的評価項目にp値が0.01を下回らない程度の小さな有意差があったことを評価した模様だが、どうなることか。昨年10月に受理され、PDUFA法の適用外なので審査期限は設けられていないとのことだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ETA受容体拮抗剤がIgA腎症に承認
    (2025年4月3日発表)

    ノバルティスはFDAがエンドテリンA(ETA)受容体拮抗剤Vanrafia(atrasentan)を成人の急速進行性原発性IgA腎症に加速承認したと発表した。第3相ALIGN試験でACE阻害剤などのRAS阻害剤に応答不十分な患者に75mgを一日一回、追加で経口投与したところ、36週UPCR(尿蛋白/クレアチニン比)が偽薬調整後で36%低下した。SGLT阻害剤も併用している患者に追加した試験でも偽薬調整後37%低下した。

    有害事象は末梢浮腫や貧血など。開始前と治療中にも必要に応じて肝機能検査値検査を行う。胚胎毒性が枠付き警告。Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)のAT1・ETA受容体拮抗剤Filspari(sparsentan)と異なり、REMS(リスク評価緩和戦略)は要求されなかった。

    atrasentanはアッヴィがETA発現腫瘍や糖尿病性腎症の第3相を実施したが、後者で心不全入院や死亡が増加する傾向が見られたせいか、Chinook Therapeuticsに導出。ノバルティスは23年に同社を32億ドル及びCVR(後発価値権利)3億ドルで買収した。今回のパッケージ・インサートには心不全に関する記述はないので、上記はノイズと判定されたのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ユプリズナがIgG4関連疾患に適応拡大
    (2025年4月3日発表)

    アムジェンは、FDAがUplizna(inebilizumab-cdon)を成人のIgG4関連疾患に適応拡大を承認したと発表した。第3相MITIGATE試験で多臓器疾患歴を持ち活性期の、ステロイド治療を受けている成人患者135人を組入れて、300mgを第1日、15日、そして26週に点滴静注し、52週間のフレア・リスクを偽薬と比較したところ、ハザード・レシオが0.13、年率頻度は0.10対0.71と、大きな治療効果が示された。58.8%の患者がステロイドを止め、フレアが発生せず、完解を達成した(偽薬群は22.4%)。有害事象は尿路感染症やリンパ球減少症など。

    IgG4関連疾患は、約20年前に日本で発見・描写された、CD19陽性B細胞などが調停する進行性の自己免疫疾患で、表現型は様々。有病率は10万人当り1~5人と推定されているが不確かである模様。免疫調停疾患には珍しく、男の患者のほうが多い。日本でもライセンシーの田辺三菱製薬が適応拡大申請したところ。

    Uplinzaは抗CD19脱フコシル化抗体。23年に280億ドルで買収したHorizon Therapeuticsのパイプラインの一つ。20~22年に米、日、欧でNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    血友病の短鎖RNA介入薬が承認
    (2025年3月28日発表)

    FDAはサノフィのQfitlia(fitusiran)を12歳以上のA型またはB型血友病患者における出血傾向の抑制薬として承認した。インヒビターの有無は問わない。用量調整が導入されなかった第3相試験では血栓リスク上昇が見られた。このため、長期延長試験と同様に、Siemens Healthcare Diagnostics社のINNOVANCE抗トロンビン・コンパニオン診断テストを定期的に実施して用量や投与頻度を調整する手法が採用された。枠付き警告は血栓性イベントと胆嚢疾患(胆嚢除去に至った症例も)。肝毒性が見られるため開始後6ヶ月間と増量時は検査する。

    アンチトロンビンの生成を妨げる短鎖RNA介入薬。Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)から商業化権を取得した。月一回皮下注。第3相試験の長期延長試験と、第3相の対照群のデータを比較したところ、インヒビターを持つサブグループではABR(年間出血率)が73%、持たないサブグループでは71%、低かった。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: サノフィのプレスリリース


    イミフィンジが膀胱癌の周術期補助療法に適応拡大
    (2025年3月28日発表)

    FDAはアストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を成人の筋層浸潤膀胱癌(MIBC)の術前術後補助療法薬として承認した。摘出前はgemcitabine及びcisplatinと併用で3週毎に4サイクル、術後は単剤で4週毎に8サイクル、点滴静注する。

    gemcitabineとcisplatinの術前療法とオープン・レーベルで比較した第3相NIAGARA試験で、主評価項目のEFS(無イベント生存)のハザードレシオが0.68、2年EFS率は67.8%対59.8%だった。副次的評価項目の全生存期間は各0.75、82.2%、75.2%だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は40.6%と40.9%で同程度、全摘施行率は88.0%と83.2%だった。

    日欧でも適応拡大申請中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ノバルティスの放射性医薬品が適応拡大
    (2025年3月18日発表)

    FDAはノバルティスのPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)を従来より早い段階で用いることを承認した。前立腺癌の多くで発現するPSMAに結合するライガンドとキレーターを、ベータ線を放出する放射性核種と結合したもので、22年に米国で成人のPSMA陽性転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)用薬として承認されたが、その段階ではアンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)やタクサン・ベースの化学療法の次に使う薬だった。今回、化学療法の前(プリキモ)に用いることが認められた。

    エビデンスとなる第3相PSMAfore試験で、第2世代ARPI歴を持ち、PARP阻害剤が適応にならず、放射線療法や免疫療法、化学療法歴のないPSMA陽性転移CRPC患者468人を組入れてPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を他のARPIにスイッチする群と比較したところ、ハザードレシオ0.41、メジアン値は12.0ヶ月対5.6ヶ月と比較的大きな差が見られた。進行後のクロスオーバーが認められていたためか全生存期間は両群大差なかった。

    化学療法と比較した試験ではないためか、適応は、タクサン・ベース化学療法の施行を遅らせた方が適切と見做される場合に限定されている。まあ、米国の抗癌剤は、レーベルよりコンペンディアのほうが重視されるのでインプリケーションは曖昧だが。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    IDMCがSarepta社のDMD用薬の治験継続を支持
    (2025年4月25日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)による治療を受けた少年が死亡した件について、アップデートした。独立データ監視委員会(IDMC)が便益が棄権を上回ると判定したため、欧州委員会に報告する。

    ElevidysはDMDで欠乏しているジストロフィン(427kDa)の代わりにマイクロジストロフィン(138kDa)の遺伝子をAAVrh74ベクターを利用して患者に導入する遺伝子療法。23年に米国で4~5歳の歩行可能なDMD向けに加速承認され、24年6月に年齢限定なしで本承認、歩行不能患者にも加速承認された。日欧でも4~5歳向けに承認申請中。

    これまで被験者の死亡はなかったが、今年3月、米国の16歳の男児が急性肝障害により死亡した。肝障害は遺伝子療法では決して珍しくなく、米国のレーベルにも記載されている。本件に関してはCMV感染が肝炎を誘発した可能性もあるようだ。EUはIDMCに検討を求めるよう要請、Sareptaは3本の臨床試験に関して欧州の施設における実施を一時的に停止している。

    Sareptaは一週間内にEUにIDMCの評価を報告する予定。その後、EUが介入の必要性を検討することになる。EUで承認申請が受理されたのは昨年6月なので、数ヶ月内に審査結果が出るのではないか。

    米国の動きは表面化していない。第3相試験がフェールしたことからFDAの審査担当部署は承認に後ろ向きだったが、先般辞任したCBER(生物製品評価研究センター)のヘッド、Peter Marksが強力に後押しして加速承認に漕ぎ着けた。市販後薬効確認試験はフェールしたが、一部の副次的評価項目で良好な数値が出たことなどから、上記のように、大盤振る舞いで本承認に切替えられた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/4推JNJのnipocalimab(全身性筋無力症)
    25/4推ノバルティスのatrasentan(IgA腎症)
    25/4/18RegeneronのDupixent(dupilumab、特発性慢性蕁麻疹追加)
    25/4/21BMSのOpdivoとYervoy(nivolumabとipilimumab、肝細胞腫一次治療追加)
    25/4/26TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤)
    25/4/29Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症)
    25/4/29Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好中球性喘息症に適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)



    今週は以上です。

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