【ニュース・ヘッドライン】
- CBERのヘッドが辞任に至った経緯
- MC4Rアゴニストが後天性視床下部性肥満症に有効
- tramiprosateプロドラッグのApoE4/4型eAD試験はフェール
- オプジーボ・ヤーボイ併用法の適応追加
- ヒフデュラが米国でも自己注可能に
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
CBERのヘッドが辞任に至った経緯
(2025年4月8日報道)
AP通信のインタビューで、恐るべき事実が明らかになった。FDAのCBER(生物学的製品評価研究センター)のヘッドだったPeter Marks博士が辞任したのは、上部組織であるHSS(保健福祉省)のRobert F. Kennedy長官がワクチン有害事象報告システムのデータを改竄・消去するのを恐れアクセス制限を試みたことがきっかけだったという。この懸念が妥当だったのか、当方には知るべくもないが、それほどの不信感を持っている(持たれている)ことだけで十分に異常だ。
FDAのAERS(有害事象報告システム)は医療従事者などの自主報告に依存しているため、氷山の一角に過ぎない可能性があり、原因などに関する情報も不正確、不十分なことが少なくない。同じ症例が複数の関係者により重複報告されることもある。法律事務所が薬害訴訟の準備として報告する場合もあり、筆者が調べた事例では、COX-II阻害剤Vioxx(rofecoxib)は2004年9月に自主回収された途端、AERS報告数が飛躍的に増加した。
AERSが完璧でないことは確かなので、Marks博士は再評価に反対ではなかった模様だが、データを守るため、長官のチームに完全なアクセス権は与えなかった。すると、長官の指示を受けたと目される人物から、辞任するか解雇を待つか、選ぶよう通知されたとのことだ。
二大政党間の政権交代時には改革や混乱が付き物だが、今回は特にひどいように思われる。
リンク: AP報道
【新薬開発】
MC4Rアゴニストが後天性視床下部性肥満症に有効
(2025年4月7日発表)
Rhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)は、MC4R(melanocortin-4 receptor)アゴニストsetmelanotideの第3相後天性視床下部性肥満症試験で主目的を達成したと発表した。7-9月に欧米で承認申請する考え。日本人のコフォートの結果も26年第1四半期に見込まれている。
この疾患は脳の空腹や体重を管理する部位に腫瘍などによる異常が生じ、過食や肥満が急速に進行する。推定患者数は米国で5000~10000人、欧州で3500~10000人、日本は5000~8000人とされる。今回のTRANSCEND試験は、4歳以上の患者120人を試験薬群と偽薬群に2対1割付けして52週間投与し、BMIの変化を比較した。試験薬群は16.5%低下、偽薬群は3.3%上昇し、偽薬調整値は-19.8%となった。成人でも未成年でも同様な差があった。試験薬群の5%低下奏効率は80%だった。
この活性成分はPOMC(pro-opiomelanocortin)などの欠乏による肥満症の治療薬Imcivreeとして20~21年に米欧で承認されている。米国のPOMC欠乏性肥満症の推定患者数は100~500人、LEPR(leptin receptor)欠乏性は500~2000人、BBS(Bardet‑Biedl syndrome)欠乏性は500~2000人と推定されているので、適応拡大が認められれば市場性が倍増以上することになる。
リンク: 同社のプレスリリース
tramiprosateプロドラッグのApoE4/4型eAD試験はフェール
(2025年4月1日発表)
Alzheon社はALZ-801(valiltramiprosate)で第3相ApoE4ホモ接合型早期アルツハイマー病(eAD)試験がフェールしたとADPD(アルツハイマー病・パーキンソン病国際学会)のIndustry Symposiumで発表した。被験者の4割を占めたMCI(軽度認知障害)サブグループでは良い数値が出た模様なので、もし自信があるならば、そして、現在の困難な環境下でも資金提供者を確保できるならば、MCI限定第3相に進むのではないか。
活性成分はBellus Healthからライセンスした経口GAG(グリコサミノグリカン)類縁体tramiprosateのプロドラッグ。tramiprostateは可溶性アミロイド・ベータに結合して重合を阻害する作用を持ち、第2相試験でアミロイド・ベータ42の脳脊髄液濃度を最大7割削減した。Bellusは第3相軽中度アルツハイマー病試験を実施したがフェール、結局、カナダで栄養補助食品として発売されただけだった。
Alzheonはアルツハイマー病のリスク因子であるApoE4アレルを二組持つeAD患者325人を欧米の施設で組入れて、偽薬または265mg錠を最初の2週間は1日1回、その後は1日2回、78週間投与し、主評価項目のADAS-cog13などを比較した。報道によると、進行が11%遅かったがp=0.607だった。MCIサブグループでは52%遅かったが、軽度アルツハイマー病サブグループでは18%早かった。CDR-SBなどの副次的評価項目も同様な傾向が見られた模様だ。
ApoE4型は発症リスクが比較的高い一方で抗アミロイド抗体による副作用罹患率が比較的高く、欧州ではホモ接合型は禁忌となっている。ニーズが高いが失望的な結果になった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
オプジーボ・ヤーボイ併用法の適応追加
(2025年4月11日/8日発表)
FDAはブリストル マイヤーズ スクイブの抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用について新たに二つの適応を承認した。
一つは、成人の全身性治療歴のない切除不能/進行肝細胞腫。Opdivo(1mg/kg)とYervoy(3mg/kg)を3週毎に4回投与し、その後はOpdivo(480mg)だけを4週毎投与する。EUでは3月に承認、日本でも一変申請中。
エビデンスとなる第3相CheckMate-9DW試験で全生存期間を既承認薬(エーザイのLenvima(lenvatinib)またはバイエルのNexavar(sorafenib)から治験医が選択)と比較したところ、ハザードレシオは0.79、メジアン値は各群23.7ヶ月と20.6ヶ月だった。
Lenvimaは同様な患者層の試験でメジアン生存期間が13.6ヶ月となり、Nexavarの12.3ヶ月と比べて非劣性だった。他社の試験でもLenvimaを用いた対照群のメジアン生存期間は13ヶ月程度だった。ところが、Keytrudaを追加する便益を検討したLeap-002試験ではLenvimaだけで19.0ヶ月と良い結果になり、これがフェールした原因なのではないかとささやかれた。今回も好結果なので、組入れ・除外条件や実施地域構成などが影響している可能性があり、過去の試験とは比較できないのかもしれない。
尚、Opdivo・Yervoy併用は2020年に肝細胞腫2次治療がFDAに加速承認されたが、上記試験の成功を受けて、本承認に切替えられた。
試験レジメン | Nexavar | Lenvima | ハザードレシオ | 試験名 | |
---|---|---|---|---|---|
Opdivo+Yervoy | 23.7ヶ月 | 20.6ヶ月 | 0.79 | CheckMate-9DW | |
Tecentriq+Avastin | 未到達 | 13.2 | - | 0.58 | Imbrave150 |
Imjudo+Imfinzi | 16.4 | 13.8 | - | 0.78 | HIMALAYA |
Lenvima | 13.6 | 12.3 | - | 0.92 | REFLECT |
Keytruda+Lenvima | 21.2 | - | 19.0 | 0.84 | Leap-002 |
リンク: FDAのプレスリリース(肝細胞腫承認、4/11付)
もう一つは、12歳以上のMSI-H(高マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)型の切除不能/転移結腸直腸癌。受理から2ヶ月のスピード承認。EUでは12月に承認済み。日本でも一変申請中。
このタイプの癌では両剤の3次治療における併用が18年に加速承認されているが、今回、延命またはそれに準じる効果が認められたため、本承認に切替えられた。尚、Opdivoは単剤でも3次治療に用いることが承認されている。
エビデンスとなるCheckMate-8HW試験で、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン値未達、Opdivo単剤投与群は39.3ヶ月となり、ハザードレシオは0.62と大きな違いが確認された。共同主評価項目である1次治療患者だけのPFSもメジアン未達、医師が選んだ化学療法を施行した群は5.8ヶ月、ハザードレシオ0.21と大変良い数値が出た。
尚、医療施設でMSI-H/dMMR陽性判定された707人(1次治療コフォートでは303人)のうち、セントラルラボで確認され解析対象となったのは582人(同、255人)で、2割近い症例がドロップした。her2など他の検査も含めて、結果判定に揺らぎは付き物でサンプルの棄損・逸失のような症例もあったかもしれないが、もし本当は陽性だったとしたら治療機会を逃すことになるので、検査・評価技術の向上(評価基準の標準化と考えた方がよい?)も重要な課題だろう。
リンク: 同(MSI-H/dMMR結腸直腸癌承認、4/8付)
ヒフデュラが米国でも自己注可能に
(2025年4月10日発表)
アルジェニクス(Euronext/Nasdaq:ARGX)は、FDAがVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa、hyaluronidase-qvfc)のプリフィルド・シリンジを承認したと発表した。全般性重症筋無力症または慢性炎症性脱髄性多発神経障害の治療に用いる。この皮下注用抗FcRn抗体はバイアルが23~24年に米欧日で同適応症に承認されているが、充填済み製品は20~30秒と従来の30~90秒よりやや短時間の投与で足り、米国では初めて、自己注が認められた。配合量は抗FcRn抗体が1008mg、ヒアルロン酸分解酵素が11200単位と、バイアル版(1000mgと10000単位)より気持ち多い。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
---|---|
25/4推 | JNJのnipocalimab(全身性筋無力症) |
25/4推 | ノバルティスのatrasentan(IgA腎症) |
25/4/18 | RegeneronのDupixent(dupilumab、特発性慢性蕁麻疹追加) |
25/4/26 | TelixのPixclara(18F-floretyrosine、神経膠腫PET造影剤) |
25/4/29 | Abeona TherapeuticsのEB-101(prademagene zamikeracel、劣性栄養障害型表皮水疱症) |
25/4/29 | Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群) |
25/5/7 | GSKのNucala(mepolizumab、好中球性喘息症に適応拡大) |
25/5/26 | MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫) |
25/5/27 | Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症 |
25/5/31 | モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19) |
今週は以上です。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。