【ニュース・ヘッドライン】
- キイトルーダの二本の試験が無益中止
- JNJも抗胎児性FcR抗体を承認申請
- ジアゾキシドの新製剤をPWSに承認申請
- 伝統の天然痘ワクチンもエムポックスに適応拡大
- FDA:PemgardaはKP.3.1.1に弱い可能性
- リジェネロンの二重特異性抗体、EUでは承認
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【新薬開発】
キイトルーダの二本の試験が無益中止
(2024年8月29日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相適応拡大試験のうち二本の中止を開始したと発表した。独立データ監視委員会が中間解析結果に基づき無益認定・中止勧告したため。
一本はKeyNote-867試験。ステージI/IIの非小細胞性肺癌で切除術不適/拒否の患者を組入れて、SBRT(体幹部定位放射線治療)付随療法としての便益を検討したが、主目的のEFS(無イベント生存期間)も主要副次的評価項目である全生存期間も改善しなかった。危険面では有害事象が増加し致死例もあった。
もう一本はKeyNote-630試験。局所進行皮膚扁平上皮腫(cSCC)の切除術と放射線療法を受けたが再発リスクの高い患者を組入れて無再発生存期間の延長を図ったが、統計的有意性の閾値をクリアできず、副次的評価項目の全生存期間も偽薬群より良くはなかった。安全性は過去の試験と同様だった。
リンク: MSDのプレスリリース
【承認申請】
JNJも抗胎児性FcR抗体を承認申請
(2024年8月29日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ-80202135(nipocalimab)を全身性筋無力症(gMG)の治療薬としてFDAに承認申請した。4種類の用量・投与頻度をテストした第2相試験で奏効率(MG-ADLが持続的に2点以上改善)が偽薬群を有意に上回り、第2相とは異なる15mg/kg(初回は倍量)を二週毎点滴静注した第3相でMG-ADLが4.7点低下し偽薬群の3.25点低下を有意に上回った。
20年にMomenta Pharmaceuticalsを65億ドル(企業価値ベース)で買収して入手した、胎児性FcRを標的とするアグリコシル化抗体。胎児新生児溶血性疾患(HDFN)や胎児新生児同種免疫性血小板減少症(FNAIT)、シェーグレン症候群、湿式自己免疫性溶血性貧血症、慢性炎症性脱髄性多発神経症、抗シトルリン化蛋白抗体陽性RF陽性リウマチ性関節炎など多くのPOC試験が成功、一部は承認申請用試験に進んでいる。
抗胎児性FcR抗体はアルジェニクスのVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)が21~22年に米日欧で抗AChR抗体を持つgMGに承認され、UCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)も23~24年に米日欧で抗AChR抗体や抗MuSK抗体を持つgMGに承認された。nipocalimabは皮下注用がなく点滴静注する。上記データは抗AChR抗体や抗MuSK抗体だけでなく抗LRP4抗体を持つ患者も含まれているため、承認されれば適応範囲が若干広くなる。
リンク: JNJのプレスリリース
ジアゾキシドの新製剤をPWSに承認申請
(2024年8月27日発表)
米国カリフォルニア州のSoleno Therapeutics(Nasdaq:SLNO)は、DCCR(diazoxide choline)を4歳以上のPWS(プラダー・ウィリ症候群)患者の過食障害治療薬としてFDAに承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は今年12月27日。FDAは諮問委員会を招集する考えだ。
PWSは複数の父性遺伝子(父親から遺伝した場合だけ発現する遺伝子)の機能欠如による希少疾患で、肥満や糖尿病、発達障害などを発症する。新生児15000人当り一人が発症と推測されている。DCCRはインスリン分泌抑制剤として用いられているdiazoxideの延長放出製剤で、一日2~3回ではなく錠剤を1回服用するだけで足りる。米国でブレークスルー・セラピー指定とファースト・トラック指定、米欧で希少疾患用薬指定を受けている。
米英の施設で4歳以上の患者127人を2:1割付けした第3相C601試験は2020年にフェールした。HQ-CT(過食質問票-臨床試験用途:0~36点)総スコアが13週間の治療で5.94点低下したが、偽薬群も4.27点低下し、群間差のp値は0.198だった。一方、副次的評価項目のCGI-Cはp=0.029だった。主な有害事象は多毛症や末梢浮腫、血糖値上昇、発熱など。治療時発現深刻有害事象の発生率は7%(偽薬群はゼロ)だった。
同社はFDAと相談の上、上記試験の延長試験に当たるC602試験参加者77人を組入れて16週間の無作為化割付け偽薬対照二重盲検離脱試験を実施したところ、継続投与群はHQ-CTが2.6点上昇しただけだったが偽薬にスイッチした群は7.6点上昇し、群間差は-5.0点でp=0.0022だった。
通常の離脱試験は全員に試験薬を投与するフェーズを開始する前に離脱試験の組み入れ条件を決定する。今回はポストホックだが、解析対象症例数とC601試験の試験薬群の症例数はほぼ同じなので、スクリーニング・バイアスはなさそうだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
伝統の天然痘ワクチンもエムポックスに適応拡大
(2024年8月29日発表)
天然痘ウイルスや炭疽菌、エボラ・ウイルスなどはバイオテロに使われる可能性があり、エムポックスのような類似微生物が途上国で流行して現地の人達や駐留する米軍にとって新たな脅威になる事例もある。米国のEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)はこれらの脅威に対抗するワクチンや治療薬をラインアップしているが、今回、天然痘の生ワクシニア・ワクチンACAM2000がエムポックス感染リスクのある人の予防用途でもFDAに承認された。
天然痘の駆除に貢献したジェンナーのワクチンをベースに、純度を高め子牛の皮膚ではなく細胞培養法で量産化したもの。二股針をワクチン液に浸して上腕皮膚に何回も突き刺す。安全性臨床試験と薬効確認動物試験に基づく承認。ACAM2000は心筋炎などのリスクが枠付き警告。重度免疫低下は禁忌。
同社は米国連邦政府と長期供給契約を結んでおり、今年8月には人道支援団体を通じてコンゴ民主共和国など5ヶ国に5万回分を寄付することを決めた。WHOの招致に応じてEUL(非常時使用収載)申請も行った。
他社ではBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のJynneosが2019年に天然痘とエムポックス(当時の名称:サル痘)用のワクチンとして米国で承認されている。ACAM2000は一回投与、Jynneosは4週おいて二回皮下注する。
リンク: 同社のプレスリリース
FDA:PemgardaはKP.3.1.1に弱い可能性
(2024年8月27日発表)
米国マサチューセッツ州の新興製薬会社、Invivyd(Nasdaq:IVVD)は、COVID-19予防薬Pemgarda(pemivibart)のレーベルを変更して推定予防効果を記載したと発表した。未承認用途ではあるが、免疫が健全な人において感染/感染入院/全死亡を偽薬比84%抑制すると推定された。一方、FDAは、同日、レーベルを変更してEUA(非常時使用認可)の適応・要件に非感受株の合計構成比が90%以下である場合を追加したと発表した。Pemgardaは現在の最大勢力であるKP.3.1.1変異株に対する効果が弱い可能性があることを考慮した模様。
PemgardaはSARS-Cov-2を標的とする抗体医薬。病気や治療により免疫が低下しているためにワクチンを接種しても十分な効果を期待し難い、そして感染者にまだ濃厚接触していない人が、適応になる。3ヶ月毎に反復投与する。
同社は類薬のADG20(adintrevimab)で第3相曝露前/曝露後予防試験と治療試験が成功したが、苦手なオミクロン系が大流行し始めたため承認申請を断念しPemgardaにシフト。CANOPY試験で免疫原性を検討し、ADG20の免疫原性試験と曝露前予防試験のデータとブリッジングする方式で今年3月にEUAを取得した。
今回公表された、ブリッジングによるる180日間感染/感染入院/全死亡発生率は、免疫力は健全だが感染時のリスクが高いコフォートでは1.9%、偽薬群では11.9%で相対リスク削減率は84%だった。両群とも感染入院/全死亡はゼロだった。一方、免疫低下コフォートにおける発生率は3.7%(うち感染は3.0%、全死亡は0.7%、死亡2名のうち一人は死因不明、もう一人は自殺)だった。こちらのコフォートは偽薬群が設定されていないので相対リスク削減率のデータはない。
この情報よりもFDAのプレスリリースに記された非感受株の情報のほうが重要だ。CDC(米連邦疾病予防管理センター)の推定によると、直近で一番流行しているのはKP.3.1.1で37%、次はKP.3が17%。Pemgardalは後者には十分な中和力価がありそうだが前者には著しく低下する可能性があるようだ。レーベルにEC50データが記載されているのはKP.3までだが、刊行前論文掲示サイトに投稿論文が収載されているとのことだ。
EUAから半年も経っていないのに、過去の抗体医薬と同様に、Pemgardaも使命を終える時が見えてきた。
リンク: Invivydのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース
リジェネロンの二重特異性抗体、EUでは承認
(2024年8月26日発表)
6月のCHMPで肯定的意見を得た複数の新薬が承認されたが、うち、米国に先んじたのがRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のOrdspono(odronextamab)だ。予定通り、難治/再発性の濾胞性リンパ腫とびまん性大細胞型リンパ腫に単剤投与する薬として条件付き承認された。どちらも2次以上の全身性治療歴を持つ患者が適応になる。
EUでは4番目となるリンパ腫細胞のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で、リジェネロンの二重特異性抗体としては初。第2相試験で良好なORR(客観的反応率)を挙げた。初期の試験で致死的なサイトカイン放出症候群が複数発生しFDAが部分的治験停止命令を発出したことがあり、念入りな用量漸増が導入されている。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24/9推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法) |
24/9 | ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症) |
24/9/5 | Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替) |
24/9/18 | Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺) |
24/9/21 | Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型) |
24/9/24 | IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型) |
24/9/25 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、未治療胸膜中皮腫) |
24/9/26 | Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症) |
24/9/26 | Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病) |
24/9/27 | リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加) |
24/9/27 | サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用) |
24/10推 | ファイザーのmarstacimab(血友病) |
24/10推 | CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫) |
24/10推 | イーライリリーのEbglyss(lebrikizumab、アトピー性皮膚炎) |
24/10/6 | Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌) |
24/10/8 | BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法) |
24/10/15 | Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験) |
24/10/17 | アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌) |
24/10/25 | Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症) |
諮問委員会 | |
24/9/9 | AMDAC:Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil/probenecid錠(非複雑性尿路感染症) |
24/9/13 | GIDAC:InterceptのOcaliva(obeticholic acid、加速承認維持の当否) |
24/9/18 | PAC:小児用薬の市販後安全性監視(特別な議題はない由) |
24/9/20 | VrBPAC:百日咳ワクチンの薬効確認試験の手法など |
24/9/26 | ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否) |
24/10/31 | EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病) |
今週は以上です。