2024年8月31日

第1070回

【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダの二本の試験が無益中止 
  • JNJも抗胎児性FcR抗体を承認申請 
  • ジアゾキシドの新製剤をPWSに承認申請 
  • 伝統の天然痘ワクチンもエムポックスに適応拡大 
  • FDA:PemgardaはKP.3.1.1に弱い可能性 
  • リジェネロンの二重特異性抗体、EUでは承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


キイトルーダの二本の試験が無益中止
(2024年8月29日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相適応拡大試験のうち二本の中止を開始したと発表した。独立データ監視委員会が中間解析結果に基づき無益認定・中止勧告したため。

一本はKeyNote-867試験。ステージI/IIの非小細胞性肺癌で切除術不適/拒否の患者を組入れて、SBRT(体幹部定位放射線治療)付随療法としての便益を検討したが、主目的のEFS(無イベント生存期間)も主要副次的評価項目である全生存期間も改善しなかった。危険面では有害事象が増加し致死例もあった。

もう一本はKeyNote-630試験。局所進行皮膚扁平上皮腫(cSCC)の切除術と放射線療法を受けたが再発リスクの高い患者を組入れて無再発生存期間の延長を図ったが、統計的有意性の閾値をクリアできず、副次的評価項目の全生存期間も偽薬群より良くはなかった。安全性は過去の試験と同様だった。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


JNJも抗胎児性FcR抗体を承認申請
(2024年8月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ-80202135(nipocalimab)を全身性筋無力症(gMG)の治療薬としてFDAに承認申請した。4種類の用量・投与頻度をテストした第2相試験で奏効率(MG-ADLが持続的に2点以上改善)が偽薬群を有意に上回り、第2相とは異なる15mg/kg(初回は倍量)を二週毎点滴静注した第3相でMG-ADLが4.7点低下し偽薬群の3.25点低下を有意に上回った。

20年にMomenta Pharmaceuticalsを65億ドル(企業価値ベース)で買収して入手した、胎児性FcRを標的とするアグリコシル化抗体。胎児新生児溶血性疾患(HDFN)や胎児新生児同種免疫性血小板減少症(FNAIT)、シェーグレン症候群、湿式自己免疫性溶血性貧血症、慢性炎症性脱髄性多発神経症、抗シトルリン化蛋白抗体陽性RF陽性リウマチ性関節炎など多くのPOC試験が成功、一部は承認申請用試験に進んでいる。

抗胎児性FcR抗体はアルジェニクスのVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)が21~22年に米日欧で抗AChR抗体を持つgMGに承認され、UCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)も23~24年に米日欧で抗AChR抗体や抗MuSK抗体を持つgMGに承認された。nipocalimabは皮下注用がなく点滴静注する。上記データは抗AChR抗体や抗MuSK抗体だけでなく抗LRP4抗体を持つ患者も含まれているため、承認されれば適応範囲が若干広くなる。

リンク: JNJのプレスリリース


ジアゾキシドの新製剤をPWSに承認申請
(2024年8月27日発表)

米国カリフォルニア州のSoleno Therapeutics(Nasdaq:SLNO)は、DCCR(diazoxide choline)を4歳以上のPWS(プラダー・ウィリ症候群)患者の過食障害治療薬としてFDAに承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は今年12月27日。FDAは諮問委員会を招集する考えだ。

PWSは複数の父性遺伝子(父親から遺伝した場合だけ発現する遺伝子)の機能欠如による希少疾患で、肥満や糖尿病、発達障害などを発症する。新生児15000人当り一人が発症と推測されている。DCCRはインスリン分泌抑制剤として用いられているdiazoxideの延長放出製剤で、一日2~3回ではなく錠剤を1回服用するだけで足りる。米国でブレークスルー・セラピー指定とファースト・トラック指定、米欧で希少疾患用薬指定を受けている。

米英の施設で4歳以上の患者127人を2:1割付けした第3相C601試験は2020年にフェールした。HQ-CT(過食質問票-臨床試験用途:0~36点)総スコアが13週間の治療で5.94点低下したが、偽薬群も4.27点低下し、群間差のp値は0.198だった。一方、副次的評価項目のCGI-Cはp=0.029だった。主な有害事象は多毛症や末梢浮腫、血糖値上昇、発熱など。治療時発現深刻有害事象の発生率は7%(偽薬群はゼロ)だった。

同社はFDAと相談の上、上記試験の延長試験に当たるC602試験参加者77人を組入れて16週間の無作為化割付け偽薬対照二重盲検離脱試験を実施したところ、継続投与群はHQ-CTが2.6点上昇しただけだったが偽薬にスイッチした群は7.6点上昇し、群間差は-5.0点でp=0.0022だった。

通常の離脱試験は全員に試験薬を投与するフェーズを開始する前に離脱試験の組み入れ条件を決定する。今回はポストホックだが、解析対象症例数とC601試験の試験薬群の症例数はほぼ同じなので、スクリーニング・バイアスはなさそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


伝統の天然痘ワクチンもエムポックスに適応拡大
(2024年8月29日発表)

天然痘ウイルスや炭疽菌、エボラ・ウイルスなどはバイオテロに使われる可能性があり、エムポックスのような類似微生物が途上国で流行して現地の人達や駐留する米軍にとって新たな脅威になる事例もある。米国のEmergent BioSolutions(NYSE:EBS)はこれらの脅威に対抗するワクチンや治療薬をラインアップしているが、今回、天然痘の生ワクシニア・ワクチンACAM2000がエムポックス感染リスクのある人の予防用途でもFDAに承認された。

天然痘の駆除に貢献したジェンナーのワクチンをベースに、純度を高め子牛の皮膚ではなく細胞培養法で量産化したもの。二股針をワクチン液に浸して上腕皮膚に何回も突き刺す。安全性臨床試験と薬効確認動物試験に基づく承認。ACAM2000は心筋炎などのリスクが枠付き警告。重度免疫低下は禁忌。

同社は米国連邦政府と長期供給契約を結んでおり、今年8月には人道支援団体を通じてコンゴ民主共和国など5ヶ国に5万回分を寄付することを決めた。WHOの招致に応じてEUL(非常時使用収載)申請も行った。

他社ではBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のJynneosが2019年に天然痘とエムポックス(当時の名称:サル痘)用のワクチンとして米国で承認されている。ACAM2000は一回投与、Jynneosは4週おいて二回皮下注する。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA:PemgardaはKP.3.1.1に弱い可能性
(2024年8月27日発表)

米国マサチューセッツ州の新興製薬会社、Invivyd(Nasdaq:IVVD)は、COVID-19予防薬Pemgarda(pemivibart)のレーベルを変更して推定予防効果を記載したと発表した。未承認用途ではあるが、免疫が健全な人において感染/感染入院/全死亡を偽薬比84%抑制すると推定された。一方、FDAは、同日、レーベルを変更してEUA(非常時使用認可)の適応・要件に非感受株の合計構成比が90%以下である場合を追加したと発表した。Pemgardaは現在の最大勢力であるKP.3.1.1変異株に対する効果が弱い可能性があることを考慮した模様。

PemgardaはSARS-Cov-2を標的とする抗体医薬。病気や治療により免疫が低下しているためにワクチンを接種しても十分な効果を期待し難い、そして感染者にまだ濃厚接触していない人が、適応になる。3ヶ月毎に反復投与する。

同社は類薬のADG20(adintrevimab)で第3相曝露前/曝露後予防試験と治療試験が成功したが、苦手なオミクロン系が大流行し始めたため承認申請を断念しPemgardaにシフト。CANOPY試験で免疫原性を検討し、ADG20の免疫原性試験と曝露前予防試験のデータとブリッジングする方式で今年3月にEUAを取得した。

今回公表された、ブリッジングによるる180日間感染/感染入院/全死亡発生率は、免疫力は健全だが感染時のリスクが高いコフォートでは1.9%、偽薬群では11.9%で相対リスク削減率は84%だった。両群とも感染入院/全死亡はゼロだった。一方、免疫低下コフォートにおける発生率は3.7%(うち感染は3.0%、全死亡は0.7%、死亡2名のうち一人は死因不明、もう一人は自殺)だった。こちらのコフォートは偽薬群が設定されていないので相対リスク削減率のデータはない。

この情報よりもFDAのプレスリリースに記された非感受株の情報のほうが重要だ。CDC(米連邦疾病予防管理センター)の推定によると、直近で一番流行しているのはKP.3.1.1で37%、次はKP.3が17%。Pemgardalは後者には十分な中和力価がありそうだが前者には著しく低下する可能性があるようだ。レーベルにEC50データが記載されているのはKP.3までだが、刊行前論文掲示サイトに投稿論文が収載されているとのことだ。

EUAから半年も経っていないのに、過去の抗体医薬と同様に、Pemgardaも使命を終える時が見えてきた。

リンク: Invivydのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース


リジェネロンの二重特異性抗体、EUでは承認
(2024年8月26日発表)

6月のCHMPで肯定的意見を得た複数の新薬が承認されたが、うち、米国に先んじたのがRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のOrdspono(odronextamab)だ。予定通り、難治/再発性の濾胞性リンパ腫とびまん性大細胞型リンパ腫に単剤投与する薬として条件付き承認された。どちらも2次以上の全身性治療歴を持つ患者が適応になる。

EUでは4番目となるリンパ腫細胞のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体で、リジェネロンの二重特異性抗体としては初。第2相試験で良好なORR(客観的反応率)を挙げた。初期の試験で致死的なサイトカイン放出症候群が複数発生しFDAが部分的治験停止命令を発出したことがあり、念入りな用量漸増が導入されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
24/9ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
24/9/25MSDのKeytruda(pembrolizumab、未治療胸膜中皮腫)
24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10推イーライリリーのEbglyss(lebrikizumab、アトピー性皮膚炎)
24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
24/10/8BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
諮問委員会
24/9/9AMDAC:Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil/probenecid錠(非複雑性尿路感染症)
24/9/13GIDAC:InterceptのOcaliva(obeticholic acid、加速承認維持の当否)
24/9/18PAC:小児用薬の市販後安全性監視(特別な議題はない由)
24/9/20VrBPAC:百日咳ワクチンの薬効確認試験の手法など
24/9/26ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否)
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)



今週は以上です。

2024年8月24日

第1069回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA諮問委員会が抗PD-(L)1抗体の適応縮小を検討へ 
  • tirzepatideが二型糖尿病診断リスクを削減 
  • BMS、米国でもデュアルICIを肝癌1Lに承認申請 
  • EUでエンハーツを極低her2に適応拡大申請 
  • exenatideインプラントはやっぱり承認されず 
  • リジェネロン、BCMAxCD3抗体の承認が遅延 
  • KP.2対応ワクチンが承認 
  • デュアルEGFRブロック・レジメンが承認 
  • レケンビが英国で承認されたが... 
  • 遅報:ファイザーの鎌状赤血球症治療薬の臨床試験で死亡者が予想以上 
  • 論文:semaglutideに自殺自傷シグナル 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


FDA諮問委員会が抗PD-1抗体の適応縮小を検討へ
(2024年8月22日発表)

FDAは9月26日に腫瘍学薬諮問委員会を招集して抗PD-1抗体などの胃腸癌と食道癌における適応をPD-L1陽性に限定する当否について意見を聞くと発表した。

抗PD-(L)1抗体の適応は、再発治療に単剤投与する場合はPD-L1陽性腫瘍に限定されることが多いが、一次治療に化学療法などと併用する場合は限定されないことが多い。近年は、第3相一次治療標準療法併用試験でPD-L1陽性サブグループと全被験者の両方の解析を主評価項目とする事例もしばしば見られる。どちらも達成した場合、陰性サブグループにも有効と早合点しがちだが、実際はそうとも限らない。問題は、第一に、効果が小さいだけで有害ではなかった場合に、適応に含めて医師や患者の判断に委ねるべきか否か。第二に、陰性サブグループのデータが一部の学会以外で公表されなかった場合、参加しなかった医師や患者を無知のまま放置することにならないか?

欧米の承認審査は揺れ動いている。米国では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)はKEYNOTE-811試験のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)中間解析データに基づき21年にher2陽性の局所進行切除不能/転移胃/胃食道接合部腺腫の一次治療にtrastuzumab、fluoropyrimidine、及び白金薬と併用することが加速承認されたが、同試験のPFS(無進行生存期間)解析で、腫瘍と腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現度の指標であるCPSが1以上のサブグループにしか効果が見られなかったため、23年に適応限定された。

同月、KeytrudaはKeyNote-859試験の全生存データに基づき、her2陰性の局所進行切除不能/転移胃/胃食道接合部腺腫の一次治療に、fluoropyrimidine及び白金薬と併用することが承認された。CPS≧1のサブグループと比べて陰性サブグループの数値は見劣りしたが限定されなかった。一方、EUでは、1ヶ月後にCPS≧1限定で承認された。

Opdivoは進行/転移胃/胃食道接合部癌や食道腺腫の一次治療に化学療法と併用で21年に加速承認された。BMSは市販後薬効確認試験の全生存解析を提出したはずだが、まだ本承認切替は実現していない。EUでは米国承認の半年後にher2陰性かつCPS≧5に限定で承認された。切除不能進行/転移食道扁平上皮腫一次治療(化学療法またはYervoy併用)では22年に米国でPD-L1不問で承認されたが、EUではPD-L1≧1%に限定された。

更に、BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)は抗PD-1抗体tislelizumabを切除不能局所進行/転移食道扁平上皮腫の再発治療(単剤)と一次治療(化学療法併用)で承認申請している。欧州では再発治療で承認されている。

諮問委員会では、この抗PD-1抗体三剤と上記試験の一部で併用された抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)をまな板に上げる予定。

リンク: FDAのプレスリリース

【新薬開発】


tirzepatideが二型糖尿病診断リスクを削減
(2024年8月20日発表)

イーライリリーはtirzepatideの第3相SURMOUNT-1試験でpre-diabetes(境界型糖尿病)患者の二型糖尿病発症を9割以上抑制したと発表した。昔からある議論だが、進行を遅らせたのか、それとも診断を見誤らせたのか、はたまた発症前に治療を開始したと考えた方がよいのか、現時点では受け止めが難しい。

このGIP/GLP-1受容体アゴニストは二型糖尿病薬Mounjaro/マンジェロとして米欧日で承認され、肥満症用途でも欧州では同名、米国ではZepbound名で承認されている。SURMOUNT-1は肥満症用途での承認申請用試験で、米国や南米、中国、インド、日本などの施設で糖尿病ではなく肥満症またはリスク因子を持つ太り過ぎの成人2539人を組入れて偽薬、5mg、10mg、または15mgを週一回皮下注して、72週間の体重抑制効果を比較した。今回の解析は、ベースライン時点でpre-diabetesと診断された1032人のサブグループを176週間追跡して二型糖尿病の発症リスクを副次的評価項目の一つとして検討したもの。試験薬群3群のプール分析で偽薬比93%(treatment-regimen estimandベース)/94%(efficacy estimandベース)低く、第1種過誤制御後で統計的に有意だった。

薬物治療中の二型糖尿病患者の血糖値が正常範囲に収まっていても治癒したとは言わないし、糖尿病ではないとも言わない。pre-diabetesの段階で投薬治療する便益を検討するためには腎症または心血管疾患のリスクを遅延開始群と比較する必要がある。尤も、投薬を中止した後でも血糖値がリバウンドしないようなら意味があるかもしれない。プレスリリースによると、176週間の治療の後、17週間のoff-treatment期間に投与を止めた患者では体重も血糖値もリバウンドし、二型糖尿病リスク削減率が88%に低下した(ベースは不明)。第1種過誤制御後で統計的に有意だった。もし試験薬群の全てを対象とした解析でこの程度の軟化なら注目できるように感じられるが、承認されている薬の投与を強制的に止めることはできないだろうから、プレスリリースの書きぶり通りに、中止した一部の被験者だけの数値と受け止めた方がよさそうだ。そうなると、第3の因子が混ざっている可能性が否定できないだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


BMS、米国でもデュアルICIを肝癌1Lに承認申請
(2024年8月21日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)を併用で成人の切除不能肝細胞腫の一次治療に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理された。優先審査とは記されておらず、審査期限は25年4月21日と、月足らずだ。

第3相CheckMate-9DW試験で二剤併用群のメジアン生存期間が中間解析で23.7ヶ月となり、VEGF受容体拮抗剤のsorafenibとlenvatinibから医師が選んで投与する群の20.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.79、p=0.018だった。G3/4治療連関有害事象の発生率は各群41%と42%で大差なかった。

EUでも7月に同様な承認申請が受理されている。

リンク: BMSのプレスリリース


EUでエンハーツを極低her2に適応拡大申請
(2024年8月19日発表)

第一三共は抗her2抗体薬物複合体Enhertu(trastuzumab deruxtecan)の適応を、従来のher2標的療法が苦手としていたher2低発現乳癌にも拡大すべく、第3相試験を二本実施。IHC法で2+と判定されたが異なった検査法であるISH法では陰性判定だった癌や、1+の癌については22~23年に米欧日で化学療法歴を持つ患者に適応拡大が認められた。今回、IHC法2+且つISH法陰性、IHC法1+、またはIHC法0+で、内分泌療法歴を持つが化学療法未施行の乳癌に欧州で適応拡大申請し受理された。

IHC法では膜染色の強度に着目して0、1+、2+、3+の4段階で評価する。Herceptin(trastuzumab)などのこれまでのher2標的療法は乳癌の15~20%を占めるher2高発現型(IHC法3+、または、IHC法2+かつISH陽性)に用いられてきた。IHC法で2+だがISH陰性や、IHC法1+は、her2高発現型ではないホルモン受容体陽性乳癌の60~65%を占めるので、対象患者数が大きく増加する。

尚、IHC法で0と判定されるのは染色増が認められない、または、10%以下の腫瘍細胞に不完全で微かな/かろうじて膜染色が認められた場合だが、Enhertuの想定適応は後者のみなので、IHC法0ではなく0+と呼んでいると推測される。

米国でも申請中と推測される。ASCO(米国臨床腫瘍学会)のエキスパート・オピニオンによるとIHC法の0と1+を検査で識別するのは簡単ではない。今回も0のすべてが適応になるわけではないので、抵抗勢力が顕在化するかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


exenatideインプラントはやっぱり承認されず
(2024年8月23日発表)

FDAはITCA 650(GLP-1作用剤exenatideの長期放出性インプラント)を承認しないことを決定し、官報で公告した。承認申請から8年、やっと決着した。承認申請者のIntarcia Therapeuticsは昨年、主要資産をi2o Therapeuticsに売却したが、前者の会長兼社長兼CEOが後者の同じポジションに就任しており、意図は不明。i2Oのホームページは準備中のようだ。

マッチ大のミニポンプを腹部皮下に埋め込み活性成分を長期放出させる。初回は一日20mcgを放出する2.56mg規格を投与、3ヶ月後に一日60mcgを放出する14.05mg規格を投与し、6ヶ月毎に反復する。第3相二型糖尿病試験で血糖降下作用がDPP-IV阻害剤のsitagliptinを上回ったが、17年に審査完了通知を受領、19年に再申請したが20年に再び審査完了通知を受領した。各種異議申立て手続きを試みたが奏功せず、市民請願制度を利用してFDA上層部に介入を求めたが、昨年9月の内分泌代謝薬諮問委員会でも19人の委員全員が承認に反対。今回、FDA副長官が承認しないことを決定した。

活性成分はByetta名で承認されているが、ITCA 650の臨床試験では急性腎障害の発生率が1.8%と対照群の1.0%を上回り、心血管安全性確認試験ではMACE(心筋梗塞などの主要心血管事象)や深刻有害事象、全死亡者数が対照群を上回った。また、薬剤の放出量が不安定になる現象が見られた。このため、追加試験などにより安全性が確認されるまで承認できないと判定された。

リンク: FDAの承認拒否決定書(pdfファイル)


リジェネロン、BCMAxCD3抗体の承認が遅延
(2024年8月20日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はREGN5458(linvoseltamab)を3次以上の治療歴を持つ難治/再発多発骨髄腫用薬として欧米で承認申請しているが、米国は審査完了通知を受領した。フィル/フィニッシュ工程を委託している第三者の施設で、FDAが別会社の開発品に関わる査察を実施した時の指摘事項がネックになった。先方は既に対処を終えFDAの再査察を待っている状態とのことなので、時期は不透明だが承認の希望は持てるのではないか。

BCMAとCD3を架橋する二重特異性抗体。第二相試験でメジアン5前治療歴を持つ患者117人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が71%、完全反応率は46%だった。治療時発現有害事象死亡率は12%で、14人中11人は感染症によるもの。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


KP.2対応ワクチンが承認
(2024年8月22日発表)

ファイザー/ビオンテックとモデルナは、夫々、COVID-19 KP.2株対応ワクチンがFDAに承認されたと発表した。12歳以上は正式な承認、6ヶ月児から11歳まではEUA(非常時使用認可)。

EUや日本は親系統に当たるJN.1株に対応したワクチンを要求し、ファイザー/ビオンテックのJN.1株対応Comirnatyは7月に英国で、8月には日本でも、承認された。ワクチンが標的とするウイルスのスパイク蛋白はJN.1でもKP.2でも大きな違いがないようであり、メーカーの開発・製造負担が増えるだけのようだ。

流行株はさらに変遷し、米国における8月17日に終わる二週間の感染シェアはKP.3.1.1が36%、KP.1が16.8%、KP.2.3とLB.1(これもJN.1の亜系統)が各14%となっている。22/23年シーズンのXBB.1.5株対応ワクチンはJN.1系統に強くないので、追加免疫を必要とする人は今シーズンのワクチンを接種することになる。

リンク: ファイザー/ビオンテックのプレスリリース
リンク: モデルナのプレスリリース


デュアルEGFRブロック・レジメンが承認
(2024年8月20日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソングループのJanssen BiotechのRybrevant(amivantamab-vmjw)とLazcluze(lazertinib)を局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療に併用することを承認した。EGFRのエクソン19欠如またはエクソン21にL858R置換のある腫瘍が適応になる。

前者は21年に米欧で加速/条件付き承認されたEGFRとMETの二重特異性抗体。後者は第3世代EGFR阻害剤で、韓国のOscotec(KOSDAQ:039200)の米国子会社Genoscoからライセンスした韓国のYuhanから、JNJが韓国外の権利を取得した。第3相MARIPOSA試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が23.7ヶ月とTagrisso(osimertinib)群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。全生存期間の解析は未成熟だが悪い傾向は見られていない。

抗EGFR抗体とEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤の併用は副作用が増えるだけというイメージがあったが、この二剤が覆した。

アストラゼネカも同様な内容のFLAURA2試験でTagrissoに化学療法を追加する便益を検討したところ、メジアン生存期間が25.5ヶ月とTagrisso群の16.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62、統計的に有意だった。全生存期間の解析は未成熟だが悪い傾向は見られず、今年、米欧で適応拡大が承認された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース


レケンビが英国で承認されたが...
(2024年8月22日発表)

英国の薬品承認機関、MHRAは、エーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)を早期アルツハイマー病の治療薬として承認した。但し、ApoE4ホモ接合型や抗凝固薬(ワルファリンなど)による治療を受けている人などは禁忌。

EUはCHMPが7月に否定的意見を纏めたが、英国は米日などに続いた。但し、国民医療制度であるNHSが保険還元しない可能性があり、シティーの就業者などの私的医療保険に加入している人以外は、全額自己負担になりそうだ。NHSの下部組織であるNICE(国立医療技術評価機構)が、効果が小さく副作用リスクがあり費用が高いことに否定的なドラフト・ガイダンスを公表しており、パブコメ受付中。結果を第3者委員会が検討し、大きな問題が浮上しなければ、ガイダンスが確定し保険還元対象外が決まる。

リンク: MHRAのプレスリリース
リンク: NICEのニュース

【医薬品の安全性】


遅報:ファイザーの鎌状赤血球症治療薬の臨床試験で死亡者が予想以上
(2024年7月29日発表)

EMA(欧州医薬品庁)は22年2月に12歳以上の鎌状赤血球症(SCD)治療薬として承認したファイザーのOxbryta(voxelotor)に関する調査を先月29日に開始した。おそらく、19年に加速承認したFDAもデータを検討していることだろう。

22年10月にGlobal Blood Therapeuticsを54億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収して入手した、鎌状ヘモグロビン重合阻害剤。274人を二用量群と偽薬群に無作為化割付けした第3相で二用量ともヘモグロビン増加奏効率が偽薬を大きく上回った。

調査をトリガーしたのは、二本の試験の死亡者。一本は米国で加速承認時に市販後コミットメントとして位置付けられた032試験で、2~14歳の脳梗塞リスク因子を持つSCD患者を組入れてTCD(径頭蓋ドップラー)検査によりリスク抑制効果を検討したもの。サブサハラ・アフリカを中心に中東、米英の施設も参加した。試験薬群は8人が死亡し偽薬群の2人を大きく上回った。8人全員がサブサハラ地域の被験者で、うち3人がマラリア感染によるもの、2人は敗血症。

もう一本の042試験はSCD患者の足潰瘍を改善する効果を検討するために12歳以上のSCD患者88人をケニア、ナイジェリア、ブラジルの試験で実施している。まだ盲検試験が完了していないが、偽薬群も含めて9人が死亡しており、うち8人は既にオープン・レーベル延長試験に進んでいるため試験薬群であったことが判明している。8人中4人はマラリア感染が死因又は関与した。

試験薬との関連は明らかではないが、白血球減少作用が響いた可能性もあるようだ。発生地域に偏りがあり欧米地域の患者に対するインプリケーションは不透明だ。

EMAはファイザーに詳細データなどを請求中。回答を踏まえて検討し10月に結論、または検討継続事項をまとめる予定。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 欧州委員会のReferral文書(7/30付、pdfファイル)


論文:semaglutideに自殺自傷シグナル
(2024年8月20日発表)

米国のGLP-1作用剤のレーベルには甲状腺C細胞腫に関する枠付き警告や膵炎、胆石、低血糖、急性腎不全、糖尿病性網膜症、心拍数上昇、自殺行動/思慮などに関する警告注意が列記されている。このうち自殺行動/思慮は、これまでの疫学研究でリスクは検出されず、FDAも引き続き調査するが懸念されるデータは無い、という趣旨の声明を出している。ところが、JAMA Network Openに、不均衡分析でリスクのシグナルが検出されたという論文が刊行された。

WHOの有害事象報告データを用いて、ノボ ノルディスクのsemaglutideとliraglutideによる治療を受けている患者の自殺自傷に関する報告オッズ比(ROR)やベイズ・インフォメーション・コンポーネント(IC・・・0超であれば有意)を算出したケース・コントロール・スタディ。semaglutideのRORは1.45(95%信頼区間1.18-1.77)、ICは0.53(同0.19-0.78・・・0超であれば有)だった。鬱病患者におけるリスクを検出する意図で実施した、抗鬱剤同時使用例における感受性分析はRORが4.45(2.52-7.86)、ICは1.96(0.98-2.63)、benzodiazepines同時使用例でも同様な結果だった。糖尿病薬dapagliflozinやmetformin服用例との比較ではRORが高かった。

不均衡分析は様々な薬の様々な稀な副作用を発見するための予備的な手法で、FDAやPMDAなどの承認審査機関も実施しているとのことだ。FDAやEMA(欧州薬品庁)は、シグナルが検出された複数の医薬品を都度まとめて発表しているが、第3の因子が関与していたり、有害事象報告の内容が不十分だったり信頼性に問題があったり、様々なノイズが混じりうるため、次の段階として情報を精査し信憑性を検討することになる。尚、副作用について因果関係や生物学的もっともらしさを断定するのは容易ではなく、ある程度の信頼性のあるデータが揃ったら統計学的に分析して有意なら真実性が高いと判定することになる。

GLP-1作用剤の自殺・自傷リスクはこれまでも懸念されているところであり、今回の論文で見方が大きく変わる訳ではないが、これまでの認識とは異なるシグナルが見つかり、病気や治療薬の影響で自殺行動・思慮リスクが比較的高いと考えられている鬱病患者で特に高まるというのがもし真実であるならば、重要な情報になりうる。

今回の研究の特徴は、自殺自傷症例のうち、二型糖尿病でも肥満症でもないオフレーベル使用者の構成比が3割強と一番大きいこと。このサブグループにおけるリスクが低いようではないので、危険性は便益と天秤にかけて考えるべし、という反論はこのサブグループに関しては必ずしも当てはまらないことに注意したい。

リンク: Schoretsanitisらの試験論文(JAMA Network Open)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
諮問委員会
24/9/9AMDAC:Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil/probenecid錠(非複雑性尿路感染症)
24/9/13GIDAC:InterceptのOcaliva(obeticholic acid、加速承認維持の当否)
24/9/18PAC:小児用薬の市販後安全性監視(特別な議題はない由)
24/9/20VrBPAC:百日咳ワクチンの薬効確認試験の手法など
24/9/26ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否)




今週は以上です。

2024年8月17日

第1068回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • WHO、エムポックスの流行で非常事態宣言 
  • メディケア・パートDの価格交渉が決着 
  • ファイザー/ビオンテック陣営も二種混合ワクチンの製剤見直しへ 
  • インサイト、抗癌剤の適応拡大試験が成功 
  • エムポックス治療薬のリアル・ワールド試験がフェール 
  • 第3相二本成功し開発停止 
  • 小野のDecipheraが腱滑膜巨細胞腫用薬を申請 
  • イミフィンジを小細胞性肺癌に適応拡大申請 
  • チクングニア熱ワクチンを承認申請 
  • 老視治療薬を承認申請 
  • 人工血管の承認審査が長引く 
  • イミフィンジが肺癌の術前術後付随療法として承認 
  • ギリアド、原発性胆管炎治療薬が承認 
  • インサイトの慢性GvHD治療薬が承認 
  • ネモリズマブが米国でも承認 
  • 新たなrhPTH(1-34)が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


WHO、エムポックスの流行で非常事態宣言
(2024年8月14日発表)

WHOはエムポックスの再流行を受けて国際的に懸念すべき公衆衛生危機(public health emergency of international concern)を宣言した。コンゴ民主共和国(DRC)で10年以上前から散発的に流行しているオルソポックスウイルス属ウイルスによる感染症で、近年は渡航者を中心に日本など周辺国以外でも症例報告がある。WHOは22年7月に同様な宣言を行い、23年5月には終結を宣言したが、今夏に急増、暦年累計報告数は15600例(うち死亡は537人)と23年通年を上回った。DRC周辺国だが今まで感染例が報告されていなかったブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダでも発生した。WHOによると、感染者の85%は男とセックスする男。今年のDRCでは、15歳未満を含む小児の症例も多いようだ。

アフリカでエムポックス・ワクチンが承認されているのは二ヶ国だけであるため、WHOはメーカー二社に非常時使用リスト収載を要請するよう求めた。ACDC(アフリカ疾病管理予防センター)が200万回分のワクチンを調達すべく支援を求めたのを受けて、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)はMVA-BNワクチンを約21.5万回分提供すると発表した。うち4万回分は同社が寄贈、残りはHERA(欧州衛生危機準備対応機構)が調達して寄贈する。一部報道によると、米国も5万回分をDRCに提供する計画だ。

MVA-BNワクチン(米国名米Jynneos、カナダではImvamune、欧州ではImvanex)の売上高は2020年の5.4億DKKが21年には7.3億DKK、22年は17.3億DKK、そして23年には50.2億DKK(現在の為替で換算すると約1100億円)と、急増している。

リンク: WHOのプレスリリース
リンク: Bavarian Nordicのプレスリリース(8/13付)


メディケア・パートDの価格交渉が決着
(2024年8月15日発表)

高齢者向け医療保険制度であるメディケアなどを所管するCMS(Center for Medicare and Medicaid Services)は一部医薬品に関してメーカーと2026年分の値引き交渉を進めてきたが、結果を発表した。23年時点の建値と比べて3~7割の値引きを実現しており、10製品合計で正味かっかうベースのメディケア支出を60億ドル、自己負担を15億ドルの節減となる。

米国は公定薬価がなく医療保険や薬剤費給付組織毎に製薬会社と交渉する。特許性新薬に関しては毎年のように建値の値上げが行われ、経時的に値下がりする多くの国と正反対だ。流れに掉さしたのが2022年インフレ抑制法で、メディケア・パートD(外来薬が対象)の支出で上位を占める医薬品についてCMSに価格交渉を命じた。初年度にあたるのが2026年で、上位10製品について価格を決定した。2027年分は対象が15品目に増える。製薬会社はメディケアとの取引を止める権利を持つが、憲法違反などを理由に提訴する程度に留まっており、これまでのところ、司法の支持は得られていない。

図表:メディケア・パートDの調達価格(2026年分)
薬品名
一般名
価格(30日分、ドル)年間支出額
2026年2023年定価変化率(百万ドル)
Januviasitagliptin113.0527.0-79%4,091
Novologなど各種インスリン119.0495.0-76%2,612
Farxigadapagliflozin178.5556.0-68%4,342
Enbreletanercept2,355.07,106.0-67%2,951
Jardianceempagliflozin197.0573.0-66%8,840
Stelaraustekinumab4,695.013,863.0-66%2,988
Xareltorivaroxaban197.0517.0-62%6,309
Eliquisapixaban231.0521.0-56%18,275
Entrestosacubitril/
valsartan 
295.0628.0-53%3,430
Imbruvicaibrutinib9,319.014,934.0-38%2,371
2023年の価格はリスト・プライスに基づく。年間支出額はメディケア パートDにおける23年実績(値引き前)。
出所:CMS

リンク: CMSのプレスリリース

【新薬開発】


ファイザー/ビオンテック陣営も二種混合ワクチンの製剤見直しへ
(2024年8月16日発表)

ファイザーとドイツのビオンテックは、インフルエンザとCOVID-19の二種混合mRNAワクチンの開発状況をアップデートした。18~64歳を組入れた第3相試験で共同主評価項目の一つであるSARS-CoV-2に対する免疫原性は両社のCOVID-19ワクチンComirnatyと非劣性だったが、インフルエンザ・ウイルスに対してはA型に関しては承認されているワクチンを上回ったもののB型では抗体価幾何平均値も抗体陽転率も見劣りしたため、非劣性を達成できなかった。改良を検討する考え。

インフルエンザのmRNAワクチンはB型のデータが今一つで、ライバルのモデルナも最初の第3相がフェール、製剤改良後の第3相で遂にVictoria株にもYamagata株にも非劣性達成した。

ビオンテック陣営も第1世代の4価インフルエンザ・ワクチンは第3相試験の65歳以上のコフォートにおけるワクチン効率が承認ワクチン比非劣性ではなく、18~64歳のコフォートでもB型には十分な効果が確認されなかった(あまり流行しなかったことも影響したかもしれない)。今回、第2世代3価インフルエンザ・ワクチンの18-64歳を組入れた第2相でA型・B型ともに強固な免疫応答が見られたことも発表されており、65歳以上の試験で再現されるようなら、先行するモデルナとの差をこれ以上広げずに済むだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


インサイト、抗癌剤の適応拡大試験が成功
(2024年8月15日発表)

Incyte(Nasdaq:INCY)はMonjuvi(tafasitamab-cxix)の第3相濾胞性リンパ腫試験、inMIND試験で主目的などを達成したと発表した。適応拡大申請する考え。

Fc領域装飾抗CD19抗体で、20~21年に米欧で難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫用薬として承認された。20年にMorphoSysからライセンスしたものだが、ノバルティスのMorphoSys買収に伴い、権利を完全取得した。

今回の試験は抗CD20免疫療法または化学免疫療法歴を持つ難治/再発性の濾胞性リンパ腫や辺縁帯リンパ腫を組入れて、 lenalidomideとrituximabのレジメンに追加する便益をオープン・レーベルで検討した。主目的はPFS(無進行生存期間、治験医評価)で、副次的評価項目である盲検独立評価ベースのPFSも成功した。データは未公表。

リンク: 同社のプレスリリース


エムポックス治療薬のリアル・ワールド試験がフェール
(2024年8月15日発表)

SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)はNIAID(米国立アレルギー感染症研究所)が主導したTPOXX(tecovirimat)のエムポックス治療試験、PALM 007がフェールしたと発表した。米国で類似した疾患である天然痘治療薬として承認され、EUではエムポックス(旧称サル痘)や牛痘も含めて21年に例外条項に基づく承認を得ているので意外な、そして残念な結果だ。他にも複数の試験が進行しているので25年頃から結果が判明するのを待ちたい。

TPOXX(欧州名はTecovirimat)はオルソポックス・ウイルスのVP37エンベロープ・ラッピング蛋白を阻害して感染細胞からの出芽を防ぐ経口剤。患者の体重に応じて400~600mgを一日2~3回、服用する。PALM 007は流行の中心地であるコンゴ民主共和国の二施設で体重3kg以上の皮膚病変のあるエムポックス患者597人を入院させて偽薬またはtecovirimatを14日間投与したもの。主評価項目は病変が治癒(かさぶた化、落屑、または新表皮層形成)するまでの期間。データは未公表。

発症7日以内に無作為化割付けされたサブグループや、皮膚病変が10ヶ所以上の重症患者では意味のある改善が見られた由。エムポックスは天然痘ほど重くないので、軽症患者や発症から時間の経った患者には小さな便益しかない可能性も十分考えられる。

このほかに、NIAIDがAIDS Clinical Trials Groupと共にSTOMP試験を米州や日本、南ア、タイで18歳以上の患者を対象に実施中。更に、カナダで18歳以上を対象にPLATINUM-CAN試験、スイス、ブラジル、アルゼンチンの施設で14歳以上のUNITY試験、欧州の施設でEPOXI試験も進行中。

リンク: SIGAのプレスリリース


第3相二本成功し開発停止
(2024年8月13日発表)

米国ロサンジェルスの医薬品開発会社、ACELYRIN(Nasdaq:SLRN)は、ABY-035(izokibep)の第3相化膿性汗腺炎試験で主目的を達成したと発表した。後期第2/第3相乾癬性関節炎試験も既に成功発表しており、承認申請に向かいそうなものだが、進行中の後期第2相/第3相ぶどう膜炎試験を完了まで進める以外はこれ以上の開発を見送る。資金上の制約が理由。経営資源を抗IGF1R抗体lonigutamabにシフトして25年に第3相甲状腺眼症試験を開始する考え。

izokibepはIL-17Aに結合する二つのドメインとアルブミン結合ドメインを持つ18.6kDaの融合蛋白。上記試験では160mgを週一回(乾癬性関節炎試験では2週毎群も)、投与した。乾癬性関節炎試験では週一回群と2週毎群の第16週ACR50達成率が各43%、40%となり、偽薬群の15%を有意に上回った。化膿性関節炎試験では160mg週一回群の第12週HiSCR75達成率が33%と偽薬群の21%を上回った(p=0.0294)。主な有害事象は注射箇所反応。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


小野のDecipheraが腱滑膜巨細胞腫用薬を申請
(2024年8月16日発表)

小野薬品は、6月に完全子会社化したDeciphera PharmaceuticalsがDCC-3014(vimseltinib)を切除不能腱滑膜巨細胞腫(TGCT)の治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年2月17日。EUでも7月に申請受理されている。

TGCTはCSF1の遺伝子転座がトリガーする希少疾患で、CSF1が過剰発現し受容体陽性炎小細胞の病変に集積する。米国の患者数は9000人程度と推測されている。19年に第一三共のTuralio(pexidartinib)が米国で承認された。同薬はTuralioと同様なCSF1受容体拮抗剤で、第3相MOTION試験で30mgを一日二回、経口投与したところ、ORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が40%と偽薬群のゼロを大きく上回った。メジアン反応持続期間は不明。ORRはTuralioの39%と大差ないが、肝毒性は見られなかった由であり、差別化要因になりうる。

リンク: 小野のプレスリリース(和文)


イミフィンジを小細胞性肺癌に適応拡大申請
(2024年8月15日発表)

アストラゼネカは米国で抗PD-1抗体Imfinzi(durvalumab)を限局型小細胞性肺癌の化学放射線療法後維持療法に適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は24年第4四半期とだけ公表されている。日本でも7月に申請済み。

同時化学放射線療法に疾病安定または反応した患者に1500mgを4週毎点滴静注する。第3相ADRIATC試験でメジアン生存期間が55.9ヶ月と偽薬群の33.4ケ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.01だった。この試験は同社のImjudo(tremelimumab)を併用する群も設定されているが未だ結果が出ていない。

リンク: 同社のプレスリリース


チクングニア熱ワクチンを承認申請
(2024年8月13日発表)

デンマークのワクチン製造会社、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)は6月に欧米でチクングニア熱ワクチンのCHIKV VLPを承認申請していたが、米国の審査期限は来年2月14日に決まった。欧州も加速審査を受けているため来年上期には結論が出そうだ。

Emergent BioSolutions(NYSE:EBS)から事業譲渡を受けて入手した、チクングニア・ウイルスのVLP(ウィルス用粒子)にアルミなどを添加したワクチン。12~64歳の3250人を組入れて一回筋注した試験で、第22日中和抗体陽転率が98%と偽薬群の1%を大きく上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


老視治療薬を承認申請
(2024年8月12日発表)

米国の LENZ Therapeutics(Nasdaq:LENZ)はLNZ100(aceclidine)を老視における近見視力を改善する薬としてFDAに承認申請した。一日一回点眼用のアセチルコリン受容体アゴニストで、瞳孔収縮作用によりピンホール効果が生じ近見視力が向上すると考えられている。臨床試験では奏効率(近見視力が視力表で3行以上改善し遠見視力は1行以上悪化しない)が偽薬群を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


人工血管の承認審査が長引く
(2024年8月9日発表)

Humacyte(Nasdaq:HUMA)はFDAにATEV(無細胞性組織工学血管)の承認を申請しているが、審査期限である8月10日の前日に、生物学的製品を所管するCBERのleadership(指導者)から、審査にもっと時間がかかる旨の連絡や謝罪を受けたことを明らかにした。

生分解性ポリマーで2ヶ月間組織培養した上で拒絶反応などの原因になる細胞由来の物質を除去したもの。各種事故などにより下肢血管が損傷し自家静脈移植が困難な患者を組入れた第2相で、評価対象51人の30日二次開存率が90.2%だった。対照群に設定された人工血管の文献データは78.9%だった。一次開存率は84.3%、文献データは無い。FDAの提案により、ウクライナの病院における戦時損傷者に対する人道的使用16人の症例も提出した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


イミフィンジが肺癌の術前術後付随療法として承認
(2024年8月15日発表)

FDAはアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)を切除可能非小細胞性肺癌の摘出術の前と後に投与する用法を承認した。EGFR変異やALK再編成のない癌が適応になる。エビデンスとなる第3相AEGEAN試験では、化学療法による術前付随療法にImfinziを追加し、術後も単剤投与する便益を偽薬追加・投与群と比較したところ、EFS(進行などの事象を伴わずに生存、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.68、p=0.0039だった。

既報のように、7月の諮問委員会では術前療法と術後療法の便益を別々に検討すべきという点で投票権を持つ委員全員が一致したが、本件に関しては、追加試験を要請して承認が遅れるのは望ましいことではないと考える委員が多かったようだ(正式採決は無し)。諮問委員会から承認まで1ヶ月以上かかることが多いが、本件は3週間と早かった。

図表:抗PD-(L)1抗体の非小細胞性肺癌術前/術後試験のサマリー
介入時期試験名試験薬ハザードレシオ
術後IMpower-010atezolizumab0.66 (0.50-0.88)
KEYNOTE-091pembrolizumab0.73 (0.60-0.89)
ADJUVANT BR.31durvalumab有意差なし
術前CHECKMATE-816nivolumab0.63 (0.45-0.87)
術前術後KEYNOTE-671pembrolizumab0.58 (0.46-0.72)
AEGEANdurvalumab0.68 (0.53-0.88)
CHECKMATE-77Tnivolumab0.58(0.42-0.81)
注:ハザードレシオの対象はEFS(無イベント生存期間)またはDFS(無病生存期間)、偽薬対照。ADJUVANT BR.31試験はPD-L1発現>25%のサブグループのDFS。カッコ内は95%信頼区間。
出所:各種資料より作成。

リンク: FDAのプレスリリース


ギリアド、原発性胆管炎治療薬が承認
(2024年8月14日発表)

ギリアド・サイエンシズはFDAがLivdelzi(seladelpar)を成人のPBC(原発性胆管炎)の治療薬として加速承認したと発表した。第一選択であるUDCA(ウルソデオキシコール酸)に応答不十分の患者に追加投与、またはUDCA不耐に単剤投与する。臨床試験では血清アルカリ・フォスファターゼなどの代理マーカーが改善した掻痒スコアも偽薬比有意に改善した。。延命効果や非代償性肝炎のリスクを抑制する作用は別途、確認試験中。

PPARデルタ・アゴニストで10mgを一日一回経口投与する。2006年にJanssen Pharmaceuticaから権利を取得して開発したCymaBay Therapeuticsを、今年3月に企業価値ベース43億ドルで買収して入手したもの。日本の権利は昨年1月に科研製薬が取得した。

類薬はイプセンがGenfit(Nasdaq:GNFT)からライセンスしたPPARアルファ/デルタ・アゴニストが6月にIqirvo(elafibranor)として承認された。どちらも一ヶ月分の価格は12000ドル前後。

リンク: ギリアドのプレスリリース


インサイトの慢性GvHD治療薬が承認
(2024年8月14日発表)

FDAはIncyte (Nasdaq:INCY) の抗CSF-1受容体抗体Niktimvo(axatilimab-csfrand)を慢性GvHD(移植片対宿主病)の治療薬として承認した。二次治療歴を持つ体重40kg以上の小児と成人が適応になる。推奨用量0.3mg/kg(上限36mg)を2週毎に30分点滴静注する。241人を組入れた第2相試験でORR(客観的反応率、2014年NIHコンセンサス基準)が75%だった。投与開始から反応までのメジアン期間は1.5ヶ月、反応持続期間は1.9ヶ月、12ヶ月反応持続率(新規全身性治療を開始せずに生存;反応持続期間とは異なり進行の有無は不問)は60%だった。深刻有害事象発生率は44%。

剤形は50mgバイアルのみだが同社は低量バイアルを承認申請する予定。

16年にSyndax Pharmaceuticals (Nasdaq:SNDX)がUCBのUCB6352をライセンス、Incyteは21年9月に開発商業化権を取得し、米国は共同販売、海外は単独開発販売する。

IncyteはJAK阻害剤Jakafi(ruxolitinib)も21年に慢性GvHDに適応拡大している。臨床成績はNiktimvoと大きくは変わらない。

リンク: FDAのプレスリリース


ネモリズマブが米国でも承認
(2024年8月13日発表)

スイスのガルデルマは、FDAがNemluvio(nemolizumab-ilto)を成人の結節性痒疹の治療薬として承認したと発表した。中外製薬が開発し日本ではマルハが販売するミチーガの活性成分をデュアル・チャンバー・プリフィルド・ペンに仕立てたもの。初回は30mgを二回、皮下注し、その後は4週毎に体重90kg未満の場合は一回、以上の場合は二回ずつ、投与する。臨床試験では16週奏効率(PP-NRSが4点以上改善)が一本では56%(偽薬群は16%)、もう一本では49%(同16%)だった。IGAベース奏効率は各26%(7%)と38%(11%)だった。

同社はアトピー性皮膚炎にも承認申請しているが、結節性痒疹は優先審査指定されたため早く結果が出た。

リンク: 同社のプレスリリース


新たなrhPTH(1-34)が承認
(2024年8月12日発表)

FDAはアセンディス・ファーマ (Nasdaq: ASND) のYorvipath(palopegteriparatide、開発名TransCon PTH)を成人の副甲状腺機能低下症の治療薬として承認した。カルシウム製剤及び活性化ビタミンD(Ca+avD)でプリトリートした患者を組入れた第3相試験で、24週総合反応率(アルブミン調整血清カルシウム(ACSCa)水準が正常化などのハードルをクリア)が68.9%と偽薬群追加群の4.8%を大きく上回った。有害事象は注射箇所反応や血管拡張の兆候症状、頭痛などが増加した。18mcg一日一回皮下注で開始し、ACSCa水準をモニターしながらCa+avDとともに用量調整する。承認申請は22年8月なのでほぼ丸々2年かかった。発売は24年第4四半期以降になる予定。

副甲状腺ホルモンのプロドラッグをPEG化した遺伝子組換え医薬品。同適応を持つ武田薬品のNatparaは遺伝子組換え型ヒト全長PTHで、50mcg一日一回皮下注で開始し滴定する。2002年に米国で骨粗鬆症用薬として承認されたイーライリリーのForteoは遺伝子組換え型ヒトPTH(1-34)で20mcgを一日一回皮下注する。Natparaはゴム部品断片の混入の恐れから19年に米国でリコールとなり、24年末を持って全世界における販売が終了する予定。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
諮問委員会
24/9/9AMDAC:Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil/probenecid錠(非複雑性尿路感染症)



今週は以上です。

2024年8月10日

第1067回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • サークリサの移植可能多発骨髄腫試験が成功 
  • エムパベリの希少疾患試験が成功 
  • Aldeyra、ドライアイ治療薬の追加試験が成功 
  • バイエル、ケレンディアの心不全アウトカム試験が成功 
  • MSD、抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール 
  • Actinium、提携先が見つかるまでIomab-Bの開発を見送り 
  • Exelixis、Cabometyxの適応拡大を申請 
  • MDMAは承認されず 
  • ノボ、セマグルチドの心不全適応拡大申請を撤回 
  • 百済神州、抗PD-1抗体の適応拡大がまた遅延 
  • 初の点鼻用アドレナリンが承認 
  • FDAが凍結乾燥血漿をEUA
  • レミトロが米国でも承認 
  • セルビエ、IDH阻害剤が米国で承認 
  • ファビハルタがIgA腎症に適応拡大 
  • Purdue社の新製品が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


サークリサの移植可能多発骨髄腫試験が成功
(2024年8月8日発表)

サノフィはドイツなどの研究者共同治験グループが主導したSarclisa(isatuximab)のGMMG-HD7試験が主目的を達成したと発表した。データは学会で公表される予定、用法追加申請も行われるだろう。

20年に米欧日で多発骨髄腫の再発治療薬として承認された抗CD38抗体。幹細胞移植不適な患者の一次治療にRVdレジメン(Revlimid、Velcade、dexamethasone)に追加する用法拡大申請中だが、今回の試験は、幹細胞移植を受ける多発骨髄腫患者にRVdレジメンによる移植前導入療法を施行する時にSarclisaを追加する便益を検討したもの。PFS(無進行生存期間)がRVdレジメンだけの群を有意に上回った。移植後維持療法の内容を問わず便益が見られた。

同薬の類似した試験では第3相IsKia試験で移植可能新患多発骨髄腫にKRdレジメン(Kyprolis、Revlimid、dexamethasone)と併用したところ、最小残存病変(MRD)すら検出されない反応率が導入療法後で45%とKRdレジメンだけの26%を上回った。地固め療法後でも77%対67%、オッズ比1.67だった(但しp=0.049とボーダーライン近辺)。4月のFDA腫瘍学諮問委員会で、この厳しい判定基準に基づく反応率が臨床的便益のサロゲートマーカーになりうると認められたので、今後はまず無MRD反応率で加速承認を取り、同じ試験のPFSで本承認に切替える開発方針が広がるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


エムパベリの希少疾患試験が成功
(2024年8月8日発表)

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)と開発販売パートナーのSobi(STO:SOBI)は、Empaveli(pegcetacoplan)が第3相VALIANT試験で主目的を達成したと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。12歳以上のC3糸球体症やIC-MPGN(免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)の患者124人を組入れて、偽薬またはEmpaveliを週2回、26週間投与したところ、蛋白尿(尿蛋白クレアチニン比の対数変換値)が偽薬比68%減少した。C3糸球体症の患者にもIC-MPGNにも、成人にも青年にも、腎移植後でもそれ以外でも、便益が見られた。eGFR安定化なども加味した副次的複合評価項目も達成した。

皮下注用C3補体阻害剤で、21~23年に米欧日で発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認された。硝子体注射用製剤が加齢性黄斑変性に伴う地図状萎縮の治療薬Syfovreとして米国で23年に承認されたが日常生活機能は改善しないことなどからEUでは承認されなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


Aldeyra、ドライアイ治療薬の追加試験が成功
(2024年8月8日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)の第3相チャンバー試験で主目的を達成したと発表した。年内に米国で再承認申請する予定。

RASP(反応性アルデヒド種)調節剤で、免疫原となる有機アルデヒド遊離体に結合し炎症を抑制する。0.25%点眼液。第3相試験二本でシルマー・テスト値(検査紙を下瞼に挟み涙の量を測定する)に偽薬群比有意な差が確認され、ドライアイ疾患チャンバー試験(目に乾燥した風を100分間当てる)で偽薬投与時より症状スコアの悪化が有意に小さかった(こちらはクロスオーバー試験)。しかし、FDAがドラフト・ガイダンスで示した兆候改善作用を支持する試験二本と症状改善作用を支持する試験二本という要求を満たしていないと判定され、昨年11月に審査完了通知を受領した。

追加試験もチャンバー試験で、試験薬投与時は第80~100分の症状評価スコア(0~100点)がベースライン比2点程度の悪化に留まり、偽薬投与時より5点程度小さかった(点数はグラフから読み取り)。p値は0.004だった。両群とも最初の40分は次第に悪化していったが二回目の点眼後は両群とも悪化が小さくなった。群間差は早い段階から広がり、維持された。

同社は審査完了通知受領の数週間前にアッヴィに開発生産販売オプションを供与しており、行使された場合、米国は共同販売、海外はアッヴィが単独販売することになる。

リンク: Aldeyraのプレスリリース


バイエル、ケレンディアの心不全試験が成功
(2024年8月5日発表)

バイエルはKerendia(finerenone)の心不全アウトカム試験、FINEARTS-HFで主目的を達成したと発表した。データをESC(欧州心臓学会)会議で発表し、適応拡大に向けて当局と相談する考え。

非ステロイド系のミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)で、21~22年に米欧日で二型糖尿病関連慢性腎不全における心血管転帰を改善する薬として初承認された。FINEARTS-HF試験はNYHAクラスII-IVの症候性心不全で駆出率が軽度低下・保持(LVEF≧40%)されている患者約5500人を日米欧などの施設で組み入れ、10~20mgを一日一回投与する群と偽薬群の心不全転帰(心血管死または心不全による初度/再入院や緊急受診)を比較したもの。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、抗TIGHT抗体の第3相がまたフェール
(2024年8月8日発表)

MSDはMK-7684A(vibostolimab)とKeyturda(pembrolizumab)の固定用量配合剤で様々な第3相試験を実施しているが、二本目の中途打切りが決まった。抗TIGHT抗体は、抗PD-(L)1抗体に次ぐ、そして併用効果が期待できる、有望な免疫強化療法の一つと考えられてきたが、他社開発品も含め、どうもパッとしない。

5月にはステージII-IV黒色腫の切除術後療法としての便益をKeytruda群と比べたKEYVIBE-010試験の中間解析で独立データ監視委員会が無益認定、中止が決まった。今回は進展型小細胞肺癌の一次治療における便益を検討したKEYVIBE-008試験の中間解析で無益認定、中止が決まった。どちらも抗PD-(L)1にMK-7684Aを追加しても寿命(前者は無再発生存期間、後者は全生存期間)は伸びず副作用が増えるだけという結果になった。

リンク: 同社のプレスリリース


Actinium、提携先が見つかるまでIomab-Bの開発を見送り
(2024年8月5日発表)

米国ニューヨークの放射性医薬開発会社、Actinium Pharmaceuticals(NYSE AMERICAN:ATNM)は、Iomab(I-131 apamistamab)の承認申請を断念し、パートナーが現れるまで開発を見送る方針転換を発表した。FDAが承認申請前会議で後ろ向きだったため。

Fred Hutchinson Cancer Research Centerからライセンスした抗CD45抗体・ヨウ素131結合体。第3相SIERRA試験で北米の55歳以上の活性期難治再発急性骨髄性白血病153人を組入れ、他家造血幹細胞移植前の骨髄枯渇処理として強度軽減前処理(fludarabineと低量全身照射)に併用する群の持続的完全寛解率をvenetoclaxなどを併用する標準的強度軽減前処理群と比較したところ、22%対ゼロで統計的に有意な差があった。対照群の過半がクロスオーバーしたことなどから延命効果は確立していないが、クロスオーバーしなかったサブグループの1年生存率は13%で試験薬群の26%を下回った。

しかし、FDAは、全生存期間を主評価項目とするクロスオーバー不可の対照試験を推奨した。対照群の併用薬をcyclophosphamideに限定することも推奨した。

急性骨髄性白血病で骨髄移植を受ける患者は米国より欧州のほうが多い模様で、同社はスエーデンのImmedica ABに欧州中東北アフリカにおける権利を供与している。契約一時金3500万ドルの小さなディールだ。第3相をもう一本行うのは資金的に難しい模様であり、パートナーが現れるまでは他の前臨床段階のパイプラインに集中する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


Exelixis、Cabometyxの適応拡大を申請
(2024年8月6日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は米国でマルチ・キナーゼ阻害剤Cabometyx(cabozantinib)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。成人の、治療歴のある、局所進行/切除不能または分化/中程度分化した、膵臓または膵外のNET(神経分泌細胞腫)に用いるもので、審査期限は来年4月3日。第3相CABINET試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)の偽薬比ハザード・レシオが膵NETコフォートでは0.25、膵外NETコフォートでは0.50だった。

同社はロシュと提携し様々な癌で抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)併用第3相試験を実施している。非小細胞性肺癌はフェールしたが、今回、転移去勢抵抗性前立腺癌のCONTACT-02試験に基づき、適応拡大申請する考えも明らかにした。新ホルモン療法(abiraterone、apalutamide、darolutamide、enzalutamide)の一つによる治療歴を持つ患者を組入れて、Cabometyx・Tecentriq併用群のPFS(同上)をabiraterone・prednisone併用またはenzalutamideにスイッチする群と比較したもので、中間解析でハザードレシオ0.64となり成功認定された。全生存期間の解析は中間だけでなく最終解析でもトレンドに留まったことが明らかにされたが、数値が中間解析のハザード・レシオ0.79、メジアン値の差2ヶ月弱からどう変わったかは不明。

リンク: 同社のプレスリリース(NDA受理)
リンク: 同(中間決算発表リリース:CONTACT-02試験について言及)

【承認審査・委員会】


MDMAは承認されず
(2024年8月9日発表)

Lykos Therapeutics(旧社名MAPS PBC)はMDMAカプセル(midomafetamine)をPTSD(トラウマ後ストレス障害)の精神療法補助療法としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的薬効・安全性確認試験の実施を推奨されたが、資金面の制約もあり、再審査請求や不服申立てなどの手続きを取る考え。

同社は非営利研究教育機関であるMultidisciplinary Association for Psychedelic Studiesがサイケデリックやマリファナなどの医療用途を探求すべく2014年に設立したPublic Benefit Corporation(株主だけでなく公益の追及も求められる州法上の法人形態)。現在、複数の企業がこれらの物質を医療用途で開発しているが、同社が昨年12月に承認申請第1号となった。しかし、FDAの評価は厳しく、6月に開催された諮問委員会でも便益が危険を上回ると判定した委員は11人中1人だけだった。偽薬と異なり気分に影響するため二重盲検が担保されず、第三者がテレビ会議で重症度を評価する評価者盲検が導入されたがこちらも推測不可能ではないことや、乱用リスクや心血管安全性などの検討が不十分と見做されたことが響いた。

承認申請時点ではここまで厳しい評価を受けるとは思わなかった。
他の未承認医薬品や健康食品、健康法、宗教信条でもしばしば見られることだが、特定の人たちが熱心に支持していても、ほかの人たちは無関心で一部の人たちは批判的という言説は珍しくない。大学教授が言うことでも、医学博士でも、傾聴する時は民主主義国には言論の自由があることを失念してはいけないと、思い知らされた。

リンク: Lykosのプレスリリース


ノボ、セマグルチドの心不全適応拡大申請を撤回
(2024年8月7日発表)

ノボ ノルディスクは、24年上半期決算発表にあわせて、大ヒット肥満症治療薬Wegovy(semaglutide)の心不全効能追加申請を米国では撤回したことを明らかにした。理由は不明だが、患者の主観的評価がある程度改善するだけでは足りないと判断されたのではないだろうか。入院死亡リスク抑制効果の代理マーカーになりうることを示す意図なのか、現在効能追加申請中の糖尿病性腎症アウトカム試験、FLOWのデータなどを25年初めに提出して再申請する考え。

申請の根拠はHFpEF(駆出率保持心不全)のSTEP HFpEF試験二本。一本はWegovyの適応である肥満症を伴う患者、もう一本は米国ではOzempic名で販売されている製品の適応である二型糖尿病を伴う患者を組入れて52週間治療し、KCCQ-CSS(カンザスシティ心筋症質問票臨床要約スコア)と体重の変化を偽薬群と比較した。KCCQ-CSSは群間差がどちらも8点前後、体重減は群間差が6~10%程度だった。6分歩行テストも17メートル程度の差があった。

KCCQ-CSSはKCCQの総合症状スコア(下肢腫脹や疲労・息切れなどによる行動制約の発生頻度や程度を評価)と身体制約スコア(日常生活機能に関わる6項目を評価)を複合したもの。点数範囲は0~100で高いほどQOLが高い。患者が自記する。近年に心不全関連の適応を得た薬の第3相を見ると、ATTRアミロイドーシス治療薬も、閉塞性肥大性心筋症治療薬も、KCCQ-CSSは副次的評価項目で、主評価項目は入院や死亡などのもっと深刻な、主観の入る余地が少ないイベントのリスクだ。FDAは20年4月の評価文書でKCCQはHFpEFなどの評価項目として妥当と認めているが治験開始前に相談するよう求めている。統計的に有意であることは最低要件として、どの程度差があれば臨床的に意味があるか、判然としないからだろう。

ライバルのイーライリリーはイーライリリーはGLP-1/GIP作用剤Zepbound(tirzepatide)の第3相SUMMIT試験で共同主評価項目を達成したと発表した。KCCQ-CSSの群間差は7点程度でWegovyと大差なく、心不全イベント(緊急心不全受診、心不全入院、経口利尿薬治療強化、または心血管死)のハザード・レシオは0.63、p=0.026と良好な結果だが、ノボの試験にも言えることだが、数百人規模の試験で心不全入院/心血管死に有意な差が出るようには思えず、各エンドポイントの内訳が公表されるまでは、KCCQ-CSSは心不全転帰の代理マーカーになりうるとは言い難い。

もしハードなエンドポイントも改善しているならば、もしかしたら、SUMMIT試験が裏付けとなってsemaglutideの心不全転帰改善作用が承認されるような、敵塩逸話になるかもしれない。

リンク: ノボの決算発表リリース(GlobeNewsWire、pdfファイル)
リンク: StogiosらのKCCQ-CSSに関する総論(European Journal of Heart Failure、2021年)


百済神州、抗PD-1抗体の適応拡大がまた遅延
(2024年8月7日発表)

BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)は米国で抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab-jsgr)を食道扁平上皮腫の一次治療薬として適応拡大申請していたが、承認が遅延していることを24年第2四半期決算発表時に公表した。中米欧日などで未治療の切除不能/局所進行/難治/転移性の患者を組入れたRATIONAL 306試験の中間解析で化学療法に追加した群の全生存期間のハザード・レシオが0.66と良好な結果を出したが、治験実施施設の査察が遅延し、7月の審査期限に間に合わなかった。

同社は一部の中国企業と異なり欧米の施設も巻き込んで同薬の第3相試験を行っており、23年にEU、24年に米国で初承認された。米国が遅れたのは米国政府職員の渡航制限などにより生産委託先の中国工場の査察ができなかったため。Tevimbraは胃/胃食道接合部腺腫の一次治療にも適応拡大申請されており、審査期限は12月となっているが、こちらは大丈夫なのだろうか?

リンク: BeiGeneのプレスリリース

【承認】


初の点鼻用アドレナリンが承認
(2024年8月9日発表)

FDAはepinephrineの初めての点鼻用スプレーを承認した。ARS Pharmaceuticals(Nasdaq:SPRY)のneffyで、成人と体重30kg以上の小児のI型アレルギー反応(アナフィラキシーを含む)の救急治療に用いる。薬物動態・薬力学的試験(PK・PD)で血中濃度が注射用製品と同程度だった。注射用薬と同様に、症状が改善しなかったら(同じ鼻腔に)再点鼻する。欧州でも6月にEURneffy(adrenaline)名でCHMPの肯定的意見を得ている。

22年10月に承認申請、23年5月に諮問委員会で大多数が支持したが、反復投与時のPK・PD試験を承認の後ではなく前に実施するよう求められ、審査完了通知を受領した。昨年8月のガイダンスに即してnitrosamine試験も求められ、当初見込みから1年以上遅れて承認された。

リンク: FDAのプレスリリース


FDAが凍結乾燥血漿をEUA
(2024年8月9日発表)

FDAはOctapharma Pharmazeutika Produktionsges.m.b.H.(スイスのOctapharmaのオーストリア子会社)のoctaplasLG PowderをEUA(非常時使用認可)した。戦闘中の火器や爆弾などによる出血/血液凝固異常を治療する際に、血漿が入手できない、または使用が現実的でない場合に用いる。

370~1520人から採取した血液を凍結乾燥した製品。冷蔵不要、2~25℃で保存でき、有効期間が2年間と長いことが特徴。A型とAB型の製品しかEUAされていない。凍結乾燥血漿は日本企業も米国連邦政府の要請に基づき開発を進めている。

リンク: FDAのプレスリリース


レミトロが米国でも承認
(2024年8月8日発表)

Citius Pharmaceuticals(Nasdaq:CTXR)はFDAがLymphir(denileukin diftitox-cxdl)を全身性治療歴を持つ成人のステージI-IIIの難治/再発皮膚T細胞リンパ腫用薬として承認したと発表した。IL-2受容体に結合するタンパクとジフテリア毒素を細胞融合したもので、IL-2受容体CD25サブユニット陽性菌状息肉腫やセザリー症候群組入れた試験でORR(客観的反応率、独立評価)が36%、完全反応率は8.7%、メジアン反応持続期間は6.5ヶ月だった。致死例もある毛細管漏出症候群が枠付き警告されている。

同社にとって最初の製品なので販売体制を整えるため資金調達が必要だが、希薄化を回避するために腫瘍学事業をCitius Oncologyとしてスピンアウトし、SPAC(将来の事業会社合併を視野に上場したペーパー・カンパニー)であるTenX Keane Acquisition(Nasdaq:TENK)と合併させることを決めている。来年1月までにLymphirを発売する考え。

米国で99年に加速承認されたが14年に自主回収となってしまったONTAK(denileukin diftitox)の純度を高めたもので、日本ではエーザイが開発要請に応じて21年にレミトロ名で承認を取得している。CitiusはエーザイからライセンスしたDr. Reddy'sから欧米などの権利を取得した。

リンク: Citiusのプレスリリース


セルビエ、IDH阻害剤が米国で承認
(2024年8月8日発表)

セルビエはFDAがVoranigo(vorasidenib)を12歳以上の小児・成人のグレード2星状細胞腫/乏突起神経膠腫用薬として承認したと発表した。IDH1またはIDH2に感受性変異を持つ手術後(生検なども含む)の癌が適応になる。欧州でも承認申請中。

Agios Pharmaceuticalsの腫瘍学ポートフォリオを2020年に買収して得たIDH阻害剤。摘出術後に残余病変が残った、あるいは再発した患者の初めての薬物療法としての便益を偽薬と比較した試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学的評価)のハザードレシオが0.39だった。

リンク: セルビエの米国法人のプレスリリース


ファビハルタがIgA腎症に適応拡大
(2024年8月8日発表)

ノバルティスはFabhalta(iptacopan)が米国で成人の原発性免疫グロブリンA腎症(IgA腎症)に適応拡大したと発表した。UPCR(尿蛋白クレアチニン比)改善作用に基づく加速承認で、同じ試験のもう一つの主評価項目であるeGFR(推算糸球体濾過量)が確認された段階で本承認切替を申請する考え。

可逆的B因子阻害剤で23~24年に米欧日で発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬として承認された。経口剤であることやARBと併用できることが長所。PNHと異なりIgA腎症は競合薬の価格水準が半分以下であることが販促面のハンデ。

リンク: 同社のプレスリリース


Purdue社の新製品が承認
(2024年8月7日発表)

Purdue Pharma L.P.はFDAがZurnai(nalmefene hydrochloride)をオピオイド過剰摂取の救急治療薬として承認したと発表した。12歳以上の患者に皮下または筋肉注射する。活性成分は昔から使われているが、オート・インジェクター製品は初。

同社はオピオイド治療薬の販売などに関して数多くの訴訟が提起され、20年に米国連邦司法省と刑事民事合わせて63億ドルの支払いで和解、21年にはNY破産裁判所で企業清算・公益法人化が承認された。創業家であるSacklers一族の賠償については最高裁が高裁決定を僅差で破棄・差戻しし、破産宣告していないのに上限額を決める場合は、債権者やオピオイド被害者の同意が必要と断じた。

オピオイド乱用は専ら米国に特異的な現象なので関連企業の命運には関心が薄れた。被害者救済や公益に資するとはいえ、未だ事業活動を続けているとは知らなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】




PDUFA
24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
諮問委員会
24/9/9AMDAC:Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil/probenecid錠(非複雑性尿路感染症)



今週は以上です。

2024年8月3日

第1066回

【ニュース・ヘッドライン】

  • リリーのGLP-1作用剤も心不全アウトカム試験が成功 
  • インサイト、抗PD-1抗体の第3相が二本成功 
  • 未治療CLLのカルケンス三剤併用試験の一部が成功 
  • CETP阻害剤の第3相が成功 
  • ファイザー、DMD遺伝子療法の開発を中止 
  • FibroGen、抗CTGF抗体の第3相が5連敗に 
  • バイエル、VMS用薬を承認申請 
  • Vertex、新規作用機序の鎮痛剤を承認申請
  • セムブリックスの一次治療を承認申請 
  • FDA諮問委員会、NPC用薬の便益を多数が認めた 
  • MAGE-A4標的T細胞療法が承認 
  • GSK、抗PD-1抗体の子宮体がん適応範囲が拡大 
  • 移植適合多発骨髄腫のD-VRdレジメンが承認 
  • galantamineプロドラッグがアルツハイマー病に承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


リリーのGLP-1作用剤も心不全アウトカム試験が成功
(2024年8月1日発表)

イーライリリーはGLP-1/GIP作用剤Zepbound(tirzepatide)の第3相心不全アウトカム試験、SUMMIT試験で共同主目的を達成したと発表した。効能追加を申請するのではないか。

米州中印露などの施設でHFpEF(左心駆出率保持の心不全)を伴う肥満症患者731人を組入れて偽薬またはtirzepatideを週一回皮下注し転帰を比較したもの。二型糖尿病の有無は不問。主評価項目のうち、急性心不全受診、心不全入院、経口利尿薬治療強化、または心血管死の何れかが発生するまでの期間を評価した複合評価項目はハザードレシオ0.63、p=0.026だった。もう一つの、第52週におけるKCCQ-CSS(カンザスシティ心筋症質問票臨床要約スコア)の改善は偽薬群が12.7点、試験薬群は19.5点だった(投与中止例も継続評価する「治療レジメン・エスティマンド」ベース、p値は不記載)。

前者の解析は、服薬増量と心血管死は患者にとって大きな違いなので、項目毎のデータも必要だ。p値も気になる水準だが、アルファの配分など多重性補正方法は記載されていない。

競合品であるノボ ノルディスクのGLP-1作用剤Wegovy(semaglutide)はSTEP HFpEF試験二本のうち肥満症併発患者に2.4mgを週一回皮下注した試験で第52週のKCCQ-CSSがベースライン値の59点から偽薬群は8.7点、試験薬群は16.6点改善し、p<0.001だった。糖尿病併発患者を組入れた試験では各群6.4点と13.7点上昇した。尚、肥満症試験の数値は「治療ポリシー・エスティマンド」ベースでtirzepatideの数値と比較可能と思われるが、後者のベースは論文抄録には記されていない。製薬会社は試験薬の効果だけが反映される「試験薬エスティマンド」を好む傾向があるが、FDAはintent-to-treatと同様に医師や患者が期待すべき効果が示唆される「治療ポリシー・エスティマンド」を重視しており、少なくともこれまでは、レーベルに記載されるのはこちらのデータだけである。

異なった薬の異なった試験のデータなので大雑把な比較しかできないが、KCCQ-CSSの治療効果(偽薬群との差)は大差ないように見える。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


インサイト、抗PD-1抗体の第3相が二本成功
(2024年7月30日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は2024年第2四半期決算発表の中で、Zynyz(retifanlimab-dlwr)の第3相肛門癌試験と同じく非小細胞性肺癌試験で主目的を達成したことを明らかにした。データは未公表。

17年にMacroGenicsからライセンスした抗PD-1抗体。23年に米国で全身性治療を初めて受ける転移/難治局所進行メルケル細胞腫に単剤投与する薬として加速承認され、今年4月にはEUでも通常承認された。

インサイトは21年に第2相肛門癌試験に基づき欧米で承認申請したが、成就しなかった。今回の第3相Podium-303試験は化学療法歴のない切除不能局所再発/転移肛門管扁平上皮腫瘍を組入れて、carboplatinとpaclitaxelの標準療法に追加する便益を偽薬追加群と比較した。主評価項目はPFS(無進行生存期間)。もう一つの第3相PODIUM-304試験は転移非小細胞性肺癌の一次治療として白金薬ベースの化学療法に追加する便益を偽薬追加と比較した。主評価項目は全生存期間。この用途では抗PD-(L)1と三剤併用するのが標準療法と思われるので、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の治験成績を外挿して真贋を測る工夫が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース


未治療CLLのカルケンス三剤併用試験の一部が成功
(2024年7月29日発表)

アストラゼネカはBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)の第3相AMPLIFY試験の中間解析でvenetoclax(アッヴィ/ジェネンテックのbcl-2阻害剤Venclexta)及びobinutuzumab(ロシュの抗CD20抗体Gazyva)を併用した群のPFS(無進行生存期間)が標準療法群比で統計的に有意且つ臨床的に意味のある延長を果たしたと発表した。データは未公表。現時点では不明な点が多い。

Calquenceは本試験の対象である未治療のCLL(慢性リンパ性白血病)に関して単剤投与とobinutuzumab併用が米国で承認されている。今回の試験は、未治療成人CLL(但し17p欠損型やTP53変異型は除く)をacalabrutinibとvenetoclaxの併用群(以下、AV群)、この二剤とobinutuzumabを決まった期間、三剤併用する群(AVO群)、または標準療法群(SOC群:fludarabine、cyclophosphamide及びrituximabのFCRレジメン又はbendamustineとrituximabのFRレジメン)に無作為化割付けして、オープンレーベルでPFSを比較した。主評価項目はAV群とSOC群のIRC(独立評価委員会)ベースPFS。主要副次評価項目は両群の治験医評価によるPFSと、AVO群とSOC群のIRCベースや治験医評価によるPFSなど。

プレスリリースで明らかにされていないのは、まず、主解析の成否。未成熟なのかもしれないが、副次的評価項目の解析が意味を持つのは主解析が成功した後なので、今回の発表には重要な情報が欠落していることになり、もし主解析がフェールしたのならAVO群のデータを統計学的に有意とは呼べないはずだ。有意な差があったのがIRCベースなのか、治験医評価なのか、両方なのかも明記されていない。

また、SOC群のレジメンはNCCT(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインでは65歳未満の重大な併存症がない患者向けの望ましいレジメンとその他の推奨レジメンとされており、65歳以上などの患者には異なったレジメンが推奨されていることも留意点だ。被験者は65歳未満が多いのかもしれないが、少なくとも組入れ/除外条件は65歳で区切っていない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


CETP阻害剤の第3相が成功
(2024年7月29日発表)

オランダのNewAmsterdam Pharma(Nasdaq:NAMS)は、obicetrapibの最初の第3相試験が成功したと発表した。あと二本の結果を待って承認申請する考え。

田辺三菱製薬のCETP阻害剤TA-8995をライセンスしたもの。アムジェンが開発していたこともあるが、ファイザーに続いてMSDのCETP阻害剤も心血管アウトカム試験でそこそこの成果しか出なかったことを受けて17年に開発を中止した経緯がある。

今回のBROOKLYN試験では、最大耐容量のスタチンなどを服用してもLDL-C値が十分に管理できないHeFH(ヘテロ接合性家族性高脂血症)の患者に偽薬または10mgを一日一回、追加投与したもの。12週間でLDL-C値(試験薬群のベースライン値は123mg/dL)が偽薬群は0.3%上昇したが試験薬群は36.1%低下し、差の36.3%は統計的に有意だった。HDL-Cなども有意に改善した。52週の各群のLDL-Cはベースライン比+10.3%、-31.1%、-41.5%となり、専ら偽薬群の悪化により差が拡大した(但し、ClinicalTrials.govでは副次的評価項目として列記されておらず、プレスリリースにも明記されていない)。

他にアテローム性疾患やezetimibe配合剤の第3相も進行中。心血管アウトカム試験のPREVAILは26年頃の成否が判明する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザー、DMD遺伝子療法の開発を中止
(2024年7月30日発表)

ファイザーは2024年第2四半期の決算発表用スライドの脚注で、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)プログラムを中止したことをこそっと明らかにした。本文や決算発表プレスリリースにはPF-06939926(fordadistrogene movaparvovec)の第3相で主目的を達成できなかったことしか記しておらず、無念さが伝わってくる。

殆どのDMD患者で欠乏するジストロフィンを補うために、遺伝子療法に適したサイズのミニジストロフィン遺伝子を遺伝子組換えAAV9で導入するもの。第3相で病状診断スコアも10メートル歩行走行テストなどの副次的評価項目もフェールした。

一方、マイクロジストロフィン遺伝子を遺伝子組換えAAV74で導入するサレプタ・セラピューティックスのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)は23年に米国でジストロフィン発現増強作用に基づき加速承認され、歩行能力を検討した第3相は主目的がフェールしたものの、10メートル歩行走行テストなどが改善したことなどから、今年6月に本承認され、歩行できない患者にも適応が広がった。両剤の差は紙一重のようにも感じられるが、結果的は大違いとなった。

リンク: ファイザーの決算発表用スライド(pdfファイル、11頁末尾に記載)


FibroGen、抗CTGF抗体の第3相が5連敗に
(2024年7月30日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)はFG-019(pamrevlumab)の第3相デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)試験、LELANTOS-2試験で主目的を達成できなかったと発表した。ステロイド治療を受けている6~11歳の歩行可能なDMD患者70人を偽薬群と35mg/kgを2週毎静注する群に無作為化割付けして52週間のNSAA(North Star Ambulatory Assessment)総スコアの変化を比較したが、偽薬調整後で-0.528、p=0.555とフェールし、副次的評価項目も全滅した。

この抗CTGF抗体は昨年6月に12歳以上の歩行不能なDMD患者を組入れた第3相LELANTOS-1試験と特発性肺線維症の第3相ZEPHYRUS-1試験がフェール。今年7月には膵癌の第3相と第2/3相がフェールしており、今回で5連敗となった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


バイエル、VMS用薬を承認申請
(2024年8月1日発表)

バイエルはBAY3427080(elinzanetant)を米国で閉経期の中重度VMS(血管運動神経症状)治療薬として承認申請した。第3相試験二本でVMSの発生頻度を抑制し重症度を緩和した。GSKからスピンアウトした会社から更にスピンアウトしたKaNDy Therapeuticsを20年に買収して入手したNK-1,3受容体拮抗剤。類薬ではアステラス製薬のNK-3受容体拮抗剤Veozah(fezolinetant)が23年に米欧で承認されている。

リンク: バイエルのプレスリリース


Vertex、新規作用機序の鎮痛剤を承認申請
(2024年7月30日発表)

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は米国でVX-548(suzetrigine)を中重度急性期疼痛の治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は25年1月30日。

末梢神経系の疼痛シグナル伝達に重要な役割を果たす電位依存性ナトリウム・チャネル、NaV1.8を選択的に阻害する経口剤。第3相試験は三本の試験に腹壁形成術やバニオン切除術、整形術などを受けた患者を組入れて12時間毎に投与し、偽薬より疼痛が緩和することや安全性を確認した。オピオイド系以外の鎮痛剤が承認されればCox-2阻害剤以来、四半世紀ぶりだ。

リンク: 同社のプレスリリース


セムブリックスの一次治療を承認申請
(2024年7月29日発表)

ノバルティスはScemblix(asciminib)を新患フィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病慢性期(Ph+CML-CP)の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は不明。リアル・タイム・オンコロジー・レビュー(RTOR)の対象となったので通常の6ヶ月より早く承認される可能性がある。

ABLのミリストイル・ポケットを標的とする新しいタイプのBCR-ABL阻害剤で、米日欧などでPh+CML-CPの3次治療に承認されている。今回の申請はASC4FIRST試験に基づくもの。80mgを一日一回、48週間経口投与したところ、MMR(分子遺伝学的第奏効)率が68%と標準療法群(imatinib、nilotinib、dasatinib、またはbosutinib)の49%を有意に上回った。imatinibだけとの比較も上回った。G3以上の有害事象発生率は38%でimatinibの44%、第2世代品(他の3剤)の55%より増えなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、NPC用薬の便益を多数が認めた
(2024年8月2日発表)

FDAはGeMDAC(遺伝代謝疾患諮問委員会)を招集し、Zevra Therapeutics(NasdaqGS:ZVRA)がニーマン・ピック病C型(NPC)治療薬として承認申請したarimoclomolの便益について検討した。16人の委員のうち11人が支持、5人が不支持となり、一歩前進したが、採決に拘束力はなく、不透明感が残る。審査期限は9月21日。

これまでの経緯は、デンマークのOrphazyme社が権利を取得して開発し20年に承認申請したが、薬効評価方法の妥当性などが指摘され、審査完了通知を受領した。EUでも予備的採決が否定的な結果になり申請を取り下げた。一方、フランスなどでは特例的に有償販売が認められた。Zevraは22年にOrphazymeを2000万ドル足らずで買収、評価方法を若干変えたり作用機序などに関わる基礎研究を実施して、延長試験のデータと合わせて23年12月に再承認申請した。優先審査だが審査期間が延長され上記になった。

NPCはNPC1/2の欠損によりライソゾームにコレステロールなどが蓄積、肝脾腫やカタレプキシーなどを併発する。過半は20歳までに死亡すると言われている。欧米の推定患者数は1800人。治療薬は日欧などでmiglustatが承認されているが、米国は薬効のエビデンスが不十分として審査完了通知を受領、メーカー側がそれ以上の承認取得努力をしたようには見えず、オフレーベル使用に留まっている。欧米の施設で2~18歳の患者50人を組入れたarimoclomolの第2/3相でも、7割以上が継続使用していた。この試験で主論点となったのは主評価項目の妥当性。NPC臨床重症度尺度の17ドメインのうち歩行、構語、認知、微細運動、咀嚼の5ドメインを抜粋したもので、数値上は偽薬より良好だったがp=0.0506と有意ではなかった。また、FDAは認知や咀嚼に関わる評価の有効性に疑問を呈した。このため、Zevraは認知ドメインを除外し、咀嚼ドメインの評価を見直して、再提出した。

リンク: Zevra社のプレスリリース

【承認】


MAGE-A4標的T細胞療法が承認
(2024年8月2日発表)

FDAは、英国のAdaptimmune(Nasdaq:ADAP)のTecelra(afamitresgene autolecel)を特定の滑膜肉腫に加速承認した。固形癌のT細胞療法として第2号、抗原受容体を人工的に導入した製品では初になる。

MAGE-A4(メラノーマ関連抗原A4)を認識する高親和性、特異的TCRをレンチウイルスで患者から採取したT細胞に導入することで、T細胞が見過ごしがちなMAGE-A4発現癌に対する活性を増強したもの。言わば、CAR-T療法の固形癌版。適応は、成人の切除不能/転移滑膜肉腫で、但し、化学療法歴を持ち、HLA型がA*02:01P、A*02:02P、A*02:03P、またはA*02:06Pで、MAGE-A4抗原が陽性の場合。A*02:05Pのヘテロ/ホモ接合型は禁忌。米国で年400人が対象になるようだ。第2相SPEARHEAD-1試験で評価対象44人のORR(客観的反応率)が43%(完全反応4.5%)、メジアン反応持続期間は6ヶ月だった。

価格は72.7万ドルと高い。Agilent TechnologiesのMAGE-A4 IHC 1F9 pharmDxがコンパニオン診断薬として承認された。HLAアリルの検査に関してはThermo Fisher ScientificとSeCore CDx HLA-A Locus Sequencing Systemで対応すべく提携した。尚、Pという接尾語は初めて見たが、様々なサブタイプ(例えばA*02:02:01とA*02:02:02)のうち、発現する抗原認識部位が同じものをまとめて示しているようだ。

T細胞療法では2月にIovance Biotherapeutics(Nasdaq:IOVA)のAmtagvi(lifileucel)がある種の黒色腫向けに加速承認されたが、これは切除した腫瘍から採取した腫瘍浸潤リンパ球を培養したもので、遺伝子装飾はされていない。

AdaptimmuneはNY-ESO-1を認識するletetresgene autoleucelの滑膜肉腫や粘液型/円形細胞脂肪肉腫を治療するピボタル試験が中間解析で目的達成しており、25年に承認申請する予定。MAGE-4といい、NY-ESO-1といい、とうとうゴールする企業が出てきた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Adaptimmuneのプレスリリース


GSK、抗PD-1抗体の子宮体がん適応範囲が拡大
(2024年8月1日発表)

GSKはFDAがJemperli(dostarlimab-gxly)の適応を拡大し、原発性進行/難治性内膜腫(初発進行/再発子宮体癌)の一次治療化学療法併用におけるdMMR(DNAミスマッチ修復機能欠損)/MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)型限定を解除したと発表した。内膜腫における対象患者が3~5倍に膨らむことになる。

19年にTesaro社を買収して入手したパイプラインの一つで抗PD-1抗体。21年に欧米で初承認された。エビデンスである第3相RUBY試験のパート1では、共同主評価項目の一つであるdMMR/MSI-HサブグループにおけるPFS(無進行生存期間)だけでなく全被験者のPFSも有意に上回り、未成熟で有意水準には到達していなかったとはいえ全生存期間も好ましい方向を向いていた。ところが、どういう訳か、米欧ともにdMMR/MSI-Hに適応限定された。その後、全生存期間の解析でも有意差が確認されたが、dMMR/MSI-Hではないサブグループだけの探索的解析はハザードレシオ0.79、95%上限は1.044と今一つだった。ところが、今回、限定が解除された。

抗PD-1抗体ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)が一足早く6月に適応拡大したが、エビデンスはKeyNote-868試験におけるPFSで延命効果は確認されていない。

リンク: GSKのプレスリリース


移植適合多発骨髄腫のD-VRdレジメンが承認
(2024年7月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Darzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、和名ダラキューロ配合)を自家造血幹細胞移植適合の未治療多発骨髄腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。移植前にこの抗CD38抗体をVelcade(bortezomib)、Revlimid(lenalidomide)、dexamethasoneと併用(D-VRdレジメン)し、移植後にRevlimidと二剤併用で地固めするもので、PFSをVRdレジメン(移植前に左記の三剤、後にRevlimidで地固め)と比較した第3相PERSEUS試験の中間解析でハザードレシオが0.42、p<0.0001となり、中間解析の中止基準である0.0126を下回った。48ヶ月PFS率は84.3%対67.7%、G3/4有害事象は好中球減少症や肺臓炎、下痢などが増加した。

リンク: 同社のプレスリリース


galantamineプロドラッグがアルツハイマー病に承認
(2024年7月29日発表)

カナダの医薬品開発会社Alpha Cognition(CSE:ACOG)は、FDAがZunveyl(benzgalantamine)を軽中度アルツハイマー病薬として承認したと発表した。25年第1四半期に発売する計画。

galantamineのプロドラッグで胃腸系有害事象が穏やかであることが期待される。遅放性錠だが、5mg一日二回で開始し10mg、15mgと滴定していく用量用法は23年前に承認されたgalantamineの即放性錠と同じで、19年前に承認された延長放出製剤の10mg一日一回とは異なる。生物学的同等性試験に基づく承認なので、レーベルの初承認年の欄には2001年と記され、忍容性や仮説検証試験のデータは専らgalantamineの試験のものだ。

アセチルコリン還元酵素阻害剤の一つであるgalantamineは胃腸系副作用が泣き所なのでプレスリリース記載の通りに忍容性が向上するなら朗報だが、レーベルにはそれらしい記載は見当たらなかった。レーベル記載事項以外をセールストークに使ってはいけないというFDAの方針が変わったという話は本当のようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
24年9月推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
24年9月ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
24/9/5Travere TherapeuticsのFilspari(sparsentan、IgA腎症本承認切替)
24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)



今週は以上です。