2024年6月2日

第1057回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アドセトリスのDLBCL3次治療試験が成功 
  • BMSのKRAS-G12C阻害剤も市販後薬効確認試験が成功 
  • セムブリックスがCML試験で既存薬に勝つ 
  • 糖原病1a型の遺伝子治療試験が成功 
  • 抗PD-1・VEGF二重特異性抗体が中国でKeytrudaに勝つ 
  • オレキシン2アンタゴニストは鬱病にも有効 
  • キイトルーダの早期TNBC試験、延命効果も確認 
  • インスメッド、気管支拡張症の第3相で増悪を抑制 
  • 第一三共の抗TROP2ADC、ある程度の延命効果も確認 
  • ノバルティス、希少腎臓疾患用薬の学会発表 
  • 日本新薬、DMD用薬の市販後薬効確認試験がフェール 
  • ギリアド、抗TROP-2抗体の市販後薬効確認試験がフェール 
  • ロシュ、PI3K阻害剤を承認申請 
  • キイトルーダを悪性胸膜中皮腫に適応拡大申請 
  • サークリサを多発骨髄腫一次治療に適応拡大申請 
  • JNJ、欧州で皮下注用抗EGFRxMET二重特異性抗体の皮下注用を承認申請 
  • CHMP、アジンマなどの承認を支持 
  • モデルナのmRNA型RSVワクチンが承認 
  • ブレヤンジがマントル細胞腫に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アドセトリスのDLBCL3次治療試験が成功
(2024年6月1日発表)

ファイザーは、Adcetris(brentuximab vedotin)の第3相難治再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)試験、ECHELON-3のデータをASCO(臨床腫瘍学会)で発表した。成人の2次以上の治療歴を持ち幹細胞移植やCAR-T療法が不適/施行済みの患者を組入れて、lenalidomideとrituximabの併用レジメンにAdcetrisを追加した試験で、3月に中間解析で目的達成したことだけ発表済み。230人の解析で、全生存期間のハザードレシオが0.63、p=0.0085(閾値は0.0232)、メジアン値は13.8ヶ月、偽薬追加群は8.5ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象の発生率は各群88%と77%、G5発生率は12%と8%だった。

Adcetrisは23年に430億ドルで買収したSeagenの抗CD30抗体薬物複合体。米欧日でホジキン型リンパ腫やT細胞リンパ腫に承認されている。今回の用途用法も承認申請する考え。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: KimらのASCO抄録


BMSのKRAS-G12C阻害剤も市販後薬効確認試験が成功
(2024年6月1日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは3月にKrazati(adagrasib)の第3相KRYSTAL-12試験の成功を発表したが、ASCOでデータを明らかにした。白金ベース化学療法と抗PD-(L)1抗体による治療歴を持つKRAS-G12C変異型進行/転移非小細胞性肺癌における便益をdocetaxelと比較したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.58、メジアン値は5.5ヶ月対3.8ヶ月と若干ではあるが上回った。G3以上の治療関連有害事象の発生率は各群47%と46%、治療時発現有害事象による治験離脱率は7.7%と14.3%だった。

Krazatiと同様に、ORR(客観的反応率)データに基づき加速承認されたKRAS-G12C阻害剤であるアムジェンのLumakras(sotorasib)も、市販後薬効確認試験である第3相が成功したが、治療効果があまり大きくないことや実施内容に問題があったことなどから、FDAも諮問委員会も十分なエビデンスとは認めなかった。Krazatiの成績はハザードレシオもメジアン値の差も若干良いが、すごく違うわけでもない。となると全生存期間の解析が気になるところだが、ASCO抄録によると偽薬群は進行後に試験薬にクロスオーバーすることが可能なので、意味のある解析ができないかもしれない。

この試験は加速承認時の市販後コミットメント試験なのでFDAが肯定的に評価すればLumakrasより先に本承認に切り替わるかもしれない。もしFDAが懐疑的だったとしても、他の試験で本承認切替申請することが認められているので、加速承認が取り消されるような事態は考えにくい。

Lumakrasの市販後薬効確認試験成績はEUのCHMPにも影響し、Krazatiの条件付き承認に一旦は反対したが、再審査で肯定的意見に転じた。今回の結果をCHMPがどう評価するかも注目だ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: MokらのASCO抄録


セムブリックスがCML試験で既存薬に勝つ
(2024年5月31日発表)

ノバルティスはASCOでSTMP阻害剤Scemblix(asciminib)のライバル対決試験、ASC4FIRSTの結果を発表した。フィラデルフィア染色体という染色体融合を伴うCML(慢性骨髄性白血病)の治療は四半世紀前に同社のGlivec(imatinib)が登場し、年間死亡者数が減少するほど大きなインパクトを与えたが、標的であるABLに耐性変異が生じてしまうことがある。Scemblixは結合部位が異なるためABL阻害剤抵抗癌にも有効で、21~22年に米日欧でABL阻害剤の3次治療薬として承認された。今回の、ASCiminibをフィラデルフィア染色体陽性CMLのFIRSTラインに用いた試験では、24週MMR(分子遺伝学的大奏効)率が67.7%と医師が他のABL阻害剤4剤の中から選んだ薬を用いた群の49.0%を大きく上回った。共同主評価項目であるimatinibサブグループとの直接比較でも69.3%対40.2%で上回った。第2世代と言われる残りの3剤との比較も数値上上回ったとのこと。

同社は米国で適応拡大申請したことも明らかにした。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: HughesらのASCO抄録


糖原病1a型の遺伝子治療試験が成功
(2024年5月30日発表)

Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)はDTX401の第3相糖原病1a型試験がポジティブな結果になったと発表した。生産体制を整えた上で25年に米国で承認申請する考え。

糖原病1a型はグリコーゲンを分解しグルコースを生成するのに必要なグルコース-6-ホスファターゼ・アルファが欠乏、臓器にグリコーゲンが蓄積し、命に係わる低血糖や肝腫大などを合併する。コーンスターチの経口投与が有効だが、成人の場合で一日300~350mgを夜間も含めて3~4時間おきに摂取する必要がある。DTX401はAAV8で上記酵素の遺伝子を導入する。第3相では8歳以上の患者46人を組入れて48週間治療し、血糖管理を損なわずにコーンスターチ摂取量を削減する効果を偽薬と比較したところ、各群41.3%と10.3%減少し、統計的に有意且つ臨床的に意味のある効果が見られた。副次的評価項目の患者評価(PGICベース)はトレンドに留まった。AAV遺伝子療法のクラスイフェクトである肝臓影響発現率が76%対12%と大きく上回ったが、コルチコステロイドの予防的投与などを行ったため、G3は1例のみだった。

リンク: 同社のプレスリリース


抗PD-1・VEGF二重特異性抗体が中国でKeytrudaに勝つ
(2024年5月30日発表)

米国フロリダ州マイアミのSummit Therapeutics(Nasdaq:SMMT)は、同社が北米欧州日本市場でライセンスしたSMT112(ivonescimab)が、中国で実施された第3相PD-L1陽性局所進行/転移陽性非小細胞性肺癌試験でpembrolizumabを上回るPFS(無進行生存期間、独立中央評価)を示したと発表した。TPS(Tumor Proportion Score)が50%以上のサブグループでも、pembrolizumanの効果が低下する1~49%のサブグループでも、また、扁平上皮腫でもそれ以外でも、便益があった。数値は未公表。

中国のAkeso(康方生物、HKEX:9926.HK)が創製した、PD-1結合部位とVEGF結合部位を二つずつ持つ二重特異性抗体で、両方が存在する環境で親和性が高まる特徴を持つ。EGFR変異陽性でEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持つ局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に化学療法と併用した中国試験が成功し、5月に中国で承認されたばかり。

FDAは、主として中国で実施された第3相試験に対して、懐疑的な姿勢を示している。Summitは第3相としてEGFR変異非扁平上皮非小細胞性肺癌再発治療試験と転移扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用pembrolizumab対照試験を実施中。

リンク: 同社のプレスリリース


オレキシン2アンタゴニストは鬱病にも有効
(2024年5月29日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはJNJ-42847922(seltorexant)の第3相難治鬱病試験で主目的を達成したと発表した。欧米露台の施設で治療に十分応答しない高齢の不眠症を伴う中重度鬱病588人を組入れて偽薬または20mg(一日一回経口)を追加投与し第43日のMADRS総スコアを比較したもの。データは未発表。

欧米韓ウクライナで実施された同様なデザインの第3相は、ClinicalTrials.govによると、独立データ監視委員会が中間解析に基づき中止を勧告し、打ち切られたようだ。そのせいか、今回のプレスリリースは承認申請について言及していない。承認されている抗鬱剤でも第3相がフェールするのは稀なことではなく、ポジティブな結果になった後期第2相試験のデータと二本揃えて申請する可能性はあるだろう。

2010年代にMinerva Neuroscienceが共同開発していたが、2020年に権利返還した。

リンク: JNJのプレスリリース


キイトルーダの早期TNBC試験、延命効果も確認
(2024年5月28日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)はKeyNote-522試験におけるEFS(無イベント生存期間)延長効果に基づき米国で21年に、22年にはEUや日本でも、ステージII/III未治療トリプル・ネガティブ乳癌の摘出術前・術後補助療法が承認されているが、全生存期間の解析も成功したことが発表された。事前に設定された独立データ監視委員会による中間解析で、carboplatinとpaclitaxelなどの術前療法に術前・術後Keytrudaを追加した群の全生存期間は偽薬追加群と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある増加を見た。

数値は未発表。21年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された第4次中間解析ではハザードレシオ0.72(95%信頼区間I0.51-1.02)、p=0.03214で、事前に割り当てられた閾値をクリアしていなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


インスメッド、気管支拡張症の第3相で増悪を抑制
(2024年5月28日発表)

Insmed(Nasdaq:INSM)は第3相ASPEN試験で主目的を達成したと発表した。嚢胞性線維症ではない患者の気管支拡張症(NCFBE)の患者約1700人(半分は65歳以上)を偽薬、brensocatib 10mg、または同25mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして52週間治療し、肺における増悪の頻度を比較したところ、10mg群は偽薬比21.1%、25mg群は19.4%、小さかった(両群p<0.005)。重度肺増悪も各群25.8%と26.0%小さかったが統計的に有意ではなかった。気管支拡張剤投与後FEV1の変化は各群11mLと38mLで25mg群だけ有意だったが、他の指標では10mgも25mgも数値は大きく変わらない。

特別関心有害事象は歯周・歯肉事象の発生率が各群1.4%、2.1%、2.7%と若干増加、角化症は1.4%、3.0%、0.7%となぜか10mgだけ増加、肺炎は4.0%、4.7%、5.9%で若干増加した。

24年第4四半期に米国で承認申請し25年央ロンチを目指す。欧州日本でも26年上期のロンチを目指す。気管支拡張症の治療薬が承認されれば初。

気管支拡張症で増加が見られる好中球エステラーゼなどの好中球セリン・プロテアーゼの活性化を担う、DPP1を阻害する薬。2016年にアストラゼネカのAZD7986をライセンスした。対象患者数は米国で45万人、欧州5ヶ国は40万人、日本は15万人と推定されている。

リンク: Insmedのプレスリリース


第一三共の抗TROP2ADC、ある程度の延命効果も確認
(2024年5月27日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、欧米でDS-1062(datopotamab deruxtecan)の第3相TROPION-Lung01試験の共同主評価項目である全生存期間の解析についてアップデートした。全ユニバースの解析はフェールしたが、予定適応症である扁平上皮以外の非小細胞性肺癌に関しては実薬比で臨床的に意味のある増加を見たとのこと。どの程度の差なのか、なぜ扁平上皮における差は小さいのか、知りたいものだ。

DS-1062は抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)。今年2~4月に欧米で、上記試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)サブグループ解析に基づき1~2次治療歴を持つ進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に、TROPIN-Breast01試験に基づき切除不能/転移後の治療歴を持つホルモン受容体陽性her2陰性乳癌に、承認申請された。

肺癌試験は白金薬と分子標的薬または抗PD-(L)1抗体歴を持つ患者約600人を試験薬群とdocetaxel群に無作為化割付けして効果を比較した。PFSはハザードレシオ0.75で統計的に有意だがメジアン値は4.4ヶ月対3.7ヶ月で大差なかった。但し、被験者の3/4を占めた扁平上皮腫ではない症例ではハザードレシオ0.63、メジアン5.6ヶ月対3.7ヶ月と、ある程度の延長を果たした。一方で、扁平上皮腫では各1.38、2.8ヶ月、3.9ヶ月と、見劣りした。有害事象では、試験薬群で間質性肺炎発症者が7人死亡した(但しこのうち4人は癌の進行による死去と評価された)。このようなリスクもあるので、それを十分に上回る多くの患者の寿命が延びてほしい所だ。

リンク: 両社のプレスリリース


ノバルティス、希少腎臓疾患用薬の学会発表
(2024年5月25日発表)

ノバルティスはERA(欧州腎臓協会)会議で二つの腎臓疾患用薬の第3相試験の成績を発表した。どちらも承認申請する考え。

経口エンドセリンA受容体拮抗剤、atrasentanは第3相ALIGN試験で加速承認申請用主評価項目を達成、本承認申請用の副次的評価項目の収集に向けて盲検続行中。適応はIgA腎症で、レニン・アンジオテンシン阻害剤で治療しても蛋白尿が1g/日を上回る患者に0.75mgを経口反復投与し、36週後の24時間UPCR(尿蛋白クレアチニン比)の改善を調べたところ、偽薬比36.1%大きく低下した。副次的評価項目である136週eGFR(推算糸球体濾過量)やSGLT2阻害剤も服用しているコフォートにおける効果は26年に判明する見込み。

アッヴィが癌の骨転移治療薬として2004年に米国で承認申請したが非承認通知を受領した。糖尿病性腎症の第3相は良さそうな結果だったが、20年に導出した相手先のカナダのChinook Therapeuticsをノバルティスが23年に買収した。

もう一本は可逆的B因子阻害剤Fabhalta(iptacopan)のAPPEAR-C3G試験。補体系が調停する腎疾患であるC3糸球体症に200mgを一日一回投与し、6ヶ月後の24時間UPCRの改善を調べたところ、偽薬比35.1%大きく低下した。副次的評価項目のeGFRの改善は偽薬群を2.2mL/分/1.73m2上回ったもののp=0.19で有意ではなかった。偽薬群は6ヶ月経過後に試験薬にクロスオーバーしたので、eGFR改善作用に関するこれ以上の解析は行われないのだろう。

Fabhaltaは23~24年に米欧でPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)用薬として承認され、米国ではIgA腎症に適応拡大申請された。因みにIgA腎症試験では24時間UPCRが9ヶ月後に偽薬比38.3%低下した。

リンク: 同社のプレスリリース(atrasentan)
リンク: 同(Fabhalta)


日本新薬、DMD用薬の市販後薬効確認試験がフェール
(2024年5月27日発表)

日本新薬はアンチセンス核酸薬Viltepso(viltolarsen)を、エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子欠損を持つデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として開発、20年3月に日本で条件付き早期承認を、同月8月には米国でも加速承認を、取得した。エビデンスは第2相試験におけるジストロフィン発現増というサロゲート・マーカーで、日米とも、第3相試験で臨床的な便益を確認するよう求められた。しかし、今回、フェールしたことが発表された。

このRACE53試験は歩行可能な男児77人を偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして48週間治療し、TTS(床から立ち上がるのに要した時間)の改善を図ったが、両群とも改善し、有意な差はなかった。有害事象発現率は差がなかった由。

患者が望むのは立ち上がることだけではないだろうから、副次的評価項目に設定された10m走行/歩行テスト、6分歩行テスト、ノース・スター歩行評価、4段昇段テストなどの成績も気になるところだ。主評価項目も含めて、あまり拙い成績だったら承認が取り消される可能性もあるだろう。

本試験は標準的な治療薬であるグルココルチコイドの用量増減の影響を受けないようデザインされていたが、一部報道によると、上手くワークしなかった可能性もあるようだ。もしそうだったとしても、ステロイド増量で対処できるならば高価な新薬を併用する必要は無いと医療保険会社に言われる可能性があるので、副作用がネットで減少するとか何らかの便益が欲しい所だ。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdfファイル)


ギリアド、抗TROP-2抗体の市販後薬効確認試験がフェール
(2024年5月30日発表)

ギリアド・サイエンシズはTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第3相転移尿路上皮腫試験がフェールしたと発表した。米国で加速承認時に市販後薬効確認試験に指定されており、取消しの可能性が生じた。実薬対照試験なので必ずしも有意に上回らなければならない訳ではないが、有害事象による死亡に群間の偏りがあった点が気がかり。

このTROPiCS-04試験は白金ベース化学療法と抗PD-(L)1抗体による治療歴を持つ患者を組入れて全生存期間を医師が選んだ薬(モノセラピー)と比較した。数値上上回ったが有意水準には届かなかった。有害事象による死亡が増加した主因は好中球減少症の合併症。米国のレーベルはG-CSFの予防的投与を検討するよう推奨している。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、PI3K阻害剤を承認申請
(2024年5月29日発表)

ロシュは米国でRG6114(inavolisib)を承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月27日。

PIK3CA変異を持ちHR陽性、her-2陰性の局所進行/転移乳癌で、術後アジュバント療法中または完了12ヶ月以内に再発した患者を組入れて、ファイザーのIbrance(palbociclib)及びアストラゼネカが創製したfulvestrantに追加投与した試験で、PFS(無進行生存期間、治験医評価)がメジアン15.0ヶ月と偽薬追加群の7.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。全生存期間の解析は未成熟だが中間でハザードレシオ0.64、p=0.03(アルファは0.0098)と好ましい方向を向いている。

PI3K阻害剤で、PI3Kアルファ選択性が高いため忍容性に優れる可能性がある。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダを悪性胸膜中皮腫に適応拡大申請
(2024年5月29日発表)

MSDは米国でKeytruda(pembrolizumab)を切除不能進行/転移悪性胸膜中皮腫の一次治療に化学療法と併用する適応拡大申請を行ない受理された。優先審査を受け、審査期限は9月26日。カナダとフランスの共同治験グループが主導した第2/3相KeyNote-483試験で、メジアン生存期間が17.3ヶ月と化学療法だけの16.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.79、p=0.0324だった。

類薬ではブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用が20~21年に米欧で承認されている。メジアン生存期間が18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74だった。

リンク: MSDのプレスリリース


サークリサを多発骨髄腫一次治療に適応拡大申請
(2024年5月27日発表)

サノフィは抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)を移植不適多発骨髄腫の一次治療に併用する適応拡大を米国で申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は9月27日。日本では5月に一変申請、EUでも申請中とのこと。

エビデンスはIMROZ試験。80歳未満の患者をVRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、dexamethasoneによる寛解導入とlenalidomideとdexamethasoneによる維持療法)に追加してPFS(無進行生存期間)の延長を図ったもの。データは未発表だが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)の抄録によると、ハザードレシオは0.596、メジアン60ヶ月追跡してメジアンPFSは未達、VRdレジメンだけの群は54.3ヶ月だった。CR(完全反応率)は各群64.1%と74.7%、MRD-CR(微小残存病変(感受性水準10^-5)ベースの完全反応率)は40.9%と55.5%、確認MRD-CR(12ヶ月以上持続)は24.3%と46.8%だった。

G5治療時発現有害事象の発生率は5.5%と11.0%で大きな差があるが、効果が高い分、治療期間が長くなることも一因のようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJ、欧州で皮下注用抗EGFRxMET二重特異性抗体の皮下注用を承認申請
(2024年5月31日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはEGFRとMETに結合する二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab)の皮下注用製剤の治験成績を発表すると共に、EUで承認申請したことを明らかにした。米国でも申請予定。

21年に米欧でEGFRにエクソン20に活性化挿入変異を持つ非小細胞性肺癌の二次治療に承認され、24年には化学療法併用による一次治療に適応拡大した。

EGFRにエクソン19欠損又はL858R置換を持つ非小細胞性肺癌の一次治療におけるEGFR阻害剤lazertinibとの併用試験も成功し、欧米日で承認申請中。今回の試験はこの用途・用法において現行の静注点滴用製剤と新開発の皮下注用製剤を比較したもの。ORR(客観的反応率も)も薬物動態も非劣性、点滴関連反応の発生率は13%と、静注用の66%の5分の1に減少した。皮下注の投与時間は5分、静注用は点滴関連反応を抑制するために第1週は二日連続で4~8時間ずつかけて投与する必要がある。皮下注用が承認されれば患者や医療従事者の時間や医療スペースを節約できることになる。尚、lazertinibは経口剤。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、アジンマなどの承認を支持
(2024年5月31日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品のAdzynma(rADAMTS13)は先天性血栓性血小板減少性紫斑症の酵素補充療法。von Willebrand因子の切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)の欠乏を補う。血漿由来の薬より活性が数倍高い。患者が少なく十分な臨床試験を行うことができない疾病に適用される、例外的条項に基づく承認を勧告した。米国では昨年11月に、日本でも今年3月に、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

イタリアのSIFI SPAが申請したAkantior(polyhexanide 0.08%点眼液)は、重度進行性で視力に影響する疾患であるアカントアメーバ角膜炎の治療薬。臨床試験で臨床的治癒率が86%だった、12歳以上が適応になる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SIFIのプレスリリース(PR Newswire)

中国のCStone Pharmaceuticals(基石藥業、HKEX:2616)が創製しEUではSFL Pharmaceuticals Deutschland GmbHが承認申請した抗PD-L1抗体、Cejemly(sugemalimab)は、成人の未治療転移非小細胞性肺癌に化学療法と併用する。EGFR、ALK、ROS1、あるいはRETの分子標的薬が適応にならない癌が適応になる。中国で実施された第3相試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン8.9ヶ月と化学療法・偽薬併用群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54だった。中国ではこの用途を含む複数の適応で承認されている。米国は、FDAが専ら中国で実施された臨床試験に基づく承認に後ろ向きな姿勢を示したため、ライセンシーのEQRx社は経営が行き詰まり、手元キャッシュに目を付けたRevolution Medicines(Nasdaq:RVMD)に株式交換方式で買収され、EQRx自身の活動は打ち切られた。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーがSpark Therapeutics(現在はロシュ・グループ)からライセンスして開発したDurveqtix(fidanacogene elaparvovec)は成人の中重度B型血友病の遺伝子療法。条件付き承認が支持された。Rh74型アデノ随伴ウイルスをベクターとして高活性変異型であるPadua型第IX因子の遺伝子を導入する。第IX因子インヒビターや、このベクターに対する自己抗体が検出されない患者が適応になる。臨床試験では出血事象発生率(年率)が1.44と、第IX因子の予防的投与を施行したリードイン期間の4.50を大きく下回った。米国ではBeqvez名で4月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのFluenzは点鼻用のインフルエンザ弱毒化生ワクチン。2~17歳の小児に用いる、A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア株の3価ワクチン。2012~3年に米欧で4価ワクチンが承認されたが、16年頃から米国の疫学研究でワクチン効率の顕著な低下が見られ、その後回復したが、19年には株の育ちが今一つで出荷量が激減するなど、しばしば不安定な状態に陥った。3価ワクチンの申請は、少なくとも2023/24シーズンに関しては4価ワクチンの投入を断念したということなのだろうか?
(6月11日訂正:3価ワクチンの申請は、B/Yamagata株が流行しなくなり配合する必要がなくなったことが背景のようです。WHOなどが今後は3価ワクチンを使用するよう推奨しています。お詫びして訂正いたします。)

リンク: EMAのプレスリリース

Eckert & Ziegler Radiopharma GmbH社のGalliaPharm(germanium (68Ge) chloride / gallium (68Ga) chloride)はPET造影などに用いる放射性核種。キャリアを標識して神経内分泌腫瘍や前立腺癌の診断に用いる。同社は日本でも2月にノバルティスと共同で開発すべく治験届を提出した。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのValneva SE(Euronext Paris:VLA)のIxchiqは初のチクングニア熱ワクチン(弱毒化、生)。ネッタイシマカやヒトスジシマカなどが媒介するチクングニア・ウイルス感染症を予防する。成人に一回筋注する。臨床試験では28日後の抗体獲得率98.9%、その97%は接種12ヶ月後にも維持されていた。米国では昨年11月に加速承認されたが、重度チクングニア様有害事象の発生率が1.6%と偽薬群のゼロを上回ったため、エンデミック国であるブラジルにおける観察的試験などで確認することになった。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)のZegalogue (dasiglucagon) は6歳以上の糖尿病患者が重度低血糖症を発症した時のレスキュー用薬。グリコーゲン分解ホルモンのペン型皮下注用薬で、粉末製剤より使いやすい。米国では21年に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大/一部変更も支持された。

  • Regeneron Pharmaceuticals/サノフィのDupixent(dupilumab):成人の好酸球増加を伴うCOPDで、三剤(吸入コルチコステロイド不適の場合は二剤)併用しても管理不十分な場合に追加投与する。米日でも申請中だが、米国は臨床試験のサブグループ分析を要求され、審査期限が9月27日に延期された。

  • STADA Arzneimittel AG.のKinpeygo(budesonide):IgA腎症における適応を微調整。急速進行性を削除、UPCR(尿蛋白クレアクチン比)1.05g/g以上を0.8g/g以上に引き下げ、尿蛋白排泄量が1g/日以上の場合も使えることに。Calliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT、Nasdaq Stockholm:CALTX)が米国でTarpeyo名で販売している経口投与用遅延放出性カプセル剤を導入したもの。。

  • Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)のLivmarli(maralixibat):3ヶ月児以上のPFIC(進行性家族性肝内胆汁鬱滞症)。米国では3月に5歳以上向けに承認。頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤で、最初の適応はアラジール症候群。

  • アッヴィのSkyrizi(risankizumab):伝統的治療やバイオ薬に十分に応答しない、または不耐の中重度活性期潰瘍性大腸炎。米日でも適応拡大申請中。

  • アストラゼネカのTagrisso(osimertinib):成人のEGFRにエクソン19欠損又はエクソン21L858R置換のある進行非小細胞性肺癌の一次治療に化学療法と併用する。米国は2月に承認。

  • 一方で、以下の二剤は申請撤回となった。

  • Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)のKinharto(omecamtiv mecarbil):心不全治療薬として欧米で承認申請したが効果が小さいことなどから米国は審査完了、EUも後ろ向きだったため、申請を取下げた。バックアップ・コンパウンドのaficamtenにシフトすることを決めた。

  • Clinuvel Pharmaceuticals(ASX:CUV)のScenesse(afamelanotide):EPP(赤血球産生性プロトポルフィリン症)治療薬の小児適応を申請したが、至適用量の検討などが不十分と見なされ、撤回した。

  • EUで鬱病治療薬として承認されているセルビエのメラトニン受容体作動剤Valdoxan(agomelatine)は、小児適応の申請に対して、CHMPが検討不十分と後ろ向きな姿勢を示したためメーカー側は撤回したが、CHMPは根拠となった臨床試験のデータをレーベルに記載することには同意した。

    このほかに、PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)は、今年1月、CHMPが条件付き承認の年次更新を行わないよう勧告したが、別の承認申請案件に関する欧州司法裁判所の判決の余波で、再審査することになった。神経学の専門家諮問グループ(SAG-N)を招集せず臨時会合で済ませたことや会合出席者の利益相反などを指摘されたため、Translarnaに関してもSAG-Nを招集すると共に、新しいリアルワールド・データの評価など、便益と危険の再検討を行う。

    【承認】


    モデルナのmRNA型RSVワクチンが承認
    (2024年5月31日発表)

    モデルナはFDAがmResviaを60歳以上のRSウイルスによる下部気道感染症の予防用ワクチンとして承認したと発表した。6月26~27日にACIP(米国疾病管理予防センターのワクチン接種勧奨委員会)に上程される予定。欧日でも承認申請中。

    融合前F糖蛋白をエンコードするmRNAをリピッド・ナノパーティクルに封入したワクチン。日本を含む22ヶ国で約37000人を組入れて50mcg/0.5mLまたは偽薬を一回筋注した試験で、メジアン3.7ヶ月追跡時点のワクチン効率が約80%、8.6ヶ月追跡時点では約62%だった、有害事象は注射箇所反応など。mRNAワクチンなので零下15~40℃で保管し、解凍して接種する。プリフィルド・シリンジ。

    COVID-19ワクチンとは異なりRSVではGSKやファイザーが1年早く抗原型ワクチンを発売している。米国の普及率は10~20%に留まっている模様であり、3社目の参入で啓蒙活動が活発化し市場が活性化するか、注目される。ファイザーのシェアが今一つなのはCOVID-19ワクチンの販売体制縮小と関係あるのではないかと邪推しているが、モデルナはどうだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ブレヤンジがマントル細胞腫に適応拡大
    (2024年5月30日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがCAR-T療法Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の適応拡大を承認したと発表した。成人のBTK阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ難治/再発マントル細胞腫に用いる。第1相TRANSCEND NHL試験のマントル細胞腫コフォートで、68人中85%が応答(完全反応率67.6%)、メジアン反応持続期間は13.3ヶ月だった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
    24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
    24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
    24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
    24/6/16GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群)
    24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
    24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
    24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
    24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
    24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
    24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
    24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
    24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
    24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
    諮問委員会
    24/6/4 PDAC:Lykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine、PTSD補助療法)
    24/6/5 VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討
    24/6/10 PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)



    今週は以上です。

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