2024年6月9日

第1058回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • Vanda、今度はパブヒア手続き認められたが... 
  • 黒色腫の新しいウイルス療法を承認申請へ 
  • ユプリズナのIgG4関連疾患試験が成功 
  • ギラン・バレー症候群の第3相が成功 
  • BMSの免疫調停薬二剤併用が肝細胞腫でVEGFR阻害剤単剤に勝つ 
  • 家族性カイロミクロン血症候群のRNAi治療薬を承認申請へ 
  • PKR活性化剤のサラセミア試験が成功 
  • Blenrepの復活に向け二本目の試験が成功 
  • タグリッソの地固め療法試験が成功 
  • イミフィンジの小細胞性肺癌維持療法試験が成功 
  • エンハーツはハーツーがちょっとでも有効 
  • 腎細胞腫のPET診断薬を承認申請 
  • 抗体サイトカイン複合体を欧州で黒色腫ネオアジュバントに承認申請 
  • FDA諮問委員会、MDMA承認に反対 
  • FDAも24/25シーズンのCOVID-19ワクチン株にJN.1を推奨 
  • GSK、RSVワクチンが50歳にも承認 
  • テロメラーゼ阻害剤がMDSに承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


Vanda、今度もパブヒア機会が認められたが...
(2024年月日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)はMT1/2受容体作動剤Hetlioz(tasimelteon)をジェット・ラグによる不眠や入眠困難型不眠症の治療薬としてFDAに効能追加申請を行ったが、どちらも承認されなかった。臨床試験でFDAが重視する評価項目の一つをオミットしたことや、薬効確認試験を一本しか実施せずその試験もp値が十分に低くなかったことなどが理由。Vandaはジェット・ラグに関する審査完了通知を受領した3年後に広聴(パブヒア)機会を請求し、認められたが、双方のやり取りやコロンビア特別地区地裁における審理、決定を経て、FDAは、事実的根拠が不十分であることなどから、パブヒアを行わない決定をした。

入眠困難型不眠症に関しても今年3月に審査完了通知を受領した後にパブヒア機会を請求し、今回、官報に掲載される予定のVandaや利害関係者向け公告が公開された。希望者は掲載から30日以内にパブヒアの意向を通知し、同60日以内に根拠を通知することができる。

Hetloizは既にテバなどがGE薬を発売しているので、これ以上粘っても株主の財産を損なうだけのように感じられる。尚、同社を巡っては今年に入って二社が企業買収を提案、Future Pakの提案は一株当たり$6.75で始まり、$7.25~7.75およびConvertible Value Rightに引き上げられたが、取締役会が5月に過小評価として拒否。今回、Cycle Groupが一株当たり$8で打診してきたため取締役会で検討することが決まった。同社や株主にとって最善であるかどうか検討するとしており、株主の利益を最重視する企業風土ではないのだろう。

リンク: Federal Registerの当該頁


【新薬開発】


黒色腫の新しいウイルス療法を承認申請へ
(2024年6月6日発表)

Replimune Group(Nasdaq:REPL)は、RP1が第2相IGNYTE試験で良績を挙げたと発表した。FDAと承認申請前ミーティングを行って下期に承認申請する考え。

RP1は細胞融合性蛋白GALV-GP R-とGM-CSFの遺伝子を組み込んだHSV-1療法。この第2相は、抗PD-1抗体(抗CTLA4併用可)で8週間以上治療しても進行が止まらなかった黒色腫140人を組入れて、2週毎に8回投与すると共に、第2サイクルからnivolumabも2週毎に最大29回投与して、ORR(客観的反応率、独立中央評価)を検討した。主評価項目のmodified RECIST 1.1ベースでは33.6%、FDAの要請で実施したRECIST 1.1ベースでは32.9%だった。メジアン反応持続期間は35ヶ月超(起算はベースライン時点)。G4有害事象はリパーゼ上昇、肝臓酵素上昇、ビリルビン上昇、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肝サイトーシス、脾臓破裂が各1例、G5はなかった。

加速承認を得るためには第3相薬効確認試験に十分な数の被験者を組入れ済みである必要がある。同社は第3四半期に全生存期間を医師が選んだ実薬と比較するIGNYTE-3試験の組入れを開始する予定。

抗PD-(L)1抗体不応の悪性黒色腫用薬としてはIovance Biotherapeutics(Nasdaq:IOVA)の自家腫瘍浸潤リンパ球療法、Amtagvi(lifileucel)が2月に米国で承認されている。ウイルス療法としてはアムジェンのGM-CSF発現HSV-1療法薬、Imlygic(talimogene laherparepvec)が、15年に米欧で術後に再発した切除不能悪性黒色腫の局所的治療に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


ユプリズナのIgG4関連疾患試験が成功
(2024年6月5日発表)

アムジェンはUplizna(inebilizumab)の第3相IgG4関連疾患フレア予防試験、MITIGATEで主目的と主要副次的評価項目を達成したと発表した。米国などで適応拡大申請する考え。

IgG4関連疾患はIgG4値上昇を特徴とする進行性臓器障害。日本で発見・概念提唱されるまでは自己免疫性膵炎など、個々の表現形別に認識されていた。CD19陽性細胞などによる自己免疫疾患と推測されており、様々な臓器が不可逆的な損傷を受ける。罹患率は10万人当り1-5人と推測されているが、広く知られた疾患ではなくシェーグレン症候群など症状が似た疾患もあるため、過小の可能性がある。治療は高量ステロイドが有効だが、安全性配慮から減量したり中断したりするとフレアのリスクがある。抗CD19抗体rituximabがオフレーベル使用されることもあるようだ。

UpliznaはCD19を標的とする脱フコシル化モノクローナル抗体。開発企業はCellective Therapeutics→Mediimune→Viela Bio→Horizon Therapeutics→アムジェンと、企業買収やスピンアウトによる変遷を経た。20~21年に日米で中枢神経系自己免疫疾患であるNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の再発予防薬として承認された。

今回、多臓器疾患を合併しステロイドによる活性期治療を受けている高リスクIgG4関連疾患の成人135人を偽薬群と300mg群に無作為化割付けして、ステロイド量漸減と並行して第1日、15日、第28週に点滴静注して再発リスクを比較したところ、偽薬比87%小さかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ギラン・バレー症候群の第3相が成功
(2024年6月4日発表)

米国カリフォルニア州で古典的補体系が関連する疾患の治療薬を開発している企業、Annexon(Nasdaq:ANNX)は、ANX005の第3相ギラン・バレー症候群(GBS)治療試験で主目的を達成したと発表した。低用量群のGBS-DS(ギラン・バレー症候群機能尺度)が偽薬比2.4倍改善した。欧米で実態調査を実施して外挿性を確かめた上で25年上期に米国で承認申請する考え。

ANX005は補体系のC1qを阻害する点滴用薬。今回の試験はバングラディッシュとフィリピンの施設で発症10日以内、GBS-DSが3~5点の患者241人を偽薬、30mg/kg、75mg/kgの3群に無作為化割付けして、一回点滴静注し、第8週における数値を比較した。30mg/kg群は比例オッズ分析で偽薬群を2.4倍上回り、p=0.0058だった。副次的評価項目の筋力や人工呼吸日数も有意に改善した。治療関連有害事象は点滴関連反応(発生率30%)など。

最近はFAQという単語を見かけなかったが、同社のプレスリリースは色々な何故、に予め答えている。なぜ両国で実施したのか?GBSの標準治療は免疫グロブリン静注だが米国では未承認で便益の度合いが確立していないため、FDAが偽薬対照試験を推奨した。そこで、GBS症例が多く、免疫グロブリンによる治療体制が整っていない両国で実施した。米国の患者に外挿できるのか?FDA相談を踏まえて、欧米で2000人の患者を1~3年追跡するリアル・ワールド試験を行って、比較可能性を確認する。第3相試験の組入れ基準は西側社会のGBS患者の5割をカバーできると推定。なぜ、高用量群はフェールしたのか?古典的補体系の暴走による組織損傷は1週間程度で終わり、その後はむしろ神経修復を促す。30mg/kgの効果は1週間程度だが75mg/kgは2~3週間続くので、C1q抑制期間が長すぎたと考えられる。

ANX005はハンチントン病でも30人足らずの第2相で好ましい成果を挙げている。

リンク: 同社のプレスリリース


BMSの免疫調停薬二剤併用が肝細胞腫でVEGFR阻害剤単剤に勝つ
(2024年6月4日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは切除不能肝細胞腫の一次治療におけるOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用法を検討した第3相CheckMate-9DW試験の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。668人の患者を両剤併用群(最初の4サイクルはOpdivo 1mg/kgとYervoy 3mg/kgを3週毎に投与、その後はOpdivo 480mgを4週毎投与)と医師が選んだ薬群(選択肢はsorafenibとlenvatinib)に無作為化割付けして全生存期間を比較したところ、中間解析でメジアン生存期間が各群23.7ヶ月と20.6ヶ月、ハザードレシオは0.79、p値は0.018でまあまあ低かった。副次的評価項目の客観的反応率は各36%と13%、メジアン反応持続期間は30.4ヶ月と12.9ヶ月、G3/4治療関連有害事象発生率は41%と42%だった。適応追加申請に向かうだろう。

Opdivoは第2相試験のORRとメジアン反応持続期間に基づき切除不能肝細胞腫の二次治療に単剤投与することが米国で加速承認されている。第3相一次治療単剤投与試験では全生存期間でsorafenibを上回ることができなかったが、今回の試験も市販後薬効確認試験に位置付けられているので、本承認切替の可能性がありそうだ。

よく分からないのは、最近の類似試験の実薬群の数値がやけに良いことだ。分かりやすいのはエーザイ/MSDのVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib)。sorafenib対照試験のメジアン生存期間は13.2ヶ月だったたが、5年後に開票したKeytruda(pembrolizumab)併用試験の対照群としての成績は19.0ヶ月と、7ヶ月近くも増加した。これは、下表の6試験の群間差を遥かに凌ぐ。治療オプションが増えて臨床試験には比較的軽い人しか参加しなくなったのか、二次、三次治療が進歩したのか、実施地域の違いか、それとも、試験薬以外の医療技術が進歩したのだろうか?

切除不能肝細胞腫一次治療試験の成績
発表年試験薬OS対照薬OSHR成否
2017lenvatinib13.2ヶ月sorafenib12.3ヶ月0.92成功
(非劣性検定)
2019nivolumab16.4ヶ月sorafenib14.7ヶ月0.85フェール
2019atezolizumab
+ bevacizumab
約19ヶ月sorafenib13.2ヶ月0.58成功
2021durvalumab
+ tremelimumab
16.4ヶ月sorafenib13.8ヶ月0.78成功
2022lenvatinib
+ pembrolizumab
21.2ヶ月lenvatinib19.0ヶ月0.84フェール
2024nivolumab
+ ipilimumab
23.7ヶ月sorafenib
またはlenvatinib
20.6ヶ月0.79成功
注:第1行の試験以外は優越性検定。OS=メジアン生存期間、HR=ハザード比。

リンク: 同社のプレスリリース


家族性カイロミクロン血症候群のRNAi治療薬を承認申請へ
(2024年6月3日発表)

Arrowhead Pharmaceuticals(Nasdaq:ARWR)はARO-APOC3(plozasiran)の第3相家族性カイロミクロン血症候群試験が成功したと発表した。75人の成人患者を組入れて10ヶ月治療した試験で、空腹時トリグリセライド値が25mg群は80%減少、50mg群は78%減となり、偽薬群の17%減を有意に上回った。急性膵炎も有意に抑制された。治療時発現有害事象は各群同程度。年内に承認申請する考え。

アポリポ蛋白C-IIIを沈黙させ、TRL(トリグリセライド・リッチ・リポ蛋白)の分解やTRLレムナントの肝吸収が妨げられないようにするRNA介入薬。重度トリグリセリド血症の第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


PKR活性化剤のサラセミア試験が成功
(2024年6月3日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はPyrukynd(mitapivat)の第3相輸血依存サラセミア試験が成功したと発表した。1月に成功した非輸血依存サラセミア試験と合わせて年内に承認申請する考え。

ピルビン酸キナーゼRのアロステリック・アクティベータで、22年に米欧でピルビン酸キナーゼ欠乏症の成人における溶血性貧血の治療薬として承認されている。今回のENERGIZE-T試験は輸血依存アルファ/ベータ・サラセミアの成人194人を組入れて、100mgを一日二回経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目の輸血減少応答率(赤血球輸血半減且つ48週間の治療期間中に12週以上連続で輸血量がベースライン比2単位以上減少)が30.4%と偽薬群の12.6%を有意に上回った。有害事象による治験離脱の発生率は5.8%対1.2%で若干上昇した。

リンク: 同社のプレスリリース


Blenrepの復活に向け二本目の試験が成功
(2024年月日発表)

GSKはASCO(米国臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で抗BCMA抗体薬物複合体Blenrep(belantamab mafodotin)の第3相DREAMM-8試験の成績を発表した。先に成功発表されたDREAMM-7試験と同様な、治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫における3剤併用試験で、違いは併用薬及び対照薬と、今回は用量を若干抑えていること。

Blenrepは多発骨髄腫のサルベージ・セラピーとして単剤投与した第2相試験に基づき2000年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験で実薬を凌ぐPFS(無進行生存期間)が確認されず、米国は23年2月に承認取消し、EUもCHMPが昨年12月に年次更新しないよう勧告した。ところが、今になって上記二本が成功、年内に日米欧で承認申請される見込み。

DREAMM-8はBPdレジメン(belantamab mafodotin、pomalidomide、dexamethasone、28日サイクル)を日欧で承認されているPVdレジメン(pomalidomide、bortezomib、dexamethasone、21日サイクル)と比較した。belantamab mafodotinの承認時の用量用法は2.5mg/kg3週毎でDREAMM-7試験も同じだが、この試験では4週毎で2回目以降は1.9mg/kgを投与した。3月に独立データ監視委員会が中間解析で目的達成を認定、PFS(無進行生存期間)のハザード・レシオが0.52、12ヶ月PFS率は71%対51%、全生存期間は未成熟だが点推定値はハザードレシオが0.77、12ヶ月生存率は83%対76%と、良さそうに見える。

尚、DEAMM-7はbortezomibとdexamethasoneをベースにbelantamab mafodotin追加群とdaratumumab追加群のPFSを比較したもの。ハザードレシオは0.41、メジアン値は36.6ヶ月対13.4ヶ月だった。

多発骨髄腫は一次治療から多剤併用が一般的になったので、二次以降は使わなかった薬から選ぶことになる。一次治療でbortezomibも使うケースも多い模様だが、使わなかった患者の場合、bortezomib及びdexamethasoneにbelantamab mafodotinを追加するか、pomalidomide追加か、を比較するほうが一般的であるように感じられるが、今って違うのだろうか?

リンク: DimopoulosらのNEJM論文抄録


タグリッソの地固め療法試験が成功
(2024年6月2日発表)

アストラゼネカはASCOでTagrisso(osimertinib)の第3相LAURA試験の成績を発表した。切除不能ステージIII非小細胞性肺癌でEGFRにエクソン19欠損又はエクソン21のL858変異を持ち、治癒目的の化学放射線療法後に進行しなかった患者216人を組入れて、偽薬または80mgを一日一回経口投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.16、メジアン値は各群5.6ヶ月と39.1ヶ月と、大きな差があった。全生存期間は未成熟で、偽薬群の患者は進行後に試験薬にクロスオーバーできるため差が稀薄化される可能性があるが、中間解析のハザードレシオは0.81と正しい方向を向いている。G3以上の有害事象発現率は各群12%と35%。

Tagrissoは初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つ変異型に強いEGFR阻害剤。化学療法併用で非小細胞性肺癌の一次治療に用いることなどが米欧日で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: RamalingamらのASCO抄録


イミフィンジの小細胞性肺癌維持療法試験が成功
(2024年6月2日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の限局型小細胞性肺癌維持療法試験、ADRIATICの成績をASCOで発表した。同時化学放射線療法後に進行しなかった患者を組入れて1500mgを4週毎投与する効果を偽薬と比較したところ、全生存期間のハザードレシオが0.73、p=0.01、メジアン値は各55.9ヶ月と33.4ヶ月、3年生存率は各57%と48%と、大きな延命効果が示された。共同主評価項目のPFSもハザードレシオが0.76、p=0.016だった。G3/4有害事象の発現率はなぜか両群同程度だった。

この試験は抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab)を併用する群の全生存期間やPFSも副次的評価項目に設定されているが、まだ熟していない模様で、継続追跡中。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツはハーツーがちょっとでも有効
(2024年6月2日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(trastuzumab deruxtecan)の第3相DESTINY-Breast06試験の成績をASCOで発表した。her2発現度が低または極低の進行/転移乳癌で転移後に内分泌療法を二次以上、またはCDK4/5阻害剤併用一次治療を受け6ヶ月以内に進行した患者を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を実薬(capecitabine、paclitaxel、またはnab-paclitaxelの中から医師が選択)と比較したところ、主評価項目であるher2低発現サブグループ(866人中713人)ではハザードレシオ0.62、メジアン値は各群13.2ヶ月と8.1ヶ月、副次的評価項目である全被験者の解析では各0.63、13.2ヶ月、8.1ヶ月と、何れも有意な差があった。探索的なher2極低サブグループの解析でも0.78、13.2ヶ月、8.3ヶ月と良さそうな成績。

全生存期間の解析は未成熟だが、第1次中間解析のハザードレシオはher2低で0.83、全体で0.81、her2極低は0.75と好ましい方向を向いている。

G3以上の治療関連有害事象発現率は試験薬群が40.6%、対照群は31.4%。Enhertuの泣き所である間質性肺疾患/肺臓炎の発生率は11.3%で、G3/4は0.7%、G5も0.7%だった。対照群はG2が1人0.2%だけだった。

尚、Enhertuが登場するまでher2標的薬の適応はIHC法her2検査で3+、または2+で且つISH法で陽性の場合だけだった。乳癌の2割前後が該当する。IHC法の0は染色増が認められない、または10%以下の腫瘍細胞に不完全で微かな膜染色が認められることを意味する。今回の試験で適応範囲が極低にまで広がったら、IHC法の0をさらに細かく分類しなければならなくなるが、判定は容易ではないようだ。今回の試験でも、極低の判定は治験施設の評価を中央査読した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: CuriglianoらのASCO抄録


【承認申請】


腎細胞腫のPET診断薬を承認申請
(2024年6月3日発表)

オーストラリアのTelix Pharmaceuticals(ASX:TLX)は米国でTLX250-CDx(89Zr-DFO-girentuximab)のローリング承認申請を完了したと発表した。放射性核種で標識した抗体医薬で、腎淡明細胞腫のPET診断に用いる。臨床試験で感度が86%、特異度87%、陽性的中率(PPV)は93%だった。ブレークスルー・セラピー指定を受けているので優先審査指定されるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


抗体サイトカイン複合体を欧州で黒色腫ネオアジュバントに承認申請
(2024年6月4日発表)

イタリア証券取引所上場のPhilogen(BIT:PHIL)とインドのSun Pharmaceutical(BSE:524715)は、EMA(欧州薬品庁)にNidlegy(daromun)を局所進行性黒色腫のネオアジュバント(術前薬物補助)療法として承認申請した。

ASCOでエビデンスとなるPIVOTAL試験の成績が発表された。独伊仏ポーランドの施設で全摘可能な局所進行性黒色腫256人(9割超が手術/薬物治療歴あり)を組入れて、L19IL2(腫瘍細胞で発現するfibronectinのエクストラ・ドメインBに結合する抗体にIL-2を結合)とL19TNF(同抗体にTNFを結合)を混合して術前に週一回、最大4回、腫瘍内投与したところ、RFS(無再発生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン16.7ヶ月と、投与しなかった群の6.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、log-rank p=0.005だった。遠隔転移のリスクも低下した。試験薬群のG3治療時発現有害事象発生率は12.7%だった。

尚、この試験は術後薬物療法も許容されていたが、試験薬群の施行率は40.5%と対照群の29.8%より高かった。

Sun Pharmaceutical(BSE:524715)は欧州やオーストラリア、ニュージーランド市場で開発販売する権利を持っている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 同(ASCO発表について、5/31付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、MDMAの承認に反対
(2024年6月4日発表)

FDAは精神薬理学薬諮問委員会を招集し、Lykos Therapeutics Public Benefit Corporation(旧社名MAPS Public Benefit Corporation)がPTSD(トラウマ後ストレス障害)の精神療法補助薬として承認申請したmidomafetamine(通称MDMA)の臨床成績評価について意見を求めた。便益が示されているか、という問いには2名がイエス、9名はノーと答え、FDAが提案するREMS(リスク評価・緩和戦略)が導入されることを前提に便益が危険を上回るか、という問いにはイエス1名、ノー9名と、圧倒的多数が承認に反対した。審査担当者の懸念が裏付けられた格好で、おそらく、承認されないだろう。審査期限は8月11日。

MDMAは依存性のある覚醒剤で、DEA(米連邦麻薬取締局)が最も厳しい規制が課されるスケジュールI物質に指定している。一方で、規制緩和の動きもあり、40近い州では合法化されている。医薬品化に向けた動きも活発で、先頭に立っているのがLykosだが、依存性もあるので、危険性の確認と、それを上回る便益の立証がマストであることを、今回のエピソードは浮き彫りにした。

第3相試験は一本では重症PTSDの患者90人、もう一本は中等症重症の104人を組入れて、3サイクルのセッションを施行した。一つのサイクルは3~5週間に、サイコセラピーだけのセッション(90分)を週一回、合計3回と、偽薬または試験薬を併用するセッション(8時間)を一回施行した。試験薬群は第1サイクルは34mgカプセル2個を投与し、1.5~2時間後に1個追加投与、第2、第3サイクルは50mgカプセル2個と1.5~2時間後に更に1個、経口投与した。

主評価項目は第18週におけるCAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5)総合重症スコアのベースライン比変化。重症試験ではベースライン値(44点)比24.4点減、偽薬群は13.9点減、p<0.0001。中等症重症試験ではベースラインの39点から各群23.7点と14.8点減少した(p<0.001)。副次的評価項目のmodified Sheehan Disability Scaleでも有意な差が見られた。

諮問委員会の主要な論点は二つ。第一は二重盲検がワークしていないこと。服用すると直ぐに気分影響などが現れるため被験者と担当医が容易に見分けてしまう可能性が高い。実際、事後的な調査で試験薬群の9割、偽薬群の75%が割付けを正しく推測できた。CAPS-5症状スコアなどの評価は第三者がビデオ会議を通じて盲検下で行ったが、被験者の割付けに関する自覚が回答に影響したり、評価者が割付けを推測したりすることも不可能ではなかっただろう。FDA側は第3相前の会議で低量を偽薬代わりに用いることを提案したが、Lykosは、低量は病状を悪化させるリスクがあるとして、採用しなかった。

第二は安全性。違法使用時の有害事象として依存性や心臓疾患、肝臓疾患などが報告されているが、FDAは、第3相試験でのリスク評価が不十分と断じた。まあ、薬にも自動車の型式認定のようなことがあるのだろうが、FDAの指摘内容は素人目にもリーズナブルであり、もし独自に安全性を確認していると主張するのならば、何をどう確認したのか説明してもらわないと困る。

米国は体重管理薬や鎮痛剤、胃腸薬などで大きな薬害訴訟が起きた。その意味でも、事前にリスクを十分に浮き彫りにした上で承認を取らないと、副作用被害にあった人たちにI told youと言えない。

リンク: 同社のプレスリリース


FDAも24/25シーズンのCOVID-19ワクチン株にJN.1を推奨
(2024年6月7日発表)

FDAは、6月5日のVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)における議論を踏まえて、2024/25年シーズンのCOVID-19ワクチンはJN.1一価ワクチンとするようメーカーに推奨した。EUやWHOと足並みが揃った。

CDC(米連邦疾病管理予防センター)の推定によると、米国で5月25日に終わる2週間のCOVID-19感染例における株毎の構成比はオミクロン系統のKP.2が28%、KP.3が13%と2ヶ月前の1~2%から大きく上昇しており、逆に、3か月前には93%を占めたJN.1株は、2ヶ月前に54%、直近では8.4%にまで低下している。23/24年シーズンのXBB.1.5ワクチンはJN.1などに対する効果が低下するため株を変える方が良いが、流行株が変遷しているため何を選ぶか考えどころだ。

ファイザーとモデルナはJN.1ワクチンとKP.2ワクチンを開発しているが、JN.1ワクチンはKP.2株にも、KP.2ワクチンはJN.1株にも、活性を維持している模様。諮問委員会用資料を見ると、マウスの試験でJN.1ワクチンがKP.2やKP.3にもJN.1と同程度の中和抗体価を示した旨が記されている。

抗原ワクチンを販売しているノババックスはJN.1ワクチンだけを開発している模様。mRNAワクチンに抵抗感を持つ人の選択肢を用意する観点からもJN.1を選んだほうが良い、という意見もあったようだ。

これらのことから、諮問委員会では16人の委員全員がJN.1を標的とすることに賛成した。尚、これら3株は何れもオミクロンBA.2系統で、XBB.1.5はBA.2.10.1とBA.2.75.3.1.1.1の組換体、JN.1はBA.2.86の亜系統、KP.2はJN.1.11.1の亜系統とされる。

付記すると、米国でもCOVID-19ワクチンの人気が低下しており、XBB.1.5ワクチンの接種率は成人の22%、幼小児の14%に留まっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 諮問委員会プレゼン資料のリンクなどがあるFDAのページ

【承認】


GSK、RSVワクチンが50歳にも承認
(2024年6月7日発表)

GSKはFDAがRSVワクチンArexvyの適応年齢を50歳以上に拡大したと発表した。対象が1300万人程度増えることになる。臨床試験で液性免疫原性が60歳以上の試験のデータと非劣性だった。6月26日にCDC(米連邦疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が接種推奨の当否を検討する予定。日欧でも申請中。

23年に米欧日で感染時のリスクが高い60歳以上を適応として承認された、アジュバント添加ワクチン。60歳以上の2割以上が接種したとのことなので、23/24年シーズンのCOVID-19接種率と大差ないことになる。

リンク: GSKのプレスリリース


テロメラーゼ阻害剤がMDSに承認
(2024年6月6日発表)

FDAはGeron(Nasdaq:GERN)のRytelo(imetelstat)を多発骨髄腫に伴う輸血依存貧血症の治療薬として承認した。IPSS(国際予後予測スコアリングシステム)でlow/intermediate-1リスクと評価されたMDSで、8週間当り4単位以上の赤血球輸血が必要な、赤血球造血刺激因子に不応、失効、不耐の成人に、7.1mg/kgを4週毎に2時間点滴静注する。欧州でも承認申請中。

正常な細胞ではほとんど新たに発現しないが腫瘍細胞のサバイバルに寄与すると推測される、テロメラーゼのRNAコンポーネントの活性部位に結合するオリゴヌクレオチドをリピッド結合したもの。第3相試験では、メジアン19ヶ月の観察期間中に、40%の患者が8週以上連続で輸血不要だった(偽薬群は15%)。副次的評価項目の24週連続輸血独立達成率は28%だった(同3%)。有害事象は血小板減少症などの骨髄抑制と肝機能検査値の上昇など。


リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】

PDUFA
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
諮問委員会
24/6/10PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)
24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



今週は以上です。

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