2024年6月29日

第1061回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • JNJも抗新生児FcR抗体を筋無力症に承認申請へ 
  • GM-CSFの自己免疫性肺胞蛋白症試験が成功 
  • アムヴトラのATTR心筋症試験が成功 
  • イミフィンジの第3相が一勝一敗 
  • ノボ、MRAの第3相を中止 
  • Milestone社、Ca拮抗剤をPSVTに承認申請 
  • レキサルティをPTSDに承認申請 
  • 新薬三品が製造問題で審査完了に 
  • CDC、RSVワクチンの推奨トーンを変更 
  • CHMP、画期的肺動脈高血圧症用薬などの承認を支持 
  • エプキンリが濾胞性リンパ腫に適応拡大 
  • PDE3/4阻害剤がCOPDに承認 
  • マル秘情報?ピアスカイが米国でも承認された 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


JNJも抗新生児FcR抗体を筋無力症に承認申請へ
(2024年6月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、2月にJNJ-80202135(nipocalimab)が第3相全身性重症筋無力症(gMG)試験で主目的を達成したと発表したが、データをEAN(欧州神経学会)で明らかにした。年内に承認申請する考え。類薬ではアルジェニクスのVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)が抗アセチルコリン受容体抗体を持つgMG用薬として米日欧で承認されている。

20年にMomenta Pharmaceuticalsを企業価値ベース65億ドルで買収して入手した、胎児性Fc受容体を標的とする抗体医薬。第3相では標準療法に十分応答しない患者に15mg/kg(但し初回は30mg/kg)を2週毎点滴静注する効果を偽薬と比較した。主評価項目は第22~24週におけるMG-ADLのベースライン比変化。試験薬群は4.70点低下(改善)し、偽薬群の3.25点低下と有意な差があった。副次的評価項目のMG-ADL奏効率(2点以上低下した患者の比率)の解析も成功したとのことだが、プレスリリースには数値が記されていない。

Vyvgartは第3相で主評価項目のMG-ADL奏効率が67%となり偽薬群の30%を有意に上回った。MG-ADL値の増減の解析は副次的評価項目にリストアップされていない。nipocalimabは偽薬群でも平均値が2点以上改善しているので奏効率がVyvgartの試験の偽薬群よりかなり高いだろうから、二本の試験の成績は比較可能ではないかもしれない。JNJの試験が始まった半年から1年後にVyvgartが米欧日で承認されたので、その後の組入れは症状が比較的軽い患者が中心になったかもしれない。

また、JNJの試験の解析対象にはアセチルコリン受容体だけでなくMuSKやLRP4に対する抗体を持つ患者も含まれていることが影響しているのかもしれない。

リンク: JNJのプレスリリース


GM-CSFの自己免疫性肺胞蛋白症試験が成功
(2024年6月26日発表)

米国ペンシルバニア州の新薬開発会社、Savara(Nasdaq:SVRA)は、molgramostimの第3相IMPALA-2試験で主目的を達成したと発表した。来年上期に承認申請を完了する考え。

米日韓豪欧の施設で成人の自己免疫性肺胞蛋白症(aPAP)患者に300mcgを一日一回吸入させ、第24週のヘモグロビン調整DLCO(%予測値)を比較したところ、偽薬調整後で6.00となり、統計的に有意だった。副次的評価項目である48週時点の解析(6.90)や24週のSGRQ(聖ジョージ呼吸器質問票、-6.59)も成功したが、48週トレッドミル・テストはトレンドに留まった。有害事象発現率はCOVID-19が22%対10%で高かった一方、肺胞蛋白症は5%対14%で低く、深刻有害事象は17%対24%で低かったが、治療関連有害事象は25%対19%で高かった。

自己免疫性aPAPは、GM-CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子)に対する自己抗体の過剰な産生が原因となり、肺胞において肺サーファクタントの除去を担うマクロファージが十分に機能せず、呼吸不全などを齎す難病。日本では3月にノーベルファーマのrhGM-CSF製剤、サルグマリン(サルグラモスチム吸入用)が承認されたところだ。一日二回吸入した医師主導第3相でA-aDO2(肺胞・動脈勾配)が4.5mmHg低下し、偽薬群の0.17mmHg上昇を有意に上回った。

molgramostimもrhGM-CSF。第2/3相IMPALA試験は主評価項目の第24週A-aDO2が12.1mmHg低下したが偽薬群の8.8mmHg低下と大差なくフェールした。しかし、探索的解析でDLCO %予測値が11.6と偽薬群の3.9を上回り、SGRQは12.3点改善(偽薬群は4.7点改善)、6分歩行テストは39.6メートル改善(同6メートル改善)と良さそうな数字が出ていた。

リンク: 同社のプレスリリース


アムヴトラのATTR心筋症試験が成功
(2024年6月24日発表)

Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)は、Amvuttra(vutrisiran)の第3相トランスサイレチン型家族性心アミロイドーシス(ATTR-CM)試験のポジティブなトップラインを公表した。8月30日からロンドンで開催されるESC(欧州心臓学会)で発表すると共に、7月以降に米国などで適応拡大申請する考え。米国では優先審査バウチャを使って早期承認獲得を狙う。

Amvuttraはトランスサイレチンの遺伝子発現を妨げるRNA介入薬。22年に米欧日でトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー用薬として承認された。先に承認された同社のOnpattro(patisiran)より肝選択性が高く、3週毎点滴静注ではなく3ヶ月毎皮下注で足りる。

今回のHELIOS-B試験は遺伝性または野生ATTR型の患者を組入れて33ヶ月以上治療・追跡し、全死亡または難治心血管イベントの発生リスクを偽薬群と比較した。全654人の解析ではハザードレシオ0.718、p=0.0118、共同主評価項目であるモノセラピー・サブグループ395人でも0.672。p=0.0162と、高度ではないが統計的に有意な抑制効果があった。承認薬であるファイザーのtafamidisを服用している患者のサブグループでも整合的な結果になった模様だ。

副次的評価項目の6メートル歩行テストやKCCQ(カンザスシティ心筋症質問票)などの解析も成功。オープンレーベル期間6ヶ月も含む最大42ヶ月追跡した全死亡の解析も、全被験者のハザードレシオ0.645、p<0.025、モノセラピー・サブグループでは各0.655、p<0.05と好ましい数値が出ている由。深刻有害事象や有害事象治験離脱率は偽薬群と大差なかった。

尚、OnpattroのAPOLLO-B試験は主目的の6メートル歩行テストが偽薬群を有意に上回ったが、差がそれほど大きくなかったことや、全死亡/全入院/緊急心不全のハザードレシオが0.88に留まり、組入れが今回の試験の半分と少なかったこともありp=0.56と今一つだったせいか、FDAは承認しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジの第3相が一勝一敗
(2024年6月25日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相試験二本に関するアップデートを行った。どちらも術前術後アジュバント試験で、膀胱癌試験は成功したが非小細胞性肺癌試験はなぜかフェールした。

第3相NIAGARA試験は筋層浸潤膀胱癌1063人を組入れて、全摘手術前にgemcitabineとcisplatinによるネオアジュバント療法を施行する群と、更に術前術後にImfinziも投与する群のEFS(無イベント生存期間)をオープン・レーベルで比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある延長を達成した。副次的評価項目である全生存期間の延長も実現した。

治験登録には共同主評価項目としてpCR(病理学的完全反応)も上がっているが、プレスリリースには言及されていないので、プロトコル変更があったのかもしれない。

抗PD-1抗体のOpdivoやKeytrudaも、術後に投与した試験が成功し前者は既に承認されている。術前も投与することで便益がどの程度拡大するのか知りたいところだが、答えはなかなか出ないだろう。

フェールした第3相ADJUVANT BR.31試験はカナダの共同治験グループCCTGがスポンサーとなって欧米で実施した、ステージIBからIIIAの非小細胞性肺癌の完全切除後アジュバント療法試験。主評価項目であるPD-L1高発現(≧25%)サブグループにおけるDFS(無病生存期間)は偽薬比有意に伸びなかった。類似した試験である、ステージIIAからIIIBまでの切除可能非小細胞性肺癌における術前(化学療法併用)・術後(単剤)療法を検討した第3相AEGEAN試験は、共同主評価項目のpCRが17.2%と偽薬群の4.3%を有意に上回り、EFS(無イベント生存期間)はハザードレシオ0.68、p=0.004だった。

FDAは7月25日にODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、ImfinziのAEGEAN試験と推測される試験データについて意見を求める予定。今回の件と何か関係があるのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース(NIAGARA試験)
リンク: 同(BR.31試験)


ノボ、MRAの第3相を中止
(2024年6月26日発表)

ノボ ノルディスクは第3世代非ステロイド系鉱質コルチコイド受容体拮抗剤(MRA)、ocedurenoneの第3相CLARION-CKDが中間解析で無益認定されたことを明らかにした。臨床試験を中止すると共に、第2四半期決算で57億DKK(8.1億米ドル)の減損損失を計上する考え。

後期第2相のBLOCKCKD試験と同様に、2種類以上の降圧剤を服用しても管理不良な高血圧を伴う進行慢性腎疾患の患者を組入れて12週間治療し、最大血圧の変化を偽薬と比較したもの。後期第2相では0.5mg群(一日一回)が偽薬調整後で10.2mmHg低下、0.25mg群(同)は7.0mmHg低下と良好な成績を挙げていた。ノボは昨年10月にシンガポールのKBP Biosciencesから13億米ドルで資産買収したばかり。

リンク: ノボのプレスリリース


【承認申請】


Milestone社、Ca拮抗剤をPSVTに承認申請
(2024年5月29日発表)

カナダのMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は米国でCardamyst(etripamil)を発作性上室性頻拍(PSVT)の洞調律薬として承認申請し受理された。審査期限は来年3月26日。

自己点鼻用の短期作用性カルシム・チャネル・ブロッカー。10分経っても十分な効果が得られない場合はもう一回点鼻する。臨床試験で30分洞調律達成率が64%と偽薬群の31%を有意に上回った。23年に承認申請したがデータ不備を指摘され再申請した。

高心室心拍数を伴う心房細動でも第3相試験を実施する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


レキサルティをPTSDに承認申請
(2024年6月25日発表)

大塚製薬と開発販売パートナーのルンドベックは、Rexulti(brexpiprazole)をsertralineと併用で成人のPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療にあてる適応拡大をFDAに申請し受理された。審査期限は来年2月8日。

第3相は二本中一本がフェールしたものの第2相と合わせて二勝一敗となった。主評価項目のCAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale)総スコアは併用群は三本とも16~19点低下したが、成功した二本ではsertraline・偽薬併用群が11~13点の低下に留まったのに対して、フェールした072試験は17.6点と比較的大きく改善し、有意差が出なかった。

第2相では偽薬群も設定されたが、sertraline・偽薬併用群の効果は偽薬・偽薬併用群と大差なかった。sertralineは選択的セロトニン再取込阻害剤で、25年前に米国でPTSD治療薬として承認された実薬なのだが、臨床試験で真価を発揮できるとは限らないのが精神疾患用薬である。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


新薬三品が製造問題で審査完了に
(2024年6月25~28日発表)

米国で新薬を承認申請していた3社が生産関連の理由で相次いで審査完了通知を受領した。うち2件は、FDAが両者とは別の会社の生産施設を査察した時に改善すべき点を発見したことが発端。重大な事案であった場合、FDAは、解消されるまでの間、その施設で生産される物質を用いた薬の新薬承認を見送ることができる。

まず、アッヴィは、foslevodopaとfoscarbidopaの24時間持続皮下注入用製剤を進行パーキンソン病の治療薬として開発し、22年に日本と欧州で承認を取得したが、米国は二回目の審査完了通知を受領した。昨年3月の通知ではポンプに関する追加情報を求められたが、今回は、同薬や同社の医薬品とは関わりのない件でFDAが第3者施設を査察した時の指摘事項が原因で道連れになった模様だ。

リンク: アッヴィのプレスリリース(6月25日付)

次に、第一三共はMSDと提携して開発した抗her3抗体薬物複合体、U3-1402(patritumab deruxtecan)をEGFR変異陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌の3次治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。臨床成績に関する指摘は記載されていない模様で、アッヴィと同様に、第3者施設における生産問題が原因のようだ。

リンク: 両社のプレスリリース(6月27日付、和文、pdfファイル)

いわゆる生産問題とは関わりがなさそうだが、Rocket Pharmaceuticals(Nasdaq:RCKT)もKresladi(marnetegragene autotemcel)の審査完了通知を受領した。超希少だが深刻な遺伝子疾患である重度LAD-1(白血球接着不全症1型)のex vivo遺伝子療法で、他家造血幹細胞移植を受けない限り2歳まで生存できるのは2~4割という難病だが、この治療を受けた9人は18~42ヶ月追跡時点で全員が生存している。審査期限は3月だったがCMC(化学、製造、管理)に関わる理由で3ヶ月延期され、今回、再びCMCに関する限定的な追加情報を請求された。

FDAは生産施設の査察を担うべき人材が不足しているとも言われており、Rocket社はそのしわ寄せを受けているのかもしれない。

リンク: Rocket Pharmaceuticalsのプレスリリース(6月28日付)


CDC、RSVワクチンの推奨トーンを変更
(2024年6月26日発表)

CDC(米連邦疾病管理予防センター)は、ACIP(ワクチン接種諮問委員会)の討議を踏まえて、RSVワクチンの接種勧奨を若干変更した。昨年6月には、GSKとファイザーの製品が承認されたことを受けて、RSV感染時の重症化リスクが高い人を対象にshared decision-making(医療従事者と共に便益と危険を十分に検討した上で接種の当否を個々人が判断すること)を推奨したが、モヤモヤしたものを感じたのは私だけではなかった模様だ。

前回、ACIPやCDCが明確な接種勧奨を行わなかった一因は、ごく稀にだがギラン・バレー症候群(GBS)が発生したため。他の炎症性神経学的事象も含めて、症例数が少ないためワクチンのせいなのか、偶々なのか、判然としない。但し、GBSに罹患する人の増加よりも、RSV感染症で入院する人の減少の方がはるかに大きい。

今回、60~74歳のリスク因子を持つ人と75歳以上の全員に接種を推奨したが、便益と危険に関する認識が変わったわけではなく、shared decision-makingに対する批判や苦言が多かったことが原動力のようだ。60~74歳のリスク因子を持たない人が接種することは推奨されなくなった。

尚、GSKのワクチンは50~59歳に対象拡大が承認されたが、ACIPは、判断に必要な情報が足りないとして推奨も非推奨もしなかった(免疫原性試験に基づく承認)。また、接種の翌年も予防効果が確認されていることから、昨年接種した人は勧奨対象外とした。

リンク: CDCのプレスリリース
リンク: 最近のACIPにおける推奨(CDCD


CHMP、画期的肺動脈高血圧症用薬などの承認を支持
(2024年6月28日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのWinrevair(sotatercept-csrk)はactivinの受容体の細胞外部位とIgG1のFc領域の融合蛋白で、血管の増殖を推進/抑制するシグナルのバランスを調停する。成人の肺動脈高血圧症でWHO機能クラスがIIまたはIII(通常またはそれ以下の身体活動で呼吸困難などが発症)の患者の運動能力を改善する。米国では3月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

JNJグループのJanssen-Cilag InternationalのBalversa(erdafitinib)は汎FGFR阻害剤。FGFR3に同薬に感受する遺伝子変異を持つ成人の切除不能/転移尿路上皮腫で、切除不能/転移後にPD-(L1)1阻害剤を含む一次以上の治療歴を持つ患者に用いる。臨床試験で全生存期間が化学療法薬を有意に上回った。PD-(L)1阻害剤歴を持たない患者を組入れたコフォートでは全生存期間がKeytruda(pembrolizumab)群を下回った。米国では19年に加速承認、今年1月に本承認に切り替わった。

リンク: EMAのプレスリリース

米国カリフォルニア州のARS Pharmaceuticals(Nasdaq:SPRY)が申請したEURneffyはエピネフィリンの点鼻スプレー。昆虫、食物、医薬品などによるアナフィラキシーの救急治療に用いる。現在は注射薬が用いられている。米国でもneffyというブランド名で承認申請しており、審査期限は10月2日。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ARS社のプレスリリース

モデルナのmResviaはRSVのmRNAワクチン。GSKやファイザーのRSVワクチンと同様にRSVの融合前F糖蛋白を雛形にしているが、それ自体ではなくmRNAを投与してin vitroで発現させる。5月承認の米国と同様に60歳以上が対象。日本でも申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のOrdspono(odronextamab)は抗CD20xCD3二重特異性抗体。2次以上の治療歴を持つ難治/再発性の濾胞性リンパ腫やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に単剤投与する用途用法で条件付き承認が支持された。米国でも申請中だが、市販後薬効確認試験のデザインを見直した関係で仮説検証部分の組入れが進んでいないため、審査完了通知を受領した。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュのPiasky(crovalimab)はグループの中外製薬が創製した抗C5リサイクリング抗体。成人と12歳以上体重40kg以上の小児の発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬。抗C5抗体による治療を初めて受ける患者や、治療により安定した状態にある患者が適応になる。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのTauvid(flortaucipir (18F))はタウNFT(神経原繊維変化)のPET診断用放射性核種。認知機能が低下しアルツハイマー病が疑われる患者の診断に用いる。米国では20年に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も支持された。

  • アステラス製薬のBetmiga(mirabegron)・・・過活動膀胱治療薬に3~17歳の神経因性排尿筋過活動の適応を追加。内服懸濁液用顆粒も。米国(Myrbetriq名)では21年に承認。
  • アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab-alip)・・・重篤リスクを持つ24ヶ月未満の幼児の第2シーズンにおけるRSV感染予防を追加。米日では初承認の時点から、重篤リスク者の第1シーズンと第2シーズンに用いることが承認されていた。
  • アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)とLynparza(olaparib)・・・全身性治療が候補になる原発性進行/難治内膜腫の一次治療に、dMMR(ミスマッチ修復不全)型の場合はcarboplatinとpaclitaxelによる治療にImfinziを追加し、終了後は維持療法を施行。pMMR(ミスマッチ修復能保持)型の場合は更に維持療法期にLynparzaも併用。米国はdMMR型にImfinzi追加しか承認しなかった。
  • pharmaand GmbHのPegasys(peginterferon alfa-2a)・・・真正赤血球増多症と原発性血小板減少症を追加。pharmaand社は21年にロシュから日本と中国以外の事業を取得した。
  • アッヴィ/ジェンマブのTepkinly(epcoritamab)・・・成人の難治/再発濾胞性リンパ腫の3次治療を追加。米では今月承認、日本でも申請中。
  • ロシュのVabysmo(faricimab-svoa)・・・網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫における視力障害の治療を追加。米日でも適応拡大済。

一方、否定的意見となったのは、まず、Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)のC3補体阻害剤Syfovre(pegcetacoplan)。加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として承認申請し、米国では21年に承認されたが、EUでは1月に続き今回も否決された。日常生活機能という臨床的な便益が見られず、他の種類の加齢性黄斑変性を発症するリスクがあるとの評価を受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのAB Scienceのmasitinib mesilateは、今回はALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請されたが、臨床試験で便益が見られなかったことや治験デザイン、実施状況などに関する疑問も生じたことから、否定的意見となった。masitinibは同社が08年に犬の肥満細胞腫治療薬Masivetとして承認を取得したが、医薬品は13年に消化管間質性腫瘍用薬Masicanが、14年には切除不能進行膵癌用薬Masivieraが、17年には全身性肥満細胞腫用薬Masiproが、否定的意見を受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)はCHMPが1月に条件付き承認の更新を見送るべきという二回目の勧告を行ったが、別の案件に関するEU裁判所の決定の余波で、欧州委員会が評価のやり直しを要求した。しかし、結果は同じだった。

リンク: EMAのプレスリリース

今月のCHMPでは同じくしわ寄せを食ったと目されるエーザイ/バイオジェンのアルツハイマー病薬Leqembi(lecanemab-irmb)に関するプレゼンテーションもアジェンダに上がっていたが、順調に進捗しただろうか?

英国のAdvanz PharmaのOcaliva(obeticholic acid)も条件付き承認の取消しが勧告された。原発性胆汁性肝硬変治療薬として16年に承認されたが、臨床的便益が確認されなかった。尚、承認時のライセンスホルダーであったIntercept Pharmaceuticalsは昨年、イタリアのAlfasigmaに買収された。Advanz社はOcalivaの米国外の事業権を持っている。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


エプキンリが濾胞性リンパ腫に適応拡大
(2024年6月27日発表)

アッヴィはジェンマブ社と共同開発販売している抗CD30xCD20二重特異性抗体、Epkinly(epcoritamab-bysp)の適応拡大がFDAに加速承認されたと発表した。23年に米欧日で難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)などの3次治療薬として承認されたが、難治/再発濾胞性リンパ腫の3次治療にも使えるようになった。欧日でも一部変更申請中。

最初の適応症では当初は週次で0.16mg、0.8mg、48mgと用量漸増し、初めて48mgを投与する時は爾後に24時間入院させ安全性を確認する必要があるが、今回の適応は0.16mg、0.8mg、3mg、48mgと段階が増えたせいか、入院義務が課されていない。

リンク: 同社のプレスリリース


PDE3/4阻害剤がCOPDに承認
(2024年6月26日発表)

英国のVerona Pharma(Nasdaq:VRNA)はFDAがOhtuvayre(ensifentrine)を成人のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法薬として承認したと発表した。PDE3/4阻害剤で、ジェット式(コンプレッサー式)ネブライザを用いて一日二回、吸入する。第3相試験で、第12週の一秒量(吸入後12時間の曲線下面積ベース)が一本では48mL改善(偽薬群は46mL悪化)、もう一本では61mL改善(同26mL悪化)した。併用薬の限定は課されていないが、これらの試験の併用薬を見ると、4~5割の患者はLABA(長期作用性ベータ作用剤)またはLAMA(長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤)だけ、吸入コルチコステロイド及びLABAの併用は1~2割となっている。COPDのステップ・セラピーにおいては、最初の治療薬に十分応答しない患者に追加投与する薬というイメージか。

リンク: 同社のプレスリリース


マル秘情報?ピアスカイが米国でも承認された
(2024年6月20日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、FDAがPiasky(crovalimab-akkz)を発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認したと発表しなかった。

ロシュ・グループの中外製薬が創製し3月に日本で世界初承認された抗C5リサイクリング抗体。成人と13歳以上且つ体重40kg以上の小児に、初回は静注、2回目以降は皮下注で投与する。維持療法期は4週に一度の投与で足りる。アストラゼネカ・グループのアレクシオン・ファーマシューティカルの抗C5抗体Soliris(eculizumab)やUltomiris(ravulizumab-cwvz)が既に普及しているが、Piaskyは未治療患者にも治療を受けている患者のスイッチにも承認された。

先行二品と同様に、髄膜炎菌性髄膜炎のリスクが枠付き警告・REMS(リスク評価緩和戦略)の対象となった。警告・注意事項では、先行二品から、または先行二品に、スイッチする場合のIII型過敏反応(薬物・標的・薬物複合体の形成による免疫複合体反応)が記載された。このリスクよりも治療を遅らせるリスクのほうが高い場合を除き、各剤の半減期の5.5倍の期間を挟んでからスイッチすることが望ましい(Piaskyの平均推定終末相半減期は53日)。

どういう訳か、ロシュやジェネンテック、中外のホームページを見てもPiasky承認に関するプレスリリースは見つからず、メディア報道も見当たらないが、ジェネンテックのウェブサイトにパッケージ・インサートが掲示されており、FDAの2024年新薬承認一覧にも収載されている。また、EUの肯定的意見に関する6月28日付プレスリリースには米日中で承認されていることが付記されている。。

リンク: 2024年の新薬承認(FDA)
リンク: パッケージ・インサート(ジェネンテックのサイト、pdfファイル)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
24年8月推Sun Pharmaceuticalのdeuruxolitinib(円形脱毛症)
24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
諮問委員会
24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



今週は以上です。

2024年6月22日

第1060回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • シュンレンカの感染予防試験が成功 
  • 向精神薬の鬱病試験が二本目も成功 
  • カルケンス、MCLのPFSを1年以上延長 
  • ロシュ、抗CD20xCD3二重特異性抗体のDLBCL2次治療試験が成功 
  • アストラゼネカ、AKT阻害剤の第3相がフェール 
  • 武田、CH24H阻害剤の第3相二本のトップラインを発表 
  • Marinus社、第3相難治癲癇重積症試験のアップデート 
  • SGLT阻害剤を一型糖尿病に再申請 
  • JNJ、EGFR・MET二重特異性抗体の皮下注用製剤を承認申請 
  • KRAS G12C阻害剤が一部の大腸癌に適応拡大 
  • 皮下注用エフガルチギモド アルファがCIDPに適応拡大 
  • DMD遺伝子療法の適応範囲が拡大 
  • ソフピロニウムが米国でも承認 
  • スキリージが潰瘍性大腸炎に適応拡大 
  • キイトルーダとイミフィンジが同日に内膜腫一次治療に承認 
  • MSDの成人用21価肺炎球菌ワクチンが承認 
  • ビーリンサイトの地固め療法が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


シュンレンカの感染予防試験が成功
(2024年6月20日発表)

ギリアド・サイエンシズはSunlenca(lenacapavir)のHIV/AIDS曝露前予防(PrEP)試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。独立データ監視委員会が盲検解除を勧告した。もう一本が来年初めまでに開票するのを待って適応拡大申請する考え。尚、Descovy(emtricitabine、tenofovir alafenamide fumarate)群は有意差が見られなかった。

Sunlencaは6ヶ月毎皮下注用の長期作用性カプシド阻害剤で、22~23年に欧米日で多剤抵抗性HIV/AIDS用薬として承認された。今回のPURPOSE 1試験は南アとウガンダの施設で16~25歳のシスジェンダー(出生時の診断と当人の自覚が一致)女性5300人超を組入れて、Sunlenca群とDescovy群のHIV/AIDS感染リスクをTruvada(emtricitabine、tenofovir disoproxil fumarate)群やバックグラウンドHIV感染データ(bHIV)と比較した。Sunlenca群2134人のうち感染者はゼロで、bHIV群の100人年当り2.41、Truvada群の1.69を有意に下回った。Descovy群2136人は2.02で、bHIV群やTruvada群と有意な差はなかった。

Truvadaは米国の場合で12年にPrEPに適応拡大した。Descovyは臨床試験で予防効果がTruvada比非劣性であることが示され、19年に承認されたが、子宮組織浸透性の理由から、適応にならない人もいる。この二剤は毎日服用する必要があり、今回、効果が見劣りしたのは、アドヒアランスの差が一因かもしれない。

もう一本のPURPOSE 2試験は、米州や南ア、タイの施設で男とセックスするシスジェンダー男性や、出生診断時男性をパートナーとするトランスジェンダーの男女、そしてノンバイナリー(男とも女とも自覚する)における予防効果を検討している。

長期作用性PrEP治療薬では、ヴィーヴヘルスケアのインテグラーゼ阻害剤Apretude(cabotegravi)が21~23年に米欧で承認されている。最初の二回は毎月、その後は2ヶ月に一回、筋注する。

リンク: ギリアドのプレスリリース


向精神薬の鬱病試験が二本目も成功
(2024年6月18日発表)

Intra-Cellular Therapies(Nasdaq:ITCI)は、Caplyta(lumateperone)の二本目の第3相鬱病アジャンクト試験も主目的を達成したと発表した。今年下期に適応拡大申請する考え。

SSRI/SNRIによるモノセラピーに十分応答しない患者を組入れて追加投与した。501試験では42mgを一日一回、6週間投与したところ、MADRS(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale)総スコアがベースライン値の30点から14.7点低下、偽薬群の9.8点低下、最小二乗差は-4.9、p<0.0001、コーエンのイフェクト・サイズ(ES)は0.61だった。今回の502試験でもベースライン値の31から14.7点低下、偽薬群は10.2点低下、最小二乗差-4.5、p<0.0001、ESは0.56と、よく似た結果になった

5-HT2A受容体とドパミンD2受容体のアンタゴニスト。05年にブリストル マイヤーズ スクイブからライセンス、統合失調症の第3相が二勝一敗となり19年に米国で承認された。双極障害I型、II型の鬱症状を治療した第3相も二勝一敗となり21年に適応拡大が認められた。鬱病の第3相はフェールが多く、二勝一敗でも申請できるよう三本実施するのがよくあるパターンだが、別の意味で三度目の正直ということか。

リンク: 同社のプレスリリース


カルケンス、MCLのPFSを1年以上延長
(2024年6月16日発表)

アストラゼネカは5月にBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)の第3相ECHO試験の主目的達成を明らかにしたが、データをEHA(欧州血液学会)で発表した。65歳以上の未治療MCL(マントル細胞腫)におけるbendamustineとrituximabの併用レジメンに追加する便益を検討したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.73、p=0.016、メジアン値は66.4ヶ月と偽薬追加群の49.6ヶ月を大きく上回った。副次的評価項目である全生存期間は未成熟だが、ハザードレシオ0.86、p=0.27と、正しい方向を向いている。

COVID-19関連死亡例を除外した解析では更に良好な数値が出ているようだ。裏返せばCOVID関連死が多かったのではないかと推測されるが、実際、G3以上の感染症有害事象が偽薬追加群より多く、致死的COVID-19発生率も9.4%対6.7%で高かった。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュ、抗CD20xCD3二重特異性抗体のDLBCL2次治療試験が成功
(2024年6月15日発表)

ロシュは4月にColumvi(glofitamab-gxbm)の第3相STARGLO試験の主目的達成を明らかにしたが、データをEHA(欧州血液学会)でに発表した。

年齢が70歳以上などの理由で自家造血幹細胞移植に適さない、1次以上の治療歴のある難治/再発DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)を組入れて、サイトカイン放出症候群(CRS)抑制のため抗CD20抗体Gazyva(obinutuzumab)でプリトリートした上で、gemcitabine及びoxaliplatinと併用で3週毎(但しColumviの第1サイクルは週次漸増)に8サイクル投与し、Columviは更に4サイクル投与するレジメンの便益を、gemcitabine、oxaliplatin、及び抗CD20抗体rituximabを8サイクル投与するレジメンと比較したもの。

主評価項目である全生存期間のハザードレシオは0.59、p=0.011、メジアン生存期間は、各群、未達と9ヶ月だった。更に11ヶ月追跡した24年2月時点の解析ではハザードレシオ0.62、メジアン生存期間は25.5ヶ月と12.9ヶ月だった。地域による偏りが見られ、組入れが少なかった欧州ではハザードレシオ1.09 (95%信頼区間0.54-2.18)、北米でもは2.62(同0.56-12.38)と今一つ。それ以外の地域の0.41(同0.27-0.64)が牽引した。

深刻有害事象の発生率は各群54.4%と17.0%、有害事象による死亡は8.3%と4.5%だった。重度CRSはG3が2.3%の患者で発生しただけだった。

ColumviはCD20とCD3に結合する二重特異性抗体。23年に米欧で難治/再発DLBCLの3次治療に単剤投与することが加速/条件付き承認されている。ロシュは適応拡大申請すると共に、3次治療の本承認切替えを図る。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: AbramsonらのEHA抄録(LB3438)


アストラゼネカ、AKT阻害剤の第3相がフェール
(2024年6月18日発表)

アストラゼネカはTruqap(capivasertib)の第3相CAPItello-290試験についてアップデートし、共同主評価項目の何れも達成できなかったことを明らかにした。局所進行/転移トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療として、paclitaxelに追加投与する便益を検討したが、PIK3CA、AKT1、PTENの何れかに変異を持つサブグループでも、全体でも、paclitaxelを有意に上回る延命効果は見られなかった。データは後日発表予定。

経口汎ATK阻害剤で23~24年に米日欧で内分泌療法歴がありPIK3CA、ATK1、またはPTENに変異を持つホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌に承認された。類似用途の内分泌療法薬併用や一部の前立腺癌でも第3相試験が進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


武田、CH24H阻害剤の第3相二本のトップラインを発表
(2024年6月17日発表)

武田薬品はTAK-935(soticlestat)の二本の第3相試験のトップラインデータを発表した。どちらも主目的を達成しなかった。データは未発表。副次的評価項目やサブグループ分析に着目して、承認審査機関と今後の方針を相談する考え。

Ovid Therapeutics(Nasdaq:OVID)からライセンスした経口コレステロール24ヒドロキシラーゼ(CH24H)阻害剤。脳内でコレステロールが24-ヒドロキシコレステロールに転換されるのを妨げることにより、グルタミン酸作動性シグナル伝達経路の過度な活性化を抑制する、斬新な作用機序を持つ。

一本では難治性ドラベ症候群に追加投与して痙攣発作頻度の抑制を図ったが、偽薬追加群比でp=0.06だった。幾つかの副次的評価項目では臨床的に意味のある群間差が見られた模様。

もう一本はレノックス・ガストー症候群に追加投与したがフェールした。共同主評価項目は、全期間と、滴定終了後の維持療法期における、MMD(major motor drop)という斬新な評価尺度。レノックス・ガストー症候群の試験では転倒発作を主評価項目とすることが多いが、判断の難しいケースもあるため、転倒または転倒に至りそうな運動発作のうち、頭、顔、腕だけにおけるものを除外した。

リンク: 武田のプレスリリース(国内向けプレスリリースには含まれていないが日本語)
リンク: Dlugosらの2021年AES(米国癲癇学会)抄録・・・major motor dropに関する説明あり


Marinus社、第3相難治癲癇重積症試験のアップデート
(2024年6月17日発表)

Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は4月に静注用ganaxoloneの第3相RAISE試験の中間解析で目的達成できなかったことを明らかにしたが、ヘッドラインを公表した。開発資金面の制約もあり、少なくとも単独での開発は中止されるのではないか。

ganaxoloneは中枢神経選択的GABA Aポジティブアロステリックモジュレーター。22~23年に経口液がZtalmy名でCDKL5(cyclin-dependent kinase-like 5)欠乏症用薬として米欧で承認された。今回は難治癲癇重積症の患者を組入れて48時間治療する便益を検討したところ、中間解析で30分寛解達成率が80%と偽薬群の13%を大きく上回ったが、共同主評価項目である36時間点滴鎮静剤不使用率は63%対51%でフェールした。

本試験は当初は168人を組入れる計画だったが100人で繰上げ完了する考え。今夏に解析結果が判明する見込みで、その後に今後の方針を決定する考え。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


SGLT阻害剤を一型糖尿病に再申請
(2024年6月21日発表)

米国テキサス州の新興製薬会社Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)は、sotagliflozinを慢性腎疾患を合併したインスリン治療を受けている一型糖尿病患者に追加投与する承認申請を行った。18年に当時のライセンシーだったサノフィが一型糖尿病の血糖治療薬として承認申請したが、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高まることなどから審査完了通知を受領、Lexiconは権利再取得後に不服申立てなどを行い、5年を経て、慢性腎疾患併発に限定して再申請したもの。

同薬はSGLT1/2阻害剤。腎臓近位尿細管でグルコースが再吸収されるのを妨げ尿排出を促すSGLT2阻害剤は、既に様々な製品が承認されているせいか、同社は一型糖尿病をリード・インディケーションとしたが、最初のチャレンジは果たせず、23年に慢性腎疾患を合併する二型糖尿病で心不全または心血管リスク因子を持つ患者の心血管アウトカム改善薬Inpefaとして米国で承認された。欧州では19年に一型糖尿病用薬として承認されたが22年に承認保有者が返上した。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJ、皮下注用トレムフィアをクローン病に承認申請
(2024年6月20日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、抗IL-23p19サブユニット抗体Tremfya(guselkumab)を米国でも成人の中重度活性期クローン病に適応拡大申請したと発表した。新開発の皮下注用製剤の寛解導入試験で奏効率が偽薬群を上回り、維持療法試験では偽薬群だけでなく同社の抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab)群も上回った。

Tremfyaは中重度活性期潰瘍性大腸炎にも開発されており、3~4月に米日で適応拡大申請された。5月にはEUでもこの二疾患に適応拡大申請された。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJ、EGFR・MET二重特異性抗体の皮下注用製剤を承認申請
(2024年6月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、EGFRとMETに結合する二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)の皮下注用固定用量合剤を米国で承認申請し受理されたと発表した。欧州でも5月に申請済み。遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼを用いて皮下組織における吸収を向上する、最近よく見かける技術を用いた製品だ。

Rybrevantは投与関連反応を抑制するため治療開始時には4~8時間の点滴静注を2日連続する必要があり、その後も1~3週毎に数時間かかる。皮下注用なら5分間で足りる。EGFRにエクソン19欠損またはL858R置換を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌にEGFR阻害剤lazertinibと併用した試験でORR(客観的反応率)や薬物動態がRybrevantと非劣性だった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


KRAS G12C阻害剤が一部の大腸癌に適応拡大
(2024年6月21日発表)

FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブの子会社であるMirati Therapeuticsの経口KRAS G12C阻害剤、Krazati(adagrasib)の適応拡大を承認した。成人のKRAS G12C変異型局所進行/転移結腸直腸癌でfluoropyrimidine、oxaliplatin、及びirinotecanベースの化学療法歴を持つ患者に600mgを一日二回、経口投与する。抗EGFR抗体cetuximabと併用する。

臨床試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が34%(全て部分反応)だった。メジアン反応持続期間は5.8ヶ月。KRAS G12C変異は結腸直腸癌の3~4%で観察される。

Krazatiは22年に米国で、今年1月にはEUでも、全身性治療歴のある成人のKRAS G12C変異型局所進行/転移非小細胞性肺癌に加速承認/条件付き承認された。

リンク: FDAのプレスリリース


皮下注用エフガルチギモド アルファがCIDPに適応拡大
(2024年6月21日発表)

アルジェニクスはFDAがVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc)をCIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経障害)用薬として承認したと発表した。臨床試験では全員に投与したリード・イン期に69%の患者が応答し、その後の偽薬対照離脱試験で症状悪化のハザードレシオは0.39、第12週までに増悪した患者の比率は26%と偽薬にスイッチした群の54%を大きく下回った。

CIDPは疲労や手足の脱力・無感覚などを伴う希少疾患で、免疫グロブリンに対する自己抗体の関与が疑われる。米国では24000人がステロイドや武田薬品のHyQviaのような免疫グロブリン製剤などによる治療を受けている。Vyvgartは胎児性Fc受容体に結合する抗体フラグメントで、一時間かけて点滴静注するオリジナルの製剤が21~22年に米日欧で抗アセチルコリン受容体抗体を持つ全身性重症筋無力症(gMG)の治療薬として承認された。23年に米欧日で承認された皮下注用製剤、Vyvgart Hytruloは30~90秒の点滴で足りる。用量用法は両適応とも同じだが、gMGでは週一回、4週間投与して、その後は様子を見て必要に応じて反復するが、CIDPでは最大12週間投与して奏功なら反復投与するので、患者一人当たり使用量が大きくなる。

尚、静注用製剤はCIDPには承認されていない。

リンク: 同社のプレスリリース


DMD遺伝子療法の適応範囲が拡大
(2024年6月20日発表)

FDAはサレプタ・セラピューティックスのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の承認内容を一部変更した。23年6月にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子変異が確認された4~5歳の歩行可能なDMD患者用薬として加速承認したが、今回、6歳以上も含めて本承認に切替えると共に、歩行不能患者に用いることも加速承認した。初承認の時と同様に、承認審査担当チームやOCE(臨床評価局)のヘッドは審査完了通知の発出を推奨したがCBER(生物学製品評価研究センター)のヘッドが覆した。

加速承認後薬効確認試験である第3相EMBARK試験で4~7歳の歩行可能なDMD患者125人を組入れて52週NSAA(North Star Ambulatory Assessment)総合スコアの改善を偽薬と比較したところ、ベースライン値の約23点から試験薬群は2.57点、偽薬群は1.92点と、大差なかった。一方、副次的評価項目の仰臥位起立時間はベースライン値の3.5秒から各群0.37秒と-0.27秒改善し、4-5歳のサブグループにも6-7歳にも便益が見られた。10メートル歩行走行テストもベースライン値の4.8秒から0.08秒と-0.34秒改善した。4段昇段テストでも有意差が見られた。

歩行不能患者の加速承認はジストロフィン発現量の増加というサロゲート・マーカーに基づくもので、7歳以上の歩行可能患者と合わせて、第3相ENVISION試験で便益を確認中。

尚、今回、ジストロフィン遺伝子のエクソン8や9に変異を持つ患者は禁忌となった。T細胞免疫を惹起する可能性があり、重度免疫調停性筋炎のリスクが高まるため。

Nationwide Children's Hospitalが創製した遺伝子療法薬で、DMD患者の殆どで欠損/機能低下しているジストロフィンの遺伝子の代わりに、分子量が1/3のマイクロジストロフィン遺伝子を導入するもの。米国外の権利はロシュが持っているが、今のところ承認されたのはUAE、カタール、クウェート、バーレーン、オマーンのみで私が出張したことがないのはオマーンだけだ。

今回の本承認切替で良く分からないのは、臨床的便益に基づき本承認されている薬がある以上、全く同じ適応症で別の薬の加速承認を取ることはできないのではないか?臨床的便益を検討する上で、偽薬対照とするのは倫理に反する可能性が高いのでElevidys対照試験を行うことになるだろうが、NSAAを主評価項目とすると優越性検定が必要でハードルが高くなるため、仰臥位起立時間などから一つ選んで非劣性検定を行うことになるだろう。この場合、選んだものがフェールし副次的評価項目に設定した、例えば10メートル歩行走行テストのp値が0.001だった時、承認するのか、しないのか?もしCBERのディレクターが交代していたら、どうなるのだろうか?。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: FDAの承認審査報告資料リンクページ
リンク: サレプタのプレスリリース


ソフピロニウムが米国でも承認
(2024年6月20日発表)

オーストラリアのBotanix Pharmaceuticals(ASX:BOT)は、FDAがSofdra(sofpironium bromide)局所性ジェル12.45%を9歳以上の原発性腋窩多汗症用薬として承認したと発表した。

活性成分はBodor Laboratoriesが創製、12年にBrickell Biotechがライセンスし15年には科研製薬にアジア主要国の権利をライセンスしたが、22年にBotanix社が事業を取得、22年9月に米国で承認申請した。日本では一足早く20年9月にエクロックゲル5%として承認されている。

リンク: Botanixのプレスリリース


スキリージが潰瘍性大腸炎に適応拡大
(2024年6月18日発表)

アッヴィは抗IL-23p19抗体Skyrizi(risankizumab-rzaa)を中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に充てる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。寛解導入期は1200mgを4週毎に3回投与、寛解維持期は180mgまたは360mgを4週毎に投与する。後者は患者がハンドフリー5分注射器を使うこともできる。欧日でも5月に委員会が支持/報告を受けており、近く承認が見込まれる。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダとイミフィンジが同日に内膜腫一次治療に承認
(2024年6月17日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)とアストラゼネカのImfinzi(durvalumab)が進行/難治際内膜腫の一次治療に適応拡大した。但し、Imfinziの適応は2割程度を占めるdMMR(ミスマッチ修復不全)型のみで、注目されたPARP阻害剤Lynparza(olaparib)併用は少なくとも今回は認められていない。

どちらも進行/難治内膜腫の一次治療としてcarboplatin及びpaclitaxelのレジメンに追加し、その後は単剤で維持療法に充てるもの。KeytrudaはNRG-GY018/Keynote-868試験で、主評価項目のPFS(無進行生存期間)がdMMRサブグループではハザードレシオ0.30、メジアン値は未達、偽薬追加群は6.5ヶ月、pMMR(ミスマッチ修復機能保持)では同じく0.60、11.1ヶ月、8.5ヶ月だった。全生存の解析は未成熟。深刻有害事象の発生率は35%(偽薬群は19%)、G5有害事象の発現率は1.6%だった。

ImfinziはDUO-E試験に基づくもの。主評価項目のPFSはdMMRサブグループではハザードレシオ0.42、メジアン値は未達、偽薬追加群は7.0ヶ月だった。全生存期間の解析は未成熟。同社の過去の発表によるとpMMRサブグループにおけるハザードレシオは0.77と悪くはなかったので、適応外になったのは不思議。全生存期間の解析でデータが未成熟とは言えハザードレシオの点推定値がそれほど低くなかったことが影響したのかもしれない。

DUO-E試験はcarboplatin、paclitaxel、Imfinziの投与が完了した患者の維持療法としてImfinziだけでなくLynparzaも投与する群も設定された。dMMRサブグループではcarboplatin、paclitaxel併用群と比べてPFSハザードレシオが0.41と、Imfinziだけ追加した群の0.42と大差なかったが、pMMRサブグループでは0.55、メジアン15.1ヶ月と良い数値が出ており、Imfinziだけ追加した群との比較でも0.76(95%信頼区間0.59-0.99)と探索的解析なのだろうが好ましい数値が出ている。全生存期間の未成熟解析でも似たような結果になっていたため、dMMRにはImfinziだけを、pMMRには二剤を追加するのがベストのように感じていた。

但し、二剤追加群は肺臓炎やG3以上の貧血症がImfiniだけ追加と比べても増加し、減量・投与中断中止も増加した。全生存期間のデータが成熟して良好な結果が出たら、ImfinziのpMMR適応やImfinzi・Lynparza併用法も承認されるかもしれない。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: WestinらのDUO-E試験論文(Journal of Clinical Oncology、オープンアクセス)


MSDの成人用21価肺炎球菌ワクチンが承認
(2024年6月17日発表)

MSDはFDAがCapvaxive(通称V116)を成人の肺炎球菌性感染症ワクチンとして加速承認したと発表した。50歳以上の侵襲性肺炎球菌性疾患の84%を占める21株をカバーしており、27%を占める8株は既存のワクチンがカバーしていない。一方、既存のワクチンと異なり小児適応は想定していない模様だ。

実薬対照OPA(オプソニン化貪食活性)試験で免疫原性がこのワクチンしかカバーしていない株の殆どに関して優越性、共通株については非劣性だった。感染予防効果は未だ確立していない。

成人における競合品は同社の23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌ワクチンPneumovax、同じく15価肺炎球菌結合型ワクチンVaxneuvance、そしてファイザーの20価肺炎球菌結合型ワクチンPrevnar 20。

リンク: MSDのプレスリリース


ビーリンサイトの地固め療法が承認
(2024年6月14日発表)

アムジェンは、FDAがBlincyto(blinatumomab)を1ヶ月児以上の小児と成人のCD19陽性、フィラデルフィア染色体陰性のB-ALL(B細胞性急性リンパ性白血病)の地固め療法に化学療法と併用する適応拡大を承認したと発表した。医師共同治験グループのECOG-ACRINがNCI(米国連邦癌研究所)の支援を受けてスポンサーとなり実施した成人患者対象の医師主導試験、E1910で化学療法だけの群に対する全生存期間のハザードレシオが0.42、メジアン生存期間は未達対71.4ヶ月、3年生存率は84.8%対69%だった。

この試験は、まず化学療法による寛解導入療法を施行して完全寛解を達成した患者をスクリーニングし、更に強化療法を施行した上で、地固め療法として化学療法・Blincyto併用する群と化学療法だけ群に無作為化割付けした。治療完了後にさらに化学療法だけによる維持療法を2.5年間実施した。試験中に微小残存病変陽性(MRD)陽性の患者に用いることが承認されたため、プロトコルを変更し、寛解導入・強化療法後にMRD陽性だった患者は全員、Blincyto併用群に割付け、解析対象は陰性(MRD<0.01%)の患者だけとした。

BlincyteはCD3とCD19の二重特異性抗体。14~18年に米欧日で難治/再発B-ALLに単剤投与することが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
24年8月推Sun Pharmaceuticalのdeuruxolitinib(円形脱毛症)
24年8月推ガルデルマのnemolizumab(結節性掻痒とアトピー性皮膚炎)
24年8月推ノバルティスのKisqali(ribociclib、乳癌摘出術後アジュバント)
24年8月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw)とlazertinib(ex19del/L858R NSCLC)
24/8/4Adaptimmuneのafamitresgene autolecel(滑膜肉腫)
24/8/10Humacyteの人無細胞性血管(緊急動脈再建術)
24/8/11Lykos Therapeuticsのmidomafetamine(PTSD)・・・旧社名MAPS
24/8/13Citius Pharmaceuticalsのdenileukin diftitox(再発皮膚T細胞リンパ腫)
24/8/14CymaBay/ギリアドのseladelpar(原発性胆管炎)
24/8/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/8/20セルヴィエのvorasidenib(グリオーマ)
24/8/22Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
24/8/23GSKのJemperli(dostarlimab-gxly、内膜腫フロントライン)
24/8/28Incyteのaxatilimab(慢性GvHD3L)
諮問委員会
24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)


今週は以上です。

2024年6月15日

第1059回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、24/25シーズンのCOVID-19ワクチンにKP.2株を推奨 
  • FDA、OTCアセトアミノフェンの警告を強化へ 
  • 上海君実、抗PD-1抗体の肝細胞腫試験が成功 
  • モデルナ、インフルエンザ兼COVID-19ワクチンの第3相成功 
  • ファイザー、DMD遺伝子療法試験がフェール 
  • コルスバ経口製剤の開発が成功せず、身売りも視野に 
  • タグリッソをCRT後維持療法にも申請 
  • FDA諮問委員会、リリーの抗Aベータ抗体を支持 
  • BMS、NTRK遺伝子融合型固形癌に適応拡大 
  • レットヴィモがRET融合陽性甲状腺癌に本承認 
  • ケブザラが多関節型若年性特発性関節炎に適応拡大 
  • PPAR作動剤が原発性胆汁性胆管炎用薬として承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


訂正とお詫び:第1057回のCHMP決定に関する記事の中でアストラゼネカのFluenzについて誤認がありました。3価ワクチンを申請したのは4価配合の必要が無くなったからと推測されます。なぜFluenzだけアジェンダに上がったのか理由は解明できていません。いずれにせよ、お詫びして訂正します。

【今週の話題】


FDA、24/25シーズンのCOVID-19ワクチンにKP.2株を推奨
(2024年6月14日発表)

FDAは承認/EUA(非常時使用認可)されているCOVID-19ワクチンのメーカーに、2024/25年シーズンは、もし可能なら、KP.2株ベースが望ましいと通知した。もし可能なら、という文節が印象的だが、急変更であることや、全メーカーが対応できるとは限らないことに配慮したものと推測される。

既報のように、6月5日に開催されたFDA諮問委員会はJN.1系統に対応することを全員一致で推奨し、非公式ではあるが亜系統であるKP.2ではなくJN.1自体とすることに賛成した。翌日、FDAはJN.1ベースとするようメーカーに通知したが、一週間で方針転換した。

CDC(米連邦疾病管理予防センター)の推定によると、米国で6月8日に終わる2週間の感染例のうち、KP.3株が25%、KP.2株が22.5%と、半数近くを占めた。3ヶ月前には9割超を占めたJN.1は3.1%に低下している。方針転換はこれが理由かもしれない。尤も、メーカー側のin vitro試験ではJN.1ベースのmRNAワクチンでもKP,2ベースでも、JN.1、KP.2、KP.3株の何れにも有効と推定された。どちらでもよいと言えば言えないことはなく、難しい選択だった。

JN.1を選定した欧州等とは食い違ってしまった。また、抗原配合ワクチンを販売するNovavaxはKP.2対応ワクチンの開発が間に合っていない模様なので、米国ではKP.2ベースとJN.1ベースのワクチンが混在することになりそうだ。

リンク: FDAのリリース


FDA、OTCアセトアミノフェンの警告を強化へ
(2024年6月14日発表)

FDAはアセトアミノフェンを配合するOTC薬の添付文書に皮膚副作用警告を記載するよう命じる考え。広聴手続きとして命令案を公表した。文言は、

アレルギー・アラート:アセトアミノフェンは重度皮膚反応を起こすことがある。症状は皮膚発赤、水疱、発疹など。もし皮膚反応が発生したら、使用を止めて速やかに医療を求めること。

アセトアミノフェン服用者に稀だが重い皮膚副作用が発生することは周知の事実であり、FDAは13年に安全性情報を発出、17年には製薬業界向けガイダンスで上記文言の記載を推奨したが、その後もアセトアミノフェンと稀だが重度の皮膚反応の関連が見られるため、警告強化を決めたもの。

リンク: FDAのプレスリリース

【新薬開発】


上海君実、抗PD-1抗体の肝細胞腫試験が成功
(2024年6月11日発表)

Junshi Biosciences(上海君実生物医薬、HKSE:1877)は、toripalimabの第3相肝細胞腫一次治療試験、HEPATORCHで主目的を達成したと発表した。進行性患者をtaripalimab・bevacizumab併用群とsorafenib群に無作為化割付けしてオープン・レーベルでPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)と全生存期間を比較したところ、どちらも事前に設定された統計学的閾値をクリアした。承認審査機関(複数)に適応拡大申請する考え。

中国で18年に初承認された抗PD-1抗体で、23年には米国でも転移/難治局所進行上咽頭腫の一次治療に化学療法と共に、そして二次治療以降に単剤で、用いることが承認された。

今回の試験は米国承認の根拠となった試験と同様に中国、台湾、シンガポールの施設で実施されたが、治験登録(ClinicalTrials.gov)を見ると、FDAが規制する薬品の研究か、という問いにこちらの試験は否と記されている。おそらく、米国で適応拡大申請する意図はないのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(Globe Newswire)


モデルナ、インフルエンザ兼COVID-19ワクチンの第3相成功
(2024年6月10日発表)

モデルナは、mRNA-1083の第3相試験二本で主目的を達成したと発表した。承認申請に向かおう。

同社のCOVID-19ワクチンSpikevaxと、年内承認申請予定の新規季節性インフルエンザ・ワクチンmRNA-1010の成分を配合した混合ワクチンで、一本は65歳以上を組入れて中和抗体価をSpikevaxとサノフィのFluzone HDの併用と比較、もう一本は50~64歳を対象にSpikevaxとGSKのFluarixの併用と比較した。どちらも非劣性解析が成功し、優越性解析も成功した。

65歳以上の試験ではインフルエンザA(H1N1、A(H3N2)、B/ビクトリア、COVID-19 XBB.1.5株におけるGMR(幾何平均比)が各1.15、1.06、1.12、1.64だった。50~64歳では各1.41、1.38、1.22、1.31だった。B/山形株にも非劣性だったが、流行しなくなったため、WHOなどが2024/25シーズン以降は対応不要と断じている。

COVID-19 JN.1株やKP.2株に対してはどうなのか不明だが、もし対応しているならば、接種が一回で済めばそれに越したことはないので、二種混合、RSV含めた三種混合が実用化されれば都合がよい。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザー、DMD遺伝子療法試験がフェール
(2024年6月12日発表)

ファイザーはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法であるPF-06939926(fordadistrogene movaparvovec)の第3相CIFFREO試験で主目的も主要副次的目的も達成できなかったと発表した。サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)のElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)も加速承認後薬効確認試験がフェールしており、結局、この種の治療は効果がそれほど大きくないのだろう。

PF-06939926は、DMD患者が欠乏するジストロフィンの遺伝子の代わりに短いがある程度機能するミニジストロフィン遺伝子をAAV9(アデノ随伴ウイルス9型)をベクターとして患者の筋細胞に導入する。上記試験は日本を含む10以上の国で4~7歳の歩行可能な、AAV9中和抗体を持たない患者99人を組入れて、52週間の粗大運動機能の変化を偽薬と比較した。主評価項目はNSAA(North Star Ambulatory Assessment)、副次的評価項目は起立時間(time to rise from floor)や10メートル歩行走行テスト。

20年の投与開始以降、筋力低下副作用や死亡例が報告され治験停止やプロトコル変更が実施された。試験薬群の投与が完了した後にも第2相試験の被験者が一名死亡し、偽薬群のクロスオーバーが中断されている。死亡2例の試験薬との関連性は明らかではない。

Elevidysはマイクロジストロフィン増加というサロゲート・マーカーなどに基づき23年に米国で4~5歳限定で加速承認された。市販後薬効試験に当たるEMBARK試験では第2相と同様に4~7歳の歩行可能な患者を組入れて臨床的便益を偽薬群と比較した。主評価項目のNSAAも、副次的評価項目の起立時間や10メートル歩行走行テストもトレンドに留まり有意差はなかったが、サレプタは4~7歳に本承認するよう申請、6月21日までに結果が出る見込み。

薬の評価は偽薬だけでなく現実とも比較する必要があり、大きな効果が望めないとしても、副作用がひどくない限り、患者が望むなら使うのを承認する手もある。アルツハイマー病薬Aduhelm(aducanumab-avwa)の加速承認を推進した神経科学部のヘッドは既に退任したのでme tooと叫んでも認められるとは限らないが、審査担当部署の抵抗を押し切ってElevidysを加速承認した生物学的製剤部門のヘッドは健在なので、もしかしたらファイザーも承認申請できるかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


コルスバ経口製剤の開発が成功せず、身売りも視野に
(2024年6月12日発表)

Cara Therapeutics(Nasdaq:CARA)はdifelikefalinの経口投与用新製剤の第2/3相KOURAGE-1試験のパートAが期待外れの結果になり、開発を中止すると共に、株主に最善の戦略的オプションを検討すると発表した。背部錯感覚症の成人における中重度掻痒の改善を図ったが、3用量とも、第8週掻痒数値評価スケールが偽薬と大差なかった。2mgの第8週最大掻痒数値評価スケールの改善が偽薬を有意に上回ったPOC試験と食い違う結果になった。

末梢作用性カッパ・オピオイド受容体アゴニストdifelikefalinは透析期腎疾患患者の中重度掻痒の静注用治療薬として21年に米国でKorsuva名で、22年に欧州でKapruvia名で、23年にはライセンシーである丸石製薬のコルスバとして、承認された。米国ではメディケアを所管するCMSが22年4月から2年間、透析医療における包括払いの対象から除外する経過的薬剤費追加還元調整(TDAPA)を付与したが、既に終了したため需要の減少が危惧される。現状で唯一の臨床開発プロジェクトであった本試験のフェールにより、打つ手がなくなった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


タグリッソをCRT後維持療法にも申請
(2024年6月10日発表)

アストラゼネカはTagrisso(osimertinib)の適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年第4四半期とのこと。

新患のEGFRにエクソン19欠損又はエクソン21のL858R変異を持つ切除不能ステージIII非小細胞性肺癌で、治癒化学放射線療法を受けた患者の維持療法を行うもの。第3相LAURA試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザード・レシオが0.16、メジアン値は偽薬群の5.6ヶ月に対して39.1ヶ月と大変良かった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟で、ハザードレシオは0.81(95%信頼区間0.42-1.56)と案外だが、偽薬群の8割が進行判定後に試験薬にクロスオーバーしたことが影響しているのかもしれない。

TagrissoはEGFR阻害剤。結合部位が類薬と異なるためEGFR阻害剤抵抗性の癌にも有効性が見られる。米欧日で15~16年に初承認。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、リリーの抗Aベータ抗体を支持
(2024年6月10日開催)

FDAはPCNSDAC(末梢中枢神経系薬諮問委員会)を招集し、イーライリリーが早期症候性アルツハイマー病用薬として承認申請した抗アミロイドベータ(p3-42)抗体、LY3002813(donanemab)について意見を聞いた。FDA側の論点は多かったが、便益が示されているか、という質問にも、便益が危険を上回るか、という質問にも、11人全員が是と答えた。審査期限は今年第1四半期だったが超過しており、いつ結果が出るか不透明。諮問委員会から1ヶ月以内に期限が到来する場合は超過することが多いことから考えると、7月中旬以降になるのではないか。

第3相のTRAILBLAZER-ALZ2試験で76週時点のCDR-SBがベースラインの3.7から1.20低下したが、偽薬群の1.88低下より36%小さかった。論点は、第1に、この試験はPET検査でtau値が一定以下だった患者は除外していること。現実の医療で事前検査を義務付けるのは機会の面でも費用の面でも非現実的で、類薬であるエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb)がtau検査不要であることを考えると、普及の妨げになる。かと言って、便益が確立していなのに適応とするのは大胆である。

第2に、この試験はアミロイド・ベータが除去されたら投与を止めるプロトコルを採用した。だが、離脱試験は実施されていないので、継続投与と比べて疾病進行リスクが高まらないか、心配だ。現実の医療では医療保険は歓迎するかもしれないが、患者は継続治療を望むかもしれないので、間に挟まれる医療従事者は説得する材料(エビデンス)を欲するだろう。

第3は、Leqembiと同様に、あるいはそれ以上の頻度で、ARIA(アミロイド関連画像異常)が見られること。第4に、本試験はiADR(アルツハイマー病統合評価尺度)という確立したとは言えない尺度を主評価項目としていること(本稿では話を単純化するために副次的評価項目のCDR-SBだけ記した)。

これらの不透明な点を踏まえて尚、諮問委員会は承認を支持した。LeqembiやAduhelm(aducanumab-avwa)の承認を強力に後押した神経科学部門のヘッド、Billy DunnはLeqembi加速承認を置き土産にFDAを去った一方で、諮問委員会のスタンスはAduhelmの諮問委員会の頃より軟化しているように感じられ、両者の立ち位置が逆転したような格好だ。

リンク: Alzforumの記事

【承認】


BMS、NTRK遺伝子融合型固形癌に適応拡大
(2024年6月13日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、FDAがAugtyro(repotrectinib)を局所進行/転移/切除不適なNTRK(Neurotrophic tropomyosin kinase receptors)遺伝子融合のある固形癌に加速承認したと発表した。12歳以上の、治療後に再発又は適切な薬がない患者が適応になる。臨床成績は、チロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持たない患者40人のうち58%がcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)、完全反応は15%、反応持続期間のメジアン値は未達で1年持続率は83%だった。治療歴のある48人ではORR50%、完全反応なし、メジアン持続期間は9.9ヶ月だった。

尚、合計症例88人中、非小細胞性肺癌が35人、唾液腺癌が11人、軟組織肉腫9人、甲状腺癌9人だった。

22年にTurning Point Therapeuticsを41億ドルで買収して入手したROS1やTRK、ALKのチロシン・キナーゼ阻害剤。昨年11月に米国で成人の局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認され、日欧でも申請中。

リンク: BMSのプレスリリース


レットヴィモがRET融合陽性甲状腺癌に本承認
(2024年6月12日発表)

FDAはイーライリリーのRetevmo(selpercatinib)のRET融合陽性甲状腺癌における加速承認を本承認に切替えると共に、適応年齢下限を12歳から2歳に引き下げた。全身性治療を必要とする、放射性ヨード不応/不適の進行/転移性癌が適応になる。20年の加速承認時のORR(客観的反応率)解析対象は27人だったが、今回は65人に拡大した。

20年にはRET融合陽性転移非小細胞性肺癌とRET変異陽性進行/転移甲状腺髄様腫も同時に加速承認され、前者は、22年に本承認に切替わったが、この時もORR解析対象が105人から316人に拡大している。加速承認を受けた製薬会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる便益を確認しなければならないが、RET阻害剤などの分子標的薬に関しては、ORR症例数を増やしてデータの信頼性を向上すれば十分のようだ。

尚、イーライリリーはRetevmoの複数の第3相が成功したと発表しており、やがて、全生存期間又は無進行生存期間改善作用が明らかにされるだろう。

リンク: FDAのプレスリリース


ケブザラが多関節型若年性特発性関節炎に適応拡大
(2024年6月11日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、抗IL-6受容体アルファ・サブユニット抗体Kevzara(sarilumab)を活性期pJIA(多関節型若年性特発性関節炎)に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。若年性と言っても適応になるのは体重63kg以上のみ。200mgを2週毎に皮下注する。DMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)と併用可。

エビデンスは薬物動態/薬理学や安全性を検討した試験と他の類似疾患における治験実績のようだ。前者は17年に抗リウマチ薬として承認された時にコミットした小児試験で、治療に十分応答しない2~17歳の患者を組入れて、用量探索フェーズの結果を踏まえて検証的フェーズでは体重30kg以上の42人には3mg/kgを、10kg以上30kg未満の31人には4mg/kgを、2週毎に投与した。レーベルには薬効に関する記載はない。

レーベルによると、体重63kg未満の小児向けに承認されていないのは、承認規格が200mgのシリンジとオートインジェクターだけであるため。

リンク: 同社のプレスリリース


PPAR作動剤が原発性胆汁性胆管炎用薬として承認
(2024年6月10日発表)

イプセンは、FDAがIqirvo(elafibranor)を成人のPBC(原発性胆汁性胆管炎)治療薬として加速承認したと発表した。、UDCA(ursodeoxycholic acid)による治療に十分応答しない患者に追加投与、または、不耐患者に単剤投与する。

80mgを一日一回経口投与した第3相ELATIVE試験で52週生化学的反応率(ALP(アルカリフォスファターゼ)がULN(基準値上限)の1.67倍未満に低下するかベースライン比15%以上減少し、且つ、総ビリルビンがULN以下に低下)が51%と偽薬群の4%を大きく上回った。副次的評価項目の掻痒尺度の改善は有意水準には達しなかった。非代償性疾患を合併したり死亡したりするのを抑制する効果は確立していない。

非代償性肝硬変を合併する患者には推奨されない。警告・注意事項は筋痛/ミオパチー/横紋筋融解症、骨折、胚胎毒性・新生児発達障害、薬物誘導性肝障害、過敏反応、胆道閉塞。

フランスのGenfit(Nasdaq:GNFT)からライセンスしたPPARアルファ作動剤。欧州でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】

PDUFA
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
諮問委員会
24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



今週は以上です。

2024年6月9日

第1058回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • Vanda、今度はパブヒア手続き認められたが... 
  • 黒色腫の新しいウイルス療法を承認申請へ 
  • ユプリズナのIgG4関連疾患試験が成功 
  • ギラン・バレー症候群の第3相が成功 
  • BMSの免疫調停薬二剤併用が肝細胞腫でVEGFR阻害剤単剤に勝つ 
  • 家族性カイロミクロン血症候群のRNAi治療薬を承認申請へ 
  • PKR活性化剤のサラセミア試験が成功 
  • Blenrepの復活に向け二本目の試験が成功 
  • タグリッソの地固め療法試験が成功 
  • イミフィンジの小細胞性肺癌維持療法試験が成功 
  • エンハーツはハーツーがちょっとでも有効 
  • 腎細胞腫のPET診断薬を承認申請 
  • 抗体サイトカイン複合体を欧州で黒色腫ネオアジュバントに承認申請 
  • FDA諮問委員会、MDMA承認に反対 
  • FDAも24/25シーズンのCOVID-19ワクチン株にJN.1を推奨 
  • GSK、RSVワクチンが50歳にも承認 
  • テロメラーゼ阻害剤がMDSに承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


Vanda、今度もパブヒア機会が認められたが...
(2024年月日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)はMT1/2受容体作動剤Hetlioz(tasimelteon)をジェット・ラグによる不眠や入眠困難型不眠症の治療薬としてFDAに効能追加申請を行ったが、どちらも承認されなかった。臨床試験でFDAが重視する評価項目の一つをオミットしたことや、薬効確認試験を一本しか実施せずその試験もp値が十分に低くなかったことなどが理由。Vandaはジェット・ラグに関する審査完了通知を受領した3年後に広聴(パブヒア)機会を請求し、認められたが、双方のやり取りやコロンビア特別地区地裁における審理、決定を経て、FDAは、事実的根拠が不十分であることなどから、パブヒアを行わない決定をした。

入眠困難型不眠症に関しても今年3月に審査完了通知を受領した後にパブヒア機会を請求し、今回、官報に掲載される予定のVandaや利害関係者向け公告が公開された。希望者は掲載から30日以内にパブヒアの意向を通知し、同60日以内に根拠を通知することができる。

Hetloizは既にテバなどがGE薬を発売しているので、これ以上粘っても株主の財産を損なうだけのように感じられる。尚、同社を巡っては今年に入って二社が企業買収を提案、Future Pakの提案は一株当たり$6.75で始まり、$7.25~7.75およびConvertible Value Rightに引き上げられたが、取締役会が5月に過小評価として拒否。今回、Cycle Groupが一株当たり$8で打診してきたため取締役会で検討することが決まった。同社や株主にとって最善であるかどうか検討するとしており、株主の利益を最重視する企業風土ではないのだろう。

リンク: Federal Registerの当該頁


【新薬開発】


黒色腫の新しいウイルス療法を承認申請へ
(2024年6月6日発表)

Replimune Group(Nasdaq:REPL)は、RP1が第2相IGNYTE試験で良績を挙げたと発表した。FDAと承認申請前ミーティングを行って下期に承認申請する考え。

RP1は細胞融合性蛋白GALV-GP R-とGM-CSFの遺伝子を組み込んだHSV-1療法。この第2相は、抗PD-1抗体(抗CTLA4併用可)で8週間以上治療しても進行が止まらなかった黒色腫140人を組入れて、2週毎に8回投与すると共に、第2サイクルからnivolumabも2週毎に最大29回投与して、ORR(客観的反応率、独立中央評価)を検討した。主評価項目のmodified RECIST 1.1ベースでは33.6%、FDAの要請で実施したRECIST 1.1ベースでは32.9%だった。メジアン反応持続期間は35ヶ月超(起算はベースライン時点)。G4有害事象はリパーゼ上昇、肝臓酵素上昇、ビリルビン上昇、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肝サイトーシス、脾臓破裂が各1例、G5はなかった。

加速承認を得るためには第3相薬効確認試験に十分な数の被験者を組入れ済みである必要がある。同社は第3四半期に全生存期間を医師が選んだ実薬と比較するIGNYTE-3試験の組入れを開始する予定。

抗PD-(L)1抗体不応の悪性黒色腫用薬としてはIovance Biotherapeutics(Nasdaq:IOVA)の自家腫瘍浸潤リンパ球療法、Amtagvi(lifileucel)が2月に米国で承認されている。ウイルス療法としてはアムジェンのGM-CSF発現HSV-1療法薬、Imlygic(talimogene laherparepvec)が、15年に米欧で術後に再発した切除不能悪性黒色腫の局所的治療に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


ユプリズナのIgG4関連疾患試験が成功
(2024年6月5日発表)

アムジェンはUplizna(inebilizumab)の第3相IgG4関連疾患フレア予防試験、MITIGATEで主目的と主要副次的評価項目を達成したと発表した。米国などで適応拡大申請する考え。

IgG4関連疾患はIgG4値上昇を特徴とする進行性臓器障害。日本で発見・概念提唱されるまでは自己免疫性膵炎など、個々の表現形別に認識されていた。CD19陽性細胞などによる自己免疫疾患と推測されており、様々な臓器が不可逆的な損傷を受ける。罹患率は10万人当り1-5人と推測されているが、広く知られた疾患ではなくシェーグレン症候群など症状が似た疾患もあるため、過小の可能性がある。治療は高量ステロイドが有効だが、安全性配慮から減量したり中断したりするとフレアのリスクがある。抗CD19抗体rituximabがオフレーベル使用されることもあるようだ。

UpliznaはCD19を標的とする脱フコシル化モノクローナル抗体。開発企業はCellective Therapeutics→Mediimune→Viela Bio→Horizon Therapeutics→アムジェンと、企業買収やスピンアウトによる変遷を経た。20~21年に日米で中枢神経系自己免疫疾患であるNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)の再発予防薬として承認された。

今回、多臓器疾患を合併しステロイドによる活性期治療を受けている高リスクIgG4関連疾患の成人135人を偽薬群と300mg群に無作為化割付けして、ステロイド量漸減と並行して第1日、15日、第28週に点滴静注して再発リスクを比較したところ、偽薬比87%小さかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ギラン・バレー症候群の第3相が成功
(2024年6月4日発表)

米国カリフォルニア州で古典的補体系が関連する疾患の治療薬を開発している企業、Annexon(Nasdaq:ANNX)は、ANX005の第3相ギラン・バレー症候群(GBS)治療試験で主目的を達成したと発表した。低用量群のGBS-DS(ギラン・バレー症候群機能尺度)が偽薬比2.4倍改善した。欧米で実態調査を実施して外挿性を確かめた上で25年上期に米国で承認申請する考え。

ANX005は補体系のC1qを阻害する点滴用薬。今回の試験はバングラディッシュとフィリピンの施設で発症10日以内、GBS-DSが3~5点の患者241人を偽薬、30mg/kg、75mg/kgの3群に無作為化割付けして、一回点滴静注し、第8週における数値を比較した。30mg/kg群は比例オッズ分析で偽薬群を2.4倍上回り、p=0.0058だった。副次的評価項目の筋力や人工呼吸日数も有意に改善した。治療関連有害事象は点滴関連反応(発生率30%)など。

最近はFAQという単語を見かけなかったが、同社のプレスリリースは色々な何故、に予め答えている。なぜ両国で実施したのか?GBSの標準治療は免疫グロブリン静注だが米国では未承認で便益の度合いが確立していないため、FDAが偽薬対照試験を推奨した。そこで、GBS症例が多く、免疫グロブリンによる治療体制が整っていない両国で実施した。米国の患者に外挿できるのか?FDA相談を踏まえて、欧米で2000人の患者を1~3年追跡するリアル・ワールド試験を行って、比較可能性を確認する。第3相試験の組入れ基準は西側社会のGBS患者の5割をカバーできると推定。なぜ、高用量群はフェールしたのか?古典的補体系の暴走による組織損傷は1週間程度で終わり、その後はむしろ神経修復を促す。30mg/kgの効果は1週間程度だが75mg/kgは2~3週間続くので、C1q抑制期間が長すぎたと考えられる。

ANX005はハンチントン病でも30人足らずの第2相で好ましい成果を挙げている。

リンク: 同社のプレスリリース


BMSの免疫調停薬二剤併用が肝細胞腫でVEGFR阻害剤単剤に勝つ
(2024年6月4日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは切除不能肝細胞腫の一次治療におけるOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用法を検討した第3相CheckMate-9DW試験の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。668人の患者を両剤併用群(最初の4サイクルはOpdivo 1mg/kgとYervoy 3mg/kgを3週毎に投与、その後はOpdivo 480mgを4週毎投与)と医師が選んだ薬群(選択肢はsorafenibとlenvatinib)に無作為化割付けして全生存期間を比較したところ、中間解析でメジアン生存期間が各群23.7ヶ月と20.6ヶ月、ハザードレシオは0.79、p値は0.018でまあまあ低かった。副次的評価項目の客観的反応率は各36%と13%、メジアン反応持続期間は30.4ヶ月と12.9ヶ月、G3/4治療関連有害事象発生率は41%と42%だった。適応追加申請に向かうだろう。

Opdivoは第2相試験のORRとメジアン反応持続期間に基づき切除不能肝細胞腫の二次治療に単剤投与することが米国で加速承認されている。第3相一次治療単剤投与試験では全生存期間でsorafenibを上回ることができなかったが、今回の試験も市販後薬効確認試験に位置付けられているので、本承認切替の可能性がありそうだ。

よく分からないのは、最近の類似試験の実薬群の数値がやけに良いことだ。分かりやすいのはエーザイ/MSDのVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib)。sorafenib対照試験のメジアン生存期間は13.2ヶ月だったたが、5年後に開票したKeytruda(pembrolizumab)併用試験の対照群としての成績は19.0ヶ月と、7ヶ月近くも増加した。これは、下表の6試験の群間差を遥かに凌ぐ。治療オプションが増えて臨床試験には比較的軽い人しか参加しなくなったのか、二次、三次治療が進歩したのか、実施地域の違いか、それとも、試験薬以外の医療技術が進歩したのだろうか?

切除不能肝細胞腫一次治療試験の成績
発表年試験薬OS対照薬OSHR成否
2017lenvatinib13.2ヶ月sorafenib12.3ヶ月0.92成功
(非劣性検定)
2019nivolumab16.4ヶ月sorafenib14.7ヶ月0.85フェール
2019atezolizumab
+ bevacizumab
約19ヶ月sorafenib13.2ヶ月0.58成功
2021durvalumab
+ tremelimumab
16.4ヶ月sorafenib13.8ヶ月0.78成功
2022lenvatinib
+ pembrolizumab
21.2ヶ月lenvatinib19.0ヶ月0.84フェール
2024nivolumab
+ ipilimumab
23.7ヶ月sorafenib
またはlenvatinib
20.6ヶ月0.79成功
注:第1行の試験以外は優越性検定。OS=メジアン生存期間、HR=ハザード比。

リンク: 同社のプレスリリース


家族性カイロミクロン血症候群のRNAi治療薬を承認申請へ
(2024年6月3日発表)

Arrowhead Pharmaceuticals(Nasdaq:ARWR)はARO-APOC3(plozasiran)の第3相家族性カイロミクロン血症候群試験が成功したと発表した。75人の成人患者を組入れて10ヶ月治療した試験で、空腹時トリグリセライド値が25mg群は80%減少、50mg群は78%減となり、偽薬群の17%減を有意に上回った。急性膵炎も有意に抑制された。治療時発現有害事象は各群同程度。年内に承認申請する考え。

アポリポ蛋白C-IIIを沈黙させ、TRL(トリグリセライド・リッチ・リポ蛋白)の分解やTRLレムナントの肝吸収が妨げられないようにするRNA介入薬。重度トリグリセリド血症の第3相も進行中。

リンク: 同社のプレスリリース


PKR活性化剤のサラセミア試験が成功
(2024年6月3日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はPyrukynd(mitapivat)の第3相輸血依存サラセミア試験が成功したと発表した。1月に成功した非輸血依存サラセミア試験と合わせて年内に承認申請する考え。

ピルビン酸キナーゼRのアロステリック・アクティベータで、22年に米欧でピルビン酸キナーゼ欠乏症の成人における溶血性貧血の治療薬として承認されている。今回のENERGIZE-T試験は輸血依存アルファ/ベータ・サラセミアの成人194人を組入れて、100mgを一日二回経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目の輸血減少応答率(赤血球輸血半減且つ48週間の治療期間中に12週以上連続で輸血量がベースライン比2単位以上減少)が30.4%と偽薬群の12.6%を有意に上回った。有害事象による治験離脱の発生率は5.8%対1.2%で若干上昇した。

リンク: 同社のプレスリリース


Blenrepの復活に向け二本目の試験が成功
(2024年月日発表)

GSKはASCO(米国臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で抗BCMA抗体薬物複合体Blenrep(belantamab mafodotin)の第3相DREAMM-8試験の成績を発表した。先に成功発表されたDREAMM-7試験と同様な、治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫における3剤併用試験で、違いは併用薬及び対照薬と、今回は用量を若干抑えていること。

Blenrepは多発骨髄腫のサルベージ・セラピーとして単剤投与した第2相試験に基づき2000年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験で実薬を凌ぐPFS(無進行生存期間)が確認されず、米国は23年2月に承認取消し、EUもCHMPが昨年12月に年次更新しないよう勧告した。ところが、今になって上記二本が成功、年内に日米欧で承認申請される見込み。

DREAMM-8はBPdレジメン(belantamab mafodotin、pomalidomide、dexamethasone、28日サイクル)を日欧で承認されているPVdレジメン(pomalidomide、bortezomib、dexamethasone、21日サイクル)と比較した。belantamab mafodotinの承認時の用量用法は2.5mg/kg3週毎でDREAMM-7試験も同じだが、この試験では4週毎で2回目以降は1.9mg/kgを投与した。3月に独立データ監視委員会が中間解析で目的達成を認定、PFS(無進行生存期間)のハザード・レシオが0.52、12ヶ月PFS率は71%対51%、全生存期間は未成熟だが点推定値はハザードレシオが0.77、12ヶ月生存率は83%対76%と、良さそうに見える。

尚、DEAMM-7はbortezomibとdexamethasoneをベースにbelantamab mafodotin追加群とdaratumumab追加群のPFSを比較したもの。ハザードレシオは0.41、メジアン値は36.6ヶ月対13.4ヶ月だった。

多発骨髄腫は一次治療から多剤併用が一般的になったので、二次以降は使わなかった薬から選ぶことになる。一次治療でbortezomibも使うケースも多い模様だが、使わなかった患者の場合、bortezomib及びdexamethasoneにbelantamab mafodotinを追加するか、pomalidomide追加か、を比較するほうが一般的であるように感じられるが、今って違うのだろうか?

リンク: DimopoulosらのNEJM論文抄録


タグリッソの地固め療法試験が成功
(2024年6月2日発表)

アストラゼネカはASCOでTagrisso(osimertinib)の第3相LAURA試験の成績を発表した。切除不能ステージIII非小細胞性肺癌でEGFRにエクソン19欠損又はエクソン21のL858変異を持ち、治癒目的の化学放射線療法後に進行しなかった患者216人を組入れて、偽薬または80mgを一日一回経口投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.16、メジアン値は各群5.6ヶ月と39.1ヶ月と、大きな差があった。全生存期間は未成熟で、偽薬群の患者は進行後に試験薬にクロスオーバーできるため差が稀薄化される可能性があるが、中間解析のハザードレシオは0.81と正しい方向を向いている。G3以上の有害事象発現率は各群12%と35%。

Tagrissoは初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つ変異型に強いEGFR阻害剤。化学療法併用で非小細胞性肺癌の一次治療に用いることなどが米欧日で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: RamalingamらのASCO抄録


イミフィンジの小細胞性肺癌維持療法試験が成功
(2024年6月2日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の限局型小細胞性肺癌維持療法試験、ADRIATICの成績をASCOで発表した。同時化学放射線療法後に進行しなかった患者を組入れて1500mgを4週毎投与する効果を偽薬と比較したところ、全生存期間のハザードレシオが0.73、p=0.01、メジアン値は各55.9ヶ月と33.4ヶ月、3年生存率は各57%と48%と、大きな延命効果が示された。共同主評価項目のPFSもハザードレシオが0.76、p=0.016だった。G3/4有害事象の発現率はなぜか両群同程度だった。

この試験は抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab)を併用する群の全生存期間やPFSも副次的評価項目に設定されているが、まだ熟していない模様で、継続追跡中。

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツはハーツーがちょっとでも有効
(2024年6月2日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(trastuzumab deruxtecan)の第3相DESTINY-Breast06試験の成績をASCOで発表した。her2発現度が低または極低の進行/転移乳癌で転移後に内分泌療法を二次以上、またはCDK4/5阻害剤併用一次治療を受け6ヶ月以内に進行した患者を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を実薬(capecitabine、paclitaxel、またはnab-paclitaxelの中から医師が選択)と比較したところ、主評価項目であるher2低発現サブグループ(866人中713人)ではハザードレシオ0.62、メジアン値は各群13.2ヶ月と8.1ヶ月、副次的評価項目である全被験者の解析では各0.63、13.2ヶ月、8.1ヶ月と、何れも有意な差があった。探索的なher2極低サブグループの解析でも0.78、13.2ヶ月、8.3ヶ月と良さそうな成績。

全生存期間の解析は未成熟だが、第1次中間解析のハザードレシオはher2低で0.83、全体で0.81、her2極低は0.75と好ましい方向を向いている。

G3以上の治療関連有害事象発現率は試験薬群が40.6%、対照群は31.4%。Enhertuの泣き所である間質性肺疾患/肺臓炎の発生率は11.3%で、G3/4は0.7%、G5も0.7%だった。対照群はG2が1人0.2%だけだった。

尚、Enhertuが登場するまでher2標的薬の適応はIHC法her2検査で3+、または2+で且つISH法で陽性の場合だけだった。乳癌の2割前後が該当する。IHC法の0は染色増が認められない、または10%以下の腫瘍細胞に不完全で微かな膜染色が認められることを意味する。今回の試験で適応範囲が極低にまで広がったら、IHC法の0をさらに細かく分類しなければならなくなるが、判定は容易ではないようだ。今回の試験でも、極低の判定は治験施設の評価を中央査読した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: CuriglianoらのASCO抄録


【承認申請】


腎細胞腫のPET診断薬を承認申請
(2024年6月3日発表)

オーストラリアのTelix Pharmaceuticals(ASX:TLX)は米国でTLX250-CDx(89Zr-DFO-girentuximab)のローリング承認申請を完了したと発表した。放射性核種で標識した抗体医薬で、腎淡明細胞腫のPET診断に用いる。臨床試験で感度が86%、特異度87%、陽性的中率(PPV)は93%だった。ブレークスルー・セラピー指定を受けているので優先審査指定されるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


抗体サイトカイン複合体を欧州で黒色腫ネオアジュバントに承認申請
(2024年6月4日発表)

イタリア証券取引所上場のPhilogen(BIT:PHIL)とインドのSun Pharmaceutical(BSE:524715)は、EMA(欧州薬品庁)にNidlegy(daromun)を局所進行性黒色腫のネオアジュバント(術前薬物補助)療法として承認申請した。

ASCOでエビデンスとなるPIVOTAL試験の成績が発表された。独伊仏ポーランドの施設で全摘可能な局所進行性黒色腫256人(9割超が手術/薬物治療歴あり)を組入れて、L19IL2(腫瘍細胞で発現するfibronectinのエクストラ・ドメインBに結合する抗体にIL-2を結合)とL19TNF(同抗体にTNFを結合)を混合して術前に週一回、最大4回、腫瘍内投与したところ、RFS(無再発生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン16.7ヶ月と、投与しなかった群の6.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、log-rank p=0.005だった。遠隔転移のリスクも低下した。試験薬群のG3治療時発現有害事象発生率は12.7%だった。

尚、この試験は術後薬物療法も許容されていたが、試験薬群の施行率は40.5%と対照群の29.8%より高かった。

Sun Pharmaceutical(BSE:524715)は欧州やオーストラリア、ニュージーランド市場で開発販売する権利を持っている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: 同(ASCO発表について、5/31付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、MDMAの承認に反対
(2024年6月4日発表)

FDAは精神薬理学薬諮問委員会を招集し、Lykos Therapeutics Public Benefit Corporation(旧社名MAPS Public Benefit Corporation)がPTSD(トラウマ後ストレス障害)の精神療法補助薬として承認申請したmidomafetamine(通称MDMA)の臨床成績評価について意見を求めた。便益が示されているか、という問いには2名がイエス、9名はノーと答え、FDAが提案するREMS(リスク評価・緩和戦略)が導入されることを前提に便益が危険を上回るか、という問いにはイエス1名、ノー9名と、圧倒的多数が承認に反対した。審査担当者の懸念が裏付けられた格好で、おそらく、承認されないだろう。審査期限は8月11日。

MDMAは依存性のある覚醒剤で、DEA(米連邦麻薬取締局)が最も厳しい規制が課されるスケジュールI物質に指定している。一方で、規制緩和の動きもあり、40近い州では合法化されている。医薬品化に向けた動きも活発で、先頭に立っているのがLykosだが、依存性もあるので、危険性の確認と、それを上回る便益の立証がマストであることを、今回のエピソードは浮き彫りにした。

第3相試験は一本では重症PTSDの患者90人、もう一本は中等症重症の104人を組入れて、3サイクルのセッションを施行した。一つのサイクルは3~5週間に、サイコセラピーだけのセッション(90分)を週一回、合計3回と、偽薬または試験薬を併用するセッション(8時間)を一回施行した。試験薬群は第1サイクルは34mgカプセル2個を投与し、1.5~2時間後に1個追加投与、第2、第3サイクルは50mgカプセル2個と1.5~2時間後に更に1個、経口投与した。

主評価項目は第18週におけるCAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5)総合重症スコアのベースライン比変化。重症試験ではベースライン値(44点)比24.4点減、偽薬群は13.9点減、p<0.0001。中等症重症試験ではベースラインの39点から各群23.7点と14.8点減少した(p<0.001)。副次的評価項目のmodified Sheehan Disability Scaleでも有意な差が見られた。

諮問委員会の主要な論点は二つ。第一は二重盲検がワークしていないこと。服用すると直ぐに気分影響などが現れるため被験者と担当医が容易に見分けてしまう可能性が高い。実際、事後的な調査で試験薬群の9割、偽薬群の75%が割付けを正しく推測できた。CAPS-5症状スコアなどの評価は第三者がビデオ会議を通じて盲検下で行ったが、被験者の割付けに関する自覚が回答に影響したり、評価者が割付けを推測したりすることも不可能ではなかっただろう。FDA側は第3相前の会議で低量を偽薬代わりに用いることを提案したが、Lykosは、低量は病状を悪化させるリスクがあるとして、採用しなかった。

第二は安全性。違法使用時の有害事象として依存性や心臓疾患、肝臓疾患などが報告されているが、FDAは、第3相試験でのリスク評価が不十分と断じた。まあ、薬にも自動車の型式認定のようなことがあるのだろうが、FDAの指摘内容は素人目にもリーズナブルであり、もし独自に安全性を確認していると主張するのならば、何をどう確認したのか説明してもらわないと困る。

米国は体重管理薬や鎮痛剤、胃腸薬などで大きな薬害訴訟が起きた。その意味でも、事前にリスクを十分に浮き彫りにした上で承認を取らないと、副作用被害にあった人たちにI told youと言えない。

リンク: 同社のプレスリリース


FDAも24/25シーズンのCOVID-19ワクチン株にJN.1を推奨
(2024年6月7日発表)

FDAは、6月5日のVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)における議論を踏まえて、2024/25年シーズンのCOVID-19ワクチンはJN.1一価ワクチンとするようメーカーに推奨した。EUやWHOと足並みが揃った。

CDC(米連邦疾病管理予防センター)の推定によると、米国で5月25日に終わる2週間のCOVID-19感染例における株毎の構成比はオミクロン系統のKP.2が28%、KP.3が13%と2ヶ月前の1~2%から大きく上昇しており、逆に、3か月前には93%を占めたJN.1株は、2ヶ月前に54%、直近では8.4%にまで低下している。23/24年シーズンのXBB.1.5ワクチンはJN.1などに対する効果が低下するため株を変える方が良いが、流行株が変遷しているため何を選ぶか考えどころだ。

ファイザーとモデルナはJN.1ワクチンとKP.2ワクチンを開発しているが、JN.1ワクチンはKP.2株にも、KP.2ワクチンはJN.1株にも、活性を維持している模様。諮問委員会用資料を見ると、マウスの試験でJN.1ワクチンがKP.2やKP.3にもJN.1と同程度の中和抗体価を示した旨が記されている。

抗原ワクチンを販売しているノババックスはJN.1ワクチンだけを開発している模様。mRNAワクチンに抵抗感を持つ人の選択肢を用意する観点からもJN.1を選んだほうが良い、という意見もあったようだ。

これらのことから、諮問委員会では16人の委員全員がJN.1を標的とすることに賛成した。尚、これら3株は何れもオミクロンBA.2系統で、XBB.1.5はBA.2.10.1とBA.2.75.3.1.1.1の組換体、JN.1はBA.2.86の亜系統、KP.2はJN.1.11.1の亜系統とされる。

付記すると、米国でもCOVID-19ワクチンの人気が低下しており、XBB.1.5ワクチンの接種率は成人の22%、幼小児の14%に留まっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 諮問委員会プレゼン資料のリンクなどがあるFDAのページ

【承認】


GSK、RSVワクチンが50歳にも承認
(2024年6月7日発表)

GSKはFDAがRSVワクチンArexvyの適応年齢を50歳以上に拡大したと発表した。対象が1300万人程度増えることになる。臨床試験で液性免疫原性が60歳以上の試験のデータと非劣性だった。6月26日にCDC(米連邦疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が接種推奨の当否を検討する予定。日欧でも申請中。

23年に米欧日で感染時のリスクが高い60歳以上を適応として承認された、アジュバント添加ワクチン。60歳以上の2割以上が接種したとのことなので、23/24年シーズンのCOVID-19接種率と大差ないことになる。

リンク: GSKのプレスリリース


テロメラーゼ阻害剤がMDSに承認
(2024年6月6日発表)

FDAはGeron(Nasdaq:GERN)のRytelo(imetelstat)を多発骨髄腫に伴う輸血依存貧血症の治療薬として承認した。IPSS(国際予後予測スコアリングシステム)でlow/intermediate-1リスクと評価されたMDSで、8週間当り4単位以上の赤血球輸血が必要な、赤血球造血刺激因子に不応、失効、不耐の成人に、7.1mg/kgを4週毎に2時間点滴静注する。欧州でも承認申請中。

正常な細胞ではほとんど新たに発現しないが腫瘍細胞のサバイバルに寄与すると推測される、テロメラーゼのRNAコンポーネントの活性部位に結合するオリゴヌクレオチドをリピッド結合したもの。第3相試験では、メジアン19ヶ月の観察期間中に、40%の患者が8週以上連続で輸血不要だった(偽薬群は15%)。副次的評価項目の24週連続輸血独立達成率は28%だった(同3%)。有害事象は血小板減少症などの骨髄抑制と肝機能検査値の上昇など。


リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】

PDUFA
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
24年7月推JNJのRybrevant(amivantamab-vmjw、osimertinib歴のあるex19del/L858R NSCLCに適応追加)
24年7月推ノボ ノルディスクのNN1436(insulin icodec、週一回投与用インスリン)
24年7月BeiGeneのTevimbra(tislelizumab、未治療食道扁平上皮腫追加)
24/7/7/Arcutis BiotherapeuticsのZoryve(roflumilast、ADの適応追加)
24/7/19Phathom PharmaceuticalsのVoquezna(vonoprazan、症候性非びらん性胃食道逆流症を追加)
諮問委員会
24/6/10PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)
24/7/25ODAC:アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法の追加)



今週は以上です。

2024年6月2日

第1057回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アドセトリスのDLBCL3次治療試験が成功 
  • BMSのKRAS-G12C阻害剤も市販後薬効確認試験が成功 
  • セムブリックスがCML試験で既存薬に勝つ 
  • 糖原病1a型の遺伝子治療試験が成功 
  • 抗PD-1・VEGF二重特異性抗体が中国でKeytrudaに勝つ 
  • オレキシン2アンタゴニストは鬱病にも有効 
  • キイトルーダの早期TNBC試験、延命効果も確認 
  • インスメッド、気管支拡張症の第3相で増悪を抑制 
  • 第一三共の抗TROP2ADC、ある程度の延命効果も確認 
  • ノバルティス、希少腎臓疾患用薬の学会発表 
  • 日本新薬、DMD用薬の市販後薬効確認試験がフェール 
  • ギリアド、抗TROP-2抗体の市販後薬効確認試験がフェール 
  • ロシュ、PI3K阻害剤を承認申請 
  • キイトルーダを悪性胸膜中皮腫に適応拡大申請 
  • サークリサを多発骨髄腫一次治療に適応拡大申請 
  • JNJ、欧州で皮下注用抗EGFRxMET二重特異性抗体の皮下注用を承認申請 
  • CHMP、アジンマなどの承認を支持 
  • モデルナのmRNA型RSVワクチンが承認 
  • ブレヤンジがマントル細胞腫に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アドセトリスのDLBCL3次治療試験が成功
(2024年6月1日発表)

ファイザーは、Adcetris(brentuximab vedotin)の第3相難治再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)試験、ECHELON-3のデータをASCO(臨床腫瘍学会)で発表した。成人の2次以上の治療歴を持ち幹細胞移植やCAR-T療法が不適/施行済みの患者を組入れて、lenalidomideとrituximabの併用レジメンにAdcetrisを追加した試験で、3月に中間解析で目的達成したことだけ発表済み。230人の解析で、全生存期間のハザードレシオが0.63、p=0.0085(閾値は0.0232)、メジアン値は13.8ヶ月、偽薬追加群は8.5ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象の発生率は各群88%と77%、G5発生率は12%と8%だった。

Adcetrisは23年に430億ドルで買収したSeagenの抗CD30抗体薬物複合体。米欧日でホジキン型リンパ腫やT細胞リンパ腫に承認されている。今回の用途用法も承認申請する考え。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: KimらのASCO抄録


BMSのKRAS-G12C阻害剤も市販後薬効確認試験が成功
(2024年6月1日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは3月にKrazati(adagrasib)の第3相KRYSTAL-12試験の成功を発表したが、ASCOでデータを明らかにした。白金ベース化学療法と抗PD-(L)1抗体による治療歴を持つKRAS-G12C変異型進行/転移非小細胞性肺癌における便益をdocetaxelと比較したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.58、メジアン値は5.5ヶ月対3.8ヶ月と若干ではあるが上回った。G3以上の治療関連有害事象の発生率は各群47%と46%、治療時発現有害事象による治験離脱率は7.7%と14.3%だった。

Krazatiと同様に、ORR(客観的反応率)データに基づき加速承認されたKRAS-G12C阻害剤であるアムジェンのLumakras(sotorasib)も、市販後薬効確認試験である第3相が成功したが、治療効果があまり大きくないことや実施内容に問題があったことなどから、FDAも諮問委員会も十分なエビデンスとは認めなかった。Krazatiの成績はハザードレシオもメジアン値の差も若干良いが、すごく違うわけでもない。となると全生存期間の解析が気になるところだが、ASCO抄録によると偽薬群は進行後に試験薬にクロスオーバーすることが可能なので、意味のある解析ができないかもしれない。

この試験は加速承認時の市販後コミットメント試験なのでFDAが肯定的に評価すればLumakrasより先に本承認に切り替わるかもしれない。もしFDAが懐疑的だったとしても、他の試験で本承認切替申請することが認められているので、加速承認が取り消されるような事態は考えにくい。

Lumakrasの市販後薬効確認試験成績はEUのCHMPにも影響し、Krazatiの条件付き承認に一旦は反対したが、再審査で肯定的意見に転じた。今回の結果をCHMPがどう評価するかも注目だ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: MokらのASCO抄録


セムブリックスがCML試験で既存薬に勝つ
(2024年5月31日発表)

ノバルティスはASCOでSTMP阻害剤Scemblix(asciminib)のライバル対決試験、ASC4FIRSTの結果を発表した。フィラデルフィア染色体という染色体融合を伴うCML(慢性骨髄性白血病)の治療は四半世紀前に同社のGlivec(imatinib)が登場し、年間死亡者数が減少するほど大きなインパクトを与えたが、標的であるABLに耐性変異が生じてしまうことがある。Scemblixは結合部位が異なるためABL阻害剤抵抗癌にも有効で、21~22年に米日欧でABL阻害剤の3次治療薬として承認された。今回の、ASCiminibをフィラデルフィア染色体陽性CMLのFIRSTラインに用いた試験では、24週MMR(分子遺伝学的大奏効)率が67.7%と医師が他のABL阻害剤4剤の中から選んだ薬を用いた群の49.0%を大きく上回った。共同主評価項目であるimatinibサブグループとの直接比較でも69.3%対40.2%で上回った。第2世代と言われる残りの3剤との比較も数値上上回ったとのこと。

同社は米国で適応拡大申請したことも明らかにした。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: HughesらのASCO抄録


糖原病1a型の遺伝子治療試験が成功
(2024年5月30日発表)

Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)はDTX401の第3相糖原病1a型試験がポジティブな結果になったと発表した。生産体制を整えた上で25年に米国で承認申請する考え。

糖原病1a型はグリコーゲンを分解しグルコースを生成するのに必要なグルコース-6-ホスファターゼ・アルファが欠乏、臓器にグリコーゲンが蓄積し、命に係わる低血糖や肝腫大などを合併する。コーンスターチの経口投与が有効だが、成人の場合で一日300~350mgを夜間も含めて3~4時間おきに摂取する必要がある。DTX401はAAV8で上記酵素の遺伝子を導入する。第3相では8歳以上の患者46人を組入れて48週間治療し、血糖管理を損なわずにコーンスターチ摂取量を削減する効果を偽薬と比較したところ、各群41.3%と10.3%減少し、統計的に有意且つ臨床的に意味のある効果が見られた。副次的評価項目の患者評価(PGICベース)はトレンドに留まった。AAV遺伝子療法のクラスイフェクトである肝臓影響発現率が76%対12%と大きく上回ったが、コルチコステロイドの予防的投与などを行ったため、G3は1例のみだった。

リンク: 同社のプレスリリース


抗PD-1・VEGF二重特異性抗体が中国でKeytrudaに勝つ
(2024年5月30日発表)

米国フロリダ州マイアミのSummit Therapeutics(Nasdaq:SMMT)は、同社が北米欧州日本市場でライセンスしたSMT112(ivonescimab)が、中国で実施された第3相PD-L1陽性局所進行/転移陽性非小細胞性肺癌試験でpembrolizumabを上回るPFS(無進行生存期間、独立中央評価)を示したと発表した。TPS(Tumor Proportion Score)が50%以上のサブグループでも、pembrolizumanの効果が低下する1~49%のサブグループでも、また、扁平上皮腫でもそれ以外でも、便益があった。数値は未公表。

中国のAkeso(康方生物、HKEX:9926.HK)が創製した、PD-1結合部位とVEGF結合部位を二つずつ持つ二重特異性抗体で、両方が存在する環境で親和性が高まる特徴を持つ。EGFR変異陽性でEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持つ局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に化学療法と併用した中国試験が成功し、5月に中国で承認されたばかり。

FDAは、主として中国で実施された第3相試験に対して、懐疑的な姿勢を示している。Summitは第3相としてEGFR変異非扁平上皮非小細胞性肺癌再発治療試験と転移扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用pembrolizumab対照試験を実施中。

リンク: 同社のプレスリリース


オレキシン2アンタゴニストは鬱病にも有効
(2024年5月29日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはJNJ-42847922(seltorexant)の第3相難治鬱病試験で主目的を達成したと発表した。欧米露台の施設で治療に十分応答しない高齢の不眠症を伴う中重度鬱病588人を組入れて偽薬または20mg(一日一回経口)を追加投与し第43日のMADRS総スコアを比較したもの。データは未発表。

欧米韓ウクライナで実施された同様なデザインの第3相は、ClinicalTrials.govによると、独立データ監視委員会が中間解析に基づき中止を勧告し、打ち切られたようだ。そのせいか、今回のプレスリリースは承認申請について言及していない。承認されている抗鬱剤でも第3相がフェールするのは稀なことではなく、ポジティブな結果になった後期第2相試験のデータと二本揃えて申請する可能性はあるだろう。

2010年代にMinerva Neuroscienceが共同開発していたが、2020年に権利返還した。

リンク: JNJのプレスリリース


キイトルーダの早期TNBC試験、延命効果も確認
(2024年5月28日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)はKeyNote-522試験におけるEFS(無イベント生存期間)延長効果に基づき米国で21年に、22年にはEUや日本でも、ステージII/III未治療トリプル・ネガティブ乳癌の摘出術前・術後補助療法が承認されているが、全生存期間の解析も成功したことが発表された。事前に設定された独立データ監視委員会による中間解析で、carboplatinとpaclitaxelなどの術前療法に術前・術後Keytrudaを追加した群の全生存期間は偽薬追加群と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある増加を見た。

数値は未発表。21年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された第4次中間解析ではハザードレシオ0.72(95%信頼区間I0.51-1.02)、p=0.03214で、事前に割り当てられた閾値をクリアしていなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


インスメッド、気管支拡張症の第3相で増悪を抑制
(2024年5月28日発表)

Insmed(Nasdaq:INSM)は第3相ASPEN試験で主目的を達成したと発表した。嚢胞性線維症ではない患者の気管支拡張症(NCFBE)の患者約1700人(半分は65歳以上)を偽薬、brensocatib 10mg、または同25mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして52週間治療し、肺における増悪の頻度を比較したところ、10mg群は偽薬比21.1%、25mg群は19.4%、小さかった(両群p<0.005)。重度肺増悪も各群25.8%と26.0%小さかったが統計的に有意ではなかった。気管支拡張剤投与後FEV1の変化は各群11mLと38mLで25mg群だけ有意だったが、他の指標では10mgも25mgも数値は大きく変わらない。

特別関心有害事象は歯周・歯肉事象の発生率が各群1.4%、2.1%、2.7%と若干増加、角化症は1.4%、3.0%、0.7%となぜか10mgだけ増加、肺炎は4.0%、4.7%、5.9%で若干増加した。

24年第4四半期に米国で承認申請し25年央ロンチを目指す。欧州日本でも26年上期のロンチを目指す。気管支拡張症の治療薬が承認されれば初。

気管支拡張症で増加が見られる好中球エステラーゼなどの好中球セリン・プロテアーゼの活性化を担う、DPP1を阻害する薬。2016年にアストラゼネカのAZD7986をライセンスした。対象患者数は米国で45万人、欧州5ヶ国は40万人、日本は15万人と推定されている。

リンク: Insmedのプレスリリース


第一三共の抗TROP2ADC、ある程度の延命効果も確認
(2024年5月27日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、欧米でDS-1062(datopotamab deruxtecan)の第3相TROPION-Lung01試験の共同主評価項目である全生存期間の解析についてアップデートした。全ユニバースの解析はフェールしたが、予定適応症である扁平上皮以外の非小細胞性肺癌に関しては実薬比で臨床的に意味のある増加を見たとのこと。どの程度の差なのか、なぜ扁平上皮における差は小さいのか、知りたいものだ。

DS-1062は抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)。今年2~4月に欧米で、上記試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)サブグループ解析に基づき1~2次治療歴を持つ進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に、TROPIN-Breast01試験に基づき切除不能/転移後の治療歴を持つホルモン受容体陽性her2陰性乳癌に、承認申請された。

肺癌試験は白金薬と分子標的薬または抗PD-(L)1抗体歴を持つ患者約600人を試験薬群とdocetaxel群に無作為化割付けして効果を比較した。PFSはハザードレシオ0.75で統計的に有意だがメジアン値は4.4ヶ月対3.7ヶ月で大差なかった。但し、被験者の3/4を占めた扁平上皮腫ではない症例ではハザードレシオ0.63、メジアン5.6ヶ月対3.7ヶ月と、ある程度の延長を果たした。一方で、扁平上皮腫では各1.38、2.8ヶ月、3.9ヶ月と、見劣りした。有害事象では、試験薬群で間質性肺炎発症者が7人死亡した(但しこのうち4人は癌の進行による死去と評価された)。このようなリスクもあるので、それを十分に上回る多くの患者の寿命が延びてほしい所だ。

リンク: 両社のプレスリリース


ノバルティス、希少腎臓疾患用薬の学会発表
(2024年5月25日発表)

ノバルティスはERA(欧州腎臓協会)会議で二つの腎臓疾患用薬の第3相試験の成績を発表した。どちらも承認申請する考え。

経口エンドセリンA受容体拮抗剤、atrasentanは第3相ALIGN試験で加速承認申請用主評価項目を達成、本承認申請用の副次的評価項目の収集に向けて盲検続行中。適応はIgA腎症で、レニン・アンジオテンシン阻害剤で治療しても蛋白尿が1g/日を上回る患者に0.75mgを経口反復投与し、36週後の24時間UPCR(尿蛋白クレアチニン比)の改善を調べたところ、偽薬比36.1%大きく低下した。副次的評価項目である136週eGFR(推算糸球体濾過量)やSGLT2阻害剤も服用しているコフォートにおける効果は26年に判明する見込み。

アッヴィが癌の骨転移治療薬として2004年に米国で承認申請したが非承認通知を受領した。糖尿病性腎症の第3相は良さそうな結果だったが、20年に導出した相手先のカナダのChinook Therapeuticsをノバルティスが23年に買収した。

もう一本は可逆的B因子阻害剤Fabhalta(iptacopan)のAPPEAR-C3G試験。補体系が調停する腎疾患であるC3糸球体症に200mgを一日一回投与し、6ヶ月後の24時間UPCRの改善を調べたところ、偽薬比35.1%大きく低下した。副次的評価項目のeGFRの改善は偽薬群を2.2mL/分/1.73m2上回ったもののp=0.19で有意ではなかった。偽薬群は6ヶ月経過後に試験薬にクロスオーバーしたので、eGFR改善作用に関するこれ以上の解析は行われないのだろう。

Fabhaltaは23~24年に米欧でPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)用薬として承認され、米国ではIgA腎症に適応拡大申請された。因みにIgA腎症試験では24時間UPCRが9ヶ月後に偽薬比38.3%低下した。

リンク: 同社のプレスリリース(atrasentan)
リンク: 同(Fabhalta)


日本新薬、DMD用薬の市販後薬効確認試験がフェール
(2024年5月27日発表)

日本新薬はアンチセンス核酸薬Viltepso(viltolarsen)を、エクソン53スキッピングにより治療可能なジストロフィン遺伝子欠損を持つデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として開発、20年3月に日本で条件付き早期承認を、同月8月には米国でも加速承認を、取得した。エビデンスは第2相試験におけるジストロフィン発現増というサロゲート・マーカーで、日米とも、第3相試験で臨床的な便益を確認するよう求められた。しかし、今回、フェールしたことが発表された。

このRACE53試験は歩行可能な男児77人を偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして48週間治療し、TTS(床から立ち上がるのに要した時間)の改善を図ったが、両群とも改善し、有意な差はなかった。有害事象発現率は差がなかった由。

患者が望むのは立ち上がることだけではないだろうから、副次的評価項目に設定された10m走行/歩行テスト、6分歩行テスト、ノース・スター歩行評価、4段昇段テストなどの成績も気になるところだ。主評価項目も含めて、あまり拙い成績だったら承認が取り消される可能性もあるだろう。

本試験は標準的な治療薬であるグルココルチコイドの用量増減の影響を受けないようデザインされていたが、一部報道によると、上手くワークしなかった可能性もあるようだ。もしそうだったとしても、ステロイド増量で対処できるならば高価な新薬を併用する必要は無いと医療保険会社に言われる可能性があるので、副作用がネットで減少するとか何らかの便益が欲しい所だ。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdfファイル)


ギリアド、抗TROP-2抗体の市販後薬効確認試験がフェール
(2024年5月30日発表)

ギリアド・サイエンシズはTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第3相転移尿路上皮腫試験がフェールしたと発表した。米国で加速承認時に市販後薬効確認試験に指定されており、取消しの可能性が生じた。実薬対照試験なので必ずしも有意に上回らなければならない訳ではないが、有害事象による死亡に群間の偏りがあった点が気がかり。

このTROPiCS-04試験は白金ベース化学療法と抗PD-(L)1抗体による治療歴を持つ患者を組入れて全生存期間を医師が選んだ薬(モノセラピー)と比較した。数値上上回ったが有意水準には届かなかった。有害事象による死亡が増加した主因は好中球減少症の合併症。米国のレーベルはG-CSFの予防的投与を検討するよう推奨している。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、PI3K阻害剤を承認申請
(2024年5月29日発表)

ロシュは米国でRG6114(inavolisib)を承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月27日。

PIK3CA変異を持ちHR陽性、her-2陰性の局所進行/転移乳癌で、術後アジュバント療法中または完了12ヶ月以内に再発した患者を組入れて、ファイザーのIbrance(palbociclib)及びアストラゼネカが創製したfulvestrantに追加投与した試験で、PFS(無進行生存期間、治験医評価)がメジアン15.0ヶ月と偽薬追加群の7.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。全生存期間の解析は未成熟だが中間でハザードレシオ0.64、p=0.03(アルファは0.0098)と好ましい方向を向いている。

PI3K阻害剤で、PI3Kアルファ選択性が高いため忍容性に優れる可能性がある。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダを悪性胸膜中皮腫に適応拡大申請
(2024年5月29日発表)

MSDは米国でKeytruda(pembrolizumab)を切除不能進行/転移悪性胸膜中皮腫の一次治療に化学療法と併用する適応拡大申請を行ない受理された。優先審査を受け、審査期限は9月26日。カナダとフランスの共同治験グループが主導した第2/3相KeyNote-483試験で、メジアン生存期間が17.3ヶ月と化学療法だけの16.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.79、p=0.0324だった。

類薬ではブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用が20~21年に米欧で承認されている。メジアン生存期間が18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74だった。

リンク: MSDのプレスリリース


サークリサを多発骨髄腫一次治療に適応拡大申請
(2024年5月27日発表)

サノフィは抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)を移植不適多発骨髄腫の一次治療に併用する適応拡大を米国で申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は9月27日。日本では5月に一変申請、EUでも申請中とのこと。

エビデンスはIMROZ試験。80歳未満の患者をVRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、dexamethasoneによる寛解導入とlenalidomideとdexamethasoneによる維持療法)に追加してPFS(無進行生存期間)の延長を図ったもの。データは未発表だが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)の抄録によると、ハザードレシオは0.596、メジアン60ヶ月追跡してメジアンPFSは未達、VRdレジメンだけの群は54.3ヶ月だった。CR(完全反応率)は各群64.1%と74.7%、MRD-CR(微小残存病変(感受性水準10^-5)ベースの完全反応率)は40.9%と55.5%、確認MRD-CR(12ヶ月以上持続)は24.3%と46.8%だった。

G5治療時発現有害事象の発生率は5.5%と11.0%で大きな差があるが、効果が高い分、治療期間が長くなることも一因のようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJ、欧州で皮下注用抗EGFRxMET二重特異性抗体の皮下注用を承認申請
(2024年5月31日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはEGFRとMETに結合する二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab)の皮下注用製剤の治験成績を発表すると共に、EUで承認申請したことを明らかにした。米国でも申請予定。

21年に米欧でEGFRにエクソン20に活性化挿入変異を持つ非小細胞性肺癌の二次治療に承認され、24年には化学療法併用による一次治療に適応拡大した。

EGFRにエクソン19欠損又はL858R置換を持つ非小細胞性肺癌の一次治療におけるEGFR阻害剤lazertinibとの併用試験も成功し、欧米日で承認申請中。今回の試験はこの用途・用法において現行の静注点滴用製剤と新開発の皮下注用製剤を比較したもの。ORR(客観的反応率も)も薬物動態も非劣性、点滴関連反応の発生率は13%と、静注用の66%の5分の1に減少した。皮下注の投与時間は5分、静注用は点滴関連反応を抑制するために第1週は二日連続で4~8時間ずつかけて投与する必要がある。皮下注用が承認されれば患者や医療従事者の時間や医療スペースを節約できることになる。尚、lazertinibは経口剤。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、アジンマなどの承認を支持
(2024年5月31日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

武田薬品のAdzynma(rADAMTS13)は先天性血栓性血小板減少性紫斑症の酵素補充療法。von Willebrand因子の切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)の欠乏を補う。血漿由来の薬より活性が数倍高い。患者が少なく十分な臨床試験を行うことができない疾病に適用される、例外的条項に基づく承認を勧告した。米国では昨年11月に、日本でも今年3月に、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

イタリアのSIFI SPAが申請したAkantior(polyhexanide 0.08%点眼液)は、重度進行性で視力に影響する疾患であるアカントアメーバ角膜炎の治療薬。臨床試験で臨床的治癒率が86%だった、12歳以上が適応になる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SIFIのプレスリリース(PR Newswire)

中国のCStone Pharmaceuticals(基石藥業、HKEX:2616)が創製しEUではSFL Pharmaceuticals Deutschland GmbHが承認申請した抗PD-L1抗体、Cejemly(sugemalimab)は、成人の未治療転移非小細胞性肺癌に化学療法と併用する。EGFR、ALK、ROS1、あるいはRETの分子標的薬が適応にならない癌が適応になる。中国で実施された第3相試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン8.9ヶ月と化学療法・偽薬併用群の4.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54だった。中国ではこの用途を含む複数の適応で承認されている。米国は、FDAが専ら中国で実施された臨床試験に基づく承認に後ろ向きな姿勢を示したため、ライセンシーのEQRx社は経営が行き詰まり、手元キャッシュに目を付けたRevolution Medicines(Nasdaq:RVMD)に株式交換方式で買収され、EQRx自身の活動は打ち切られた。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーがSpark Therapeutics(現在はロシュ・グループ)からライセンスして開発したDurveqtix(fidanacogene elaparvovec)は成人の中重度B型血友病の遺伝子療法。条件付き承認が支持された。Rh74型アデノ随伴ウイルスをベクターとして高活性変異型であるPadua型第IX因子の遺伝子を導入する。第IX因子インヒビターや、このベクターに対する自己抗体が検出されない患者が適応になる。臨床試験では出血事象発生率(年率)が1.44と、第IX因子の予防的投与を施行したリードイン期間の4.50を大きく下回った。米国ではBeqvez名で4月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

アストラゼネカのFluenzは点鼻用のインフルエンザ弱毒化生ワクチン。2~17歳の小児に用いる、A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア株の3価ワクチン。2012~3年に米欧で4価ワクチンが承認されたが、16年頃から米国の疫学研究でワクチン効率の顕著な低下が見られ、その後回復したが、19年には株の育ちが今一つで出荷量が激減するなど、しばしば不安定な状態に陥った。3価ワクチンの申請は、少なくとも2023/24シーズンに関しては4価ワクチンの投入を断念したということなのだろうか?
(6月11日訂正:3価ワクチンの申請は、B/Yamagata株が流行しなくなり配合する必要がなくなったことが背景のようです。WHOなどが今後は3価ワクチンを使用するよう推奨しています。お詫びして訂正いたします。)

リンク: EMAのプレスリリース

Eckert & Ziegler Radiopharma GmbH社のGalliaPharm(germanium (68Ge) chloride / gallium (68Ga) chloride)はPET造影などに用いる放射性核種。キャリアを標識して神経内分泌腫瘍や前立腺癌の診断に用いる。同社は日本でも2月にノバルティスと共同で開発すべく治験届を提出した。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのValneva SE(Euronext Paris:VLA)のIxchiqは初のチクングニア熱ワクチン(弱毒化、生)。ネッタイシマカやヒトスジシマカなどが媒介するチクングニア・ウイルス感染症を予防する。成人に一回筋注する。臨床試験では28日後の抗体獲得率98.9%、その97%は接種12ヶ月後にも維持されていた。米国では昨年11月に加速承認されたが、重度チクングニア様有害事象の発生率が1.6%と偽薬群のゼロを上回ったため、エンデミック国であるブラジルにおける観察的試験などで確認することになった。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)のZegalogue (dasiglucagon) は6歳以上の糖尿病患者が重度低血糖症を発症した時のレスキュー用薬。グリコーゲン分解ホルモンのペン型皮下注用薬で、粉末製剤より使いやすい。米国では21年に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大/一部変更も支持された。

  • Regeneron Pharmaceuticals/サノフィのDupixent(dupilumab):成人の好酸球増加を伴うCOPDで、三剤(吸入コルチコステロイド不適の場合は二剤)併用しても管理不十分な場合に追加投与する。米日でも申請中だが、米国は臨床試験のサブグループ分析を要求され、審査期限が9月27日に延期された。

  • STADA Arzneimittel AG.のKinpeygo(budesonide):IgA腎症における適応を微調整。急速進行性を削除、UPCR(尿蛋白クレアクチン比)1.05g/g以上を0.8g/g以上に引き下げ、尿蛋白排泄量が1g/日以上の場合も使えることに。Calliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT、Nasdaq Stockholm:CALTX)が米国でTarpeyo名で販売している経口投与用遅延放出性カプセル剤を導入したもの。。

  • Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)のLivmarli(maralixibat):3ヶ月児以上のPFIC(進行性家族性肝内胆汁鬱滞症)。米国では3月に5歳以上向けに承認。頂端側ナトリウム依存性胆汁酸輸送体阻害剤で、最初の適応はアラジール症候群。

  • アッヴィのSkyrizi(risankizumab):伝統的治療やバイオ薬に十分に応答しない、または不耐の中重度活性期潰瘍性大腸炎。米日でも適応拡大申請中。

  • アストラゼネカのTagrisso(osimertinib):成人のEGFRにエクソン19欠損又はエクソン21L858R置換のある進行非小細胞性肺癌の一次治療に化学療法と併用する。米国は2月に承認。

  • 一方で、以下の二剤は申請撤回となった。

  • Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)のKinharto(omecamtiv mecarbil):心不全治療薬として欧米で承認申請したが効果が小さいことなどから米国は審査完了、EUも後ろ向きだったため、申請を取下げた。バックアップ・コンパウンドのaficamtenにシフトすることを決めた。

  • Clinuvel Pharmaceuticals(ASX:CUV)のScenesse(afamelanotide):EPP(赤血球産生性プロトポルフィリン症)治療薬の小児適応を申請したが、至適用量の検討などが不十分と見なされ、撤回した。

  • EUで鬱病治療薬として承認されているセルビエのメラトニン受容体作動剤Valdoxan(agomelatine)は、小児適応の申請に対して、CHMPが検討不十分と後ろ向きな姿勢を示したためメーカー側は撤回したが、CHMPは根拠となった臨床試験のデータをレーベルに記載することには同意した。

    このほかに、PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)は、今年1月、CHMPが条件付き承認の年次更新を行わないよう勧告したが、別の承認申請案件に関する欧州司法裁判所の判決の余波で、再審査することになった。神経学の専門家諮問グループ(SAG-N)を招集せず臨時会合で済ませたことや会合出席者の利益相反などを指摘されたため、Translarnaに関してもSAG-Nを招集すると共に、新しいリアルワールド・データの評価など、便益と危険の再検討を行う。

    【承認】


    モデルナのmRNA型RSVワクチンが承認
    (2024年5月31日発表)

    モデルナはFDAがmResviaを60歳以上のRSウイルスによる下部気道感染症の予防用ワクチンとして承認したと発表した。6月26~27日にACIP(米国疾病管理予防センターのワクチン接種勧奨委員会)に上程される予定。欧日でも承認申請中。

    融合前F糖蛋白をエンコードするmRNAをリピッド・ナノパーティクルに封入したワクチン。日本を含む22ヶ国で約37000人を組入れて50mcg/0.5mLまたは偽薬を一回筋注した試験で、メジアン3.7ヶ月追跡時点のワクチン効率が約80%、8.6ヶ月追跡時点では約62%だった、有害事象は注射箇所反応など。mRNAワクチンなので零下15~40℃で保管し、解凍して接種する。プリフィルド・シリンジ。

    COVID-19ワクチンとは異なりRSVではGSKやファイザーが1年早く抗原型ワクチンを発売している。米国の普及率は10~20%に留まっている模様であり、3社目の参入で啓蒙活動が活発化し市場が活性化するか、注目される。ファイザーのシェアが今一つなのはCOVID-19ワクチンの販売体制縮小と関係あるのではないかと邪推しているが、モデルナはどうだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ブレヤンジがマントル細胞腫に適応拡大
    (2024年5月30日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがCAR-T療法Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の適応拡大を承認したと発表した。成人のBTK阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ難治/再発マントル細胞腫に用いる。第1相TRANSCEND NHL試験のマントル細胞腫コフォートで、68人中85%が応答(完全反応率67.6%)、メジアン反応持続期間は13.3ヶ月だった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
    24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
    24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
    24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
    24/6/16GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群)
    24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
    24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
    24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
    24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
    24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
    24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
    24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
    24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
    24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
    諮問委員会
    24/6/4 PDAC:Lykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine、PTSD補助療法)
    24/6/5 VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討
    24/6/10 PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)



    今週は以上です。