2023年12月9日

第1132回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • SABCS:内分泌療法抵抗性乳癌の新薬 
  • サークリサの多発骨髄腫一次治療試験が成功 
  • RegeneronもBCMA・CD3抗体を承認申請へ 
  • オプジーボとヤーボイのMSI-H/dMMR大腸癌試験が成功 
  • SABCS:Seagenのher2阻害剤、二次治療試験で全生存が悪い方向? 
  • MSD、Keytrudaと他社の経口剤の併用試験が二本フェール 
  • メルクのBTK阻害剤、多発性硬化症の第3相が二本ともフェール 
  • イーライリリーのCDK4/6阻害剤も延命効果は確立せず 
  • デュアルPPARアゴニストを原発性胆汁性胆管炎に承認申請 
  • BMS、オプジーボを尿路上皮腫一次治療に適応拡大申請 
  • Kisqaliの乳癌摘出術後アジュバントをEUで適応追加申請 
  • FDAが二種類の鎌状赤血球症遺伝子療法を承認 
  • ノバルティス、新規作用機序のPNH用薬が承認 
  • イーライリリー、BTK阻害剤が適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


SABCS:内分泌療法抵抗性乳癌の新薬
(2023年12月8日発表)

ロシュはSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)でPI3Kアルファ阻害剤RG6114(inavolisib)の第3相INAVO120試験の成功を発表した。ホルモン受容体陽性乳癌の約4割ではPI3Kアルファの遺伝子であるPIK3CAに変異が見られ、内分泌療法に応答し難いことがある。本試験はホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌でPIK3CA変異を持ちアロマターゼ阻害剤やtamoxifenによる切除術後アジュバント療法に抵抗性を示した325人を組入れて、Ibrance(palbociclib)とfulvestrantの標準的療法にinavolisibを追加する便益を検討した。

結果は、PFS(無進行生存期間、担当医評価)のハザードレシオが0.57と大きな改善を見た。全生存期間はハザードレシオが0.64、p=0.0338と良さそうな結果が出ているが、解析計画で割当てられたアルファは0.0098だけであるため、未だ有意とは言えない。プレスリリースによると投与中止率は6.8%で偽薬追加群の0.6%を上回った。G3/4有害事象は血小板減少症、貧血、口内炎、高血糖などで、忍容性は概して良好だった。

同社は新薬承認申請に向けて承認審査機関と相談する考え。

類薬ではノバルティスのPiqray(alpelisib)が19~20年に米欧でfulvestrantと併用することが承認された。適応や治験組入れ条件は若干異なっており、転移後に内分泌療法を受けて抵抗性を示した癌や、CDK4/6阻害剤歴を持つ患者も含まれている。

リンク: ロシュのプレスリリース


サークリサの多発骨髄腫一次治療試験が成功
(2023年12月7日発表)

サノフィは抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)の第3相IMROZ試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。適応拡大を申請する考え。

20年に米欧日で成人の難治再発多発骨髄腫の三次以降の治療薬としてPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと三剤併用することが承認され、翌年には二次以降の治療にVelcade(carfilzomib)及びdexamethasoneと三剤併用が承認と、早期治療に向けて一段ずつ階段を上がってきた。今回の試験は造血幹細胞移植が適応にならない多発骨髄腫の一次治療として、Velcade、Revlimid(lenalidomide)、及びdexamethasoneと4剤併用することでPFS延長を図った。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


RegeneronもBCMA・CD3抗体を承認申請へ
(2023年12月7日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は骨髄腫で発現するBCMAとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体、REGN5458(linvoseltamab)の第1/2相LINKER-MM1試験の成績を公表した。3次以上の治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫の試験で、200mgを投与した117人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が71%、完全反応率は46%だった。G3以上の有害事象発現率は85%で、感染症が34%と多かったが、この種の薬に特徴的な有害事象であるサイトカイン放出症候群は1%、ICANS(免疫細胞関連神経毒性症候群)は2%と少なかった。治療時発現有害事象により14人が死亡したことは気にかかる(殆どが感染症)。

リンク: 同社のプレスリリース


オプジーボとヤーボイのMSI-H/dMMR大腸癌試験が成功
(2023年12月7日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、MSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復不全)の転移結腸直腸癌におけるOpdivo(novolumab)とYervoy(ipilimimab)の併用法を検討したCheckMate-8HW試験が中間解析で主目的の一つを達成したと発表した。一次治療サブグル-プにおいてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が医師の選んだ化学療法を施行した群と比べて統計的に有意な、かつ臨床的に意味のある、改善を示した。もう一つの、全被験者におけるOpdivo・Yervoy併用とOpdivo単剤投与の比較は継続追跡する。

ライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)は類似した内容のKeyNote-177試験でPFSのハザードレシオが0.60だった。全生存期間はp値が0.07とフェールしたがハザードレシオは0.74で悪くはなく、化学療法群の6割が抗PD-1抗体にクロスオーバーしたことを考えれば健闘したといえる。おそらく、Opdivoの単剤投与群も化学療法群と見比べて良好な成績を上げるだろう。従って、本試験の眼目はもう一つの主評価項目の成否だろう。

リンク: BMSのプレスリリース


SABCS:Seagenのher2阻害剤、二次治療試験で全生存が悪い方向?
(2023年12月6日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)は8月にher2チロシンキナーゼ阻害剤Tukysa(tucatinib)のHER2CLIMB-02試験が成功したと発表したが、SABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で、全生存期間は好ましくない方向であることが明かされた模様だ。イベント数が目標の5割強と未成熟な段階の解析なので、今後反転する可能性がないとも言えないが、PFS(無進行生存期間、治験医評価)に基づく適応拡大申請は難しそうだ。

Tukysaは20~21年に米欧でher2標的薬による治療歴を持つ切除不能/転移her2陽性乳癌用薬としてtrastuzumab及びcapecitabineと併用することが承認された。エビデンスとなるHER2CLIMB試験はtrastuzumab、pertuzumabそしてado-trastuzumab emtansineによる治療歴を持つ患者が対象。今回の試験は、taxane系の薬とtrastuzumabによる治療を術後アジュバントまたは進行/転移後に受けた患者を組入れて、ado-trastuzumab emtansineに追加する効果を検討した。主評価項目であるPFSはメジアン9.5ヶ月と偽薬を追加した群の7.4ヶ月を2ヶ月ほど上回り、ハザードレシオは0.76と良好だが、p値は0.0163とまあまあな水準だった。抗her2抗体は脳転移に対する活性が弱いことが多いが、Tukysaは小分子薬なので効果があり、本試験の44%を占めたベースライン時点で脳転移のあったサブグループにおけるハザードレシオは0.64と更に良好だった。

8月時点と同様に、今回のプレスリリースでも全生存の解析は未成熟としか記されていないが、複数の報道によると、SABCSでハザードレシオが1.23(95%信頼区間0.87、1.74)と悪い方向を向いていることが明かされた。FDAはPFSだけでなく全生存期間の延長効果を要求する傾向を強めている旨、複数の製薬会社がコメントしており、適応拡大申請は難しそうだ。また、第一三共/アストラゼネカのEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)は類似したデザインのDESTINY-Breast03試験で全生存期間のハザードレシオがado-trastuzumab emtansine比0.64で統計的に有意だった。除外条件であった症候性あるいは安定していない脳転移のある患者以外はEnhertuに見劣りする。

Seagenは22年に社長兼CEO兼会長が家庭内セクハラ問題で退任。今年3月にファイザーが企業価値ベース430億ドルで買収することに合意しており、反トラスト機関の認可を待っている状態。

リンク: Seagenのプレスリリース
リンク: AACR(米国癌研究協会)のSABCSプレスリリース


MSD、Keytrudaと他社の経口剤の併用試験が二本フェール
(2023年12月7-8日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)とアストラゼネカのPARP阻害剤Lynparza(olaparib)を併用した第3相転移扁平上皮性非小細胞性肺癌一次治療試験を無益中止すると発表した。Keytrudaと化学療法による標準療法を施行し疾病安定化以上の成果を挙げた患者をKeytruda・Lynparza併用群とKeytruda・偽薬併用群に無作為化割付けして転帰を比較していたが、共同主評価項目のうちPFS(無進行生存期間、放射線学的盲検独立中央評価)は第2回中間解析でも有意水準に到達せず、全生存期間は独立データ監視委員会が第3回中間解析で無益認定、打ち切りを勧告した。

両社はLynparzaの開発販売で提携しており、肺癌や前立腺癌、婦人科癌などで多くの第3相併用試験を進めているが、昨年3月には転移性去勢抵抗性前立腺癌のKEYLYNK-010が無益中止された。

リンク: 同社のプレスリリース(12/7付)

翌日、MSDはエーザイと共に第3相LEAP-001試験のフェールを発表した。MSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)ではなくpMMR(ミスマッチ修復機能十分)な進行/難治内膜腫の一次治療として、エーザイのLenvima(lenvatinib)とKeytrudaの併用法を検討したが、全生存期間もPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も標準療法群(carboplatinとpaclitaxelの併用)を有意に上回らなかった。

リンク: 両社のプレスリリース(12/8付)


メルクのBTK阻害剤、多発性硬化症の第3相が二本ともフェール
(2023年12月5日発表)

ドイツのメルクは、M2951(evobrutinib)の第3相再発性多発性硬化症試験が二本ともフェールしたと発表した。血液癌用薬として複数の製品が承認されているBTK阻害剤のもう一つの有望用途と見なされているので驚きだ。

45mgを一日二回、経口投与する効果をサノフィのAubagio(teriflunomide)14mg一日一回経口投与と比較した試験で、主評価項目である年率再発率が一本は両群とも0.11、もう一本は0.15対0.14で、大差なかった。会社側はAubagio群の成績が予想以上に良かったことを指摘している。確かに、20年に米国で承認されたノバルティスの抗CD20抗体Kesimpta(ofatumumab)の第3相Aubagio対照試験二本では0.11対0.22と0.10対0.25、21年承認のJanssenのS1P1調節剤Ponvory(ponesimod)の試験では0.20対0.29だった。Aubagio自身は12年に承認され、14mgは第3相試験の一本で0.37(偽薬群は0.54)、もう一本は0.32(同0.50)だった。

優れた治療薬が普及するにつれて、未知の要素が残る新薬の臨床試験の被験者を募集するのが難しくなる。偽薬ではなく実薬対照とするのは対策の一つだが、Aubagioは咬ませ犬状態で、近年の多くの新薬が対照試験で有意な差を付けているため、担当医が比較的状態がよく再発の少ない患者を選りすぐって組み入れるリスクがありそうだ。それにしても、数値が対照群並みに留まったのは失望的だ。

リンク: 独メルクのプレスリリース


イーライリリーのCDK4/6阻害剤も延命効果は確立せず
(2023年12月5日発表)

イーライリリーのCDK4/6阻害剤Verzeni(abemaciclib)は18年に米欧日でホルモン受容体陽性her2陰性乳癌の一次治療としてアロマターゼ阻害剤と併用することが承認された。エビデンスとなったMONARCH 3試験の中間解析でPFS(無進行生存期間)がメジアン28ヶ月とアロマターゼ阻害剤・偽薬併用群の14ヶ月を上回り、ハザードレシオが0.54、p<0.0001と良好な成績を収めた。承認から5年経ち、副次的評価項目である全生存の解析は有意水準に達しなかったことがサン・アントニオ乳癌シンポジウムで発表された。メジアン生存期間は66.8ヶ月対53.7ヶ月で1年以上上回ったが、ハザードレシオは0.804と、承認されている薬の多くと異なり0.80の壁をクリアできなかった。p値も0.066だった。

ノバルティスのCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)は上記と類似した内容のMONALEESA-2試験でPFSのハザードレシオ0.556、副次的評価項目である全生存のハザードレシオは0.76となり、どちらも統計的に有意だった。数値の上では大きな差があるわけではないので、検出力の違いが命運を分けたのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


デュアルPPARアゴニストを原発性胆汁性胆管炎に承認申請
(2023年12月7日発表)

イプセンは、欧米でelafibranorを原発性胆汁性胆汁炎(PBC)に承認申請し受理されたことを公表した。標準療法であるUDCA(ウルソデオキシコール酸)に十分応答しない患者に80mgを一日一回経口投与する。米国は優先審査で審査期限は6月10日、EUは米国より前に受理された模様だ。

PBCは自己免疫性疾患。肝内胆管が徐々に破壊され胆汁が肝臓内に滞留、肝臓障害を齎す。罹患率は10万人当り20~40人。50~60代の女性患者が多いようだ。elafibranorは同じフランスのGenfit(Nasdaq:GNFT)からライセンスしたPPARアルファ・デルタ作動剤。第3相ELATIVE試験でがUDCAに十分応答しない患者に追加投与したところ、第52週生化学的反応率(アルカリフォスファターゼがULN(基準値上限)の1.67倍未満でベースライン比15%以上低く、総ビリルビンがULN以下)が51%と偽薬群の4%を大きく上回った。副次的評価項目のアルカリフォスファターゼ正常化率も15%対0%で上回った。一方、掻痒評価スコアの改善はトレンドに留まった。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、オプジーボを尿路上皮腫一次治療に適応拡大申請
(2023年12月5日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)を成人の切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療としてcisplatinベースの化学療法と併用する適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年4月5日。

エビデンスとなるCheckMate-901試験ではgemcitabineをcisplatinまたはcarboplatinと併用する標準療法と、更にOpdovoも使う三剤併用法、そして一部の患者においてOpdivoとYervoy(ipilimumab)の二剤併用を施行し、全生存期間を比較した。様々な主評価項目のうち、前二群を比較したサブスタディでメジアン生存期間が21.7ヶ月と標準療法群の18.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78、p値は0.0171だった(多重性補正の有無は不明)。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も7.6ヶ月、7.9ヶ月、0.72、0.0012とこちらは高度に有意だった。

リンク: BMSのプレスリリース


Kisqaliの乳癌摘出術後アジュバントをEUで適応追加申請
(2023年12月8日発表)

ノバルティスはCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)の第3相NATALEE試験のアップデート・データをSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表するとともに、EUで適応追加申請したことを明らかにした。米国でも今月中に優先審査バウチャを添えて申請する予定。

Kisqaliは日本における開発は中止された様子だが欧米ではホルモン受容体陽性her2陰性の進行/転移乳癌に承認されている。本試験はステージIIとIIIのホルモン受容体陽性her2陰性の乳癌を切除したが再発リスクが高いと予想される患者5101人を組入れて、非ステロイド系アロマターゼ阻害剤(適応ならgoserelinも)と併用する効果を検討した。進行/転移乳癌における600mg一日一回より少ない400mgを28日サイクルで21日オン、7日オフのスケジュールで投与した。iDFS(無侵襲性疾病生存)のハザードレシオは0.749で6月のASCOで発表された0.748と大差なく、ステージIIとIIIのサブグループ・データも概ね同様だったが、イーライリリーのVerzenio(abemaciclib)の同様な試験では組み入れられなかった、リンパ節転移のないサブグループの数値は0.63から0.72に変わった。

一部報道によると、全生存期間のハザードレシオは0.882に留まっている。Verzenioの同様な試験も全生存延長効果は確立しなかった。死亡率が3%強と未成熟であるため信頼性が低く、また、早期乳癌は再発/転移後の治療手段が多いためこれらの薬の影響も考えなくてはならないが、FDAが全生存期間を重視する姿勢を示していることを考えると、数年後に発表されるであろう全生存期間のキチンとした解析結果を注視する必要があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


FDAが二種類の鎌状赤血球症遺伝子療法を承認
(2023年12月8日発表)

FDAは鎌状赤血球症のex vivo遺伝子療法を二品、承認した。一つはCRIPR/cas-9という遺伝子編集技術の代表的な企業であるCRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)がVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)と共同開発したCasgevy(exagamglogene autotemcel)。もう一つは、遺伝子療法薬の承認が相次いでいるbluebird bio(Nasdaq:BLUE)のLyfgenia(lovotibeglogene autotemce)で、審査期限前倒しで競合品と同日承認された。

どちらも患者から採取した造血幹細胞の遺伝子を修飾し培養した上で患者に戻す。拒絶反応が起きないように、投与前に化学療法による骨髄枯渇処理を施行する。二品の適応は若干異なるが、どちらも重い血管閉塞性クリーゼ(急性症状)を経験した12歳以上の患者の再発を予防するために、一回施行する。臨床試験の主評価項目が若干異なるので単純比較はできないが、どちらも9割以上の患者が長期間予防できた。

違いは遺伝子操作手法とその標的遺伝子。鎌状赤血球症は赤血球のヘモグロビンの遺伝子に変異があり、赤血球が鎌状となって、壊れたり毛細血管で詰まったりする。臓器障害を合併するリスクもある。アフリカ系に多い。

Casgevyは、ヘモグロビンの代わりに、胎児・新生児期にしか発現しない胎生ヘモグロビン(HbF)を発現させるために、転写抑制因子であるBCL11A遺伝子の赤血球系特異的エンハンサー領域をCRISPR/cas-9技術で切断する。修復メカニズムが作用するが、切断・修復を繰り返す内にエラーが発生し遺伝子が壊れる。

Lyfgeniaは同社のレンチウイルス・ベクターを用いてベータ・グロブリンの遺伝子を導入し正常なヘモグロビンを生成できるようにするもの。臨床試験で血液癌が数例見られたことが枠付き警告されている。

価格はCasgevyが220万ドル、Lyfgeniaは310万ドルとのことだが、少なくともbluebirdはアウトカム・ベースの代価決定をオファーする考えであり、例えば3年間分割払いにして急性期治療の頻度が所定を超えたらその時点で打ち切り、のようなフォーミュラが採用されるのではないか。患者が多いメディケイドにおけるプライシングも要注目点だ。

尚、Casgevyはベータ・サラセミアの治療にも承認申請されているが、優先審査ではなく、審査期限は24年3月30日。

bluebirdはLyfgeniaが承認されたら優先審査バウチャをノバルティスに1億ドル余で売却する予定だったが、バウチャを取得できず期待外れに終わった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Vertex・Crisprのプレスリリース
リンク: bluebirdのプレスリリース


ノバルティス、新規作用機序のPNH用薬が承認
(2023年12月6日発表)

ノバルティスはFDAがFabhalta(iptacopa)を成人の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)用薬として承認したと発表した。血液凝固B因子を阻害する作用機序も、PNHの経口剤も、初。200mgを一日二回服用する。

抗血液凝固C5因子抗体で治療してもHgbが十分に上昇しない患者を組入れたAPPLY-PNH試験で24週奏効率(輸血を受けずにHgbが2g以上上昇)が82.3%となり、抗C5抗体を継続投与した群の0%を有意に上回った。抗C5抗体歴のない患者を組入れた単群試験では77.5%だった。前者の試験では輸血回避率も95.2%対45.7%で大きな差があった。

有害事象は胃腸系の発現率が抗C5抗体を上回り、ウイルス感染症は下回った。深刻有害事象の発現率は二次治療試験で3%、ナイーブ試験は5%だった。莢膜細菌感染症が枠付き警告。ワクチンを接種した上で、投与後は兆候・症状を観察する。

リンク: 同社のプレスリリース


イーライリリー、BTK阻害剤が適応拡大
(2023年12月1日発表)

イーライリリーはFDAがJaypirca(pirtobrutinib)を慢性リンパ性白血病/小リンパ急性リンパ腫に承認したと発表した。成人の、他のBTK阻害剤とbcl-2阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ成人が適応になる。

第1/2相BRUIN試験で、200mgを一日一回経口投与したコフォートのORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が72%、完全反応はゼロ、メジアン反応持続期間は12ヶ月だった。深刻な有害事象の発生率は56%、有害事象による治験離脱率は9%だった。

加速承認なので第3相試験で延命またはそれに準じる便益を確認しなければならない。

Jaypircaは今年1月に米国で、成人のBTK阻害剤を含む2次以上の全身性治療歴を持つ難治/再発マントル細胞腫に加速承認された。他のBTK阻害剤と異なり共有結合せず、BTK抵抗性変異にも活性を持つ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23/12/16BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel、多発骨髄腫3-5次治療に一変)←AC上程で遅延へ
23/12/16Arcutis Biotherapeuticsのroflumilastクリーム(脂漏性皮膚炎)
23/12/19IdorsiaのACT-132577(aprocitentan、難治高血圧症)←3ヶ月延期か
23/12/20Calliditas TherapeuticsのTarpeyo(budesonide、IgA腎症本承認切替)
23/12/22Ionis PharmaceuticalsのIONIS-TTR-L-RX(eplontersen、遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症)
23/12/24アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異NSCLC本承認)
23/12/27MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)
23/12/30Zealand PharmaのZegalogue(dasiglucagon、先天性高インスリン血症に適応追加)
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)→23Q4から遅延
24/1/3Checkpoint TherapeuticsのCK-301(cosibelimab、皮膚扁平上皮癌)
24/1/5Novan(Ligand Pharmaceuticals)のberdazimer(伝染性軟属腫)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)

注:ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)は審査期限が12月21日から24年3月21日に延期された

今週は以上です。

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