2023年10月22日

第1125回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19薬のチャンピオン、ご苦労様でした 
  • ESMO:レットヴィモ、実薬対照試験で二冠達成 
  • ESMO:イミフィンジとリムパーザの内膜腫試験 
  • ESMO:イミフィンジだけか、リムパーザも併用するか、判断がキビシイ 
  • ESMO:EGFR・MET二重特異性抗体のPMS成功 
  • ESMO:キイトルーダのデータが続々発表 
  • ESMO:アレセンサのほうが完全切除後の再発死亡を防ぐ 
  • ESMO:オプジーボの2試験の結果を発表 
  • 武田のクローン病細胞療法、二本目の第3相はフェール 
  • 抗MASP-2抗体のIgA腎症試験がフェール 
  • タグリッソを一次治療に承認申請 
  • デュピクセントは蕁麻疹に適応拡大できず 
  • 反応性アルデヒド調節剤の承認が遅れそう 
  • BrainStorm、筋萎縮性側索硬化症用細胞療法の承認申請を取下げ 
  • 初の5価髄膜炎菌ワクチンが承認 
  • 低量ピロカルピンが老眼治療薬として承認 
  • UCB、gMG用薬と乾癬用薬が承認 
  • 抗議が奏功してテナパノルの承認を取得 
  • キイトルーダ、肺癌ペリオペラティブに用法追加 


【今週の話題】


COVID-19薬のチャンピオン、ご苦労様でした
(2023年10月13日発表)

ファイザーは、COVID-19治療薬に関する米国政府との契約の改定と23年の売上高ガイダンスの下方修正を発表した。この機会に、ファイザー、BioNTech、モデルナ、MSD、その他のCOVID-19ワクチン、治療薬メーカーの過去3年間の貢献に改めて感謝したい。

ファイザーは米国政府にPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)を2000万人分供給する契約を結んだが、免疫獲得が進んだことや比較的重症化しにくい株が流行するようになったことなどから未使用在庫が相当数残っていると言われている。5月に正式承認されたことや、政府一括調達から通常の医療施設/薬局毎の調達に変わることを機に、ファイザーは23年末の未使用在庫を引き取ることに合意した。返金はせず、代わりに、政府の医療プログラム(メディケアやメディケイドなど)が24年に処方する分と、保険非加入者や最低限しかカバーされていない加入者が24~28年に処方を受ける分を、無償で提供する。このほかに、政府戦略備蓄に100万人分を供給する。

決算上は通常の返品と同様に売上高から控除し、24年以降に供給したら売上計上する。Paxlovidの世界売上高は22年に189億ドルに達し、23年の期初ガイダンスは80億ドルと半減を見込んでいたが、今回、10億ドルに下方修正された。政府が790万人分、42億ドル相当を返品と前提している。

Covid-19ワクチンComirnatyのファイザーにおける売上高は20年1.5億ドル、21年367億ドル、22年378億ドルと推移し、23年の期初ガイダンスは135億ドルだったが、今回、115億ドルに下方修正された。第3四半期に9億ドルの在庫償却を行うことも公表された。

売上計画未達を補うためコスト削減策を断行する考え。犠牲になる従業員は自分が悪いわけでもファイザーが反社会的な行為をしたわけでもないのに、やりきれないだろう。あらためて感謝を表明するから、何とかならないものか。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


ESMO:レットヴィモ、実薬対照試験で二冠達成
(2023年10月21日発表)

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)が始まり、これまで目的達成としか発表されていなかった臨床試験のトップライン・データが続々と公表された。

イーライリリーはRET阻害剤Retevmo(selpercatinib)の第3相実薬対照試験二本の成績をESMOとNew England Journal of Medicine誌で発表した。ニッチ薬だが効果はピカイチという分子標的薬の特徴が良く表れている。既承認の用途用法とオーバーラップしているが、評価を高める上で重要だろう。

LIBRETTO-431試験はRET融合変異のある進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療を受ける261人をRetevmo群と標準療法群(白金薬とpemetrexed、そして約8割の患者がKeytruda(pembrolizumab)も併用)に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をオープン・レーベルで比較した。主評価項目であるKeytruda併用サブグループのPFSは中間解析で目的達成、メジアン値は24.8ヶ月と11.2ヶ月、ハザード・レシオは0.465だった。シーケンシャルに実施されたintent-to-treatベースの解析もハザード・レシオ0.482で成功。対照群の患者は進行後にRET阻害剤を用いることが許可されているため、8割の患者が追跡打ち切りとなっており、全生存期間の意味のある解析は難しそうだ。

LIBRETTO-531試験はRET変異のある進行/転移甲状腺髄様腫の291人を試験薬群と医師が選んだ薬(VEGFR阻害剤のcabozantinibまたはvandetanib)の群に2:1割付けしPFS(同上)をオープン・レーベルで比較した。中間解析で目的を達成した。ハザード・レシオは0.28、メジアン値は未達と16.8ヶ月。この試験も進行後のクロスオーバーにより対照群は8割以上が全生存期間の追跡打ち切りとなった。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO:イミフィンジだけか、リムパーザも併用するか、判断がキビシイ
(2023年10月21日発表)

医師共同治験グループであるGOGとENGOTが主導しアストラゼネカが補助金を拠出したDUO-E試験は、全体としては良好だがサブグループ分析は良く分からない結果になった。進行/難治内膜腫の新患718人を標準療法群(calboplatinとpaclitaxelを併用)、Imfinzi(durvalumab)追加群(Imfinziは維持療法も施行)、Imfinzi・Lynparza(olaparib)の二剤追加群(Imfinziは維持療法も施行、Lynparzaは維持療法だけ)に無作為化割付けして、PFS(無進行生存期間)を比較した偽薬対照試験。共同主評価項目のうち、Imfinzi追加群と標準療法群の比較はハザード・レシオ0.71、二剤追加群と標準療法群の比較は0.55となり、有意な差があった。

Imfinzi追加群と二剤追加群の比較は行われていないが大いに気になるところだ。二剤追加すべき最適なサブグループを探索することが重要な課題になる。本試験ではPD-L1とMMR(ミスマッチ修復)能という腫瘍シグナチュアに基づくサブグループ分析が行われたが、解釈が難しい。

Imfinziは抗PD-L1抗体なのでPD-L1陽性癌のほうが得意なはずだ。本試験でもPD-L1陽性癌におけるハザード・レシオは良好だったが、陰性癌ではImfinzi追加群は0.89で今一つ、二剤追加群しても0.80で、この程度なのかという印象だ。

LynparzaはDNAの一本鎖修復に関わるPARPを阻害する薬なので、二重連鎖修復に関わるBRCAなどの機能が不十分なdMMR(ミスマッチ修復不全)癌のほうが得意なはずだが、ハザード・レシオは、Imfinzi追加群が0.42、二剤追加群が0.41で、Lynparza追加のメリットが見えない。むしろ、pMMR(ミスマッチ修復能保持)のほうに上乗せ効果が感じられる。

サブグループ分析の点推定値がチグハグな結果になるのは珍しくなく、だから、主評価項目以外はあまり拘らないほうが良いのだが、薬を増やすかどうかは医療従事者にとっては手間暇、患者にとっては副作用、医療保険にとっては費用の面で非常に重要な関心事であるだけに、今後も様々な議論が行われるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Westinらの治験論文抄録(Journal of Clinical Oncology)


ESMO:EGFR・MET二重特異性抗体のPMS成功
(2023年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssenは、Rybrevant(amivantamab)の市販後薬効確認試験(PMS)、第3相PAPILLONの結果を発表した。21年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されたEGFRとMETに結合する二重特異性抗体で、本試験に基づき、欧米で本承認切替を申請中。

EGFR遺伝子のエクソン20に挿入変異を持つ未治療の進行/転移非小細胞性肺癌308人を組入れて、carboplatinとpemetrexedの標準療法に追加する便益をオープン・レーベルで検討したところ、PFS(盲検独立中央評価)がメジアン11.4ヶ月と標準療法群の6.7ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.395だった。全生存期間の中間解析はハザード・レシオ0.67、p=0.106で。良さそうだが未だ有意差は出ていない。対照群の76%が進行後にクロスオーバーしており、追跡を進めても一次治療における便益が二次治療である程度相殺されてしまう可能性がありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Zhouらの治験論文抄録(New England Journal of Medicine)


ESMO:キイトルーダのデータが続々発表
(2023年10月20日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)の第3相試験成績が数多く発表された。

肺癌ではKeyNote-671試験。切除可能な早期非小細胞性肺癌(ステージII、IIIA、IIIB)の術前化学療法に追加し、術後も単剤投与する効果を偽薬追加と比較した試験で、中間解析におけるEFS(無イベント生存期間)延長効果に基づき今月米国で適応拡大した。今回、第2次中間解析で共同主評価項目である全生存も目的達成したことが学会発表された。ハザード・レシオ0.72(95%信頼区間0.56-0.93)、片側p=0.00517、36ヶ月生存率71.3%(偽薬追加群は64.0%)というもの。

MSDの臨床試験に関するプレスリリースに片側p値が載るのは珍しい。米国のレーベルによると、両側p値は0.0103で、割当てられたアルファは0.0109なので高度に有意とは言えないが点推定値は中々だ。

リンク: 同社のプレスリリース

子宮頸癌では医師共同治験グループであるENGOTやGOGが実施したKeyNote-A18試験。局所進行性子宮頸癌で高リスクの新患患者1060人を組入れて、同時化学放射線療法(外照射放射線療法、cisplatin、小線源治療)に追加する便益を検討したところ、中間解析でPFS(無進行生存期間)を達成した。ハザード・レシオ0.70、24ヶ月無進行生存率67.8%(偽薬追加群は57.3%)だった。共同主評価項目の全生存期間はハザード・レシオ0.73(95%信頼区間0.49-1.07)となっており、良い方向を向いているが未だ成熟していないので有意水準には達しておらず、引き続き追跡する。

米国では適応拡大申請済みで、審査期限は24年1月20日。

6月に目的達成したことだけを発表した時の「統計的に有意且つ臨床的に意味のある」という表現にふさわしい成績だった。この表現を使う企業が増えたのは好ましいことだ。臨床試験を中間解析で終わらせて早く収益に貢献させるべく、検出力を極めて高く設定するのが当たり前になったのと裏腹で、統計的にはギリギリ有利だが全生存期間が1ヶ月延びるだけというような悩ましい事例も散見されるからだ。

リンク: 同上

乳癌ではKeyNote-756試験。エストロゲン受容体陽性、her2陰性の高リスク早期乳癌約1280人を組入れて、術前化学療法に4サイクル分追加し、術後内分泌療法にも9サイクル追加する便益を検討したもので、共同主評価項目のうち、pCR(病理学的完全反応)が成功した。試験薬群の達成率は24.3%、偽薬群は15.6%だった。一方、G3-5の有害事象発現率は各52.5%と46.4%、有害事象によるいずれかの薬の中止が19.1%と10.1%で発生した。一番重要な共同主評価項目であるEFSは継続追跡中。

同社が7月にpCR達成だけを公表したプレスリリースには、統計的に有意としか記されていなかった。癌が衰退しても体も衰退してしまったら困るので、pCRだけでは臨床的に意味があるとは言えないという含意かもしれない。

リンク: 同上

胃癌における抗PD-1/PD-L1抗体の有益性は良く分からないところがあり、Keytrudaも、他の製品も、試験が成功したりしなかったりである。Keytrudaは第2相試験のORR(客観的反応率)に基づき17年に米国でCPS≧1の局所進行性/転移性G/GEJ(胃・胃食道接合部)腺腫に加速承認されたが、薬効確認試験がフェールしたことなどから、21年7月に適応自主返上を決定、1年後にレーベル変更された。前後して、her2陽性局所進行切除不能/転移G/GEJ腺腫の一次治療に化学療法及びtrastuzumabと併用することがKeyNote-811試験の副次的評価項目であるORRに基づいて加速承認された。しかし、主評価項目であるPFS(独立盲検中央評価)と全生存期間も中間解析で達成したものの効果が見られたのは被験者の8割以上を占めたCPS≧1の患者だけだったため、MSDは、適応範囲をCPS≧1に縮小申請する考えを明らかにした。

今回、データが明らかになった。PFSのハザード・レシオは0.72、CPS≧1では0.70、1未満のデータは不明。全生存期間は各0.84と0.81で、どちらも有意ではなかったが、多重性補正の影響もありそうだ。

尚、EUでは今年8月に適応拡大されたが、対象はCPS≧1だけ。FDAのように勇み足をしなかったことが、この件に関しては、正解だった。

リンク: 同上


ESMO:アレセンサのほうが完全切除後の再発死亡を防ぐ
(2023年10月18日発表)

ロシュはAlecensa(alectinib)の第3相ALINAが中間解析で目的を達成したと9月に発表したが、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)のPresidential Symposiumでの発表に3日先駆けて、トップラインを公表した。ステージIBからIIIAのALK陽性非小細胞性肺癌の完全切除を終えた257人を組入れて、DFS(無病生存期間)を白金薬ベースの化学療法と比較したもので、学会抄録によると主解析対象はステージIIからIIIAまでの231人。ハザード・レシオは0.24、統計的に有意だった。シーケンシャルに実施された全ユニバースの解析も同じく0.24で成功した。2年DFS率はどちらの解析でも試験薬群が93%、化学療法群が63%だった。全生存期間の解析は未成熟で実施されていない。G3/4の有害事象発生率は各群30%と31%、有害事象による治験離脱率は5.5%と12.5%だった。適応拡大申請の予定。

Alecensaは中外製薬発のALK阻害剤。14~17年に非小細胞性肺癌の2~5%を占めるALK陽性型の二次治療薬として日米欧で承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース


ESMO:オプジーボの2試験の結果を発表
(2023年10月17日発表)

ESMOのレート・ブレーカー・アブストラクトの解禁時間違反があったようで、予定より早く一般公開され、ブリストル マイヤーズ スクイブが概要に関するプレスリリースを出した。二本ともOpdivo(nivolumab)の第3相で、非小細胞性肺癌のペリオペラティブ試験が10月21日、尿路上皮腫化学療法併用試験が22日に発表というスケジュールだ。

CheckMate-77T試験はステージIIAからIIIBまでの切除可能非小細胞性肺癌452人を組入れて、術前化学療法にOpdivoを追加し術後にもOpdivoを単剤投与する効果を検討した無作為化割付二重盲検偽薬対照試験。主評価項目はEFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)で、ハザード・レシオは0.58と、上記のKeytrudaの類似した試験と同水準だった。副次的評価項目の全生存期間は未だ成熟していない。

OpdivoはステージIBからIIIAの切除可能非小細胞性肺癌を組入れた術前化学療法併用試験で、EFSのハザード・レシオが0.63だった。今回とそれほど変わらず、術後も続けるメリットがどの程度なのか、良く分からない。PD-L1陰性患者における便益がやや小さかったが、今回はどうなのだろうか?

リンク: BMSのプレスリリース(CheckMate-77T)

CheckMate-901試験は切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療試験。1290人をOpdivoとYervoy(ipilimumab)を併用する群と対応する化学療法群、Opdivoと化学療法を併用する群と対応する化学療法群の4群に割付けた。ClinicalTrials.govによると、主評価項目は4種類ある。

その一つであるPD-L1陽性患者におけるOpdivo・Yervoy併用療法の全生存期間の解析はフェールした。cisplatin不耐患者におけるOpdivo・Yervoy併用の全生存期間の解析は、今のところ音沙汰がない。

ESMOで発表されるのは、同社がサブスタディと呼んでいる、Opdivo・化学療法併用の便益に関するもの(解析対象608人)。主評価項目のうち全生存期間はメジアン21.7ヶ月と化学療法・偽薬併用群の18.9ヶ月を2か月強上回り、ハザード・レシオは0.78、p=0.0171だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は各7.9ヶ月、7.6ヶ月、0.72、0.0012だった。

前者のp値の0.0171というのは決して高水準とはいえない。この数値が多重性補正後なのかは明らかではないが、もし未補正なら、猶更、高水準とはいえない。サブスタディではなく、CheckMate-091試験全体の主評価項目の一つと解釈する場合は、全く高水準とは言い難くなる。学会で補足説明がなされるだろうか?

リンク: BMSのプレスリリース(CheckMate-901)


皮下注用オプジーボを承認申請へ
(2023年10月19日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)の皮下注用製剤の第3相、CheckMate-67T試験で主目的を達成したと発表した。Halozyme社のrHuPH20(遺伝子組換えヒト・ヒアルロン酸分解酵素)を配合して皮下における吸収を可能にしたもので、投与時間5分と、現在の点滴静注用製剤の30分から短縮化できる。本試験では全身性治療歴を持つ進行/転移クリア・セル腎細胞腫の495人を組入れて、オープンレーベルで薬物動態などを比較した。共同主評価項目のCavgd28(初回投与後28日目までの平均血清中濃度)とCminss(定常状態における最低血清中濃度)の両方とも、点滴静注群と非劣性だった。副次的評価項目のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)も非劣性だった。

同社は複数の適応で承認申請すべく規制当局と相談する考え。一部報道によると、他の抗癌剤との併用は申請しない様子だ。

リンク: 同社のプレスリリース


武田のクローン病細胞療法、二本目の第3相はフェール
(2023年10月18日発表)

武田薬品はAlofisel(darvadstrocel)の第3相、ADMIRE-CD-IIで主目的を達成できなかったと発表した。成功なら米国で承認申請するはずだった。

健常者の脂肪細胞由来の幹細胞で、16年にベルギーのTiGenixを買収して入手した。18年にEUで、21年には日本でも、クローン病の合併症である痔瘻の治療薬として承認された。今回の第3相のデザインは欧州承認のエビデンスとなった第3相ADMIRE-CD試験と類似しており、なぜ異なった結果になったのか、良く分からない。尤も、一本目の試験では24週間解率が50%と偽薬群の34%を上回ったが、p値は0.024なので、高度に有意とは言い難い。なぜ米国における承認申請が遅れたのかも明らかではないが、FDAは、通常、一本の試験だけで承認申請する場合はp値が0.05の二乗値である0.0025を下回ることを求める。今回のようなことが起こりうるからだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


抗MASP-2抗体のIgA腎症試験がフェール
(2023年10月16日発表)

Omeros(Nasdaq:OMER)はOMS721(narsoplimab)の第3相ARTEMIS-IGAN試験で中間評価項目を達成できず中止すると発表した。IgA腎症の患者を組入れて第36週のUPE(尿蛋白排泄)を偽薬群と比較したがフェールし、FDA承認申請も断念した。

OMS721は補体系の活性化を齎すレクチン経路に介入する抗MASP-2(マンナン結合レクチン関連セリン・プロテアーゼ2)完全ヒト化抗体。20年に造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症(HSCT-TMA)用薬として米国で承認申請したが、治療効果の立証が不十分として、審査完了通知を受領した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


タグリッソを一次治療に承認申請
(2023年10月16日発表)

アストラゼネカは米国でTagrisso(osimertinib)をEGFR変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療に化学療法と併用する用法追加申請を行ない、受理されたことを公表した。優先審査で、審査期限は24年第1四半期とのことなので受理されたのは7~9月なのだろう。

エビデンスとなるFLAURA2試験は、Tagrisso・化学療法併用群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン29.4ヶ月とTagrisso・偽薬併用群の19.9ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.62だった。一方、副次的評価項目の全生存期間はハザード・レシオ0.9と案外だった(但し、未だデータが熟していない)。更に、有害事象による治験離脱率が18.1%(偽薬併用群は13.3%)、G3以上の有害事象発生率が44.8%(同33.7%)と忍容性が見劣りした。骨髄抑制的有害事象により過半の患者が何れかの薬の投与を中止したという。

効果は高そうだが、副作用も増えるので、Tagrisso単剤にすべきか、化学療法を併用すべきか、患者毎に判断することになるのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


デュピクセントは蕁麻疹に適応拡大できず
(2023年10月20日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を12歳以上の管理不良慢性特発性蕁麻疹に米日で適応拡大申請しているが、米国は審査完了となった。薬効に関して追加データが必要と判定された。「スタディC」の結果が24年後半に判明する見込みなので、再申請はその後になりそうだ。

第3相のLIBERTY-CSU CUPID試験は、抗ヒスタミンに十分応答しない、バイオ薬未経験の6歳以上の中重度患者138人に追加投与した「スタディA」でISS7(痒みの評価尺度)もUAS7(蕁麻疹活動性評価尺度)も偽薬比有意に改善したが、バイオ薬にも応答不十分/不耐の83人を組み入れた「スタディB」はフェールした。その後、スタディAと同様な患者を組入れるスタディCが追加された。通常、薬効のエビデンスとなる試験は二本必要であることを考えると、審査完了通知を受領する可能性も踏まえて申請したのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース


反応性アルデヒド調節剤の承認が遅れそう
(2023年10月16日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、米国証券取引委員会にフォーム8-Kを提出し、ADX 102(reproxalap)の承認が遅れる可能性があることを適時開示した。ドライアイの症候症状治療薬として承認申請し、11月23日に審査期限を迎えるが、Late-cycle review meetingで薬効の挙証が不十分と指摘された模様だ。同社は追加情報を提出したので解決できると考えているが、この度受領した議事録が懐疑的な内容のままだった模様で、追加試験の実施を示唆された。

ADX 102はRASP(反応性アルデヒド種)調節剤。アレルゲンとなる有機アルデヒド遊離体に結合し炎症推進作用を妨げる。第3相二本で目の充血を緩和する効果を検討したが、一本目がフェールしたため、良好な結果が出た副次的評価項目のシルマー・テストをもう一本の主評価項目に変更したところ、成功。1年安全性試験を経て昨年11月に承認申請したもの。

リンク: Aldeyraのフォーム8-K(SECのEdgarデータベース)


BrainStorm、筋萎縮性側索硬化症用細胞療法の承認申請を取下げ
(2023年10月18日発表)

BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)はNurOwnをALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬として米国で承認申請していたが、取り下げた。第3相の主評価項目はフェール、治療効果自体も小さく、一方、死亡者数が偽薬群の3倍だったため、FDAは申請前相談で前向きな姿勢を示さず、会社側の学会などでの発表内容を否定するプレスリリースすら出していた。承認申請が受理されなかったためfile over protest(抗議に基づく申請)という異例の手段を用いたが、諮問委員会でも18人中一人しか便益を認めなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


初の5価髄膜炎菌ワクチンが承認
(2023年月日発表)

ファイザーは、FDAが5価髄膜炎菌ワクチンPenbrayaを10~25歳向けに承認したと発表した。10月25日にCDC(疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が勧奨の当否や範囲などを討議する予定。

同社の髄膜炎菌ワクチンはNimenrixがA、C、W135、Y群を、TrumenbaはB群を、カバーしているが、5群をカバーする初めての製品がPenbrayaだ。第3相試験では免疫原性が非劣性だった。注射回数が半減するので、B群ワクチンの普及が進まない理由の一つが解消しよう。GSKも5価ワクチンの試験が成功、承認申請の予定。

CDCは4価ワクチンに関して、11~12歳になったら全員が接種し、16歳になったら追加接種することを勧奨している。しかし、B群ワクチンに関しては、勧奨は10歳以上の高リスクのみ、但し、16~23歳の人が医師と相談の上、接種しても可、接種回数は一回以上が良い、と抑え気味である。米国の青少年の感染はB群が最も多いが、B群ワクチンの普及率は3割程度、二回接種はもっと少ない由だ。4価ワクチンも16歳における接種率は5割程度と言われている。5価ワクチンの登場でACIPや医師、国民の認識が変わり普及が進むのか、注目される。

リンク: ファイザーのプレスリリース


低量ピロカルピンが老眼治療薬として承認
(2023年10月18日発表)

米国フロリダ州のOrasis Pharmaceuticalsは、FDAがQlosi(pilocarpine hydrochloride、0.4%点眼液)を老眼治療薬として承認したと発表した。活性成分はドライマウスなどの治療に用いられていて、21年に承認されたアッヴィの老眼治療用点眼液Vuityと同じだが、用量が約1/3。一日二回、2週間点眼投与した二本の第3相試験で、応答率が約40%と偽薬群の20%前後を有意に上回った。尚、奏効率の定義は、第8日の点眼一時間後の近見視力がベースライン値より3行以上改善し、遠見視力は1行以上悪化しないこと。治療関連有害事象は頭痛、点眼箇所痛など。14年に発売する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


UCB、gMG用薬と乾癬用薬が承認
(2023年10月17、18日発表)

UCBのgMS(重症筋無力症)用薬と乾癬治療薬が米国で相次いで承認された。

Zilbrysq(zilucoplan)は自己注が可能なC5インヒビター。アミノ酸15個の大環状ペプチド薬で、アセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を持つgMSの成人患者に一日一回皮下注する。日本では9月に承認。

19年にRa Pharmaceuticalsを25億ドルで買収して入手したもの。UCBは6月にRystiggo(rozanolixizumab-noli)も承認された。gMGの8~9割を占めるAChR型はどちらも適応になるが、どうやって使い分けたらいいのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース(10/17付)

Bimzelx(bimekizumab-bkzx)はIL-17AとIL-17Bの二重特異性抗体。成人の全身性治療又は光力学療法が候補となる中重度プラク乾癬に用いる。直接比較試験でジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab )よりPASI90奏効率が高かった(85%対50%)。欧州では21年に、日本でも22年に承認されたが、米国は、COVID-19流行に伴う連邦政府職員の渡航制限や、ベルギー工場の査察で指摘事項があったことなどから遅延した。日欧では強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、乾癬性関節炎などに適応拡大申請/承認されているので、米国もキャッチアップしていくだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(10/18付)


抗議が奏功してテナパノルの承認を取得
(2023年10月17日発表)

米国のArdelyx(Nasdaq:ARDX)は、FDAがXphozah(tenapanor)を成人の透析期慢性腎疾患の高リン血症治療薬として承認したと発表した。標準的療法であるリン結合剤に十分応答しない、または不耐の患者に、30mg錠を一日二回、経口投与する。

承認申請から承認まで3年4ヶ月かかり、後から申請した日本のほうが先に承認された(協和キリンがライセンシー)。昨年11月に召集された心臓腎臓薬諮問委員会のFDAブリーフィング資料によると、FDAが審査完了通知を発出した主因は効果に関する疑念。ピボタル試験で血清リン量が減少したが、効果はリン結合剤と比べて小さい。そもそも、血清リン量の低下が臨床的便益とリンクするというエビデンスは確立していない。

同社は異議や不服を申立て、諮問委員会で過半の委員の支持を得ることに成功、承認に繋がった。

XphozahはNHE3(ナトリウム水素交換輸送体3)を阻害、細胞と細胞の接着を強化してリンの透過を抑制する。活性成分は米国で便秘型過敏性腸症候群用薬Ibsrelaとしても承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダ、肺癌ペリオペラティブに用法追加
(2023年10月16日発表)

MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab)の用法適応追加を承認したと発表した。4cm以上の大きさの、またはリンパ節転移した切除可能非小細胞性肺癌の術前(ネオアジュバント)・術後(アジュバント)療法に用いるもので、ネオアジュバントは化学療法と併用、アジュバントは単剤投与する。

エビデンスとなるKeyNote-671試験では、全生存期間のハザード・レシオが0.72、p=0.0103(複数設定された主評価項目の中間解析なので成否判定の閾値は0.0109)、EFS(無イベント生存期間、担当医評価)は0.58、p値は0.0001未満だった(閾値は0.0092)。

同日、EUでアジュバント適応拡大が認められたことも発表した。完全切除後に白金薬ベースの治療を受けたが再発リスクの高い非小細胞性肺癌に単剤投与するもので、米国では1月に承認されている。

抗PD-1/PD-L1抗体はネオアジュバントだけ、完全切除後のアジュバントだけ、今回の術前術後(ペリオペラティブ)の三種類の用法があり、効果だけを見ればペリが良いのだろうが、副作用や患者自身の気持ちのありようを考えれば、再発転移リスクの多寡に応じて使い分けるのが理想だろう。そのためにはもっと色々な情報が必要だ。例えば、術前のpCR(組織学的完全反応)の有無と全生存期間は相関するのか?PD-1発現との関連はないのか?ペリ対ネオ対アジュバントの直接比較試験を実施するのは難しいだろうから、せめて、サブグループ・データなどの解析を進めてもらいたいものだ。

リンク: MSDのプレスリリース(米承認)
リンク: MSDのプレスリリース(EU承認)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
23年11月推 武田薬品のTAK-755(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)
23/11/17Phathom Pharmaceuticalsのvonoprazan(びらん性胃食道逆流症)
23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
23/11/30Hutchmed/武田のfruquintinib(結腸直腸癌)
23/11末ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)
諮問委員会
23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel
(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのFolotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)
市販後薬効確認が遅延している件
23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



今週は以上です。

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