2023年9月24日

第1121回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボも肺癌術前術後試験が成功 
  • Dato-DXdは乳癌の第3相も成功 
  • Padcev・Keytruda併用試験が成功 
  • IgA治療薬の市販後薬効確認試験が僅かにフェール 
  • レンビマとキイトルーダの併用試験がまたフェール 
  • 武田、ブデソニド経口懸濁液を結局、再申請 
  • 異染性白質ジストロフィーの遺伝子療法を米国でも承認申請 
  • キイトルーダとHIF阻害剤の適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会、エキセナチドのインプラント製剤を支持せず 
  • ACIP、妊婦接種用新生児RSV予防ワクチンを支持 
  • ジャディアンスもCKDに適応拡大 


【新薬開発】


オプジーボも肺癌術前術後試験が成功
(2023年9月22日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)の非小細胞性肺癌術前術後補助(ペリアジュバント)療法試験が中間解析で目的達成したと発表した。ステージIIAからIIIBの切除術に際して、術前に化学療法と併用で腫瘍縮小を、術後に単剤投与して再発抑制を、図った試験で、主評価項目はEFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)。データは未公表。副次的評価項目の全生存期間は未だ成熟していない。

適応拡大申請に進むだろう。このセッティングではMSDもKeytruda(pembrolizumab)をKeyNote-671試験に基づいてステージIIからIIIBを対象に効能追加申請中で、米国の審査期限は10月16日。

リンク: BMSのプレスリリース


Dato-DXdは乳癌の第3相も成功
(2023年9月22日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、DS-1062(datopotamab deruxtecan、略称Dato-DXd)の第3相TROPION-Breast01試験の主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。ホルモン受容体は陽性、her2は低発現又は陰性の、切除不能/転移性乳癌の2次/3次治療を受ける733人を組入れて医師が選んだ薬(選択肢はcapecitabine、gemcitabine、eribulin mesylate、vinorelbine)と比較したもの。

7月に再発性非小細胞性肺癌のTROPION-Lung01試験もPFS解析が成功したが、今回は、統計学的に有意なだけでなく、臨床的にも意味のある改善があったと記されている点が注目されている。共同主評価項目である全生存期間は両試験とも未成熟だが好ましい傾向が出ているとのこと。間質性肺疾患による死亡が散見されるので延命効果の立証が重要だ。

類薬はギリアド・サイエンシズがTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)をトリプル・ネガティブ乳癌用薬として商品化した後、適応拡大を進めているので、やがてバッティングするようになるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


Padcev・Keytruda併用試験が成功
(2023年9月22日発表)

アステラス製薬は、Seagen(Nasdaq:SGEN)と共同開発販売している抗ネクチン4抗体医薬複合体、Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)を膀胱癌の治療に併用した第3相EV-302/KeyNote-A39試験の成功を発表した。局所進行/転移尿路上皮腫の一次治療における効果をcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用するレジメンと比較したところ、共同主評価項目である全生存期間の中間解析とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が共に成功した。

この併用法は121人のORR(客観的反応率)データに基づきcisplatin不適に限定して米国で加速承認されている。今回の成功で本承認切替と適応拡大、そして米国外での承認申請が見込まれる。抗PD-1/L1抗体は尿路上皮腫一次治療における展開が案外で、複数の製品が承認後に適応範囲が縮小されており、併用法の適応拡大が重要だ。

リンク: アステラス製薬のプレスリリース(和文)


IgA治療薬の市販後薬効確認試験が僅かにフェール
(2023年9月21日発表)

米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、Filspari(sparsentan)の第3相PROTECT実薬対照試験の2年eGFR(推定腎糸球体濾過量)解析結果を発表した。FDAが重視するベースラインから第110週までの「総合スロープ」は僅かにフェール、EUが重視する第6週から第110週までの「慢性期スロープ」も高度に有意ではなかった。まあ、既存薬より優れている必要はないが、統計学的には、優越性解析のフェールは同等性を意味しない。加速承認が取消されるリスクもゼロではないだろう。大目に見てもらえたとしても、GE化した薬と大差ないなら販促面で厳しくなる。

Filspariはブリストル マイヤーズ スクイブが創製したアンジオテンシンIIタイプI受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニスト。06年にインライセンスしたPharmacopeiaを08年に買収したLigand Pharmaceuticalsが、Martin Shkreli氏が設立したRetrophinに12年に導出した。Retrophinは15年に同氏が証券不正で逮捕されCEOを退任、20年に現社名に改名した。

PROTECT試験は原発性IgA腎症で最大承認用量の50%以上の量のACE阻害剤又はARBを服用してもタンパク尿が十分に改善しない患者404人を組入れて、sparsentan 400mg一日一回、経口投与にスイッチする群と、irbesartan 300mg一日一回経口投与にスイッチする群を比較した。主評価項目は36週時点の尿蛋白クレアチニン比(UPCR)、副次的評価項目は110週時点のeGFRなど。前者は中間解析で各群49.8%と15.1%低下し、有意な差があった。FDAはこのデータに基づき今年2月、成人の急速進行性原発性IgA腎症に加速承認した(レーベルによると、急速進行性は、一般的には、UPCR≧1.5g/gであることを指す)。

加速承認なので別途、臨床的便益を確認する必要があり、それが今回の110週解析だ。eGFRの総合スロープ(単位はmL/分/1.79m2/年)は各群2.9と3.9低下、p=0.058だった。慢性スロープ(同)は2.7と3.8でp=0.037だった。UPCRは各群42%と4%低下。eGFR40%低下、またはESRD、または死亡の複合評価項目は発生率が各群8.9%と12.9%、相対リスクは0.68と良好だが95%信頼区間は1を跨いでいる。

リンク: Travere社のプレスリリース


レンビマとキイトルーダの併用試験がまたフェール
(2023年9月22日発表)

エーザイは18年にVEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤Lenvima(lenvatinib)の共同開発・販促でMSDと提携し、多くのKeytruda(pembrolizumab)併用試験を実施してきたが、低い枝に生っている実が少ないこともあり、フェールが目立つ。今回、転移非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用試験、LEAP-006と、2次3次治療試験、LEAP-008のフェールが発表された。前者Keytruda・化学療法併用と、後者はdocetaxelと比較したが、主評価項目の全生存期間も、副次的評価項目のPFSも有意な差がなかった。

この併用は腎細胞腫一次治療試験と進行性内膜腫二次治療試験が成功し米国で承認されたが、第3相の通算成績は2勝8敗となった。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


武田、ブデソニド経口懸濁液を結局、再申請
(2023年9月21日発表)

武田薬品は米国でTAK-721(budesonide)を好酸球性食道炎の短期治療薬として再承認申請し受理された。Verus Pharmaceuticals→Metitage Pharma→ViroPharma→Shire Pharmaceuticals→武田薬品とタスキを繋いだ、コルチコステロイドの経口懸濁液で、第3相試験では2mg/10mLを一日二回、投与して、第16週の治癒奏効率を偽薬と比較した。20年に新薬承認申請が受理されたが、21年に審査完了通知を受領、追加試験の実施を推奨された。翌年、開発中止が発表されたが、当局との相談で、短期治療に絞れば承認される可能性が浮上したのだろう。

第3相は上記試験の延長試験や、数年間追跡する長期試験も実施されたが、ClinicalTrials.govによると、後者は途中で打ち切られた。ステロイドの長期使用は安全性が心配なので、短期間治療して改善したら止めるヒット・アンド・アウェイが一般的だが、好酸球性食道炎でも有効なのかもしれない。最終的には抗IL-5抗体や抗IL-4R抗体の便益や危険との比較も重要な論点になるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


百済神州、ノバルティスと決別して抗PD-1を米国で承認申請
(2023年9月19日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE/HKEX:6160)はtislelizumabに関する三つのアップデートを発表した。EUで承認、米国で承認申請、そして、欧米日などのライセンシーであったノバルティスから権利を取り戻したことだ。

このIgG4型抗PD-1抗体は中国で19年以降、古典的ホジキン型リンパ腫などに用いることが承認されている。欧州でも中国内の試験や中国を中心とするグローバル試験に基づき複数の適応症で承認申請しているが、今回、中国、米国、そして日欧などで実施されたRATIONALE 302試験に基づいて、成人の白金薬ベース化学療法歴を持つ切除不能/局所進行/転移食道扁平上皮腫に用いることが承認された。

この適応は中国でも22年に承認。米国でも21年に承認申請されたが、渡航制限で工場査察ができなかったことなどから、承認が遅れている。

同社は新たに食道扁平上皮腫の一次治療でも米国で承認申請し受理されたことを公表した。中国、米国、日欧などで実施されたRATIONALE 306試験に基づくもので、化学療法と併用した群のメジアン生存期間が17.2ヶ月、化学療法だけの群は10.6ヶ月、ハザードレシオは0.66だった。審査期限は24年下期としか公表されていない。

ノバルティスは、提携解消の理由としてチェックポイント阻害剤市場の変化などを挙げている。他社が中国だけで実施された臨床試験のデータに基づき米国で承認申請したがエビデンスとして認められなかった先行事例も、大きな影響を与えただろう。

リンク: 同社のプレスリリース(EU承認、米承認申請)
リンク: 同(提携解消)


異染性白質ジストロフィーの遺伝子療法を米国でも承認申請
(2023年9月18日発表)

Orchard Therapeutics(Nasdaq: ORTX)はOTL-200(atidarsagene autotemcel)を米国で異染性白質ジストロフィー(MLD)用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年3月18日。

MLDはアリールスルファターゼA(ARSA)の遺伝子欠損による常染色体劣性遺伝病。脳や末梢神経、肝臓、腎臓などにスルファチドが蓄積し、運動障害や知能障害、精神症状などが発現する。

OTL-200はイタリアのSan Raffaele-Telethon Institute for Gene Therapyと共同開発したex vivo遺伝子療法。18年にGSKからADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症)の遺伝子治療などと共に譲渡を受けた。レンチウイルス・ベクターを用いて患者から採取したCD34陽性造血幹細胞と前駆細胞にヒトARSA遺伝子を導入し、培養増殖した上で体内に戻す。EUでは20年12月にアリルARSA機能低下変異を持つ、無症状の遅発乳児型、または無症状/発症したばかりで独立歩行が可能、且つ認知低下が始まっていない早期若年型に、承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダとHIF阻害剤の適応拡大を申請
(2023年9月19日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)とHIF-2アルファ阻害剤Welireg(belzutifan)の適応拡大を米国で申請した。

Keytrudaは新患高リスク子宮頸癌の同時化学放射線療法に併用する用途。審査期限は24年1月20日。KeyNote-A18試験で、cisplatin同時併用下で外照射放射線療法、そしてその後に小線源治療を施行するレジメンに追加したところ、中間解析でPFSが統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を示した。

Weliregは21年8月に米国で成人フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病患者の即時手術不要な腎細胞腫、中枢神経系血管芽細胞腫、または膵神経内分泌腫瘍に用いることが承認されている。今回の適応は抗PD-1/L1抗体とVEGF標的薬による治療歴を持つ進行性腎細胞腫。審査期限は24年1月17日。第3相LITESPARK-005試験の中間解析で、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がeverolimus群を統計的有意且つ臨床的に意味のある改善を見た。

リンク: MSDのプレスリリース(Keytruda、9/20付)
リンク: 同(Welireg、9/19付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エキセナチドのインプラント製剤を支持せず
(2023年9月22日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、Intarcia Therapeuticsが16年に二型糖尿病薬として承認申請したGLP-1作用剤のインプラント、ITCA 650(exenatide)について意見を聞いた。19人全員が便益が危険を上回るとは言えないと判定した。

FDAは17年と20年に審査完了通知を発出したが、企業側の異議申し立てが認められ、諮問委員会招集に至った。最終判断は調停的立場のFDAチーフ・サイエンティスト、Bumpus博士に委ねられているが、常識的に考えれば、承認されないだろう。

FDAは安全性懸念や薬剤放出の安定性に疑念を示している。クラス・イフェクトである急性腎障害の発生率が1.8%と偽薬/対照薬の1.0%より数値上高かった。深刻有害事象のハザードレシオは1.17で統計的に有意。更に、アウトカム試験で、主要有害心血管イベントのハザードレシオが1を上回り(有意ではない)、既承認のexenatide注射用製剤と比べて見劣りした。全死亡も49人と対照群の40人より数値上多く、他のGLP-1作用剤の試験のメタアナリシス(0.89、統計的に有意)と異なった方向を向いている。

尚、Intarciaは8月にITCA 650を含む主要資産をi2o Therapeuticsに売却した。Intarciaの会長兼社長兼CEOはi2oのエグゼクティブ・チェアマンを兼任していたが、資産売却と合わせて、io2の会長兼社長兼CEOに就任した。換骨奪胎型企業買収は珍しくないが、行き詰った会社の経営者も移行するのは珍しいのではないか。

リンク: MedPage Todayの報道


ACIP、妊婦接種用新生児RSV予防ワクチンを支持
(2023年9月22日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)はACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、8月にFDAが承認したファイザーのAbrysvo(二価RSV融合前Fサブユニット・ワクチン)について意見を聞いた。11人の委員が勧奨に賛成し、反対は1名だった。Morbidity and Mortality Weekly Reportに刊行された段階で正式に接種勧奨となる。

RSVによる下部気道感染症を予防するワクチンで、高齢者向けが先に承認され、6月にACIPで議論されたが、意外なことに、結論は積極勧奨ではなくshared decision-making(個々人における便益を医師と検討した上で決める)だった。ギラン・バレー症候群などの炎症性神経学的事象や心房細動が散見されたことが主因のようだ。

乳幼児のRSV疾患は生後半年間が多いので、生後直ぐにも予防できるように、妊娠32~36週時点で母親に接種して胎児の出生後半年間のRSV疾患を防ぐ。臨床試験で早産が偽薬群より多かったが、接種時期を臨床試験の24~36週から狭めることでリスク抑制を図った。上記の安全性懸念は妊婦にも当てはまるのではないかと感じられるが、ACIPはshared decision-makingではなく接種勧奨した。理由は不明。新生児向けRSVワクチンは抗体医薬で代用することもできるので、どれを使うべきなのか良く分からない。ACIPでは、学会がガイドラインを示すべきという意見があったようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


ジャディアンスもCKDに適応拡大
(2023年9月22日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと開発販売パートナーのイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)を慢性腎不全の進行抑制に用いることがFDAに承認されたと発表した。糖尿病を併発していない患者が過半を占めたEMPA-KIDNEY試験でeGFR低下/ESKD/腎性死亡/心血管性脂肪のハザードレシオが0.72だった。7月にEUで承認、日本でも一変申請中。

類薬ではアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)も21年に米欧日で適応拡大している。

リンク: 両社のプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23年4QファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
23年10月ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
23年10月推ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
23年10月推ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
23/10/8 Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
23/10/13BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント一変)
23/10/16MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変)
23/10/17ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
23/10/22Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
23/10/22Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変)
23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
諮問委員会
23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)
23/10/4 ODAC:US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫)
23/10/5 ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替)
23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)


今週は以上です。

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