2023年9月2日

第1118回

【ニュース・ヘッドライン】

  • アレセンサのアジュバント試験が成功 
  • ESC:新規ATTR-CM用薬が第3相でWIN 
  • 抗CTGF抗体の第3相は三連敗に 
  • COVID-19ワクチンの開発を断念 
  • JNJ、FGFR阻害剤の本承認切替を申請 
  • スキリージを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
  • Activin受容体阻害剤が骨髄異形成症候群の貧血治療の第一選択に仲間入り 
  • PRCA、トピラマートの妊婦投与を制限へ 


【新薬開発】


アレセンサのアジュバント試験が成功
(2023年9月1日発表)

ロシュはAlecensa(alectinib)の第3相非小細胞性肺癌アジュバント試験、ALINAが中間解析で目的達成したと発表した。ALK阻害剤では初めて。データを学会などで発表するとともに、欧米で適応拡大申請する考え。

Alecensaは子会社の中外製薬が創製したALK阻害剤。癌の一因であるALK変異を標的とする経口剤で、14~17年に日米欧でALK変異陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として承認された。ALINAは早期段階であるステージIBからIIIAのALK陽性非小細胞性肺癌を完全切除した患者を組入れて、RFS(無再発生存期間)を白金薬ベース化学療法と比較した。統計的だけでなく臨床的にも意味のある改善が確認された由。

リンク: 同社のプレスリリース


ESC:新規ATTR-CM用薬が第3相でWIN
(2023年8月27日発表)

米国カリフォルニア州のBridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)はESC(欧州心臓学会)でBBP-265(acoramidis)の第3相ATTRibute-CM試験の結果を発表した。トランスサイレチン型心アミロイドーシスによる心筋症(ATTR心筋症)の臨床的転帰を有意に改善したため、年内に米国で、24年には海外でも、承認申請する予定。日本における独占開発商業化権はアレクシオン ファーマが19年に取得した。

トランスサイレチンの4量体構造に結合して安定化させる経口剤で、800mgを一日二回、投与する。ATTR心筋症はファイザーのVyndaqel/Vyndamax(tafamidis)など複数の製品が承認されているが、本試験はこれらの薬を使用していない、NIHAクラスI~IIIの患者632人を偽薬と2対1割付けした。主評価項目は二種類設定され、6分歩行テストが12ヶ月後に有意に改善したら承認申請する計画だったが、偽薬群の低下が7メートルに留まった(tafamidasの試験の偽薬群は60メートル低下)のに対して試験薬群は9メートル低下と大差なく、フェールした。

しかし、30ヶ月追跡後の複合評価項目の解析が成功した。通常の複合評価項目は、例えば死亡、心筋梗塞、脳卒中の何れかが最初に発生した時期に注目するため、決定的に重要な事象と対処可能な事象がごちゃ混ぜになる。今回は、この問題の対応策として提案されている、Win Ratioに基づく評価で、各群から一例ずつランダムに選び、まず全死亡の時期を比較し、差がなければ心血管疾患関連の入院を比較し、差がなければNT-proBNP値、それも差がないなら6分歩行テスト値と、シーケンシャルに勝ち負けを判定していく。結果は、Win Ratioが1.8、p<0.0001となった。

これはこれで分かり難いので結局、個別のイベントを見ていくことになる。全生存のハザードレシオは0.772、p=0.15で有意差なし。tadamidasのデータと同様に両群のカプラン・マイヤー・カーブが分かれるのは治療開始から1年半以上経ってからと遅い。tadamidasと異なるのは第14~18ヶ月時点では試験薬群のほうが数値上、悪くなっている点が気になるところだ。心血管疾患死亡率は偽薬群21.3%、試験薬群14.9%とかなり違うので、それ以外の主な死因を知りたいものだ。

心血管関連入院は半減しているので、これがWinの主因だろう。NT-proBNP削減奏効率は各群9%と45%、6分歩行テイストの改善奏効率は22%と40%。重大さで劣る前者の差も寄与しているであろうことに留意したい。6分歩行テスト値のカプラン・マイヤー・カーブも最初の1年半は両群大差ない。

致死的な治療時発現有害事象は17%対14%、治療時発現有害事象による入院も60%対50%、他の有害事象を見ても、偽薬群のほうが多かった。

リンク: 同社のプレスリリース


抗CTGF抗体の第3相は三連敗に
(2023年8月29日発表)

米国カリフォルニア州のFibroGen(Nasdaq:FGEN)はFG-019(pamrevlumab)の第3相LELANTOS-2試験のフェールを発表した。ステロイド治療中の6~11歳の歩行可能デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者70人を組入れて、偽薬または35mg/kgを2週毎静注して、1年後のNorth Star Ambulatory Assessment総スコアを比較したが、偽薬群より0.528悪かった。副次的評価項目の解析も全滅だった。

組織のリモデリングや線維化に関わるCTGF(結合組織成長因子)を標的とする抗体医薬。歩行不能な12歳以上の99人を組入れた一本目は6月にフェールした。同月は第3相成功が期待された特発性肺線維症試験のフェールも発表され、株価が16ドルから2~3ドルに暴落していたが、とうとう1ドル割れした。

リード・パイプラインであるHIF-PH阻害剤roxadustatの承認も一部市場を除き難航しており、かなり行き詰ってきた。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19ワクチンの開発を断念
(2023年8月31日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)は、COVID-19ワクチンの開発を断念すると発表した。起源株に関する免疫原性をComirnatyと比較した追加接種試験で非劣性を確認したが、XBB.1.5のような最近流行している株に対する効果が見劣りしたことや、承認審査機関が流行株の変遷に応じて毎年、抗原を見直すよう求めていることに対応できないことから、開発を中止した。

コペンハーゲン大学のCVLP(カプシド・ウイルス様パーティクル)技術を実用化すべく創設されたデンマークのAdaptVac社から2020年にライセンスし、臨床開発を進めてきたが、最近流行している株に関する免疫応答率が64%とComirnaty(起源株版)の85%よりかなり低かった。

同社は天然痘/Mpoxワクチンで有名。チクングニア熱ワクチンの開発に成功し承認申請する予定だが、COVID-19ワクチンだけでなく、RSVワクチンも、第3相におけるワクチン効率が今年承認された他社のワクチンより見劣りしたため7月に開発中止を決めた。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


JNJ、FGFR阻害剤の本承認切替を申請
(2023年8月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalはBalversa(erdafitinib)のFGFR陽性尿路上皮腫における加速承認を正式承認に切り替えるようFDAに申請した。汎FGFR阻害剤で、19年にFGFR2やFGFR3に変異を持ち白金薬治療歴を持つ局所進行/転移尿路上皮腫用薬として加速承認された。今回、第3相THOR試験で2~3次治療に用いたところ、メジアン生存期間が12.1ヶ月と化学療法群の7.8ヶ月を上回ったため本承認切替を求めた。

リンク: 同社のプレスリリース


スキリージを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2023年8月28日発表)

アッヴィは欧米で抗IL-23p19抗体Skyrizi(risankizumab-rzaa)を既存療法不耐または応答不十分な潰瘍性大腸炎に適応拡大申請した。1200mgを点滴投与した臨床的寛解導入試験では寛解率20.3%と偽薬群の6.2%を上回り、180mgまたは360mgを皮下注した維持療法試験では臨床的寛解率が夫々40%と38%となり、偽薬群の25%を上回った。

Skyriziはプラク乾癬や乾癬性関節炎、クローン病に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


Activin受容体阻害剤が骨髄異形成症候群の貧血治療の第一選択に仲間入り
(2023年8月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、FDAがReblozyl(luspatercept-aamt)の限定解除を承認したと発表した。ActRⅡB(activin receptor type ⅡB)の細胞外領域と免疫グロブリンG1固定領域を細胞融合した皮下注用薬で、19年にベータサラセミアによる貧血症の治療薬として、20年にはvery lowからintermediate-riskの骨髄異形成症候群などにおける赤血球生成刺激剤(ESA)不応貧血症でも、承認された。今回、後者におけるESA不応患者限定が解除され、初度治療に用いることが可能になった。欧州でも一部変更申請中。日本では5月に後者の適応で承認申請された。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRCA、トピラマートの妊婦投与を制限へ
(2023年9月1日発表)

EUの医薬品ファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、topiramateを妊婦に投与する時の条件を限定し、DHPL(直接的医療従事者レター)も発出するよう推奨した。CHMP(医薬品諮問委員会)などを経て正式に決定する。多くの抗癲癇薬が催奇性を持っておりtopiramateも規制が全くなかった訳ではないが、北欧の疫学的試験で自閉症スペクトラム障害や知的障害、ADHDなどの懸念が浮上したことから、妊婦の片頭痛予防や(一部の国で承認されている)体重管理には用いないこと、癲癇治療に用いる場合も他の薬に適さない患者だけに用いることを求めた。

患者登録データに基づく疫学研究三本中、二本で、出生児の神経発達障害リスクが妊娠中に抗癲癇薬を使用しなかった癲癇患者の出産児の2~3倍高かった。PRACの分析によると、出生児欠損が100人当り4~9人と、非服用例の100人当り1~3人より多かった。また、出生児低体重も100人当り18人と、癲癇ではなく抗癲癇薬も服用しなかった症例の5人より多かった。

治療しないリスクも大きいため米国はここまで規制していないが、疫学研究データがレーベルに記載されている。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年9月   UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)


諮問委員会:
  • 23/9/11-12 NPDAC:OTC鼻詰まり治療経口剤phenylephrineの有効性について
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran、ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/21 EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)



今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。