2023年9月9日

第1119回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • もう一つのPPARデルタ作動剤もPBC試験が成功 
  • EGFRxMET二重特異性抗体と新規EGFR阻害剤の併用試験成功 
  • 抗TF抗体医薬複合体の本承認切替試験が成功 
  • オプスミットのCTEPH試験もフェール 
  • 中外発の抗C5抗体を米国でも承認申請 
  • WHIM症候群用薬を承認申請 
  • 遅報:多剤抵抗菌にも有効なcUTI治療薬を承認申請 
  • 皮下注用テセントリクの承認が遅れそう 
  • ユルトミリス、NMOSDの米国承認が遅延 
  • イラリスが痛風フレアに適応拡大 


【新薬開発】


もう一つのPPARデルタ作動剤もPBC試験が成功
(2023年9月7日発表)

米国カリフォルニア州のCymaBay Therapeutics(Nasdaq:CBAY)はMBX 8025(seladelpar)の第3相RESPONSE試験が成功したと発表した。UDCA(ursodeoxycholic acid)に十分応答しない又は不耐のPBC(原発性胆管炎)患者193人を10mg群と偽薬群に2対1割付けして一日一回、12ヶ月間、経口投与したところ、奏効率が61.7%と偽薬群の20.0%を大きく上回った。ベースライン時点で中重度掻痒のある患者(被験者の35%程度)では6ヶ月後に偽薬比有意な改善が見られた(副次的評価項目)。有害事象の群間の偏りは見られなかった。欧米などで承認申請する考え。

06年にジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスしたPPARデルタ作動剤。日本市場は1月に科研製薬がライセンスした。

類薬ではフランスのGenfit(Nasdaq:GNFT)がイプセンと共同でPPARアルファとデルタのデュアル・アゴニスト、GFT505(elafibranor)の第3相PBC試験を一足早く成功させた。奏効率は80mg群が51%、偽薬群は4%だった。CymaBayの奏効の定義は血清ALPが1.67xULN未満かつ総ビリルビンが1.0xULN以下になること。Genfitの定義は更にALP値が15%以上低下することも求めており、そのせいか偽薬群の数値も今回の試験より低いが、群間差を見る限りでは、両剤の効果に大きな違いがあるようには見えない。但し、Genfitの試験では掻痒改善作用に有意差が出なかったので、差別化要素に使えるかもしれない。

リンク: CymaBayのプレスリリース


EGFRxMET二重特異性抗体と新規EGFR阻害剤の併用試験成功
(2023年9月6日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、EGFRとMETに結合する二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)と第3世代EGFR阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)の併用などをテストした第3相MARIPOSA-2試験で主目的を達成したと発表した。データは学会で発表する予定。RybrevantはEGFRエクソン20挿入変異型(アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)のような第3世代EGFR阻害剤に抵抗性を持つ)非小細胞性肺癌用薬として21年に欧米で承認された。今回の試験は第3世代EGFR阻害剤が得意とするEGFRエクソン19欠損型やエクソン21 L858R置換型の局所進行/転移非小細胞性肺癌でTagrissoによる治療後/治療中に進行した患者を組入れて、carboplatinとpemetrexedの併用療法にRybrevantを単独またはlazertinibと二剤を追加する便益をオープン・レーベルで検討した。三剤併用群も四剤併用群も二剤併用群比で統計的に有意な、かつ、臨床的に重要な、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)延長作用が見られた。

この併用は同様な変異を持つ患者の第3相一次治療Tagrisso対照試験も進行中で年内に成否判明する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


抗TF抗体医薬複合体の本承認切替試験が成功
(2023年9月4日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)とジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Tivdak(tisotumab vedotin-tftv)の第3相innovaTV 301試験が中間解析で目的達成したと発表した。米国の加速承認を本承認に切替えたり、他の地域で承認申請すべく当局と相談する考え。

組織因子を標的とする抗体に抗癌作用を持つMMAEを結合した抗体医薬複合体で、21年に難治/転移子宮頸癌の二次治療薬として加速承認された。第2相試験でcORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が24%、メジアン反応持続期間は8.3ヶ月だった。深刻な視力低下のリスクもある角膜上皮・結膜副作用が枠付き警告されている。

今回の試験は、難治/転移後に1~2次治療歴を持つ502人を組入れて全生存期間を化学療法と比較したもの。

両社の提携は、米国などではSeagenが、日欧などではジェンマブが、商業化を担い、費用や利益を折半する。

リンク: 両社のプレスリリース


オプスミットのCTEPH試験もフェール
(2023年9月6日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、macitentanの第3相慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)試験を無益中止することを明らかにした。Opsumit名で肺動脈高血圧症治療薬として承認されているendothelin A/B受容体拮抗剤の、10mgではなく75mgを一日一回経口投与する効果を偽薬と比較したが、独立データ監視委員会が中間解析で運動機能(6分歩行テスト)改善は見込み薄と判定した。

この適応は、第2相試験で副次的評価項目に設定された6分歩行テストの改善が10mg群において35メートルと偽薬の1メートルを有意に上回り、18年に適応拡大申請されたが、FDAは追加試験を要求、EUでも申請撤回となった。今回の試験では手術不能患者に限定せずに肺動脈内膜摘除術やバルーン肺動脈拡張術を受けた患者も組入れて実施したが、先輩格のendothelin受容体拮抗剤であるTracleer(bosentan)と同様に、結果を出せなかった。

尚、肺動脈高血圧症における75mgの便益や安全性を承認用量である10mgと比較する第3相は続行する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


中外発の抗C5抗体を米国でも承認申請
(2023年9月6日発表)

ロシュはRG6107(crovalimab)を発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。日本では6月に申請済み。今回、EUでも受理されたことを明らかにした。

中外製薬がSKY59名で開発した、補体系C5に結合するリサイクリング抗体で、結合→分離→別の分子に結合を繰り返すため、効果の持続性が高い。第3相COMMODORE 3試験では初日に静注した後、第2日以降は週一回皮下注、7回目以降は4週毎皮下注した。抗C5抗体の先行品であるアストラゼネカのUltomiris(ravulizumab-cwvz)は維持期に入れば8週毎投与で済むので投与頻度の点では見劣りするが、自己注が認められれば長所になりうる。

尚、中外はUltomirisが特許侵害に当たるとしてアストラゼネカのメディミューン子会社を提訴し、和解金獲得に成功している。

リンク: ロシュのプレスリリース


WHIM症候群用薬を承認申請
(2023年9月5日発表)

米国ボストンの新興医薬品開発会社、X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)は、X4P-001(mavorixafor)をWHIM症候群用薬として米国で承認申請したと発表した。優先審査を求めている。

WHIM症候群は常染色体優性遺伝性の原発性免疫不全で、米国の患者数は1000人超と推定されている。CXCR4をコードする遺伝子の機能獲得変異が原因で白血球の移行が抑制され、W(ヒトパピローマウイルスによる疣贅)、H(低ガンマグロブリン血症)、I(再発性細菌感染症)、M(骨髄性細胞貯留)など様々な症状を発現する。

mavorixaforは、造血幹細胞採取時の補助療法であるCXCR4アンタゴニスト、Mozobil(plerixafor)を開発したAnorMedのもう一つのCXCR4アンタゴニストで、当時はAMD11070と呼ばれていた。AnorMedはミレニアム・ファーマシューティカルズが一旦は買収合意したが、ジェンザイムが逆転に成功、06年に子会社化した。その後、ジェンザイムを子会社化したサノフィからCXCR4アンタゴニスト・パイプラインを取得して14年に設立されたのがX4だ。

第3相は12歳以上の患者31人を組入れて400mgを一日一回、52週間に亘り投与したところ、ANC(好中球絶対数)が臨床的に意味のある水準(500セル/mcL)以上で推移する時間を評価したところ、24時間当り15時間と偽薬群の2時間を大きく上回った。副次的評価項目である感染症予防効果も頻度(年率1回対4.5回)や症状の重さなどの解析が成功した。有害事象は皮膚や胃腸系が中心。

リンク: 同社のプレスリリース


遅報:多剤抵抗菌にも有効なcUTI治療薬を承認申請
(2023年8月15日発表)

米国フィラデルフィア州の新興医薬開発会社、Venatorx Pharmaceuticalsは、第4世代セファロスポリンンのcefepimeと新開発の汎ベータ・ラクタマーゼ阻害剤VNRX-5133(taniborbactam)の併用を複雑尿路感染症の治療薬としてFDAに承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は24年2月22日。欧米や中国、ロシアなどで実施した第3相CERTAIN-1試験で微生物学的且つ臨床的な奏効率をmeropenemと比較したところ、非劣性解析が成功し、シーケンシャルに実施された優越性検定も70.6%対58%と成功した。Extended Spectrum Beta-lactamase産生菌やcarbapenem抵抗菌にも効果が見られた。

cefepimeと新開発ベータ・ラクタマーゼ阻害剤の併用法は、Allecra TherapeuticsもExblifep(cefepime、enmetazobactam)を米国で6月に承認申請した。

リンク: Venatorxのプレスリリース

【承認審査・委員会】


皮下注用テセントリクの承認が遅れそう
(2023年9月6日発表)

ロシュはHalozyme Therapeutics(Nasdaq:HALO)のrHuPH20技術を用いて抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の皮下注用新製剤を開発、8月に英国で世界初承認を取得したが、米国における承認は遅れそうだ。HalozymeがSEC(米国証券取引委員会)に提出した適時開示情報の中でロシュから連絡を受けたことを公表した。CMC(化学、製造、管理)プロセスのアップデートが必要になったため、審査期限の今月15日には間に合わず、発売は24年の見込みになったとのこと。

Tecentriqの現行の製剤は30~60分かけて点滴静注するが、皮下注用は3~8分で足りるため、患者や医療従事者の拘束時間が短くて済む。キー・テクノロジーがHalozymeの遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロン酸分解酵素、rHuPH20だ。活性成分の吸収の妨げになるヒアルロン酸を局所的に分解するもので、ロシュのRituxan Hycela(rituximab、hyaluronidase human)や武田薬品のHyQvia(immune globulin、human hyaluronidase)など、多くの医薬品に採用されている。

リンク: Halozymeのフォーム8-K(SECウェブサイト)


ユルトミリス、NMOSDの米国承認が遅延
(2023年9月6日発表)

アストラゼネカは持効性抗C5抗体Ultomiris(ravulizumab-cwvz)を抗アクアポリン4自己抗体を持つNMOSD(視神経脊髄炎)の治療薬として適応拡大申請し、5月にEUと日本で承認されたが、米国は審査可能通知を受領した。理由は臨床成績などではなく、REMS(適正使用を担保するための施策)。現行のREMSは、髄膜炎菌性髄膜炎のリスクを緩和するために、ワクチン接種の有無を確認し免疫を付けること、免疫後2週間以内に投与を開始する場合は抗生剤の予防的投与を二週間、施行すること、そして患者向けのパンフレットと携帯用カードを渡してリスクを説明することを求めているが、この確認手続きを強化するよう求められた模様だ。おそらく、類薬についてもREMS見直しを求められたのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


イラリスが痛風フレアに適応拡大
(2023年8月25日付)

FDAのウェブサイトで提供されているDrug@FDAは、承認されている小分子薬やCDER所管の生物学的製剤の現在と過去の処方情報(PI)や承認通知、審査文書などのデータベースで、メーカーのプレスリリースが見つからない場合などの事実確認にも有用だ。今回、ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab)の適応拡大が承認されたのに企業側は製品ウェブサイトに新しいPIを掲示していない、という報道があったため、アクセスしてみた。

Ilarisは、同社の投資家向けミーティングで、「小さく生んで大きく育てる」戦略の一例として紹介されたことがある。クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)という、希少疾患だが新薬のニーズが高く比較的早く開発でき成功確率が高い疾患をリード・インディケーションとし、雁行的に関節炎や心筋梗塞など開発期間が長くリスクも小さくないが成功すれば売上寄与が大きい用途でも開発するというものだ。結果は案外で、09年に米国でCAPSに承認されるなど希少疾患薬として重要な薬に育ったが、リウマチ性関節炎は開発中止、心筋梗塞はアウトカム試験がギリギリ成功したが欧米とも承認されなかった。

今回の適応は、痛風の急性フレアの治療。11年に欧米で適応拡大申請し、EUでは13年に承認されたが、FDAは症状改善だけで放射線学的改善が見られないことや、感染症など安全性に懸念を示し、諮問委員会も支持せず、審査完了通知を受領した。ノバルティスは三本目となる第3相を実施、昨年10月に再申請し、今回、承認された。NSAIDs及びコルヒチンが禁忌、不耐、または応答不十分でコルチコステロイドによる頻回の治療が不適当な成人の痛風性関節炎患者におけるフレアを治療する目的で、150mgを一回だけ皮下注する。必要な場合は12週以上開けて再投与する。

三本のtriamcinolone acetonide対照試験で72時間後の疼痛VAS(ヴィジュアル・アナログ・スケール)が対照群比有意に低く、12週間の試験中の再燃頻度が半分以下だった。

一回18000ドルの高額医療なので、どの程度普及するかは明らかではない。

尚、日本時間9月6日に同社の製品情報サイトにアクセスした時点では古いPIが掲示されていたが、9日に改めてチェックしたところ、最新版に更新されていた。

リンク: IlarisのPI(最新版)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)→遅延へ(CMC見直し)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症
  • 23年第4四半期 ファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
  • 23年第4四半期 アストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
  • 23年第4四半期 イーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
  • 23年第4四半期推 イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
  • 23年10月 ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
  • 23年10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23年10月推 ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
  • 23/10/8  Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
  • 23/10/13  BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント適応拡大)
  • 23/10/16  MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に適応拡大)
  • 23/10/17  ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
  • 23/10/22  Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
  • 23/10/22  Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に適応拡大)
  • 23/10/26  Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)


諮問委員会:
  • 23/9/11-12 NPDAC:OTC鼻詰まり治療経口剤phenylephrineの有効性について
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran、ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/21 EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)
  • 23/10/4 US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫)
  • 23/10/5 ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替)



今週は以上です。

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