【ニュース・ヘッドライン】
- MDMAの二本目の第3相PTSD試験が成功
- CRF1受容体拮抗剤が副腎過形成の第3相で良績
- アストラゼネカ、ファセンラのEGPA適応拡大試験が成功
- タグリッソの化学療法併用試験が成功したが...
- モデルナ、米国でもRSVワクチンを承認申請
- 小児低グレード神経膠腫用薬を承認申請
- CRDAC、オンパットロの心筋症適応を支持
- 経口鼻腔鬱血除去剤フェニレフリンは無効
- CHMP、アトピー用薬などの承認を支持
- 骨髄線維症の貧血症状も緩和するJAK阻害剤が承認
- 幹細胞動員補助剤が承認
- XBB.1.5系統対応COVID-19ワクチンが米国でも承認
【新薬開発】
MDMAの二本目の第3相PTSD試験が成功
(2023年9月14日発表)
MAPS Public Benefit Corporationは、MDMAカプセルの第3相PTSD(トラウマ後ストレス障害)補助療法試験、MAPP2の成功を公表した。Nature Medicine誌に論文掲載された。一本目も成功しており、年内に米国で承認申請する予定。
MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は米国のDEA(麻薬取締局)がスケジュールI指定しているサイケデリック。Merckが1912年に合成、既に特許は失効している。PTSDにおける作用機序はトリプル・アミン再取込阻害と考えられている。MAPSは1986年に設立された非営利研究教育機関、Multidisciplinary Association for Psychedelic Studiesが2014年に設立した法人で、サイケデリックやマリファナなどの合法的な使用を目指している。
今回の第3相は、中重度PTSD患者104人を組入れて、サイコセラピー・セッションにおいてMDMAを補助薬として用いる便益を偽薬と比較した、無作為化割付け二重盲検試験。セッションは週次で実施、第1回に80mgそして1.5~2時間後に40mgを経口投与、第5回と9回にも120mgそして60mgを投与した。主評価項目のCAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5)症状評価はベースライン平均の39点から23点低下したが、偽薬群は14点低下に留まり、p<0.001だった。副次的評価項目のSDS(modified Sheehan Disability Scale)機能評価も3.3点低下対2.1点低下でp=0.0271。探索的解析だが、試験薬群は71%の患者がDSM5診断基準に該当しなくなった。偽薬群は47%。深刻有害事象は発生しなかった。
一本目も両評価項目で有意差が出ているが、二本目は重症だけでなく中等症も組み入れ、per protocolではなくmixed models for repeated measuresで解析したので、対象患者層や頑強性が向上した。
被験者の多くは鬱病も併発している。鬱病試験でもしばしば見られるが、この試験でも偽薬効果の高さが気にかかるところだ。
リンク: MAPS社のプレスリリース
リンク: Mitchellらの治験論文(Nature Medicine)
CRF1受容体拮抗剤が副腎過形成の第3相で良績
(2023年9月12日発表)
Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はNBI-74788(crinecerfont)の第3相でポジティブなトップラインを取得したと発表した。延長試験などを経て24年に欧米で承認申請する予定。
このCAHtalyst Adult試験は、21OHD(水酸化酵素)欠乏性古典的先天性副腎過形成(CAH)の成人患者182人を組入れて、一日二回経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は24週時点の奏効率で、判定基準は現状で唯一の治療薬であるグルココルチコイドの服用量を顕著に抑制し、且つ、アンドロゲン管理が良好に維持されていること。試験薬群は63%、偽薬群は18%で有意な差があった。副次的評価項目のアンドロステンジオン減少も目的達成。深刻な有害事象は少なく、薬物関連と見做されたものは無かった。
21OHD CAHは常染色体性劣性遺伝性疾患で、21OHDが産生されずコルチゾールが欠乏、多くの患者でアルドステロンも欠乏する。塩喪失や脱水を招き、治療しないと死亡する可能性がある。グルココルチコイドが有効だが、コルチゾール欠乏を補うだけでなくCRF(コルチコトロピン放出因子)やACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を抑制するため高用量が必要なことが難点。crinecerfontはCRF1受容体拮抗剤で、ACTHや、女性患者ではテストステロンも減らすことができる。別途、小児第3相も進行中。
CRF1受容体拮抗剤は同社がGSKやサノフィと提携開発して鬱病などの精神疾患の第2相を行ったが良好な結果が出なかった。本剤もサノフィがSSR-125543として第2相鬱病試験やPTSD試験を行ったが、10年以上後になって、新用途で起死回生した。
リンク: 同社のプレスリリース
アストラゼネカ、ファセンラのEGPA適応拡大試験が成功
(2023年9月11日発表)
アストラゼネカは抗IL-5受容体アルファ鎖ポテリジェント抗体Fasenra(benralizumab)の第3相MANDARA試験で主目的を達成したと発表した。EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:チャーグ・ストラウス症候群と呼ばれることもある)でステロイド単剤または他の免疫抑制剤を併用しても十分に応答しない患者をFasenra群と既承認の類薬であるGSKのNucala(mepolizumab)群に無作為化割付けして寛解率を比較したところ、非劣性であることが確認された。
なんだ、二番煎じかと思いがちだが、この試験のミソは、同じ一日一回皮下注でもFasenraは30mg/mLを一回注射するだけだが、Nucalaは100mg/mlずつ三回注射と手間が多いこと。自己注できるので患者に選好を尋ねれば、自ずと結果が出るというわけだ。
EGPAは好酸球の過剰などにより肺や皮膚、心臓など様々な臓器に障害を与える。強い倦怠感や体重減、筋痛関節痛や息切れなどを発症し、治療しないと死亡する可能性がある。希少疾患で世界の患者数は118000人と推定されている。
リンク: 同社のプレスリリース
タグリッソの化学療法併用試験が成功したが...
(2023年9月11日発表)
アストラゼネカはTagrisso(osimertinib)が第3相FLAURA2試験で主目的を達成したとWCLC(肺癌世界学会)及びプレスリリースで発表した。副次的評価項目である全生存期間の解析がどのような結果になるか、注目される。
このEGFR阻害剤は第1世代のEGFR阻害剤に抵抗性を示すEGFR T790M変異型やエクソン19欠損型、エクソン21 L858R変異型の非小細胞性肺癌に単剤投与することが米欧日で承認されている。今回の試験はEGFR変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療として、Tagrisso単剤とTagrisso、pemetrexed及び白金薬の併用を比較した。主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザードレシオ0.62、メジアン値は各19.9ヶ月と29.4ヶ月で大きな差があった。
一方で、全生存期間は未成熟だがハザードレシオが0.9と、それほどでもない。G3以上の有害事象発生率は各27%と64%とかなり違い、併用群は半分近くの患者が骨髄抑制により何れかの薬を中止した。
忍容性が見劣りするため、エクソン21変異型や血管脳関門透過性が生きたのか特に良い結果が出た脳転移患者など、限定的に使うべきというエキスパート・オピニオンもあるようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
モデルナ、米国でもRSVワクチンを承認申請
(2023年9月13日発表)
モデルナ(Nasdaq:MRNA)は、mRNA-1345を60歳以上のRSVによる下部気道疾患(RSV-LRTD)の予防用ワクチンとして米国で承認申請した。既に承認された二社を追いかけるべく、優先審査バウチャを用いたので、審査期限は5月頃に設定されるだろう。
RSウイルスの融合前F糖蛋白をエンコードするmRNAをリキッド・ナノパーティクル化したもの。日本も含む22ヶ国で60歳以上の37000人を組入れて、一回筋注の効果を偽薬と比較したところ、中間解析で共同主評価項目を達成した。二つ以上の症状を伴うRSV-LRTDのワクチン効率は83%(発症者9人、偽薬群は55人)、三以上の症状では82%(同3人対17人)だった。後者の場合、偽薬群でも1000人に一人位しか発症しなかったが、COVID-19対策の副産物でRSV感染も少なかったせいなのだろうか?
G3以上の有害事象発生率は各4%と2.6%だった。
同社は欧州などでも7月に承認申請している。
リンク: 同社のプレスリリース
小児低グレード神経膠腫用薬を承認申請
(2023年9月11日発表)
米国カリフォルニア州のDay One Biopharmaceuticals(Nasdaq:DAWN)は、DAY101(tovorafenib)を再発/進行性小児低グレード神経膠芽腫用薬として米国で承認申請した。第2相のFIREFLY-1試験に基づくもので、23年6月カットオフのデータによると、ORR(客観的反応率)が67%、69人中12人が完全反応、34人が部分反応、メジアン反応持続期間は16.6ヶ月だった。有害事象は毛髪変色、CPK上昇、貧血、疲労、ラッシュなど。
汎RAF阻害剤。2011年に武田薬品のMillennium PharmaceuticalsがSunesis Pharmaceuticals(後にViracta Therapeuticsが吸収合併)からライセンスしMLN2480/TAK-580として開発したが、19年にDay Oneが両社から権利を取得した。
リンク: Day Oneのプレスリリース
【承認審査・委員会】
CRDAC、オンパットロの心筋症適応を支持
(2023年9月13日発表)
FDAはCRDAC(心血管腎臓薬諮問委員会)を招集し、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran)をTTR調停心筋症に適応拡大する件について意見を聞いた。12人の委員のうち9人が便益が危険を上回ると判定、反対の3人を上回った。FDA担当部署は懐疑的であり、委員会が多数決で決定するわけではなく参考意見に過ぎないので、10月8日の審査期限までに承認されるかどうかは不透明だ。日程もタイトで、審査期限まで1ヶ月もない事例では審査期間延長や承認遅延が多いように感じられる。
OnpattroはRNA干渉薬。18~19年に米欧日でトランスサイレチン(TTR)変異によるアミロイドーシスの治療薬として承認された。TTR変異のもう一つの表現型であるTTR調停心筋症におけるエビデンスは第3相APOLLO-B試験。変異のない患者も含む360人を組入れて0.3mg/kgを3週毎静注したところ、主評価項目である12ヶ月後の6分歩行テストの成績がベースラインの361メートルから13メートル悪化、偽薬群は375メートルから31メートル悪化で、有意な差があった。但し、既承認薬であるファイザーのtafamidisも服用していた患者では4メートルしか差がなかった。また、検出力不足で死亡/心血管イベント抑制効果は確立していない。
深刻な有害事象の発生率は33%で偽薬群の35%と大差なかった。
便益が危険を上回るかという設問に対して、諮問委員は、便益は小さいが危険はそれ以上に小さいので上回ると判断したようだ。臨床的に意味があるか、と尋ねたら違った答えが出たかもしれないが、近年は、米国も、難病用薬の承認基準を引き下げる方向にある。
難しいのは、tafamidis服用患者に追加投与する便益は確立しておらず、服用していない患者にはtafamidisのほうが良いのではないかと感じられることだ。tafamidisの第3相は全死亡/心血管関連入院リスクを抑制した(カプラン・マイヤー・カーブは1年半経つまで大差ないが)。副次的評価項目である6分歩行テストの悪化は30メートル対89メートルで大きな差があった。
Alnylamはもう一つのTTR調停アミロイドーシス用siRNA、Amvuttra(vutrisiran)でも心筋症試験を実施している。組み入れ数はOnpattroの約2倍、投与方法は25mgを3ヶ月毎皮下注、主評価項目は全死亡/心血管疾患入院/心不全緊急受診の複合評価項目となっており、おそらく、少なくともこの適応症では、こちらが本命なのだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
経口鼻腔鬱血除去剤フェニレフリンは無効
(2023年9月11-12日開催)
FDAは非処方薬諮問委員会を招集し、OTC薬に配合されている経口アルファ1アドレナリン受容体作動剤、phenylephrineの有効性について意見を聞いたところ、全員が薬効なしと判定した。FDAの評価が支持されたため、OTC薬として販売することができなくなりそうだ。
鬱血除去剤は風邪薬やアレルギー用薬の成分の一つとして広く用いられているが、あまり良い記憶がない。PPA(phenylpropanolamine)は脳卒中のリスクが高まることが判明、日本では03年にPPAからpseudoephedrineに切り替えが進んだ。同年、米国ではpseudoephedrineの不適切使用が問題になり、処方は不要だが薬剤師の説明を受けた上で所定の数量だけ購入できるbehind-the-counterに鞍替えが進んだ。代わりにover-the-counter薬の主役に立ったのがphenylephrineで、22年の販売量は2.4億箱/ボトルとpseudoephedrineの5倍近くに達している。今日では日本でも多くの市販薬にphenylephrineが配合されるようになった。
ところが、07年以降に実施された季節性アレルギー鼻炎などの症状改善試験が三本ともフェールした。経口投与時の生物学的利用率が従来言われていた38%と全く異なる1%足らずであることが判明し、10~40mgを4時間毎経口投与するだけでは足りないことが原因と考えられている。FDAは用量を増やして再試験する当否も諮問したが、副作用が増える可能性があり、代替品もあることから、全員反対した。
代替品候補は点鼻用薬。phenylephrineも点鼻なら有効と考えられているようだ。総合〇〇薬に配合できないのは不便だが、効かないのでは意味がない。
リンク: FDAの諮問委員会関連情報ページ
リンク: FDAの追加説明(9月14日付)
CHMP、アトピー用薬などの承認を支持
(2023年9月15日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
AlmirallのEbglyss(lebrikizumab)はIgG4型抗IL-13抗体。年齢12歳以上、体重40kg以上の青少年と成人の中重度アトピー性皮膚炎に二週毎に皮下注射する。臨床試験ではEASI75達成率やIGA奏効率が偽薬群を有意に上回った。主な有害事象は結膜炎、注射箇所反応、ドライアイなど。抗IL-13は様々な製品が自己免疫疾患に承認されているが、アトピー向けはLEO PharmaのAdtralza(tralokinumab-ldrm)が21~22年に欧米日で承認されている。
ジェネンテックが喘息症の第3相試験を実施したが二本中一本しか成功せず、17年にDermiraに導出。Dermiraを買収したイーライリリーからAlmiralが19年に欧州における皮膚科での開発販売権などを取得した。
リンク: EMAのプレスリリース
ノバルティスのFinlee(dabrafenib)はBRAF阻害剤。1歳以上の患者のBRAF V600E変異のある低/高グレード神経膠腫に同社のMEK1/2阻害剤trametinibと併用する。米国では胆道癌や卵巣漿液性腫瘍なども含めて22年6月に承認、今年3月に低グレード神経膠腫について下限を1歳以上に拡大した。
尚、dabrafenibは既存の適応症や米国ではTafinlar名で承認されている。また、trametinibはTafinlar併用でBRAF V600E変異腫瘍に承認されているが、今回の適応では肯定的意見を受けていない。何かあったのかもしれない。
リンク: EMAのプレスリリース
第一三共のVanflyta(quizartinib)はFLT3阻害剤。19年に日本で、今年7月には米国でもFLT3-ITD変異を持つ急性骨髄性白血病に承認されたが、EUでもQuANTUM-First試験に基づき未治療患者に標準的導入療法及び地固め療法と併用、かつ、その後の単剤維持療法に用いることが支持された。
リンク: EMAのプレスリリース
デンマークのアセンディス・ファーマ(Nasdaq:ASND)のYorvipath(palopegteriparatide)は成人の慢性副甲状腺機能低下症に用いるホルモン補充療法。体内で分離するポリエチレン・グリコールとリンカーを介して結合する同社の技術を用いて一日一回皮下注を実現した。米国は昨年5月に審査完了通知を受領。
リンク: EMAのプレスリリース
UCBのZilbrysq(zilucoplan)は自己皮下注用C5阻害剤。アセチルコリン受容体に対する自己抗体を持つ全身型重症筋無力症の成人に、既存治療に追加して用いる。臨床試験で日常生活活動の低下が偽薬群より小さかった。8月に日本で第1部会通過、米国でも承認申請中。19年にRa Pharmaceuticalsを25億ドルで買収して入手した。
リンク: EMAのプレスリリース
COVID-19ワクチンはEUでもXBB.1.5対応の承認審査が進んでおり、8月のComirnatyに続いて、今回、Spikevaxも肯定的意見を得た。日米は承認済み。
リンク: EMAのプレスリリース
以下の適応拡大も支持された。
・武田薬品がSeagen(Nasdaq:SGEN)からライセンスして北米外で開発販売しているAdcetris(brentuximab vedotin)・・・未治療CD30陽性ホジキン型リンパ腫に化学療法併用。欧州ではステージIVの患者に限定されていたが、ステージIIIも支持された。
・第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan)・・・her2遺伝子に活性化変異のある進行非小細胞性肺癌。白金ベース化学療法歴を持つ患者が適応になる。米日では適応拡大済み。
・MSDのKeytruda(pembrolizumab)・・・非小細胞性肺癌の完全切除と白金薬ベース化学療法を施行したが再発リスクの高い患者にアジュバント投与。
・イーライリリーのOlumiant(baricitinib)・・・2歳以上の青少年と成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎。
・Oncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxti(melflufen)・・・多発骨髄腫の適応を若干早い段階に拡大(二次治療歴を持ち最終治療とlenalidomideに抵抗性)
・Gedeon RichterのRyeqo(relugolix、estradiol、norethindrone acetate)・・・子宮筋腫用薬として承認されているが、薬物治療・外科的治療歴を持つ内膜腫の女性の症状緩和を追加。武田薬品から欧米などの権利を取得したMyovant SciencesがGedeonに欧州などの商業化権を供与したもの。
米国の加速承認や日本の迅速承認に相当するEUの制度は条件付き承認だ。継続の当否を毎年検討し、市販後薬効確認試験などで便益が確認されなかった場合、取り消されることになる。今回は二品が、更新に否定的評価を受けた。
PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のTranslarna(ataluren)は14年にジストロフィン遺伝子に機能喪失変異を持つ5歳以上の歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認されたが、二本の薬効確認試験がいずれもフェールした。効果が表面化しやすいはずだった、歩行能力低下期のサブグループ185人における6分歩行距離が72週間の治療後に81メートル低下、偽薬群の90メートル低下より小さかったが有意ではなかった。全集団の解析でも53メートル低下と67メートル低下で名目上のp値は0.025だった。
米国は初めから承認しなかった。
リンク: EMAのプレスリリース
GSKの抗BCMA抗体薬物複合体BlenRep(belantamab mafodotin)は20年に難治再発多発骨髄腫のサルベージ・セラピーとして条件付き承認されたが、薬効確認試験であるDREAMM-3三次治療実薬対照試験がフェールした。米国でも20年に加速承認されたが、既に承認返上手続きに着手した。
リンク: EMAのリリース
以下の承認申請が撤回されたことも発表された。
Gedeon RichterのVivjoa(oteseconazole)は難治外陰膣カンジダ症治療薬として承認申請されたが、CHMPは、生産工程におけるazoxy不純物の管理や便益のエビデンス、治療を受けた女性が生殖補助医療を受けないよう注意喚起する手法などに疑問を呈していた。米国ではライセンス元のMycovia Phharmaceuticalsが22年に承認を取得していたので、意外な結果だ。
リンク: EMAのプレスリリース
SK ChemicalsのSKYCovioneはCOVID-19ワクチンとして韓国や英国で承認された実績があるが、CHMPは、条件付き承認適格性が欠如していることや、品質や免疫原性試験の内容に疑問を呈していた。
リンク: EMAのプレスリリース
Incyte(Nasdaq:INCY)のIclusig(ponatinib)はフィラデルフィア染色体陽性の急性骨髄性白血病の一次治療に拡大を図ったが、CHMPは対照試験が実施されていないことなどに疑問を示していた。
リンク: EMAのプレスリリース
【承認】
骨髄線維症の貧血症状も緩和するJAK阻害剤が承認
(2023年9月15日発表)
GSKはFDAがOjjaara(momelotinib)を成人の中程度/高リスク骨髄線維症の貧血症治療薬として承認したと発表した。主エビデンスとなるMOMENTUM試験は他のJAK阻害剤による治療歴を持つ患者を組入れたが、適応は二次治療に限定されていない。骨髄線維症はしばしば貧血症を伴い、既存のJAK阻害剤は貧血症を誘発・増悪するリスクがあるが、OjjaaraはJAK1とJAK2に加えて、鉄のアベイラビリティを抑制する機能のあるACVR1(activin receptor type 1)も阻害するため、貧血症状が改善する。脾臓量や骨髄線維症の症状も改善するが、標準薬であるruxolitinibと比べると特に症状改善奏効率が見劣りするため、主用途は貧血合併患者になりそうだ。
Cytopiaを買収して権利を取得したYM BioSciencesをギリアド・サイエンシズが13年に5億ドルで買収し第3相ruxolitinib対照試験を実施したが、フェール。権利取得したSierra OncologyをGSKが22年に19億ドルで買収した。
リンク: 同社のプレスリリース
幹細胞動員補助剤が承認
(2023年9月11日発表)
イスラエルに本社を持つ新興企業、BioLineRx(Nasdaq:BLRX、TASE:BLRX)は、FDAがAphexda(motixafortide)を自家造血幹細胞移植の補助剤として承認したと発表した。CXCR4キモカイン受容体阻害剤で、アフェレーシス(多発骨髄腫患者の血液からCD34陽性細胞を取得・培養する)の前処理として、標準療法であるG-CSFを投与した後に1.25mg/kgを皮下注射し、10~14時間経ってからアフェレーシスに進む。動員が不十分であった場合はもう一回、反復することができる。
第3相GENESIS試験では奏効率(一回投与後の動員が600万セル/kg以上、かつ施行2回以下)が67.5%とG-CSF・偽薬併用群の9.5%を大きく上回った(この数値は第3相結果発表時の数値と異なっている)。アフェレーシス一回で目標達成した患者の比率も63%と2%で大きな差があった。有害事象は注射箇所反応や掻痒、潮紅/紅潮など。深刻有害事象の発生率は5.4%だった(対照群の数値はレーベルにも記されていない)。
体重70kgの場合、投与量は87.5kgとなるが、一回に投与できる最大量は62mgなので、残りは別の場所にもう一回注射する必要がある。
12年にBiokine Therapeuticsからライセンスしたもの。
リンク: 同社のプレスリリース
XBB.1.5系統対応COVID-19ワクチンが米国でも承認
(2023年9月11日発表)
FDAはファイザー/BioNTechとモデルナのXBB.1.5系統一価COVID-19ワクチンを承認した。米国は正式な承認とEUA(非常時使用認可)を使い分けており、今回の場合、12歳以上は正式承認だが6ヶ月から11歳はEUAのまま。追加免疫だけでなく初回免疫にも使うことがでる。従来の二価ワクチンの承認は取り消された。
CDC(米国疾病予防管理センター)もACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、6ヶ月児以上に接種勧奨することに14人中13人が賛成し、可決した。反対者の理由は、小児に関する治験データの欠如。他の委員は、過去の試験の成績を外挿できると判定した。尚、ACIPはNovavaxが12歳以上向けに承認申請した製品についても検討しており、承認され次第追加するだろう。
CDCの推定によると、8月20日~9月2日の期間においてはEG.5型(Eris)がシェア21%でトップ、以下、FL.1.5.1(Fornax)が14%となっており、XBB.1.5から代替わりしている。スパイク蛋白の変異が極めて多いBA.2.86(Pirola)も一部の国で散見されるようになったが、何れもオミクロンBA.2型の派生であることに変わりはなく、今回のワクチンは中和抗体試験である程度の力価を示している。
COVID-19ワクチンの効果はウイルスのドリフトもあり経時的に減衰していく。感染予防効果が低下しても入院予防効果は半年経っても高水準を維持することが疫学研究で示されているが、XBB.1.5感染による入院を防ぐ効果に関しては、従来の二価ワクチンを接種してから半年経つと大きく低下することも明らかになっており、追加免疫の重要性が浮き彫りになっている。
非常事態宣言が取り下げられワクチンや医薬品の政府一括調達・無償接種もフェードアウトしてきている。COVID-19ワクチンは各社120~130ドル程度で販売する計画だが、民間保険やメディケア/メディケイド、各種患者支援制度がカバーするため患者負担はゼロとなるようだ。流石、予防医療先進国だ。
リンク: FDAのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
23年9月 | UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬) |
23年第4四半期 | ファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用) |
23年第4四半期 | アストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌) |
23年第4四半期 | イーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病) |
23年第4四半期推 | イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬) |
23年10月 | ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン) |
23年10月推 | ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎) |
23年10月推 | ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症) |
23/10/8 | Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症) |
23/10/13 | BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント一変) |
23/10/16 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変) |
23/10/17 | ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症) |
23/10/22 | Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼) |
23/10/22 | Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変) |
23/10/26 | Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー) |
諮問委員会:
23/9/21 | EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント |
23/9/27 | CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS) |
23/10/4 | ODAC:US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫) |
23/10/5 | ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替) |
今週は以上です。
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