2023年7月30日

第1113回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • CDCがRSVワクチンの勧奨内容を正式発表 
  • CDCがAlpha-gal症候群の流行に注意喚起 
  • 21価肺炎球菌ワクチンの第3相が好結果に 
  • RSVワクチンの第3相がフェール 
  • 抗CD47抗体の第3相がフェール 
  • 武田、ex20挿入変異NSCLCの一次治療試験がフェール 
  • イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤を体重管理薬として承認申請 
  • レミトロの米国承認はお預けに 
  • 脊髄小脳失調症用薬の承認申請が受理されず 
  • Demodex眼瞼炎用薬が承認 
  • 伝染性軟属腫治療薬が承認 


【今週の話題】


CDCがRSVワクチンの勧奨内容を正式発表
(2023年7月21日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は5月に承認された60歳以上向けRSVワクチン二品に関する接種勧奨をMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)に掲載した。ACIP(ワクチン接種諮問委員会)における討議後にプレス・リリースが出ているが、今回が正式な決定版だ。

GSKのArexvyもファイザーのAbrysvoも第3相試験でRSVによる下部気道感染症を6~8割抑制したが、罹患率は偽薬群でも1000人当り3~4人とそれほど高くない。翌シーズンもある程度効果がありそうなことを考慮しても便益(Number needed to treat)は1000人当り4~7人くらいだろう。一方、危険は、ADEM(急性播種性脳脊髄炎)やギラン・バレー症候群がごく稀に発生した。便益と危険を天秤にかけ、CDCは、市販後安全性確認試験でADEMやギラン・バレー症候群などの炎症性神経学的イベントのリスクが小さいことが確認されるまではshared decision-making、即ち、個々人が医師と相談して便益と危険を検討した上で決定するよう勧奨した。感染時のリスクが高いためワクチンの便益が大きい人口としては、COPDや喘息症、鬱血性心不全、冠動脈疾患、脳血管疾患、慢性腎疾患などの持病を持つ人や75歳以上を例示した。

報道によると、GSKは270~295ドル程度の価格を想定している模様。以前の倍に上昇しているが、販売数量の想定が変わったのかもしれない。

インフルエンザ・ワクチンやCOVID-19ワクチンの勧奨対象とオーバーラップしているが、三剤を同時期に接種する安全性は確立したとは言えない。臨床試験の話は聞かないので、FDAやCDCは市販後疫学試験で足りると考えているのだろう。

リンク: CDCのRSVワクチン勧奨(MMWR)


CDCがAlpha-gal症候群の流行に注意喚起
(2023年7月28日発表)

CDCはAlpha-gal症候群に関する二件の調査分析論文をMMWRに掲載した。感染が増加しているが実際はもっと多い可能性があるとして医療従事者に注意を促した。2010年から2022年の間に11万件以上の疑い例が特定されたが、トリガーとなる赤身肉や乳製品の摂取から発症まで2~6時間かかることや、アレルギー専門医の地域的偏在や医療従事者の知識不足などから、実際は45万件と推定された。地域的には、東部のコネチカット州やペンシルバニア州、同ノース・キャロライナ州、中部のカンサス州、同オクラホマ州の4州を結ぶ長方形内や、ニュー・ヨーク州ニュー・ヨーク、ミネソタ州やウィスコンシン州の一部、などで疑い例が多い。但し、アレルギー医不在地域もあるため確実なことは言えないようだ。

Alpha-galは、マダニの唾液に含まれるAlpha-gal(galactose-α-1,3-galactose)が咬まれた時に移行しIgE免疫を誘導することが発端。牛肉や豚肉、乳製品、ゼラチン含有食品、抗EGFRキメラ抗体cetuximabなどはAlpha-galを含んでいるため、摂取/投与後にアナフィラキシーなどの過敏反応が起きる。日本ではゼラチン含有三種混合ワクチンを接種した人の一部で類似した症状が散見され、ワクチンの改良が行われたことがある。

リンク: Thompsonらの地域別年代別分析(MMWR)
リンク: Carpenterらの医療従事者知識調査(MMWR)

【新薬開発】


21価肺炎球菌ワクチンの第3相が好結果に
(2023年7月27日発表)

MSDはV116ワクチンの第3相試験二本が良好な結果になったことを明らかにした。肺炎球菌ワクチン未接種の2600人を組入れて30日後のOPA(オプソニン食作用活性)をファイザーのPrevnar 20と比較したSTRIDE-3試験では、V116だけ対応している株はもちろんのこと、どちらも配合している株に関しても幾何平均力価が有意に上回った。最後に接種してから1年以上経った50歳以上の716人をV116群、MSDのVaxneuvance(PCV15)群、同Pneumovax(PPSV23)群に割付けて安全性やOPAを検討したSTRIDE-6試験でも対応21株全てについて免疫原性を示した。

肺炎球菌ワクチンではMSDとファイザーが開発競争を繰り広げている。V116は21種類の株の抗原を配合しており、65歳以上の侵襲性肺炎球菌疾患の3割を占める8種類の株(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)に関しては初のワクチンだ。

リンク: 同社のプレスリリース


RSVワクチンの第3相がフェール
(2023年7月22日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)はRSV AとRSV Bの5種類の抗原を含有するワクチン、MVA-BNの第3相試験が思わしくない結果になり、開発中止を決めた。米独の施設で60歳以上の2万人超を組入れて、2症状以上または3症状以上を伴うRSV関連下部気道感染症を抑制する効果を検討したところ、2症状以上は偽薬比59%少なく有意な差があったが、3症状以上は42.9%に留まりフェールした。先行するファイザーのワクチンのワクチン効率は各66%と85%となっており、厳密な比較はできないのかもしれないが、少なくとも見劣りはする。今から申請しても今秋には間に合わず、一年遅れで勝負を挑むには力弱いと判断したのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


抗CD47抗体の第3相がフェール
(2023年7月21日発表)

ギリアド・サイエンシズはGS-4721(magrolimab)の第3相試験のうちENHANCE試験を無益中止すると発表した。血液癌の一部などが高発現し、マクロファージのSIRPアルファ受容体に結合して免疫回避を齎すCD47に結合する抗体医薬で、高リスク骨髄異形成症候群の一次治療に際してazacitidineに追加することによる完全寛解率や全生存期間の向上を狙ったが、中間解析で続行しても成功する可能性は低いと判定された。

第3相はこのほかに、TP53変異型急性骨髄性白血病や強化治療不適急性骨髄性白血病一次治療における併用試験が進行中。

20年にForty Seven社を49億ドルで買収して入手したもの。日本や周辺の権利は小野薬品が19年にライセンスした。

10年以上前に、ENHANCEという試験名は縁起が悪くフェールが多いと書いたことがあるが、実例が増えた。

リンク: 同社のプレスリリース


武田、ex20挿入変異NSCLCの一次治療試験がフェール
(2023年7月27日発表)

武田薬品は、2023年度第1四半期決算のプレゼンテーションに際して、Exkivity(mobocertinib)の第3相Exclaim-2試験が無益中止となることを公表した。EGFRにエクソン20挿入変異(既存のEGFR阻害剤に抵抗性を示す)を持つ転移非小細胞性肺癌の318人を組入れてPFS(無進行生存期間)を白金薬レジメンと比較したが、中間解析で続行しても無益と認定された。

Exkivityは第1/2相試験のORR(客観的反応率)データに基づいて21年9月に米国で加速承認された。FDAは24年3月までに無作為化割付け試験でPFS延長効果を確認するよう求めているが、今回のフェールで履行が困難になった。FDAは、近年、このような事例に厳しいスタンスを取る傾向があり、もしかしたら、諮問委員会の意見を確かめた上で、加速承認取消しに動くかもしれない。

17年にAriad Pharmaceuticalsを54億ドルで買収して入手したコンパウンドの一つ。

リンク: 武田薬品の2023年第1四半期決算プレゼンテーション資料(和文、pdf)

【承認申請】


イーライリリー、GIP/GLP-1作用剤を体重管理薬として承認申請
(2023年7月27日発表)

イーライリリーは、二型糖尿病薬Mounjaroの活性成分でGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体を作動するtirzepatideを米国で体重管理薬として承認申請したことを明らかにした。年内に結果が判明する見込みとのことなので、6月より前に申請していたのだろう。

第3相試験のうち、食事運動療法で成果を上げた(5%以上減量した)肥満/太り過ぎ患者(二型糖尿病併発は対象外)を組入れたSURMOUNT-3試験では、試験薬群は更に21%低下したが、偽薬群は3%増加した。更なる5%減量の奏効率は各群94%と11%だった。以上はefficacy estimandで、途中で投与を止めた症例は最終観察値などを参照した。投与中止後のデータも参照するtreatment-regimen estimandでは前者は18%と3%、後者は88%と17%だった。

一方、肥満/太り過ぎの患者(二型糖尿病併発は対象外)を組入れて全員にtirzepatideを36週間投与した後に試験薬と偽薬に無作為化割付けした離脱試験、SURMOUNT-4試験では、その後52週間に試験薬群は体重が更に7%低下したが、偽薬スイッチ群は15%増加した(efficacy estimand)。36週間の投与で体重が107kgから推定79kg位に低下したのに同91kg位に戻った勘定になり、他の減量法と同様に、リバウンド現象が見られる。treatment-regimen estimandでは各群6%低下と14%増加。

イーライリリーはこれらのデータを10月の各種学会で発表する予定。尚、下記プレスリリースは、試験結果を発表するついでに承認申請済みであることを明らかにする体裁になっている。

ところで、誰かefficacy estimand/trial product estimandやtreatment-regimen estimand/treatment policy estimandの名称を統一したり、和名を付けてくれないだろうか。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


レミトロの米国承認はお預けに
(2023年7月29日発表)

米国ニュー・ジャージー州の新興薬品会社Citius Pharmaceuticals(Nasdaq:CTXR)はLymphir(denileukin diftitox)を米国で再発/難治皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の二次治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。製品の検査や管理など、CMC(化学、製造、管理)面の指摘事項があった模様で、薬効や安全性に関するコメントはなかった由。

IL-2受容体の3サブユニットに結合する蛋白とジフテリア毒素フラグメントを細胞融合したもの。日本でエーザイが開発要請に基づき再発/難治のCTCLと末梢性T細胞リンパ腫用薬として申請し、21年3月にレミトロ名で承認された。米国で99年にSerageneが承認取得したOntakの純度を向上したもの。ニッチ薬だけにOntakの欧米における開発・販売企業はイーライリリー→Seragene→Ligand Pharmaceuticals→エーザイ→Dr. Reddy's→Citiusと変遷している。

リンク: Citiusのプレスリリース


脊髄小脳失調症用薬の承認申請が受理されず
(2023年7月27日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)を脊髄小脳失調症用薬として米国で承認申請したが受理されなかった。第2/3相試験がフェールしており、受理されなかったことより、申請していたことを知って驚かされた。

筋萎縮性側索硬化症用薬として承認されているriluzoleのプロドラックで、血液中のアミノペプチダーゼにより変換される。これまでにアルツハイマー病、全般不安障害、強迫性神経障害でも第2/3相や第3相試験が実施されたがいずれもフェールした。

脊髄小脳失調症でも運動失調評価尺度の変化が偽薬群と大差なかったが、被験者の4割を占めるSCA3変異型の患者では名目pが0.053とあと一歩の成績だった。FDAは後顧的サブグループ分析に懐疑的で、当該サブグループを対象とする追加試験を求めることが多いが、難病や希少疾患の薬に関しては承認審査部門のヘッドが審査担当者の肩を強力にプッシュするケースが増えており、Biohavenもワンチャンあると思ったのだろう。

BiohavenはCGRP受容体拮抗剤rimegepantやzavegepantの実用化で有名だが、これらの片頭痛薬の権利をファイザーに譲渡してしまったため、今日ではtroriluzoleが主要開発品の一つになっている、

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


Demodex眼瞼炎用薬が承認
(2023年7月25日発表)

米国カリフォルニア州のTarsus Pharmaceuticals(Nasdaq:TARS)はFDAがXdemvy(lotilaner)をDemodexダニによる眼瞼炎の治療薬として承認したと発表した。動物治療大手のElancoからライセンスした寄生虫用動物薬の点眼用新医薬品で、一日二回、6週間治療した第3相試験で病変完治率が56%と偽薬群の13%を上回った。コラレット(まつ毛の付け根にできるダニの塊)治癒率は各89%と33%、ダニ駆除率は52%と14%だった。

Demodex眼瞼炎は眼瞼炎の主な原因の一つで、米国では年2500万人が罹患と推定されているが、治療薬が承認されたのは初。価格は6週間分が1850ドルとなる予定。

リンク: 同社のプレスリリース


伝染性軟属腫治療薬が承認
(2023年7月21日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)はFDAがYcanth(cantharidin)を承認したと発表した。ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルスに接触後に丘疹などを発症する、伝染性軟属腫の初の治療薬。2歳以上が適応。病変部位に塗布し、24時間後に石鹸水で除去する。必要に応じて3週毎に反復する。有害事象は小胞や結節などの局所性皮膚反応。乾燥しても可燃性を維持するので要注意。

カンタリジンはある種の昆虫が持つ成分で皮膚に水疱を起こすのを逆用していぼなどの治療に用いられてきた。日本でも承認されていたことがある模様で、Verricaは鳥居薬品に独占開発販売権を供与している。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:

  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年8月推 JNJのTalvey(talquetamab、多発骨髄腫4次治療)
  • 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/2   MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
  • 23/8/5   Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
  • 23/8/9   Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/13  大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  NeurocrineのIngrezza(valbenazine、ハンチントン舞踏病に適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末   ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)



今週は以上です。

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