【ニュース・ヘッドライン】
- キイトルーダの子宮頸癌CRT併用試験
- T119M模倣体の第3相ATTR-CM試験がとうとう成功
- アルジェニクス、ヴィフガートのCIDP試験が成功
- 二重特異性抗体の肺癌一次治療試験が成功
- 新規抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤の併用を肝細胞腫に承認申請
- NASH用薬を承認申請
- ビンゼレックスを欧州で適応拡大申請
- イーライリリーも第3相データで抗アミロイド・ベータ抗体の承認を求めた
- CHMP、胎児用RSVワクチンなどに肯定的意見
- 免疫原性を強化した炭疽ワクチンが承認
- ヴァンフリタが米国でも承認
- 全0歳児が使えるRSV予防薬が米国でも承認
- 地図状萎縮用薬で眼内炎症懸念が浮上
【新薬開発】
キイトルーダの子宮頸癌CRT併用試験
(2023年7月19日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab)の子宮頸癌同時放射線化学療法(CRT)試験で主目的の一つを達成したと発表した。根治手術や放射線療法が不適でPD-L1陽性(CPS≧1)の患者向けに米欧日などで承認されているが、当試験で全生存期間の延長が確認されるようなら、早期段階でも使用されるようになりそうだ。
このKEYNOTE-A18試験は欧米の共同治験グループが局所進行性子宮頸癌の新患で高リスク(ステージ3~4Aまたはリンパ節転移のあるステージ1B2~2B)の1060人を組入れて、同時CRT(外照射、並行してcisplatin、その後小線源治療)にKeytrudaを追加する便益を偽薬追加と比較した。事前に計画された中間解析でPFS(無進行生存期間)の統計的に有意かつ臨床的に意味のある改善が見られた。データは未発表。もう一つの主評価項目である全生存期間は未成熟でトレンドに留まっており、追跡続行している。
難治再発転移治療における効果を検討した試験はPD-L1陰性患者も組み入れたが、単剤投与試験だけでなく化学療法併用試験でも上乗せ効果が限定的であったため、CPS≧1しか承認されなかった。今回の試験はどうだったのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
T119M模倣体の第3相ATTR-CM試験がとうとう成功
(2023年7月17日発表)
BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)はBBP-265(acoramidis)の第3相ATTR心筋症試験で共同主評価項目の一つを達成したと発表した。年内に承認申請する考え。
ATTR心筋症(別名、心アミロイドーシス)はトランスサイレチンの遺伝子変異などによりアミロイドが蓄積、心不全や不整脈を合併する深刻な疾患。ファイザーのVyndaqel(tafamidis)が第3相ATTR-ACT試験で全死亡や心血管疾患による入院を夫々3割程度抑制することに成功し、米日欧で承認されている。神経症を合併するトランスサイレチン調停ポリニューロパチーには同薬以外にも多くの新薬が承認されている。
トランスサイレチン遺伝子に有害変異を持つにも関わらず発症しない患者から発見されたT119M置換体を模倣したのがacoramidis。トランスサイレチンの四量体構造を安定化させる。スタンフォード大学から権利を取得買収した。日本はアレクシオン・ファーマが導入。
今回のATTRibute-CM試験はNYHAクラスIとIIの患者632人を800mgを一日二回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けして転帰を比較した。パートAでは12ヶ月後の6分歩行テストを主評価項目としたが21年にフェールした。tafamidisの試験では偽薬群は60メートル悪化したが、当試験では7メートルしか悪化せず、試験薬群の9メートル悪化と大差なかった。承認されている薬があるのに偽薬に割付けられる可能性のある試験は軽症の患者中心になりやすいが、この現象が起きたのかもしれない。
今回成功したパートBの主評価項目は30ヶ月追跡して全死亡、心血管関連入院、NT-proBNPの変化、6分歩行距離の複合評価を行った。通常は何れかが発生するまでの期間を比較するが、当試験は各群1例ずつをランダムに選択して優先順位に即して勝ち負けを決めるWin Ratio分析を採用した。例えば、投与開始の半年後に心筋梗塞を発症した各群一症例のうち偽薬群は即死、試験薬群はその半年後に死亡したようなケースでは、time-to-event法では優劣無しと評価されるが、Win Ratio法では最優先となる全死亡時期に半年の違いがあるため試験薬の勝ちとなる。複合評価の弱点をある程度補えるのが長所だ。
結果はWin Ratioが1.8、p<0.0001と高度に有意な差があった。構成項目のうち全死亡だけの副次的評価はp=0.057と有意ではなかったが、心血管入院が50%少なかったことなどが寄与した模様だ。
Win Ratio分析は未だ一般的ではないので、このような分析が承認審査機関に受け入れられるかどうか、また、他に落とし穴がないか(例えば、心血管入院における主観バイアス)、良く分からない。
tafamidisの第3相では偽薬群の全死亡率が42.9%、試験薬群は29.5%と、多くの患者が亡くなった。深刻な疾患であることを考えれば全死亡に有意差が出なかったことは、少なくとも商業的には、減点材料だろう。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ATTRibute-CMの治験登録(ClinicalTrials.gov)
アルジェニクス、ヴィフガートのCIDP試験が成功
(2023年7月17日発表)
アルジェにニクス(Euronext & Nasdaq:ARGX) はVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa-fcab、hyaluronidase-qvfc)の第2相CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経障害)試験が成功したと発表した。抗AChR抗体陽性の全身性重症筋無力症治療薬として米日欧で承認されている点滴静注用抗胎児性Fc受容体抗体フラグメントの皮下注用新製剤で、6月に米国で承認されたばかりだが、当局と適応拡大申請を相談する考え。
CIDPは希少末梢神経障害で疲労や手足の脱力・感覚喪失などを発症する。免疫グロブリンGに対する自己抗体の関与が疑われている。Vyvgartは細胞内で免疫グロブリンGがスクラップされるのを妨げる胎児性Fc受容体をブロックする抗体医薬。第2相ではステージAとして全員に投与したところ、322人中214人、67%で症状改善が見られた。ステージBでは応答した患者221人を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして増悪リスクを比較したところ、ハザードレシオ0.39となり、維持療法の有効性が示された。偽薬群は最初の24週間に54%で増悪が見られたが試験薬群は26%に留まった。有害事象はステージAで注射箇所反応が20%の患者で発生した。
リンク: 同社のプレスリリース
二重特異性抗体の肺癌一次治療試験が成功
(2023年7月17日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceutical Companiesは、Rybrevant(amivantamab-vmjw)が第3相PAPILLON試験でPFS(無進行生存期間)延長効果を示したと発表した。数値は未発表。
EGFRとMETの二重特異性抗体で、転移非小細胞性肺癌の2~3%を占めるEGFR遺伝子にエクソン20活性化挿入変異を持つ患者の二次治療薬として21年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されている。今回の試験はこのような癌の一次治療においてcarboplatinとpemetrexedの標準療法に追加する便益をオープンレーベルで検討したもので、加速承認時の市販後コミットメントでもある。
リンク: JNJのプレスリリース
【承認申請】
新規抗PD-1抗体とVEGFR阻害剤の併用を肝細胞腫に承認申請
(2023年7月17日発表)
米国ニュー・ジャージー州の新興医薬品開発企業であるElevar Therapeuticsは、camrelizumabとrivoceranibを切除不能肝細胞腫に併用する新薬承認申請を行いFDAに受理されたと発表した。審査期限は24年5月16日。
camrelizumabは抗PD-1抗体、rivoceranib(中国における一般名はapatinib)はVEGFR-2阻害剤で、Jiangsu Hengrui Medicine(江蘇恒瑞医薬)が中国で複数の癌向けに販売している。Elevarは18年に進行肝細胞腫向けに共同開発提携を結んだ。米国、中国、欧州、アジア、ロシア、ウクライナなど13ヶ国の95施設で543人を組み入れたオープンレーベル試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立評価)がメジアン5.6ヶ月とsorafenib群の3.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.52だった。全生存の解析も22.1ヶ月対15.2ヶ月、ハザードレシオ0.62だった。この試験に基づき中国では今年2月に承認されている。
類薬ではロシュのTecentriq(atezolizumab)とAvastin(bevacizumab)の併用が20年に米日欧で承認されている。中華抗PD-1抗体は米国で価格破壊が期待されるが、その前に、グローバル第3相試験がきちんと実施されたことをFDAに立証する必要がある。COVID-19が日常となり、中国施設の査察が可能になったことはポジティブだ。
リンク: 同社のプレスリリース
NASH用薬を承認申請
(2023年7月17日発表)
米国ペンシルバニア州の新興医薬品開発企業であるMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)はMGL-3196(resmetirom)の米国におけるローリング承認申請を完了したと発表した。肝線維症を伴うが未だ肝硬変を合併する前のNASH(非アルコール性脂肪性肝疾患)用薬として加速承認を求めている。
NASHで活性の低下が見られる甲状腺ホルモン受容体βの作動薬で、08年にロシュからライセンスした。第3相MAESTRO-NASH試験で966人を偽薬、80mg、または100mgを一日一回経口投与する三群に無作為化割付けして52週間投与し、肝細胞の腫大や炎症の改善、あるいは線維症の改善を生検評価したところ、NASH奏効率(NASHが改善且つ線維症悪化せず)が各群10%、26%、30%、共同主評価項目の線維症改善率(線維症が改善且つNASHは悪化せず)も14%、24%、26%となり、いずれも偽薬比有意に上回った。LDL-C値は偽薬群は1%増、試験薬群は各12%と16%低下した。主な有害事象は下痢や悪心。深刻有害事象発生率は各12.1%、11.8%、12.7%だった。
リンク: 同社のプレスリリース
ビンゼレックスを欧州で適応拡大申請
(2023年7月18日発表)
UCBは欧日で中重度乾癬などの治療薬として承認されている抗IL-17A/IL-17F抗体、Bimzelx(bimekizumab)について、欧州で中重度化膿性汗腺炎に適応拡大申請し受理されたと発表した。腋の下や鼠径部、臀部などに結節や瘻などができる疾患で罹患率は人口の1%と高い。二本の第3相では偽薬群、320mg4週毎投与群、同2週毎投与群の奏効率(HiSCR評価スコアが半減以上)が一本は各26.7%、45.3%、47.8%、もう一本は32.2%、53.8%、52.0%だった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
イーライリリーも第3相データで抗アミロイド・ベータ抗体の承認を求めた
(2023年7月17日発表)
イーライリリーはLY3002813(donanemab)の第3相試験成績をAAIC(アルツハイマー協会国際会議)やJournal of American Medical Associationで発表すると共に、第2四半期にデータをFDAに追加提出したことを明らかにした。年内に審査結果が判明する見込み。米国外でも年内に承認申請する予定。
アミロイド・ベータ(p3-42)を標的とする抗体医薬。エーザイ/バイオジェンのAduhelm(aducanumab-avwa)がアミロイド・ベータ除去作用に基づき21年に米国で加速承認されたことに勇気付けられて22年に申請したが、除去が確認されたら偽薬にスイッチする用法を採用したため長期(1年)投与実績が基準値である100例に達せず、今年1月に審査完了通知を受領した。今年5月、早期症候性アルツハイマー病の第3相TRAILBLAZER-ALZ2試験が成功、臨床的評価尺度の改善が確認されたため、今回、本承認を求めた。700mgを第0週、第4週、第12週に点滴静注した後は1400mgを4週毎投与と、先ごろ本承認されたLeqembi(lecanemab-irmb)の2週毎より負担が小さいことと、アルツハイマー病用薬には珍しく投与を完了する目安やエビデンスを持つこと、そして、少なくともカプラン・マイヤー曲線の上では、最初の半年間だけでなくその後も進行予防効果が上積みされるように見えることが特徴。効果の多寡を比較するのは難しい。安全性はARIA(アミロイド関連造影異常)の発生率がLeqembiより高そうに見える。Leqembiの週一回皮下注試験では静注よりCmaxが下がりARIA発生率が低かったとのこと。donanemabも一回投与量を減らして二週毎とか毎週投与すれば改善するのかもしれないが利便性と裏腹だ。
この第3相は軽度認知障害または軽度アルツハイマー病でアミロイド・ベータ蓄積が確認された患者を偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして76週後に評価した。当初はCDR-SBを主評価項目としたが、途中でiADRS(アルツハイマー病統合評価尺度)に変更し、階層化因子であるタウ量が低中程度の1182人における解析(アルファは0.04を配分)と全ユニバースの解析(同0.01)を行う変更があった。
iADRSは治療効果の感度を増幅するために伝統的な評価尺度であるADAS-cogとADCS-ADLをチェリーピックしたもの。前者は数値が大きいほど重く、後者は逆なので、ADAS-cog14の値を90から差し引いた数値を、後者の一部を抜粋して算出する数値と合算する。範囲は0~146。結果は、どちらのユニバースでも悪化が偽薬比有意に小さかった。効果はApoEのエプシロン型や年齢、MCI/軽度ADの別を問わず見られた。
Leqembiの試験と同じCDR-SBに着目すると、タウ低中量患者では、偽薬群が1.88低下したのに対して試験薬群は1.20低下した。ベースライン比を試算すると各群50%と30%悪化したことになる。全ユニバースでは各2.42と1.72低下し、悪化率は60%と40%。試験薬群は24週時点で3割程度がアミロイド除去により偽薬にスイッチしたがその後も群間差は拡大した。
当試験でもARIA-E(浮腫型)が24%の患者で発生し、特にApoEがエプシロン4ホモ接合型の患者では50%と高かった。Leqembiでもこの型の5割程度で発生したが対象症例数が少ないため誤差範囲が大きそうだ。全ユニバースにおける発生率はdonanemabのほうが高いが、高リスク患者の構成比の違いがある程度影響しているだろう。多くは症状を伴わないが深刻例もあり、当試験では3人が死亡した。このほかに点滴関連反応や中枢神経系脳表ヘモジデリン沈着症が偽薬群より多かった。
リンク: Simsらの治験論文(JAMA)
リンク: 同社のプレスリリース
CHMP、胎児用RSVワクチンなどに肯定的意見
(2023年7月21日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
ファイザーのAbrysvoはRSV下部気道感染症の予防用ワクチン。A型とB型のウイルスの融合前Fサブユニットを抗原としている。対象は60歳以上と、妊婦に接種して胎児を出生後半年間保護する斬新な手法も支持された。前者の臨床試験では2以上の症状を伴う症例を85%、3以上の症例は92%、抑制した。妊婦接種試験は重度下部気道感染症による受診を最初の90日間は82%、6ヶ月間でも69%抑制した。6ヶ月以降は偽薬と大差なかった。
米国では5月に高齢者向けに承認、胎児向けは5月に諮問委員会の支持も獲得し、審査期限は8月21日。約2万人に投与した高齢者試験では米国でギラン・バレー症候群、日本でミラー・フィッシャー症候群が各1例発生した。胎児用試験では早産発生率が数値上偽薬群を上回った。
GSKや塩野義などの合弁であるViiV HealthcareのApretude(cabotegravir)は塩野義製薬が創製した長期作用性インテグラーゼ阻害剤。体重35kg以上の青少年と成人のHIV/AIDS感染予防に用いる。ギリアド・サイエンシズの三剤合剤と比較した第3相では感染が一本では66%、もう一本では89%、少なかった。米国では21年12月に承認。主活性成分は20~21年に欧米でrilpivirine同梱製品がHIV/AIDS治療薬Cabenuvaとして承認されている。
Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のEnrylaze(crisantaspase)はErwinia chrysanthemi属由来のアスパラギナーゼ。急性リンパ芽球性白血病やリンパ芽球性リンパ腫の多剤併用レジメンの一つで、大腸菌由来のアスパラギナーゼ製剤に過敏反応を示す、または過敏反応症状は起きないが薬剤に応答しないサイレント・イナクティベーションの患者向けの代替品。米国では21年にRylaze(asparaginase erwinia chrysanthemi (recombinant)-rywn)として承認。12年に買収したEUSA Pharmaの開発品。
大塚製薬のInqovi(decitabine、cedazuridine)は急性骨髄性白血病の新患で標準的な寛解導入化学療法に適さない患者向けの経口DNAメチル化阻害剤。decitabineは点滴静注用薬として承認されているが、経口投与を可能にするために、代謝を阻害するシチジンデアミナーゼ阻害剤E7727と合剤にした。decitabineを開発したエーザイの子会社からライセンスしたもの。米国では20年に承認。
MSDのLyfnua(gefapixant)は成人の難治または説明不可能な慢性咳嗽の治療薬で臨床試験では24時間咳嗽頻度を16~18%抑制した。特徴的な有害事象は味覚障害。22年1月に日本で承認された後、欧米では追加分析を求められたが、欧州で支持されたので米国でも良い方向に向かうのではないか。ロシュがスピンアウトした会社を買収して入手したP2X3受容体アンタゴニスト。尚、MSDはGefzuris名でも申請していたが、この度、戦略上の理由で撤回した。
20年にイタリアのメラリーニが買収したStemline TherapeuticsのOrserdu(elacestrant)は非ステロイド系選択的エストロゲン受容体アルファ零落剤。閉経後女性または男性のESR1活性化変異のあるエストロゲン受容体陽性、her2陰性の局所進行性/転移性乳癌でCDK4/6阻害剤併用による一次以上の内分泌療法歴を持つ患者が適応になる。代表的なエストロゲン受容体零落剤であるfulvestrantと異なり血管脳関門を通過し、また、この種の薬に抵抗性を示しやすいESR1活性化変異型に有効であることが特徴。06年にRadius Healthがエーザイからライセンスして開発したが、戦略変更により、20年に腫瘍学事業全体をメラリーニに譲渡した。米国では今年1月に承認。
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-Cilag InternationalのTalvey(talquetamab)は多発骨髄腫で高発現するGPRC5DとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。免疫調整剤、プロテアソム阻害剤、および抗CD38抗体を含む3次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治かつ再発多発骨髄腫向けに条件付き承認することが第1/2相試験の反応率データに基づき支持された。米国でも承認審査中。ジェンマブ社のDUOBODY技術を用いて創製した。
アッヴィのTepkinly(epcoritamab、米国名はEpkinly)はB細胞のCD20とT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。成人の二次以上の全身性治療歴を持つ難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に条件付き承認することが支持された。ジェンマブとの共同研究を通じて創製、米国では5月に加速承認され、日本では昨年12月にジェンマブが申請した。
ノバルティスのTevimbra(tislelizumab)は百済神州(Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)からライセンスしたIgG4型抗PD-1抗体。白金薬ベース化学療法歴のある成人の切除不能/局所進行/転移食道扁平上皮腫に単剤投与する。中国や日米欧などの施設で実施した第3相試験でメジアン生存期間が8.6ヶ月と化学療法群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70だった。中国では百剤が多くの適応で販売しているがこの用途も昨年4月に承認。米国はノバルティスが承認申請し、FDAが中国施設の査察をやっと完了した模様なので順調なら年内に承認されるのではないか。
適応拡大では、まず、Albireoの局所作用性iBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤、Bylvay(odevixibat)。21年に欧米で進行性家族性肝内胆汁鬱滞(PFIC)治療薬として承認されたが、今回、生後6ヶ月以上のアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療薬として肯定的意見を獲得した。米国では6月に12歳以上の患者向けに承認。Albireoは08年にアストラゼネカからスピンアウト、今年1月にイプセンに買収されることで合意した。
MSDのKeytruda(pembrolizumab)はPD-1陽性(CPS≧1)のher2陽性局所進行切除不能/転移胃・胃食道接合部腺腫の一次治療にtrastuzumab、fluoropyrimidine、及び白金薬と併用することが支持された。米国では21年にKEYNOTE-811試験におけるORR(客観的反応率)データに基づきPD-1発現不問で加速承認されたが、その後のPFS(無進行生存期間)解析でCPS<1の患者には効果が見られなかったため、MSDは適応縮小を検討している。
BMSのOpdivo(nivolumab)は悪性黒色腫の完全切除後アジュバント療法における適応範囲をリンパ節転移のあるステージIIIだけでなくIIBやIICにも広げることが支持された。CheckMate-76K試験で12ヶ月無再発生存率が89%と偽薬群の79%を上回った。米国でも承認審査中。
イーライリリーのJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib)は1剤以上の伝統的/バイオ薬に十分応答しないまたは不耐の2歳以上の活性期小児特発性関節炎に用いることが支持された。単剤またはMTXに併用する。
一方、否定的意見となったのがMirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)のKrazati(adagrasib)。KRASにG12C置換のある進行非小細胞性肺癌の再発治療薬として反応率データに基づき条件付き承認を求めたが、条件付き承認の要件に該当しないと判定された。アムジェンの類薬、Lumykras(sotorasib)が22年1月に条件付き承認されており、充足されない医療上のニーズではなくなったとの判断かもしれない。米国は加速承認されている類薬があっても別の薬が加速承認される可能性があり、Lumakras(米国名)が21年に加速承認された後の22年12月にKrazatiも加速承認された。Miratiは再審請求する考え。
承認申請撤回となったのが、GSKのHIF-PH阻害剤Jesduvroq(daprodustat)。6月にCHMPから成人の慢性腎疾患患者の症候性貧血の治療薬として肯定的意見を獲得したが、対象が透析期だけで経口剤の強みが生きる保存期には認められなかったため、欧州委員会による承認の前に撤回した。米国でも2月に透析期限定で承認されており、保存期が認められたのはHIF-PH阻害剤の王国である日本だけだ。
MSDのCOVID-19用薬Lagevrio(molnupiravir)も6月に申請撤回となった。酸素投与不要な症候性感染で重症化リスクを持つ患者向けに米国や日本で非常時使用認可/特例承認されているが、CHMPは、入院・死亡リスクや罹患期間を削減する効果の挙証が不十分と判定、今年2月に認可しないよう勧告した。
適応拡大申請が撤回されたのがロシュの抗CD20低フコース化抗体Gazyvaro(obinutuzumab)。同社の二重特性抗体Columvi(glofitamab)でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を治療する際のサイトカイン放出症候群リスクを緩和するために7日前に投与する用法を申請したが、CHMPは、対照試験が実施されていないこと、至適用量の検討やB細胞抑制作用を持つ同時使用薬(ステロイドなど)や前治療の影響の評価が不十分であること、薬効評価方法などに疑問を呈した。
尚、この用法はColumviの米国のレーベルにはプリメディケーションの一つとして収載されている。
【承認】
免疫原性を強化した炭疽ワクチンが承認
(2023年7月20日発表)
Emergent BioSolutions(NYSE:EBS)はFDAがCyfendusを承認したと発表した。沈降炭疽菌ワクチンで、同社のBioThraxにCPG 7909アジュバントを添加して免疫原性を増強するとともに、6ヶ月間に3回ではなく2ヶ月間に2回筋注と簡便化した。18~65歳の炭疽菌曝露が疑われるまたは確定した人の曝露後予防として、抗菌剤治療と併用する。モルモットのリーサル・チャレンジ試験で生存率の向上が見られた。免疫原性臨床試験では免疫獲得奏効率が86%とBioThrax群の61%比非劣性だった。差の95%下限は20%なので、BioThraxが他社の競合品だったら優越性解析も実施して成功していたかもしれない。
同社は2019年に米国保健福祉省(HHS)にテロ対策の備蓄用として出荷を開始。BioThraxの販売も継続するようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
ヴァンフリタが米国でも承認
(2023年7月20日発表)
FDAは第一三共のVanflyta(quizartinib)をFLT3遺伝子に内縦列重複(ITD)変異を持つAML(急性骨髄性白血病)の一次治療薬として承認した。標準的なcytarabineベースの寛解導入・地固め療法と併用し、完了後は単剤で維持療法を施行する。FLT3-ITD変異はAMLの3割程度で見られる。
第3相QuANTUM-First試験でVanflyta追加群の全生存ハザードレシオが0.78だった。学会発表時は60歳以上のサブグループ分析が0.91で有意水準に達しなかったことが注目されたが、レーベルには記されていないので、FDAは明確な結論は出せないと判定したのだろう。CR(完全寛解)率は偽薬追加群と同じ55%だったがメジアン寛解持続期間が38.6ヶ月対12.4ヶ月で上回った。重大な不整脈であるQT延長や多形性心室頻拍、心停止が枠付き警告されている。3A阻害作用を持つ薬と同時使用すると曝露が増加するので減量する。
Ambit Biosciencesが開発、09年にアステラス製薬がライセンスしたが13年に戦略上の理由で解約権を行使、14年に第一三共が企業買収した。
リンク: FDAのプレスリリース
全0歳児が使えるRSV予防薬が米国でも承認
(2023年7月17日発表)
アストラゼネカと開発販売パートナーのサノフィは、FDAがBeyfortus(nirsevimab-alip)をRSV予防薬として承認したと発表した。前者のメディミューン子会社が開発したSynagis(palivizumab)の類薬だが、RSVのF蛋白の異なった部位に結合するため宿主細胞融合前でも結合でき、投与頻度が月一回ではなくひとシーズンに一回で足りること、そして、適応範囲がRSV感染時の重症化リスクが高い1歳未満の乳幼児だけでなく、すべての1歳未満と、重症化リスクが高い幼児は2年目のシーズンも使えることが違い(Synagisは低リスク乳幼児試験がフェールした)。
在胎35週以上で出生した健康な1歳未満を組入れた第3相MELODY試験では、RSVによる下部気道感染症による投与後150日間の受診率が1.2%と偽薬群の5%を75%下回った。29週から35週で出生した健康な乳幼児を組入れた試験では同じく2.6%対9.5%で70%下回った。第2シーズンにおける効果は薬物動態などに基づき認定された。
主な有害事象はラッシュや注射箇所反応、警告・事前注意事項は深刻な過敏反応。臨床的に顕著な出血性疾患を持つ患者には注意が必要。
全ての1歳未満に使うことができるが、感染時のリスクは人により異なり軽症で済む症例も多いので、実際に全員に使われるかどうかは明らかではない。CDC(疾病管理予防センター)は8月3日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集して勧奨範囲などについて意見を聞く予定。
欧州では昨年11月に承認、日本でも承認申請中。
リンク: FDAのプレスリリース
【医薬品の安全性】
地図状萎縮用薬で眼内炎症懸念が浮上
(2023年7月19日発表)
各種報道によると、ASRS(米国網膜専門医協会)は、21年に米国で加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として承認されたApellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)のC3補体阻害剤、Syfovre(pegcetacoplan)を投与した医師たちから眼内炎症の発症報告が寄せられていることを会員向けに通知した。閉塞性網膜血管炎も6例報告されているとのこと。硝子体注射なので眼内炎症は臨床試験でも一回投与当たり平均発生率が0.23%だったが網膜血管炎や網膜静脈閉塞は発生しなかった。
薬の問題なのか、注射の仕方によるものなのかは明らかではない。そもそも、臨床試験は選ばれた施設の選ばれた医療スタッフが厳選された患者に行うので、現実の医療では効果が低下し副作用は増加するのが常である。
ASRSは20年にノバルティスの新生血管加齢性黄斑変性用薬Beovu(brolucizumab)について網膜血管炎が14例発生し、うち11例は閉塞性網膜血管炎で視力喪失に進展したことを会員に通知したことがある。19年に米国で承認されたばかりだったが、競合品が多いこともあり、その後も売上高は伸び悩んでいる。
リンク: Ophthalmology Timesの報道
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年6~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
- 23/7/23 Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
- 23/7/28 Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)
- 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
- 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
- 23/8/2 MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
- 23/8/5 Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
- 23/8/9 Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
- 23/8/13 大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
- 23/8/16 イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
- 23/8/19 アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
- 23/8/20 Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
- 23/8/20 Neurocrine Biosciencesのvalbenazine(ハンチントン病適応拡大)
- 23/8/21 ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
- 23/8/25 Tarsus PharmaceuticalsのTP-03(lotilaner、ニキビダニ眼瞼炎)
- 23/8/28 BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
- 23/8末 ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)
諮問委員会:
- 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)
今週は以上です。
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