【ニュース・ヘッドライン】
- 価格破壊型ベンチャーが幕引きへ
- レットヴィモ、一次治療試験が成功
- アムジェン、抗DLL3 BiTE抗体の承認申請を検討
- TAAR1アゴニストの第3相がフェール
- ACIP、Beyfortusの接種勧奨を支持
- 米国版テムセルは今度も承認されず
- アステラスの地図状萎縮治療薬が承認
- 経口産後鬱治療薬が承認
- ロンサーフとベバシズマブの併用が承認
- GSKの抗PD-1抗体が悪性遺伝子変異を持つ内膜腫の一次治療薬に承認
【今週の話題】
価格破壊型ベンチャーが幕引きへ
(2023年8月1日発表)
米国の新興医薬品開発会社EQRx(Nasdaq:EQRX)は、Revolution Medicines(Nasdaq:RVMD)の買収オファーに同意した。株式交換方式で、比率はEQRxの臨時株主総会の前に最終決定するが、Revolutionの株価に大きな変動がなければ、およそ10億ドルに相当すると推測される。
EQRxは中国企業が開発したme-too-drugを米国で既存薬より安価に販売するユニークな戦略を打ち上げていた。創立者はFoundation Medicine(ロシュが買収)やBlueprint Medicenesなど多くのバイオベンチャーの創立者/共同創立者でもある著名なアントレプレナーのAlexis Borisy。ソフトバンクのベンチャー・キャピタルの出資先でもある(今年1月にグループ内の株式移転がSECに届出されている)。
翰森製薬集団が中国で2020年に承認取得したEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤や、基石薬業が21年に中国で承認取得した抗PD-L1抗体を欧州で承認申請した。しかし、米国では、FDAが中国で実施された臨床試験のデザインや結果に関する信憑性に疑問を表明したため、戦略が行き詰った。
Revolution Medicinesも氏が取締役を務める新興医薬品開発会社で、RASが駆動する癌の治療薬を複数、開発している。ベンチャー企業の資金調達が容易でなくなった今日でもキャッシュ・リッチで、今回の買収も新たなキャッシュと従業員の獲得が狙いでパイプラインの開発は中止する考えのようだ。
人的な繋がりを考えれば、華々しく立ち上げた価格破壊型ベンチャーの幕引きを図ったと受け止めても良いのではないか。
リンク: 両社のプレスリリース
【新薬開発】
レットヴィモ、一次治療試験が成功
(2023年8月4日発表)
イーライリリーはRetevmo(selpercatinib)の第3相LIBRETTO-431試験の独立データ監視委員会が中間解析で成功認定したと発表した。20~22年に米日欧で成人のRET融合陽性転移非小細胞性肺癌や治療歴のあるRET変異陽性甲状腺髄様腫、放射性ヨウ素不応不適なRET融合陽性甲状腺癌に用いることが承認されているが、今回、RET融合陽性進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療における便益が標準的治療を上回ることが示された。データは未発表。
米国や欧州は加速/条件付き承認なので別途、対照試験で延命またはそれに準じる効果を確認する必要がある。今回の試験は、標準的治療レジメンである白金薬ベース化学療法とpemetrexed、そして、医師の判断でKeytruda(pembrolizumab)も併用する群とPFS(無進行生存期間)を比較した。一次治療であることや、盲検試験ではないことを考えれば、全生存期間の解析も重要な情報になるだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
アムジェン、抗DLL3 BiTE抗体の承認申請を検討
(2023年8月3日発表)
アムジェンは23年第2四半期の決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。AMG 757(tarlatamab)と、Lumakras(sotorasib)の大腸癌適応に関して、FDAと相談する考え。データは未公表。
AMG 757は小細胞性肺癌(SLC)の8割以上で過剰発現するDLL3(デルタ様リガンド3)とT細胞受容体のCD3部位に結合する二重特異性抗体で、同社のBlincyto(blinatumomab)と同様に、ミューニッヒ大学発のBiTE(Bispecific T cell Engager)技術を用いている。再発・難治SLCの第1相試験で107人中23%がORR(客観的反応)、完全反応も2人となり、メジアン反応持続期間が12ヶ月と長いことが印象的。G3以上の有害事象発現率は高く、好中球減少症など血液学的有害事象に加えて、錯乱など神経学的イベントが見られたが、サイトカイン放出症候群はG3一例のみ、G4以上は見られなかった。G5は肺炎で1名死亡した。
第2相DeLLphi-301試験は2次以上の治療歴を持つSCLを組入れたところ、第1相を上回る持続的応答が見られたため、承認申請を狙う由。
DLL3標的薬はアッヴィの抗体医薬複合体、rovalpituzumab tesirineがDLL3高発現SLCの第3相に進んだが、二次治療も一次治療後維持療法もフェールした。第2相3次治療試験のORRは16%、反応持続期間は4ヶ月なので、AMG 757と一緒くたにはできなさそうだ。
LumakrasはKRAS G12C変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として21年に米国で加速承認、22年には日欧でも承認された。新用途はKRAS G12C変異のある転移結腸直腸癌の二次治療として同社の抗EGFR抗体Vectibix(panitumumab)と併用するもの。第3相CodeBreak 300試験で240mgも960mg群も医師選択化学療法群もPFSが有意に上回った。
リンク: 同社のプレスリリース
TAAR1アゴニストの第3相がフェール
(2023年7月31日発表)
住友ファーマと共同開発者である大塚製薬は、SEP-363856(ulotaront)の第3相統合失調症試験が二本ともフェールしたと発表した。精神疾患の臨床試験では偽薬効果が大きく出ることがあるが、この典型的な負けパターンに嵌った。
TAAR1(微量アミン関連受容体1)と5-HT1Aのアゴニストで、ドパミン/セレトニン受容体には作用しない、既存薬とは異なったレセプター・プロファイルを持つ。住友ファーマの米国子会社がAIディスカバリー技術を持つPsychoGenicsとの共同創薬を通じてライセンス、21年に大塚が他の開発品と共に共同開発販売権を取得した。
第二相では急性増悪期の入院患者245人を偽薬群と試験薬群(一日50~70mg可変用量)に無作為化割付けして4週後のPANSS総合スコアの改善を比較したところ、各群9.7と17.2とで有意な差があった。CGI-Sも有意に改善。有害事象による治験離脱は6%と8%で大差なかった。
ところが、急性増悪期の患者435人を組入れた第3相DIAMOND 1試験では、偽薬、50mg、75mgを一日一回、6週間投与後のPANSS総合スコアの改善が19.3、16.9、19.6と、大差なかった。DIAMOND 2試験でも偽薬、75mg、100mg群の改善が14.3、16.4、18.1と、大差なかった。
会社側はCOVID-19の影響を指摘している。二本の試験の流行前のデータだけ合算分析すると第2相と似たような結果が出ている模様。
第2相は偽薬効果が比較的出にくい入院試験だった。治験登録(ClinicalTrials.gov)に記載されている組み入れ条件には入院という要件がないが、外来試験だったのだろうか?
リンク: 両社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
ACIP、Beyfortusの接種勧奨を支持
(2023年8月3日発表)
CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は、アストラゼネカが開発し米国などではサノフィが販売するRSV関連疾患予防用抗体医薬、Beyfortus(nirsevimab-alip)の接種勧奨に全員一致で賛成した。対象は生後8ヶ月未満の乳幼児全てと2度目のRSV流行期を迎える重症化リスク因子を持つ8~19ヶ月児。後者は呼吸器や心臓の疾患などを持つ人に加えて、ネイティブ・アメリカンやアラスカ・ネイティブも対象になるようだ。
メディミューンがアストラゼネカに買収される前に開発したSynagis(palivizumab)とは異なった部位に結合する抗RSV F蛋白抗体。GSKやファイザーが開発したワクチンと同様にウイルスが宿主細胞に結合する前の構造を標的としている。Synagisの対象は1歳未満の呼吸器や心臓に疾患を持つ人や低体重出生児などだが、Beyfortusは限定されない。価格はSynagisの数分の1の400~500ドル程度になる見込みだが、全0歳児などが打つことを考えると、インフルエンザやCOVID-19のワクチンと比べて高いと感じる人もいるだろう。尤も、殆どの米国人が自己負担なしで打てるようになる見込みだが。
リンク: サノフィのプレスリリース
米国版テムセルは今度も承認されず
(2023年8月3日発表)
オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB)はヒト間葉系幹細胞ベースの細胞性医薬品、remestemcel-Lを小児のステロイド難治移植片対宿主病の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。20年に一回目の審査完了通知を受領した時に求められた対照試験を実施せずに再申請したので、まあ、やむを得ないだろう。同社は死亡リスクの高い成人患者に絞った対照試験を実施する方向でFDAと相談する考え。予備的調査で死亡リスク削減効果が見られた模様だが、今回実施する試験も含めて、小規模な試験では群間の偏りを排除し難いのではないかと危惧される。
小児を組入れた第3相で反応率69%と文献データの45%を有意に上回り、180日生存率でも69%と文献の30%を上回ったが、FDAは、対照試験ではないことや、ロット毎の力価のムラ、それを検証するためのアッセイの妥当性などに懸念を持ち、承認しなかった。
remestemcel-Lは15年に日本でステロイドに応答しなかった移植片対宿主病の治療薬として承認された。主として成人を組入れた単群試験で第1/2相では57%、第2/3相では48%が完全反応(すべての臓器障害が消失)した。後者では被験者の88%で重篤有害事象が発生、その過半が死亡し、タイミングなどから試験薬との関連性は否定できないと判定された症例もあったが、因果関係を断定する根拠も無かった。
リンク: Mesoblastのプレスリリース
【承認】
アステラスの地図状萎縮治療薬が承認
(2023年8月5日発表)
アステラス製薬はFDAがIzervay(avacincaptad pegol)を地図状萎縮の治療薬として承認したと発表した。地図状萎縮を合併する加齢性黄斑変性患者に2mgを月一回、硝子体注射して病変拡大状況を検討した第3相試験二本で、一本では平均成長率が1.221mmとシャム(注射の振りだけ)群の1.889を35%下回り、もう一本でも1.745mm対2.121mmで18%下回った(何れも平方根換算前の数値の比較)。主な有害事象は結膜出血や眼圧上昇、霞目など。
血液凝固因子C5がC5aとC5bに切断されるのを阻害するRNAアプタマー。7月に59億ドルで買収したIveric Bio社が07年にArchemixからライセンスした。
リンク: アステラスのプレスリリース(和文、pdfファイル)
経口産後鬱治療薬が承認
(2023年8月4日発表)
FDAはSage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)のZurzuvae(zuranolone)を産後鬱の治療薬として承認した。紛らわしいが、出産後4週間以内に発症した患者だけでなく、妊娠第3期の発症もpostpartum depressionと呼ぶようだ。
19年に産後鬱薬として承認された同社のZulresso(brexanolone)と同様なGABA-A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータだが静注点滴ではなく経口カプセルで、入院治療に限定されていない。50mgを一日一回、夕方に脂肪を含む食事と共に服用する。治療期間は14日間と短いが、臨床試験ではHAMD-17評価尺度の改善が第42日時点でも維持されていた。
運転試験の成績に基づき、服用後12時間は自動車や危険な機械の運転を避けるよう枠付き警告された。警告・注意事項は自殺思慮・行為、傾眠や混乱など、そして胚胎毒性。服用中と完了後も1週間は妊娠を避ける。
サプライズは、一般的な鬱病(MDD)の申請が承認されなかったこと。二週間治療して必要なら数週間経ってから再治療、という用法の妥当性やHAMD-17における治療効果が産後鬱では4点程度あったが鬱病試験では2点未満だったことなどがボトルネックかもしれない。第3相はフェールもあったが、二勝一敗の成績で承認された抗鬱剤は少なくない。。
日本と台湾、韓国の開発商業化権は塩野義製薬、それ以外の地域での開発販売権はバイオジェンが保有している。
リンク: FDAのプレスリリース
ロンサーフとベバシズマブの併用が承認
(2023年8月2日発表)
FDAは大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil)の併用法追加を承認した。15年の初承認はfluoropyrimidine、oxaliplatin、及びirinotecanを含む化学療法と、抗VEGF生物学的製剤、及び、RAS野生型の場合は、抗EGFR抗体による治療歴を持つ転移結腸直腸癌に単剤投与だったが、今回、このような患者にbevacizumabと併用することも認められた。EUでも少し異なる内容で承認されたところだ。
第3相SUNLIGHT試験に基づく承認。上記の薬を含む二次までの治療歴を持つ患者をLonsurfだけの群とbevacizumabも併用する群に無作為化割付けして全生存期間を比較したところ、メジアン値は各7.5ヶ月と10.8ヶ月、ハザードレシオは0.61だった。bevacizumabは一次治療化学療法に併用後に再発した患者でも二次治療に再併用することが可能と考えられているが、Lonsurfに関するエビデンスができた。
リンク: FDAのプレスリリース
GSKの抗PD-1抗体が悪性遺伝子変異を持つ内膜腫の一次治療薬に承認
(2023年7月31日発表)
FDAはGSKのJemperli(dostarlimab-gxly)を内膜腫のフロントライン治療向けに適応拡大した。原発性進行内膜腫の2~3割を占める、dMMR(ミスマッチ修復欠損)またはMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)遺伝子変異を持つ癌に、最初の6回は化学療法と併用で、その後は単剤を、点滴静注する。第3相RUBY試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン30ヶ月と化学療法・偽薬併用群の8ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.29だった。本試験はdMMR/MSI-H陰性患者も組み入れられており、ハザードレシオ0.76と良好な成績だったが、承認申請は欧米とも陽性患者限定だった。
腫瘍学再参入を決めたGSKが19年に買収したTesaroがAnaptysBioとの共同研究を経てライセンスした、IgG4型抗PD-1抗体。現在はdMMR/MSI-H型内膜腫の二次治療に単剤投与することが欧米で承認されている。
フロントライン内膜腫ではKeytruda(pembrolizumab)も同様な試験が成功、PFSのハザードレシオはdMMR型では0.30、陰性患者では0.54とまあまあ似たような結果になった。MSDも適応拡大申請中と推測されるが、陽性に限定されるかどうか、注目される。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)←23/2受理、PDUFA23年
- 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
- 23年8月推 JNJのTalvey(talquetamab、多発骨髄腫4次治療)
- 23年8~9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
- 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
- 23/8/9 Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
- 23/8/16 イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
- 23/8/19 アステラス製薬のZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
- 23/8/20 Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
- 23/8/20 NeurocrineのIngrezza(valbenazine、ハンチントン舞踏病に適応拡大)
- 23/8/21 ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
- 23/8/28 BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
- 23/8末 ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)
今週は以上です。
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