2023年7月8日

第1110回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • スペソリマブのGPP増悪予防試験が成功 
  • Dato-DXdの第3相が成功、株価は下落 
  • 抗CLDN18.2抗体を米国でも承認申請 
  • モデルナもRSVワクチンを承認申請 
  • ジェネンテック、RET阻害剤の一部適応を返上へ 
  • レカネマブが本承認 


【新薬開発】


スペソリマブのGPP増悪予防試験が成功
(2023年7月4日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは2月にSpevigo(spesolimab-sbzo)の後期第2相Effisayil 2試験の主目的達成を発表したが、委細をWCC(世界皮膚学会議)で公表した。膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)の患者約120人を組入れて3種類の用量の増悪予防効果を48週に亘り検討したところ、偽薬比84%抑制できたとのこと。また、最高用量群では4週経過した後は一度も増悪が観察されなかった。有害事象に群間の偏りはなかった。

GPPは全身に無菌性の膿疱が現れ疼痛や発熱、全身倦怠感を伴う。増悪を繰り返す。敗血症など深刻な合併症を招くこともある。多くの患者でIL-36受容体アンタゴニストをコードする遺伝子に変異が見られる。治療は様々な免疫抑制剤が使用されている模様だ。Spevigoは抗IL-36受容体抗体で、GPPの増悪時治療薬として22年に米日欧で承認された。適応拡大が承認されれば使用頻度が増加することになる。

リンク: 同社のプレスリリース


Dato-DXdの第3相が成功、株価は下落
(2023年7月3日発表)

第一三共とアストラゼネカはDS-1062(datopotamab deruxtecan、略称Dato-DXd)の第3相TROPION-Lung01試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間)に有意差が出たと発表した。白金薬レジメン、及び、適応になるなら抗PD-1/PD-L1抗体やEGFR阻害剤などの分子標的薬による治療歴を持つ進行/転移非小細胞性肺癌の患者約600人を試験薬とdocetaxelに無作為化割付けして効果を比較したもの。共同主評価項目である全生存期間は未だ中間解析段階で、良好ではあるものの中間解析に割当てられた閾値をまだクリアしておらず、継続追跡する。

第一三共と札幌医科大学の共同研究の成果である抗TROP2抗体とトポイソメラーゼI阻害剤のDXdをリンカーを通じて1対4の割合で結合した抗体医薬複合体。TROP2は乳癌や結腸癌、肺癌などで発現しており、類薬であるギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)はホルモン受容体陽性かつher2陰性、またはトリプル・ネガティブの転移性乳癌に承認されている。

過去四半世紀に抗癌剤が次々と実用化された一因は、臨床試験の組入れを増やして検出力を高めたことだ。研究者主導試験が主流だった頃はメジアン生存期間倍増のようなアグレッシブな仮説を立てて討ち死にすることが多かったが、大手製薬会社が開発に本腰を入れるようになってからは、2~3ヶ月延びれば目的達成というささやかな仮説が一般的になった。近年は更にオーバーパワーになり、中間解析で目的達成するのが当たり前のようになった。お金で時間を買う開発戦略である(抗癌剤の限界効用が小さくなる一方で薬価が急騰したのは、この戦略と、他社を買収してパイプラインを横取りするのに必要な買収価格のプレミアムや、共同開発販売する二社がどちらも十分なリターン・オブ・エクイティを確保しようとすることと無関係ではないだろう)。

本題に戻ると、統計的に有意でも臨床的にはそれほど有り難くないことが少なくないため、今回のように数値未公表の場合は正式発表まで油断できず、当方は無視することすらあるのだが、アストラゼネカは有難いことに、a statistically significant and clinically meaningful improvement(統計的に顕著で臨床的に意味のある改善)とプレスリリースに記載することが多い。ところが、今回は臨床的に意味のあるという文言がなかった。このため、治験が成功したのに両社の株価が下落するという残念な結果になった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


抗CLDN18.2抗体を米国でも承認申請
(2023年7月6日発表)

アステラス製薬はzolbetuximabを米国で承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は来年1月12日。Claudin 18.2に結合する抗体で、胃腺癌や食道胃接合部腺癌の4割弱を占めるClaudin 18.2高発現の、her2は陰性、切除不能局所進行または転移性癌の一次治療に、mFOLFOX6レジメン又はCAPOXレジメンと併用する。日本でも承認申請中。

BioNTechの創設者が設立したGanymed Pharmaceuticalsを16年に買収して入手した開発品。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdfファイル)


モデルナもRSVワクチンを承認申請
(2023年7月5日発表)

モデルナは、EU、スイス、そしてオーストラリアでmRNA-1345を承認申請した。米国はローリング申請に着手したところ。60歳以上のRSウイルスによる下部気道疾患や急性肺疾患を予防するワクチンで、22ヶ国の37000人を組み入れて一回接種の効果を検討したConquerRSV試験の中間解析で主目的を達成した。二つ以上の症状を伴うRSV下部気道疾患に関するワクチン効率は83.7%(95.88%信頼区間66.1-92.2)、三つ以上の症状は82.4%(96.36%信頼区間34.8-95.3)だった。G3以上の有害事象発生率は4.0%だった(偽薬群は2.8%)。

60歳以上向けRSVワクチンはGSKのArexvyとファイザーのAbrysvoが5月に米国で承認され、EUでは前者が承認、後者は審査中、日本は両者とも審査中となっている。モデルナ品が順調に承認されれば第3号となり、今回初めて、mRNAベースのワクチンが先行の利を得ずに全面的に抗原ベースのワクチンと競争することになる。その過程で両者のごく稀な副作用に関する知見も充実していくだろう。

リンク: モデルナのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ジェネンテック、RET阻害剤の一部適応を返上へ
(2023年6月29日発表)

ロシュはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)からRET阻害剤Gavreto(pralsetinib)の共同開発販売権を取得、子会社のジェネンテックが20年に米国でRET変異のある転移非小細胞性肺癌、進行/転移甲状腺髄様腫(MTC)、そして放射性ヨウ素不応甲状腺癌に加速承認された。しかし、このうちMTCについては返上するとジェネンテック及びBlueprintが発表した。反応率などのデータに基づき加速承認を得た会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる効果を確認する必要があり、同社はスペインで198人を組入れる一次治療実薬対照試験を実施する計画だったが、実行困難と判断したため。

GavretoはEUでもRET変異のある転移非小細胞性肺癌に承認されているが、MTCと甲状腺癌はエビデンス不足と判定され、申請撤回を余儀なくされた。一方、イーライリリーのRET阻害剤Retsevmo(selpercatinib)は、米欧日でRET変異型MTCの適応を取得しており、EUでは昨年、一次治療に用いることも可能になった。

ロシュとBlueprintの提携は解消が決まっており、戦線縮小による追加投資節減も今回の背景かもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認】


レカネマブが本承認
(2023年7月6日発表)

FDAはエーザイがバイオジェンと共同開発したLeqembi(lecanemab)を1月に加速承認したが、今回、本承認に切り替えた。第3相CLARITY AD試験でアルツハイマー病による軽度認知障害や軽度認知症の悪化を抑制する効果が確認されたため。薬剤費だけで年26500ドルと高額医療だが、高齢者医療制度であるメディケアが広くカバーする見込みなので、自己負担は多くても5300ドル程度で済む模様だ。このほかに診療報酬やMRI検査料などが上乗せされることになる。

上記試験は約1800人を偽薬または試験薬を二週毎1時間点滴静注する二群に無作為化割付けして18ヶ月後のCDR-SB臨床評価尺度を比較した。偽薬群は1.66点低下(推定変化率52%)したが試験薬群は1.21点低下(同38%)に留まり、統計的に有意な差があった。副次的評価項目もADAS-cog(各群の変化率は23%対17%)やADCS MCI-ADL(同、13%対8%)などで有意な差が見られた。

パッケージ・インサートに載っているCDR-SBの3ヶ月毎の推移を示すグラフを見ると、投与後12ヶ月間は群間差が拡大していくが、その後は大きな拡大も縮小もなく最初の貯金を守る格好だ。アミロイド・プラクの蓄積を除去する作用機序なので除去が完了したらあとは蓄積予防効果だけにパワーダウンしても不思議はなく、18ヶ月以上投与を続ける便益は明確ではない。エーザイらは除去が完了したら投与を止める臨床試験も実施しているので、数年後には答えが出るだろう。

今回、抗アミロイド抗体のARIA(アミロイド関連造影異常)リスクに関する枠付き警告が導入された。第3相におけるARIA-H(出血型)の発生率は各群8%と14%、ARIA-E(浮腫型)は2%と13%で、多くは症状を伴わないが、深刻例も見られた。ApoE4のエプシロン4多型ホモ接合型の患者は特に発生率が高いため、事前にApoE4検査を行う。エプシロン4多型はアルツハイマー病リスクと関連するのでリスクだけでなく治療ニーズも高いのが痛し痒しだ。

加速承認時のレーベルと同様に、初回、第5回、第7回、第14回の投与前にMRI検査を行い、ARIAが見られる場合は型や重症度、症状の有無などを考慮して投与の適否を決定するよう求めている。

新たに禁忌が設定されたが活性成分に対する過敏反応だけでエプシロン4ホモ接合型は盛り込まれなかった。このため、事前検査をせずに投与することも可能だが、枠付き警告に関わるものなので、この検査や高価なMRI検査をやらないわけにはいかないのではないか?

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年7~8月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
  • 23年7月推 アストラゼネカのBeyfortus(nirsevimab、0歳児等のRSV下部気道感染症予防)
  • 23/7/23  Verrica PharmaceuticalsのVP-102(cantharidin、伝染性軟属腫)
  • 23/7/24  第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固め)
  • 23/7/28  Citius PharmaceuticalsのI/ONTAK(持続性難治性CTCL)
  • 23年8月推 ファイザーのTalzenna(talazoparib、転移ホルモン抵抗性前立腺癌に適応拡大)
  • 23年8~10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23/8/2   MesoblastのProchymal(remestemcel-L、小児急性移植片宿主病)
  • 23/8/5   Sage TherapeuticsのSAGE-217(zuranolone、鬱病、産後鬱)
  • 23/8/9   Galera TherapeuticsのGC4419(avasopasem manganese、頭頚部癌放射線療法における口腔粘膜炎の抑制)
  • 23/8/13  大鵬薬品のLonsurf(trifluridine、tipiracil、結腸直腸癌におけるbevacizumab併用を追加)
  • 23/8/16  イプセンのSohonos(palovarotene、骨化性線維異形成症)
  • 23/8/19  Iveric BioのZimura(avacincaptad pegol、加齢性黄斑変性による地図状萎縮)
  • 23/8/20  Regeneron PharmaceuticalsのREGN-3918(pozelimab、CHAPLE症候群)
  • 23/8/20  Neurocrine Biosciencesのvalbenazine(ハンチントン病適応拡大)
  • 23/8/21  ファイザーのPF-06928316(妊婦接種用新生児RSV予防ワクチン)
  • 23/8/28  BMSのReblozyl(luspatercept-aamt、MDSにおけるESA不応不耐限定解除)
  • 23/8末   ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)


諮問委員会:
  • 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)



今週は以上です。

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