2023年3月11日

第1093回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 早産予防薬の承認を返上へ;日本はどうする? 
  • ACC:sotaterceptのPAH試験が成功 
  • ACC:経口PCSK9阻害剤が第2相で良好な成績 
  • ACC:bempedoic acidの心血管リスク抑制効果はそれほどでもない 
  • インサイト、PI3K阻害剤の骨髄線維症試験が無益認定 
  • ゾスタバのHCT後維持療法試験がフェール 
  • 可溶性Aβ標的薬はアルツハイマー予防試験もフェール 
  • IonisもATTRv-PN用薬を承認申請 
  • デュピクセントを蕁麻疹に適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、ポライビーを一次治療薬としても支持 
  • 点鼻用CGRP受容体アンタゴニストが承認 


【今週の話題】


早産予防薬の承認を返上へ;日本はどうする?
(2023年3月7日発表)

ルクセンブルグ籍の製薬会社、Covis Pharmaは、早産予防薬Makena(hydroxyprogesterone caproate)の米国における販売承認を自主返上する意向を固めた。市販後薬効確認試験がフェールし、FDAに自主返上を促され、諮問委員会が二度とも承認継続を支持せず、4年粘ったがとうとう諦めた。FDAは承認取消を検討しているので最終的にどのような形になるかは不明。このプロゲスチン17αは日本でも早産歴のある妊婦に用いられているが、当否を再検討しないのだろうか?患者同意書を取る場合、臨床試験がフェールしたことを伝えなくても医療過誤訴訟の心配はないのだろうか?

この活性成分は1956年にスクイブ(当時)がDelalutin名で販売承認を取得したが、1962年のFDA法改正の前だったので、根拠は安全性だけだった。2000年に生産関連の理由で承認返上されたが、NIH(米国立衛生研究所)が主導した試験で早産リスクを抑制する効果が確認され、調剤薬局品がオフレーベル使用されるようになった。FDAは流産や死産が増える懸念からキチンとした臨床試験を行うよう呼びかけ、応じたのが、KV Pharmaceuticalsだった。NIH主導試験に基づき11年に加速承認されたが、市販後薬効確認試験で35週未満出生率も新生児の疾病死亡リスクも、偽薬と大差なかった。FDAは20年に承認自主返上を要請したがメーカー側が応じず、手間も時間もかかる承認取消手続きに進んだ。

この間、メーカーも変遷した。KVは価格を高く設定し、邪魔になる調剤薬局の調剤を不可能にする計画だったが、政治介入などにより果たせず、会社更生法申請に至った。Makena関連事業を承継したAMAG Pharmaceuticalsも経営が悪化し、承認返上要請を受けるや、Covis Pharmaに身売りした。

Covisは現在治療を受けている患者向けと流通在庫分が終了した段階で承認返上する考え。承認返上/取消しになればGE品の販売も不可能になり、調剤薬局も調剤できなくなる模様だ。特許の切れた薬を今更臨床開発する会社は現れないだろうから、米国ではヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステルは使われなくなる。

Makena問題の推移

  • 1956年、スクイブ社が米国で販売承認を取得
  • 2003年、New England Journal of Medicine誌がNIH主導試験の論文を刊行。自然単体早産歴のある妊婦の37週未満出産リスクを抑制したことが各種メディアで報道され、普及
  • 2006年、FDAの開発要請に応じたKV Phamaceuticalsが承認申請
  • 2008年、FDA諮問委員会で21人の委員中12人が35週前の切迫早産の予防効果を認めたが、FDAは非承認可能通知を発出
  • 2011年、市販後薬効確認試験が開始されたことを受け、FDAが加速承認(37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防)。KVが薬局調剤品の100倍の価格で発売したが、政治介入などにより薬局調剤品の販売を禁止できず、半値に引き下げても売れず、裁判所に破産法の適用を申請
  • 2013年、KVの会社更生が認められ、AMAG PharmaceuticalsがMakina事業など、Perrigoがそれ以外を分割買収
  • 2019年、市販後薬効確認試験のPROLONGがフェール、35週未満の早産も新生児の有病・死亡率も偽薬群並みだった。FDA諮問委員会で9人が承認取消を支持、7人がもう一度薬効確認試験を促すことを支持(但し産婦人科医の委員に関しては6人中5人が再試験を支持)
  • 2020年10月、FDAの小分子薬担当部門であるCDERが自発的承認返上を推奨
  • 同年11月、Covis PharmaがAMAGを買収
  • 2021年8月、Covisがやっと公聴会の開催を要請
  • 2022年10月17~19日、FDAが公聴会とORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催。15人の諮問委員中14人が承認取消を支持。

リンク: 同社のプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)

【新薬開発】


ACC:sotaterceptのPAH試験が成功
(2023年3月8日発表)

MSDはMK-7962/ACE-011(sotatercept)が第3相STELLAR試験で主目的を達成したと今年1月に公表したが、具体的な内容をACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。WHOクラスIIまたはIIIの肺動脈高血圧症323人を組入れて、標準療法に加えて0.7mg/kgを3週毎皮下注射する効果を検討したところ、6分歩行テスト値が24週間で34.4m改善した。偽薬追加群は1.0mの改善に留まり、修正治療効果は40.8mと推定された。副次的評価項目の死亡/臨床的悪化までの期間もハザードレシオ0.16で統計的に有意な差があった。承認申請に向かうのではないか。

sotaterceptはET-1の発現などに係わるactivinのIIa受容体とIgG1の融合蛋白。21年にAcceleron Pharmaを115億ドルで買収して入手した。肺動脈高血圧症の第3相はこのほかに中高リスク新患試験やWHOクラスIIIとIVを組入れる試験が進行中。

リンク: Hoeperらの治験論文(NEJM)
リンク: MSDのプレスリリース


ACC:経口PCSK9阻害剤が第2相で良好な成績
(2023年3月6日発表)

MSDはMK-0616の後期第2相試験の結果もACCで発表した。高脂血症でアテローム性心血管疾患のリスクが中重度の患者381人を偽薬、6mg、12mg、18mg、または30mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして8週間のLDL-C低下を比較したところ、偽薬比で各群41%、56%、59%、61%低下した。深刻有害事象は発生しなかった。

PCSK9阻害剤は複数の注射用薬が承認されている。LDL-C低下作用が高く、スタチン服用患者にも大きな上乗せ効果が見られる。MK-0616は大環状ペプチド薬で経口投与できるのが長所。

リンク: Ballantyneらの治験論文抄録(JACC)
リンク: MSDのプレスリリース


ACC:bempedoic acidの心血管リスク抑制効果はそれほどでもない
(2023年3月4日発表)

Esperion Therapeutics(Nasdaq:ESPR)は昨年12月にATPクエン酸リアーゼ阻害剤Nexletol(bempedoic acid)の心血管アウトカム試験成功を発表した。具体的な内容がACCとNEJMで発表されたが、LDL-C低下作用と同様に穏やかなものだった。20年に欧米で承認されたが売上高が伸び悩み、翌年には人員を4割削減するリストラを断行した。今回の成功でトレンドが急転するようには感じられない。

このCLEAR試験はLDL-Cが心血管疾患リスク因子を持ちLDL-Cが100mg/dL以上で2種類以上のスタチンに不耐な患者を組入れて180mgを一日一回、経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中、または冠血行再建術の複合評価項目。メジアン40.6ヶ月間の追跡で発生率が11.7%と偽薬群の13.3%を下回り、ハザードレシオは0.87、p=0.004だった。主観的評価項目である冠血行再建術を除いた3点MACE(主要有害心血管事象)はそれぞれ8.2%、9.5%、0.85、0.006と似たような結果だ。スタチンと同様に効果が見られたのは専ら心筋梗塞と冠血行再建術で、残念なことに、心血管死は両群同程度だった。

Esperionは今上期に効能追加申請を行う予定。欧米でレーベル収載が認められたら、販売パートナーである第一三共から最大で4.4億ドルの達成報奨金を獲得できる。

リンク: Steven Nissenらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: Esperionのプレスリリース


インサイト、PI3K阻害剤の骨髄線維症試験が無益認定
(2023年3月3日発表)

Incyte(Nasdaq:INCY)は、INCB050465(parsaclisib)の第3相骨髄線維症試験が中間解析で無益認定されたことを明らかにした。同社が創製しノバルティスにライセンスしたJAK阻害剤、Jakafi(ruxolitinib)に十分応答しない患者に追加投与して脾臓量減少を図ったが、実現しなかった。

PI3Kデルタ阻害剤で、21年に米国で第2相試験成績に基づいて難治再発濾胞性リンパ腫に承認申請したが、市販後薬効確認試験の実施が困難として、取り下げた。EUでも辺縁帯リンパ腫に申請したがエビデンス不足と評価され取り下げた。

リンク: 同社のプレスリリース


ゾスタバのHCT後維持療法試験がフェール
(2023年3月9日発表)

アステラス製薬はFLT3阻害剤Xospata(gilteritinib)の第3相MORPHO試験がフェールし中止が決まったことを明らかにした。難治再発FLT3変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として18~19年に日米欧で承認され、複数の用法拡大試験が開始されたが、なかなか成功しない。

AMLの3割前後を占めるFLT3変異型を標的とする経口剤。今回の試験はFLT3の二種類の代表的変異のうちITD(縦列重複)型のAMLで他家造血幹細胞移植を受けた患者の維持療法として2年間投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は無再発生存期間。データは未発表。

Xospataは集中療法が適応にならないFLT3変異陽性AML患者の一次治療としてazacitabineと併用した試験も20年に独立データ監視委員会が無益性中止勧告を行った。

他には集中療法が適応になる患者に標準療法と併用するHOVON 156試験が進行中で24年に開票見込み。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


可溶性Aβ標的薬はアルツハイマー予防試験もフェール
(2023年3月4日発表)

イーライリリーはLY2062430(solanezumab)のA4試験がフェールしたことを明らかにした。試験薬は抗アミロイド・ベータ抗体の一つで凝集体ではなく可溶性モノマーに選択的に結合する。凝集体に結合・攻撃する時に周辺の細胞にも障害を与える、アミロイド関連造影異常を回避できると期待されたが、本試験では肝心のアミロイド・プラク蓄積抑制作用も見られなかったようなので、まあ、様々な第3相がフェールしたのも無理はない。

本試験は2014年に米加日豪の施設でアミロイド・ベータ蓄積が確認されたがアルツハイマー病症状は無い高リスク患者1150人を組入れて、Preclinical Alzheimer Cognitive Compositeの悪化を抑制する効果を偽薬と比較した。240週追跡したが有意な差はなく、認知症発症率(CDR-GSで評価)も同程度だった。

アルツハイマー病治療薬という大票田を狙った各社の高リスク高リターン開発プロジェクトの一つ。POC試験で血中アミロイド・ベータが用量依存的に増加したが、凝集プラクが遊離した結果と解釈して第3相に進んだ。しかし、軽中度アルツハイマー病試験は二本ともフェール。アミロイド病因論の出自である早発性アルツハイマー病(特定の優性遺伝子変異を持つ)を組み入れた臨床試験もフェールした。

A4試験はエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)もテストしている模様なので、結果が出れば、今回のフェールが個別要因なのか、それともクラス・イフェクトなのか、明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


IonisもATTRv-PN用薬を承認申請
(2023年3月7日発表)

Ionis Pharmaceuticals (Nasdaq: IONS)はIONIS-TTR-L-RX(eplontersen)を遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症(ATTRv-PN)用薬として米国で承認申請し受理された。審査期限は12月22日。現時点では諮問委員会の予定はないとのこと。

トランスサイレチンの生産を抑制するアンチセンス薬。4週毎皮下注する。第3相試験では35週の血清トランスサイレチン濃度がベースライン比81%低下し、共同主評価項目であるmNIS+7臨床評価スコアや副次的評価項目であるNorfolk QoL-DNも有意に改善した。尚、この試験は同社が18年に欧米で発売した類薬、Tegsedi(inotersen)の第3相の偽薬群を外部対照群としている。

アストラゼネカが共同開発し米国は共同販売、米国外は主としてアストラゼネカが単独販売する。

リンク: Ionisのプレスリリース


デュピクセントを蕁麻疹に適応拡大申請
(2023年3月7日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィはDupixent(dupilumab)を慢性特発性蕁麻疹の治療に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理された。12歳以上の青少年と成人でH1ブロッカーに十分反応しない患者に用いる。審査期限は10月22日。

抗IL-4Rαサブユニット抗体でアトピー性皮膚炎など様々な自己免疫性疾患の治療に用いられている。中重度慢性特発性蕁麻疹の第3相では24週間の治療でISS7(痒みに関する尺度、FDAが推奨)が10.24ポイント(63%)低下し、偽薬群の6.01ポイント(35%)低下を有意に上回った。共同主評価項目であるUAS7(蕁麻疹の活動性尺度、EMAが推奨)は20.53ポイント(65%)低下と12.0ポイント(37%)低下で、統計的に有意。

一方、ノバルティスの抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に応答不十分または不耐の患者を組入れた第3相は中間解析で無効認定された。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、ポライビーを一次治療薬としても支持
(2023年3月9日発表)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、ジェネンテック/ロシュの抗CD79b抗体薬物複合体、Polivy(polatuzumab vedotin-piiq)を未治療のDLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)に適応拡することについて意見を聞いた。FDAは延命効果が確立していないことに懸念を示したが、委員は13人中11人がPFS(無進行生存期間)に基づく承認を支持した。

Polivyは19~21年に米欧日で難治再発DLBCLの三次治療薬としてbendamustine及びrituximabと併用することが承認された。今回の申請は大細胞型B細胞リンパ腫を組入れた第3相POLARIX試験に基づく。代表的なレジメンであるR-CHOP(rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone、及びvincristineの5剤併用)と、vincristineの代わりにPolivyを使うレジメンのPFSを比較したところ、ハザードレシオは0.73、統計的に有意だった。重度有害事象発生率は両群大差なかった。一方で、全生存期間は大差なかった。ロシュは欧日で適応拡大申請し昨年5~8月に承認された。

米国は申請が昨年8月と遅かったが、おそらく、全生存期間の最終解析結果が出るのを待っていたのだろう。結果はハザードレシオ0.94、有意ではなく、被験者の85%を占めたDLBCLサブグループでは1.02と点推定値が1を上回った。2年無進行生存率は70.2%対76.7%で6-7ポイントの上乗せがあったが、2年生存率は両群とも88.7%だった。

今回のケースでは延命効果につながらなかったのでQOLに好影響を与えたかどうかが重要な判断基準になるが、現実には評価が難しい。PFSは一般的に無増悪生存期間と呼ばれるが、症状ではなく画像や代理マーカーによる客観的指標に基づいて判定されることが多いので、必ずしもQOLの向上と関連しない。QOLアンケートが実施されることもあるが、癌患者は、しばしば、治らない限りQOLが向上したとは思わない。

実薬対照試験で延命効果も副作用も同程度なら良いじゃないかと思いがちだが、優越性試験のフェールは試験薬が対照薬より劣っている可能性を否定できないことを意味し、非劣性試験の成功は否定できることを意味するので、似て非なるものだ。非劣性検定が成功した事例の多くは、試験薬群のほうが対照群より良好な点推定値を出した。

とはいえ、私たちは欲しいものをいつでも入手できるわけではないので、妥協も必要だ。FDAは統計学に厳格であるため効能追加に慎重だが、諮問委員の大半がデータを認容したので、米国でも承認されるのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


点鼻用CGRP受容体アンタゴニストが承認
(2023年3月10日発表)

ファイザーのZavzpret(zavegepant)が成人の片頭痛治療薬としてFDAに承認された。同社をはじめ多くの製薬会社が販売しているCGRP受容体アンタゴニストの一つだが、点鼻薬は初。悪心嘔吐症状により経口剤を好まない患者に適している。第3相試験では2時間後の疼痛解消奏効率が24%と偽薬の15%を有意に上回った。40%の患者で最も煩わしい主訴が解消した(偽薬群は31%)。主な有害事象は味覚異常/喪失など。

22年に買収したBiohaven Pharmaceuticalsが16年にブリストル マイヤーズ スクイブから導入して開発したもの。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

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