2023年3月31日

第1096回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • BioNTech、23年のCOVID-19ワクチン収入は7割減を予想 
  • 抗PD-1抗体は子宮内膜腫全般に有効 
  • BrainStorm、FDAが諮問委員会招集へ 
  • CHMPがHIPRAのCOVID-19ワクチンに肯定的意見 
  • キイトルーダがMSI-H/dMMRに本承認 


【今週の話題】


BioNTech、23年のCOVID-19ワクチン収入は7割減を予想
(2023年3月27日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、2022年12月期決算発表に際して、23年のCOVID-19ワクチンに係わる営業収入がアナリスト予想を下回る50億ユーロに留まるとの見込みを明らかにした。22年比7割減に相当する。ブースター接種の需要が低調であることや一部の国で政府一括購入が終了することなどを考慮した。

同社が開発したComirnatyはファイザーなどもライセンス販売しており、ファイザーは22年の営業収入(アライアンス収入を含み)として378億ドルを計上したが、23年は65%減の135億ドルを予想している。BioNTechは自社直販分と提携先への売上高、そして、ファイザーとFusan Pharmaの売上高に係わる利益分配金を営業収入として計上しており、22年実績は、夫々、32億ユーロ、12億ユーロ、127億ユーロ、合計173億ユーロだった。

長い目で見ればmRNA薬が急速に普及し莫大な投与実績ができたことは同社にプラス。他の感染症や腫瘍学などに展開していく考えだ。

リンク: BioNTechのプレスリリース

【新薬開発】


抗PD-1抗体は子宮内膜腫全般に有効
(2023年3月27日発表)

GSKとMSDは、夫々の抗PD-1抗体のステージIII/IV/難治子宮内膜腫の第3相一次治療試験の結果をSGO婦人科腫瘍学会とNew England Journal of Medicine誌で発表した。標準療法であるpaclitaxelとcarboplatinのレジメンに追加すると進行/死亡リスクを抑制できることを示した。何れもミスマッチ修復不全(dMMR)/マイクロサテライト不安定性高度(MSI-H)の子宮内膜腫の再発治療に単剤投与することが承認されているが、今回の試験では7~8割を占めるdMMR/MSI-Hではない患者にも有効だった。

約500人を組入れてGSKのJemperli(dostarlimab-gxly)をテストしたRUBY試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.64、24ヶ月無進行生存率は36.1%で偽薬併用群の18.1%を上回った。dMMR/MSI-Hサブグループでは各0.28、61.4%、15.7%、非dMMR/MSI-Hサブグループでは0.76、28.4%、18.8%だった。全生存期間の解析は未成熟だが、全集団のハザードレシオが0.64と好ましい方向を向いている。

約800人を組入れてMSDのKeytruda(pembrolizumab)をテストしたNRG-GY018試験ではdMMRコフォートのPFSハザードレシオが0.30で、メジアン値は未達(95%下限30.6ヶ月)、偽薬併用群は7.6ヶ月(95%上限9.9ヶ月)だった。dMMR以外を組入れたコフォートでは各0.54、13.1ヶ月(10.5ヶ月)、8.7ヶ月(10.7ヶ月)だった。

リンク: GSKのプレスリリース
リンク: Mirzaらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: MSDのプレスリリース
リンク: Eskanderらの治験論文抄録(NEJM)


ノバルティス、CDK4/6阻害剤の早期乳癌術後薬物療法試験が成功
(2023年3月27日発表)

ノバルティスはKisqali(ribociclib)の第3相NATALEE試験の成功を発表した。ステージIIとIIIのホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌で切除術を受けたが再発リスクの高い患者約5100人を組入れて、内分泌療法薬と併用する効果を検討した試験で、独立データ監視委員会が第2回中間解析で目的達成を認定、中止勧告したもの。主評価項目はiDFS(侵襲性疾患無再発生存期間)。データは未発表。全生存期間は継続追跡する。

同じCDK4/6阻害剤ではイーライリリーのVerzenio(abemaciclib)もmonarchE試験が成功、21年に一部の患者に限定して米国で適応拡大が認められ、今年3月には限定解除された。今回のNATALEE試験はmonarchE試験よりも幅広い患者層を組み入れており、ステージやリンパ節転移の有無を問わず効果が見られた由。データ次第だが、一歩前進するかもしれない。

KisqaliはAstex Pharmaceuticalsとのセル・サイクル制御に係わる共同研究の成果。Astexが大塚製薬に買収されたせいかどうかは分からないが、日本での開発は19年に中止されたようだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


BrainStorm、FDAが諮問委員会招集へ
(2023年3月27日発表)

BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)はFDAがNurOwnに関する諮問委員会を招集すると発表した。日時は不明。第3相がフェールしたことなどを考えると支持されるかどうかは不透明だ。

NurOwnは骨髄由来の間葉系幹細胞をex vivoで増殖・分化させたもの。神経栄養因子を多く分泌するように装飾されている。第3相試験で急速進行型のALS(筋萎縮性側索硬化症)189人に偽薬または試験薬を8週毎に3回、髄腔内投与したところ、奏効率(ALSFRS-Rスコアが1.25ポイント/月以上改善)が各27.7%、34.7%となった。治験の前提は各15%と35%で、p=0.453とフェールした。ALSFRS-R総スコアの悪化も5.88対5.52で大差なかった。

同社は承認申請を強行したが受理されず、File over Protestという手続きに基づき再申請した。FDAの疑問の殆どに回答したとのことだが、フェールした事実を覆せるものなのかは不明だ。諮問委員会はFDAが独りよがりな判定を行わないよう牽制する役割も担っており、FDAは招集するよう努めなければならない。従って、招集が決まっただけでは朗報とは言えない。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【承認審査・委員会】


CHMPがHIPRAのCOVID-19ワクチンに肯定的意見
(2023年3月30日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、スペインのHIPRA HUMAN HEALTHが申請したCOVID-19ワクチン、Bimervaxに肯定的意見をまとめた。mRNAワクチン接種歴のある16歳以上に追加接種する。

アルファ株とベータ株のスパイク蛋白を合成した抗原にアジュバントを添加したもの。765人の成人を組入れて免疫原性をComirnaty(武漢株対応型)と比較した試験で、武漢株には見劣りしたがデルタ株には同程度、ベータ株やオミクロン株には上回った。EU加盟国は昨年8月に同社と共同調達契約を締結している。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


キイトルーダがMSI-H/dMMRに本承認
(2023年3月29日発表)

MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab)のMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)/dMMR(ミスマッチ修復欠損)腫瘍における仮承認を本承認に変更したと発表した。原発部位に係わらず遺伝子特性に基づき適応を取得した抗癌剤は初めて。

MSI-HやdMMRは遺伝子複製時の誤りを修復する機能が適切に働いていないことを示す。本来とは異なる蛋白が出来るので免疫機構の注目を集めやすく、抗PD-1抗体のような免疫強化療法に適した患者をスクリーニングする手法になりうる。Keytrudaは17年に米国でサルベージ用途の加速承認を取得し、うち、結腸直腸癌に関しては一次治療化学療法対照試験のエビデンスに基づき20年に本承認された。

今回は結腸直腸癌とそれ以外のMSI-HまたはdMMRを持つ切除不能/転移固形腫瘍に用いることが本承認された。前治療後に進行した、代替的治療法のない癌という限定は解除された。延命またはそれに準じる効果を示す対照試験のエビデンスはなく、仮承認時にコミットした、症例数の積み増しだけで切り替えが認められたようだ。

症例数が少ないと点推定値の信頼性が低くなる。積み増しでデータがどの程度変動したか、良い例になりうるので下表に示す。

MSI-H/dMMR腫瘍のORR

新レーベル旧レーベル
患者数504149
ORR33.3%39.6%
(完全反応率)10.3%7.4%
メジアン反応持続期間63.2ヶ月未達
腫瘍別ORR*:
結腸直腸癌24%36%
内膜腫50%36%
胃・胃食道接合部腫瘍39%56%
小腸癌59%38%
脳腫瘍4%-
卵巣癌32%-
胆道癌41%36%
膵癌18%83%
肉腫21%-
乳癌21%-
子宮頸癌9%-
神経内分泌腫瘍9%-
前立腺癌13%-
*症例数が7人以下の癌は割愛。
出所:米国のレーベルから抜粋

リンク: 同社のプレスリリース

【主なFDA審査期限、諮問委員会(23年4月)】


PDUFA:
  • 23年4月 Emergent BioSolutionsのAV7909(炭疽ワクチン)
  • 23/4/2 ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin-piiq、未治療のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大)
  • 23/4/21 SeagenのPadcev(enfortumab vedotin-ejfv、尿路上皮腫Keytruda併用に適応拡大)
  • 23/4/24 第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固めに適応拡大)
  • 23/4/25 バイオジェンのBIIB067(tofersen、SOD1変異のある筋萎縮性側索硬化症)
  • 23/4/26 Seres TherapeuticsのSER-109(クロストリディオイデス・ディフィシル再燃の抑制)

  • 諮問委員会:
  • 23/4/14 PCNSDAC・PDAC(大塚製薬のbrexpiprazole、アルツハイマー病のアジテーション用途)
  • 23/4/17 AMDAC(Entasis Therapeuticsのsulbactam-durlobactam、アシネトバクター感染症)
  • 23/4/28 ODAC(アストラゼネカのLynparza(olaparib)、転移CRPCにabiraterone併用用途)



  • 今週は以上です。

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