2023年3月17日

第1094回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 二件の大型企業買収 
  • イクスタンジの前倒し投与試験が成功 
  • AhR調節剤のアトピー試験が成功 
  • IDH阻害剤の神経膠腫試験が成功 
  • 5価髄膜炎菌ワクチンの第3相が成功 
  • IgA腎症治療薬の市販後薬効確認試験が成功 
  • FDA諮問委員会、パキロビッドの本承認を支持 
  • レット症候群用薬が承認 


【今週の話題】


二件の大型企業買収
(2023年3月13日発表)

ファイザーとサノフィが大型企業買収を発表した。米国は金融緩和が終了し新興企業の資金調達が容易ではなくなった。バイオ/IT企業の二社に一社に資金提供していたSilicon Valley Bankが破綻したことも影響し、今後も、大手企業の傘下に入るベンチャーが増加しそうだ。

ファイザーはSeagen(Nasdaq:SGEN)の株式を一株当たり229ドルで買収することで合意した。企業価値ベースで総額430億ドルの超大型合併だ。Seagenは抗体医薬複合体技術における代表的な企業でホジキン型リンパ腫用薬Adcetris(brentuximab vedotin)など3製品の開発に成功した。共同創業者で社長とCEOと会長を兼任していたClay Siegallが家庭内暴力の疑いで逮捕されたことを契機に、MSDが買収交渉中との噂が浮上したが、価格が折り合わなかった模様で、結局、ファイザー・グループ入りとなる見込みになった。

抗体薬物複合体の第一号は2000年に米国で加速承認されたWyethのMylotarg(gemtuzumab ozogamicin)だが、同社を09年に680億ドルで買収したファイザーは小分子薬中心で抗体医薬の実績は乏しく、今年2月に二重特異的抗体PF-06863135(elranatamab)の承認申請が受理された程度なので、要素技術の補完性が高そうだ。

買収を実現するためには各国の反トラスト規制をクリアする必要がある。発表当日の株価はオファー価格を下回っており、投資家は100%実現するとは思っていないのだろう。

リンク: ファイザーとSeagenのプレスリリース

サノフィはProvention Bio(Nasdaq:PRVB)を一株当たり25ドル、企業価値ベースで総額29億ドルで買収することで合意した。昨年11月に米国で承認されたばかりの一型糖尿病用薬Tzield(teplizumab-mzwv)を入手することになる。サノフィは一型糖尿病治療の根底をなすインスリンの大手だが、ライバルであるノボ ノルディスクやイーライリリーと異なり、二型糖尿病や肥満症の治療薬として注目されているGLP-1作用剤におけるプレゼンスが乏しい。Tzieldは膵島細胞自己抗体を持ち血糖値がある程度高い患者を対象とするファースト・イン・クラスの抗体医薬だが、将来性の面では小粒な印象だ。

リンク: サノフィとProvention Bioのプレスリリース

【新薬開発】


イクスタンジの前倒し投与試験が成功
(2023年3月17日発表)

アステラス製薬は、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)の第3相EMBARK試験で主目的を達成した。適応拡大が承認されれば今までより早い段階で用いられるようになる。

EMBARKは根治的前立腺全摘かつまた放射線療法後にPSA倍増期間が9ヶ月以内になった、高リスク未転移ホルモン感受前立腺癌1000人超を組み入れて、単剤投与群やleuprolide併用群のMFS(無転移生存期間)をleuprolide・偽薬併用群と比較した。同社は18年に本試験とARCHES試験の結果が早く出るようデザインを変更し、ARCHESは同年に開票した。本試験は1年前倒しで20年央に開票するはずだったが、なぜか、今頃になった。

データは未発表だが、主目的である二剤併用も副次的評価項目である単剤投与もleuprolide・偽薬併用群を有意に上回った。二剤併用群は全生存期間も良い傾向が見られたが未だ有意水準には達していない模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)
リンク: EMBARK試験の概要(ClinicalTrials.gov)


AhR調節剤のアトピー試験が成功
(2023年3月15日発表)

Roivant Sciences(Nasdaq:ROIV)グループのDermavant Sciencesは、Vtama(tapinarof)の第3相アトピー性皮膚炎試験が成功したと発表した。もう一本の結果が5月にも判明する見込みで、適応拡大申請に向かうことになろう。

コールタール療法の標的であるアリル炭化水素受容体(AhR)を調整し表皮細胞の分化や皮膚バリア関連遺伝子の発現を促進するクリーム製剤。昨年5月に米国で乾癬治療薬として承認された。日本ではJT/鳥居薬品が開発中。

今回のADORING 2試験は2歳以上の青少年と成人の患者406人を試験薬と偽クリームに2対1割付けして8週間治療し、vIGA-AD奏効率を比較した。vIGA-AD(Validated Investigator Global Assessment for Atopic)は紅斑や硬化などを4段階で評価するもので、3(中程度)以上の患者を組入れて、0(クリア)または1(ほぼクリア)となった患者を奏効とした。試験薬群は46.4%となり偽薬群の18.0%を有意に上回った。副次的評価項目のEASI75奏効率も各群59.1%と21.2%で有意な差があった。後者における治療効果はアトピー性皮膚炎で承認されているJAK阻害剤や抗IL-4Rアルファ抗体と同じくらいだ。

有害事象では接触皮膚炎の発生率は各群1.1%と1.5%で大差なく、毛包イベントは8.9%と1.5%で上回ったが乾癬試験の毛包炎発現率20%よりは低かった。

リンク: Roivantのプレスリリース


IDH阻害剤の神経膠腫試験が成功
(2023年3月14日発表)

セルビエはvorasidenibの第3相試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。IDH(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ)変異のあるグレード2神経膠腫を切除した後に残余病変がある、または再発した、患者を組入れてPFS(無進行生存期間)を偽薬と比較したもので、副次的評価項目のtime to next interventionも有意に上回った。データは未発表。

グレード2神経膠腫の7割超でIDH1の変異が見られる。vorasidenibは血管脳関門通過性を持つIDH1/2阻害剤で、20年にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)の腫瘍学ポートフォリオを買収して入手した。

リンク: 同社のプレスリリース


5価髄膜炎菌ワクチンの第3相が成功
(2023年3月14日発表)

GSKはMenABCWYの第3相試験が成功したと発表した。10~25歳の3650人を組入れて免疫原性をMenveoとBexseroを接種する群と比較した非劣性試験で、データは未公表。

MenABCWYはA、B、C、W-135、Y群の髄膜炎菌を抗原とするワクチン。米国では11~12歳になったらMenveoなどのA/C/W-135/Y群髄膜炎菌ワクチンを、16歳になったら追加接種とBexseroなどのB群髄膜炎菌ワクチンを、接種することが推奨されているが、ブースターの実施率は5割以下に留まっている。5価ワクチンなら16歳時の接種回数を4~5回から2回に減らせるので、普及が進むかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


IgA腎症治療薬の市販後薬効確認試験が成功
(2023年3月12日発表)

スウェーデンのCalliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT)は、IgA腎症治療薬Tarpeyo(budesonide)の市販後薬効確認試験が成功したと発表した。21~22年に米欧で加速/条件付き承認された時にコミットメントした試験で、本承認切替を申請する考え。

コルチコステロイドの腸溶性徐放性カプセルで、欧州ではKinpeygoやNefecon名で販売されている。第3相のNefIgArd試験で16mgを一日一回、9ヶ月間投与したところ、UPCR(尿蛋白クレアチニン比)が34%低下した。偽薬群は5%低下のみだった。今回の解析は、同じ試験について、テーパリング期間を含めて15ヶ月間追跡し、2年間のeGFR(推算糸球体濾過量)の変化を調べたもの。mL/分/m2当りの低下が2.47に留まり、偽薬群の7.52を有意に下回った。尚、9ヶ月時点の低下は各0.17と4.04となっており、止めると効果が多少低下するようだ。再治療が可能なのか、知りたいところだ。

欧州ではSTADAと販売提携。日本市場はヴァイアトリスがライセンスした。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、パキロビッドの本承認を支持
(2023年3月16日発表)

FDAは微生物薬諮問委員会を招集し、Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)を重症化リスクのある軽中等症COVID-19感染症の成人向けに正式に承認する当否について意見を聞いた。患者代表を除く17人中16人の委員が便益が危険を上回ると判定し、FDAも肯定的のようなので、審査期限である5月までに承認されるだろう。

Paxlovidは21年12月にEUA(非常時使用認可)を受けた。EUAは公衆衛生上の緊急事態宣言を受けて取り急ぎ承認するもの。当該宣言は5月11日に終了が決定しており、FDAは当面、EUAを維持する考えだが、いつ白紙化されても文句は言えない状態だ。EUAは12歳以上かつ体重40kg以上が対象だが、今回のアジェンダは成人だけ。

Paxlovidの第3相試験のサブグループ分析では、ワクチン未接種で感染歴もない患者の入院・全死亡率が1.68%と偽薬群の11.27%を大きく下回った。ワクチン未接種だが感染による自然免疫を持つ患者では各0.20%と1.67%で、相対リスク削減率は高いが絶対リスク削減率は1.5%程度だった(68人に投与すると一人を入院・全死亡から救える)。別途実施された試験では、重症化リスクのあるワクチン接種済みの患者における数値も0.95%、2.2%、1.3%で似たような結果だった。

今日ではワクチン接種済みの人のほうが多いので最初にEUAされた頃ほど使わない不利益が大きくなくなったが、喉元過ぎればワクチン追加接種も減るだろうから、過小評価は避けたいものだ。

諮問委員会では治療後のリバウンド(感染症再燃)リスクも討議されたが、FDAの分析では、自然治癒例におけるリバウンド・リスクと大差なかった。

日本などで案外普及していない原因の一つと目される薬物相互作用については、FDAの有害事象報告システムに薬物相互作用が原因と考え得るまたは疑われる深刻有害事象例が271件報告され、うち147人は入院、6人は死亡したことが明らかにされた。全世界の処方件数は1000万件を超えるので率は低いが、この種のデータは報告されていない症例も多いはずであることに留意したい。

死亡例で服用していた薬は免疫抑制剤tacrolimusが4人と一番多かった。併用禁忌となる薬の多くは一時的に服用を止めても大きな問題はなさそうなものだが、臓器移植を受けていたり、心房細動で特定の薬しか忍容しなかったりする患者ではそうも言っていられないだろう。承認に反対した患者代表の委員も、このような人たちにおける便益や安全性をもっと検討すべきという意見のようだ。

この件に関連して改めて疑問を覚えるのは、他に幾らでも似たような薬があるのにわざわざ競合にはない3A4相互作用を持つ製品を発売する製薬会社、処方する医師だ。急病で相互作用リスクのある薬を使わなければならなくなることもあるのだから、好き好んでこのような、例えばARBを、出す人たちの誠意が疑われる。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: FDAの諮問委員会情報ページ

【承認】


レット症候群用薬が承認
(2023年3月10日発表)

米国のACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はFDAがDaybue(trofinetide)を2歳以上のRett症候群用薬として承認したと発表した。この希少疾患の薬は初。4月に発売する予定。価格は建値で年57.5~59.5万ドル、正味で37.5万ドル程度になる見込みだ。

Rett症候群は神経系の発達不全。MECP2の遺伝子変異などが関与している。米国の患者数は6000~9000人と推定されており、同社は小児希少疾患優先審査バウチャを取得した。DaybueはIGF-1のアミノ末端トリペプチドのアナログ体で神経炎症を抑制しシナプス機能を支える作用が見られる。Rett症候群における作用機序は明確ではない。

第3相試験でRett症候群の5~20歳の女性187人に体重に応じて30-60mLを一日二回、12週に亘って投与したところ、共同主評価項目のRSBQ(Rett Syndrome Behaviour Questionnaire:介護者による症状評価)が5.1ポイント改善し、偽薬群の1.7ポイント改善を有意に上回った。もう一つのCGI-I(医師の全般評価)も3.5対3.8で有意に下回った。有害事象による治験離脱率は19%で、原因は専ら下痢。

18年にACADIAに北米の権利をライセンスしたNeuren Pharmaceuticals(ASX:NEU)は、他の地域で開発販売するパートナーを探索中。

リンク: ACADIAのプレスリリース
リンク: FDAのリリース





今週は以上です。

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