【ニュース・ヘッドライン】
- エンタイビオのaGvHD予防試験が成功
- I-131標識抗体の第3相が成功
- ラゲブリオも曝露後予防試験がフェール
- チクングニア熱ワクチンの承認申請が受理
- ファイザーもBCMA架橋抗体を承認申請
- オンパットロをATTR心筋症に適応拡大申請
- ファイザー、妊婦接種用新生児RSV予防ワクチンを承認申請
- Regeneron、抗C5抗体をCHAPLE症候群に承認申請
- CHMP、IDH1阻害剤などに肯定的意見
- 週一回投与第VIII因子が承認
【新薬開発】
エンタイビオのaGvHD予防試験が成功
(2023年2月18日発表)
武田薬品のEntyvio(vedolizumab)の第3相GRAPHITE試験の結果がASTCTとCIBMTRの共催による移植・細胞療法学会で発表された。血液癌または骨髄増殖性疾患で他家造血幹細胞移植を受ける333人を組入れて、移植の前日から5ヶ月間に300mgを7回点滴静注したところ、小腸における急性移植片宿主病(aGvHD)の発現が偽薬比半減した(85.5%の患者が小腸aGVHDの発現なしで生存、偽薬群は70.9%、ハザードレシオ0.45、p<0.001)。治療関連有害事象や同深刻有害事象の発現率は両群それほど変わらなかった。
Entyvioはα4β7インテグリンに結合する抗体医薬。炎症性大腸炎やクローン病の治療薬として欧米日で承認されている。今回の成功を受けて適応拡大申請に向かうのではないか。
リンク: 同社のプレスリリース(英文)
I-131標識抗体の第3相が成功
(2023年2月18日発表)
Actinium Pharmaceuticals(NYSE AMERICAN:ATNM)は昨年10月にIomab-B(apamistamab iodine-131)の第3相SIERRA試験が成功したと発表したが、データをASTCTとCIBMTRの共催による移植・細胞療法学会で発表した。北米の医療施設で55歳以上の難治/再発急性骨髄性白血病の患者153人を組入れて、他家骨髄移植(BMT)の前処理(骨髄枯渇)用薬としての便益を標準的な強度軽減前処理と比較したところ、6ヶ月時点における持続的完全反応率が22%と標準療法群の0%を有意に上回った。偽薬群の患者は過半が試験薬にクロスオーバーしたが、しなかった患者と比べて試験薬群の患者は1年生存率(26%対13%)もメジアン生存期間(6.4ヶ月対3.2ヶ月)も倍増した。
両群はBMTに進む条件も異なっており、試験薬群は前処理に完全反応しなくても実施できた。このため、試験薬群は全員がBMTに進んだが、標準療法群は18%のみだった。
承認申請に向かうのではないか。Iomab-Bは白血球などで発現するCD45に結合する抗体と放射性核種を結合したもの。Fred Hutchinson Cancer Research Centerからライセンスした。急性骨髄性白血病のBMT実施件数が米国の倍多い欧州での権利はスウェーデンのImmedicaが昨年取得した。
リンク: 同社のプレスリリース
ラゲブリオも曝露後予防試験がフェール
(2023年2月21日発表)
MSDはLagevrio(molnupiravir)の第3相曝露後予防試験、MOVe-AHEADの主目的を達成できなかったと発表した。作用機序は異なるがファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)も類似した第3相がフェールしている。
米欧日で軽中等症COVID-19感染症の重症化を抑制する薬として承認されている。RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害する、新型インフルエンザ治療薬アビガン(ファビピラビル)と似た薬で、妊婦禁忌だけでなく、男性も治療完了後3ヶ月間、避妊が必要。
今回の試験は、症候性COVID-19感染者と同居の成人で、COVID-19感染検査陰性、症状もなく、ワクチン歴や感染歴のない人1500人超を欧米日などの施設で組入れて、800mgを12時間おきに5日間に亘り経口投与し、14日間の感染リスクを偽薬と比較した。23.6%小さかったが統計的に有意ではなかった。
PaxlovidのEPIC-PEP試験でも5日コースは偽薬比32%、10日コースは37%、小さかったが、有意水準に達しなかった。
感染者に曝露した人の中には、既に感染しているがウイルス量が少ないため検査で検出できないだけの人もいるだろう。軽中等症患者の重症化に有益なら未発症者でも評価項目が重症感染症だけならもっと高い効果を示せるのではないかとも思われるが、検出力を確保するためにはもっと大規模な試験が必要だろうから、現実的ではないのだろう。
リンク: MSDのプレスリリース
【承認申請】
チクングニア熱ワクチンの承認申請が受理
(2023年2月20日発表)
フランスのValneva(Nasdaq:VALN)は、FDAがチクングニア熱の弱毒化生ワクチンVLA1553の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月末。第3相試験で一回接種による防御的中和抗体獲得率が98.9%、95%下限は96.7%となり、FDAのベンチマークとされる70%を上回った。観察期間は28日だが、6か月経過時点でも96.3%(95%下限93.1%)と高水準を維持した。
チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。死亡率はそれほど高くない。
リンク: 同社のプレスリリース
ファイザーもBCMA架橋抗体を承認申請
(2023年2月22日発表)
ファイザーはPF-06863135(elranatamab)を難治再発多発骨髄腫用薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査を受け、年内に結果が判明する見込み。
骨髄腫の表面抗原であるBCMAとT細胞のCD3を架橋する二重特異性抗体。第2相MagnetisMM-3試験で3種類の代表的な薬に応答せずBCMA標的薬歴を持たない患者123人に皮下注したところ、ORRが61%、9ヶ月反応持続率は84%だった。三段階用量漸増法を採用し、クラス・イフェクトであるサイトカイン放出症候群や免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群の重症度をG2以下に抑制している。
BCMAとCD3を架橋する抗体はヤンセンのTecvayli(teclistamab-cqyv)が、CAR-T療法薬は同じくヤンセンのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)が、昨年欧米で難治再発多発骨髄腫用薬として承認された(後者は日本でも承認)。
リンク: ファイザーのプレスリリース
オンパットロをATTR心筋症に適応拡大申請
(2023年2月21日発表)
Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)はOnpattro(patisiran)をトランスサイレチン型アミロイドーシス心筋症(ATTR-CM)の治療に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理された。審査期限は10月8日。
家族性ATTRによるポリニューロパチーの治療薬として欧米日で承認されているRNA介入薬。ATTR-CM患者360人を組入れた試験では、0.3mg/kgを3週毎静注した群の12ヶ月後の6分歩行テストが偽薬比有意に上回った(p=0.0162)。副次的評価項目のKCCQ(QOL指標)はp=0.0397、全死亡/心血管イベント/6分歩行テスト悪化の複合評価項目はp=0.0574だった。異なった作用機序を持つ既存薬であるファイザーのVyndaqel/Vyndamax(tafamidis meglumine/tafamidis)に応答しなかった患者には便益が見られず、未使用の患者に対する成績はVyndaqelのデータに見劣りする。
リンク: Alnylamのプレスリリース
ファイザー、妊婦接種用新生児RSV予防ワクチンを承認申請
(2023年2月21日発表)
ファイザーは昨年、PF-06928316を60歳以上のRSV下部気道疾患予防用ワクチンとして米国で承認申請したが、今回、妊婦に接種して胎児が生後90日間に重症RSV下部気道疾患にならないよう予防する用途用法で申請し受理された。どちらも優先審査で、審査期限は前者が5月、後者は8月。EUでも両用途で承認申請が受理されており、年内に結果が出る見込み。日本でも妊婦向けの申請が発表された。
第3相MATISSE試験で妊娠第2~3期に120mcgを一回接種したところ、生後90日間の診療が必要な重症下部気道感染症のワクチン効率が81.8%だった。重症以外も含む解析は閾値をクリアできなかったようだ。
60年前に開発された初期のRSVワクチンで接種後に感染すると重症化してしまう懸念が表面化し、開発が長期低迷したが、NIH(米国立医療研究所)がRSVが宿主細胞に結合する前の構造を解明して以来、RSVpreFを抗原とするワクチンの開発がファイザーとGSKにより進展、高齢者向けは両社前後して承認申請された。一方、妊婦接種型はGSKのアジュバント不使用品の第3相が中間解析で打ち切りとなっており、ファイザーの製品はどこが違うのか、あるいはそれほど差がないのか、気になるところだ。
リンク: ファイザーのプレスリリース
Regeneron、抗C5抗体をCHAPLE症候群に承認申請
(2023年2月21日発表)
Regeneron PharmaceuticalsはREGN-3918(pozelimab)を米国でCHAPLE症候群の治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月20日。
CHAPLEはCD55/DAF deficiency with hyperactivation of complement, angiopathic thrombosis, and protein-losing enteropathyの略。補体制御因子であるCD55の遺伝子の常染色体性劣性遺伝性疾患で、補体系が異常に活性化しタンパク漏出性腸症や血栓症、低ガンマグロブリン血症や低アルブミン血症などを合併する。世界で数十人の極超希少疾患。pozelimabはC5を標的とする抗体で発作性夜間ヘモグロビン尿症などにも開発されている。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMP、IDH1阻害剤などに肯定的意見
(2023年2月24日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
セルビエのTibsovo(ivosidenib)はIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤。成人のIDH1 R132変異を持つ二種類の癌に用いる。一つは急性骨髄性白血病で、標準的な化学療法に適さない一次治療患者にazacitibineと併用。もう一つは全身治療歴のある局所進行性/転移性胆管癌にモノセラピー。米国では前者は18年、後者は21年に承認された。
20年にAgios Pharmaceuticalsの腫瘍学ポートフォリオを買収して入手したもの。
リンク: EMAのプレスリリース
Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)のVafseo(vadadustat)はHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤。透析期慢性腎疾患の成人の症候性貧血の治療に用いる。保存期慢性腎疾患は臨床試験で心血管リスクがエリスロポイエチン比非劣性ではなかったせいか、支持されなかったが、米国はどちらも審査完了通知を受領したことを考えればマシな結果だ。日本はメディカル・ツーリズムに注力しているせいか日本に来なければ治療を受けられない薬が色々あり、田辺三菱製薬のバフセオとして20年に両方の適応で承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
Chiesi FarmaceuticiのElfabrio(pegunigalsidase alfa)はポンペ病の酵素補充療法。植物培養技術を持つProtalix BioTherapeutics(NYSE American:PLX)からグローバルな開発販売権を取得したもので、Protalixが生産する。米国はFDAの渡航規制などにより承認が遅れている。
リンク: EMAのプレスリリース
Janssen-CilagのAkeega(niraparib、abiraterone acetate)は成人の生殖細胞系/体細胞系BRCA1/2変異のある転移性去勢抵抗性前立腺癌で化学療法に適さない患者に用いる。前者の活性成分はGSKの卵巣癌用薬Zejulaに用いられているPARP阻害剤で、ヤンセンは16年にTesaro(後にGSKが買収)から前立腺癌などに関する開発販売権を取得した(日本市場は対象外)。Tesaroは12年にMSDからライセンスした。後者はヤンセンが前立腺用薬Zytigaとして販売しているCYP17阻害剤。元々は英国のBTGとICRの共同研究の成果である模様だ。
リンク: EMAのプレスリリース
インサイト(Nasdaq:INCY)のOpzelura(ruxolitinib)はJakafiなどの名称で販売されているJAK阻害剤のクリーム製剤。12歳以上の顔面を含む非分節型白斑の治療に用いる。米国では21年にアトピー性皮膚炎に承認、白斑は22年7月に承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
ノーベルファーマのHyftor(sirolimus)はmTOR阻害剤の外用ゲル製剤。6歳以上の結節性硬化症関連顔血管線維腫に用いる。18年に日本で、22年に米国で承認された。EUの申請者はドイツ子会社のPlusultra pharma。
リンク: EMAのプレスリリース
一方、MSDのLagevrio(molnupiravir)は、意外にも、否定的意見となった。日本で新型インフルエンザ治療薬アビガンとして承認されているfavipiravirと同じRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤で、SARS-CoV-2ウイルスのゲノムに変異をもたらし増殖を抑制する。英米日で軽中等症COVID-19の外来治療薬として承認されている。論点は色々ありそうだが、主として薬効がボトルネックとなった模様だ。第3相の中間解析で良好な重症化抑制効果を示したが、意外なことに、最終解析ではリスク削減率が大きく低下した。中間解析で目的を達成と聞くと凄く良い薬のような印象を受けるが、こういうことがあるから鵜呑みにしてはいけない・・・という知識は持っていたが、こんなに大きく変わるのを見たのは初めてだ。第3相試験はワクチン未接種者だけを組み入れたので欧米日の患者の過半を占める接種者における便益は確立していない。安全性では催奇性があり、アビガンと同様に精子を通じて胎児に移行する懸念もある。顕在化はしていないが変異ウイルスを選択する理論的な懸念もある。
Ridgeback Biotherapeuticsがエモリー大学からライセンス、MSDに世界開発商業化権を供与したもの。
リンク: EMAのプレスリリース
適応拡大では、Valneva(Euronext Paris:VLA)の不活化COVID-19ワクチンを18~50歳の追加接種に用いることが支持された。但し、対象はこのワクチンまたはアデノウイルス・ベクター・ワクチンによる当初免疫を得た患者に限定される。
次に、ロシュのEsbriet(pirfenidone)。特発性肺線維症治療薬として日欧米で承認されているが、軽中等症限定を解除することが支持された。
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)の抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab)は、成人のPD-L1陽性(≧1%)、EGFR/ALS/ROS1変異陰性の局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療に白金薬レジメンと併用することが支持された。このうち、局所進行性癌は根治的科学放射線療法が適応にならない場合に限られる。
最後に、アッヴィのJAK阻害剤Rinvoq(upadacitinib)は成人の中重度活性期クローン病でバイオ薬を含む従来治療に不応再燃不耐の患者に用いることが支持された。
【承認】
週一回投与第VIII因子が承認
(2023年2月23日発表)
サノフィのAltuviiio(Antihemophilic Factor (Recombinant), Fusion Protein-ehtl;efanesoctocog alfa)がFDAに承認された。第VIII因子でA型血友病の成人小児の出血傾向の抑制、出血の治療、周術期の出血管理に用いる。同社のEloctate(Antihemophilic Factor (Recombinant), Fc Fusion Protein;efmoroctocog alfa)は3-5日毎と点滴静注頻度が少ないが、新薬は週一回で足りるので第VIII因子製剤の中では利便性が高い。価格はEloctate並みの予定。日本でも承認審査中。
10年前のバイオジェンIDECとAmunix社の共同研究の成果で、第VIII因子と免疫グロブリンG1の固定領域、フォン・ヴィルブランド因子の第VIII因子結合領域、そしてAminixの技術であるXTEN疎水性ポリペプチドを細胞融合して半減期を長期化したもの。サノフィはバイオジェンがスピンアウトした血友病事業を18年に買収し、Amunixの免疫学と腫瘍学資産を22年に買収した。欧州などではSOBIが開発販売を主導する。
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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