【ニュース・ヘッドライン】
- ライム病ワクチンの第3相で多くの症例がGCP違反に
- Marburgウイルス疾患で初のアウトブレイク
- モデルナのインフルエンザ・ワクチンは改良版で再挑戦か
- キイトルーダも胃癌一次治療試験がついに成功
- 複数のPARP阻害剤がキモナイーブmCRPCに良績
- デルゴシチニブの海外手湿疹試験が二本目も成功
- CDK4/6阻害剤の第3相結腸直腸癌試験が早期打ち切りに
- プレバイミスの投与期間延長と適応拡大を申請
- 遅報:gepironeのNDAが受理
- 合成ヒペリシンのNDAは受理されず
- IgA腎症用薬が加速承認
- αマンノシドーシスの酵素補充療法が承認
- C3阻害剤が今度は地図状萎縮用薬として承認
【今週の話題】
ライム病ワクチンの第3相で多くの症例がGCP違反に
(2023年2月17日発表)
ファイザーとフランスのValneva(Nasdaq:VALN)は、ライム病ワクチンVLA15の第3相試験で多数のGCP(医薬品の臨床試験が順守すべき基準)違反があったことを明らかにした。第三者の複数の米国施設で発覚した。安全性問題ではないとのこと。当該社の施設以外で組入れを続行するとともに、承認審査機関と対応を相談する予定。25年に欧米で承認申請する予定は撤回していないが、不透明だろう。
VLA15は2002年に販売中止となったスミクライン・ビーチャムのLYMErixと同様にライム病の原因となるボレリア属細菌の表層蛋白Aを抗原とするサブユニットワクチンで、代表的な6種類の菌をカバーしている。20年にファイザーが共同開発単独商業化権を取得し22年に第3相を開始した。欧米などで5歳以上の6000人を組入れて、初回免疫(第0、2、6月に筋注)と追加免疫1回の効果を偽薬と比較するもの。今回の件で数千例が解析対象から外れる可能性があり、組入れ期間を延長するか、目標症例数/検出力を減らすか、何らかの対応が必要だ。
尚、上記第三者はCROのCare Accessである模様で、ファイザーの決定や根拠には同意しないとの声明を同日に出した。こちらもFDAや独立Institutional Review Boardに報告する考え。
ライム病ワクチンは1998年に米国でLYMErixが承認されたが、人口が決して多くない地域で稀にしか発症せず、多くの場合それほど深刻ではないことや、コスト、そして多くのPL訴訟が提起されパーセプションが悪化したことなどから売上不振だった。FDAは副作用懸念を支持しなかったが、商業上の理由で販売中止となった。
リンク: ファイザーとValnevaのプレスリリース
リンク: Care Accessの声明
Marburgウイルス疾患で初のアウトブレイク
(2023年2月13日発表)
Marburgウイルス疾患で初めてのアウトブレイクが赤道ギニアで発生した。WHOによると、これまでに少なくとも9人が死亡、疑い例は16で症状は発熱、疲労感、吐血、下痢など。セネガルのパスツール研究所で検体を検査したところ、8本のうち1本が陽性だった。
MarburgはEbolaと同じファミリーに属するウイルスで、致死率は最大88%といわれる。Ebolaについては複数の治療薬やワクチンが実用化された。Marburgは流行していなかったこともあり開発が遅れているが、基礎研究は実施済みだろうから、流行が広がるようなら複数の候補品が臨床開発に進むのではないか。
リンク: WHOのプレスリリース
【新薬開発】
モデルナのインフルエンザ・ワクチンは改良版で再挑戦か
(2023年2月16日発表)
モデルナはヘマグルチニンのmRNAを用いた4価季節性インフルエンザ・ワクチン、mRNA-1010の第3相試験を北半球と南半球で実施しているが、後者の中間解析結果を公表した。承認されている抗原配合ワクチンと比べてA型には良さそうだがB型には見劣りするので、北半球試験の中間解析結果が3月頃に出たあとで、B型に対する力価を向上したフォロー・オンにシフトするのではないか。
南半球試験は18歳以上の6102人を組入れて安全性と抗原性を既承認ワクチンと比較した。A/H3N2とA/H1N1に対する抗体陽転率は上回ったが、B/ビクトリアやB/山形では非劣性解析がフェールした。GMR(幾何平均抗体変化率)はA/H3N2は優越、A/H1N1は非劣性達成、B型二種は非劣性フェールだった。有害事象発生率はかなり上回ったが軽度のものが多かったとのこと。
COVID-19ワクチンとインフルエンザ・ワクチンの最大の違いは価格だ。既承認のワクチンは犬細胞培養型や点鼻用も含めて米国では20ドル前後の単価で販売されている。COVID-19ワクチンも同程度だが、政府一括調達でなくなれば流通費用や情報伝達費用が増加しスケールメリットも低下することから100ドル以上に値上がりする見込みである。インフルエンザ用mRNAワクチンも100ドル程度で売ろうと思ったら、予防効果がよほど高くないといけない。生産のリードタイムは鶏卵ベースのワクチンより短いだろうから、流行株の見込み違いリスクの緩和が期待されるが、実証する必要がある。
リンク: 同社のプレスリリース
キイトルーダも胃癌一次治療試験がついに成功
(2023年2月16日発表)
MSDは昨年11月にKeytruda(pembrolizumab)の第3相KeyNote-859試験が中間解析で目的達成したことを明らかにしたが、具体的な内容をESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表した。メジアン生存期間が1ヶ月伸びた程度だがハザードレシオは0.8を下回ったのでまあまあな結果だろう。ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)に遅ればせながらではあるが、適応拡大が認められるのではないか。
この試験はher2陰性で局所進行切除不能または転移性の胃や胃食道接合部の腺腫でfluoropyrimidineと白金薬ベースの一次治療を受ける1579人を組み入れて、Keytrudaを追加する効果を偽薬追加と比較した。結果は、各群のメジアン生存期間が12.9ヶ月と11.5ヶ月、ハザードレシオは0.78で、統計的に有意だった。PD-L1陰性サブグループのハザードレシオも0.76で有意。1年生存率は各群52.7%と46.7%、2年生存率は28.2%と18.9%だった。G3以上の治療関連有害事象発生率は各群59%と51%と上回ったが、G5は8人対16人で数値上少なかった。
Keytrudaは類似した患者層を対象としたKeyNote-062試験が19年にフェールした。PD-L1陽性(CPS≧1)の患者だけを組入れた試験がフェールして、今回の試験では陰性サブグループも大差ないというのは変な感じだが、062試験は二兎も三兎も追ったのが敗因かもしれない。763人を標準療法群とKeytruda追加群、Keytrudaモノセラピー群に割付けたので、一群当たりの症例数が少なく、多重性の補正も必要になる。標準療法群とKeytruda追加群の全生存期間のハザードレシオは0.85なので、今回の0.78とそれほど大きく違うわけではない。
リンク: MSDのプレスリリース
複数のPARP阻害剤がキモナイーブmCRPCに良績
(2023年2月16日発表)
ASCO GU(米国臨床腫瘍学会尿生殖器癌シンポジウム)でPARP阻害剤4品のキモナイーブmCRPC(転移性去勢抵抗性前立腺癌)の第3相併用試験のデータが発表された。HRR(相同組換え修復)不全やBRCA変異のない患者における便益は明確ではないように感じられるが、特にBRCA変異型には良績を上げた。
ここでは、アストラゼネカがMSDと共同開発販売しているLynparza(olaparib)とファイザーのTalzenna(talazoparib)を取り上げる。アストラゼネカは21年9月に中間解析で成功認定されたPROpel試験の全生存期間最終解析結果。abirateroneとprednisoneの併用レジメンに追加したところ、PFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がメジアン24.8ヶ月と偽薬追加群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.66、統計的に高度有意だった。一方、副次的評価項目の全生存期間は42.1ヶ月対34.7ヶ月、ハザードレシオ0.81で有意差はなかった。BRCA変異のあるサブグループではハザードレシオ0.29となったが、無いサブグループでは0.91と大きな違いが出ている。ジョンソン・エンド・ジョンソンのniraparibの類似したデザインの第3相MAGNITUDE試験ではHRRありのサブグループでPFSが有意に伸びたが無いサブグループは無益認定と、似たような違いが浮き彫りになった。
アストラゼネカは欧米で適応拡大申請し、EUでは化学療法が不適な患者に限定で昨年12月に承認された。米国は優先審査指定されたが審査期間延長となり、今四半期中に結果が判明する見込み。
リンク: 両社のプレスリリース
Talzenna(talazoparib)はファイザーが16年に140億ドル(企業価値ベース)で買収したMedivationがその前年にバイオマリンファーマシューティカルから資産取得したPARP阻害剤で、18~19年に欧米でher2陰性のgBRCA1/2変異を持つ局所進行/転移乳癌用薬として承認された。PARP阻害剤としては後発だが、ファイザーは前立腺癌用薬Xtandi(enzalutamide)を持っているので、シナジーが見込めるかもしれない。今回の第3相TALAPRO-2試験はキモナイーブmCRPC1095人を組み入れてXtandiと併用する効果をXtandi・偽薬併用と比較した。主評価項目のPFS(同)はハザードレシオが0.63、HRR不全サブグループは0.46、それ以外は0.70だった。全生存期間は未成熟だがハザードレシオ0.89で数値上良好である由。HRRの有無によるデータは不明。PARP阻害剤はPFS向上が必ずしも延命に繋がるとは限らないように感じられることに留意したい。
既に適応拡大申請したとのことだが、結果が出るのは23年内と、大雑把にしか開示していない。優先審査指定されるかどうか分からない、という意味なのかもしれない。
リンク: ファイザーのプレスリリース
デルゴシチニブの海外手湿疹試験が二本目も成功
(2023年2月10日発表)
デンマークのLEO Pharmaは、delgocitinibの二本目の第3相中重度慢性手湿疹試験が成功したと発表した。延長試験が完了し1年忍容性データを取得後に承認申請するのではないか。
日本たばこ/鳥居薬品が日本で20年にアトピー性皮膚炎治療薬コレクチム軟膏として発売したJAK1阻害剤で、同社は14年に日本以外の開発商業化権を取得。昨年12月に一本目の成功を発表している。どちらも一日二回塗布して16週後の奏効率(IGA-CHEベース)を偽薬と比較したもの。データは未発表。JAK阻害剤は稀だが深刻な服用リスクを持つので、外用薬のほうがやや安心感がある(個人の感想です)。
リンク: LEOのプレスリリース
CDK4/6阻害剤の第3相結腸直腸癌試験が早期打ち切りに
(2023年2月13日発表)
G1 Therapeutics(Nasdaq:GTHX)はtrilaciclibの第3相転移性結腸直腸癌試験、PRESERVE 1を中止すると発表した。FOLFOXIRIとbevacizumabの併用レジメンに更に追加する便益を検討したところ、共同主評価項目の一つである重度好中球減少症リスクは偽薬追加比有意に抑制できたものの、薬効評価項目であるPFS(無進行生存期間)や全生存期間は達成の見込みが立たないと判定した。独立データ監視委員会も同様な見方であり、繰り上げ中止を決めた。
CDK4/6阻害剤は細胞周期進行を妨げる作用を持つためホルモン陽性乳癌の治療などに用いられているが、同社は、化学療法による骨髄毒性を緩和する作用に注目、21年に米国で、進展型小細胞性肺癌の化学療法に付随する骨髄抑制副作用を抑制する薬、Coselaとして承認取得した。今回の試験は癌種が異なるものの、インダクション・フェーズにおける発生率が1%と偽薬群の20%を大きく下回り、発生した症例での持続期間も0.1日対1.3日を下回った。重度下痢なども少なかった。
しかし、ORR(客観的反応率)は50%と偽薬群の60%を下回り、PFSや全生存期間の解析は、プレスリリースには明記されていないが、おそらく無益認定されたのだろう。ORRから推測すると、寿命が短くなる懸念が生じたのかもしれない。
FOLFOXFIRIの用量減少や投与遅延は偽薬群より少なかったとのことなので、副作用が原因とも考えにくい。詳細発表が望まれる。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
プレバイミスの投与期間延長と適応拡大を申請
(2023年2月17日発表)
MSDはPrevymis(letermovir)の承認内容の一部変更をFDAに申請した。17年に米国で、18年に欧日で、他家造血幹細胞移植を受けたCMV(サイトメガロウイルス)抗体陽性患者のCMV感染予防薬として承認されたが、今回は、高リスク患者の治療期間を100日ではなく200日に延長することと、CMV抗体陽性ドナーの腎細胞の移植を受けたCMV抗体陰性レシピエントに用いることを申請した。後者はvalganciclovir対照試験で予防効果が非劣性、副作用リスクは低かった。
リンク: 同社のプレスリリース
遅報:gepironeのNDAが受理
(2023年1月24日発表)
米国テキサス州のFabre-Kramer Pharmaceuticalsは、FDAがgepironeの再承認申請を受理したと発表した。審査期限は6月23日。3度目の正直は成らなかったが、4度目は如何?
5HT1A選択的なアゴニストで鬱病の治療に用いる。1993年にブリストル マイヤーズ スクイブからライセンスした。導出先のオルガノンが99年に米国で承認申請したが受理されず、01年に改めて申請したが、02年に承認不可能通知を受領した。03年に修正申請したが04年に再び承認不可能通知を受領し、翌年、権利をFabre-Kramerに返還した。
同社は二本の追加試験を実施、一勝一敗となったことを受けて07年に修正申請したが、またも承認不可能通知を受領した。紛争調停を経て15年に精神疾患用薬諮問委員会が招集されたが、9対4で薬効の挙証不十分と見なす委員が上回った。
非上場企業であるためか開示事項は限られており、今回、どのような資料を追加提出したのか明らかではない。
リンク: 同社のプレスリリース
合成ヒペリシンのNDAは受理されず
(2023年2月14日発表)
米国ニュージャージー州のSoligenix(Nasdaq:SNGX)はSGX301(hypericin)を早期皮膚T細胞リンパ腫の光力学療法として米国で承認申請していたが、Refusal-to-File通知を受領した。詳細は不明だが、薬効評価方法の妥当性がネックになったのかもしれない。
SGX301はセント・ジョーンズ・ワートの成分の一つである光増感性物質、hipericinを合成した軟膏。皮膚病変に塗布して悪性T細胞腫に集積させ、24時間後に蛍光灯を照射することによって細胞毒性を発揮させる。第3相試験はステージIとIIAの早期菌状息肉腫/皮膚T細胞リンパ腫169人を試験薬群(8週サイクルで週二回、6週連続で塗布)と偽薬群に無作為化割付けして病変反応率(3ヶ所の重症度が5割以上改善)を比較した。第1サイクル後は各群16%と4%、p=0.04とボーダーライン周辺だが統計的に有意な差があった。試験薬群は第2サイクルに進み、反応率が40%に上昇、第3サイクル後は49%に達した。偽薬群は第1サイクルで終了した。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Kimらの治験論文抄録(JAMA Dermatology、2022年)
【承認】
IgA腎症用薬が加速承認
(2023年2月17日発表)
Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)はFilspari(sparsentan)が成人の急速進行性原発性IgA腎症の治療薬としてFDAに加速承認されたと発表した。ブリストル マイヤーズ スクイブ由来のアンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニストで、ACE阻害剤やARBを服用してもタンパク尿が続く患者404人を組入れた第三相で、36週後の尿蛋白クレアチニン比が49.8%低下し、irbesartan群の15.1%低下を有意に上回った。この試験は盲検が継続しており、2年後のeGFR低下が有意に小さいことを確認した上で本承認切替を申請する予定。
価格は年12万ドルの予定。欧州でも申請中で今年下期に結果が判明する見込みで、承認後はCSL Viforが販売する。
Travereは一社供給の希少疾患用薬の販売権を取得し思いっきり値上げするビジネスモデルで鳴らしたMartin Shkreliが設立したRetrophinが20年に社名変更した。程度の差はあれ日本のGE薬メーカーもやっていることだが、氏は15年に証券不正容疑で逮捕され禁固7年の刑を受けることになった。
リンク: 同社のプレスリリース
αマンノシドーシスの酵素補充療法が承認
(2023年2月17日発表)
FDAはChiesi FarmaceuticiのLamzede(velmanase alfa-tycv)をαマンノシドーシス用薬として承認した。成人小児患者の非中枢神経系症状の治療に用いる。1mg/kgを週一回、緩徐点滴静注した52週間の試験で血漿オリゴサッカライド濃度が偽薬比有意に低下し、6分歩行テストやFVC検査値も数値上良好だった。有害事象は過敏反応など。
デンマークのZymenexを13年に買収して入手した、希少疾患用バイオ薬事業のフラッグシップ。EUでは18年に承認された。αマンノシドーシスはMAN2B1遺伝子の機能不全によりマンノーズの代謝が進まずオリゴサッカライドが蓄積、知的障害や難聴、免疫低下、筋骨格以上などを発現する。50万に一人の超希少疾患。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Chiesiのプレスリリース(PR Newswire)
C3阻害剤が今度は地図状萎縮用薬として承認
(2023年2月17日発表)
Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)はSyfovre(pegcetacoplan)が加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。21年に米国で承認された皮下注用夜間ヘモグロビン尿症治療薬Empaveliの活性成分を硝子体注射用に変えたもので、Soliris(eculizumab)が阻害するC5の上流で機能するC3とC3bに結合する合成環状ペプチドにPEGを結合したもの。15mgを25~60日に一回投与する。レーベルには審査期間延長の原因となった24ヶ月追跡データが収載された。網膜病変(眼底自発蛍光検査で評価、ベースライン値は約8mm2)の拡大がシャム比20%前後小さかった(群間差は1mm2程度と推測)。
150mg/1mLのシングル・ドース・バイアルの値引き前価格は2190ドルとする予定。
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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