2023年2月12日

第1089回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アベクマのMM3~5次治療データ 
  • 中外発の抗C5抗体をPNHに承認申請へ 
  • キイトルーダは子宮内膜腫の一次治療にも有効 
  • クラゾセンタンの欧米第3相はフェール 
  • ガラパゴス、ジセレカのクローン病適応は断念 
  • リジェネロン、抗C5抗体をCHAPLE症候群に新薬承認申請 
  • ODAC:dostarlimabを単群試験でdMMR直腸癌に加速承認申請してもよい 
  • 米国版タケキャブ製品は承認されず 
  • アイリーアが米国でも未熟児網膜症に承認 
  • 抗TROP-2抗体薬物複合体がホルモン受容体陽性乳癌の転移後二次治療薬として承認 
  • PRAC、プソイドエフェドリンの安全性を検討開始 


【新薬開発】


アベクマのMM3~5次治療データ
(2023年月日発表)

2seventy bio(Nasdaq:TSVT)と開発販売パートナーのブリストル マイヤーズ スクイブは、BCMA標的CAR-T療法Abecma(idecabtagene vicleucel)の第3相KarMMa-3試験のデータをNew England Journal of Medicineと欧州の学会で発表した。再発難治多発骨髄腫の米国では5次治療以降、欧州では4次治療以降に承認されているが、3~5次治療にも承認される可能性が出てきた。尤も、どちらも代表的な三種類の薬を既に使った患者が対象なので、実質的な違いは明確ではない。

この試験は免疫調停剤、プロテアソーム阻害剤、及び抗CD38抗体による2~4次治療歴を持ち最終治療抵抗性の再発難治多発骨髄腫386人をAbecma群と標準療法(5種類のレジメンから選択)に2:1割付けしてPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を比較した。中間解析でハザードレシオ0.49、メジアン値は各群13.3ヶ月と4.4ヶ月となり、成功認定された。

米欧日における承認のエビデンスとなった第2相は、免疫調停剤、プロテアソーム阻害剤、及び抗CD38抗体による3次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の再発難治多発骨髄腫を組入れた。使用済みの薬はもう使えないと考えれば、どちらの試験も似たような患者を組み入れたことになり、違うことは違うがそれほどの違いではないと言えないこともない。

リンク: 両社のプレスリリース


中外発の抗C5抗体をPNHに承認申請へ
(2023年2月7日発表)

ロシュはRG6107/SKY59(crovalimab)の第3相発作性夜間ヘモグロビン血症(PNH)試験で主評価項目を達成したと発表した。中国で優先審査中だが、米国などでも承認申請する予定。中外製薬がリサイクリング抗体技術を用いて創製した補体C5に結合阻害する抗体医薬で、維持期の投与頻度が4週毎と、類薬であるアストラゼネカのSoliris(eculizumab)の2週毎より少なく、静注ではなく皮下注であることが特徴。但し、アストラゼネカのUltomiris(ravulizumab)の8週毎静注には及ばない。

第3相のCOMMODORE 2試験は補体阻害剤を未使用のPNH患者約200人をcrovalimab群とeculizumab群に無作為化割付けして25週間治療し、輸血回避と溶血管理(LDH値が異常上昇しない)を比較したところ、何れも奏効率が非劣性だった。サポーティブ・エビデンスとなるのは第3相COMMODORE 1試験で、C5阻害剤で治療を受けているがLDH値が異常上昇している患者約190人を組入れて、スイッチする群とeculizumabを続ける群の安全性やPK、PDを比較したもの。スイッチした患者のDTDC(薬物の標的と薬物の複合体)関連臨床症状が主評価項目の一つに上がっている点が目を惹く。

治験登録によると、投与スケジュールは、第1日に1000mg(体重100kg以上の患者は1500mg)を静注、第2日からは340mgを週一回、合計5回皮下注し、その後は680mg(100kg以上は1020mg)を4週毎皮下注する。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダは子宮内膜腫の一次治療にも有効
(2023年2月3日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)が第3相NRG-GY018試験の中間解析で独立データ監視委員会により目的達成認定された。ステージIII/IVあるいは再発性の子宮内膜腫の一次治療を受ける819人を組入れて、carboplatin及びpaclitaxelの標準療法にKeytruda(最大20サイクル)を追加する便益を検討したもので、主評価項目はPFS(無進行生存期間)。被験者の3割を占めたdMMR(DNAミスマッチ修復不全)型にも、残りのpMMR(DNAミスマッチ修復可能)型にも効果が見られた。

この試験はNCI(米国立癌研究所)がスポンサーとなって、研究者共同治験グループがMSDの資金援助を受けて実施しているもの。データは未発表。適応拡大申請されるのではないか。

Keytrudaは米国で全身性治療後に進行した切除/放射線療法不適進行内膜腫に単剤(dMMRまたはマイクロサテライト不安定が高い患者に限定)またはエーザイのLenvima(lenvatinib)併用が承認されている。

リンク: MSDのプレスリリース


クラゾセンタンの欧米第3相はフェール
(2023年2月6日発表)

スイスのイドルシアは、clazosentanの第3相REACT試験がフェールしたと発表した。日本では二本の第3相がが成功し、昨年1月にaSAH(脳動脈瘤によるくも膜下出血)処置後の脳梗塞・脳虚血の発症を抑制する薬、ピヴラッツとして承認されたところなので、意外な結果だ。データは未発表。副次的評価項目の一つであるGOSE転帰はどうだったのだろうか?

速効性エンドセリンA受容体拮抗剤で、動脈瘤のクリッピング術やコイル塞栓術後に起こりがちな血管攣縮を抑制し転帰を向上することが期待されている。日本の第3相はクリッピング術を受けた患者とコイル塞栓術後の患者に分けて221人ずつ組み入れて、10mg/hrを最大15日間連続点滴静注し、6週間の新規脳梗塞、DIND(遅発性虚血性神経脱落症状)、または全死亡の複合評価項目を偽薬群と比較したところ、どちらも発生率が半分だった。Glasgow Outcome Scale-Extendedに基づく評価でpoor outcomeと判定された患者の比率も2~3割少なく、死亡率もやや少なかったが、検出力不足なのか統計的に有意ではなかった。

clazosentanは10年前に欧米などで似たような内容の第3相が二本、実施されたが、クリッピング術を受けた患者1147人に5mg/hrを連続点滴静注した試験がフェールし、Glasgow Outcome Scaleに基づく評価は数値上悪かった。コイル塞栓術を受けた患者を組み入れた試験は煽りを受け組入れ中止となってしまったが、5mg/hr群は効果が見られなかったものの、15mg/hr群は良い数値が出た。但し、Glasgow Outcome Scaleに基づく評価は偽薬群と大差なかった。

今回のREACT試験はクリッピング術または血管内コイル塞栓術を受けたaSAH患者409人を組入れて15mg/hrを最大14日連続点滴静注し14日間の遅発性脳虚血を偽薬群と比較した。新規脳梗塞も評価に含まれるかどうかは不明。

リンク: 同社のプレスリリース


ガラパゴス、ジセレカのクローン病適応は断念
(2023年2月8日発表)

ベルギーのGalapagos(Euronext/Nasdaq:GLPG)はJAK阻害剤Jyseleca(filgotinib)の第3相中重度活性期クローン病試験が部分的にしか成功しなかったことを明らかにした。適応拡大は断念した。

経口JAK1阻害剤で、日欧でリウマチ性関節炎や潰瘍性大腸炎の治療薬として承認されているが、精巣毒性が見られることなどから、先行類薬が複数存在することも踏まえて、米国では承認されなかった。

今回の第3相はバイオ薬の未経験者と経験者を組入れて、100mgまたは200mgを一日一回投与する効果を偽薬と比較した。第10週の臨床的寛解率(患者自身が評価)と内視鏡的奏効率はフェール、第58週は200mgだけ偽薬比有意だった。

共同開発販売権を持つギリアド・サイエンシズは米国で審査完了通知を受領後に提携範囲をクローン病だけに縮小したが、解消になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


リジェネロン、抗C5抗体をCHAPLE症候群に新薬承認申請
(2023年2月3日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は2022年決算を発表するとともに開発プロジェクトの進捗をアップデートした。

新薬ではREGN-3918(pozelimab)を米国で承認申請したことが公表された。抗C5抗体で、ファースト・イン・クラスであるアレクシオン(アストラゼネカ)のSoliris(eculizumab)の適応であるPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)などにも開発されているが、初申請の適応症はCHAPLE(CD55/DAF deficiency with hyperactivation of complement, angiopathic thrombosis, and protein-losing enteropathy)症候群という、病気も臨床開発されていたことも初耳の超希少疾患だ。PNHは後天的遺伝子変異の影響で補体制御因子であるCD55やCD59が細胞の表面から遊離し溶血症状を齎すが、CHAPLE症候群はCD55自体の機能喪失変異による劣性遺伝性疾患で、低たんぱく血症や浮腫をもたらすタンパク漏出性腸症や血栓症を合併する。REGN-3918はCD55が制御できないでいるC5をブロックすることで補体系の異常亢進を抑制する。

IL-6受容体アルファ・ユニットを標的とするKevzara(sarilumab)は類薬である中外製薬/ロシュのActemra(tocilizumab)と同様にリウマチ性関節炎に承認されているが、新たに、米国でグルココルチコイド抵抗性リウマチ性多発筋痛症に適応拡大申請された。第3相SAPHYR試験で持続的寛解率が28.3%と偽薬群の10.3%を上回った。p値は0.0193で、それほど低くない。COVID-19の影響で組入れが117人と目標の280人を大きく下回ったことや、52週間の治療完了率が6~7割とあまり高くないことが影響したのかもしれない。尚、持続的寛解率の水準もそれほど高くないのは、ステロイドを14週急速減量しながら12週時点で寛解し52週時点でも持続と、ハードルが高いことも斟酌すべきだろう。

加齢性黄斑変性や糖尿病性網膜浮腫の治療薬である硝子体注射用VEGFR融合蛋白、Eylea(aflibercept)は、8mg製剤が12月に米国で承認申請された。最初の3回は月一回だが、その後は3ヶ月毎や4ヶ月毎と既存の2mg製剤より低頻度で済むことが特徴。優先審査バウチャを用いて迅速承認を狙う。

IL-4受容体アルファ・サブユニットを標的とする同社の大ヒット抗体医薬、Dupixent(dupilumab)は、米国で成人と青少年の慢性特発性蕁麻疹に適応拡大申請された。第3相では6歳以上で抗ヒスタミンに十分応答しない、バイオ薬未経験の患者131人に追加投与したところ、FDA向けの主評価項目であるISS7(痒みの評価スケール)が24週間で10.24ポイント(63%)低下と、偽薬群の6.01%(35%)を有意に上回った。EMEA向けのUAS7(蕁麻疹活動性スケール)の低下も20.53ポイント(65%)対12.0ポイント(37%)で有意な差があった。一方で、ノバルティスのXolair(omalizumab)に応答不十分/不耐の患者を組入れた標準療法対照試験は無益認定された。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ODAC:dostarlimabを単群試験でdMMR直腸癌に加速承認申請してもよい
(2023年2月9日発表)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集しdMMR(ミスマッチ修復不全)の直腸癌におけるサロゲート・マーカーについて意見を聞いた。GSKの抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)に関するもので、単群試験二本の臨床的反応率データに基づいて加速承認の是非を検討することに13人の委員のうち8人が賛成、5人が反対した。反応判定時期は1年では足りず3年とすべきという意見が見られたので、エビデンスを少しでも頑強化すべく評価方法や副次的評価項目を厳格化した上で、加速承認申請を認めるのではないか。

JemperliはdMMR難治/進行内膜腫や適切な治療方法がないdMMR再発/進行固形癌で白金薬による治療歴を持つ患者に用いることが米国で承認されている(後者は加速承認、前者は本承認に切り替わったところ)。dMMRは腫瘍のDNAに様々な変異があり抗PD-1/PD-L1抗体のような免疫療法が標的にしやすいところがある。JemperliのdMMR型直腸癌用途はメモリアル・スローン・ケッタリングがんセンター(MSKCC)が切除術前のネオアジュバント療法として単剤投与し、反応が不十分だったら化学放射線療法(CRT)にシフト、臨床的完全反応を達成したら手術はしないというプロトコルの30人規模の研究者主導単施設単群試験を実施中。昨年のASCO(米国臨床手票学会)で18人すべてが臨床的完全反応という中間解析結果が発表され、大きな注目を集めた。手術すれば完治が可能だが、再発の可能性や、人工肛門や排尿生殖機能障害などのリスクがあるため、結果が同じなら避けたいからだ。

FDAは、臨床的反応率が延命という最も重要な転帰を予測するかどうか確立していないため、CRTと切除術による標準療法と延命またはそれに準じる効果を比較する臨床試験を求めるべきか尋ねた。諮問委員は、直腸癌は米国で年46000人程度、うちdMMRは3~20%とあまり多くないことや、MSKCCデータが広く報じられ期待が高まっていることなどから、対照試験の実施は困難と指摘。GSKが実施する100人規模の単群反応率試験と合わせて、加速承認のエビデンスとすることを過半が首肯した。

リンク: GSKのプレスリリース
リンク: 内膜腫本承認に関するFDAのリリース


米国版タケキャブ製品は承認されず
(2023年2月9日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)は米国でvonoprazanをびらん性食道炎の治療と寛解維持に承認申請していたが、審査可能通知を受領した。日本で武田薬品がタケキャブとして販売しているカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(PCAB)をライセンスしたもので、昨年5月にはピロリ菌除菌療法に必要な抗生剤を同梱したVOQUEZNATRIPLE PAKとDual Pakが承認されたが、こちらも、品質に関する追加的申請が審査完了となり、発売が遅れている。

原因は、米国で生産されている製品からNVP(N-nitroso-vonoprazan)が微量検出されたこと。NDMA(N-nitrosodimethylamine)と同様に過量摂取時の癌原性が懸念されており、薬剤保管中に増加する可能性もあるため、有効期間(日本では3年)中に一日当り96ナノグラムの許容量を超えないことを確認する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


アイリーアが米国でも未熟児網膜症に承認
(2023年2月8日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はFDAがEylea(aflibercept)をROP(未熟児網膜症)の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。日欧では既に同剤とノバルティスのLucentis(ranibizumab)が承認されているが、米国でROP治療薬が承認されたのは初めて。第3相が二本ともフェールしたので危ぶんだが、対照群であるレーザー治療と非劣性でなくとも、なにもしないより良いだろうし、副作用の出方が違うので選択肢となりうるという判断なのだろう。

ROPは極低出生体重児でしばしば見られる網膜血管の異常増殖。自然治癒することもあるが失明に至ることもある。米国では年1100~1500人が治療すべきROPと診断されるとのこと。標準療法は網膜光凝固術。重度ROP患者を組入れた二本の試験で、第52週奏効率(ROPが治癒し構造的異常もない)が一本は78.7%、もう一本は79.6%だった。レーザ-治療群は各81.6%と77.8%で、どちらも非劣性解析がフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


抗TROP-2抗体薬物複合体がホルモン受容体陽性乳癌の転移後二次治療薬として承認
(2023年2月3日発表)

ギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の適応拡大がFDAに承認された。22年に210億ドルで買収したImmunomedicsのTROP-2標的抗体薬物複合体で、トリプル・ネガティブ乳癌の転移後2次治療薬として承認されているが、今回、成人の切除不能局所進行性または転移性のホルモン受容体陽性her2陰性乳癌で内分泌療法薬に加えて転移後に二次以上の全身性治療歴を持つ患者に用いることが認められた。TROPiCS-02試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.66となり、メジアン値は5.5ヶ月と医師が選んだ薬を投与した対照群の4.0ヶ月を上回った。全生存期間は390人死亡後に実施された中間解析でハザードレシオ0.79となり有意な差があった。メジアン生存期間は各14.4ヶ月と11.2ヶ月。喜ぶほどではないが一歩前進した。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、プソイドエフェドリンの安全性を検討開始
(2023年2月10日発表)

EMAのファーマコビジランス・リスク・アセスメント委員会(PRAC)は、風邪などによる鼻詰まりの治療に用いられているプソイドエフェドリンを含有する薬について安全性の検討を開始した。心血管疾患や脳血管疾患のリスクを持つことが知られているが、有害事象報告や医学誌にRCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)やPRES(可逆性後頭葉白質脳症)症例が報告されたため。少数だが深刻な疾患なので、販売承認を継続すべきか、あるいは内容修正、停止、撤回すべきか、検討する。

フランスの承認審査機関であるANSMがEMAに検討を要請したもの。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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