【ニュース・ヘッドライン】
- 武田、超希少疾患用酵素補充療法の第3相が成功
- テロメラーゼ阻害剤の第3相が成功
- 中華経口レムデシビルの第3相が成功
- ロシュの抗CD20xCD3抗体も米国申請
- 伝染性軟属腫治療薬を承認申請
- UCB、第2のgMG用薬を承認申請
- アストラゼネカ、一回投与型RSV予防薬を米国でも承認申請
- C5阻害剤を地図状萎縮に承認申請
- PCAB阻害剤の米国発売がニトロソアミン問題でさらに遅延
- 抗アミロイド・ベータ抗体が早期アルツハイマー病に加速承認
【新薬開発】
武田、超希少疾患用酵素補充療法の第3相が成功
(2023年1月5日発表)
武田薬品はTAK-755の第3相cTTP(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)試験の中間解析で良好な結果を得たことを公表した。欧米などで承認申請する考え。
cTTPは米国の患者数が300~400人の超希少疾患。血小板を繋げて血栓を形成するvWFを切断する酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)の遺伝子が欠乏・不十分であるためvWFが超高分子量重合体のまま残り、本来なら損傷・出血箇所だけであるべき血栓が微小血管で形成され、溶血性貧血や虚血性臓器障害、血小板が足りなくなる血小板減少症などをもたらす。標準治療は血漿療法。
TAK-755は遺伝子組換え型ADAMTS13。血液製剤大手のBaxterから15年にスピンアウトされたBaxaltを買収したシャイアを19年に買収して入手した。今回の第3相は12歳以上の患者を組み入れて、40IU/kgを2週毎点滴静注する効果を標準療法とオープン・レーベル、クロスオーバー方式で比較した。重要な疾患活動性マーカーである血小板減少症事象が標準療法比60%(95%信頼区間30~70%)少なかった。有害事象の発生率は8.9%で標準療法の47.7%より小さかった。
解析対象症例数は不明。ClinicalTrials.govによると、急性TTPを治療するコフォートと予防するコフォートが設定された模様だが、武田のプレスリリースでは言及されていない。
リンク: 同社のプレスリリース(和文)
テロメラーゼ阻害剤の第3相が成功
(2023年1月4日発表)
テロメラーゼ阻害剤を開発しているGeron(Nasdaq:GERN)は、GRN163L(imetelstat)の第3相試験が成功したと発表した。MDS(骨髄異形成症候群)に伴う貧血を治療する試験で、4割の患者が輸血不要になった(偽薬群は15%)。欧米で23年央から承認申請を開始する予定。
テロメラーゼのRNAを標的とするオリゴヌクレオチドでMDSや骨髄線維症の第3相が進行中。今回の試験は低リスクのMDSで赤血球生成刺激剤による貧血治療に応答せず輸血に依存している患者178人を7.5mg/kgを4週毎投与する群と偽薬群に2対1割付けして輸血独立達成率を比較した。主評価項目は8週時点の上記数値。24週時点でも28%対3%で有意な差があった。予後因子や輸血必要量などに基づく各サブグループに有効だった。
G3/4有害事象は血小板減少症(発生率62%、偽薬群は8%)、好中球減少症(67%対3%)、貧血(19%対6%)など。貧血治療薬で貧血が増えるのは奇妙だが、輸血を我慢しすぎたのかもしれない。FDAが肝毒性を危惧して治験停止命令を出したこともある薬剤だが、本試験ではG3のALT上昇発生率は3.4%と偽薬群の5.1%と大差なかった。Hyの法則該当例はゼロとのことだが、FDAのガイダンスは慢性病用薬である場合は1000人に一人以下であることを確認するよう求めているので、低リスクMDSにも当てはまるかどうかは兎も角として、リスクがないと決めつけるのは時期尚早だろう。
リンク: 同社のプレスリリース
中華経口レムデシビルの第3相が成功
(2022年12月28日発表)
ギリアド・サイエンシズが開発したポリメラーゼ阻害剤Veklury(remdesivir)はCOVID-19治療薬として広く用いられている。静注用薬だが、中国で開発された経口重水素化塩の第3相試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。商業化の一翼を担うJunshi Biosciences(上海君実生物医薬、HKSE:1877)によると21年にウズベキスタンで承認されたとのことだが、中国などでの承認申請状況は不明。ギリアドの知財との関係性も不明。
このVV116(deuterated remdesivir hydrobromide)は中国の複数の大学における研究を礎にVigonvita Life SciencesがJunshiと共に臨床開発と商業化を進めているもの。第3相は今年4~5月のBA.1流行期に上海の7指定病院で軽中等症だが高リスクの患者を試験薬(初日は600mg、第2~5日は300mgを12時間おきに投与)とPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)に無作為化割付けして非劣性仮説を評価者盲検方式で検討した。持続的臨床的回復のハザードレシオ(n=771)は1.17となり、95%下限は1.02で0.8超というハードルをクリアした。持続的臨床的回復のメジアン期間は各群4日と5日だった。
数値上はPaxlovidより若干良いが、回復した患者の比率は第5日時点でもそれ以降でも両群大差なかったようだ。また、オミクロン株流行下ではやむを得ないが、重症化した患者は両群ゼロだったため抑制効果は検討できなかった。グレード3/4の有害事象発生率は両群大差なかった。
留意点は、被験者の9割が軽症、ワクチン接種済みが75%、発症5日以内に投与した症例は77%と、ベンチマークであるPaxlovidの第3相試験の患者背景と一致していないこと。非劣性試験はA>P、C≒A、∴C>Pという三段論法の上に成り立っているので、患者の特性をできるだけ近づける必要があるはずだ。
また、中国の臨床試験はサブスタンダードなものが多いらしく、FDAは、中国でのエビデンスしかない抗癌剤の承認を相次いで見送っている。
それはそれとして、もし経口剤が実用化されれば入院していない患者には特に有益だろう。薬物相互作用リスクが小さいならそれも長所になるだろう。
リンク: Caoらの治験論文(NEJM)
リンク: Junshiのプレスリリース(Globe Newswire、12/29付)
【承認申請】
ロシュの抗CD20xCD3抗体も米国申請
(2023年1月6日発表)
ロシュはRG6026(glofitamab)を米国でも承認申請し受理された。審査期限は7月1日。CD20に結合するモノクローナル抗体可変領域とCD3に結合する可変領域を2対1の比率で固定領域と結合した二重特異性抗体で、成人の難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療に用いることを想定している。EUでは昨春に承認申請しており、米国が遅れた理由は不明。
同社は同様な抗CD20xCD3抗体のLunsumio(mosunetuzumab-axgb)が昨年欧米で承認された。難治/再発濾胞性リンパ腫の3次治療薬で、進行が穏やかな血液癌は忍容性が上回るLunsumio、悪性度の高い血液癌はglofitamab、という棲み分けを図る考え。
抗CD20xCD3抗体はアッヴィもジェンマブからライセンスしたepcoritamabを難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として欧米日で承認申請中。ジェンマブによると米国の審査期限は5月21日で、glofitamabの7月1日より1か月強早い。完全反応率はどちらも大差なさそうだ。
リンク: ロシュのプレスリリース
伝染性軟属腫治療薬を承認申請
(2023年1月6日発表)
米国ノース・キャロライナ州の新興製薬会社、Novan(Nasdaq:NOVN)は、SB206(berdazimer)を伝染性軟属腫治療薬として米国で承認申請した。一日一回塗布するファースト・イン・クラスのジェル製剤で、順調なら正式に承認された初めての治療薬となるが、会社側は優先審査を想定していないので、unmet medical needsではないのだろう。
生後6ヶ月以上の小児成人891人を組入れて12週間治療した第3相試験で、病変の完全解消率が32.4%と偽薬群の19.7%を有意に上回った。有害事象は注射箇所反応や紅斑など。治療関連深刻有害事象は発生せず、有害事象治験離脱率は4.1%だった(偽薬群は0.7%)。
このウイルス感染症は外科治療が一般的で、薬はimiquimodなどがオフレーベル使用されているようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
UCB、第2のgMG用薬を承認申請
(2023年1月6日発表)
UCBはUCB7665(rozanolixizumab)を成人のAChR(アセチルコリン受容体)またはMuSK(筋特異的チロシン・キナーゼ)に対する自己抗体を持つ重症筋無力症(gMG)用薬として欧米で承認申請した。ヒトneonatal Fc受容体に結合する抗体医薬で、米欧日などで実施された第3相試験では43日間のMG-ADL総スコアの悪化が偽薬比2.6ポイント程度小さかった。治療時発現有害事象が82%の患者で見られた(偽薬群は67%)。
同社はC5を選択的に阻害する環状ペプチド、zilucoplanも昨年11~12月に欧米日で成人の抗AChR抗体を持つgMGに承認申請している。19年に第3相入りと前後して25億ドルで買収したRa Pharmaceuticalsの開発品で、第3相試験では12週間のMG-ADL総スコアの悪化が偽薬比2ポイント程度小さかった。治療時発現有害事象発生率は76.7%(偽薬群は70.5%)。二剤のデータを比較できるかどうかは不明。評価時期だけでなく、組み入れ条件も前者はベースライン時点のMG-ADLが3以上、後者は6以上と若干異なっている。
リンク: 同社のプレスリリース
アストラゼネカ、一回投与型RSV予防薬を米国でも承認申請
(2023年1月5日発表)
アストラゼネカはFDAがnirsevimabの承認申請を受理したと発表した。審査期限は今年第3四半期。欧州では昨年11月にBeyfortus名で承認された。サノフィが販売権を持っている。
子会社のMedImmuneが創製したRSV疾患予防用抗RSV-Fタンパク抗体Synagis(palivizumab)の後継品で、固定領域のアミノ酸を3個置換して半減期を平均2ヶ月程度に長期化したため、RSV流行シーズンに毎月ではなく、一回だけ筋注で足りる。適応範囲も広く、早産児や心臓疾患などを持つ乳幼児に限定されなさそうだ。
同社は最初のRSVシーズンを迎える新生児/幼児と二回目を迎える重症RSV疾患に脆弱な幼児(例:心臓疾患など)を目標適応としているが、EUは前者しか承認しなかったので、2年目はシナジスを使うことになる。米国の適応範囲がどうなるか注目される。
リンク: 同社のプレスリリース
C5阻害剤を地図状萎縮に承認申請
(2022年12月20日発表)
Iveric Bio(Nasdaq:ISEE)は22年11月にavacincaptad pegolのローリング承認申請に着手したが、12月に完了した。加齢性黄斑変性に伴う地図状萎縮の治療薬で、2mgを月一回、硝子体注射する。第3相試験では地図状萎縮の広がりを一本では偽薬比27%、もう一本では14%、抑制した。
07年にArchemixからライセンスしたRNAアプタマーで、C5がC5aとC5bに切断されるのを妨げる。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
PCAB阻害剤の米国発売がニトロソアミン問題でさらに遅延
(2023年1月3日発表)
Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はvonoprazan合剤の米国での発売や単剤のびらん性食道炎用薬としての承認が遅延すると発表した。22年5月にPCAB阻害剤と抗生剤を配合したピロリ菌除菌用製品Voqueznaとして米国で承認されたが、商業用バッチから微量のNVP(N-nitroso-vonoprazan)が検出されたため、発売予定が22年第2四半期から23年第1四半期に変更された。今回、合剤の発売がさらに遅れ、1月11日に審査期限を迎えるvonoprazan単剤の承認もFDAから遅れる旨の連絡を受けたことが公表された。製薬業界に激震を起こしているニトロソアミン及び関連物質は保管中に増加する現象が見られる。同社は、FDAと協議の上、有効期間中に許容摂取量である96ナノグラム/日を超えないことを確認することを決めた。発売はこの安定性試験が完了しFDAの審査を受けた後になりそうだ。
時期は不明。vonaprazanは日本では武田薬品がタケキャブとして販売しているが、有効期間は3年となっている。
リンク: Phathomのプレスリリース
【承認】
抗アミロイド・ベータ抗体が早期アルツハイマー病に加速承認
(2023年1月6日発表)
FDAは、エーザイが07年にスウェーデンのバイオアークティック・ニューロサイエンスからライセンスしてバイオジェンと共同開発した抗アミロイド・ベータ抗体、Leqembi(lecanemab-irmb)をアルツハイマー病用薬として承認した。MCI(軽度認知障害)または軽度アルツハイマー病で脳にアミロイド・ベータの蓄積が確認された患者に、10mg/kgを2週毎に1時間点滴静注する。アミロイド・ベータ蓄積を削減する作用を示した第2相試験に基づく加速承認で、臨床的便益は未確認だが、既に第3相の成功が発表されているので、順調なら1年以内に本承認されるだろう。
両社は21年にもやや異なった抗アミロイド・ベータ抗体Aduhelm(aducanumab-avwa)が米国でだけ加速承認された。Leqembiの違いは、第3相が成功したこととARIA(アミロイド関連画像異常)の発生率がやや低いこと。レーベル面の違いは、治療開始時点で早期段階の患者だけが適応と承認当初から明記されていること。
WAC(問屋取得価格)は体重75kgの患者で年26500ドルと、Aduhelmの引き下げ後の価格(74kgの患者で28200ドル)より少し安くなる模様。共同開発品は夫々の会社が十分なROE(自己資本利益率)を獲得しようとするため割高になりがちだが、普通に高価な薬に収まった。
日本の製薬会社は時々、面白いネーミングをする。第一三共のprasugrelはサノフィのプラビックスより優れるという期待を示したものと日本人なら推察できる。Leqembiは一般名を反映したようにも見えるが、報道によると、バイオアークティックの創業者の頭文字であるLとエーザイのe、そして、健康のq、エレガントのe、そして美(bi)を組み合わせたものでもあるという。
米国で普及するのはまだ先だろう。薬剤費300万円以上と診療費、MRI検査費用を全額自己負担できる人は少数なので、高齢者向け医療制度メディケアのカバレッジが必要であり、そのためには、第3相試験のデータを提出して本承認を取得するとともに、CDR-SBの18ヶ月間の低下が1.21点と偽薬群の1.66点より0.45点小さいという治療効果の意義を説得しなければならない(差はCDR-SBのノッチである0.5または1より小さい)。
メディケアがカバーしてくれれば自己負担はアンブレラ加入者は多くて一日数ドル、なくても14.5ドル程度で済む由だが、翻って、日本だと1割負担で月2~3万円、3割だと7~8万円、更に診察費や高価なMRI検査費用も上乗せされる。米国同様に、健康保険料も引き上げられるだろう。国民年金だけの人は生活費が残るかどうか分からない。
重要な有害事象は点滴関連反応とARIA。後者は多くの場合、MRI画像に異常が見られるだけで臨床症状を伴わないが、米国で広く報道されているように、臨床試験でLeqembiの投与を受けていた患者のうち3名が脳梗塞や脳内出血で死亡した。何れも抗血栓薬やtPAを用いており、報道によると、昨年、臨床試験のインフォームド・コンセントが改訂され、血栓予防薬を併用すると死に至ることもある脳出血のリスクが100人当たり1人以上、5人未満に高まる可能性があることが開示された。
今回、エーザイが発表した声明では、アルツハイマー病のリスク因子であるアポリポ蛋白のエプシロン4型を両親から継承したApoE4ホモ接合型患者は、臨床試験でLeqembiの投与を受けた10人中4人が症候性ARIAを発現し、うち2人は重度ARIAだった。当該試験の症候性ARIA発現例は5人なので、その8割がApoE4ホモ接合型だったことになる。可能なら投与前に検査したほうが良さそうだ。
尚、レーベルやプレスリリースに記載されている有害事象発現率は第2相試験のものであり、第3相のデータが収載された段階でARIA発生率などのデータが変わるだろう。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Prescribing Information(pdfファイル)
リンク: エーザイの声明(和文pdfファイルのリンクページ)
今週は以上です。
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