2023年1月21日

第1086回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗CLDN18.2抗体の第3相データ 
  • オニバイドが直接比較試験で標準療法を若干上回る 
  • テセントリク、HCCアジュバント試験が成功 
  • モデルナも高齢者向けRSVワクチンを承認申請へ 
  • ロンサーフ、ベバシズマブ併用大腸癌試験が成功 
  • HIV予防ワクチンはJNJも第3相フェール 
  • リリーの抗アミロイド・ベータは承認されず 
  • 百済神州のbtk阻害剤が適応拡大 
  • her2阻害剤と抗her2抗体の併用が大腸癌の一部に承認 


【新薬開発】


抗CLDN18.2抗体の第3相データ
(2023年1月20日発表)

アステラス製薬はASCO GIで抗CLDN18.2抗体IMAB362(zolbetuximab)の第3相SPOTLIGHT試験の成績を発表した。CLDN18.2陽性、her2陰性の切除不能局所進行性/転移性胃・食道胃接合部腺癌の一次治療を受ける患者を組み入れて、mFOLFOX6レジメンに追加する効果を偽薬追加群と比較したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.751、メジアン値は各群8.67ヶ月と10.61ヶ月で統計的に有意な差があった。副次的評価項目の全生存期間もハザードレシオ0.75、メジアン値は各15.54ヶ月と18.23ヶ月で3ヶ月弱の延命効果が見られた。治療時発現深刻有害事象が各群43.5%と44.8%の患者で見られた。承認申請を予定。

BioNTechの共同創設者夫妻が設立したGanymed Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。CLDN18.2は細胞間接着分子で、胃・食道胃接合部の腺癌の4割弱がCLDN18.2を高発現している。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


オニバイドが直接比較試験で標準療法を若干上回る
(2023年1月20日発表)

イプセンは昨年11月にOnivyde(irinotecan liposome)の膵管腺癌一次治療試験の成功を公表したが、データをASCO GIで発表した。全生存期間が標準療法を有意に上回ったが、p値はボーダーライン近辺で、点推定値の差もそれほど大きくはない。適応拡大申請する考え。

Onivydeはトポイソメラーゼ阻害剤irinotecanのPEG化、リポソーム製剤。15~20年に米欧日で転移性膵腺腫の二次治療薬として承認された。今回のNAPOLI 3は、Onivydeを5-FU、leucovorin、及びoxaliplatinと併用するNalirifoxレジメンと、標準療法の一つであるnab-paclitaxelとgemcitabineのレジメンを比較した。主評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.83、p=0.04、メジアン値は11.1ヶ月対9.2ヶ月で、一般的な要求水準であるハザードレシオ0.8、メジアン値の上乗せ2ヶ月をクリアしていない。副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)はハザードレシオ0.69、メジアン値は7.4ヶ月と5.6ヶ月。

G3/4治療時発現有害事象は下痢や悪心、低カリウム血症の発生率が対照群より高く、貧血や好中球減少症が少なかった。

リンク: 同社のプレスリリース


テセントリク、HCCアジュバント試験が成功
(2023年1月19日発表)

ロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)をbevacizumabと併用で早期肝細胞腫の治癒的切除/焼灼術後アジュバントに用いた第3相、IMbrave050試験が成功した。早期肝細胞腫は手術が奏功しても7~8割が再発するという。本試験はリスク因子を持つ662人を組入れてTecentriq(1200mg)とAvastin(15mg/kg)を3週毎に、最大12ヶ月間、投与する効果を積極的監視群と比較した。主評価項目は無再発生存期間(独立評価)。データは未発表。

TecentriqとAvastinの併用は切除不能肝細胞腫の一次治療レジメンとして米日欧で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


モデルナも高齢者向けRSVワクチンを承認申請へ
(2023年1月17日発表)

モデルナはmRNA-1345の第3相ConquerRSV試験で主目的を達成した。今年上期に承認申請する考え。今秋にはGSKやファイザーの抗原ワクチンとともに高齢者の接種が始まるのではないか。

同社のSpikevax(elasomeran等)と同様な、ウイルスのmRNAをリキッド・ナノパーティクルに封入したワクチンで、RSウイルスの融合前F糖蛋白を発現させ免疫を誘導する。今回の試験は60歳以上の被験者を第2相パートも含めて37000人組入れて、一回接種の効果を偽薬と比較した。主評価項目は、二つ以上の症状を伴うRSV関連下部気道疾患(RSV-LRTS)と、三つ以上の症状を伴うRSV-LRTS。前者は各群9人と55人が該当し、ワクチン効率は83.7%(95.88%信頼区間66.1-92.2)、後者は3人と17人でワクチン効率82.4%(96.36%信頼区間34.8-95.3)となり、高い予防効果が示された。

G3以上の有害事象発現率は4.0%対2.8%でそれほど増えなかった。

昨年10~11月に日欧米で承認申請が受理されたGSK3844766Aのワクチン効率は82.6%、12月に米国で承認申請が受理されたファイザーのPF-06928316は2症状以上のRSV-LRTSが66.7%、3症状以上は85.7%だった。点推定値は大小あるが信頼区間は重複しており、定義が異なる可能性もあるので、大差ないと考えたほうが良いだろう。米国の審査期限はGSKのワクチンが5月3日、ファイザーは5月とだけ公表されている。モデルナも順調なら秋までに承認されるのではないか。

リンク: モデルナのプレスリリース


ロンサーフ、ベバシズマブ併用大腸癌試験が成功
(2023年1月17日発表)

セルビエと大鵬薬品の米国子会社は、Lonsurf(trifluridine、tipiracil)の第3相SUNLIGHT試験の結果をASCO GI学会で発表した。最大2レジメンによる前治療に不応不耐の転移結腸直腸癌を欧米露ウクライナの医療施設で組入れて、bevacizumab併用群とLonsurfだけの群の全生存期間を比較したところ、ハザードレシオは0.61、メジアン値は10.8ヶ月対同7.5ヶ月と有意な延命効果が示された。適応拡大申請する予定。

Lonsurfは米国では結腸直腸癌や胃癌の三次治療薬として単剤投与することが承認されている。セルビエは北米、メキシコ、アジアを除く地域の販売権を持っている。

リンク: 両社のプレスリリース(BUSINESS WIRE)


HIV予防ワクチンはJNJも第3相フェール
(2023年1月18日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Ad26.Mos4.HIVの第3相HIV感染予防試験がフェールしたと発表した。欧州米州の男性とセックスする男性やトランスジェンダー女性3800人を組入れて、一年間に4回接種する効果を検討したが、独立データ安全性監視委員会が中間解析で無益認定し、中止が決まった。

二種類のHIVの遺伝子の一部をアデノウイルス26型に組み込んだ『モザイク』ワクチンで、3回目と4回目はClade CとMosaic gp140のアルミアジュバント・ワクチンも接種した。

サブサハラ・アフリカの女性を組み入れた後期第2相試験もワクチン効率が25%、95%下限は-10.5とフェールしており、開発中止になりそうな状態だ。

ワクチンの開発はフェールが続いているが、ギリアドのTruvada(tenofovir DF, emtricitabine)が臨床試験で40~75%の予防効果を示し、多くの国で承認されているので、選択肢の一つになる。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


リリーの抗アミロイド・ベータは承認されず
(2023年1月19日発表)

イーライリリーはLY3002813(donanemab)を早期アルツハイマー病用薬としてFDAに承認申請し、加速審査を受けていたが、審査完了通知を受領した。第2相試験で示されたアミロイド・ベータ削減作用に基づき加速承認を求めたが、12ヶ月以上投与した症例が100例未満であったため、安全性の挙証が不十分と判定された模様。今年第2四半期に第3相試験の結果が出る見込みなので、そのデータに基づき本承認を求めることになりそうだ。

抗アミロイド・ベータ抗体の実用化はエーザイ/バイオジェン連合が先行。先般、Leqembi(lecanemab-irmb)が米国で加速承認された。要約審査報告書によると、承認された10mg/kg二週毎投与の実績は1年以上が217例、6ヶ月以上が237例と、前者は命に係わらない病気の長期治療薬に関するICH(医薬品規制調和国際会議)基準の100例を上回っていたが、後者は300人に達していなかったが、要約審査報告書によると、アルツハイマー病は深刻な命に係わる疾患であり、また、1年基準を上回っていれば6ヶ月基準を満たしていなくても許容できる。

加速承認時点では第3相試験の成功が公表されていたことも考慮しなければならないが、アルツハイマー病が深刻な命に係わる疾患ならば12ヶ月100例というE1基準は適用されないのだから、今回の判定はダブルスタンダードの疑いがある(donanemabの1年投与実績があまりに少ないとか、ほかにも理由があるのかもしれないが)。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: LeqembiのFDA Summary Review(pdfファイル)

【承認】


百済神州のbtk阻害剤が適応拡大
(2023年1月19日発表)

FDAはBrukinsa(zanubrutinib)をCLL(慢性リンパ性白血病/SLL(小リンパ球性リンパ腫)の治療に用いる適応拡大を承認した。一次治療のSEQUOIA試験ではPFS(無進行生存期間、独立評価委員会ベース)がbendamustineとrituximabを併用した群を有意に上回った。難治再発患者のALPIN試験ではORR(客観的反応率)が88%となり、Imbruvica(ibrutinib)群の73%を若干上回った。有害事象は骨髄抑制や二次的腫瘍、心房細動・粗動など。

BeiGene(百済神州)のbtk阻害剤で米国ではマントル細胞腫やワルデンシュトレームマクログロブリン血症にも承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース


her2阻害剤と抗her2抗体の併用が大腸癌の一部に承認
(2023年1月19日発表)

FDAはSeagen(Nasdaq:SGEN)のTukysa(tucatinib)の適応拡大を加速承認した。20~21年に米欧でher2阻害剤による治療歴を持つ切除不能/転移her2陽性乳癌に承認されたher2阻害剤で、今回は、切除不能/転移結腸直腸癌で5-FU、oxaliplatin、またはirinotecanベースのレジメンによる治療歴を持ち、RASが野生型である患者が適応になる。dMMR/MSI-H型は抗PD-1/PD-L1抗体歴も必要。臨床試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が38%、メジアン反応持続期間は12.4ヶ月だった。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

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