【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- パキロビッド、イスラエルの疫学研究で高齢者には便益
- コミナティの乳幼児試験結果
- BA.4/5対応ワクチンを承認申請
- その他の領域:
- ファイザーの高齢者用RSVワクチンも第3相が成功
- AB、何度でも立ち上がる
- ミネルバの向精神薬は嵐に飛び立つ
- ペマジールがFGFR1再編成骨髄/リンパ腫に承認
- ギリアド、カプシド阻害剤がEUで承認
【COVID-19関連】
パキロビッド、イスラエルの疫学研究で高齢者には便益
(2022年8月24日発表)
ファイザーのCOVID-19治療薬Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)の疫学試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。イスラエルの大手管理医療組織の治療記録を用いて、40歳以上でPaxlovidの投与対象となりうる感染者約11万人のその後の入院・死亡リスクを分析したところ、65歳以上で大きなリスク抑制効果が見られた一方で、40~64歳はトレンドに留まった。
具体的には、65歳以上では10万人当たり入院率が投与群では14.7件、非投与群では58.9件で、調整ハザードレシオは0.27(95%信頼区間0.15-0.49)となったが、40~64歳は各15.2件、15.8件、0.74(0.35-1.58)だった。COVID-19による死亡の調整ハザードレシオは65歳以上では0.21(0.05-0.82)、40~64歳は1.32(0.16-10.75)だった。
免疫(感染/ワクチン接種歴)の有無によるサブグループ分析では、65歳以上ではどちらにも有意な違いがあった。40~64歳ではどちらも有意ではなかったが、免疫のない患者の点推定値は0.23と悪くなかった(95%信頼区間は0.03-1.67と広い)。
PaxlovidやMSDのLagevrio(molnupiravir)は軽中等症で重症化リスク因子を持つ患者が適応になる。承認の根拠となった臨床試験では入院・死亡率が0.8%と偽薬群の6.3%を大きく下回った。但し、この試験はワクチン接種者が除外されており、また、現在流行しているオミクロン株は元々の重症化リスクが小さいため、今日の患者群における治療意義は必ずしも明確ではない。
今回の疫学研究は1~3月の感染者が対象で米国でもまだあまり使われていなかった時期に行われたが、それにしても、約11万人のうち実際に投与されたのはたった4%に留まっており、医療従事者が限定的にしか処方していないように感じられる。
結果も、医療従事者の躊躇を裏付けるものと呼んでも過言ではないだろう。65歳以上でも非投与群の入院死亡率は第3相試験の偽薬群より二桁小さい。二本の試験は患者背景が異なる可能性があり比較できるものではないかもしれないが、二桁の違いは無視できない。オミクロン流行下でのPaxlovidの適応範囲は承認されているより狭いと考えるべきかもしれない。
リンク: Arbelらの疫学試験論文(NEJM)
コミナティの乳幼児試験結果
(2022年8月23日発表)
BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、6ヶ月児から4歳児までを組入れたComirnaty(tozinameran)の臨床試験の結果を発表した。中間解析に基づき6月にEUA(非常時使用認可)済みだが、今回は、発症患者が21例に到達した時点で行われた正式解析の結果だ。
3mcg三回接種完了の7日後以降の症候性COVID-19感染は、6~23ヶ月児ではワクチン群が296人中4人、偽薬群は147人中8人、ワクチン効率は75.8%。2~4歳児は各498人中9人と204人中13人でワクチン効率71.8%となった。2~4歳児は中間の82.7%より低下したが、信頼区間が広いので概ね同程度と考えておけばいいだろう。
それにしても驚かされるのは偽薬群の感染率の高さ。12~15歳の試験では1%台、5~11歳の試験では2%台だったが、今回は5~6%台に跳ね上がっている。オミクロン株だからなのか、他の要素も影響したのか、明らかではない。
リンク: 両社のプレスリリース
BA.4/5対応ワクチンを承認申請
(2022年8月23日発表)
BioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、COVID-19二価ワクチンを欧米で12歳以上のブースター接種用にEUA(非常時使用認可)/条件付き承認を申請したと発表した。Comirnaty(tozinameran 30mcg)に含まれる抗原と現在流行しているオミクロン株のBA.4/5亜系統に対応した抗原を15mcgずつ配合したmRNAワクチンで、速やかに承認されれば9月にも供給開始できるとのこと。
モデルナもBA.4/5亜系統対応二価ワクチンmRNA-1273.222を米国で承認した。18歳以上に50mcgをブースター接種する。こちらも9月に供給開始可能。
日欧で両社が先に承認申請した起源株とBA.1亜系統に対応した二価ワクチンとは異なる。開発はBA.1対応版のほうが進んでおり、BA.4/5対応版の申請は臨床データに関してはBA.1対応版のものを援用した。BioNTech/ファイザーは今月内に臨床試験を始める予定。
BA.1亜系統対応ワクチンに含まれるBA.1抗原の臨床試験では、BA.1ウイルスに対する中和抗体幾何平均力価が従来のワクチンを有意に上回ったが、起源株に対する数値と見比べるとどちらのワクチンも一桁小さい。BA.4やBA.5ウイルスに対する数値は更に低かった。FDA諮問委員会が、まだ臨床試験すら始まっていないBA.4/5対応ワクチンを所望したのは、流行株が更に変遷する可能性も踏まえて、少しでも現状にマッチするワクチンのほうがマシと考えたからだろう。この期待に答えることができるのか、判明するのはEUAの後になるかもしれない。
尚、バイデン政権はCOVID-19対策予算が議会に圧縮されたため医薬品の無償提供を止める方向だが、オミクロン対応ブースター・ワクチンは当面、無償提供を続ける考えのようだ。
リンク: BioNTechとファイザーのプレスリリース(米国申請、8/22付)
リンク: 同(EU申請、8/26付)
リンク: モデルナのプレスリリース(8/23付)
【新薬開発】
ファイザーもRSVワクチンの高齢者試験が成功
(2022年8月25日発表)
ファイザーは二価RSVワクチンの第3相RENOIR試験が成功したと発表した。60歳以上の高齢者4万人を組入れる予定だが中間解析で目的を達成、米国などで承認申請する予定。現行のRSV予防薬は高リスク乳幼児向けで高齢者向けが実用化すれば画期的。
主評価項目の、二つ以上の症状を伴うRSV関連下部気道疾患を予防する効果(ワクチン効率)は66.7%(96.66%信頼区間28.8-85.8%)、シーケンシャルな主評価項目である三つ以上の症状のワクチン効率は85.7%(同32.0-98.7%)だった。安全性懸念は浮上しなかった。
RSVは健康な人なら自然治癒することが多いが、65歳以上の高齢者は米国で年17.7万人以上が入院、14000人が死亡と推定されている。世界では年33.6万人が入院と推定されている。感染時の重症化リスク因子を持つ新生児や幼児にはRSVのF蛋白に結合する抗体医薬、Synagis(palivizumab)を月一回、投与して予防することが可能だが、リスク因子を持たない乳幼児に対する便益は確立しなかった。
成人向けワクチンの開発は難航したが、NIH(米国医療研究所)がRSVの宿主細胞融合前の結晶構造を解明するなど、産官学の基礎研究の成果が表面化。6月にはGSKもGSK3844766Aの第3相高齢者試験が成功した(データは未発表)。どちらもF蛋白のサブユニットを抗原としているが、ファイザーはA型とB型のRSVに対応した二価ワクチンを開発、GSKはAS01アジュバントで免疫原性を高めた。どちらも一回接種。
ファイザーは出産を控える妊婦に接種して新生児のRSVを予防する第3相試験を実施中。GSKがGSK3888550Aで実施した同様な第3相試験はデータ監視委員会の勧告により途中で打ち切られた。
リンク: ファイザーのプレスリリース
【承認申請】
AB、何度でも立ち上がる
(2022年8月24日発表)
フランスのAB ScienceはEMA(欧州薬品庁)がAlsitek(masitinib)の承認申請を受理したと発表した。この活性成分はイヌの肥満細胞腫用薬として欧米で販売されているが、ヒト向けは様々な疾患に4回申請し、全て、CHMPの否定的意見を受けた。今回の用途は直近と同じALS(筋萎縮性側索硬化症)で、エビデンスは前回と同じ試験の新規解析とのことなので、5連敗とならないか危惧される。
この第2/3相AB10015試験は病歴3年以内、FVC60%以上の患者にriluzoleと偽薬または試験薬を48週間投与し、ALSFRS-R(運動機能評価スコア)の低下を抑制する効果を調べた。試験薬は3mg/kg/日と4.5mg/kg/日をテストした。ALSでは進行が特に早い患者も見られるため、正常進行者(ALSFRS-R進行率が月1.1ポイント未満)における4.5mg群と偽薬群の比較を主評価項目とした。結果は、試験薬群は9.2ポイント低下、偽薬群は12.6ポイント低下で、27%小さかった。但し、p値はそれほど低くなく、また、各群4割前後が途中でドロップアウトしているため、欠測データの扱いが論点になり得る。
AB社は16年に条件付き承認を求めたが、18年にCHMPの否定的意見を受けた。正常進行者だけを取り上げる意義や根拠が明確ではなく、治験施設二ヶ所で不適切な行為が発見され、欠測データに関する問題などがボトルネックとなった。
今回の申請は、上記試験の中等症患者サブグループのメジアン生存期間が偽薬群より25ヶ月長く、ハザードレシオ0.56(95%信頼区間0.32-0.96)だったことをアピールしている模様だ。昨年7月にALSFD誌で刊行された論文と同内容だろう。この種の事後的サブグループ分析は信憑性が低く、本来なら、前向き試験で確認すべきである。EMAが受理した理由は明らかではないが、ALSは命に係わる難病なので門前払いを躊躇したのでないか。
masitinibのCHMP評価歴:
- 消化管間質性腫瘍は13年11月に否定的意見。エビデンスが不適切なデザインの第二相試験のみであることがネックに。
- 膵癌は14年1月に否定的意見。第3相gemcitabine併用試験がフェール、一部のサブグループに効果が見られたが事故的分析。副作用、不純物懸念、治験品と量産品との同等性懸念も。
- 全身性肥満細胞腫は17年5月に否定的意見。治験実施施設で深刻な治験実施基準違反。安全性検討が不十分。好中球減少症などの副作用懸念。
- ALSは18年4月に否定的意見。正常進行者だけを対象とすることの意義や根拠が曖昧。一部治験施設で不適切な実施行為。欠測データ問題)。
ミネルバの向精神薬は嵐の中を飛び立つ
(2022年8月22日発表)
Minerva Neurosciences(Nasdaq:NERV)はMIN-101(roluperidone)を統合失調症の陰性症状治療薬としてFDAに承認申請した。試験成績が一勝一敗であることなどを考えると、承認されるかどうか不透明だ。IPO市場が低迷しリストラに走る新興企業が増える中、知恵の神ミネルバの梟が飛び立つ時期、即ち、開発史の黄昏を象徴するイベントにならないと良いが...
5-HT2A、アルファ1a、およびシグマ-2のアンタゴニストで、07年に前身のCyrenaic Pharmaceuticalsが田辺三菱製薬からMT-210をライセンスしたもの。一日32mgと64mgをテストし64mg群が米国外の試験で成功したがもう一本はp=0.064とフェールした。同社はFDAに承認申請前会議を申し入れたが拒否され、第3相試験後に行われるタイプC会議を3月に実施、今回、承認申請を断行した。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
ペマジールがFGFR1再編成骨髄/リンパ腫に承認
(2022年8月26日発表)
インサイト(Nasdaq:INCY)は、FDAがPemazyre(pemigatinib)をFGFR1の遺伝子再編成を伴う再発/難治MLN(骨髄性/リンパ性新生物)に用いることを承認したと発表した。米国で10万人当たり一人未満の超希少疾患で、第2相FIGHT-203試験では、慢性期の患者では18人中14人、ブラスト期(急性期)では4人中2人が完全反応(MDS/MPN作業グループ基準)した。EMD(髄外性疾患)のみの患者3人でも一人が完全反応(ルガノ基準)した。日本でも今月、適応拡大申請されている。
PemazyreはFGFR阻害剤。20~21年に欧米日でFGFR2融合/再編成を伴う切除不能局所進行性/転移性胆管癌の二次治療に承認された。
リンク: 同社のプレスリリース
ギリアド、カプシド阻害剤がEUで承認
(2022年8月22日発表)
ギリアド・サイエンシズはSunlenca(lenacapavir)がEUに承認されたと発表した。米国はガラス・パーティクル生成懸念によりバイアルの素材をホウケイ酸塩からアルミノケイ酸塩に切り替えたことが尾を引き審査完了通知を受領、6月に再申請したところだが、欧州承認は良い兆候。
HIVのRNAを包むカプシドを阻害する経口/皮注用薬で、多剤耐性HIV/AIDSのサルベージ治療に用いる。当初は経口剤を一日一回、その後は皮注用製剤を6ヶ月に一回、投与する。今回の用途は他の薬と併用しなければならないので利便性はあまり感じられないかもしれないが、第3相試験中の暴露前予防用途には特に適していそうだ。
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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