2022年8月13日

第1063回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、天然痘/サル痘ワクチンの皮内注射と青少年に皮注をEUA 
  • Prevnar 20の乳幼児試験が成功 
  • アベクマ、多発骨髄腫の3次治療試験が成功 
  • 中国発抗PD-1抗体の肝細胞腫試験が成功 
  • PDE3/4阻害剤のCOPD試験が成功 
  • ムスカリン標的合剤の統合失調症試験が成功 
  • エンハーツ、肺癌の一部にも適応拡大 
  • ゾフルーザ、やっと5~11歳が適応に 
  • ニュベクオが米国で適応拡大 
  • 多少の不純物より安定供給のほうが大事? 


【今週の話題】


FDA、天然痘/サル痘ワクチンの皮内注射と青少年に皮注をEUA
(2022年8月9日発表)

FDAは19年にBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)の弱毒化生ワクチン、Jynneosを天然痘やサル痘に感染するリスクのある成人向けに承認しているが、新たに、皮下注射ではなく皮内注射することをEUA(非常時使用認可)した。皮下の場合は0.5mLを4週間置いて二回注射するが、皮内なら0.1mLずつで足りる。米国政府は専らテロ対策として67万バイアルを配布、40万バイアルを戦略的国家備蓄し、メーカーに原液の大規模な在庫を保管させているが、単純計算で数百万回分以上に膨らむことになる。但し、皮内注射が一般的でないのは正確に行うことが簡単ではないからだ。

FDAは18歳未満に皮注することもEUAした。

リンク: JynneosのEUAファクトシート
リンク: 皮内注射のエビデンスとされたFreyらの治験論文(Vaccine誌)

【新薬開発】


Prevnar 20の乳幼児試験が成功
(2022年8月12日発表)

ファイザーは20価肺炎球菌結合型ワクチンPrevnar 20を開発、18歳以上を対象とする肺炎球菌性侵襲性疾患の予防用ワクチンとして、21~22年に欧米で承認を取得した。高齢者と並ぶ主用途である乳幼児の免疫についても、今回、第3相試験が良好な結果になったことを発表した。年末までに米国で適応拡大申請を行う予定。

乳幼児試験はPrevnar 13を対照薬として、どちらも三回の初回免疫と一回の追加免疫を行い、ウイルス型毎に免疫原性を比較した。共同主評価項目の一つである、4回目接種の1ヶ月後のIgG幾何平均濃度(GMC)は20の血清型全てについて、非劣性だった。もう一つの、3回目接種の1ヶ月後のIgG目標濃度到達率は14の型で非劣性、四つの型では僅かに届かず、二つは大きな差があった。

非劣性ならPrevnar 13で良いのではないか、と私は早合点してしまったが、MSDの競合品で一足先に乳幼児適応が承認されたVaxneuvanceの乳児Prevnar 13対照試験も非劣性解析だ。米国のレーベルによると、共通する13型に関しては群間比較したが、Vaxneuvanceだけがカバーする二つの型は、Prevnar 13群の型別データのうち最も低いもの(但し特定の型は除く)と比較した。おそらく、今回の試験も同じなのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


アベクマ、多発骨髄腫の3次治療試験が成功
(2022年8月10日発表)

2seventy bio(Nasdaq:TSVT)と共同開発販売パートナーのブリストル マイヤーズ・スクイブは、Abecma(idecabtagene vicleucel)のKarMMa-3試験が中間解析で成功したと発表した。2~4次治療歴を持ち最終治療に反応しなかった多発骨髄腫を組入れて、PFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を標準療法(DPd、DVd、IRd、Kd、EPdレジメンの中から医師が選択)と比較したもの。データは未公表。適応拡大申請に向かうだろう。

AbecmaはBCMAを標的とするCAR-T療法。21~22年に米欧日で難治再発多発骨髄腫用薬として承認された。エビデンスとなる第2相試験は作用機序の異なる三種類の薬による治療を既に受けた患者を対象としたが、FDAは抗CD38抗体も含む4種類による治療歴を持つ患者にしか承認しなかった。

適応拡大が認められればもっと早い段階の患者にも使えるようになる。

リンク: 両社のプレスリリース


中国発抗PD-1抗体の肝細胞腫試験が成功
(2022年8月9日発表)

BeiGene (百済神州、NASDAQ: BGNE)はBGB-A317(tislelizumab)の第3相RATIONAL 301試験が成功したと発表した。承認申請に向かう考え。

欧米アジアの施設で未治療の切除不能肝細胞腫を組入れ、全生存期間をsorafenibと比較したもの。主評価項目は全生存期間だが抗癌剤としては珍しい非劣性解析だ。VEGFR阻害剤とは効果の発現タイミングや持続性、副作用プロファイルなどが異なるだろうから、リンゴと梨を食べ比べるような難しさがないのか、気になる。

tislelizumabは抗PD-1抗体で中国では肝細胞腫の二次治療などに承認されている。中国外の権利を持つノバルティスが米国で全身性治療歴を持つ進行切除不能/転移食道扁平上皮腫に承認申請したが、渡航制限によりFDAの査察ができないため、審査期限超過状態にある。欧州では非小細胞性肺癌の一次、二次治療と合わせて承認審査中。

リンク: 同社のプレスリリース


PDE3/4阻害剤のCOPD試験が成功
(2022年8月9日発表)

英国のVerona Pharma(Nasdaq:VRNA)は、RPL554(ensifentrine)の第3相ENHANCE-2試験が成功したと発表した。もう一本進行中で、順調なら23年上期にも承認申請する予定。

英国のVernalis社が開発していたネブライザ吸入用PDE3/4阻害剤で、同社を買収したLigand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)がVeronaにアウトライセンスした。第3相はLAMA(長時間作用型ムスカリン拮抗剤)またはLABA(長時間作用型ベータ2刺激剤)による治療を受けている患者を組入れて3mgまたは偽薬を一日二回、投与した。主評価項目のFEV1(第12週における投与後12時間の曲線下面積)は偽薬比94mL改善した。もっと馴染みのあるFEV1のピーク値(投与後4時間)は同146mL、谷は同49mL、改善した。

また、24週間の中重度増悪が偽薬比42%少なかった。789人程度の試験なのでp値が0.01と、著しく低くはないため、もう一本の試験を見てから判断したほうが良さそうだ。

症状やQOLも改善する傾向が見られたが有意水準には達しなかった。

ENHANCE-1は年末ごろに開票する見込みだが、ロシアの施設も参加しているので、遅れる可能性もあるのではないか。

この試験に感じる素朴な疑問は、COPDにおけるステップ・セラピーは一剤で足りなければ二剤併用なのだから、偽薬対照ではなく、LAMA・LABA併用と比較すべきではないだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


ムスカリン標的合剤の統合失調症試験が成功
(2022年8月8日発表)

Karuna Therapeutics(Nasdaq:KRTX)は、KarXT(xanomeline、trospium)の第三相統合失調症試験が成功したと発表した。もう一本の結果を待って23年央に米国で承認申請する考え。

イーライリリーがLY 246708としてアルツハイマー性精神症に第2相を行ったが開発中止したムスカリンM1・M4受容体アゴニストと、Indevus(後にEndoが買収)が過活動膀胱治療薬Sancturaとして04年に発売した末梢性ムスカリン受容体アンタゴニストの合剤で、前者の中枢神経性作用を維持しながら末梢性副作用を緩和するアイディア。KarunaのCEOであるSteve Paul氏はリリーで前者の開発を担当していたとのことであり、中々の執念だ。

第3相は統合失調症急性期の治療を目的に、xanomeline(50mg一日二回で開始して一回用量を100mg、125mgと8日かけて漸増)とtrospiumu(20mg一日二回で開始、30mgに増量)の併用を偽薬と比較した。結果は、5週後のPANSSが各21.2と11.6低下し、有意な差があった。

治療時発現有害事象治験離脱率は7%対6%、治療時発現深刻有害事象は各群2%(自殺思慮や統合失調症の悪化、虫垂炎)で、大差なかった。失神は発生せず、心拍数上昇は見られたがその後に緩和した。

リリーが行った試験では失神などが発生し、過半が有害事象で治験離脱したことを考えれば、だいぶ改善している。延長試験で忍容性等を検討しているので、承認される頃には長期投与時の安全性も明らかになるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


中国発VEGFR阻害剤のグローバル試験が成功
(2022年8月8日発表)

Hutchmed(Nasdaq:HCM、和黄医薬)は、fruquintinibの第3相FRESCO-2試験が成功したと発表した。米欧日豪の施設で実施した進行性/難治転移性結腸直腸癌のサルベージ療法試験で、全生存期間が偽薬群を有意に上回った。これらの国の承認審査機関と申請に向けて相談する考え。

VEGFR1/2/3を阻害する経口剤。18年に中国で結腸直腸癌の三次治療薬として承認された。中国はイーライリリーが共同販売しているが海外は提携していない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


エンハーツ、肺癌の一部にも適応拡大
(2022年8月12日発表)

第一三共と共同開発販売パートナーのアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を全身性治療歴のあるher2活性化変異型切除不能/転移非小細胞性肺癌に用いることがFDAに加速承認されたと発表した。このような変異は非小細胞性肺癌の2~4%で見られる由。コンパニオン診断薬として、Guardant Health(Nasdaq:GH)の次世代シーケンサー、Guardant360 CDxリキッド・バイオプシー・テストも承認された。

エビデンスとなる第2相DESTINY-Lung01試験の中間解析では、上記に該当する非扁平上皮腫52人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)は57.7%、メジアン反応持続期間は8.7ヶ月だった。

Enhertuといえば、先日、FDAがher2低陽性転移性乳癌に適応拡大したばかり。5月28日に申請し8月5日に承認という、17世名人並みの光速の審査だった。今回は2月16日の申請なので、6ヶ月弱と少し早いだけだ。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Guardant Healthのプレスリリース


ゾフルーザ、やっと5~11歳が適応に
(2022年8月12日発表)

ロシュは抗インフルエンザ薬Xofluza(baloxavir marboxil)を5~11歳の小児の暴露後予防と急性期非複雑感染症の治療に用いることが米国で承認されたと発表した。日本では18年の初承認時から年齢限定なしに治療に用いることが承認されているが、欧米はこれまで12歳以上に限定されていて、今回も5歳未満は適応外になっている。抵抗性ウイルス選択リスクが影を落としているのだろう。

米国のレーベルには、Xofluza感受性に係るウイルス遺伝子変異と、過去の臨床試験における当該変異の発現率が記されている。A/H1N1、A/H3N2、B型の各ウイルスにおける発現率は、12歳以上の試験では各5%、11%、1%、5~11歳の試験では17%、18%、0%、5歳未満では24%、65%、0%だった。これらのデータを比較できるとは限らないが、ノイズと信じる理由もない。

問題は、これらの変異が臨床的効果にどのように影響するかだが、気になるのは、曝露後予防試験のデータだ。ベースライン時点ではこれらの変異は見られなかったが、発症例の全てで変異が見られた。発症しなかったグループでは少数だった。サンプル数が少ないので確定的ではないが、やはり、影響なしと断定するのは勇気がいる。

リンク: 同社のプレスリリース


ニュベクオが米国で適応拡大
(2022年8月8日発表)

バイエルはNubeqa(darolutamide)を転移性去勢感受性前立腺癌(mHSPC)の治療にアンドロゲン枯渇療法(ADT)及びdocetaxelと併用することがFDAに承認されたと発表した。この用途で化学療法と三剤併用は初めて。第3相試験では、全生存期間のハザードレシオが0.68、メジアン値は未達(偽薬・ADT・docetaxel併用群は48.9ヶ月)だった。欧日でも申請中。

mHSPCではアステラス製薬/ファイザーのXtandi(enzalutamide)なども承認されているが、ADTと二剤併用だ。

Nubeqaはオライオン社からライセンスした非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニストで、19~20年に米日欧で遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に用いることが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


多少の不純物より安定供給のほうが大事?
(2022年8月9日発表)

FDAはMSDの二型糖尿病用薬、sitagliptinの安全性・安定供給性に関するリリースを出した。一部のサンプルでNTTP(Nitroso-STG-19)というニトロソアミン不純物が検出されたが、供給が足りなくなる可能性があるため、一時的に販売することには反対しないことを決定した。

NTTPの摂取量上限は37ng/日だが、超過していても、246.7ngまでなら、FDAがケースバイケースで流通可否を判断する。246.7ngはFDAの科学者が決定した基準で、一時的ならば、37ng/日を永続的に摂取するより発癌性が低いと判断した。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2 件のコメント:

  1. GMCは幾何平均抗体濃度では?

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    1. ご指摘ありがとうございます。どちらでも良いように勘違いしていましたが、この機会に訂正します。

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