2022年9月4日

第1066回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • BA.4/5適合二価ワクチンが米国でEUA 
  • CHMP、BA.1適合二価ワクチンの承認を勧告 
  • その他の領域: 
  • 第XIa因子阻害剤が続々と第3相へ 
  • アセンディス、PTH補充療法を承認申請 
  • 週一回投与型第VIII因子を承認申請 
  • FDA、イミフィンジを胆道癌に承認 
  • 膿疱性乾癬用薬が初承認 
  • ゼンフォザイムが米国でも承認 
  • PRAC、トピラマートの胎児リスクを検討開始 


【COVID-19関連】


BA.4/5適合二価ワクチンが米国でEUA
(2022年8月31日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーとモデルナのCOVID-19二価ワクチンをEUA(非常時使用認可)した。従来の一価ワクチンによるプライマリー接種またはブースター接種を受けてから2ヶ月(!)以上経過した、前者は12歳以上、後者は18歳以上の、ブースター接種に用いる。承認の翌日、CDC(疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)も接種を推奨した。

BioNTech/ファイザーの一価ワクチンは武漢株のスパイク蛋白のmRNAを30mcg含有しているが、二価ワクチンは武漢株とBA.4/BA.5亜系統オミクロン株のものを15mcgずつ配合している。モデルナの一価ワクチンmRNA-1273はD614G変異株のスパイク蛋白mRNAをブースターの場合50mcg接種するが、二価のmRNA-1273.222はBA.4/BA.5のものと25mcgずつ配合したものを接種する。

承認取得に必要な三種類の資料のうち臨床成績に係るものは日本で承認申請されたBA.1亜系統適合二価ワクチンに係るものを援用した。武漢株/D614G変異株の偽ウイルス・アッセイで阻害力価が一価ワクチンと非劣性、BA.1偽ウイルス・アッセイでは有意に上回った。BA.1適合ワクチンはBA.4/BA.5偽ウイルス・アッセイに対する力価がBA.1に対するより小さかった筈だがレーベルには記されていない。

臨床試験の結果が判明するのは数ヶ月後の見込み。BA.1適合ワクチンではなくBA.4/BA.5ワクチンを選択するに当たって、FDA諮問委員会の圧倒的支持も得ているのだが、オピニオン・リーダーの一部は、自分自身は臨床データを見てから接種したいとコメントしているようだ。

米国は連邦議会がCOVID-19関連予算を圧縮しており来年のどこかで一括調達・無償供与が終わる見込み。但し、ワクチンに関しては一回目のブースター接種を受けた人数を上回る量を既に手当てしている模様なので、駆け込まなくても大丈夫なようだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BioNTech/ファイザーのプレスリリース
リンク: 両社の二価ワクチンのファクトシート
リンク: モデルナのプレスリリース
リンク: モデルナの二価ワクチンのファクトシート
リンク: CDCのプレスリリース(9/1付)


CHMP、BA.1適合二価ワクチンの承認を勧告
(2022年9月1日発表)

EMA(欧州薬品庁)のCHMP(医薬品委員会)はBioNTech/ファイザーとモデルナの二価ワクチンを承認するよう欧州委員会に勧告した。日本と同様に、既承認の一価ワクチンの一部変更という位置付けになるようだ。従来のワクチンに含まれるスパイク蛋白のmRNAと、オミクロン株BA.1亜系統のスパイク蛋白のmRNAを配合したもので、どちらも、12歳以上で直近の接種から3ヶ月(!)以上経った人の追加免疫に用いる。

BA.4/BA.5亜系統に適合した二価ワクチンも承認審査中/間もなく申請予定とのことなので、EU加盟国の国民は、こちらが承認されるまで待つかどうか、悩むことになる(インターバルが3ヶ月とか2ヶ月なら、理屈の上では年末までに両方打つことも可能だが...)。

リンク: EMAのプレスリリース

【新薬開発】


第XIa因子阻害剤が続々と第3相へ
(2022年8月28日発表)

ESC(欧州心臓学会)で第XIa因子阻害剤二剤の第2相試験成績が発表された。どちらも薬効面の解析はフェールしたが、評価方法や検出力面での制約を考えれば、第3相ステージアップを見送るような内容ではないだろう。出血リスクは有意差がなかったが、これも検出力不足だろうから、大規模な試験で確認する必要がある。

一つはバイエルのBAY 2433334(asundexian)。後期第2相のPACIFIC-Stroke試験で非心原性虚血性脳卒中を発症してから48時間以内の1808人を対象に、標準療法(抗血小板薬を1~2剤)に加えて偽薬、10mg、20mg、50mgを一日一回、6ヶ月間経口投与して、脳梗塞再発抑制効果の用量依存性を検討したが、発生率は各群19.1%、18.9%、22.0%、20.1%となり、フェールした。

検出力を高めるためにMRI画像における梗塞所見もカウントしたことが結果的に裏目に出た。メジアン10.6ヶ月追跡後の症候性虚血性脳卒中/TIA(一過性脳虚血発作)発生率は各群8.3%、7.6%、6.2%、5.4%と用量依存っぽい数値になっている。

12ヶ月間のISTH基準の大出血・臨床的に重要な非大出血発生率は偽薬群が2.4%、試験薬群は三群合計で3.9%、ハザードレシオは1.57で統計的に有意ではないが臨床的に意味のない差ではないだろう。

第3相は心房細動で脳梗塞リスクが高い患者を組入れて塞栓性疾患のリスクをBMS/ファイザーのXa阻害剤apixabanと比較するOCEANIC-AF試験と、今回と同じ非心原性虚血性脳卒中や高リスク患者を組入れるOCEANIC-STROKE試験を開始する予定。

BMSがJanssen Pharmaceuticalsと共同開発しているBMS-986177/JNJ-70033093(milvexian)は、第2相AXIOMATIC-SSP試験の結果が発表された。ラクナではない虚血性脳卒中または高リスクのTIAを発症してから48時間以内の2366人を組入れて、標準療法(アスピリンと最初の21日間はもう一つの抗血小板薬を併用)に加えて偽薬または25mgを一日一回、または25mg、50mg、100mg、または200mgを一日二回、90日間経口投与する6群の脳梗塞リスクの用量依存性を検討したが、フェールした。

この試験でもMRIによる梗塞所見のデータがかく乱要因となっており、虚血性脳卒中だけの発生率は各群6.1%、4.9%、4.2%、4.2%、4.0%、8.5%と、最大用量以外はそれっぽい結果になっている。大出血は各群0.6%、0.6%、0.6%、1.5%、1.6%、1.5%となっており、25mg一日二回程度なら増えないようにも見えるが症例数が限られているので何とも言えないだろう。

milvexianは総膝関節置換術後の静脈血栓塞栓を予防する第2相enoxaparin対照試験もまあまあな成績を挙げており、複数の適応でステージアップしそうだ。

抗血栓薬は血栓塞栓性疾患の抑制に役立つが、出血リスクを伴う。第Xa因子阻害剤は危険と便益のバランスが良いはずと期待されたが、それほどではなかった。第XIa阻害剤はどうだろうか。

リンク: ESCのプレスリリース(asundexian)
リンク: バイエルのプレスリリース(asundexianの第3相開始)
リンク: BMS/ヤンセンのプレスリリース(Milvexianの第2相試験)

【承認申請】


アセンディス、PTH補充療法を承認申請
(2022年8月31日発表)

デンマークのアセンディス・ファーマ(Nasdaq:ASND)は米国でTransCon PTHを副甲状腺ホルモン欠乏症のホルモン補充療法として承認申請した。オートインジェクターで一日一回皮注した第3相ではアルブミン調整血清カルシウム水準正常化率が78.7%と、カルシウムと活性化ビタミンDだけを投与した対照群の4.8%を大きく上回った。試験薬群は期中に95%の患者がカルシウム・活性化ビタミンDの服用を止めている。

今四半期中に日本の小規模な第3相試験の成否も判明する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


週一回投与型第VIII因子を承認申請
(2022年8月30日発表)

サノフィは米国でefanesoctocog alfaをA型血友病用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年2月28日。

血液凝固第VIII因子の周りにIgG1固定領域とフォン・ヴィルブランド因子の第VIII因子結合領域、そしてXTENポリペプチドを結合して作用を長期化したもので、週一回静注と既存製剤の半分程度の投与頻度で足りるため、出血リスクの高い患者に予防的投与するのに適している。21年にAmunixを10億ドル余で買収して入手、欧州などではSobiが開発販売を主導する。

12歳以上の予防的投与を受けている患者159人を組入れた試験では、年率出血率(ABR)が平均0.71、メジアン値はゼロだった。治験開始前のABRと比べると77%減少した。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


FDA、イミフィンジを胆道癌に承認
(2022年9月2日発表)

FDAはアストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を局所進行性/転移性胆道癌に用いることを承認した。gemcitabine及びcisplatinと併用で3週毎に8サイクル施行し、その後は単剤を4週毎に投与する。Imfinziの代わりに偽薬を投与した群と全生存期間を比較した第3相Topaz-1試験でハザードレシオが0.8だった。メジアン生存期間は12.8ヶ月対11.5ヶ月でそれほど大きな差はないが、2年生存率は25%対10%だった。

リンク: FDAのプレスリリース


膿疱性乾癬用薬が初承認
(2022年9月1日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはSpevigo(spesolimab-sbzo)がFDAに承認されたと発表した。IL-36受容体に結合する抗体医薬で、汎発型膿疱性乾癬の急性症状(フレア)を治療する。900mgを90分点滴静注した第2相試験では1週後に54%の患者で膿疱が視認されなくなった(偽薬群は6%)。有害事象は感染症や過敏反応など。

膿疱性乾癬はバイオ薬がオフレーベル使用されている模様だが、正式に承認されたのはSpevigoが初。日本で7月に第二部会通過、欧州でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


ゼンフォザイムが米国でも承認
(2022年8月31日発表)

FDAはサノフィの子会社であるジェンザイムのXenpozyme(olipudase alfa-rpcp)を酸性スフィンゴミエリナーゼ欠乏症(ASMD、別名ニーマン・ピック病A型、B型)の非神経学的症状の治療薬として承認した。ASMDはSMPD1遺伝子変異によりスフィンゴミエリンが蓄積し臓器障害をもたらす疾患で、日米欧の患者数は2000人と推定されている。Xenpozymeは欠乏する酵素を二週毎点滴静注で補充する。臨床試験では肺機能や肝脾肥大の改善が見られた。アナフィラキシーを含む過敏反応が枠付警告されている。

3月に日本で、6月にはEUでも、承認された。

FDAはバイオ薬の先発品と後続品を分別するため、一般名の末尾または冒頭に四文字の識別子を付けている。今回ではrpcpが該当するが、なぜかFDAのプレスリリースには見当たらず、サノフィのプレスリリースにしか記されていない。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、トピラマートの胎児リスクを検討開始
(2022年9月2日発表)

EMA(欧州薬品庁)でファーマコビジランスを担うPRACは、topiramateを服用している妊婦から生まれる子供の神経発達障害リスクを検討すると発表した。癲癇や、一部の国では体重管理に用いられている薬で、催奇性を持つことは既知のはずだが、北欧の疫学研究で自閉症スペクトラム障害(ASD )や精神遅滞(ID)などのリスクが示唆されたことが契機のようだ。

JAMA Neurologyで刊行されたレジストリー・ベースのコフォート研究論文によると、抗癲癇薬を服用しなかった癲癇患者が出産した子供におけるASD有病率は1.5%であったのに対してtopiramateモノセラピーを受けた癲癇患者の子供では4.3%、調整ハザードレシオは2.8だった。IDは各0.8%、3.1%、3.5だった。

この研究ではvalproateモノセラピーやlevetiracetam・carbamazepine併用、lamotrigine・topiramate併用でも神経発達障害の調整ハザードレシオが3前後だった。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Bjorkらの試験論文(JAMA Neurol. 2022;79(7):672-681. doi:10.1001/jamaneurol.2022.1269)





今週は以上です。

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