2022年7月14日

第1059回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ヌバキソビッド、米国でもEUA 
  • EU、mRNAワクチンの再追加接種を60歳以上などに推奨 
  • モデルナのBA.1対応ワクチンもBA.4/5には効果が低下しそう 
  • 抗GM-CSFの臨床試験がフェール 
  • その他の領域: 
  • 米国で経口避妊薬のOTCスイッチを申請 
  • 腎細胞腫のトリプル・セラピーが成功 
  • 週一回静注用第VIII因子の第3相が成功 
  • ノボ、ヘムライブラ対抗品を承認申請へ 


【COVID-19関連】


ヌバキソビッド、米国でもEUA
(2022年7月13日発表)

FDAはNovavax(Nasdaq:NVAX)のCOVID-19ワクチンを18歳以上の初回免疫にEUA(非常時使用認可)した。7月19日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)が勧奨の当否や対象を検討する予定。SARS-CoV-2のスパイク蛋白抗原5mcgにMatrix-M免疫刺激剤50mcgを添加した製品で、欧州では昨年12月にNuvaxovidとして初回免疫に条件付き承認、日本では今年4月にヌバキソビッドとして初回および追加免疫に承認された。同社は米国では自社製品を販売する予定だったが、生産が順調に進まなかった模様で、インドのSerum Institute of India製に切り替えた。

21日置いて2回、筋注した第3相米国試験ではワクチン効率が90%だった。偽薬群も含めて感染例はアルファ株が多く、オミクロン株に対する効果は他のワクチンと同様に低下すると想像される。

EUAなので、18歳以上の初回免疫に正式承認されている二製品のほうが優先される。mRNAワクチンは嫌だが従来技術なら良い、という人が対象になりそうだが、どの程度いるのだろうか?尤も、接種を推進する上では、蜘蛛の糸でも掴めるものは掴んで、切れたらその時に考えればよいと達観するのが正統的なのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース


EU、mRNAワクチンの再追加接種を60歳以上などに推奨
(2022年7月11日発表)

EMAとECDC(欧州疾病管理予防センター)は、60歳以上の人とリスク因子(一部の基礎疾患など)を持つ人達を対象に、COVID-19ワクチンのブースター接種から4ヶ月以上経ったらもう一度接種することを考慮するよう推奨した。4月の段階では80歳以上にしか勧告していなかったが、その後、感染者が増加し入院・ICU入室率も上昇してきたため、対象を広げた。

米国は3月にFDAが50歳以上と、臓器移植またはそれと同様なリスク因子を持つ人に4ヶ月以上経った段階での再追加接種を推奨している。日本は60歳以上とリスク因子を持ち最初の追加接種から5ヶ月以上経った人に推奨しており、各国、対象や時期が若干異なっている。

歯切れが悪いのは再追加接種の疫学データがそれほど良くないためだ。10月以降にBA.1対応やBA.4/5対応ワクチンが実用化されれば現行のワクチンよりは改善しよう。尤も、EUやWHOはBA.1対応の二価ワクチンの承認審査を進めている模様だが、米国はメーカーにBA.4/5対応二価ワクチンの承認申請を求めるなど、足並みの乱れが目立つ。日本はどうするのだろうか?

リンク: EMAとECDCの共同プレスリリース


モデルナのBA.1対応ワクチンもBA.4/5には効果が低下しそう
(2022年7月11日発表)

モデルナはSpikevax(elasomeran)の抗原とオミクロンのBA.1株に対応した抗原を25mcgずつ配合したCOVID-19ワクチン、mRNA1273.214の再追加接種試験のトップラインを発表した。感染歴のない人の接種後血液を用いて測定したBA.4/5ウイルスに対する中和抗体価は776(接種前の6.3倍)、Spikevaxを再追加接種した人の血液では458(同3.5倍)となり、幾何平均比は1.69だった。

6月に発表された、BA.1ウイルスに対する同様な試験データは、2372(8倍)と1473(n.a.)、幾何平均比は1.75だった。相手がBA.1でもBA.4/5でも、Spikevaxより二価ワクチンのほうが抗体価が高いことになる。但し、どちらもBA.4/5に対する数値は見劣りする(この二本の試験のデータが比較できるものかどうかは明らかではないが)。

BioNTech/ファイザーのオミクロン株ワクチンもBA.1と比べてBA.4/5に対する作用は低下するとメーカー自身が認めている。だから、FDAは開発が進んでいるBA.1対応品ではなく現在の流行に適合するBA.4/5対応二価ワクチンを選択したのだろう。

リンク: モデルナのプレスリリース


抗GM-CSFの臨床試験がフェール
(2022年7月12日発表)

Humanigen(Nasdaq:HGEN)は、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導したACTIV-5/BET試験がフェールしたと発表した。COVID-19肺炎患者の人工呼吸器/ECMO装着や死亡を抑制する効果を検討したが、自社で実施した第3相試験の成績を再現することができなかった。

GM-CSFに結合する抗体医薬で、サイトカイン放出症候群を抑制する効果が期待されている。米州で実施した試験では28日無人工呼吸器装着・生存ハザードレシオが1.54、p=0.0365とボーダーライン上だが統計的に有意な抑制効果が見られた。特に、CRPが150mg/L未満のサブグループでは人工呼吸器装着・死亡リスクが62%小さかった。同社はEUAを申請したが、認められなかった。

今回の試験の主評価項目は、85歳未満かつCRP<150mg/Lのサブグループの29日人工呼吸器/ECMO装着/死亡。フェールした。全被験者の死亡リスクではハザードレシオ0.72だったが統計的に有意ではなかった。

本試験では全員にremdesivirを投与したが、tocilizumabなどは用いられなかった模様だ。もう一回臨床試験を行う場合、tocilizumab対照またはアドオンというデザインになるだろうから、ハードルが高くなる。おそらく、手仕舞いになるだろう。

Humanigenの前身であるKaloBios Pharmaceuticalsは2015年にMartin Shkreliが株式の過半を取得しCEOに就任したが、翌月、逮捕されたため追放しチャプター11の適用を申請、16年に現社名で復活した。

リンク: 同社のプレスリリース

【今週の話題】


米国で経口避妊薬のOTCスイッチを申請
(2022年7月11日発表)

ダブリン籍の製薬会社、Perrigo(NYSE:PRGO)は、5月に18億ポンドで買収したHRA Pharmaが米国で経口避妊薬Opoll(norgestrel 75mcg)のOTCスイッチを申請したと発表した。最高裁が避妊手術の合法性は連邦政府ではなく州政府が判断と決定したこととは関係なく、以前からの計画通りで、HRAは英国では昨年7月にHana(desogestrel 75mcg)のOTCスイッチに成功している。英米では避妊薬を無料で入手できるが、英国ではOTC版は有料。

リンク: Perrigoのプレスリリース

【新薬開発】


腎細胞腫のトリプル・セラピーが成功
(2022年7月11日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)は、第3相COSMIC-313試験の主目的を達成したと発表した。中高リスク腎細胞腫の一次治療としてBMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)のレジメンに更にCabometyx(cabozantinib )を追加する効能を偽薬追加と比較したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立放射線学的評価)のハザードレシオが0.73(95%信頼区間0.57-0.94)、p=0.01と、統計的に有意な差があった。副次的評価項目である全生存期間の中間解析はフェールした。

このVEGF受容体拮抗剤は進行腎細胞腫の一次治療にOpdivoと併用することが承認されている。エビデンスとなるsunitinib対照試験ではPFS(同)のハザードレシオが0.51、メジアン値は16.6ヶ月対8.3ヶ月だった。全生存期間のハザードレシオは0.60、メジアン値は両群未達。OpdivoとYervoyも中・高リスク腎細胞腫の一次治療に承認されており、エビデンスとなるsunitinib対照試験ではPFS(同)のハザードレシオは0.82、メジアン値は11.6ヶ月と8.4ヶ月、全生存期間のハザードレシオは0.63、メジアン値は未達と25.9ヶ月だった。

組入れ対象が若干異なるものの、sunitinib群のメジアンPFSは同程度なので二本の結果を比較すると、Opdivoと併用するならYervoyよりCabometrxの方が効果が高いように見える。しかし、全生存期間のハザードレシオは大差なく、どちらも大差ないようにも見える。

この知見を今回の試験に演繹すると、Opdivo・Yervoy併用群のPFSは実力(延命効果)より低く示されている可能性があり、それを有意に上回ったとしても、一番重要な全生存期間でどの程度上回るかは判然としない。PFS自体もp=0.01というのは十分に低いとは言えない。

結局、真贋が明らかになるのは全生存期間の最終解析だろう。

リンク: Exelixis社のプレスリリース


週一回静注用第VIII因子の第3相が成功
(2022年7月10日発表)

サノフィは、efanesoctocog alfaの第3相重症A型血友病試験が成功したと発表した。12歳以上の予防的投与を受けている患者159人を組入れて、50 IU/kg週一回静注を52週間施行したところ、ABR(年率出血率)が中央値でゼロ、平均値で0.71となった。副次的評価項目であるスイッチ前のABRとの比較は、77%減(0.69対2.96)となった。インヒビターは検出されなかった。年内に承認申請を開始する予定。

血液凝固第VIII因子にIgG1固定領域、フォン・ヴィルブランド因子の第VIII因子結合領域、そしてXTENポリペプチドを結合して半減期を長期化した新製剤。

リンク: 同社のプレスリリース


ノボ、ヘムライブラ対抗品を承認申請へ
(2022年7月10日発表)

ノボ ノルディスクは、NN7415(concizumab)の第3相試験が良好な結果になったと発表した。年内に日米で、23年にはEUなどでも、承認申請する考え。

NN7415はTFPI(tissue factor pathway inhibitor)に対する抗体。TFPIが第X因子を活性化するのを妨げる。一日一回皮注用。第3相で12歳以上のA型/B型血友病(インヒビターを持つ人も持たない人も含む)133人を試験薬による予防的投与を施行する群としない群(出血時に治療する)に2:1割付してABR(年率出血率)を比較したところ、平均値は各群1.7と11.8、メジアン値はゼロと9.8で、有意な差があった。

この試験は20年3月に非致死的な血栓性イベントが3例発生し、FDAが治験停止を命じたことがある。開始用量や多剤併用時の用量制限、ブレークスルー出血時の治療法の限定など対策を導入して8月に再開した後は血栓塞栓事故は発生していないとのことだ。

中外/ロシュのHemlibra(emicizumab)でも似たような事象が見られたので、承認の妨げになるとは限らないだろう。

血液凝固因子補充療法以外の治療法という点で、両剤は似ているが、NN7415はB型血友病もカバーしていることが特徴。但し、今回のプレスリリースは、A型とB型のサブグループ分析について言及していない。

リンク: ノボのプレスリリース





今週は以上です。

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