【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- 疫学研究:パキロビッドは65歳以上には免疫の有無を問わず有益
- レミケードとオレンシアは中重症SARS-CoV-2に有効
- その他の領域:
- イムブルビカは未治療MCLのPFSは延ばすことができる
- ノボ、週一インスリンの第3相がまた成功
- tau凝集阻害剤の第3相が成功(?)
- zuranoloneは産後鬱高用量試験も成功
- デュピクセントを結節性痒疹に承認申請
- BMS、Reblozylの適応拡大申請を撤回
- アルギナーゼ1欠乏症用薬の承認申請は受理されず
- オプジーボの併用レジメンが未治療食道癌に承認
- FDA、Ukoniqの承認を取消
【COVID-19関連】
疫学研究:パキロビッドは65歳以上には免疫の有無を問わず有益
(2022年6月1日発表)
イスラエルの国民医療制度の一翼を担い人口の過半を会員としている医療サービス機関、Clalit Health Servicesは、ファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)のオミクロン株感染者に対する効果に関する疫学論文の査読前草稿をResearch Squareで公開した。65歳以上では入院や死亡リスクの低下と関連していたが、40~64歳では有意な差はなかった。65歳以上ではワクチンや感染による免疫歴を持つ人にもリスク低下との関連が見られた。
この研究は今年1~3月にCOVID-19に感染した、Paxlovidが適応になる40歳以上の患者のうち、服用した患者としなかった患者の入院や死亡リスクをCOX回帰分析で比較した。適応となったのは109213人、うち3.6%が一回服用した。階層化因子のうち年齢層(40~64歳と65歳以上)に顕著な交互作用が見られたため、別々に解析することを決めた。
65歳以上(母集団は42819人、服用者は2504人)では服用者の0.6%(14人)がCOVID-19関連で入院した。非服用者は1.9%(762人)で修正ハザードレシオは0.33(95%信頼区間0.19-0.55)となった。副次的評価項目のCOVID-19関連死亡は服用者で2人、非服用者は151人、修正ハザードレシオは0.19(0.05-0.76)。
一方、40~64歳(母集団66394人、服用者1435人)では各群0.6%と0.5%がCOVID-19入院し、修正ハザードレシオは0.78で有意ではなかった。COVID-19関連死亡は各群1人と13人、修正ハザードレシオ1.64で点推定値が逆方向を指した。
65歳以上の42819人のうち、免疫歴のない3306人ではCOVID-19関連入院の修正ハザードレシオが0.14と大きな違いが見られた。尚、40~64歳でも0.21だったが有意ではない。
65歳以上で免疫歴のある患者でも修正ハザードレシオが0.40(95%信頼区間0.23-0.71)と良好な結果になった。40~64歳では1.18と逆向きだ。
Paxlovidの承認の根拠となった臨床試験ではワクチン接種歴は除外条件だった。接種歴のある患者を組入れた試験の結果はまだ公表されていないので、このような患者にも承認・処方するのはエビデンスに基づかない医療である。特定の国の特定の人種における疫学研究が一本出ただけではあるが、ノー・エビデンス・メディスンよりはよい。
それにしても、ワクチン接種が先行したイスラエルでも免疫歴のない人やPaxlovidが適応になるのに処方されなかった人がこんなにいるのは驚きだ。
リンク: R Arbelらの疫学論文草稿(Research Square、pdfファイル)
レミケードとオレンシアは中重症SARS-CoV-2に有効
(2022年6月2日発表)
NIH(米国医療研究所)はACTIV-1 IM試験の成否を発表した。テストした三剤のうち、infliximabとabataceptは、主評価項目のtime to recovery(退院するまでの期間)はトレンドに留まったものの、死亡オッズや症状改善オッズが偽薬群を上回った。後者をOrencia名で販売しているブリストル マイヤーズ・スクイブは承認審査機関と相談する考え。前者をRemicade名で販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンも追随するのではないか。
この試験は米国とラテンアメリカの69施設で1971人の中重症COVID-19入院患者を組入れて上記二剤および武田薬品が創製したCCR2/CCR5阻害剤cenicrivirocの症状改善効果を偽薬と比較した。infliximabは5mg/kgを、abataceptは10mg/kg(上限1000mg)を、一回だけ投与した。被験者の90%はremdesivirを、85%はdexamethasoneを同時使用していた。
infliximab群は死亡率が10.0%と偽薬群の14.5%を下回り、修正オッズは40.5%低かった。症状改善オッズは43.8%良かった。abataceptも死亡率が11.0%と偽薬群の15.0%を下回り、修正オッズが37.4低く、症状改善オッズは34.2%良かった。
主評価項目がフェールしたので副次的評価項目は慎重に解釈する必要があり、詳細も明らかではないが、現時点では良好な結果と受け止めてよいだろう。
リンク: NIHのプレスリリース
【新薬開発】
イムブルビカは未治療MCLのPFSは延ばすことができる
(2022年6月3日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、BTK阻害剤Imbruvica(ibrutinib)の第3相高齢マントル細胞腫一次治療試験の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)などで発表した。欧州では適応拡大申請中。米国は未だのようだ。延命効果が見られないことが影響しているのではないか。
このSHINE試験は自家造血幹細胞移植が適応にならない未治療のマントル細胞腫を組入れてBRレジメン(bendamustineとrituximabを併用)に560mg一日一回経口投与を追加する効果を偽薬追加と比較した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)のハザードレシオは0.75、メジアン値は各群6.7年と4.4年と、統計学的にも臨床的にも大きな成果が見られた。
ところが、副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオが1.07(95%信頼区間0.81-1.40)とフェールした。7年生存率は各群55%と56%でこちらも点推定値が逆方向を向いている。死亡リスクが1.4倍に高まる可能性を十分に否定できない結果になった。
G3/4の有害事象は肺炎の発生率が20%対14%と高まり、BTK阻害剤のクラス・イフェクトと目される心房細胞の治療関連有害事象発生率も14%対7%で上回った。各群10.7%と6.1%の患者が有害事象により死亡した。
試験薬群はPFSが長かった分、二次治療施行率が低く、これも影響した可能性があるが、PFSにおける2年以上の差が延命に繋がらないのは奇妙な話だ。
2種類の薬を併用すべきか、二次治療が必要になった時のために取っておくかは常に難しい選択だが、延命につながらず副作用リスクは高いなら、あえて三剤併用する必要はないのではないか。
リンク: JNJのプレスリリース
ノボ、週一インスリンの第3相がまた成功
(2022年6月3日発表)
ノボ ノルディスクはNN1436(insulin icodec)の第3相試験二本が成功したと発表した。既に一本成功しており、他の試験の結果も逐次開票するだろうから、早晩承認申請されるだろう。
ONWARDS 1試験はインスリン未経験の二型糖尿病患者を試験薬群とinsulin glargine群に無作為化割付して78週間治療した。HbA1c(ベースライン=8.5%)は各群1.55%と1.35%低下し、有意な差があった。重度または臨床的に顕著なヘモグロビン低下の人年当り発生頻度は各群0.30と0.16で大差なかった。
ONWARDS 2試験はミールタイム・インスリンを使っている1型糖尿病患者を上記と同様な群に無作為化割付して52週間治療した。HbA1c(同7.6%)の低下は各群0.47%と0.51%低下し非劣性、重度または臨床的に顕著なヘモグロビン低下の人年当り発生頻度は19.93対10.37で大差なかった。
NN1436はアルブミンに強力にしかし可逆的に結合するよう改変した遺伝子組換え型インスリン。現在の管理放出性インスリンは一日一回皮注であるのに対して週一回皮注で足りることが長所。
リンク: 同社のプレスリリース
tau凝集阻害剤の第3相が成功(?)
(2022年5月31日発表)
英国アバディーン大学発のバイオベンチャー、TauRx Pharmaceuticalsは、第3相アルツハイマー病治療試験の当初データに基づきHMTM(hydromethylthionine mesylate)を承認申請すべく動いていることを明らかにした。いつものことだが、データの内容は明らかではない。ロンドンで開催されるGlobal Conference of Alzheimer's Disease Internationalで6月9日に発表するとのこと。
HMTMはメチレン・ブルーと通称される化合物の高純度製剤。アルツハイマー病患者の脳で見られるtauの凝集を阻害する作用が注目され、第3相に進んだが、数年前に二本ともフェールした。他の薬を併用していない患者では効果の兆しが見られたことなどから用量を1/10以下に減らして実施したのが今回のLUCIDITY試験だ。欧米の施設でアミロイド陽性の軽中度アルツハイマー病と軽度認知障害の患者598人を、偽薬、4mg、または8mgを一日二回、12ヶ月に亘って経口投与する群に無作為化割付して、ADAS-cog11やADCS-ADL23を比較した。
プレスリリースが奇妙なのは、文献データと比べて悪化が小さかったと記述していること。偽薬比については言及していない。アルツハイマー病でバイオジェンの抗アミロイド・ベータ抗体Aduhelm(aducanumab)の第3相試験では悪化の大きかったグループと小さかったグループではかなりの差があった。一群当り症例数が10倍以上大きい試験でもそうなのだから、外部データと比較することにどれほどの意味があるのか、よくわからない。
リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)
zuranoloneは産後鬱高用量試験も成功
(2022年6月1日発表)
Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)とバイオジェンは、SAGE-217(zuranolone)の二本目の第3相産後鬱治療試験、SKYLARKが成功したと発表した。HAMD-17総スコアが26以上の患者200人を偽薬と50mgに無作為化割付して一日一回、2週間経口投与する効果を調べたところ、第15日の同スコアがベースライン比で各11.6と15.6低下し、有意な差があった。治療時発現有害事象は傾眠、眩暈、鎮静、頭痛など。
zuranoloneはGABA-Aの選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータ。類薬のZulresso(brexanolone)が19年に米国で産後鬱治療薬として承認されたが、60時間連続点滴静注で連続酸素飽和度モニタリングが必要。新生児を抱っこしている時に寝落ちしないよう気を付ける必要もある。zuranoloneは経口剤で本命の用途は鬱病。急性期の短期治療薬として今年下期に、産後鬱は来年に、承認申請予定。。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認申請】
デュピクセントを結節性痒疹に承認申請
(2022年5月31日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィは、Dupixent(dupilumab)を成人の結節性痒疹に用いる適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は9月30日。この病気に承認されている薬はない。
局所ステロイド不応不適の成人160人を組入れた第3相試験では痒み減少奏効率が一本は37%(偽薬群は22%)、もう一本は60%(同18%)だった。副次的評価項目の病変治癒/ほぼ治癒奏効率は各45%(16%)と48%(18%)だった。有害事象ではヘルペス感染症や結膜炎が増加した。
Dupixentは抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体で、IL-4とIL-13をブロックする。アトピー性皮膚炎や特発性蕁麻疹、好酸球性喘息症、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎などに用いることが承認されている。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
BMS、Reblozylの適応拡大申請を撤回
(2022年6月3日発表)
ブリストル マイヤーズ・スクイブはReblozyl(luspatercept-aamt)を輸血依存ではないベータ・サラセミアの治療薬としてFDAに適応拡大申請していたが、撤回した。第2相試験に基づいて申請したところ、FDAが追加情報を要求、直ぐには回答できないため撤回した由。
ReblozylはアクティビンのIIB型受容体の細胞外領域を免疫グロブリンの固定領域と結合した遺伝子組換え型融合蛋白で、骨髄異形成症候群による貧血や輸血依存のベータ・サラセミアの治療薬として欧米で承認されている。血栓症や高血圧のリスクがある。
リンク: 同社のプレスリリース
アルギナーゼ1欠乏症用薬の承認申請は受理されず
(2022年6月2日発表)
米国テキサス州のAeglea BioTherapeutics(Nasdaq:AGLE)はAEB1102(pegzilarginase)をアルギナーゼ1欠乏症(高アルギニン血症)の酵素補充療法としてFDAに承認申請していたが受理されなかった。臨床的便益を確認するよう求められた模様。二本目の試験を行うか、アルギニンの減少が臨床的な便益に繋がることを立証するデータを探す必要がありそうだ。
アルギナーゼ1欠乏症は常染色体性劣性遺伝性疾患で、尿素サイクルの最終段階でL-アルギニンを代謝しアンモニアの分解・排出をもたらすアルギナーゼ1の遺伝子に機能喪失変異を持つ。治療はフェニル酪酸ナトリウムなどが用いられているようだが、正式に承認された薬はない。
AEB1102は遺伝子組換え型ヒト・アルギナーゼ1。2歳以上の患者32人を組入れて24週間治療した第3相PEACE試験で、血漿アルギニンが71%低下と、偽薬の4.9%低下を大きく上回る効果を示した。被験者の90%が正常化を達成した(偽薬群はゼロ)。一方で、副次的評価項目の運動機能はトレンドに留まった。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
オプジーボの併用レジメンが未治療食道癌に承認
(2022年5月27日発表)
ブリストル マイヤーズ・スクイブは、FDAがOpdivo(nivolumab)及びYervoy(ipilimumab)を成人の切除不能進行/転移食道扁平上皮腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。この二剤、または、Opdivo、白金薬、そしてfluoropyrimidineの三剤を併用する。
CheckMate-648試験の中間解析で、Opdivo・Yervoy併用はメジアン生存期間が12.8ヶ月、白金薬・fluoropyrimidine群は10.7ヶ月でハザードレシオは0.78だった。PD-L1陽性(≧1%)サブグループでは各15.4ヶ月、13.7ヶ月、0.64と特に良い数値が出た。
一方、三剤併用はメジアン生存期間が13.2ヶ月、白金薬・fluoropyrimidine群比ハザードレシオは0.74、PD-L1陽性サブグループでは各15.4ヶ月と0.54で更に良い数値が出た。
このレジメンはEUでも5月に承認されたが、適応はPD-L1陽性だけ。
リンク: 同社のプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDA、Ukoniqの承認を取消
(2022年6月1日発表)
FDAはTG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)のUkoniq(umbralisib)の承認を取り消すと発表した。辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫のサルベージ薬として21年に加速承認したばかりだが、同社の抗CD20抗体と併用した慢性リンパ性白血病試験でジェネンテックの抗CD20抗体とchlorambucilの併用レジメンより死亡率が高まる懸念が浮上したため。このUNITY-CLL試験は主評価項目のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会判定)がハザードレシオ0.55と大変良い数値が出たためTG社が新薬/適応拡大承認申請したが、全生存期間のハザードレシオが1.23と逆方向を向いてしまった(検出力不足なので有意ではない)。直近の解析ではもっと悪化した模様だが、諮問委員会の直前に承認申請撤回・Ukoniqの承認返上となったため、数値は不明なままだ。
UkoniqのようなPI3K阻害剤は各社の製品で安全性懸念が浮上しており、承認や適応の返上が相次いでいる。クラス全体の安全性を検討する上でUNITY-CLL試験も重要なエビデンスになりうるだけに、残念なことだ。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。