【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- モデルナ、オミクロン対応二価ワクチンの試験成功
- 微小管阻害剤をEUA申請
- FDA諮問委員会、ヌバキソビッドのEUAを支持
- その他の領域:
- GSK、60歳以上のRSVワクチンを承認申請へ
- CD25標的ADCを承認申請へ
- Aldeyra社、ドライアイ治療試験が今度は成功
- 経皮的ピーナツ減感作療法、1-3歳の試験が成功
- FGFR異常のある腫瘍の29%が反応
- NRG1融合のある腫瘍の34%が反応
- エンハーツはher2低発現でも有効
- Trodelvyの効果はそれほどでもない
- イブランス、またも延命効果が確認されず
- Syk阻害剤の自己免疫性溶血性貧血試験がフェール
- マイクロバイオーム薬の承認申請に着手
- FDA諮問委員会、Bluebirdの遺伝子療法を支持
【COVID-19関連】
モデルナ、オミクロン対応二価ワクチンの試験成功
(2022年6月8日発表)
モデルナはSpikevax(elasomeran)の抗原とオミクロン株対応抗原の二価COVID-19ワクチン、mRNA1273.214の第2/3相追加免疫試験が成功したと発表した。50mcg筋注の1ヶ月後時点で、オミクロン株に対する抗体価はSpikevax(50mcg)群を有意に上回り、GMR(幾何平均比)は1.75、97.5%信頼区間は1.49-2.04だった。データを承認審査機関に提出する予定。
日本でも4回目接種が始まったが、重症感染例が大きく減少していることや、感染予防効果の持続性が低いことから、オミクロン対応ワクチンが承認されるまで様子見を勧める医師も多い模様だ。従来ワクチン比1.75倍というのは案外な印象だが、当初の水準が少しでも高ければ効果が漸減しても少しは長持ちすることになる。
リンク: 同社のプレスリリース
微小管阻害剤をEUA申請
(2022年6月7日発表)
米国マイアミのVeru(Nasdaq:VERU)はVERU-111(sabizabulin)を中等症・重症COVID-19入院患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)申請したと発表した。米国や中南米などで実施した、急性呼吸窮迫症候群や死亡のリスクが高い患者に9mgを一日一回、経口投与した無作為化割付二重盲検試験の中間解析(n=150)で、60日死亡率が20%と偽薬群の45%を下回り、相対リスク削減率55%、p=0.0029だった。
sabizabulinはアルファ/ベータ・チューブリン阻害剤で、これまでは専ら抗癌剤として開発されてきた。同社は、COVID-19における作用機序に関して、微小管はウイルスの細胞内移動に係るというインフルエンザ・ウイルスに関する論文を指摘している。
リンク: 同社のプレスリリース
FDA諮問委員会、ヌバキソビッドのEUAを支持
(2022年6月7日発表)
FDAのVRBPAC(ウイルス及び関連生物学的製剤諮問委員会)は、Novavax(Nasdaq:NVAX)が18歳以上の成人向けに申請したナノ粒子状COVID-19ワクチン(欧州名Nuvaxovid)を検討し、22人の委員のうち21人が賛成、1人は棄権と、圧倒的多数がEUA(非常時使用認可)を支持した。
スパイク蛋白の遺伝子を導入したバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させて産生した、全長融合前スパイク蛋白ナノ粒子にサボニン・ベースのMatrinx-Mアジュバントを添加したワクチンで、50mcgを21日置いて二回筋注する。通常の冷蔵庫で保存できる。米国とメキシコなどで実施した第3相試験では症候性感染を予防するワクチン効率が90%、英国の第3相では89%だった。オミクロン株に関する効果や、持続性は明らかではない。
mRNAワクチンではごく稀に心筋炎/心膜炎が若者中心に報告されている。同社のワクチンでも米国第3相で発生率が0.007%と偽薬群の0.005%より高かった。既に承認されている国では市販後有害事象報告が35件あり、累計接種回数は74万回なので、同じような頻度だ。
諮問委員会ではmRNAワクチンの接種が進んだ段階で4番目のワクチンを認可する必要性について問う声もあった。遺伝子ワクチンを忌避する人はサイエンスに基づいて判断しているわけではないので、従来技術の抗原ワクチンなら受け入れる訳ではないだろう、という洞察だ。尤もな意見だが、たとえ少数でも受け入れる人はいるだろうから、プランBを用意しておくのは重要だ。
Nuvaxovidは英国試験に基づき昨年12月にEUで条件付き承認、WHOもEUL(非常時使用リスト)収載、今年4月には日本でも承認された。生産がボトルネックになっており、米墨第3相試験の完了そしてEUA申請が遅れ、今年2月に2022年の供給計画が下方修正された。
リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)
【新薬開発】
GSK、60歳以上のRSVワクチンを承認申請へ
(2022年6月10日発表)
GSKはGSK3844766Aの第3相試験が成功したと発表した。60歳以上の25000人を17ヶ国の施設で組み入れて、一回筋注する効果を検討したところ、RSウイルス感染を有意に抑制することが中間解析で確認された。RSV A感染とRSV B感染夫々の予防効果や70歳以上における予防効果も確認された。年内に承認申請する考え。
RSウイルスの融合前F糖蛋白を抗原とする遺伝子組換えワクチンで、同社のCervarix子宮頸癌ワクチンなどと同様なAS01アジュバントで抗原性を増強している。RSVワクチンは同社のほかに数社が先陣争い中。
リンク: 同社のプレスリリース
CD25標的ADCを承認申請へ
(2022年6月10日発表)
スイスのADC Therapeutics(NYSE:ADCT)は、ADCT-301(camidanlumab tesirine、通称Cami)の第2相再発難治ホジキン型リンパ腫試験の中間解析結果をEHA(欧州血液学会)で発表するとともに、承認申請に向けてFDAと相談する考えを明らかにした。
Camiは抗CD25抗体とDNA2本の間にクロスリンクを形成し複製を妨げるtesirineを結合した抗体薬物複合体。メジアンで6治療歴を持つ患者117人に投与したところ、ORR(総合的反応率)が70.1%、完全反応率は33.3%だった。ORRのメジアン反応持続期間は13.7ヶ月。G3以上の治療時発現有害事象は各種の骨髄抑制、低リン血症、斑点状丘疹など。ギラン・バレー症候群(GBS)の発生により20年に治験部分停止が命じられたことがあるが、今回の試験でも117人中8人でGBS/多発神経根症が発生した。
リンク: 同社のプレスリリース
Aldeyra社、ドライアイ治療試験が今度は成功
(2022年6月8日発表)
Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)の第3相TRANQUILITY-2ドライアイ治療試験が成功したと発表した。共同主評価項目のSchirmerテストのスコアと改善奏効率が偽薬を有意に上回った。この主評価項目は一本目のTRANQUILITY-1試験でも前者は副次的評価項目として、後者はポスト・ホック解析で、名目p値が0.05を下回っており、エビデンスが二本となったことから1年安全性試験の結果などを待って承認申請する考え。
ADX 102は免疫反応を刺激するRASP(反応性アルデヒド種)を調節する点眼液。第3相は初日に4回点眼した後に、涙の分泌能を調べるSchirmerテストを行った。結果は、4mm程度改善し、ほぼ変わらなかった偽薬群を有意に上回った。奏効率(10mm以上改善した患者の比率)も25%対8%と有意に上回った。
一本目は主評価項目の赤目改善がフェールしたが、奏効率(同上)は31%対15%だった。同社は、この結果を受けて、二本目の主評価項目を赤目とShirmerテストに増やし、どちらかが成功すれば成功認定する解析計画変更を行った。更に、一本目の赤目評価をコンピューターに自動判定されたところ、有意性判定水準を下回る結果が出たため、今年5月に二本目の主評価項目をSchirmerテストだけに変更した。
ポスト・ホック分析を活用したり、主評価項目が紆余曲折したりしているので、承認審査機関が承認申請を首肯するかどうか、様子を見たい。
リンク: 同社のプレスリリース
経皮的ピーナツ減感作療法、1-3歳の試験が成功
(2022年6月7日発表)
フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)はViaskin Peanutの第3相EPITOPE試験が成功したと発表した。1~3歳のピーナツ・アレルギー患者362人を試験薬群と偽薬群に2対1割付して12ヶ月治療して、奏効率(ベースラインでアレルギー誘導量(ED)が10mg以下の患者では300mg以上に、10mg超では1000mg以上に、改善)が各群67.0%と33.5%となり、差の95%下限が22.4%と閾値の15%を上回った。
深刻有害事象の発生率は9%と3%。減感作療法の最大の懸念であるアナフィラキシーが試験薬群の4人(1.6%)で発生したが、いずれも軽中度で、3人はエピネフィリン注射で、1人は自然に、解消した。有害事象治験離脱率は3.3%だった。
ピーナツ蛋白を活性成分とする一日一回貼付用薬。開発歴は順調ではなく、後期第二相試験がフェールしたが、6~11歳に250mcgを投与したグループは反応が良かった。このため、4~11歳に絞って第3相試験を行ったが奏効率が35.3%、偽薬群は13.6%、差の95%下限は12.4%となりフェールした。FDAの反応が良かったようで18年に承認申請したが、パッチの密着性などがネックで承認されなかった。20年にEUで承認申請したが、効果が限定的でアナフィラキシー・リスクを上回らないと否定的な反応だったため、今年1月に撤回した。
リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)
FGFR異常のある腫瘍の29%が反応
(2022年6月7日発表)
JNJグループのJanssen Pharmaceuticalは、ASCO(米国臨床腫瘍学会)で、Balversa(erdafitinib)の第2相RAGNAR試験の中間解析結果を発表した。FGFR異常がある固形癌のサルベージ試験で、解析対象178人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会判定)は29.2%、メジアン反応持続期間は7.1ヶ月だった。FDAと相談する考え。加速承認申請が認められるのではないか。
Balversaは汎FGFR阻害剤。19年に米国でFGFR3またはFGFR2に特定の遺伝子変異や融合を持つ局所進行/転移尿路上皮癌に用いることが加速承認された。転移尿路上皮癌の1~2割が該当するようだ。エビデンスとなる第2相試験でのORR(盲検独立評価委員会判定)は32%、メジアン反応持続期間は5.4ヶ月だった。
今回の試験は32種類と多くの器官の癌を組入れたが、症例が多い神経膠腫では29人のうち6人、膵癌は13人中4人、唾液腺癌は5人すべてが反応した。
G3以上の有害事象の発生率は45%、薬物関連有害事象による治験離脱は7.3%だった。
08年にAstex Therapeutics(後に大塚薬品が買収)から導入したもの。
リンク: JNJのプレスリリース
NRG1融合のある腫瘍の34%が反応
(2022年6月5日発表)
オランダのMerus N.V. (Nasdaq:MRUS)は、MCLA-128(zenocutuzumab、通称Zeno)のNRG1融合陽性腫瘍におけるORR(客観的反応率、治験医評価)が34%と良好であったことをASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。年内にも承認申請に向かうのではないか。
NRG1が遺伝子融合により異常活性化すると、受容体であるher3がher2とヘテロダイマーを形成してPI3K/AKT/mTOR経路を活性化するシグナルを発出する。癌化を牽引するドライバー変異だが、該当するのは肺癌や膵癌、乳癌、胆嚢胆管癌、卵巣癌などの0.5%前後と大変稀である模様だ。Zenoはher3に結合する長鎖とher2に結合する長鎖を持つ二重特異性抗体。
今回のデータは第1/2相eNRGy試験の72例とEAP(承認前の医薬品を切羽詰まった患者に提供するプログラム)の11例が対象。日本を含む17ヶ国の64医療施設が参加した。単群試験で、試験薬(750mg)を2~4時間かけて点滴静注し、2週毎に繰り返した。変化がなくても8週毎に検査して反応の程度を評価した。
発生部位毎のORRは、膵管腺腫19人では42%、非小細胞性肺癌46人では35%、乳癌は7人中3人、胆管癌は3人中1人だった。メジアン反応持続期間は9.1ヶ月。
安全性解析の対象は第2相向け推奨用量を投与した208人。G3/4有害事象発生率は36%で下痢や疲労、悪心、貧血、点滴関連反応など。G5は5%。治療時発現有害事象の発生率はG3/4が5%、G5は0.5%で、一名が点滴関連反応で死亡した。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ASCOプレゼン用スライド(pdf)
エンハーツはher2低発現でも有効
(2022年6月5日発表)
第一三共と共同開発・販売パートナーであるアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第3相DESTINY-Breast04試験が成功したと2月に発表したが、データをASCO(米国臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で公表した。her2標的薬の中で初めて、her2高発現型だけでなく低発現型の乳癌にも効果が高いことが明らかになり、対象患者が大きく増加した。
EnhertuはHerceptinの活性成分である抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をリンカーで結合した抗体薬物複合体。her2を過剰発現している切除不能/転移乳癌や局所進行/転移胃・胃食道接合部腺腫でher2標的薬による治療歴を持つ患者に承認されている。
her2検査はIHC法やISH法が一般的。IHC法の判定結果は0(陰性)、1+、2+、3+で示される。her2標的薬の第一号であるロシュのHerceptin(trastuzumab)が98年に承認された頃はIHC法で2+または3+であれば適応と考えられていたが、臨床試験で用いられたアッセイと異なった評価が出ることもある市販アッセイを用いた研究や、ISH法を用いた研究が進んだ今日では、IHC法で2+だった場合はISH法でも検査して陽性なら適応、と判断されるようになった。この結果、Herceptinの対象患者は転移乳癌の3割強から2割強に低下した。ロシュの抗体薬物複合体であるKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)の対象も同じである。
今回の試験は、陽性なのに適応にならない1+と、2+のうちISH陰性を組入れたことが特徴。一次/二次治療歴を持つ患者を5.4mg/kgを投与する群と医師が選んだ化学療法の群に2対1割付して、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較した。主評価項目のホルモン受容体陽性サブグループ499人における成績はハザードレシオが0.51で有意、各群のメジアン値は10.1ヶ月と5.4ヶ月だった。同様に、副次的評価項目の全生存期間は0.64(有意)、23.9ヶ月、17.5ヶ月。ホルモン受容体陰性サブグループ58人を含む全ユニバースの解析でもPFSは0.50、9.9ヶ月、5.1ヶ月、全生存期間は0.64(有意)、23.4ヶ月、16.8ヶ月だった。
このような場合、ホルモン受容体陰性だけの成績が気になるが、今回はちゃんとプレスリリースに記載されている。点推定値はPFSも全生存期間も陽性サブグループより若干よく、95%上限は1を下回った。サンプル数が少ないが好意的に受け止めてよいのではないか。
忍容性面では、間質性肺疾患が12%で発生、致死的間質性肺疾患は0.8%だった(対照群は1%未満とゼロ)。
リンク: 両社のプレスリリース
Trodelvyの効果はそれほどでもない
(2022年6月4日発表)
ギリアド・サイエンシズは3月にTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)のTROPiCS-02試験の成功を発表したが、ASCOでデータを公開した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌で内分泌療法薬とCDK4/6阻害剤を含む二次から四次までの化学療法歴を持つ転移性乳癌543人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師が選んだ化学療法を施行する群と比較したところ、ハザードレシオは0.66で統計的に有意だった。メジアン値は5.5ヶ月と4.0ヶ月で差が小さいが、1年経っても死亡も進行もしなかった患者の比率は21%と7%で価値のある差が出ている。
残念なのは全生存期間の中間解析(293人到達時点)がハザードレシオ0.84、メジアン値は13.9ヶ月と12.3ヶ月とそれほど良くないこと。次は350人到達時点、最終は483人到達時点で解析する予定。
Trodelvyは20年にImmunomedicsを210億ドルで買収して入手した、抗TROP-2抗体とirinotecan代謝物の抗体薬物複合体。2~3次の治療歴を持つトリプル・ネガティブ乳癌に承認されている。
リンク: 同社のプレスリリース
イブランス、またも延命効果が確認されず
(2022年6月4日発表)
ファイザーのIbrance(palbociclib)はPALOMA-2試験が成功し、エストロゲン受容体陽性her2陰性局所進行/転移乳癌の一次治療にアロマターゼ阻害剤と併用することが16年にEUで承認され、米国では仮承認が本承認に切り替わった。薬効は進行・死亡の抑制で、letrozoleと併用した群のメジアンPFSは24.8ヶ月、letrozole・偽薬併用群は14.5ヶ月、ハザードレシオは0.580だった。
PFSで10ヶ月も差があれば全生存期間は1年以上の差があっても驚きではないが、ASCOで発表された数値は、メジアン値は53.9ヶ月と51.2ヶ月で2ヶ月余の差しかなく、ハザードレシオは0.956で有意ではなかった。
IbranceはPALOMA-1試験でもPFSの10ヶ月の差が十分な延命効果に繋がらなかった(有意でなかった)。
一次治療薬の延命効果は二次以降の治療内容にも左右されるが、一次治療薬の副作用により二次治療でベストな薬を使えなかった、というようなケースも起こり得るので、話は単純ではない。会社側は追跡不能例に大きな群間差があったことを指摘しているが、行政の記録を確認すれば追跡不能でなくなる筈だ。FDAの要請でデータ収集しアップデートした前例もある。本試験もアップデートして、ただのディスインフォメーション工作ではないこと明らかにすべきである。
リンク: 同社のプレスリリース
Syk阻害剤の自己免疫性溶血性貧血試験がフェール
(2022年6月8日発表)
Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)はTavalisse(fostamatinib disodium hexahydrate)の第3相AIHA(温式自己免疫性溶血性貧血)試験がフェールしたと発表した。東欧の施設における偽薬群の成績が異常によかったが、欧米など他の地域では群間差があったため、承認審査機関と相談する考え。
治療歴を持つ患者90人を試験薬群と偽薬群に無作為化割付して24週間治療し、持続的ヘモグロビン反応率を比較したところ、35.6%対26.7%と数値上上回ったが有意水準には達しなかった。ポスト・ホックでブルガリアやチェコなど東欧の施設37人を分析したところ、35%対53%と数値上、偽薬群を下回った。一方、他の地域の53人では36%対11%、名目p=0.03と良さそうな結果が出た。
東欧の患者は診断後間もなかったり、rituximab治療歴が無かったり、全体に偽薬でも反応しそうな患者が多かった由だが、それが原因なら試験薬群の成績ももっと良かったはずだ。サンプルサイズが小さいので群間の偏りがあったかもしれないが、影響度を数値化するのは困難だろう。プロトコル違反やGCP逸脱などが理由なら解析対象から除外することが許容されるだろうから、調査してみてもよいのではないか。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
マイクロバイオーム薬の承認申請に着手
(2022年6月7日発表)
Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)はSER-109のECOSPOR IV試験が良好な結果になり、難治CDI(クロストリディオイデス・ディフィシル感染症)の再燃予防薬として米国でローリング承認申請に着手したと発表した。年央に完了する予定。マイクロバイオームが承認されれば初。
健常者の腸由来のフィルミクテス門細菌胞子を精製、エタノール処理したカプセル剤。抗生剤治療を終えた後に、4個を一日一回、3日間服用する。第3相試験(n=182)では8週内再燃率が12%と偽薬群の40%を下回り、相対リスク削減率32%、統計的に有意だった。治療時発現有害事象の発生率は各群51.1%と52.2%で大差なく、深刻例の発生率は7.8%と16.3%で少なかった。死亡は3人(膠芽腫、血腫、敗血症が各1人)対ゼロだった。
今回の単群試験はFDAの推奨に基づき安全性データベースを充実すべく263人を24週間追跡した。CD感染検査は毒素アッセイだけでなくPCRも許容した。8週間再燃率は8.7%と偽薬対照試験と同じような結果になった。
21年にNestle Health Scienceと北米販売で提携、先方の子会社のAImmune Therapeuticsが商業化を主導し利益は折半する。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、Bluebirdの遺伝子療法を支持
(2022年6月9-10日発表)
FDAはCTGTAC(細胞組織遺伝子治療諮問委員会)を招集し、bluebird bio(Nasdaq:BLUE)が承認申請したSkysona(elivaldogene autotemcel、略称eli-cel)とZynteglo(betibeglogene autotemcel、略称beti-cel)について意見を聞いた。どちらも血液癌のリスクが懸念されるが、適切な治療法のない患者には便益が上回ると全員一致で支持した。
尚、どちらもEUで先に承認されたが、薬価交渉が難航したことなどから同社は欧州事業縮小と承認返上を決めた。
eli-celの予定適応症は18歳未満の早期cALD(脳副腎白質ジストロフィー)で、HLA適合造血幹細胞の同胞ドナーがいない場合。ALDはABCD1遺伝子の欠損によるX染色体性遺伝子疾患。有病率は新生男児21000人に一人。3~4割が進行性かつ不可逆的な神経変性疾患であるcALDを発症する。治療しないと5年生存率は5割程度。兄弟姉妹のHLA適合造血幹細胞移植が有効だが、入手できるとは限らず、できても小児の2割程度はグラフト・フェールなどにより死亡するようだ。
eli-celは患者から採取したCD34+細胞にレンチウイルスベクターを用いてABCD1遺伝子の相補DNAを導入し培養したもの。患者に抗癌剤を投与してプリコンディショニングした後に点滴投与する。
臨床試験では32人中29人、90%が、2年経っても大きな機能障害なしに生存していた。造血幹細胞移植の同様なデータはHLA適合同胞ドナーなら9割だが不適合だと4割程度である模様で、比較可能性に難があるものの、良さそうに見える。有害事象は汎血球減少症など。
FDAは21年8月に治験停止を命じたことがある。MDS(骨髄異形成症候群)が発生したため。殆どの被験者でベクターの遺伝子がMECOM癌原遺伝子に組み入れられるため、薬物関連有害事象の可能性がある。これまでに、67人中3人(4%)がMDSを発症し、うち2人はMECOM挿入が関係した可能性がある。経時的に増加する可能性もある。
深刻なリスクだが、小児MDSは5年生存率が比較的高いこともあり、15人の委員全員がeli-celの便益は危険を上回ると判定した。また、eli-celの承認審査に際して同社が重症鎌状赤血球症向けに開発しているbb1111(lovotibeglogene autotemcel、略称lovo-cel)の安全性データを考慮する必要はないと13人が判定した(一人は反対、一人は棄権)。
eli-celの審査期限は6月16日に設定されたが諮問委員会招集が決まり9月16日に延期された。
リンク: 同社のプレスリリース(6月9日付)
beti-celの予定適応症は輸血依存のベータ・サラセミア。患者から採取したCD34+細胞にレンチウイルスベクターを用いてベータ・グロブリン遺伝子(標識のため一部改変)を導入、培養して患者に戻す。第3相試験では36人中32人が輸血不要になった。深刻有害事象は血小板減少症。beti-celでも血液癌症例が発生し治験部分停止を命じられたことがあるが、遺伝子を調べたところ、オンコジーンとして知られている遺伝子にはベクターの遺伝子が挿入されていないことが明らかになり、解除された。諮問委員会では13人全員が支持した。審査期限は8月20日。
19年にEUで条件付き承認され、同社は価格を157.5万ユーロ(5年分割、但し効果がなくなったら支払い終了)に設定しようとしたが、ドイツが半値を求めるなど薬価交渉が難航、欧州の患者は見捨てることを決めた。一方、米国では、ICER(Institute for Clinical and Economic Review)が210万ドル(5年分割、効果がなくなったら支払い終了)と同社に肯定的な評価を示している。
米国で承認される目途が立ったのは経営面でも大きな前進だ。
レンチウイルスは宿主細胞の遺伝子にゲノムを導入することができる。血球細胞のように活発に分裂する細胞以外にも導入できるので、患者が欠乏する蛋白の遺伝子を長期的に発現することが期待される。一方で、変な場所に導入されるとバグが生じるかもしれない。今回の諮問委員会は、治療しないリスクが深刻な疾患ならリスクが許容されることを示した。
同社はbb1111(lovotibeglogene autotemcel、通称lovo-cel)を鎌状赤血球症治療薬として来年、承認申請する考え。血液癌リスクが具現化し詰まっていたパイプラインが、一気に流れ出しそうだ。
リンク: 同社のプレスリリース(6月10日付)
今週は以上です。
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