2022年4月23日

第1047回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • CDC、小児急性肝炎の原因が不明ならアデノウイルス検査を勧告 
  • 第2のピロカルピン点眼液の老眼治療試験が成功 
  • エンハーツをher2変異肺癌に適応拡大申請 
  • ダーブロックを米国でも承認申請 
  • PI3K阻害剤を血液癌に開発するなら延命効果を確認せよ 
  • CHMP、新薬三品の承認に肯定的意見 
  • CHMP、PARP阻害剤Rubracaの一部適応を再検討


【今週の話題】


CDC、小児急性肝炎の原因が不明ならアデノウイルス検査を勧告
(2022年4月21日発表)

英国などで原因不明の小児肝炎が100例以上、報告されているが、CDC(米国疾病管理予防センター)は、米国でも小児のアデノウイルス感染を伴う肝炎が報告されていたことを医師や公衆衛生組織に通知した。小児肝炎は肝炎ウイルスによるものが多いが、もし陰性で原因不明な場合はアデノウイルスのqPCR検査を行い、陽性なら州の公衆衛生組織やCDCに報告するよう勧告した。

昨年11月にアラバマ州の小児病院が5例の顕著な肝障害を報告した。うち3例は急性肝不全で、アデノウイルス検査陽性だった。全員、それまでは健康だった。COVID-19感染歴もなかった。類似症例の探索により、昨年10月から今年2月までの期間にアデノウイルス感染を伴う肝炎が全部で9例、見つかった。2例は肝移植を受けた。死亡例はない。ゲノム分析が行われた5例全てが41型アデノウイルスだった。2例は血漿のpCRで陰性判定されたが全血で再検査したところ陽性判定に代わった。

41型アデノウイルス感染は急性胃腸炎を起こし、下痢や嘔吐、発熱、そしてしばしば呼吸症状を発現する。免疫不全の小児で肝炎の報告例があるものの、他に病気のない小児で原因になるとは知られていない。

症例は英国が多いため当方はアデノウイルス・ベクターCOVID-19ワクチンとの関連を危惧したが、何れもワクチン接種歴はないようだ。

リンク: CDCの通達

【新薬開発】


第2のピロカルピン点眼液の老眼治療試験が成功
(2022年4月21日発表)

イスラエルと米国に拠点を持つOrasis PharmaceuticalsはCSF-1(pilocarpine 0.4%点眼液)の第3相老眼治療試験二本が成功したと発表した。下期に承認申請する予定。

ムスカリン受容体刺激剤pilocarpineは錠剤がシェ―グレン症候群のドライマウスの治療に、点眼薬が緑内障の治療に用いられているが、昨年10月、米国でアッヴィのVuity(1.25%点眼液)が老眼治療薬として承認された。OrasisやEyenovia(Naasdaq:EYEN)も独自技術の製剤で第3相試験中。CSF-1は濃度がVuityの半分以下であることと、一日一回ではなく二回点眼すること、そして第3相試験の薬効判定時期が第30日の点眼3時間後ではなく第8日の1時間後であることが特徴。Vuityの効果は1時間後がピークで8時間後には偽薬群と大差なくなるので、1時間後を主評価項目にした方が良い数値が出るし、働いている人は一日二回のほうが良いかもしれない。実際、アッヴィも一日二回試験を実施中だ。

第3相試験の結果は断片的にしか公表されていない。米国の施設で45~64歳の老眼患者613人を組入れて2週間点眼させ応答率を偽薬対照群と比較した。DCNVA(距離矯正近見視力)が3行以上改善し、且つ、CDVA(矯正遠見視力)が1行以上悪化しない症例を応答と判定した。結果は、二本のプール分析で、試験薬群の応答率は第8日の一回目の1時間後で40%、二回目は50%で、統計的に有意な差があった。

治療時発現有害事象は頭痛(6.8%)や点眼箇所痛(5.8%)など。中等症以上の発生率は2.6%だった。

Vuityの1時間後の応答率も同程度なので、薬効面では大差なさそうだ。一日一回だと朝刊は読めても夕刊は時間切れ、スマホは出勤時は見れるが帰りは見辛くなるので、一日二回版の発売でどちらが先んじるかが注目だ。

尚、Eyenoviaはマイクロ製剤を独自のディバイスで投与するMicroLineの二本目の第3相が年央にも開票する見込み。

リンク: Orasis社のプレスリリース

【承認申請】


エンハーツをher2変異肺癌に適応拡大申請
(2022年4月19日発表)

第一三共とアストラゼネカはEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)をher2変異陽性非小細胞性肺癌の再発治療薬としてFDAに適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は第3四半期。

91人を組入れた第2相DESTINY-Lung01試験でcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が54.9%、メジアン反応持続期間は9.3ヶ月だった。

her2変異は少なく、非扁平上皮非小細胞性肺癌の2-3%を占める。判定には次世代シーケンサが必要。

リンク: 両社のプレスリリース

ダーブロックを米国でも承認申請
(2022年4月19日発表)

グラクソ・スミスクラインは米国でGSK1278863(daprodustat)を承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年2月1日。

HIF-PH阻害剤で慢性腎疾患の貧血を治療する。保存期の患者を組入れた試験でも透析期の試験でもヘモグロビン矯正効果がAranesp(darbepoetin alfa)比非劣性だった。MACE(主要有害心臓イベント)も非劣性だった。

日本で20年にダーブロック名で承認、今年3月にはEUでも承認申請が受理された。FDAはHIF-PH阻害剤の安全性に懸念を持っているので先行きは不透明。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


PI3K阻害剤を血液癌に開発するなら延命効果を確認せよ
(2022年4月21日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、PI3K阻害剤の承認基準の変更について意見を聞いた。単群試験の反応率データに基づく加速承認はせず、無作為化割付対照試験で延命効果を確立するよう求めるもので、棄権の1名を除いて全員が賛成した。尚、乳がんの治療に用いるPI3K阻害剤は今回の議論の対象外。

PI3K阻害剤は腫瘍学の有望領域で、血液癌では14年にギリアドのZydelig(idelalisib)、17年にバイエルのAliqopa(copanlisib)、18年にVerastem(Nasdaq:VSTM)のCopiktra(duvelisib)、21年にはTG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)のUkoniq(umbralisib)が相次いでFL(濾胞性リンパ腫)などに米国で承認され、21年にはインサイト(Nasdaq:INCY)がINCB050465(parsaclisib)を承認申請、今年はMEI Pharma/協和キリンがME-401(zandelisib)を申請すべくFDAと相談した。

適応のうちCLL(慢性リンパ性白血病)は無作為化割付対照試験のエビデンスに基づく正式承認だが、FLやMZL(辺縁帯リンパ腫)は単群再発治療試験におけるORR(客観的反応率)に基づく加速承認なので市販後に延命またはそれに準じる便益を確認しなければならない。承認用途で偽薬対照試験を行うのは困難なのでrituximabなどとの併用や、三次治療薬なら二次治療、初度治療の試験を行うことになる。

ところが、薬効確認試験は順調に進まず、多くの会社が加速承認された適応の一部または全てを返上した。きっかけは16年にZydeligの第3相試験三本が安全性懸念から打ち切られたこと。深刻有害事象や死亡が対照群を上回った。Aliqopaは主評価項目のPFSが偽薬比有意に増加したが全生存期間では有意差がなく、2年生存率は数値上下回った(FDAによると比例ハザードの仮説が崩れたためハザード・レシオの信頼性は高くない)。Copiktraは資産を譲り受けたSecura Bioが市販後薬効確認試験をネグっている。Ukoniqは自社開発の抗CD20抗体の併用試験で主評価項目のPFSが延長したが死亡は偽薬群より多かった。

これらのエピソードは、ORRは言うに及ばず、延命効果や毒性をある程度反映するPFSでも不十分であることを示している。FDAは既に方針転換しており、市販後薬効確認試験を迅速に実施するよう示唆されたインサイトは加速承認の申請を撤回。MEI Pharma/協和キリンは加速承認申請を断念した。

深刻有害事象で多いのは熱性好中球減少症や肺臓炎などの感染症、下痢、大腸炎など。深刻有害事象の内訳として開示される死亡は少数だが、全生存の解析に用いられる死亡はもっと多い。今回初めて見て驚いたのでFDAのブリーフィング資料から抜粋して以下に示した。FDAは、特にrituximabなどと併用する時の、至適用量の検討が不十分なのではないかと指摘している。

主なPI3K阻害剤の開発承認歴(米国)

ギリアドのZydelig(idelalisib):14年にFLとSLLの三次治療に加速承認も、P4組入れ遅延を理由に22年1月に返上。再発CLLは14年に本承認。16年にFLやCLLの併用試験三本が安全性懸念で中止に。

バイエルのAliqopa(copanlisib):17年にFL三次治療で加速承認。MZLなども組入れたrituximab併用対照試験でPFS延長に成功、適応拡大申請したが、全生存の解析が有意水準に届かず撤回。。

Secura BioのCopiktra(duvelisib):18年にFL三次治療が加速承認も市販後コミットメント試験を実施せず21年に返上。CLL/SLL三次治療は本承認。日本でヤクルトが開発中。

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)のUkoniq(umbralisib):21年に加速承認されたMZL二次治療とFL三次治療をどちらも返上。併用試験でPFSは達成も死亡リスク上昇。

インサイト(Nsdaq:INCY)のINCB050465(parsaclisib):21年にFLなどに加速承認を申請したが、今年1月に撤回。市販後確認試験を期限までに完了することが困難なため。

MEI Pharma/協和キリンのME-401( zandelisib):FL二次治療の加速承認を狙ったがFDAが対照試験の実施を要求したため断念。

注:FL=濾胞性B細胞リンパ腫、MZL=辺縁帯リンパ腫、SLL=小リンパ球性リンパ腫、CLL=慢性リンパ性白血病、PFS=無進行生存期間

PI3K阻害剤の第3相試験における死亡率
製品名試験薬群対照群HR(95%CI)
Zydelig(死亡率、vs. 偽薬):
未治療CLL8%3%3.34(1.08, 10.39)
治療歴iNHL5%1%4.72(0.6, 37.12)
治療歴iNHL8%6%1.51(0.71, 3.23)
Aliqopa(2年生存率、vs. 偽薬):
再発iNHL86%90%
Copiktra(死亡率、vs. ofatumumab)
治療歴CLL/SLL50%44%1.09(0.79, 1.51)
出所:FDAのODACブリーフィング資料(4/21付)

リンク: ENDPOINTSNewsの報道


CHMP、新薬三品の承認に肯定的意見
(2022年4月22日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、白樺抽出物などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら1~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アイルランド籍のAmryt Pharma(Nasdaq:AMYT)のFilsuvez(カバノキ皮質抽出物のゲル製剤)は表皮水疱症治療薬。栄養障害型と接合部型の表皮水疱症患者の部分層創傷に塗布する。6ヶ月児以上が適応になる。臨床試験では45日創傷閉鎖達成率が41%と偽薬の28%を上回った(p=0.013)。主な有害事象は創傷/塗布箇所の各種合併症など。

21年3月に欧米で承認申請されたが、米国では審査完了通知を受領した。EUでは同社の類似薬であるEpisalvanも16年に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュのLunsumio(mosunetuzumab)はB細胞のCD20と細胞傷害性T細胞のCD3エプシロン鎖を架橋する二重特異性抗体。二次以上の治療歴を持つ成人の難治/再発濾胞性リンパ腫に単剤投与することを条件付き承認することが支持された。90人の臨床試験で完全反応率60%、客観的反応率は80%、メジアン反応持続期間は22ヶ月だった。米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスがインサイト(Nsdaq:INCY)からライセンスして開発したMET阻害剤、Tabrecta(capmatinib)も承認認が支持された。条件付き承認ではないようだ。METの遺伝子にエクソン14をスキップしてしまう変異があり、免疫療法且つ又白金治療歴のある非小細胞性肺癌が適応になる。米国では20年5月に加速承認、日本も同年6月にタブレクタ名で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

スイスのオブシーバ(Nasdaq:OBSV)がキッセイ薬品からライセンスして開発したYselty(linzagolix choline)は昨年12月に肯定的意見を得たが、欧州委員会から指摘があった模様で、再評価を経て再び肯定的意見となった。安全性懸念があったようだが、内容は不明。

非ペプチド系GnRH受容体アンタゴニストで再生産年齢期の成人女性の子宮筋腫に伴う中重度症状を治療する。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持されたのは、

MSDのKeytruda(pembrolizumab):成人の再発リスクが高い局所進行性/早期トリプル・ネガティブ乳癌の切除術補助療法(術前に化学療法併用、術後は単剤)。米国では昨年7月に承認。

ロシュのTecentriq(atezolizumab):成人の再発リスクが高い非小細胞性肺癌の完全切除及び白金化学療法後維持療法。但し、PD-L1高度陽性(TC≧50%)でEGFR悪性変異/ALK変異のない場合。米国では昨年10月に承認され、PD-L1は陽性(TC≧1%)なら適応。日本でもPD-L1陽性に適応拡大申請中。

ギリアド・サイエンシズの子会社であるKite PharmaのYescarta(axicabtagene ciloleucel):成人の難治再発濾胞性リンパ腫の4次治療。米国では昨年3月に3次、4次治療に加速承認。

オルガノンのElonva(corifollitropin alfa):再生産医療補助薬として承認されている遺伝子組換え卵胞刺激ホルモン薬を14歳以上の成年男子の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の治療に用いる。

ノボ ノルディスクのNovoSeven:重度産後出血の治療。子宮収縮薬で十分に止血できない場合に用いる。

一方、メーカー側が承認申請を撤回したのは、まず、バイオジェンのAduhelm (aducanumab)。CHMPは薬効の立証が不十分で脳の浮腫や出血など安全性懸念もあることから昨年12月に否定的意見をまとめた再審請求を受けて再評価中だったが、諦めたのだろう。FDAに背中を押されて承認申請し米国では加速承認されたが、海外では支持されず米国でも医療や支払い側には受け入れられなかった。承認はゴールではなく出発点に過ぎないことを思い知らされる。

Orphazyme(Nasdaq Copenhagen:ORPHA.CO)のMiplyffa(arimoclomol)はニーマン・ピック病C型の治療薬として欧米で承認申請されたが、エビデンスとなるべき第2/3相試験はフェールしているため、米国では審査完了、CHMPも2月の予備的な採決で否定的な意見が多く、申請撤回となった。

【医薬品の安全性】


CHMP、PARP阻害剤Rubracaの一部適応を再検討開始
(2022年4月21日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)のPARP阻害剤Rubraca(rucaparib)の適応の一つについて、再検討を始めたと発表した。白金薬治療歴のあるBRCA変異陽性卵巣癌の3次治療に関するもので、18年に条件付き承認した時の市販後コミットメント試験であるARIEL4試験が、主評価項目のPFS(無進行生存期間、治験医評価)は化学療法群を有意に上回ったものの、全生存期間の中間解析結果が見劣りしたため(初耳だ)。結論が出るまで新規に治療を開始しないよう推奨した(正式な勧告は欧州委員会が決定する)。

PFSのハザードレシオは0.64、p=0.001、メジアン値は7.4ヶ月対5.7ヶ月と2ヶ月弱の差があったが、全生存のハザードレシオは1.55(95%信頼区間1.085-2.214)、メジアン値は19.6ヶ月対27.1ヶ月だった。階層化因子である白金薬感受性に基づくサブグループ分析では、白金感受癌のハザードレシオは1.12、部分感受癌は1.15だが白金抵抗性癌サブグループでは1.72だった。

安全性の問題ではないようだ。CHMPによると、今回の推奨はRubracaのもう一つの適応症である白金薬による二次以降の治療に反応した患者の維持療法には当てはまらない。

Rubracaは米国でも承認されているので、FDAも何らかの情報を出すのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

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