2022年4月9日

第1045回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ECDC・EMA、免疫不全を除き再追加接種は時期尚早 
  • 抗アンドロゲンの入院予防試験が成功? 
  • ゼビュディのEUAを取りやめ 
  • アクテムラを正式に承認申請 
  • その他の領域: 
  • CMS、アデュヘルムは臨床試験以外カバーせず 
  • ACC:SRTの前にmavacamtenを試してもよい 
  • デュピクセントを好酸球性食道炎に適応拡大申請 
  • フリードライヒ運動失調症用薬を承認申請 
  • FDA、バダデュスタットの小児試験に停止命令 
  • リアル・ワールド・データでPROS用薬が承認 
  • TSC用薬ラパリムスゲルが米国でも承認 


【COVID-19関連】


ECDC・EMA、免疫不全を除き再追加接種は時期尚早
(2022年4月6日発表)

米国のFDAとCDC(疾病管理予防センター)はCOVID-19ワクチンの追加接種を受けて4ヶ月以上経った50歳以上の人がもう一回接種することを容認したが、ECDC(欧州疾病管理予防センター)とEMA(欧州医薬品庁)は、従来から推奨している免疫不全状態の人以外は、時期尚早との声明を出した。現時点ではCOVID-19による重症感染や死亡のリスクが低く、また、最初の追加接種による重症感染予防効果が顕著に低下したことを示唆するEU地域でのデータがないため。再追加接種の効果の持続性が不明であることも指摘している。

最終的な勧奨は加盟国が夫々に行う。EU/EEA地域では成人の83%がプライマリー接種を、63%がブースター接種を受けた(3月末時点)。既に独仏など9ヶ国が人口の一部に再追加接種を勧奨している。呼吸器感染症が増加する冬に向けて検討している国も多いようだ。

再追加接種のエビデンスは免疫原性試験や疫学研究が中心。ECDCとEMAの共同声明によると、接種が早かったイスラエルのデータでも有効性が示唆されたのは60歳以上とのこと。追加接種後4ヶ月以上経過すると感染予防効果が低下するが、重症・死亡予防効果はそれほど低下しない。米国の疫学研究では入院予防効果(ワクチン効率)が追加接種の1~2ヶ月後の90%強から4ヶ月経過後は80%弱に低下するが、10ポイントしか低下しないと考えることもできそうだ。

このため、両者は、免疫不全でない人にもう一回追加接種することは現時点では支持されないと判断した。もし重症化リスクが上昇したり免疫力が低下する現象がEUで見られた場合は、80歳以上など高リスク人口を対象に接種を検討するよう勧奨した。この場合、オミクロン株などに対応したワクチンを使うことが望ましいとした。

米国も、臓器移植を受けて強力な免疫抑制療法を受けているなど免疫不全状態の人を除いて、再追加接種を勧奨していない。FDAもCDCも、したいなら接種していいよと言っているだけであることを強調したい。

リンク: ECDCとEMAの共同声明

抗アンドロゲンの入院予防試験が成功?
(2022年4月6日発表)

中国のKintor Pharmaceutical(HKEX:9939)はGT-0918(proxalutamide)の第3相軽中等症COVID-19外来治療試験が成功したと発表した。米国や中国で認可申請する考え。

proxalutamideは非ステロイド抗アンドロゲン。SARS-CoV-2のスパイク蛋白が宿主細胞のACE2に結合して細胞内に入り込む上で必要なTMPRSS2(transmembrane protease, serine 2)を阻害し、Nrf2パスウェイを活性化してIL-6の分泌抑制などの抗炎症作用も発揮する。ブラジルの第3相研究者主導試験(COVID-19感染者590人に偽薬または300mgを一日一回、14日間投与)で症状改善、入院期間短縮化、死亡率抑制の効果を示した。死亡率は3.7%、偽薬群は47.6%と、俄かには信じられないほど大きな差が出た。

今回の第3相(NCT04870606)は米国の施設で200mgを一日一回、14日間投与する効果を偽薬と比較した無作為化割付偽薬対照二重盲検。昨年12月に中間解析(n=348)フェールを公表した時に、治験のデザインを変更して高リスク患者の組入れを増やす旨、書いていたが、実際に何を変えたのかは過去の治験登録を見ても良くわからない。

今回の解析(n=733)では1日以上投与を受けた被験者(n=730)では試験薬群の入院が4人(死亡はゼロ)、偽薬群は8人(1人)でリスクが50%小さかった。1日超投与を受けた被験者(n=721)では各2人(ゼロ)と7人(1人)で71%小さい。。7日超投与(n=693)では各ゼロと6人(1人)でp<0.02だった。pが記載されているのはこの項目だけなので、おそらくこれが主評価項目なのだろう。

デルタでもオミクロンでもウイルス量抑制効果が見られた。治療時発現有害事象が試験薬群の9.6%、偽薬群の7.9%で発生したが深刻なものはなかった。

治験デザインに関する記述によると主評価項目には酸素投与も含まれているが、結果に関する記述では言及されていない。重症化リスクの低いオミクロン株の流行を踏まえて、途中でデザインを見直し酸素投与を追加して検出力を高めるようなことがあったとしても不思議ではないが、一旦決めたものの、結果を見て元々の主評価項目のデータをチェリーピックしたなんてことも考えられないではない。ちゃんとした発表を見たいものだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ゼビュディのEUAを取りやめ
(2022年4月5日発表)

FDAはsotrovimab(Xevudy)を最早EUA(非常時使用認可)しないと発表した。昨年5月に12歳40kg以上の成人小児の軽中等症COVID-19の外来治療薬としてEUAしたが、米国の全地域でBA.2感染が過半を占めるようになったため。

この抗SARS-CoV-2抗体はオミクロン株(BA.1)やその派生株であるBA.1.1には有効だがBA.2にはIC50が10~30倍と弱い。米国はBA.1からBA.1.1に流行が変遷したが、徐々にBA.2の感染シェアが上昇してきた。FDAは東海岸や西海岸などBA.2が過半を占めるようになった地域を逐次、適応外に指定してきたが、最後に残ったアイオワ州などを含む地域やコロラド州などの地域でも過半に達したため、全米的なEUA取り止めを決めた。

sotrovimabはグラクソ・スミスクラインがサンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)からライセンスしてグローバルに商品化した。

抗SARS-CoV-2抗体のうち今年2月にEUAされたイーライリリーのbebtelovimabはBA.2にも活性を持つ。治療用途は未承認だが暴露前予防薬として欧米で認可され治療試験も成功済みであるアストラゼネカのEvusheld(tixagevimab、cilgavimab同梱製品)はBA.1やBA.1.1には増量が必要だがBA.2には効果を維持している。今後は、これらや小分子の抗ウイルス薬に頼ることになる。

リンク: FDAのプレスリリース


アクテムラを正式に承認申請
(2022年4月4日発表)

ロシュはActemra(tocilizumab)をCOVID-19の治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。酸素投与や侵襲的/非侵襲的機械換気、ECMOを必要とする成人入院患者で全身性コルチコステロイド治療を受けている患者を対象する予定。昨年6月にEUA(非常時使用認可)されているが、EUAは正式な承認ではないので、流行が収まったら取消されてしまう。エビデンス充実の観点からも正式に承認を取得することが好ましい。

但し、EUAは2歳以上が対象だが今回は成人のみだ。

臨床試験のエビデンスは区々で、RECOVERY試験では28日死亡率が30.7%と偽薬群の34.9%を有意に下回ったが、EMPACTA試験やCOVACTA試験、REMDACTA試験ではトレンドに留まるか偽薬群と大差なかった。死亡リスクに関しては検出力不足だった可能性もあるが、主評価項目すら達成できなかった試験も多い。RECOVERY試験でも全身性コルチコステロイドを同時使用しなかったサブグループでは死亡リスクが数値上、高まった。欧米共にステロイド併用を義務付けているのはこのためだ。免疫抑制剤の併用が良くないというのはよくある話だが、逆は理解できない。

リンク: ロシュのプレスリリース

【今週の話題】


CMS、アデュヘルムは臨床試験以外カバーせず
(2022年4月7日発表)

米国で高齢者や低所得者向けの医療制度を管轄するCMS(Centers for Medicare and Medicaid Services)は、バイオジェンがエーザイと共同開発して昨年、加速承認されたAduhelm(aducanumab-avwa)のような抗アミロイド抗体型アルツハイマー病薬に関して、適格臨床試験に参加する患者以外は医療費給付しない方針を決定した。1月発表の草案を踏襲した。CMSの基準を満たす臨床試験に参加できるのは一部の医療施設・患者だけであり、患者にとっては偽薬群に割付けられる可能性のある未承認の開発品と同じようなものである。

FDAが承認していない用途にCMSが医療費給付するのは珍しくないが、逆は極めて異例。臨床試験でアミロイド・ベータ削減効果が見られたが、認知機能や日常生活機能の悪化を遅らせる効果が確立しなかったことが響いた。バイオジェンは市販後コミットメント試験で確認する計画だが、成否が判明するのは26年頃の見込み。両社が共同開発しているBAN2401(lecanemab)やイーライリリーのLY3002813(donanemab)、ロシュのR1450(gantenerumab)の同様な試験より遅れるため、これらが全滅しない限り、Aduhelmは「米国で18年ぶりに承認された新薬」以外の称号を獲得できないだろう。の一行で終わるだろう。

尚、このNational Coverage Decisionは臨床的な便益を反映する直接的な薬効指標に基づいて承認された薬に関しても適格臨床試験参加者以外は給付しないとしているが、レジストリでもよいので、ハードルが低くなる。目的はアミロイドベータ量などのバイオマーカーと臨床症状の相関性や患者、医師、施設による便益や副作用リスクの違いを調査することなので、症例が積み重なれば条件が緩和されるのではないか。

リンク: CMSのNational Coverage Decision

【新薬開発】


ACC:SRTの前にmavacamtenを試してもよい
(2022年4月2日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブはmavacamtenの第3相閉塞性肥大性心筋症試験、VALOR-HCMの結果をACC(米国心臓学会)で発表した。SRT(中隔縮小療法)が適応になる閉塞が進んだ患者112人を組入れて、SRTが決定したリ16週経っても適応外にならない患者の比率を調べたところ、18%と偽薬群の77%を大きく下回った。治療ガイドラインに基づきSRTが適応ではなくなったと判定された患者数に大きな違いが出た。副次的評価項目であるNYHA機能クラス(ベースライン時点で9割超がIII)が1段階以上改善した患者の比率にも有意な差があった。

LVEF(左心駆出率)低下リスクがあるようで、本試験では2人が50%を下回った。プロトコル通りに数値をモニタリングして小まめに用量調節する必要があるようだ。

20年にMyoKardia社を131億ドルで買収して入手した、心臓ミオシンATPaseのアロステリック・モジュレーター。今年3月に米国で承認申請が受理された。pLVOT(ピーク左心室流路)勾配が50mm/Hg以上でSRTは適応にならない、被験者の7割がクラスIIIだったEXPLORER-HCM試験に基づくもので、30週後の臨床的反応率(NYHAクラスが改善且つ最大酸素摂取量が1.5mL/kg/分以上改善、または最大酸素摂取量が3mL/kg/分以上改善)が36.6%と偽薬群の17.7%を有意に上回った。この試験でも5%程度の患者でLVEFが50%未満に低下したが、多くは用量調整で対処できた。審査期限は延長されて4月28日になった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


デュピクセントを好酸球性食道炎に適応拡大申請
(2022年4月4日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、抗IL-4Rサブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を12歳以上の好酸球性食道炎の治療に用いる適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月3日。

好酸球性食道炎は米国で16万人がステロイドなどの治療を受けているが、4.8万人が管理不良と言われている。正式に承認されている薬はない。Dupixentの第3相試験の一本では、300mg週一回皮注群の64%で症状改善(自己評価)が見られた。偽薬群は41%だった。各群59%と6%で食道上皮内の好酸球数抑制に成功した。

Dupixentは米国でアトピー性皮膚炎、好酸球数増加を伴うまたは経口ステロイド治療が必要な喘息症、そして鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


フリードライヒ運動失調症用薬を承認申請
(2022年3月31日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)はRTA 408(omaveloxolone)の米国におけるローリング承認申請を完了したと発表した。承認されたならば、フリードライヒ運動失調症の初めての治療薬になる。常染色体劣性遺伝性の緩徐性運動失調症で、遺伝子の三塩基異常伸長によりミトコンドリア蛋白であるフラタキシンが欠乏、筋肉の衰弱や言語障害、心臓疾患などをもたらす。RTA 408はNrf2転写因子を活性化する。103人を組入れて150mg一日一回投与の効果を検討した試験でmFARSが48週後に1.55改善、0.85悪化した偽薬群と有意な差があった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA、バダデュスタットの小児試験に停止命令
(2022年4月7日発表)

Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)はHIF-PH阻害剤vadadustatを成人の腎性貧血治療薬として開発、米国で承認申請したが3月に審査完了通知を受領した。4月7日にSEC(米国証券取引委員会)に提出したフォーム8-Kの中で、4月4日に人員削減を決定したことを報告するついでに、「その他の事象」として、4月1日にFDAから臨床試験を部分停止するよう通知を受けたことを明らかにした。このフォーム8-Kは4月1日付となっており、公表も提出も遅れた恰好だ。

部分停止命令の対象は小児試験。理由は明らかではない。FDAがvadadustatを承認しなかったのは透析患者を組入れた試験で血栓塞栓リスクが見られたこと、保存期の試験で心血管疾患リスクがエポエチン製剤比非劣性ではなかったこと、薬物誘導肝障害の懸念が理由。改めて確認試験を行うよう推奨したのだから、成人に臨床試験を行う際のリスクは許容範囲と考えているのだろう。

欧州ではライセンシーの大塚製薬が承認申請中。日本ではライセンシーの田辺三菱製薬が承認取得し、20年8月にバフセオ名で発売した。

リンク: Akebia社のフォーム8-K(4月1日付!)

【承認】


リアル・ワールド・データでPROS用薬が承認
(2022年4月6日発表)

ノバルティスはFDAがVijoice(alpelisib)をPROS(PIK3CA関連過成長症候群)用薬として加速承認したと発表した。2歳以上が適応。この100万人に14人の希少疾患の薬が承認されたのは初めて。

PROSはPIK3CA遺伝子の機能獲得変異によりPI3K/AKT/mTOR経路が異常活性化する病気の総称。血管やリンパ系が異常成長し、機能障害や発達遅延、疼痛など様々な症状が現れ、QOLや社会生活にも影響する。

Vijoiceの活性成分はPIK3CA変異のあるホルモン受容体陽性乳癌用薬、Piqrayと同じ。Piqrayは150mgフィルムコート錠を二錠、一日一回食中服用し、副作用が生じたら250mgそして200mgに減量する。規格は50mg、150mg、200mg。Vijoiceは成人は250mgフィルムコート錠を一日一回、食中服用。小児は50mg錠一日一回食中で開始、6歳以上は臨床/放射線学的評価により応答不十分と判定した場合は125mg錠に増量しても良い。規格は50mg、125mg、250mg。なぜ商標名や用量が異なるのかは不明。

エビデンスは、コンパッショネート・ユース・プログラムを通じて投与を受けた重症患者の後顧的チャート・レビュー研究、EPIK-P1。主評価項目はベースライン時点で標的病変データのある患者における20%縮小奏効率。第24週時点で37人中10人が達成した(因みに、昨年のESMO発表時は32人中12人だった)。副次的評価項目の症状改善奏効率は、疼痛が22人中20人、疲労は42人中32人、播種性血管内凝固症候群は29人中16人だった。主な有害事象は下痢、口内炎、高血糖など。G3/4は蜂巣炎が4%の患者で発生した。

リンク: 同社のプレスリリース


TSC用薬ラパリムスゲルが米国でも承認
(2022年4月4日発表)

ノーベルファーマはFDAがHyftor(sirolimusゲル0.2%)を結節性硬化症(TSC)に伴う顔面血管線維腫の治療薬として承認したと発表した。この疾患の治療薬も、同社の製品も、米国で承認されるのは初めて。

TSCは常染色体優性遺伝による希少疾患で、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の活性を抑制すべき蛋白の機能不全により、上衣下巨細胞性星細胞腫などの良性腫瘍ができやすい。血管線維腫は75~80%の患者で発現する。sirolimusは放線菌由来のmTOR阻害剤。

活性成分はワイスが腎移植後拒絶反応防止薬として実用化した。局所製剤はノーベルファーマが開発、日本で18年に承認・発売された。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)





今週は以上です。

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