2022年4月2日

第1044回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • FDA、mRNAワクチンの二回目のブースター接種を認可 
  • BA.2に有効な抗体医薬がEUでも予防薬として承認 
  • Adagio社、抗SARS抗体を申請へ 
  • イベルメクチンの大規模試験がフェール 
  • その他の領域: 
  • 活性化PI3Kデルタ症候群治療薬を承認申請へ 
  • PARP阻害剤の卵巣癌メンテ試験がまた成功 
  • ロシュ、抗TIGIT抗体の第3相がフェール 
  • FDA、PI3K阻害剤は加速承認しない 
  • 眼科用ベバシズマブを承認申請 
  • 大鵬薬品、FGFR阻害剤を承認申請 
  • 解離性ステロイドをDMDにローリング承認申請着手 
  • 抗葉酸受容体抗体薬物複合体の承認申請を断行 
  • IgA腎症治療薬を承認申請 
  • FDA、バダデュスタットも承認せず 
  • FDA諮問委員会、ALS用薬の評価が二分 
  • CHMP、CAR-Tなどに肯定的意見 
  • イエスカルタがLBCLの二次治療に承認 
  • フェンフルラミンがレノックス・ガストー症候群にも承認 


【COVID-19関連】


FDA、mRNAワクチンの二回目のブースター接種を認可
(2022年3月29日発表)

FDAはBioNTech/ファイザーとモデルナのmRNAワクチンを二回目のブースター接種に用いることをEUA(非常時使用認可)した。50歳以上と、臓器移植レシピエントまたはそれと同様な免疫不全状態にある前者のワクチンの場合は12歳以上、後者は18歳以上の人で、初回のブースターから4ヶ月以上経った人が適応になる。初回ブースターと異なる製品でもよい。

FDAによると、前者のワクチンはイスラエルの70万人規模の安全性実績と154人の中和抗体誘導試験、後者は120人の安全性データと中和抗体誘導試験がエビデンス。

メーカー側は夫々、65歳以上と18歳以上の人口を想定して申請したが、FDAは独自に判断した。

報道によると、FDA側は今秋にも三回目のブースター接種が必要になる可能性を否定しなかった。

リンク: FDAのプレスリリース


BA.2に有効な抗体医薬がEUでも予防薬として承認
(2022年3月28日発表)

アストラゼネカはEUがEvusheld(tixagevimab、cilgavimab)を12歳以上で体重が40kg以上の人のCOVID-19感染症予防薬として承認したと発表した。二種類の抗SARS-CoV-2抗体の同梱製品で、各剤150mgを順番に筋注する。オミクロン株のうちBA.1と米国などで流行しているBA.1.1には効果が低下するが、欧州の一部の国で主流となったBA.2に高い活性を維持していることが特徴。日本も参加した、高リスク感染者の治療試験も成功したので、年内にも適応拡大されるだろう。

FDAは昨年12月に予防薬としてEUAした後、BA.1やBA.1.1に対する力価低下を補うため、投与量を各剤300mgと倍増した。EUも至適用量の検討を続ける考え。

リンク: 同社のプレスリリース


Adagio社、抗SARS抗体を申請へ
(2022年3月30日発表)

Adagio Therapeutics(Nasdaq:ADGI)はADG20(adintrevimab)の第2/3相COVID-19感染予防試験と治療試験が成功したと発表した。第2四半期にEUAを申請する予定。

SARS-CoV-2だけでなくSARS-CoV-1やWIV1、SHC014など様々な類似ウイルスも阻害できる抗体医薬。300mgを一回、筋注する。予防試験のPrEP(暴露前予防)コフォートでは症候性感染が偽薬比71%少なかった。尚、このコフォートは3ヶ月間追跡したが、オミクロン株出現後の時期は解析対象から除外された。オミクロン株出現後の被験者だけの解析では4割程度の相対リスク削減が見られた。PEP(曝露後予防)コフォートは28日間の症候性感染が75%少なかった。軽中等症患者約330人を治療した試験ではCOVID-19関連入院・死亡が66%少なかった。

忍容性は概ね良好で深刻有害事象の発生率は予防試験では両群同程度、治療試験では試験薬群のほうが少なかった。

この抗体医薬はオミクロン株にはある程度の効果がありそうだが、パスツール研究所などの研究によると、BA.2はadintrevimabやsotrovimabに抵抗性を持つ。米国でも東部を中心にBA.2のシェアが高まっており、FDAがEUAするかどうかは不透明だ。

リンク: 同社のプレスリリース


イベルメクチンの大規模試験がフェール
(2022年3月30日発表)

日本発の経口駆虫薬ivermectinは高用量でSARS-CoV-2の増殖抑制作用が見られ、疫学試験で死亡リスクを大きく低下させる可能性が浮上したため、世界的に注目を集めた。しかし、前向き介入試験の結果は区々で、WHOも、FDAも、EMAも、エビデンス不足を理由に臨床使用を推奨していない。それでも強力な支持者たちはめげず、根拠ではなく信念に基づく医療を続けている模様だ。

答えを出すのに必要な大規模な試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に論文刊行された。ブラジルの12の医療施設で実施されているTOGETHERプラットフォーム試験のivermectinコフォートに関するもので、発症7日以内の高リスク外来患者1358人(ワクチン接種歴不問)を偽薬とivermectin(400mcg/kgを一日一回、3日間投与)に無作為化割付して、入院/長時間ER入室リスクを28日間追跡した。結果は、相対リスクが0.90となったもののベイズ確率に基づく95%信頼区間上限が1.16となり、臨床上意味のある効果はないという仮説が棄却されなった。

ivermectinはオックスフォード大学もPRINCIPLE試験で1500人規模の割付を行っている。良質なエビデンスが蓄積されるにつれて真贋が明確になるだろう。

リンク: Reisらの治験論文(NEJM)

【新薬開発】


活性化PI3Kデルタ症候群治療薬を承認申請へ
(2022年4月1日発表)

オランダのPharming(Euronext Amsterdam:PHARM)はleniolisibの第2/3相APDS(活性化PI3Kデルタ症候群)治療試験の結果を学会発表した。リンパ節腫脹の縮小とナイーブB細胞比率の上昇が見られた。第2四半期中に欧米で承認申請する予定。

APDSは100万人に一人の希少原発性免疫不全。遺伝子変異によりPI3Kデルタが異常に活性化し免疫細胞の成熟が妨げられる。leniolisibは19年にノバルティスから開発販売権を取得した。

今回の試験はノバルティスが実施。APDSの成人小児37人を組入れて70mgを一日二回、85日間経口投与して効果を偽薬と比較した。主評価項目の一つであるリンパ節腫脹の対数変換直径積和の調整変化は各群-0.30と-0.06でp=0.0012。ナイーブB細胞比率はベースライン(48%未満)比34.76%増と5.37%減となり、p<0.0001。深刻有害事象は偽薬群より少なく、薬物関連と見なされるものはなかった。

早くもClinicalTrials.govに試験結果が登録されている。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験成績(ClinicalTrials.gov)


PARP阻害剤の卵巣癌メンテ試験がまた成功
(2022年3月31日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)はPARP阻害剤Rubraca(rucaparib)の卵巣癌一次治療後維持療法試験が成功したと発表した。第2四半期に米国で、第3四半期にはEUでも、適応拡大申請する予定。

白金薬レジメンに応答した患者を組入れたATHENA試験の単剤投与パートに関するもので、538人を偽薬群と4対1割付してPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較したところ、最初の主評価項目であるHRD(相同組換え機能修復不全)陽性サブグループ234人の解析が成功した(ハザードレシオ0.47、各群のメジアン値は28.7ヶ月と11.3ヶ月)。この指標が成功した時だけ行われるintent-to-treatベースの解析も成功した(各0.52、20.2ヶ月、9.2ヶ月)。

このような場合に、HRD陰性サブグループにも効果があるのか素朴な疑問を常に感じるが、今回は答えがあった。探索的な解析という位置付けだが、各0.65、12.1ヶ月、9.1ヶ月と、HRD陽性ほどではないにしても効かないようには感じられない。

類薬ではグラクソ・スミスクラインのZejula(niraparib)が17年に、アストラゼネカのLynparza(olaparib)がBRCA悪性変異型限定だが18年に、同様な用途用法で承認されている。

ATHENA試験で注目すべきはRubracaに更にnivolumabを追加するATHENA-COMBOパートの成績だろう。23年第1四半期に判明する見込み。

リンク: Clovisのプレスリリース


ロシュ、抗TIGIT抗体の第3相がフェール
(2022年3月30日発表)

ロシュは抗TIGHT抗体RG6058(tiragolumab)の第3相小細胞性肺癌試験がフェールしたと発表した。進展型小細胞性肺癌の一次治療としてTecentriq(atezolizumab)、carboplatin、etoposideの3剤併用レジメンに追加する効果を検討したが、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)がフェールし、全生存期間の解析は未成熟ではあるものの最終解析が成功する可能性は低いと判定された。

抗TIGHT抗体の開発は人気があり、ロシュは非小細胞性肺癌や食道扁平上皮腫の第3相も実施中。最初の開票が外れだったのは残念だが、元々、懐疑的な意見があった模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA、PI3K阻害剤は加速承認しない
(2022年3月24日発表)

MEIファーマと協和キリンはME-401(zandelisib)を第二相単群試験の反応率データに基づいて米国で承認申請する計画だったが、断念した。FDAは多くのPI3K阻害剤を第2相データに基づき加速承認してきたが、方針転換した。

加速承認された薬は市販後に改めて延命またはそれに準じる効果を立証する必要があるが、複数の薬の市販後コミットメント試験が、様々な理由でフェールしたり打ち切られたりして、加速承認の返上に至っている。その後も、TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)が抗CD20抗体とPI3K阻害剤を併用で慢性リンパ性白血病を治療した試験でPFS(無進行生存期間)がobinutuzumab・chlorambucil併用群を有意に上回ったが、死亡リスクはむしろ上昇する懸念が浮上した。FDAは4月21~22日に腫瘍学薬諮問委員会を招集してPI3K阻害剤を加速承認する当否やTG社の併用試験について意見を聞く予定だが、PI3K阻害剤は無作為化割付対照試験で延命またはそれに準じる効果が確認されるまで承認しない腹を既に決めたことが明らかになった。

リンク: MEIファーマのプレスリリース

【承認申請】


眼科用ベバシズマブを承認申請
(2022年3月31日発表)

Outlook Therapeutics(Nasdaq:OTLK)はONS-5010(bevacizumab-vikg)を新生血管加齢性黄斑変性(wAMD)の治療薬としてFDAに承認申請した。抗VEGF抗体Avastinの活性成分を硝子体注射用に製剤したもの。ジェネンテックの抗VEGF抗体フラグメントLucentis(ranibizumab)が06年にwAMD治療薬として米国で承認された頃、Avastinで代用すれば一回分が1950ドルではなく7ドルで済むことが注目され、調剤薬局が分包した商品を販売するようになった。Avastinは硝子体注射薬に求められる品質基準を満たしていないため、FDAが安全性懸念を警告し、ジェネンテックが眼科用に出荷しようとしていた2億ドル分の製品の廃棄を命じるなどの対策を取ったが、未だにオフレーベル使用されている模様。Outlook社は正式に承認を取って調剤薬局品を代替する考え。

第3相試験とPOC試験、安全性試験の三本の「トータリティ」に基づく申請とプレスリリースに記されているので、エビデンスは頑強ではないのだろう。第3相のNORSE TWO試験は米国の39施設で228人の患者を組入れて、BCVA(最高矯正視力)が15字以上改善した患者の比率をLucentisと比較した。試験薬は毎月、Lucentisは4回目からは医師が黄斑を検査して必要と認めた時に投与するPIERレジメンを採用した。結果は、41%対23%と有意に優れていた。per protocolでも同様な数値が出たが、p値は0.0052対0.04でかなり違っている。副次的評価項目のBCVA改善は平均11.2字対5.8字だった。薬物関連の眼球深刻有害事象は1例発生しただけだった。

上記はトップライン発表時のプレスリリースに記されているものだが、その後のリリースは試験薬群の数値とp値だけでLucentis群の数値は割愛されている。何かあったのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


大鵬薬品、FGFR阻害剤を承認申請
(2022年3月30日発表)

大鵬薬品はTAS-120(futibatinib)を前治療歴を有するFGFR2再編成/融合を伴う進行胆管癌用薬として米国で承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は9月30日。第二相のFOENIX-CCA2試験でORR(客観的反応率、独立中央評価)が103人中43人、41.7%だった。

類薬ではインサイト(Nasdaq:INCY)のPemazyre(pemigatinib)が2000年に、QED Therapeuticsがノバルティスからライセンスして開発したTruseltiq(infigratinib)が21年に、ほぼ同じ用途で米国で加速承認されている。Pemazyreは日本でも21年にペマジール名で承認された。

リンク: 大鵬薬品のプレスリリース(和文、pdf)


解離性ステロイドをDMDにローリング承認申請着手
(2022年3月29日発表)

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)と米国のReverGen Biopharmaは、vamoroloneをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬としてローリング承認申請に着手した。第2四半期に完了する予定。欧州は第3四半期に申請予定。

DMDの治療で広く用いられているステロイドは副作用も多いが、vamoroloneは体重や筋骨格系の副作用が小さい。SantheraはReverGenから正解ライセンスを取得。

欧州で4~6歳の歩行可能な少年121人を組入れて24週間治療した後期第2相試験では、6mg群も2mg群も仰向けから立ち上がるまでの速度が偽薬比有意に改善し、6mg群はprednisoneを投与した群と有意な差がなかった。6分歩行テストは各群偽薬比42メートルと37メートルの治療効果が見られた。

リンク: 両社のプレスリリース


抗葉酸受容体抗体薬物複合体の承認申請を断行
(2022年3月29日発表)

ImmunoGen(Nasdaq:IMGN)は葉酸受容体アルファを標的とする抗体をDM4細胞毒を結合したIMGN853(mirvetuximab soravtansine)を葉酸受容体陽性卵巣癌の治療薬として開発しているが、19年に白金薬感受癌の実薬対照試験がフェール。高発現サブグループのORR(客観的反応率)や全生存期間に基づきFDAと相談したが、申請を断念した。

一方、bevacizumabを含む1~3次治療歴を持つ葉酸受容体高発現白金薬抵抗性卵巣癌の単群試験は確認ORR(客観的反応率、担当医評価)が32.4%、メジアン反応持続期間6.9ヶ月、PFS(無進行生存期間、担当医評価)4.3ヶ月と望ましい結果となり、今回、承認申請に踏み切った。

対照試験ではないので評価は難しいが、医師が選んだ薬と比較する第3相試験が今年第3四半期にも開票する見込みなので、FDAが加速承認しようがしまいが、答えが出るだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


IgA腎症治療薬を承認申請
(2022年3月21日発表)

Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)はsparsentanをIgA腎症治療薬としてFDAに承認申請した。ACE阻害剤やARBを服用しても蛋白尿が解消しない404人を組入れて尿蛋白/クレアチニン比の改善効果をirbesartanと比較した第3相試験の中間解析で49.8%減対15.1%減、p<0.0001となかなか良い成績を挙げた。このデータで加速承認を取得し、eGFR(推定糸球体濾過量)の長期データが判明してから本承認を申請する考え。

IgA腎症では昨年12月にCalliditas Therapeutics(Nasdaq Stockholm:CALTX)が同様なデータで新規ステロイド製剤の加速承認を取得している。

sparsentanはブリストル マイヤーズ・スクイブのアンジオテンシンII受容体サブタイプ1とエンドテリン1受容体サブタイプAを阻害するデュアル・アンタゴニスト、BMS-346567を12年にLigand Pharmaceuticals経由でライセンスしたもの。当時はRetrophinという社名だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA、バダデュスタットも承認せず
(2022年3月30日発表)

Akebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)はHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤AKB-6548(vadadustat)を成人の腎性貧血治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。透析期慢性腎疾患試験で血栓塞栓リスクが見られたことや、保存期慢性腎疾患試験でMACE(主要有害心臓イベント)がエリスロポイエチン製剤比非劣性でなかったこと、そして薬物誘導性肝障害の懸念から、追加試験の実施を求められた。

欧州は提携先の大塚製薬が昨年10月に承認申請した。日本は田辺三菱製薬が導入、20年にバフセオ名で発売した。

FDAはHIF-PH阻害剤に厳しく、昨年8月にはFibroGenのroxadustat(日本ではアステラス製薬が19年にエベレンゾ名で発売)の承認を血栓塞栓リスクを理由に見送った。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA諮問委員会、ALS用薬の評価が二分
(2022年3月30日発表)

FDAは末梢中枢神経系薬諮問委員会を招集し、Amylyx(Nasdaq:AMLX)がALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請したAMX0035(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)について意見を聞いた。第二相試験で薬効が確立したか、という質問に4人の委員がイエス、6人がノーと答え、改めてこの承認申請の難しさが浮き彫りになった。

尿素サイクル異常症用薬と原発性胆汁性肝硬変用薬の合剤で、前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性経路を阻害する作用を持っていることから、ALSやアルツハイマー病用薬として開発されている。ALSは第二相のCENTAUR試験でALSFRS-R総スコアがベースラインの35.7から29.1に改善、36.7から26.7に改善した偽薬群を有意に上回った。副次的評価項目はすべてフェールした。FDAは第3相を実施してから申請することを推奨したが、延長試験期間も含めた解析で死亡リスク抑制効果が見られたため、申請を認めた。

諮問委員会でFDAが指摘した問題点は、第一に、薬効解析方法。このスコアは早期段階と進行段階で経時的な変化速度が異なるため単純計算できず、調整した解析ではp=0.11と有意ではなかった。また、ALSの生存期間は区々なのでFDAは機能と死亡の複合評価を推奨しているが、本試験では考慮しなかった。

第二は執行状況。生存しているのに追跡不能とされた被験者の比率が両群とも17~18%と高く、観察バイアスが生じかねない。また、ベースライン時点では偽薬群のほうがALS治療薬riluzoleまたはedaravoneを使っている患者が多かったが、試験中の新規開始は試験薬群は89人中14人、偽薬群は48人中2人と、大きな偏りがあった。

死亡リスクに関しては特定のカット・オフ時期のデータで有意な差があったが時期によっては有意でないことを指摘した。

FDA諮問委員会は患者や支援団体、研究者などが意見を述べる機会が設けてられている。ALSは早期承認を求める圧力が強い疾患の一つで、当委員会でも多くの要望があったようだ。FDAも木で鼻を括るような対応はせず、一歩譲ったうえで、承認できるかどうか検討しているように感じられる。諮問委員も同じだろう。

同社は第3相試験も実施しており、24年に完了予定だ。ALSは死に至る病気なので、それまで待てとも言い難い。だが、患者が求めているのは新薬ではなく自分に有効な薬なのだから、不確かなまま承認するのは却って不誠実と考えることもできる。代替策としては、承認されている薬より制約が多いものの、Expanded Access Programなど未承認の薬を利用するための制度も存在する。他の病気で承認されている薬なのでオフレーベル使用も可能だ。病気をネタにジョークを言う人間と怒って平手打ちする人間と、どっちも正しくないが、より悪いのはどっちか?難しい問題が多い。

審査期限は6月29日。同社はカナダでも昨年6月に承認申請した。EUでも申請予定。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、CAR-Tなどに肯定的意見
(2022年3月25日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、上記アストラゼネカのCOVID-19感染予防薬Evusheldに加えて、抗BCMA CAR-Tなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら1~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Janssen-Cilag InternationalのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)は、多発骨髄腫の多くが発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とする二つの単ドメイン抗体と4-1BB共刺激ドメインなどを結合したCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)。免疫調整剤やプロテアソーム阻害剤、そして抗CD38抗体を含む3次以上の治療歴を持つ成人の難治再発多発骨髄腫に条件付き承認することが支持された。米国では2月に4次以上の治療歴を持つ患者に承認されている。日本では3次以上に承認申請中。GenScript Biotech(HKEx:1548)の上場子会社であるLegend Biotech(Nasdaq:LEGN)から世界共同開発商業化権を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、まず、Ipsen PharmaのCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)。Exelixis(Nasdaq:EXEL)から北米日本以外でインライセンスしたVEGFR阻害剤で、今回、放射線ヨウ素難治・不適で全身性治療歴のある成人の局所進行性/転移性分化甲状腺癌に用いることが支持された。米国では昨年9月に12歳以上を対象として承認。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスがインサイトから米国外のライセンスを得て開発販売しているJAK阻害剤、Jakavi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド不応移植片宿主病(GvHD)に用いることも支持された。12歳以上の急性または慢性GvHDが適応になる。米国では急性GvHDが19年に、慢性GvHDは21年に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)はMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)またはdMMR(ミスマッチ修復欠損)のある三種類の癌(fluoropyrimidineレジメン歴のある切除不能/転移結腸直腸癌、白金レジメン歴のある治癒的手術や放射線療法が適応にならない進行/難治内膜腫、治療歴のある切除不能性/転移性の胃癌、小腸癌、胆道癌)と、PD-L1陽性(CPS≧1)の持続・再発・転移性子宮頸癌に用いることが支持された。前者はKEYNOTE-158試験とKEYNOTE-164試験の単群反応率データに基づくもの。胃癌は24人中11人、小腸癌は19人中8人、胆道癌は22人中9人が部分反応以上した。

尚、MSI-H/dMMRの結腸直腸癌は一次治療が先に承認されている。

米国では17年に上記試験に基づいてMSI-H/dMMRの固形癌全般に、子宮頸癌は昨年10月に、承認された。日本は前者は18年承認、後者は申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)は抗CD-19抗体-キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法。難治再発濾胞性リンパ腫に用いることが支持された。第2相試験で完全反応率(独立評価委員会方式)が66%だった。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin、和名ポライビー)は抗CD79b抗体とチューブリン重合阻害剤の抗体薬物複合体。成人の再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療にR-CHP(rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone)と併用することが支持された。日本でも適応拡大申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


イエスカルタがLBCLの二次治療に承認
(2022年4月1日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズが17年に119億ドルで子会社化したKite PharmaのCAR-T療法、Yescarta(axicabtagene ciloleucel)を大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の二次治療に用いる適応拡大を承認した。化学免疫療法による一次治療に難治または12ヶ月以内に再発した患者が適応になる。原発性中枢神経系リンパ腫は適応外。これ以前に三次治療や濾胞性リンパ腫の3/4次治療などが承認されている。

ZUMA-7試験でEFS(進行せず新規治療も開始せずに生存、盲検中央評価)を標準療法(化学療法を施行して部分反応以上なら高強度化学療法を経て自家幹細胞移植に進む)と比較したところ、ハザードレシオは0.4、メジアン値は各8.3ヶ月と2.0ヶ月だった。

欧州でも適応拡大審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Kiteのプレスリリース


フェンフルラミンがレノックス・ガストー症候群にも承認
(2022年3月28日発表)

UCBはFintepla(fenfluramine hydrochloride)をレノックス・ガストー症候群(LGS)の転換治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。2歳以上の患者が適応になる。欧州でも申請中。

LGSは小児期に発症する難病で癲癇や知的障害を伴う。Finteplaはセロトニン作動薬で20年に欧米でドラベ症候群治療薬として承認された。LGSの治療試験では失立発作が24%減少し、偽薬群の9%減を上回った。

日本では昨年12月に承認申請、承認されたら日本新薬が販売する。

UCBは今月、Zogenix社を19億ドルで買収して入手した。

この活性成分は1960年代にフランスでダイエット補助薬として発売され、米国ではアメリカン・ホーム・プロダクツがPondiminとして販売、96年には光学異性体のRedux(dexfenfluramine)も投入したが、phentermineと併用するフェンフェン療法が大流行した直後に肺高血圧症や心弁疾患のリスクが表面化、和解金が200億ドルを超える巨大薬害訴訟となった。

サリドマイドが多発骨髄腫の治療薬として復活した事例を彷彿させる。副作用禍をハレモノのように扱い見ないふりをしたり、75日経つのを待つのではなく、リスクをよく調査分析した上で危険を冒さない使い方を探索することの重要性を思い知らされる。

リンク: UCBのプレスリリース





今週は以上です。

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