2021年7月17日

第1008回

 


【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ヤンセンのワクチンでギラン・バレー報告 
  • その他の領域: 
  • ANAがAuhelmの加速承認に不満を表明 
  • GSK、HIF-PH阻害剤の第3相がすべて成功 
  • キイトルーダ、TNBC補助療法試験がEFS達成 
  • オプジーボとヤーボイの頭頚部癌一次治療試験が目的未達 
  • FDA諮問委員会、エベレンゾの承認に反対 
  • ROCK2阻害剤が慢性移植片宿主病に承認 
  • FDA、観察的試験に基づきプログラフを肺移植患者向けに承認 
  • ダラキューロが七つ目の適応・用法を獲得 

☆来週はお休みします

【COVID-19関連】


ヤンセンのワクチンでギラン・バレー報告
(2021年7月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のJanssen Pharmaceuticalは、COVID-19ワクチンの米国におけるファクト・シート(パッケージ・インサート類似の説明資料)を改訂し、接種後42日間にギラン・バレー症候群のリスクが高まることを警告した。欧州で承認されているアストラゼネカのワクチンも承認審査機関が同様なリスクについて検討しており、アデノウイルス・ベクターを使うワクチンのクラス・イフェクトなのかもしれない。

ファクトシートには詳細は記されていないが、CDC(疾病予防管理センター)を情報源とする報道によると、報告数は100例で、うち95例は深刻な入院事例、一人は死亡した。接種実績は1250万人とのことなので、発症頻度はおよそ10万人に一人となる。発症時期として多いのは接種後2週間。専ら男性で、年齢は50代以上が多いとのことだ。

ワクチンは健康な人が対象なので高い安全性が求められる。免疫刺激に伴うリスクは避けられないので、リスクと便益を定量的に評価することが重要だ。

CDCの纏めによると、米国におけるワクチン接種後のアナフィラキシーの頻度は100万人当たり2~5人。ヤンセンのワクチンのTTS(血栓性血小板減少を伴う血栓症候群)頻度は接種回数1260万回に対して確認症例が38例で、50歳未満の女性のリスクが比較的高い。三種類のワクチンの接種後死亡報告は3.31億回に対して5946例(0.0018%)となっているが、FDAが副作用か否かを問わず全ての死亡例を報告するよう求めているため膨らんでおり、死亡診断書やカルテなどを分析したが因果関係は確立していない。但し、ヤンセンのワクチンを接種後にTTSで死亡した症例に関しては、因果関係があっても不思議はない、とのこと。

リンク: ヤンセンのプレスリリース
リンク: COVID-19ワクチンの有害事象報告に関するアップデート((CDC)


【今週の話題】


ANAがAuhelmの加速承認に不満を表明
(2021年7月14日発表)

米国神経学協会(ANA)の執行委員会は、バイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)をFDAがアルツハイマー病薬として加速承認したことや、市販後試験で薬効を確認するまでの猶予期間が著しく長いことに不満を表明した。

FDAは、アミロイド・ベータを減らすことができるならば、病気の進行を遅らせることもできると合理的に推測することができると判定、加速承認したが、ANAは、全員一致で承認に反対した末梢・中枢神経薬諮問委員に同意を表明。適応や用法についても、第3相試験の被験者と同様な条件(アミロイドベータの蓄積など)を満たす患者に、抗アミロイドベータ抗体特有の有害事象リスクを注意しながら、使うべきと釘を刺した。更に、市販後薬効確認試験の結果の提出期限が2030年であることについて、有効性が未確認なまま放置される期間が9年というのは長すぎる、3年に短縮することが望ましいと主張した。

ANAは極めて権威のある学会として知られ、過去には、ある製薬会社が決算発表会で臨床試験の結果をANA学会で発表する予定と述べたところ、まだ抄録を受理していない段階だったためANAが反発、学会会場近くのホテルでひっそりと発表せざるを得なかったことがある。加速承認後に諮問委員が数人、辞任したのも、それだけ誇りが大きいからだろう。

それでも、ここまでハッキリとFDAの判断に意義を唱えるのは珍しい。

報道によると、米国の費用対効果評価期間であるInstitute for Clinical and Economic Review(ICER)が専門家パネルに尋ねたところ、15名のパネリスト全員が便益に関する十分なエビデンスはないと回答した。また、高名な医療機関であるクリーブランド・クリニックやマウント・サイナイ・ヘルス・システムはAduhelmを使わないことを決定した。

加速承認された時点では、医師がどう思おうと患者が使いたいと言ったら使わざるを得ないという見方が主流だったが、雲行きが怪しくなっている。これだけ専門家の反対が多いとメディアの論調もトーンダウンせざるを得ず、大衆もAduhelmという薬があったことをやがて忘れてしまう可能性がある。

リンク: ANA執行委員会のコメント


【新薬開発】


GSK、HIF-PH阻害剤の第3相がすべて成功
(2021年7月16日発表)

グラクソ・スミスクラインは、daprodustatの第3相試験が5本とも成功したと発表した。慢性腎疾患患者の貧血症を治療する試験で、保存期のヘモグロビン矯正、透析期のヘモグロビン矯正や維持、二本の心血管アウトカム、一日一回ではなく週三回の経口投与の全てで主目的を達成した。治療時発現有害事象は対照群(アムジェンのAranespや偽薬)と大きな差はなかった。2022年に承認申請する計画。

データは未発表。悪魔は細部に潜むので、後述のroxadustatのように、承認審査の段階になって初めて表面化する副作用もあるかもしれない。

HIF-PH(低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素)阻害剤で、日本で昨年、ダーブロック錠として承認された。一日一回、経口投与する。協和キリンが販売。日本のESA(赤血球造血刺激因子製剤)対照試験では血栓塞栓疾患が特には増えなかったようだが、どの程度の検出力があったのか分からない。

リンク: 同社のプレスリリース



アレクシオン、ユルトミリスの筋無力症試験が成功
(2021年7月15日発表)

カナダのアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Ultomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)の第3相gMG(全身性筋無力症)試験が成功したと発表した。21年から22年始めにかけて日米欧で適応拡大申請する考え。

Soliris(eculizumab、和名ソリリス)を改変して半減期を長期化した抗C5補体抗体で、PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)やaHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)に承認されている。今回のgMGもSolirisで承認獲得済みだが、既存薬不応以外の患者も組入れた模様なので、重症gMGだけでなく中等症や早期の患者にも承認されるかもしれない。

他の点ではSolirisの第3相と類似しており、抗AChR抗体陽性でMG-ADL総スコアが6以上の患者175人を組入れて26週間治療し、スコア改善幅を偽薬と比較した。MG-ADLは患者が8項目について0から3(最も重い)までの4段階で評価し、合算する。最大は24。本試験のベースライン値は公表されていない。

Ultomiris群は3.1低下し、偽薬群の1.4低下と有意な差があった。尚、Solirisの試験では4.2対2.3なので、治療効果が大きく違うようには感じられない。既存の適応と同様に、投与頻度が少なくて済むことが長所になるのではないか。

Ultomiris群は26週間の延長試験期間も含めて4人が死亡したが、うち3人はCOVID-19によるもの。薬物関連有害事象ではないが、免疫抑制剤の一種なので、全然関係ないとも言い難いのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース



キイトルーダ、TNBC補助療法試験がEFS達成
(2021年7月15日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相KEYNOTE-522試験のEFS(無イベント生存率)データをESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表した。ハザードレシオは0.63と過去の中間解析と同程度だがp値が遂に事前に設定された閾値を下回った。共同主評価項目である術前pCR(病理学的完全反応)の解析は既に成功しているが、術前術後補助療法の便益を定量評価する上では今回の解析のほうが意義が大きい。pCRに基づく適応拡大申請は不首尾に終わったが、EFSデータがあれば今度は承認されるのではないか。

この試験はステージII/IIIの未治療TNBC(トリプル・ネガティブ乳癌:エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、her2の何れも過剰発現していない乳癌)1174人をKeytruda群と偽薬群に2:1割付して、根治手術前に化学療法と試験薬によるネオアジュバント療法、術後に試験薬だけのアジュバント療法を施行する便益を比較した。

ネオアジュバント療法におけるpCRはKeytruda群64.8%、偽薬群51.2%、p値は0.00055と閾値の0.005を下回った。但し、FDAによると、解析対象者が増加したアップデート・データでは群間差が7.5%に縮小したようだ。

EFSのハザードレシオは0.63(95%信頼区間0.48-0.82)、p=0.00031だった。前回の解析ではp=0.0025でその時点での閾値である0.0021を僅かに上回ったが、今回はクリアした。便益はPD-L1発現やpCR達成の有無に依存しなかった。

副次的評価項目である全生存期間の第4次中間解析はハザードレシオ0.72(95%信頼区間0.51-1.02)、p=0.03214で、未だハードルをクリアしていないが方向は悪くない。

MSDは本試験のpCR解析に基づいて加速承認を申請したが、FDAはpCRが延命効果につながるとは限らないこと、アップデート・データで治療効果の低下が見られたこと、この試験はネオアジュバントとアジュバントの二兎を追うデザインであることなどから承認申請前から否定的で、2月に開催された腫瘍学薬諮問委員会も10人全員がEFS解析が成功するまで承認を待つべきと判定。3月に審査完了通知を受領した。

EFS解析が成功したのだから、今度は承認されるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース



オプジーボとヤーボイの頭頚部癌一次治療試験が目的未達
(2021年7月16日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、CheckMate-651試験がフェールしたと発表した。難治/転移頭頚部扁平上皮腫の一次治療試験で、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する延命効果を標準的療法であるEXTRMEレジメン(cisplatinまたはcarboplatinをcetuximabおよびfluorouracilと併用)と比較したが、有意な差がなかった。但し、共同主評価項目であるintent-to-treatとPD-L1陽性(CPS≧20)サブグループの解析のうち、後者はトレンドが見られた由。

Opdivoは難治/転移頭頚部扁平上皮腫の二次治療に用いることが本承認されている。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エベレンゾの承認に反対
(2021年7月15日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)はroxadustatを慢性腎疾患の貧血治療薬として米国で承認申請したが、FDAは安全性データに懸念を示しており、今回、心臓腎臓薬諮問委員会も透析依存患者に関しては14人中12人が、非透析依存は14人中13人が、承認に反対した。

roxadustatはHIF2-PH(低酸素誘導因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤で赤血球の新生などを刺激する。第3相は透析依存患者のESA(赤血球造血刺激因子製剤)対照試験と非透析依存患者の主として偽薬対照の試験が複数実施され、ヘモグロビン値を矯正する作用が確立された。18~19年に中国や日本(エベレンゾ錠)で承認を取得し、EUでも6月にCHMPの肯定的意見を得た。日本や欧州ではアステラス製薬、米国や中国ではアストラゼネカと共同開発販売している。

ヘモグロビン値を上げると高血圧や血栓塞栓症、心筋梗塞などのリスクが高まる可能性がある。このうち、心筋梗塞は発生頻度が高くはないので、FDAは大規模な心血管アウトカム試験または対照試験のメタアナリシスを行って主要有害心血管イベント(MACE)が大きく増加しないことを確認するよう求めている。roxadustatは全死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中のハザードレシオの信頼区間上限が対照群を大きくは上回らず、合格した。しかし、血栓症の発生率が透析依存試験では21.7%(ESA群は19.2%)、非依存試験では9.4%(偽薬群は5.1%)と上回った。

血栓塞栓症のリスクはヘモグロビン値や上昇ペースと関連しているため、FibroGenはヘモグロビンの目標レンジを第3相試験の10.5~12g/dLではなくESAなみの10~11g/dLに抑え、開始用量を70mg~200mg(体重やこれまでのESA使用量に応じて決定する)ではなく40mg~100mgに引き下げ、不応時の連続増量回数を3回までに制限することを提案した。しかし、根拠はシミュレーションで臨床試験のエビデンスはないため、FDAも諮問委員も受け入れなかった。因みに、日本の開始用量はESA未経験者は50mg、スイッチは70mgまたは100mg。

意外なことに、敗血症も含めて感染症の発生率や、てんかん発作の発生率も対照群を上回った。同社は市販後にこれらの有害事象の報告を定期的に分析報告することも提案したが、不十分と見なされた。

米国はESAでヘモグロビン値をアグレッシブに矯正する風土があったが、弊害が明確になり、矯正目標が上記に引き下げられた。薬と言うよりは使い方の問題なのだが、歴史的な経緯から、FDAは有効かつ安全な用量用法の確立を求めている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


ROCK2阻害剤が慢性移植片宿主病に承認
(2021年7月16日発表)

Kadmon(Nasdaq:KDMN)は、FDAがRezurock(belumosudil)を慢性GvHD(移植片宿主病)の治療薬として承認したと発表した。二次治療の全身性治療歴を持つ12歳以上の患者に、200mgを一日一回、経口投与する。臨床試験ではORR(客観的反応率)が75%で、応答者の62%は12ヶ月以上に亘り、新規の全身性治療が不要だった。良く分からないが、メジアン反応持続期間は1.9ヶ月と短い。一旦反応しても直ぐにリバウンドするが治療法を変えたり追加するほどではない、ということなのだろうか。

免疫細胞の分化と細胞の線維化に関与するリン酸化酵素、ROCK2(Rho-associated coiled-coil kinase 2)の阻害薬。Nano Terraからライセンスした。日本はMeiji Seikaファルマがアジア12ヶ国も含めてライセンス。

Kadmonは米国ニューヨーク州の新興企業。Imclone Systemsの創業者で抗EGFR抗体Erbitux(cetuximab、和名アービタックス)を世に送り出す前にインサイダー情報を友人に漏らした罪で逮捕されたSamuel Waksalが刑期終了後に設立、株式公募に際して弟のHarlanにCEOを譲位した。

リンク: Kadmonのプレスリリース



FDA、観察的試験に基づきプログラフを肺移植患者向けに承認
(2021年7月16日発表)

FDAはアステラス製薬のPrograf(tacrolimus、和名プログラフ)を肺移植後の拒絶反応抑制に用いる適応拡大を承認した。27年前に肝移植患者向けに初承認されて以来、腎移植、心移植に続き、四つ目の適応を取得した。

薬の承認はよくデザインされた複数の薬効確認試験を根拠とするのが鉄則だが、今回、面白いのは、介入試験ではなく、観察的試験によるReal World Evidenceに立脚していること。SRTR(米国の移植患者レジストリー)のデータと社会保障局の死亡データの分析で、肺移植を受けて免疫抑制治療の一部としてPrografによる治療を受けた患者の転帰は、免疫抑制療法を施行しなかった/最低限だった患者の自然歴と比べて『ドラマチックに改善』した。

レーベルによると、成人患者では退院の1年後のグラフト・サバイバル率がMMF併用例(15478人)では90.9%、azathioprine併用例(4263人)では90.8%だった。小児では各91.7%と84.7%だった。対照群のデータは記されていない。

リンク: FDAのプレスリリース



ダラキューロが七つ目の適応・用法を獲得
(2021年7月9日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalのDarzalex Fasproの適応・用法追加を承認した。ジェンマブが創製した抗CD38抗体と蛋白分解酵素の配合薬で、元々は点滴静注用だったDarzalexを皮下注射できるようにした。これまでに多発骨髄腫と全身性ALアミロイドーシスに承認されているが、前者は新薬が続々発売されていることからヤンセンも様々な段階における併用法を開発しており、今回、プロテアーゼ阻害剤とlenalidomide を含む一次以上の治療歴を持つ患者に、セルジーン/BMSのPomalyst(pomalidomide)及びdexamethasoneと併用する、D-Pdレジメンが実用化された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ヤンセンのプレスリリース(7/12付)






今週は以上です。

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