2021年7月10日

第1007回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • ブースター・ワクチンは有効だが時期尚早 
  • インド企業の弱毒化ワクチン、第3相成功 
  • プラスミドDNAワクチンの第3相が世界で初めて成功 
  • CureVacのmRNAワクチンの効率は47%のみ 
  • ワクチンの極めて稀な副作用 
  • その他の領域: 
  • Aduhelmの承認過程を監査するようFDA長官代行が要請 
  • アルツハイマー病薬のレーベルが早くも変更 
  • キイトルーダの胃・GEJ腺癌適応を自主返上へ 
  • ジャディアンスのHFpEF試験が成功 
  • Pepaxtoの早期患者試験が部分停止に 
  • 一型糖尿病予防薬は審査完了に 
  • FDA、バイエルのMRAを糖尿病性腎症に承認 
  • FDA、膀胱癌用抗体薬物複合体を本承認 
  • キイトルーダが局所進行性の皮膚扁平上皮癌にも承認


【COVID-19関連】


ブースター・ワクチンは有効だが時期尚早
(2021年7月8日発表)

ファイザーとBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、COVID-19のリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)の開発に成功、21年の年商は150億ドルと、ワクチンのベストセラーであるPrevnarの3倍近くに達する見込みだ。但し、成功が大きければ大きいほど一巡後の落ち込みも大きくなるので、経営陣は打撃吸収策を練る必要がある。両社やModernaの戦略は、Prevnarなどのハイテク・ワクチンと比べて低く抑えられている価格を引き上げることと、国家備蓄やブースター・ショット需要を開拓すること。数量が落ち込んでも価格を7~9倍に引き上げることができれば売上高を維持できる計算だ。

一方、行政や医療従事者はこのような発言にクールに反応している。今回も意見が分かれた。

ファイザーとBioNTechは、Comirnatyを二回接種した人に6ヶ月おいてもう一回接種する試験の中間解析が良好な結果になったと発表した。野生株やベータ株(南アで初発見)に対する中和抗体価が2回目接種後の5~10倍に増加した。論文発表やFDA/EMAに報告する予定。

一方、HHS(米国保健福祉省)傘下のCDC(疾病予防管理センター)とFDAは、現段階では、ワクチン接種を完了したアメリカ人はブースター・ショットは不要という共同声明を出した。英国で感染者が増加に転じたり、イスラエルの疫学研究で6ヶ月経つと効果が減弱する可能性が浮上したり、デルタ株(インドで初発見)が英国や米国でも流行し始めたことで国民が心配しないよう配慮したのだろう。米国にもかなりいる、ワクチンの安全性や意義に疑問を持つ人たちに新たな言い訳を与えない意図もあっただろう。

米国で接種が始まったのは昨年12月なので、もしブースター・ショットが有効であったとしても現時点で接種すべき人数は限られている。優先接種だった医療従事者の間で感染者が増え始めるようならば、考え直すタイミングになるだろう(医療従事者は接種後もマスクをして治療に当たるだろうから、シグナルが出るのは市井のほうが先かもしれないが)。

さて、アストラゼネカのワクチンに関して、接種の1年後に抗体価が接種後の3分の1に低下したが接種前よりは高かった、そしてブースター・ショット後は再び上昇した、という論文草稿を読んだことがあるが、今回は抗体価のピーク水準と比べて5~10倍なので、意味がかなり違う。ブースターに関してもリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンのほうが有効なのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: CDCとFDAの共同声明



インド企業の弱毒化ワクチン、第3相成功
(2021年7月2日発表)

インドのワクチンメーカーであるBharat Biotechは、Covaxinの第3相COVID-19予防試験が成功したと発表した。インドの施設で18歳以上の約26000人を組入れ、4週間おきに二回接種して更に14日経った後の症候性感染を追跡したところ、ベースライン時点で抗体陰性者(≒感染歴がない)では24人と偽薬群の106人を大きく下回り、ワクチン効率は77.8%(95%信頼区間65.2-86.4)だった。欧米で開発されたワクチンと同様に、重症感染症を予防する効果は93.4%(一人対15人)と更に高かった。

インドではB.1.617系統が発展しカッパ株(B.1.617.1)や感染力が高いとされるデルタ株(B.1.617.2)、そしてワクチンの効果低下につながる可能性のあるK417N変異も持つデルタ・プラス(B.1.617.2.1)などが登場、英国でもアルファ株(B.1.1.7)に代わりデルタ株が主流になった。Covaxinの治験でもこれらの系統が頻出したと推測されるが、デルタ株に関するワクチン効率は65.4%と、全体の77.8%より10ポイント程度低いだけだった。

この試験は無症候性感染も評価項目となっており、ワクチン効率は63.6%だった。ワクチンの仕組みから推測すると、重症感染者は純減するが、中等症と軽症は予防効果の一部が上から降りてくる人(ワクチンのお陰で重症化せず中等症で済む人)で相殺される。何もしなければ無症候感染者となったはずの患者の一部は検出不能(感染していないと判定)になるはずだが、症状が出なくて済んだ人による増加も大きいだろう。このため、ワクチン効率は重症感染予防効果の数値が最もよく、無症候感染予防効果が最も低いと推定される。これまでの臨床試験成績は、この推定と矛盾していない。それだけに、Covaxinの無症候性感染ワクチン効率が症候性感染と10ポイント程度しか違わないのは意外感がある。

会社側はmRNAワクチンやウイルスベクター・ワクチンより忍容性が良いことを期待している。第3相では副作用発生率は12.4%、深刻有害事象発生率は0.5%だった。

Covaxinはスパイク蛋白だけでなくウイルス全体を弱毒化したワクチン。米国のViroVaxがNIAID(米国立アレルギー感染症研究所)の支援を受けて開発したAlhydroxiquim-IIという、アルミにTLR7/8を活性化する分子を結合したアジュバントを採用している。1月にインドでEUA(非常時使用認可)、一回分が150インドルピー(約220円)という低価格で政府に供給している。現在はブラジルなども含めて13ヶ国でEUA、これまでに3億回分を納入したとのこと。第3相の成功を受けて、米国などでも承認申請する予定。

リンク: 両社のプレスリリース



プラスミドDNAワクチンの第3相が世界で初めて成功
(2021年7月1日発表)

インドのZydus Cadilaは、ZyCoV-Dの第3相試験が成功したと発表した。12歳以上の28000人を組入れ3回皮内注射したところ、症候性感染症を予防するワクチン効率が66.6%、中等症以上の感染では100%だった。インドでEUA申請する予定。免疫原性試験では3mg二回接種でも三回接種並みの効果があったとのこと。

プラスミドDNAワクチンの第3相成功は世界初。インドは感染者が多く臨床試験に適しているとはいえ、アンジェスなど日本の企業より遥かに先んじたのは驚きだ。日本はCOVID-19オリンピックで惨敗している。新型インフルエンザの時の、外国製ワクチンは一滴足りとも入れないという鎖国主義を排して、日本の被験者が足りないならインドやブラジルの医療施設も巻き込むようなグローバルな展開、及び競争を推進し、勝てないなら退いてもらう勇気が必要だ。産官学ワクチン複合体の存続より国民全体の健康のほうが大事なのだから。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)



CureVacのmRNAワクチンの効率は47%のみ
(2021年6月30日発表)

ドイツのCureVac(Nasdaq:CVAC)は、CVnCoVの後期第2相/第3相試験の最終解析結果を発表した。6月発表の第二次中間解析と同じ47%に留まった。18~60歳では53%ともう少し良い成績だったが61歳以上には効果が認められなかった。何れにせよ、開発が先行したリピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンの効率は90%超だったことを考えると、半分程度に留まったのは意外。

CureVacは12mcgを4週間おいて二回筋注と、既存製品と比べて少量であることが裏目に出たのかもしれない(生産高をよりたくさんの人に提供することを狙ったのかもしれない)。あるいは、流行株の変遷が影響した可能性もある。この試験の感染者204人のうち野生株は3%足らずでVOC(感染力や抗体抵抗性の点で懸念すべき変異株)やVOI(まだ評価が定まっていないが注視すべき変異株)が殆どだったからだ。

但し、サンプル数が少なく信頼区間が広いとはいえ、アルファ株(英国型)に対するワクチン効率が55%というのは見劣りする。ペルーで流行している、F490Sという中和抗体抵抗性の可能性のある斬新な変異を持つラムダ株は53%、日本で最初に発見されたブラジルで流行しているガンマ株は67%、コロンビアで流行のB.1.621は42%となっており、流行株の違いというよりはワクチン自体の違いが主因のように感じられる。

CVnCoVはEUでローリング審査中。米国は一部を除いてワクチンのEUAを締め切ったので、正式な承認を申請することになる。

リンク: 同社のプレスリリース



ワクチンの極めて稀な副作用
(2021年7月9日発表)

EMAのPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)はBioNTech/ファイザーとModerna、そしてヤンセンのCOVID-19ワクチンについて、極めて稀な副作用を認定、レーベルに追加するよう勧告した。CHMPなどの検討を経て収載されることになる。

リピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンは、心筋炎と心膜炎。EEA(欧州経済領域)でComirnatyは心筋炎145例、心膜炎138例、ModernaのSpikevaxはどちらも19例が報告された。死亡は5人。EEAにおける接種実績(5月末時点)は夫々1.77億回と2000万回なので、頻度は50~70万人に一人ということになる。接種後14日以内、一回目よりは二回目の接種後、若い男性、が多い。死亡者は高齢または持病を持っていた。

本件は6月のACIP(米国のワクチン接種諮問委員会)でも報告された。症例分析がもう少し詳しいので第1005回(6/26付)を参照されたい。

Covid-19 Vaccine Janssenは、毛細血管漏出症候群。病歴のある人に接種しないことも勧告した。3件報告されているが、うち1例は病歴があった。何れも接種後2日以内に発症、2人は死亡した。接種実績(6月21日時点)は世界で1800万人なので、頻度は600万人に一人となるが、転帰が悪そうだ。

アデノウイルスベクターを用いる遺伝子ワクチンはオックスフォード大学/アストラゼネカのVaxzevriaも6月に同様なPRAC勧告が出た。その時点で14例の報告があり、欧州における接種実績は7800万回だったので、550万人に一人となる。ヤンセンのワクチンにはEDTA(カルシウムに結合する安定化剤)が添加されていないため毛細血管漏出性がVaxzevriaより小さいことも考えられるが、頻度は大差なく、よくわからない。

リンク: EMAのプレスリリース(ComirnatyとSpikevax)
リンク: 同(COVID-19 Vaccine Janssen)


【今週の話題】


Aduhelmの承認過程を監査するようFDA長官代行が要請
(2021年7月9日発表)

Janet Woodcock FDA長官代行は、自身のツイッターで、バイオジェン/エーザイのアルツハイマー病治療薬Aduhelm(aducanumab-avwa)の承認過程を監査するようHHS(保健福祉省)のOIG(監察総監室)に要請したことを公表した。Christi Grimm OIG室長代行あての書簡の全文画像も添付されている。

19年3月に第3相試験が無益性で打ち切られてから次項のレーベル変更までの2年間に、不可解な、違和感のある動きが数多くあったはずだが、今になって検証を求めたのは、STATというBoston Globe傘下のオンライン・ライフサイエンス・メディアの報道が契機のようだ。私は有料購読していないため内容を把握していないが、他の報道によると、神経科学領域の新薬の審査を行う部門を率いるBilly Dunnダイレクターが公式な連絡手続きを逸脱して承認申請者に接触したことや、早い段階で加速承認の可能性に言及していたことなどを報じたようだ。

トップが監査を求めたとなると、如何にも疑惑が濃厚であるように聞こえるが、おそらく、他の省庁や組織の担当業務に平気で口を出す、米国人気質の良い面が表れたのだろう。元々、『疑惑の承認』との論評が少なくない案件について、新たな疑惑が報じられた以上、傍観していたら長官代行の責務を果たせない。『疑惑の銃弾』と同じ顛末になるかもしれないのだから、忖度して握りつぶすよりも監査を受けて白黒ハッキリさせるほうがお互いのためである。

リンク: Woodcock長官代行のツイート(Twitter)



アルツハイマー病薬のレーベルが早くも変更
(2021年7月8日発表)

バイオジェンとエーザイは、米国で6月7日に加速承認されたAduhelm(aducanumab-avwa)の適応に関するレーベル改訂を行ったと発表した。適応症は『アルツハイマー病』と広範なままだが、MCI(軽度認知障害)または軽度アルツハイマー病の患者に対して治療を開始すべしという補足が追加された。日本の添付文書における『効能又は効果に関する注意』を彷彿させる。

FDAの資料や報道によると、『アルツハイマー病の治療』という適応症は元々、メーカー側が求め、FDAが承認したが、中重度患者に関するエビデンスがなく照会が相次いだため、メーカー側に再考を促した、という経緯のようだ。適応症自体を変えなかったのは、治療しても病気は進行するので、中等度そして重度になっても適応から外れる訳ではないことを明確にする趣旨のようだ。

第3相試験のもう一つの組入れ条件であるアミロイド検査陽性は、今回も、無視された。

中重度患者のエビデンスがないのは前から分かっていたのだから、初承認の時点で注記なり但し書きなりすればよかったのではないか。相変わらず、ことAduhelmに関してはFDAの行動は理解しがたい。

リンク: 両社のプレスリリース



キイトルーダの胃・GEJ腺癌適応を自主返上へ
(2021年7月1日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の胃・GEJ(胃食道接合部)腺癌3次治療における加速承認を返上すると発表した。半年内に手続きに着手する予定。

第2相試験のORR(客観的反応率)データに基づきPD-L1陽性(CPS≧1)の患者の用いることが17年に認められたが、市販後薬効確認試験であるpaclitaxel対照二次治療試験がフェールした。加速承認は深刻な疾患で適切な薬がない場合にORRのような代理マーカーに基づいて前倒しで承認する制度だが、のちに類薬であるBMSのOpdivo(nivolumab)が一次治療化学療法併用で本承認され、一次治療でOpdivoを使った患者の三次治療にも有効であるかどうか不明ということもあり、加速承認を維持する意義が低下した。

MSDが自主返上を受諾しなかったため今年4月の諮問委員会に上程したところ、8人中6人が加速承認維持に反対、今日に至った。

尚、FDAは承認を取消す権限を持っているが、ライセンスホルダーが反発してFDA内の不服申し立て手続きを行ったり司法に救済を求めたりしたら結果が出るまで時間がかかるため、自発的返上が第一選択になる。

適応が一つ減ったもののKeytrudaの用途は着々と拡大しており、胃・胃食道接合部腺腫に関しても、her2陽性で局所進行切除不能/転移性の癌の一次治療にtrastuzumab、fluoropyrimidine、及び白金薬と併用することが加速承認されている。直感的には整理が困難だが、不確かなエビデンス(代理マーカーの改善)を積み重ねても確かなエビデンスにはならず、加速承認を本承認に切り替えることはできないが、多少異なった用途で新たに加速承認する妨げにはならない、ということなのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


ジャディアンスのHFpEF試験が成功
(2021年7月6日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと共同開発販売パートナーであるイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)のEMPEROR-Preserved試験が成功したと発表した。左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)の成人約6000人を組入れて心血管疾患死や心不全入院を観察した心血管アウトカム試験で、データは8月27日にESC(欧州心臓学会)で発表する予定。

駆出率が低下した高リスク心不全を組入れたEEMPEROR-Reduced試験も成功しており、日米欧で適応拡大申請中。

尚、SGLT2阻害剤は二型糖尿病薬として承認されているが、これらの試験では二型糖尿病は組入れ条件ではない。

リンク: 両社のプレスリリース



Pepaxtoの早期患者試験が部分停止に
(2021年7月8日発表)

スエーデンのOncopeptides AB(Nasdaq Stockholm:ONCO)は、今年2月に米国で難治再発多発骨髄腫の5次治療薬として加速承認されたPepaxto(melphalan flufenamide、通称melflufen)に関して、市販後薬効確認試験且つ3次~5次治療試験である第3相OCEAN試験の結果のアップデートを行うとともに、FDAが他の臨床試験を部分停止したことを明らかにした。

Pepaxtoはアルキル化剤melphalanにペプチドを結合して親油性を向上したもの。4週毎に30分点滴静注する。dexamethasoneと併用する。欧州でも承認申請中。

OCEAN試験はdexamethasoneにPepaxtoを併用する群のPFS(無進行生存期間)をPomalyst(pomalidomide)併用群と比較した。5月の結果発表によると、独立評価委員会が査読したPFSはハザードレシオが0.817となったがp=0.064でフェールした。根拠は不明だが、会社側は非劣性だったと主張している。担当医評価のPFSはハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.639-0.976)と良好な数値になったが、オープンレーベル試験なので主観的評価項目の信頼性は頑強ではなく、解析の多重性も考慮しなければならない。

今回、数値が若干変更された。データベースをロックし最終解析を行う過程で幾つかの修正が行われたため改めて独立評価委員会に検討を委ねたところ、495例のうち29例の画像評価が変わり、ハザードレシオは0.792、p=0.0311と一転して統計的に有意な差が検出された。ORR(客観的反応率)は変更されなかった。

意外なことに、今回初めて公表された全生存期間のハザードレシオは1.104とdexamethasone・Pomalyst併用より数値上悪かった(信頼区間は1を跨いでいる)。事前に特定されたサブグループ毎の解析では0.5から1.5まで大きなムラがあり、Pepaxtoに適した患者と使うべきでない患者がいることを示唆している。どのようなサブグループなのかは、投資家向けテレカンファレンスでも開示されなかった。

Pepaxtoは様々な薬との併用試験などが進行しているが、FDAは、新規組入れを禁じるパーシャル・クリニカル・ホールドを発出した。一方で、現在承認されている用途に関しては、特に何も命じなかった。承認されている主要な薬を使い終わった患者のサルベージ治療なので、死亡リスクが明らかに高まるのでないかぎり、本人が望むなら使っても良いという考え方なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


一型糖尿病予防薬は審査完了に
(2021年7月6日発表)

Provention Bio(Nasdaq:PRVB)はPRV-031(teplizumab、通称Ala-Ala)を一型糖尿病発症を遅らせる薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効のエビデンスとなる第2相試験で用いられたバッチと販売用バッチの同等性がボトルネックになったようだ。同社は新患一型糖尿病治療試験のサブスタディとして収集したデータを転用できないか、検討する考え。

モノクローナル抗体医薬の第一号である抗CD3エプシロン・マウス抗体、OKT3(muromonab)をヒト化したもので、MacroGenics者が権利を取得、イーライリリーがライセンスして第3相新患一型糖尿病治療試験を実施したが2010年にフェールした。Proventionは18年にライセンス、NIH(米国衛生研究所)が主導したTN-10試験のデータをエビデンスとして昨年、承認申請した。

TN-10試験は一型糖尿病の近親者を持ち二種類以上の疾病関連自己抗体陽性、OGTT値が高いが糖尿病の基準値は下回っている8歳以上の76人を組入れて、30分点滴静注を14日連続で施行する群と偽薬群の発症状況を比較したもの。結果はハザードレシオ0.41、p=0.006、メジアン値は48ヶ月対24ヶ月と、発症を2年程度遅らせる効果を示した。

5月に開催された諮問委員会では賛成10人、反対7人と票が分かれた。FDA側は臨床試験の規模が小さいこと、腎症や神経症の抑制などの臨床的便益が確立していないこと、糖尿病性ケトアシドーシスやサイトカイン放出症候群、感染症の懸念などを指摘していた。

ブリッジング試験で薬物動態の同等性が見られなかった問題は4月に表面化した。この問題が未解決であるため、承認審査の最終段階であるレーベルや市販後コミットメントに関する検討・交渉に進むことができないとFDAが通知してきたのだ。従って、審査完了通知に留まったのはそれほど意外ではない。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


FDA、バイエルのMRAを糖尿病性腎症に承認
(2021年7月9日発表)

FDAはバイエルのKerendia(finerenone)を成人の二型糖尿病関連慢性腎疾患の治療薬として承認した。欧米中日などの施設が参加した第3相アウトカム試験、FIDELIO-DKDで、腎臓合併症(eGFRの40%以上の低下や腎不全)のリスクを18%抑制し、心血管合併症(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院)リスクも14%抑制した(但し、非致死的脳卒中は偽薬群より数値上、多かった)。主な有害事象は高カリウム血症、低血圧、低ナトリウム血症など。副腎不全やCYP3A4強阻害剤併用は禁忌。

非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体阻害剤(MRA)だが、Inspra(eplerenone、和名セララ)など既存のMRAと異なり、分布が腎臓に偏らず選択性も高いため、腎安全性に優れる可能性がある。心不全ではなく慢性腎疾患を最初の適応症として開発したのはこれが理由だろう。

今回の適応より幅広く、腎機能がそれほど悪化していない患者や進行した患者も組入れた第3相FIGARO-DKD心血管アウトカム試験が成功したことも公表されている(データは未発表)。症候性心不全でも第3相FINEARTS-HF試験が日米欧などで進行中。

さて、糖尿病性腎症の新薬はSGLT2阻害剤も次々と承認されており、作用機序が異なるとはいえ、競合するだろう。両方使うことも不可能ではないが、FIDELIO-DKD試験の被験者は6割以上がインスリンを用いておりSGLT2阻害剤服用は4%のみだった。効果もさることながら、血圧低下リスク(作用)のある薬を標準療法であるACE阻害剤も含めて三剤併用するにはエビデンス不足なのではないか。

MRAの第1号であるAldactone(spironolactone)は研究者主導試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に掲載されオフレーベル使用されるようになったが、腎機能低下は除外条件であったことが軽視され、多くの副作用被害が発生した。教訓は様々だが、その一つは、組入れ・除外条件や患者背景の表に注意すべきことだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バイエルのプレスリリース



FDA、膀胱癌用抗体薬物複合体を本承認
(2021年7月9日発表)

FDAは、アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)を局所進行/転移尿路上皮癌の再発治療薬として承認した。PD-1/PD-L1阻害薬と白金薬レジメンによる治療歴を持つ、または、cisplatin不適で一次治療歴を持つ患者が適応になる。前者は19年12月に加速承認され、今回、第3相試験のエビデンスに基づき本承認となった。後者は第2相試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が51%、メジアン反応持続期間13.8ヶ月だった。これだけなら加速承認だったかもしれないが、おそらく、似たようなセッティングで延命効果が確認されたため、こちらも本承認となった。

転移性尿路上皮癌の9割で発現するNectin-4を標的とする抗体にMMAEという細胞毒を結合した抗体医薬複合体。11年に3.7億ドルで買収したAgensysの唯一の開発成功品で、Seagen(Nasdaq:SGEN)が共同開発販売している。日欧でも承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース



キイトルーダが局所進行性の皮膚扁平上皮癌にも承認
(2021年7月6日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)を根治手術・放射線療法が適応にならない局所進行性皮膚扁平上皮癌に用いる適応拡大がFDAに承認された。KeyNote-629試験の第二次中間解析結果に基づくもので、54人中27人がORR(客観的反応率:完全反応率17%、部分反応率33%)を達成し、その81%が6ヶ月以上持続した。

Keytrudaは昨年、難治性/転移性の癌に承認されており、今回の承認で三種類のサブタイプをカバーした。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

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