2021年7月1日

第1006回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • CRISPR技術が臨床で初めて有効性を示した 
  • リンヴォックの潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • イエスカルタの二次治療試験が成功 
  • カボメティクス錠の肝臓癌一次治療、今一つな結果に 
  • Multikine、10年間かけた第3相がフェール 
  • ギリアド、効果が半年続く抗HIV薬を承認申請 


【今週の話題】


CRISPR技術が臨床で初めて有効性を示した
(2021年6月26日発表)

米国マサチューセッツ州ケンブリッジのCRISPR/Cas9遺伝子編集技術開発会社、Intellia Therapeutics(Nasdaq:NTLA)と共同開発パートナーのRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、NTLA-2001の第1相試験中間解析結果をNew England Journal of Medicine誌や学会で発表した。ポリニューロパチーを有する遺伝性ATTRアミロイドーシスの患者6人に0.1mg/kgまたは0.3mg/kgを一回点滴静注したところ、血清TTR(トランスサイレチン)が各52%と87%減少した。最大は96%減少した患者も一名いた。深刻な有害事象は見られなかった。

現在は1mg/kgのコフォートに組入れ中。今後、至適用量が決まったらそのコフォートの組入れを拡大し、良好な結果になれば、心筋症型も含めて、承認申請のためのpivotal studyに進む予定。

ATTRアミロイドーシスはTTRの遺伝子に変異があり、トランスサイレチンが代謝されずに蓄積する。NTLA-2001は肝臓のTTRの遺伝子を切断・不活化する。

この疾患ではAkcea Therapeutics/Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTegsedi(inotersen)とアルナイラム(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)が17~18年に欧米で承認されている。前者は遺伝子アンチセンス技術、後者はRNA干渉技術に立脚しており、広い意味では、何れもゲノム研究の成果といえる。何れも血清TTRが70~90%減少する。

NTLA-2001は反復投与が不要な可能性もあるが、新しい技術なのでリスクもありそうだ。効果が同程度なら、リスクも同程度であることが求められるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Gillmoreらの治験論文(NEJM)


【新薬開発】


リンヴォックの潰瘍性大腸炎試験が成功
(2021年6月29日発表)

アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)を関節リウマチやアトピーなど様々な自己免疫疾患向けに開発している。潰瘍性大腸炎では、第3相インダクション試験二本に続いて、メンテナンス試験も成功したことを発表した。適応拡大申請に向かうと予想される。但し、FDAはJAK阻害剤の副作用に強い問題意識を持っており、今回のように、リウマチより高用量を投与する場合はより慎重なスタンスを取るかもしれない。

インダクション試験二本では、中重度患者500人前後を45mgを一日一回経口投与する群と偽薬群に2:1割付して、8週後の臨床的寛解率(Adapted Mayo Score基準)を比較した。一本では26%対5%、もう一本は33%対4%と有意な差があった。副次的評価項目である二種類の内視鏡的評価でも有意な差があった。両試験とも、Rinvoq群の応答率は70%台だった。今回のメンテナンス試験は、インダクション応答者451人を偽薬、15mg群、30mg群に無作為化割付して52週間後の臨床的寛解率を比較したところ、各群12%、42%、52%となり偽薬比有意な差があった。内視鏡的評価でも有意な差があった。

8週間の治療に応答した患者は、投与を続ければ寛解維持/達成できる可能性があり、止めると治療効果を吐き出してしまう可能性があることを示唆している。

さて、JAK阻害剤の第1号であるXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)は市販後安全性確認試験で心血管リスクや癌リスクが高まることが判明。リスクは用量依存する可能性があるため、リウマチの倍の量を投与する潰瘍性大腸炎の適応は他剤不応重度不耐に限定された。

Rinvoqのリスクは明確ではないが、中重度リウマチ性関節炎の承認用量は15mgであるのに対してアトピー性皮膚炎の適応拡大申請は15mgと30mg、今回もインダクションは45mg、メンテナンスは30mgもテストされており、用量依存的なリスクの増大を懸念する余地はあるだろう。

FDAはRinvoqを含む各社のJAK阻害剤の適応拡大/新薬承認を軒並み先送りしており、近い将来に何らかのアクションが見られるだろう。予想されるシナリオは、取り敢えず諮問委員会に諮問したり、長期安全性試験を市販後ではなく承認前に義務付けするなどが考えられる。

リンク: 同社のプレスリリース



イエスカルタの二次治療試験が成功
(2021年6月28日発表)

ギリアド・サイエンシズの子会社であるKite Pharmaは、Yescarta(axicabtagene ciloleucel、和名イエスカルタ)の第3相ZUMA-7試験が成功したと発表した。難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療試験で、EFS(イベント・フリー・サバイバル)のハザードレシオが0.398、p<0.0001となり、標準療法を有意に上回った。副次的評価項目のORR(客観的反応率)も有意に上回り、全生存期間はデータが成熟していないこともありトレンドに留まった。

CAR-Tに付き物のG3以上のサイトカイン放出症候群発生率は6%、同じく神経学的イベントは21%だった。

尚、標準療法は免疫化学療法を施行して、応答したら、そして忍容できるなら、強化化学療法を行い、幹細胞移植を行った。

YescartaはCD19を標的とするキメラ抗原受容体-T細胞療法。17年に米国で、18年にEUで、21年には日本でも、難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



カボメティクス錠の肝臓癌一次治療、今一つな結果に
(2021年6月28日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)と開発販売パートナーのイプセン(Euronext:IPN)は、VEGFR拮抗剤Cabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)の第3相COSMIC-312試験の結果を公表した。進行肝細胞腫の一次治療として抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と併用する効果を承認薬であるNexavar(sorafenib)と比較したところ、主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)が有意に上回った。ハザードレシオは0.63、99%信頼区間は0.44-0.91だった。

もう一つの主評価項目である全生存期間の解析は中間解析ということもありトレンドに留まったが、会社側は、22年初めにも行われる最終解析でも有意差が出ないと予想している。意外だ。

いずれにせよ、二剤併用がVEGFR阻害剤単剤を凌げないのでは情けない。期待外れになりそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース



Multikine、10年間かけた第3相がフェール
(2021年6月28日発表)

米国ヴァージニア州のCEL-SCI(NYSE American:CVM)は、1983年の設立以来、ヒト由来のサイトカインなどの混合物であるMultikineを癌の治療薬として研究開発してきた。リーマン・ショックを乗り越え2010年に第3相頭頚部癌ネオアジュバント試験を開始、FDAの治験停止命令を乗り越え完遂し、結果はフェールだったが乗り越えてサブグループに承認申請する考えであることを発表した。

Multikineは健常ボランティアから採取したIL-2やTNFアルファ、CSF、キモカインなどを培養したもの。第3相試験はステージIII/IVaの原発性頭頚部癌の新患928人を組入れて、手術、放射線療法、そして化学療法を施行する前にMultikineとcyclophosphamide、indomethacin、そして鉛マルチビタミンによる3週間の術前治療を行う群と行わない群に割付けて、生存率を比較した。16年にFDAが部分的治験停止を命じ新規投与を禁止、その後、全面的な治験停止を命じたが、既に殆どの患者の投与を終えていたので大きな影響はなかっただろう。

主評価項目はフェールしたが、事前に設定された、化学療法を施行しなかったサブグループではハザードレシオ0.68、p=0.0236とボーダーライン上だが有意な差があった。5年生存率はMultikine群が62.7%、対照群は48.6%だった。

手術と放射線療法だけを行うか、化学療法も施行するかは、NCCNガイドラインに即して決定するプロトコルだったので、選択の恣意性はあまりなさそうだ。それでも、サブグループ分析は患者背景に偏りがあるなど細部に悪魔が潜んでいることが多い。当面の注目は、FDAからどのようなフィードバックがあるかだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ギリアド、効果が半年続く抗HIV薬を承認申請
(2021年6月28日発表)

ギリアド・サイエンシズは米国でGS-6207(lenacapavir)をHIV/AIDSのサルベージ治療薬として承認申請した。ウイルスの複製に不可欠な、HIVのRNAを包むカプシドを阻害する。治療開始時は14日間に3回、錠剤を服用するが、第15日に皮注用製剤にスイッチした後の維持期は半年に一回で足りる。

臨床試験では、複数のクラスの抗HIV薬に抵抗性の患者24人に投与したところ、88%でウイルス量が14日後に0.5log10以上減少した。偽薬群12人では17%に留まった。その後、偽薬群を試験薬群にクロスオーバーした上で皮注の26週後に検査したところ、26人中73%で検出不能となった。有害事象は注射箇所反応など。

ギリアドはMSDと夫々の長期作用性抗HIV薬の併用法も共同開発している。

リンク: 同社のプレスリリース





今週は以上です。

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