【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:NIHは回復期血漿を推奨せず
- COVID-19:ケブザラの二本目の第3相もフェール
- COVID-19:米国ネバダ州でも再感染例
- バフセオは非透析期CKDの心血管アウトカム試験がフェール
- ESC:フォシーガは糖尿病患者以外の慢性腎疾患にも有益
- ESC:ジャディアンスも心不全アウトカム試験が成功
- NJ、新作用機序インフルエンザ薬の開発を中止
- ギリアド、CAR-Tを濾胞性、辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
- トルリシティの高用量が承認
- FDA、経口アザシチジンを承認
- FDA、週一回投与型成長ホルモンを承認
- PRAC、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認取消を勧告
【今週の話題】
COVID-19:NIHは回復期血漿を推奨せず
(2020年9月1日発表)
第961号で取り上げたようにFDAはCOVID-19に感染し回復期にある患者の血漿(CCP)をCOVID-19入院患者の治療に充てることを非常時使用認可(EUA)したが、様々なキイ・オピニオン・リーダーから疑問の声が上がっている。クリーブランド・クリニック時代にCOX-II阻害剤の薬害訴訟で原告側の証人となり、その後にスクリップス・リサーチ・トランスレーショナル・インスティテュートを立ち上げたエリック・トポル博士は、ハーンFDA長官に(政府の圧力について)全てを話すか、さもなくば辞任せよと迫った。
NIH(米国衛生研究所)のCOVID-19治療ガイドライン・パネルも、CCPを標準療法に組み込むのは時期尚早という声明を出した。最良のエビデンスである無作為化割付対照試験のデータがないこと、抗体量がCCP毎に区々であること、有効と無効の境目となる抗体価の閾値も不明であることなどを踏まえて、CCPの使用を推奨したり反対したりするにはデータ不足と結論した。
NIHはFDAと同じ米国保健福祉省傘下の組織だが、忖度せずに自分の意見を主張するのが米国文化だ。次は、11月頃に予想される、ワクチンのEUAが争点になりそうだ。
リンク: CCPのEUAに関する声明
COVID-19:ケブザラの二本目の第3相もフェール
(2020年9月1日発表)
サノフィは、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と共同開発販売している抗IL-6受容体アルファ抗体、Kevzara(sarilumab、和名ケブザラ)の第3相重症COVID-19治療試験がフェールしたと発表した。欧露日などの施設で重症・危機的な入院患者約400人を組入れて200mgと400mgの効果を偽薬と比較したところ、7段階の病状評価が2段階以上改善するまでの期間が若干短かったが、統計的に有意な水準ではなかった。入院期間や、危機的患者における死亡リスクもトレンドに留まった。
リジェネロンが主導した米国のもっと大規模な試験もフェールしている。ジェネンテックが実施した類薬の試験もフェールしたので、IL-6をブロックすることで免疫の過剰活性化を抑制すれば臓器障害などによる病状悪化や死亡が減る、という仮説に否定的なエビデンスが積み重なってきた。
残念だが、有効な薬とそうでない薬の選別が進んだのは一歩前進であることは間違いない。残ったパイプラインの中では、SARS-CoV-2のスパイク蛋白に結合する抗体医薬に期待したい。
リンク: サノフィのプレスリリース
COVID-19:米国ネバダ州でも再感染例
(2020年8月27日発表)
COVID-19感染経験者は免疫を持っているので二度と感染しない、と主張する免疫パスポート説は、おそらく、都市伝説だろう。抗体ができても数ヶ月で大きく減少してしまう現象が数多く報告されているからだ。だが、液性免疫が長持ちしなかったとしても細胞性免疫は有効なのではないか?また、再感染を防げなくても重症化は回避できるのではないか?そもそも、再感染と呼ばれる症例は、実際は、完治してなかっただけで実際は最初に感染したウイルスの再燃ではないのか?
これらの希望的観測に反する症例が少しずつ、報告され始めた。再燃ではないことをゲノム分析で明らかにした事例が、香港に続いて、米国ネバダ州でも報告されたのだ。Preprints with The Lancetという、Lancet系の論文原稿レジストリーで公開されたTillettらの症例報告によると、4月にSARS-CoV-2陽性と判定された25歳の患者は、9日後に症状軽快し、5月に二回の核酸検査で陰性判定となったが、二回目の検査の2日後に発症、5日後に酸素投与が必要になり入院した。一回目はのどの痛みや咳、頭痛、悪心、下痢などの症状があったが、二回目は息切れや筋痛などの症状も現れ、一回目より重症だった。
ゲノム解析の結果、二回とも20C系統のウイルスだが数か所、変異があり、一回目のウイルスが患者の体内で偶発的に変異する確率は著しく低いと推定された。
今回の再感染事例は、感染を防げなくても重症化は防げるのではないか、という希望的観測に反している。世界の感染者は2500万人とすごく多いので、もし再感染するならもっと多くの症例報告があるはずだが、例外的と断じる根拠もない。
神奈川県でも軽快後に重症化して亡くなった事例が横須賀市により発表された。8月13日に東京都で陽性判定を受け入院し、24日に退院した70代の男性会社員が、9月1日に死亡。神奈川剖検センターの依頼によりPCR検査を実施したところ、陽性が判明したというのだ。一回目の陽性判定から物故まで19日間、退院からだと8日間に過ぎないので再感染というよりは再燃のように感じられるし、そもそも、発症・陽性判定から一定日数が経ち症状が軽快していれば陰性確認なしで退院できるようなので、退院時点では未だウイルスが残っていた可能性もあるのではないか。もしそうだとすると、別の問題が生じる。PCR検査なしで退院させたり、陽性だったが発症から所定の日数が経っていることを理由に入院も自粛も不要と判断したりしていることを再検討すべきなのかもしれない。
いずれにせよ、もっと詳しい情報が欲しいところだ。一例だけだと関係者の風評被害やプライバシーの問題が生じるが、似たような症例を複数、見つけてきて分析・報告する方法ならリスクを抑制できるだろう。保健所や自治体の壁を越えて情報を収集・分析できる立場の人がいるなら、是非、やってもらいたい。
リンク: Tillettらの症例報告原稿(Preprints with The Lancetサイト)
リンク: 横須賀市の報道発表資料
【新薬開発】
バフセオは非透析期CKDの心血管アウトカム試験がフェール
(2020年9月3日発表)
アケビア・セラピューティクス(Nasdaq:AKBA)は、HIF-PF(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤AKB-6548(vadadustat)のPRO2TECT(2は下付き)試験二本の結果を発表した。非透析期慢性腎疾患の成人の貧血を治療したところ、薬効は実薬群と非劣性であることが確認されたが、心血管アウトカムは非劣性ではなかった。透析期患者を組入れた試験二本はどちらの評価項目も成功しており、同社は21年に米国で承認申請する予定。欧州でも開発販売権を持つ大塚製薬が承認申請の準備を進める。尚、日本は三菱製薬が権利を持っており、今年6月に保存期・透析期の腎性貧血症の治療薬バフセオとして承認された。
今回の第三相試験は、矯正試験は治療を受けていない患者1751人を、スイッチ試験は赤血球生成因子による治療を受けている患者1725人を、vadadustat群(300mg一日一回経口投与で開始、150~600mgの範囲で滴定)またはdarbepoetin alfaに無作為化割付して、治療効果(第24~36週のヘモグロビン値)が非劣性であることをオープン・レーベルで確認するとともに、二本のプール分析で主要有害心血管イベント(MACE)のリスクが非劣性であることを独立盲検で検証した。
結果は、治療効果の差は矯正試験が0.05 g/dL(95%下限は-0.04 g/dL)、スイッチ試験は-0.01 g/dL(同-0.09 g/dL)となり、95%下限が非劣性マージン(-0.75 g/dL)を上回ったため目的を達成した。一方、MACE(全死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れかが発生するまでの期間)はハザードレシオが1.17(95%上限は1.36)となり、FDA基準による非劣性マージン(95%上限が1.25)を上回ったため、フェールした。
透析期患者を組入れた第三相INNO2VATE(2は下付き)試験二本では、治療効果の差は今回より少し大きかったが二本とも非劣性達成。二本合計3923人のMACE解析はハザードレシオ0.96(95%上限は1.11)で、非劣性達成した。
MACEの結果が食い違った理由は明らかではなく、学会などで詳細発表を待ちたい。もし4本の事後的プール分析で95%上限が1.25を下回るようなら、トランプ政権下のFDAは緩くなっているので、政権交代しない限り、承認される可能性があるだろう。但し、他社のHIF-PF阻害剤とのシェア争いでは不利になりそうだ。アケビアの株価が大きく下落したのも無理はない。
リンク: アケビアのプレスリリース
ESC:フォシーガは糖尿病患者以外の慢性腎疾患にも有益
(2020年8月30日発表)
アストラゼネカは、SGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)を慢性腎疾患の治療に用いるアウトカム試験の結果をESC欧州心臓学会バーチャル・ミーティングで公表した。合併症リスクを39%抑制する良好な内容だった。
このDAPA-CKD試験は、ステージ2-4の慢性腎疾患で尿中アルブミン/クレアチニン比が200~5000 mg/gの患者4304人を日本を含む21ヶ国の医療施設で組入れて、標準療法にFarxiga(10mgを一日一回服用)を追加する群と偽薬追加群の転帰を比較した。主評価項目はeGFR持続的半減、末期腎疾患、心血管死、腎臓疾患死の何れかの発現。今年3月に独立データ監視委員会がルーチンの薬効安全性評価に基づいて中止勧告したことが公表済み。
主評価項目のハザードレシオは0.61、p<0.0001と高度に有意だった。二型糖尿病患者(被験者の3/4)のサブグループ分析では0.64、それ以外では0.50で、どちらも95%上限は0.8以下だった。発現率の絶対差(絶対リスク削減率)はメジアン2.4年間の追跡で5.3%と大きかった。構成項目別では、eGFR持続的半減はハザードレシオ0.53、末期腎疾患は0.64で何れもpは0.001を下回った。心血管死は0.81だがp=0.2、腎死亡は偽薬群6例に対して試験薬群2例と大きな差があったが少なすぎて統計検定は行われなかった。
全死亡のハザードレシオは0.69、p=0.0035で有意な差があった。内訳は偽薬群は146人死亡のうち心血管死は80人、腎臓死6人、その他60人。一方、試験薬群は死亡101人(差は45人)、心血管死65人(15人)、腎臓死2人(4人)、その他34人(16人)となっている。標的疾患以外の『その他』の理由による死亡が大きく(半減!)減少しているのは、アストラゼネカのアウトカム試験で時々見られる、興味深い現象だ。
深刻有害事象の発現率は29.5%で偽薬群の33.9%を下回った。糖尿病性ケトアシドーシスは偽薬群2例、試験薬群はゼロだった。
Farxigaは心不全のアウトカム試験でも二型糖尿病か否かを問わず便益を示した。次項のように他社のSGLT2阻害剤も心不全試験が成功しており、クラス全体のステータスが上昇している。
Farxigaはブリストル マイヤーズ スクイブが開発・発売したが、事業領域をプライマリーケアから癌や免疫性疾患、ウイルス学のような専門薬にシフトする戦術転換の過程で、代謝性疾患領域の提携先であったアストラゼネカに事業売却した。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: メディア向けデジタル・プレスリリース(学会発表スライドのリンクあり)
ESC:ジャディアンスも心不全アウトカム試験が成功
(2020年8月29日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心不全アウトカム試験の結果をESCとNew England Journal of Medicine誌で発表した。ハザードレシオ0.75、糖尿病患者にもそれ以外にも有効だった。
このEMPEROR-Reduced試験は、NYHA II-IVの駆出率低下型心不全(HFrEF:駆出率40%未満)患者3730人を偽薬群とJardiance群(10mg一日一回服用)に無作為化割付して心血管死・心不全入院のリスクを比較したもの。メジアン16ヶ月追跡時点の発生率は各群24.7%と19.4%となり、ハザードレシオ0.75、p<0.001だった。糖尿病サブグループでは0.72、それ以外では0.78だった。
アウトカム試験は標準療法に試験薬を追加するが、心不全の治療ではガイドラインが推奨する薬の一部しか使わないことも珍しくない。しかし、本試験では、Faxiga(dapagliflozin)のDAPA-HF試験と比べてもノバルティスのEntrestoの使用率が高く、ベスト・プラクティスに対しても上乗せ効果があることを示した。
駆出率保持型心不全(HFpEF)を組入れたEMPEROR-Preserved試験も進行中で21年に結果が判明する見込み。HFpEFのアウトカム試験は中々成功しないので期待値は高くないだろう。
リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Packerらの治験論文(NEJM)
JNJ、新作用機序インフルエンザ薬の開発を中止
(2020年9月2日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、A型インフルエンザで第三相段階のJNJ-63623872(pimodivir)の開発を中止すると発表した。入院患者を組入れた標準療法アドオン試験の中間解析で無益認定されたため。外来治療試験も中止する。
A型インフルエンザ・ウイルスのプロテアーゼ阻害剤。14年にバーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)からVX-787をライセンスしたもの。
リンク: JNJのプレスリリース
【承認申請】
ギリアド、CAR-Tを濾胞性、辺縁帯リンパ腫に適応拡大申請
(2020年9月4日発表)
ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Yescarta(axicabtagene ciloleucel)を難治・再発濾胞性リンパ腫や辺縁帯リンパ腫の三次治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。
第2相のZUMA-5試験に基づくもの。データは今後、学会発表の予定だが、6月のASCOで発表された中間解析では、評価可能96例のORR(客観的反応率)が93%だった。完全反応率は80%で、うち濾胞性80人では81%、辺縁帯16例では75%だった。G3以上の有害事象はサイトカイン放出症候群が8%で、神経学的有害事象が17%で、発生。致死的有害事象は2人で、うちサイトカイン放出症候群による死亡は治療関連と報告された。
リンク: ギリアドのプレスリリース
【承認】
トルリシティの高用量が承認
(2020年9月3日発表)
イーライリリーは、Trulicity(dulaglutide、和名トルリシティ)の高量投与がFDAに承認されたと発表した。二型糖尿病を治療する週一回投与型GLP-1作用剤で、14年に初承認された時の用量は0.75mgと1.5mgだったが、新たに、3.0mgと4.5mgが承認された。EUでも承認審査中。
根拠となった第3相AWARD-11試験では、36週間の治療で3.0mg群と4.5mg群のHbA1c(ベースラインは8.6%)が各1.7%と1.9%低下し、どちらも1.5mg群の1.5%低下を有意に上回った。体重(ベースラインは95.9kg)も各4.0kgと4.7kg減少し、1.5mg群(3.1kg減)比有意な差があった。
リンク: 同社のプレスリリース
FDA、経口アザシチジンを承認
(2020年9月1日発表)
FDAは、BMSの子会社であるセルジーンのOnureg(azacitidine)を承認した。急性骨髄性白血病で最初の寛解導入療法に完全寛解(血球回復が不十分なケースも含む)した患者の維持療法に用いる。第3相試験では、300mgを一日一回、14日服用して14日休むスケジュールで投与したところ、メジアン生存期間が24.7ヶ月と偽薬群の14.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。有害事象による治験離脱は各13%と4%。G3以上の有害事象は骨髄抑制とその合併症など。
多発骨髄腫用薬Vidazaの活性成分を経口投与できるようにしたもの。多発骨髄腫の臨床試験も行われたが、死亡や深刻有害事象が増加したため途中で打ち切られた。Vidazaなどの静注用製剤や皮注用とは薬物動態が大きく異なるため、Onuregで代替してはいけない。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース
FDA、週一回投与型成長ホルモンを承認
(2020年9月1日発表)
FDAは、ノボ ノルディスクのSogroya(somapacitan)を成長ホルモン分泌不全症の成人に承認した。同社がインスリンやGLP-1作用剤に応用している、脂肪酸を付加して血中のアルブミンに結合させることによって血中半減期を延長する技術を用いて、皮注頻度を従来の一日一回から週一回に軽減した。頭蓋内高血圧を誘導・悪化させる可能性があるので、治療開始前に兆候である視神経乳頭浮腫の有無をチェックする。
薬効のエビデンスは、成長ホルモンが制御する体幹脂肪。34週間の投与で1.06%減少した。偽薬群は0.47%増加、一日一回投与製剤群は2.23%減少した。
日本や欧州でも承認審査中。
リンク: FDAのプレスリリース
【医薬品の安全性】
PRAC、子宮筋腫治療薬ウリプリスタルの承認取消を勧告
(2020年9月4日発表)
EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品安全性監視リスク評価委員会(PRAC)は、Gedeon RichterのEsmya(ulipristal acetate)とそのGE品の承認を取消すよう勧告した。CHMPの追認を経て正式に決定する。同じ活性成分の事後的避妊薬、ellaとそのGE品は対象外。
Esmyaは12年にEUで中重度子宮筋腫の治療薬として承認された、選択的プロゲスチン受容体調節剤。摘出術を施行するまでの繋ぎとして最長で3ヶ月間に亘り、5mg錠を一日一回服用する。15年には間歇的にもっと長い期間服用することも承認された。しかし、市販後に数例の深刻肝障害・肝移植が報告されたことから、PRACが17年に再検討を開始、18年以降、段階的に規制を強化、今年3月に承認を停止した。尚、深刻肝障害の頻度は10万人に一人程度のようである。
他国の状況を見ると、米国では17年にアラガンが申請したが肝毒性懸念から承認されなかった。日本はあすか製薬が19年12月に承認申請した。
リンク: EMAのプレスリリース
今週は以上です。
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