【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの臨床試験を一時中断
- アストラゼネカもIL-5標的薬の鼻ポリープ慢性副鼻腔炎試験が成功
- 進行性家族性肝内胆汁鬱滞症の第三相が成功
- MSD、難治性慢性咳嗽の第三相が成功
- MSD、15価肺炎球菌ワクチンの第3相が成功
- オラペネム誘導体の第3相が成功
- lenabasumの全身性強皮症試験がフェール
- ダラザレックスをALアミロイドーシスに適応拡大申請
- テリルジーが米国で喘息症に適応拡大
- FDA、ブループリント/ロシュのRET阻害剤を承認
- FDA:テセントリクを乳癌に使う時はアルブミン結合のパクリタキセルを使うべし
【今週の話題】
COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの臨床試験を一時中断
(2020年9月9日発表)
アストラゼネカは、オックスフォード大学由来のCOVID-19ワクチン、AZD1222について、英国の第三相で説明不能な疾患が一例発生したため標準的なリビュー手続きを開始したことを明らかにした。同社や治験医から独立した委員会が検討するまで接種を中断する。
この疾患についてNY Timesは横断性脊髄炎(TM)と報じている。脊髄の一部分が横方向にわたって炎症を起こし、神経線維の『被膜』であるミエリンが損傷、軽く触れただけで激痛が起きたり、手足で筋肉衰弱や知覚異常が発現したり、麻痺や排尿排便障害を被ったりする疾患だ。米国では一年間に1000人以上が新規発症し、1/3は回復するが1/3では重い障害が残ると言われている。原因は不明だが、ウイルス性疾患やワクチンとの関連を疑う人もいる。
AZD1222の臨床試験は以前にも一例、神経学的疾患が報告され中断されたが、独立委員会が実は多発性硬化症であることを発見、再開された。今回も、TMの診断すら確定していない段階のようなので、ワクチンとの関連性が否定されるようなら治験再開となるだろう。一方、もし特定できなかった場合、実用化に大きく差し障るだろう。
TMの上位分類である急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は様々なワクチンに関連して報告されているが、頻度は数十万人に一人程度であり、因果関係は確立していない。ワクチンや薬と副作用の因果関係を立証するのは容易ではないため、一般的には、発生頻度を統計学的に分析することで推測するが、数十万人に一人程度の差を検出するためには桁違いに多くの症例を追跡する必要があり、現実的ではない。また、この程度の頻度ならそれがリアルである可能性が否定できなくても許容される、と受け止めることもできるだろう。
しかし、AZD1222の場合はTMの発現頻度が3万人に一人と桁違いに大きい。COVID-19ワクチンの需要がどの程度なのか、不透明なところがあるが、インフルエンザワクチンと同程度と考えると日本だけで4000万人規模になり、単純計算すると、1000人以上がTMを罹患し、300人程度が自立の妨げになるような後遺症を被ることになる。インフルエンザワクチンでも深刻な後遺症が発現することがあり、日本では例年、パネルに関連性を検討させているが、対象となるのは数例だ。これと比べても300人は多い。
一部報道によると、幸い、TMを発症した女性は回復し、退院が近いようだ。STAT Newsが最初に報道したのは9月8日だが、翌日のアストラゼネカの株価は前日終値比2%程度下げて始まったものの終値は1%程度の値上がりだった。アストラゼネカのCEOがまだ本年中に承認される可能性があると語っていることもあり、少なくとも株式市場は、悲観するのはまだ早いと冷静に受け止めているようだ。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
【新薬開発】
アストラゼネカもIL-5標的薬の鼻ポリープ慢性副鼻腔炎試験が成功
(2020年9月10日発表)
アストラゼネカは、第三相OSTRO試験が成功したと発表した。鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)でステロイドや手術で十分に改善しない患者にFasenra(benralizumab、和名ファセンラ)を40週間投与したところ、内視鏡による鼻ポリープ評価と患者自身の鼻詰まり症状評価が偽薬比有意に改善した。
Fasenraは協和キリンからライセンスした抗IL-5受容体アルファ鎖ポテリジェント抗体。重度好酸球性喘息症の維持療法薬として日米欧で承認されている。
CRSwNPはリジェネロン/サノフィの抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)が19~20年に日米欧で適応拡大。Fasenraの直接のライバルであるグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)も第三相が成功、既に適応拡大申請した可能性がある。アストラゼネカも申請するだろう。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
進行性家族性肝内胆汁鬱滞症の第三相が成功
(2020年9月8日発表)
Albireo Pharma(Nasdaq:ALBO)は、A-4250(odevixibat)の第三相進行性家族性管内胆汁鬱滞症(PFIC)試験が成功したと発表した。FDAが推奨する主評価項目である掻痒好転奏効率は53.5%、偽薬群は28.7%でp=0.004。EMAが推奨する主評価項目の血清胆汁酸抑制奏効率は各33.3%とゼロでp=0.003だった。試験薬関連深刻有害事象は発生せず、下痢や頻繁な腸活動の発現率は各9.5%と5.0%で、それほど多くはない。21年前半までに欧米で承認申請する考え。
Albireoは08年にアストラゼネカからスピンアウトした新薬開発会社で、EAファーマが持田製薬と日本で共同開発販売している慢性便秘治療薬グーフィス(エロビキシバット水和物)のライセンス元。グーフィスと同様にA-4250もIBAT阻害剤で、胆汁酸が回腸でトランスポーターに運ばれ肝臓に戻るのを妨げる。PFICは胆汁酸のホメオスタシスに係るATP8B1遺伝子や胆汁酸塩輸出ポンプのABCB11遺伝子などに変異があり、胆汁酸が肝臓に滞留する。典型的な症状は掻痒だが、10歳までに肝硬変や肝不全を合併するリスクがある。
A-4250は葛西手術による治療を受けた胆道閉鎖症患者の第三相試験も進行中。年内にアラジール症候群の第三相も始める予定。
リンク: Albireoのプレスリリース
MSD、難治性慢性咳嗽の第三相が成功
(2020年9月8日発表)
MSDは、MK-7264(gefapixant)の第三相難治性慢性咳嗽試験二本で高用量群(45mg一日二回経口投与)が成功したと発表した。咳の頻度がベースライン時点の約18回/時から7回に減少、偽薬比相対リスク削減率は12週間の試験が18.45%(p=0.041)、24週間の試験では14.64%(p=0.031)だった。一方、低用量群(15mg一日二回)は二本ともフェールした。
MK-7264はP2X3受容体アンタゴニスト。知覚神経線維の過剰感作を防ぐ。代表的な副作用は味覚関連有害事象で、薬効と同様に用量依存している。POC試験では600mg群で咳頻度が偽薬比75%減少したが、24人全員で味覚関連有害事象が発現し、6人が治験を離脱した。第三相でも偽薬群の発現率は一桁、低用量群は10~20%であったのに対して、高用量群は60%前後と多かった。咳より味覚異常のほうが我慢しやすいのではないかとも思われるが、高用量群の有害事象治験離脱率は一本が15%、もう一本は20%と、後期第二相試験の50mg一日二回投与群の数値から改善しなかった。
09年にロシュからスピンアウトしたAfferent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。類薬では塩野義製薬がS-600918で第二相試験中。
リンク: MSDのプレスリリース
MSD、15価肺炎球菌ワクチンの第3相が成功
(2020年9月9日発表)
MSDは、V114の第3相PNEU-AGE試験が成功したと発表した。PNEU-WAY試験も成功しており、年内に承認申請に向かう予定。
V114は、肺炎球菌ワクチンのベストセラーであるファイザーのPrevnar 13より二つ多い、15血清型をカバーしていることが特徴。PNEU-AGE試験では50歳以上に接種したところ、V114独自の22F型と33F型に対する抗体価がPrevnar 13を有意に上回った。共通する13型に関する非劣性検定も成功し、3型に関しては優越性も達成した。安全性は同程度とのこと。
ファイザーはさらに上回る20価肺炎球菌ワクチンを開発中で、こちらも年内に承認申請予定。乳児の第三相も開始された。カバレッジは多い方が良いだろうから、共通する血清型に対する免疫原性や安全性が同程度なら、この20vPnC(PF-06482077)のほうが成功するのではないか。
リンク: MSDのプレスリリース
オラペネム誘導体の第3相が成功
(2020年9月8日発表)
米国マサチューセッツ州の新薬開発会社、Spero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)は、SPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)の第三相複雑性尿路感染症(cUTI)試験が成功したと発表した。Meiji Seika ファルマがワイスからライセンスして日本で商品化したオラペネム(tebipenem pivoxil)の新製剤で、オラペネムの臨床試験や市販後監視のデータと合わせて21年第2四半期に米国でローリング承認申請を完了する計画。
この第3相はcUTIと腎盂腎炎の患者約1370人をSPR994群(600mgを一日3回、経口投与)とertapenem群(1gを一日一回静注)に無作為化割付した二重盲検試験。臨床的治癒と細菌学的駆除の複合奏効率が各群58.8%と61.6%となり、群間差は-3.3%、95%下限は-9.7%となったため非劣性解析が成功した。尚、非劣性マージンはCOVID-19流行の影響を危惧して盲検解除前に当初計画の-10.0%から-12.5%に緩められた経緯があるが、結果的に、当初の閾値もクリアできた。
深刻な治療時発現有害事象は1.3%対1.7%で大差なく、試験薬群の死亡例はなかった。
薬剤耐性菌と戦う上でカルバペネム系抗生剤は重要な武器だが、静注/筋注のために入院したり毎日通院したりしなければならず、初めての経口剤であるSPR994の存在価値は大きい。尚、オラペネムは米国では承認・販売されていない。
リンク: Spero社のプレスリリース
lenabasumの全身性強皮症試験がフェール
(2020年9月8日発表)
Corbus Pharmaceuticals(Nasdaq:CRBP)はlenabasumの第三相びまん皮膚硬化型全身性強皮症(SSc)試験がフェールしたと発表した。日本を含む世界の医療施設で365人を組入れて、ACR CRISSスコアの改善度合いを偽薬と比較したが、大差なかった。
全身性強皮症の治療では免疫抑制剤のオフレーベル使用が増えている模様で、本試験では84%が使用していた。会社側は、その影響で偽薬群の治療成績が向上し試験薬による上乗せ効果が逓減したと考えているようだ。
lenabasumは経口2型カンナビノイド受容体アゴニスト。炎症を抑制し細菌の除去を促進する内在的パスウェイを活性化すると考えられている。日本は科研製薬が19年に開発販売権を取得した。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
ダラザレックスをALアミロイドーシスに適応拡大申請
(2020年9月10日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Darzalex Faspro(daratumumabとhyaluronidase-fihj)を新患ALアミロイドーシスの治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。リアル・タイム・オンコロジー・リビューの対象となったので早期承認もありうるだろう。
Darzalex Fasproは静注用の抗CD38抗体Darzalex(和名ダラザレックス)の活性成分とヒアルロン酸分解酵素を併用することで皮注できるようにしたもの。20年に欧米で多発骨髄腫用薬として承認された。ALアミロイドーシスは免疫グロブリンの軽鎖由来のアミロイドが蓄積、臓器に損傷を与える。臨床試験ではVelcade(bortezomib)、cyclophosphamid、dexamethasoneを併用するVCdレジメンに更にDarzalexを追加したところ、血液学的完全反応率が53%とVCdレジメン群の18%を上回った。臓器が増悪したり死亡したりするリスクも42%小さかった。
リンク: JNJのプレスリリース
【承認】
テリルジーが米国で喘息症に適応拡大
(2020年9月9日発表)
グラクソ・スミスクラインとInnoviva(Nasdaq:INVA)は、Trelegy Ellipta(和名テリルジー エリプタ)を18歳以上の喘息症に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。両社で共同開発した、fluticasone furoate(吸入用ステロイド)、umeclidinium(長期作用性ムスカリン阻害剤)、vilanterol(長期作用性ベータ2作用剤)の吸入用薬で、COPD治療薬として日米欧で承認されている。
第三相試験で三剤のうちumeclidiniumを含まない二剤合剤であるBreoより一秒量が約0.1リットル大きかった。
リンク: GSKのプレスリリース
FDA、ブループリント/ロシュのRET阻害剤を承認
(2020年9月8日発表)
FDAは、Gavreto(pralsetinib)をRET融合陽性の転移非小細胞性肺癌用薬として加速承認した。第1/2相試験では、白金薬治療歴を持つ87人に対するORR(客観的反応率)が57%、反応した患者の80%は6ヶ月以上持続した。一方、初めて治療を受けた27人ではORR70%、反応者の58%は6ヶ月以上持続した。
同日にLife TechnologiesのOncomine Dx Targetもコンパニオン診断薬として承認された。
GavretoはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)がロシュと共同開発・商業化している高度選択的高力価RET阻害剤。米国ではジェネンテックと共同販売、米国外では中国を除きロシュが単独販売する。EUでも承認申請中。
米国ではRET変異陽性の進行/転移甲状腺髄様腫とRET融合陽性甲状腺癌にも申請中で、優先審査及びリアル・タイム・オンコロジー・リビューの対象なので、審査期限は来年2月28日だが前倒し承認される可能性がある。
RET融合陽性は非小細胞性肺癌の1~2%で決して多くはない。類薬ではイーライリリーが子会社化したLoxo OncologyのRetevmo(selpercatinib)が上記三適応症で今年5月に加速承認されている。RET融合陽性転移非小細胞性肺癌の単群試験では、白金歴を持つ105人ではORRが64%、初治療39人では84%だった。単群試験のデータを比較するのは難しいが、効果は概ね同程度に見える。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(8/7付)
【医薬品の安全性】
FDA:テセントリクを乳癌に使う時はアルブミン結合のパクリタキセルを使うべし
(2020年9月8日発表)
FDAはロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1陽性トリプルネガティブ乳癌に用いる時は通常のpaclitaxelではなくnab-paclitaxel(Abraxane)と併用するようアラートを発した。第三相試験で死亡リスクが高まる懸念が生じたため。
Tecentriqは日米欧で切除不能局所進行性/転移性のPD-L1陽性トリプル・ネガティブ乳癌にnab-paclitaxelと併用することが承認されている。IMpassion130試験でPFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とnab-paclitaxel・偽薬併用群の4.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60、95%信頼区間は0.48-0.77だった(米国のレーベルより)。
全生存期間も各25ヶ月、15.5ヶ月、ハザードレシオ0.62と良好なものだった(18年のESMOでの発表より)。しかし、上位解析(PD-L1陽性ではない患者も含むintent-to-treatベース)がフェールしたため、統計的に有意とは言えない。
今回のアラートは、ロシュが8月に公表した、IMpassion131試験のフェールを受けたもの。paclitaxelとTecentriqを併用する群は、主評価項目であるPD-L1陽性サブグループにおけるPFSがpaclitaxel・偽薬併用群と有意な差がなかった。全生存期間は未だ中間段階だがPD-L1陽性サブグループでもintent-to-treatでも数値上、下回った。この試験は全生存期間に関しては検出力不足であり、最終解析でも有意に悪いという答えは出ないかもしれない。
IMpassion131試験の結果が学会・論文発表された段階で、二本の試験の結果が食い違った理由も議論されるだろう。抗PD-1/PD-L1抗体を開発・販売している他社はタキサンを併用する場合はpaclitaxelを併用することが多いが、ロシュはnab-paclitaxelを選択することが多い。paclitaxelは溶剤に過敏反応を起こす患者がいるためステロイドやH2ブロッカーでプリトリートする必要があり、免疫強化療法であるTecentriqの薬効を減衰させるリスクがあるからだ。IMpassion131試験や、他社の乳癌試験がフェールした事実は、ロシュの懸念が正しかった可能性を示唆している。
リンク: FDAのアラート
今週は以上です。
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