2020年6月26日

第952回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:英国のデキサメタゾン試験の論文原稿が公開 
  • バベンチオをEUでも尿路上皮癌の一次治療後維持療法として適応拡大申請 
  • レルミナを米国で前立腺癌に承認申請 
  • フォスフォマイシンのNDAは審査完了 
  • FDA、フェンフルラミンをドラベ症候群治療薬として承認 
  • FDA、キイトルーダを皮膚扁平上皮癌に適応拡大 
  • FDA、Xpovioをびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:英国のデキサメタゾン試験の論文原稿が公開
(2020年6月22日発表)

医学誌などで刊行される前の論文原稿のレジストリーであるmedRxivに、RECOVERY試験の低量dexamethasone(DEX)群に関する治験論文原稿が登録・公開された。6月16日付のプレスリリースから一部の数値が変更されており、今後も変わる可能性があるが、重要なエビデンスになり得る試験なので主要指標をチェックしてみよう。

RECOVERY試験はCOVID-19に感染し英国の医療施設に入院した患者をDEX群と通常医療群に無作為化割付して、救命効果をオープンレーベルで比較した。RECOVERY試験はアダプティブ・デザインで有望な候補薬が登場したら追加設定できるようになっており、DEX群以外にhydroxychloroquine(HCQ)群、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)群、azithromycin群などが設定されたが、HCQは中間解析で効果が認められなかっため中止。DEXは成功したため、今後は、酸素投与・呼吸補助が必要に関してはDEXを全員に投与した上で試験薬を追加するプロトコルに変わるのではないか。

DEX試験の結果を改めて吟味すると、まず、患者背景は、平均年齢66歳、女性は36%、持病は糖尿病(被験者の24%)、心臓疾患(27%)、慢性肺疾患(21%)など。SARS-CoV-2検査で陰性(10%)・不明(9%)の患者もいた。

介入方法は、DEX群は6mgを経口又は静注で一日一回、10日間を上限に、投与した。実際にDEXを投与した患者の比率はDEX群が95%、通常医療群は7%だった。azithromycinは両群とも23~24%が使用。RECOVERY試験は重症化した患者を組入れて抗IL-6受容体抗体の効果を検討するサブスタディも設定されているが、DEX群とその対照群に関しては1~2%の患者しか使わなかった。

主評価項目は28日全死亡。転帰不明例(4.8%)については、生存退院した後に死亡したという情報がない限り、28日生存と推定した。

結果は、DEX群の28日全死亡率は21.6%、通常医療群は24.6%となった。DEX群のほうが平均年齢が1歳高いことを調整したレート比は0.83(95%信頼区間0.74-0.92)、p<0.001となった。但し、事前に計画されていた無作為化割付時の重症度に基づくサブグループ分析では異質性検定p値が有意だった。具体的には、人工呼吸器装着例(被験者の15%)では28日全死亡率が29.0%対40.7%、レート比0.65(95%信頼区間0.51~0.82)、p<0.001となったが、酸素投与のみ(61%)では各21.5%、25.0%、0.80(0.70~0.92)、0.002と治療効果が若干低下し、どちらも不要な患者(24%)では17.0%、13.2%、1.22(0.93~1.61)、0.14と数値上は悪かった。

発症から無作為化割付までの期間が7日以上の患者の死亡リスクは削減したが、未満では効果がなかった(傾向性検定p<0.001)。インプリケーションは不明。7日以上の患者は人工呼吸器装着比率が高かったため、交絡した可能性があるからだ。

二次的評価項目では、メジアン入院期間は12日と13日でレート比1.11、統計的に有意だった。

治験論文原稿を読んで意外だったのは、まず、転帰不明例が多いこと。非常事態なのでやむを得ないのだろうが、もし両群の転帰不明率が同程度で、真実はDEX群は全員が死亡、通常医療群は全員生存だったとすると、全ユニバースの死亡率の差3%は吹っ飛んでしまう。尤も、全死亡という評価項目は死亡届をチェックすれば検証できるので、真実を見誤るリスクは小さいのだろうが。

一番の懸念は、酸素投与も呼吸補助も不要な患者で死亡リスクが高まる可能性が浮上したこと。統計的に有意ではないが、信頼区間は望ましくない方に大きく張り出しており、Number-needed to-harmは推定26で、もし真実なら、影響は大きい。

第951回で書いたように、免疫抑制剤は免疫機構の暴走を諫める便益だけでなくウイルスが活発化する危険もあるかもしれないので、臨床検査値に基づいて最適な患者を事前スクリーニングする余地はないのか、あるいは、安全性面を考慮すると選択的な免疫抑制剤のほうが好ましいのではないか、等々、研究課題はまだまだ山積みで残っている。

さて、今回、サブグループ分析のデータが明らかになったので、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir、レムデシビル/JAN)のACTT-1試験結果と見比べてみよう。どちらの試験でも重症度に基づくサブグループ分析が一貫していないので、比較も重症度毎に行う方が良さそうに思われる。但し、両試験は重症度の分類も評価項目も異なり、また、サブグループ分析は本解析より信頼性が劣ることは留意したい。

ACTT-1の主評価項目は退院または感染管理目的で引き続き入院しているが医療は不要となるまでの期間。メジアン11日と偽薬群の15日より早かった。組入れ数が約1,000人と少なく中間解析で成功認定され追跡期間も短縮化されたせいか全死亡では有意差が出なかったが、ハザードレシオは0.70(95%信頼区間0.47-1.04)、14日時点での死亡率(カプラン・マイヤー推定)は7.1%と偽薬群の11.9%比4ポイント以上の差と、見栄えがする。EMA(欧州医薬品庁)によると全生存の最終解析結果が8月までに提出される見込みなので、やがて一般公開されるだろう。

DEXは、上記のように、酸素投与または人工呼吸器/ECMO装着患者で救命効果が見られた。一方、Vekluryは、ベースライン時点の重症度スケールが4(酸素投与不要)だった患者は14日死亡ハザードレシオが0.46だったが、5(酸素投与)では0.22、6(非侵襲的呼吸補助/ハイフロー酸素供給)は1.12、7(人工呼吸器/ECMO)は1.06となっている。

但し、Vekluryのデータは統計的に有意ではなく、また、主評価項目である入院期間と必ずしも符合していない。『軽中等症』の患者における入院期間は両群ともメジアン5日間、レート比1.09で有意差がなかった。EUのCHMPはVekluryを条件付き承認するよう肯定的意見をまとめたが、このデータに基づき、対象を酸素・呼吸補助を必要とする患者に限定した。尤も、上記のように、重症度スケール4という括りだとレート比1.38と、対象はかなりオーバーラップしているはずなのに入院期間の解析結果が食い違っており、変である。

スケール6と7は入院期間で見ても死亡リスクでも、効果が感じられない。日本の添付文書には『現時点では原則として、酸素飽和度94%(室内気)以下、又は酸素吸入を要する、又は体外式膜型人工肺(ECMO)導入、又は侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者を対象に投与を行うこと』と記されているが、人工呼吸器/ECMO導入患者に関するエビデンスは薄弱なのである。CHMPは適応外にはしなかったものの、入院期間が大差なかったことをプレスリリースで明記している。

定性的にまとめると、DEXは呼吸不全が重い患者に適し、酸素投与すら不要な患者には却って有害かもしれない。Vekluryは酸素投与例におけるエビデンスははっきりしている一方で、不要な患者やハイフロー酸素や呼吸補助が必要なほど悪化した患者に対する効果は明確でない。

Vekluryに続いてDEXの臨床試験も成功し、今後は偽薬対照試験ではなく活性薬対照試験、またはこれらの薬を服用している患者にアドオンする試験が主流になると推測される。前者の場合、ベンチマークとなる薬の特性を明確にしておくことが著しく重要だ。例えば、Veklury対照試験を行って効果が非劣性であった場合、試験薬は効果があると言えるのか、言えないのか?対象が酸素投与患者なら言えるかもしれないが、人工呼吸器/ECMO装着患者なら、現状では、非劣性では足りず有意に上回らないとダメだろう。

リンク: Horbyらの治験論文原稿(medRxiv)
リンク: CHMPのプレスリリース(6/25付)


【承認申請】


バベンチオをEUでも尿路上皮癌の一次治療後維持療法として適応拡大申請
(2020年6月22日発表)

ドイツのメルクと米国のファイザーは、抗PD-L1抗体Bavencio(avelumab、和名バベンチオ)を局所進行性/転移性尿路上皮癌の一次治療後維持療法としてEUで承認申請し受理されたと発表した。米国では4月に、日本でも5月に、申請している。

第三相のJAVELIN Bladder 100に基づくもので、cisplatinまたはcarboplatinとgemcitabineによる一次治療を受けて癌が進行しなかった患者に10mg/kgを2週毎点滴静注したところ、中間解析でメジアン生存期間が21.4ヶ月と維持療法を施行しなかった群の14.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.69、p=0.0005だった。被験者の51%に相当するPD-L1陽性例ではメジアン生存期間は未達対17.1ヶ月、ハザードレシオ0.56、p=0.0003だった。G3以上の有害事象発現率は47.4%対25.2%だった。

リンク: 両社のプレスリリース

レルミナを米国で前立腺癌に承認申請
(2020年6月22日発表)

Myovant Sciences(NYSE:MYOV)は、MVT-602(relugolix)を米国で進行前立腺癌に承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月20日。承認されれば、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アンタゴニストの経口剤は初になる。

Myovantはヘッジファンド出身のVivek Ramaswamyが創設したRoivant Sciencesの子会社だったが、大日本住友製薬がRoivantとの資本業務提携を通じて傘下子会社に出資、Myovantは大日本の子会社となった。

relugolixは武田薬品がオリジンで、日本で19年に子宮筋腫治療薬として承認された。海外では子宮筋腫・子宮内膜症用途向けはGnRHアンタゴニストの副作用である骨塩密度低下やホットフラッシュをエストロゲンとプロゲスチンを併用することで緩和する、低量ホルモン・アドバック・セラピー用の合剤を開発。子宮筋腫による出血過剰治療薬として3月にEUで、5月には米国でも承認申請した。子宮内膜症も今回、二本目の第三相試験が成功したので、承認申請されるだろう。

子宮筋腫・子宮内膜症はrelugolixを40mg配合しているが、前立腺癌は120mg(初日は360g)を一日一回、経口投与する。日本の医療施設も参加したアンドロゲン感受性進行前立腺癌の第三相試験では、テストステロン抑制奏効率が96.7%となり、leuprolide acetateデポ製剤を3ヶ月毎に皮注・筋注した群の88.8%と比べて非劣性だった。有害事象による治験離脱率は3.5%対2.6%、MACE(主要有害心臓イベント:全死亡、卒中、または心筋梗塞)発現率は2.9%対6.2%だった。

リンク: Myovantのプレスリリース(前立腺癌承認申請受理について)
リンク: 同(内膜症第三相成功について、6/23付)


【承認審査・委員会】


フォスフォマイシンのNDAは審査完了
(2020年6月19日発表)

Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)はContepo(fosfomycin)を腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症の治療薬としてFDAに再承認申請していたが、審査完了通知を受領した。昨年4月の審査完了通知と同様に、欧州の受託生産会社における品質管理問題が原因の模様で、渡航制限によりFDAが現地査察に行けないことが障壁のようだ。

Contepoは欧州で半世紀近い歴史を持つfosfomycinの新製剤で、同社が買収したZavanteの技術を用いて薬力学や薬物動態を最適化した。QIDP(感染症薬製品認定:承認時に優先審査バウチャーを貰えるなどのメリットがある)やファーストトラック指定(開発・承認をスピードアップするためFDAが支援する)を受けている。

リンク: Nabrivaのプレスリリース


【承認】


FDA、フェンフルラミンをドラベ症候群治療薬として承認
(2020年6月25日発表)

FDAは、Zogenix(Nasdaq:ZGNX)のFintepla(fenfluramine)を2歳以上のドラベ症候群の治療薬として承認した。活性成分は麻薬指定(カテゴリーIV)されていて、弁性心臓疾患や肺動脈高血圧症のリスクがあることから、REMS(リスク評価管理戦略)が導入された。

Zogenixは米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社。fenfluramineは1960年代にフランスで食欲抑制剤として発売され、90年代後半に米国でphentermineと併用するフェンフェン・レジメンが爆発的に流行したが、心弁障害や肺高血圧症のリスクが顕在化。米国でfenfluramineとその光学異性体を販売していたワイスは200億ドルを超える和解金を拠出した。ドラベ症候群での承認は、サリドマイドが多発骨髄腫用薬として復活したことを連想させる。

Finteplaは経口液。0.1 mg/kgを一日二回服用で開始し、効果や忍容性を見ながら滴定していく。

欧州でも承認審査中。日本は日本新薬が独占販売権を取得した。

先日、レノックス・ガストー症候群の第三相成功が発表された。適応拡大申請されることになりそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Zogenixのプレスリリース

FDA、キイトルーダを皮膚扁平上皮癌に適応拡大
(2020年6月24日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を根治手術・放射線療法不適の難治/転移皮膚扁平上皮癌に使う適応拡大を承認した。KeyNote-629試験で105人に投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価、RECIST 1.1基準だが一部調整)が34%、完全反応率は4%、反応持続期間はメジアン未達でレンジは2.7ヶ月から13.1ヶ月以上だった。

皮膚扁平上皮癌ではリジェネロン/サノフィの抗PD-1抗体、Libtayo(REGN2810)も18~19年に欧米で承認されている。どちらもエビデンスは単群試験のORRなので、効果を比較することは難しい。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

FDA、Xpovioをびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大
(2020年6月22日発表)

FDAは、Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)のXpovio(selinexor)を再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の三次治療薬として加速承認した。60mgを毎週第1日と3日に経口投与した後期第二相試験で、ORR(客観的反応率、独立評価委員会がLugano 2014基準で判定、n=134)が29%、完全反応率は13%だった。反応者の38%が6ヶ月以上持続した。46%で感染症などによる深刻有害事象が発生した。

核外輸送蛋白のエクスポーティン1を選択的に阻害して腫瘍抑制蛋白の蓄積を促す経口剤で、昨年7月に再発難治多発骨髄腫の五次治療薬として加速承認されている。EUでも加速承認審査中で、承認後にDLBCLに適応拡大申請するものと推測される。日本は小野薬品がライセンスしたが戦略上の理由で返還することを5月に発表した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Karyopharmのプレスリリース






今週は以上です。

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