2020年6月7日

第949回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:米国の感染死亡者の1/4は老人ホーム入居者 
  • COVID-19:イーライリリー、抗体医薬の臨床試験を開始 
  • COVID-19:レムデシビルの中等症COVID-19試験結果が発表 
  • COVID-19:ヒドロキシクロロキン、介入的試験でCOVID-19に効果を示せず 
  • COVID-19:クロロキンの安全性に関するLancet論文などが撤回 
  • BMS、多発硬化症用薬の潰瘍性大腸炎適応拡大試験が成功 
  • バイエル、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤を日欧で承認申請 
  • FDA、MSDのカルバペネム合剤を院内感染細菌性肺炎に適応拡大 
  • イーライリリー、トルツが米国でnr-axSpAに適応拡大 
  • イーライリリー、サイラムザがEGFR抵抗性変異NSCLCに適応拡大 
  • アストラゼネカ、ブリリンタが高リスク冠動脈疾患の初発予防に承認 


【今週の話題】


COVID-19:米国の感染死亡者の1/4は老人ホーム入居者
(2020年6月2日発表)

COVID-19は欧州や米国、ブラジルなどで大流行しているが、日本などアジアの罹患率は比較的低い。何が違うのかは諸説あり、民意と言われるのはこそばゆいが、PCRの検体は唾液でも良いと言われると、唾が飛びにくくなるのでマスクがやっぱり大事なのかなとも思う。

一つ気になるのは、イタリアやアメリカでは老人介護施設での感染や死亡が多いという報道だ。日本でもクラスターがあったし、公表されていない事例も多いだろうが、日本は特に都市部では入居が順番待ちで、自宅介護を望む老人や家族も多いだろう。集団生活する老人が少なければ乗数的な老人間感染も少なくなるだろうから、それが罹患率や死亡率の違いの一因になっているのではないか?

残念ながら、高齢者の老人ホーム入居率の国際比較、のようなデータは未だ見つけることができないでいる(知っている人がいたら教えてください)。

そんな折、やっぱり老人ホーム入居者の被害が大きいことを確認できるデータが米国のCMS(高齢者や低所得者向け社会保障制度を担う連邦政府機関)から発表された。感染者数では全米の3%を占める程度だが、千人当り感染者数は62人と全米平均の10倍、感染者の死亡は25,923人で全米の1/4を占め、千人当り27.5人、致死率42%となっている。このほかに、スタッフの感染者が34,442人、死亡者449人となっている。

この調査は、5月24日までに回答が寄せられた、全米15412施設の54%に当たる8,332施設の集計。未回答の施設は報告事項がゼロなのかもしれないが、クラスターの対応に忙殺され回答どころではなかったのかもしれない。もし潜在事例が同数あった場合、米国のCOVID-19感染死亡者の半分程度は老人ホーム入居者ということになる。この調査を踏まえて、CMSは規制や罰則の強化を決めた。

老人ホーム入居者の感染状況
感染者数千人当り感染死亡者千人当り
老人ホーム居住者60,43962.025,92327.5
うち、NY州6,54698.52,94842.2
   NJ州5,179206.73,191145.5
   CA州2,72551.01,16923.0
全米1,830,0665.5106,1200.3
うち、NY州373,04019.229,9681.5
   NJ州161,54518.211,7711.3
   CA州117,0103.04,2930.1
注:老人ホーム入居者のデータは5月24日までに報告された分、全米のデータは6月2日時点。
出所:CMSとJohns Hopkins Universityの資料から作成。

リンク: 老人ホームにおけるCOID-19感染症状(CMS、pdfファイル)

COVID-19:イーライリリー、抗体医薬の臨床試験を開始
(2020年6月1日発表)

イーライリリーは、LY-CoV555の第一相試験の投与を開始した。カナダのAbCellera Biologics社がイーライリリーと共同でスクリーニングしたSARS-CoV-2中和抗体のリードコンパウンドで、抗体医薬の臨床入り第一号と推測される。今月末までに結果が出る見込みで、成功なら入院していないCOVID-19感染者を対象に第二相を行う予定。ワクチンの効果を十分に享受でき難い高齢者を対象に予防試験も検討している。

抗体医薬の開発ではリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)などが先行しているように感じていたが、AbCelleraはダークホースだった。単一細胞微小流体技術と機械学習やデータサイエンスなどの次世代技術を活用した創薬を標榜し、2年前に米国のDARPA(国防高等研究計画局)のパンデミック予防プログラムに参画、プルーフ・オブ・プラットフォームを推進してきた。

COVID-19に関しては今年1月に研究を開始、NIAID(米国立衛生研究所傘下のアレルギー疾患・感染症研究所)とともに、北米の回復患者の血液から採取した500万以上の免疫細胞から500以上の中和抗体をスクリーニング。偶々、抗体医薬創薬に関する提携交渉を行っていたイーライリリーと3月にまずCOVID-19でスタート、3ヶ月足らずでリードコンパウンドを抜擢し臨床入りした。両社は5月に全部で9種類のターゲットに対する抗体のスクリーニングで提携した。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

COVID-19:レムデシビルの中等症COVID-19試験結果が発表
(2020年6月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdq:GILD)は、Veklury(remdesivir、和名ベクルリー)の第三相中等症COVID-19肺炎試験の結果を発表した。SARS-CoV-2に感染し肺炎だが酸素飽和度が94%超の入院患者584人を組入れて、レムデシビルの5日コースと10日コースの11日間の転帰(退院から死亡まで7段階で評価して2段階以上改善)をSOC群(標準医療だけ)と比較したところ、5日コースのオドレシオが1.65(95%信頼区間1.09-2.48)、p=0.017、10日コースは同1.31(0.88-1.95)、p=0.18となった。

5日コースが有効で10日コースがダメとは考えにくい。信頼区間は重なっているので本当はどちらも有効なのかもしれないが、重症肺炎試験も5日コースのほうが数値上、良かったことを思い出す。ちぐはぐな結果になった。

remdesivirはSARS-CoV-2のポリメラーゼ阻害剤。米国立衛生研究所が主導したACTT-1試験でCOVID-19肺炎入院患者のメジアン罹患期間を15日間から11日間に短縮する効果が確認された。今回のプレスリリース発出時点で正式に承認されたのは日本だけで、米国はEUA(非常時使用認可)だけ、EUは承認審査中だ。その日本も適応は原則として酸素飽和度94%(室内気)以下に使うとしているので、今回の試験のインプリケーションは曖昧だ。

第11日時点の応答率(2段階以上改善した患者の比率)は5日コースが70%、10日コースは65%、SOC群は61%だった。1段階だけ改善した患者の比率は各76%、70%、66%。死亡は各0%、1%(2人)、2%(4人)。深刻有害事象の発現率は各4%、4%、9%だった。

リンク: ギリアドのプレスリリース

COVID-19:ヒドロキシクロロキン、介入的試験でCOVID-19に効果を示せず
(2020年6月5日発表)

オックスフォード大学が主導するCOVID-19治療試験、RECOVERYの治験総括医(複数)はhydroxychloroquine(HCQ)群の新規組入れを中止すると発表した。MHRA(英国の薬品承認審査機関)の要請で行われた中間解析で救命効果が見られなかったため。

この試験は、COVID-19感染の入院患者11,000人超を低量ステロイド、HCQ、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)、azithromycin、標準療法のみの5群に無作為化割付して28日死亡率などを比較している。ファクトリアルデザインで回復期血漿や、進行した患者の一部を対象にActemra(tocilizumab)の無作為化割付試験も行っている。

中間解析は事前に設定されたものではなさそうだ。おそらく、WHOと同様に、MHRAは次項で取り上げるLancet論文の結論に驚き、アドホックに安全性評価を行うよう求めたのだろう。まず独立データモニタリング委員会が検討し、治験総括医に盲検解除データを検討するよう推奨した。

HCQ群(1,542人)は28日死亡率が25.7%、標準療法群(3,132人)は23.5%で、ハザードレシオは1.11、95%信頼区間は0.99-1.26となり、Lancet論文で示唆されたような深刻な安全性懸念は確認されなかったが、救命効果も見られなかった。検出力が足りているのか記されていないが、目標症例数は12,000人なのでhydroxychloroquine群の組入れ進捗率はかなり高そうだし、解析計画における死亡率の前提が上記数値より著しく高いとも考えにくい。

HCQ/chloroquineのCOVID-19の治療における用量は確立していない模様。残念なことに、プレスリリースや治験登録は本試験の用量用法について言及していない。

リンク: RECOVERT試験総括医の発表
リンク: 治験登録(ClinicalTrial.gov)

HCQは北米で実施された暴露後予防試験もフェールした。New England Journal of Medicine誌で刊行された論文によると、COVID-19感染が確認または疑われる人と6フィート(1.8m)以内の距離で10分以上、アイシールドなしで、被検者の88%はマスクもなしで過ごした無症状の成人821人を、暴露後4日以内に試験薬群と偽薬群に無作為化割付して、COVID-19様疾患の罹患率を比較した。試験薬は最初に800mg、6-8時間後に600mg、その後は600mgを一日一回、4日間投与した。結果は、各群11.8%と14.3%となり数値上は低かったが有意な差はなかった(p=0.35)。

この試験は被検者が自らインターネット経由で応募し、郵送された薬を服用し、発症の有無を報告した。非常事態なのでやむを得ないが、その分、アドヒランスや罹患判定の正確さに心許ない点が残る(罹患診断に関してPCRによる確認は必須ではなかった)。相対リスク削減率18%なら全く効果がないとは言い難いが、データの信頼性が万全でないことを考えれば、重視すべきではないだろう。

リンク: Boulwareらの治験論文(NEJM)

HCQ/chloroquineに期待する人はトランプ米大統領だけではないようで、複数の大規模試験が実施されている。次の注目は、WHOのSolidarity試験だ。Lancet論文を受けて当該群の投薬を中断しデータ安全性監視委員会に中間評価を求めたが、結果はどうだったのだろうか。

COVID-19:クロロキン等の安全性に関するLancet論文などが撤回
(2020年6月4日発表)

5月にLancet誌で刊行された、COVID-19の治療におけるhydroxychloroquine及びchloroquineの安全性に関する観察的試験論文が撤回された。同じ著者らが同じEHR(電子医療記録)データベースを用いて行った、患者の持病やACE阻害剤/ARBの服用の有無と死亡リスクの関連性を検討したNew England Journal of Medicine誌の論文も撤回された。

前者は死亡リスクが高まる可能性を示唆、WHOが臨床試験を中断し中間安全性解析を行うことを決めた一方で、研究手法に懐疑的な意見も多かった。後者は、SARS-CoV-2が細胞に感染する時に利用するACE2の発現をACE阻害剤やARBがアップレギュレートするため病状悪化要因になり得る、という仮説に否定的なエビデンスの一つになった。

権威ある査読誌である両誌に掲載された論文が、1ヶ月も経たずに撤回されたのは異例だ。過去にも多くの論文が撤回されており査読が万能でないのは明らかなのだが、パンデミックに対抗したり学会発表と同時に刊行するために査読をそこそこで終えるケースが増えているのだとしたら、残念なことだ。

これらの論文は、Brigham and Women's HospitalのMandeep Mehra医学博士らが、シカゴのSurgisphereという医療情報分析会社の創立者、Sapan S. Desai医学博士と共同執筆したもの。同社のEHRリアルタイム収集分析システムを使って、Lancet論文は6ヶ国の671病院の96,032症例、NEJM論文は169病院の8910症例の医療記録を分析した。前者は、COVID-19感染と診断されてから48時間以内にhydroxychloroquineまたはchloroquineを投与した14,888例と投与しなかった81,114例の入院中死亡リスクを比較した。48時間を過ぎてから投与した症例や、remdesivirを投与した症例は除外。結果は、リスク因子などを修正後のハザードレシオがhydroxychloroquine単剤で2.3倍、マクロライド系抗生剤同時使用例では5.1倍、chloroquineは単剤で3.5倍、マクロライド同時使用で4.0倍という衝撃的なものだった。

論文撤回要求は、NEJM論文に関してはDesai医学博士を含む全著者の連名で、生データが提供されず第三者による検証ができなかったことを理由に挙げている。Desai博士以外の著者だけによるLancet論文撤回要求はもう少し詳しく、同社やDesai博士が行った分析に懸念が寄せられたため博士の同意を得て第三者による監査をロンチしたが、同社がクライアントとの契約に基づきデータセットの提供を拒否した。

私は、Lancet論文を読んで感嘆した。医療従事者が余計な書類仕事に感ける暇もないほど忙殺されている時に、EHRという必ず入力されるであろうデータをリアルタイムに収集し、AIが機械学習などの手法でデータマイニングするという、近未来の魁のように感じられたからだ。ハザードレシオも大きい。

しかし、データを提供した病院の名前やリスク因子の修正の仕方など、具体的な情報が欠けていることや、観察研究は一つだけでは信憑性が低く、もう一つ、他の独立したデータセットの分析が出てから検討しても遅くないことから、本稿では取り上げなかった。

将棋ソフトとプロ棋士の対局を見ていて感じたのは、AIが結論を出すプロセスを人間が追いきれなくなるリスクだ。コンピューターが1秒で出す結論を、人間が一つ一つ検証していたら時間がかかって、AIを使う意味がなくなる。かといって、ブラックボックスのままにしておいたら大きな欠陥を見落としかねない。検証は独立した第三者が行うのが望ましいのだから、AIの結論を検証するためのAIを構築する必要がある。

リンク: Lancet論文著者中三名による撤回要請
リンク: 撤回されたLancet論文
リンク: NEJM論文著者全員による撤回要請
リンク: 撤回されたNEJM論文
リンク: Surgisphere社のホームぺージ


【新薬開発】


BMS、多発硬化症用薬の潰瘍性大腸炎適応拡大試験が成功
(2020年6月2日発表)

BMSは、Zeposia(ozanimod)の第三相中重度難治性潰瘍性大腸炎試験がポジティブな結果になったと発表した。適応拡大に向けて当局と相談する考え。

ZeposiaはS1PR1/5調節剤で、3月に米国で、5月にはEUでも、再発型の多発硬化症の維持療法薬として承認された。初回投与後に数時間観察する必要が無く、事前の遺伝子検査も不要と、比較的手間がかからないことが長所。09年に740億ドルで子会社化したセルジーンが、15年に72億ドルで買収したReceptos社の開発品。

今回の試験は1mgを一日一回投与して第10週の臨床的寛解導入成功率を検討したところ、偽薬比有意に上回った。寛解患者を再無作為化割付して行った離脱試験では、継続投与群の第52週寛解維持率が偽薬スイッチ群を有意に上回った。

Zeposiaはクローン病の第三相試験も進行中。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


バイエル、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤を日欧で承認申請
(2020年6月5日発表)

バイエルは、BAY 1021189(vericiguat)を慢性心不全用薬として日欧で承認申請した。肺高血圧症治療薬Adempas(riociguat、和名アデムパス)に続くsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)刺激剤の第二号で、酸化窒素合成酵素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイに係るsGCの酸化窒素感受性を高める。

第三相のVICTORIA試験では、過去6ヶ月間に心不全悪化によって入院乃至は利尿薬静注を受けた、NYHAクラスIIからIVの心不全で左室駆出率が45%未満の患者を組入れて、心血管死または心不全入院のリスクを検討したところ、ハザードレシオが0.90、p=0.019だった。心不全入院だけのハザードレシオは0.90、心血管死は0.93で、どちらも有意ではないが同じ方向を向いている。ハザードレシオが0.80以下ならもっと良かったが、メジアン10.8ヶ月の追跡でイベント発生率が偽薬群38.5%、試験薬群35.5%と高いため、number-needed-to-treatは24と良い数値になっている。

また、NT-proBNPのベースライン値に基づく四分位サブグループ分析では、恩恵が低位3サブグループに偏っており、ハザードレシオは各18-27%だった。

有害事象は低血圧など。尚、本試験は最高血圧100 mm Hg未満の患者は除外した。

リンク: バイエルのプレスリリース


【承認】


FDA、MSDのカルバペネム合剤を院内感染細菌性肺炎に適応拡大
(2020年6月4日発表)

FDAは、MSDのRecarbrioを院内感染細菌性肺炎や人工呼吸器関連細菌性肺炎の治療に用いる適応拡大を承認した。18歳以上で、同薬に感受するグラム陰性菌感染者が対象。

カルバペネム系抗生物質のimipenemとデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤のcilastatinおよびベータラクタマーゼ阻害剤のrelebactaを配合する点滴静注用薬で、米国19年に感受グラム陰性菌による複雑性尿路感染症と複雑性腹腔内感染症のマージナルな治療薬(他の治療手段がないか限定的である時だけ使う)として承認された。

適応拡大試験では、28日死亡率が15.9%と、piperacillinとtazobactamを併用した群の21.3%に対して非劣性だった。配合成分に過敏や癲癇など中枢神経障害は禁忌。

リンク: FDAのプレスリリース

イーライリリー、トルツが米国でnr-axSpAに適応拡大
(2020年6月1日発表)

イーライリリーは、Taltz(ixekizumab、和名トルツ)をnr-axSpA(非X線的体軸性脊椎関節炎)の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。nr-axSpAは、r-axSpA(X線的体軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎とも呼ばれる)と類似した疾患と考えられているがX線画像上の兆候が見られない。Taltzは19年にr-axSpAに承認されており、今回、抗IL-17A抗体で初めて、両方の適応を取得した。尚、初めて米国でnr-axSpAの適応を取得したのはUCBのPEG化抗TNFアルファ抗体フラグメント、Cimzia(certolizumab pegol)で、19年3月だった。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

イーライリリー、サイラムザがEGFR抵抗性変異NSCLCに適応拡大
(2020年5月29日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)をEGFR抵抗性変異を持つ転移性NSCLC(非小細胞性肺癌)の一次治療にTarceva(erlotinib)と併用することがFDAに承認されたと発表した。EGFR遺伝子のエクソン19が欠損またはエクソン21にL858R置換のある癌が適応になる。

臨床試験では、この二剤を併用した群のメジアンPFS(無進行生存期間、RECIST 1.1ベース、担当医評価)が19.4ヶ月と、偽薬・erlotinib併用群の12.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、p≦0.0001だった。全生存期間の解析は未成熟で有意差は出ていない。

Cyramzaは抗VEGFR-2抗体で非小細胞性肺癌の二次治療などに承認されている。今回の適応はEUでは今年1月に承認、日本でも承認審査中。

同様な用途ではアストラゼネカのEGFR阻害剤、Tagrisso(osimertinib)も臨床試験で全生存期間やPFSがTarcevaまたはIressa(gefitinib)を投与した群を有意に上回り、承認された。延命効果が確立しているので、こちらのほうが出番が多そうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース

アストラゼネカ、ブリリンタが高リスク冠動脈疾患の初発予防に承認
(2020年6月1日発表)

アストラゼネカは、Brilinta(ticagrelor)を高リスク冠動脈疾患の心筋梗塞・脳卒中初発予防に用いることがFDAに承認されたと発表した。アスピリンと併用する。エビデンスとなるTHEMIS試験の対象より広い適応が認められた。

THEMIS試験は二型糖尿病を併発する冠動脈疾患(PCI歴、CABG歴、または冠動脈狭窄)19,220人を組入れて、低量アスピリンに加えて、60mgまたは偽薬を一日二回投与した。メジアン40ヶ月間追跡。結果は、心血管死、心筋梗塞、または脳卒中の罹患率が7.7%と偽薬群の8.5%を下回り、ハザードレシオ0.90、p=0.04と高度ではないが統計的に有意な差があった。

BrilintaはP2Y12拮抗剤。急性冠症状群などにアスピリンと併用することが承認されている。血小板凝集を阻害するので出血事故のリスクも高まり、THEMIS試験では大出血(TIMI基準)発生率が2.2%と偽薬群の1.0%を有意に上回り、頭蓋内出血も0.7対0.5%で僅差だが有意に上回った。

単純計算すると、1000人に3年余投与すると約10人を心血管死・心筋梗塞・脳卒中から救うことができるが、約10人は大出血を被り、残りの殆どの人達は飲んでも飲まなくても結果は同じということになる。初発予防の是非を決定するのは難しい。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

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