【ニュース・ヘッドライン】
- FDA、ADHD治療用ゲームソフトの販売を認可
- COVID-19:低量デキサメタゾンが呼吸不全患者の死亡リスクを削減
- COVID-19:イタリアでアクテムラの臨床試験がフェール
- COVID-19:FDA、CQ/HCQのEUAを撤回
- COVID-19:FDA、レムデシビルとCQ/HCQの相互作用リスクを警告
- COVID-19:ノバルティス、HCQのCOVID-19試験を打ち切り
- COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの先行予約が11億回分に
- COVID-19:免疫パスポートは期限切れが早い?
- ロシュ、AKT阻害剤の第三相試験が成功
- テセントリクのTNBCネオアジュバント試験が成功
- ベージニオの早期乳癌アジュバント試験が成功
- ダラザレックスのALアミロイドーシス試験が成功
- FDA、エピザイムのEZH2阻害剤を濾胞性リンパ腫に適応拡大
- クリースビータが腫瘍性骨軟化症に適応拡大
- キイトルーダが高TMB腫瘍に承認
- FDA、小細胞性肺癌の新薬を承認
- ノバルティス、コセンティクスがnr-axSpAに適応拡大
- ノバルティス、イラリスが米国でもスチル病に承認
【今週の話題】
FDA、ADHD治療用ゲームソフトの販売を認可
(2020年6月15日発表)
FDAは、Akili Interactiveのデジタル・ヘルス治療用ディバイス、EndeavorRxの販売を認可した。8~12歳の注意欠如型または混合型のADHD(注意欠如・多動症)の治療に用いるゲームソフトで、医師の処方を得たうえで、App StoreからiPhoneなどにダウンロードして使う。ゲーム型医療機器の認可は初めて。
Akiliはボストンの中枢神経疾患治療用ソフトウェア開発会社。EndeavorRxはレース型の3Dゲームで、モバイル機器を左右に動かしたり画面をタップしたりして障害物を回避しながら、30分間に五つの簡単ではないミッションを遂行する。リアクションに基づいてソフトが集中力などをリアルタイム評価し困難度を調節する。
30分経つと翌日までプレイできない。週五日、一ヶ月が一サイクルで、必要に応じて繰り返す。
複数の無作為化割付二重盲検(!)対照試験で、TOVA(Tests of Variables of Attention)やAPI、IRS(Impairment Rating Scale)、ADHD-RSなどが対照群比有意に改善した。治療関連有害事象発現率は9%で、フラストレーション、頭痛、めまい、情緒性反応や易刺激性など。
Akiliは昨年3月に塩野義製薬と日本及び台湾におけるAKL-T01(今回のソフト)とAKL-T02(自閉症の認知不全治療用)の商業化で戦略提携しており、将来的に日本で発売される可能性もありそうだ。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Akiliのプレスリリース
COVID-19:低量デキサメタゾンが呼吸不全患者の死亡リスクを削減
(2020年6月16日発表)
オックスフォード大学が主導するCOVID-19治療試験、RECOVERYの治験総括医(複数)は、今度は低量dexamethasone(DEX)群の新規組入れを中止すると発表した。酸素投与/人工呼吸器装着を必要とする患者の死亡リスクを削減する効果が確認されたため。
この試験は、COVID-19に感染した英国の入院患者12,000人をDEX、hydroxychloroquine、Kaletra(lopinavirとritonavirの合剤)、azithromycin、または通常医療のみの5群に無作為化割付して28日死亡率などを比較している。ファクトリアルデザインで回復期血漿や、進行した患者の一部を対象にActemra(tocilizumab)の無作為化割付試験も行っている。DEX群は2104人に6mgを経口または静注で一日一回、10日間投与した。
通常医療群(4321人)に対する死亡リスクのレート比は0.83(95%信頼区間0.74-0.92)、p=0.0007だった。サブグループ分析は偏りがあり、人工呼吸器装着患者(通常医療群の28日死亡率は41%)では0.65(0.48-0.88)、酸素投与患者(同25%)では0.80(0.67-0.96)だったが、酸素投与不要患者(同13%)には効果が見られなかった。
DEXはGE化したステロイド薬で様々な疾患に広く用いられている。入手が容易で安価な薬が、number-needed-to-treatが人工呼吸器装着なら8、酸素投与でも25なのだから、コストパフォーマンスは極めて高い。
治験統括医はできるだけ早く治験結果を刊行する考え。内容に問題が無ければ、そして、他国でも進められているであろう試験で異なった結果が出ない限り、標準療法に組入れられていくだろう。RECOVERY試験はhydroxychloroquineの無益性を明確にしたのに続いて、大きな果実をもたらした。
死亡リスクを2~3割削減しても未だ死亡率は高いので、治療法を更に向上しなければならない。良く分からないのがActemra(tocilizumab)のような抗IL-6受容体抗体やJAK阻害剤との関係だ。重症患者がしばしば発症するサイトカイン・ストームの抑制を狙って、複数の重症COVID-19肺炎治療試験が進行していて、上記のようにRECOVERY試験もActemraサブスタディを設定している。DEXの適応が呼吸不全合併患者となるとActemraと被ってくるのではないか。DEXが標準療法に組み込まれた場合、インターロイキン阻害剤を追加しても大きな上乗せは期待できないかもしれないので、もしかしたら、もう出番はないかもしれない。
そもそも、原因疾患はウイルス感染症なので免疫抑制剤は免疫機構の暴走を諫める便益だけでなくウイルスの抑制を弱める危険もあるはずだ。臨床検査値に基づいて事前スクリーニングを行う余地がないのか、あるいは、安全性面を考慮すると選択的な免疫抑制剤のほうが好ましいのではないか?研究課題はまだまだ山積みだ。
リンク: 低量dexamethasoneに関するプレスリリース
COVID-19:イタリアでアクテムラの臨床試験がフェール
(2020年6月17日発表)
AIFA(イタリア医薬品庁)は、中外製薬が創製し海外ではロシュが開発販売している抗IL-6受容体抗体、Actemra(tocilizumab)をCOVID-19肺炎の治療に用いる臨床試験が中間解析で無益認定されたことを明らかにした。イタリアの24施設で398人の入院患者を組入れて転帰を標準療法のみの群と比較する計画だったが、126人の中間解析で2週間の病状悪化/死亡率が各群28.3%と27.0%、ICU入室率は10.0%と7.9%、30日死亡率は3.3%と3.2%と両群大差なかった。
プレスリリースの情報は限られているが、ClinicalTrials.govにNCT04346355として登録されている第二相試験のことと推測される。組入れ条件を見るとPaO2/FiO2が200~300 mm/Hgと記されているので、ARDS(急性呼吸逼迫症候群)の中でも軽度で人工呼吸器などは必要でない患者が対象のようだ。
この点で、4月に明らかにされたリジェネロン・ファーマシューティカルズ/サノフィの抗IL-6受容体アルファ抗体、Kevzara(sarilumab)の第二相試験結果と符合する。重症肺炎(酸素投与が必要)サブグループでは効果が見られなかったが、危機的肺炎(ハイフロー酸素投与、人工呼吸器装着、ICU入室)では死亡・人口呼吸器装着リスクを緩和し退院率を向上するトレンドが見られた。このため、米国の第三相は対象が危機的肺炎だけに変更された。
Actemraはロシュ・グループもイタリアを含め各国で第三相試験を実施している。危機的肺炎なら効くのか否か、今後、明らかになるだろう。
リンク: AIFAのプレスリリース(イタリア語)
リンク: NCT04346355の治験登録(ClinicalTrials.gov)
COVID-19:FDA、CQ/HCQのEUAを撤回
(2020年6月15日発表)
FDAは、chloroquine diphosphate(CQ)とhydroxychloroquine sulfate(HCQ)をCOVID-19の治療に用いるEUA(非常時使用認可)を撤回した。効果が不十分というエビデンスが積み重なり、心血管疾患などのリスクを便益が上回ると考えることができなくなったため。
CQ/HCQのCOVID-19治療試験というとオックスフォード大学が主導するRECOVERY試験のフェールを連想するが、まだ論文刊行されていないせいか、FDAはTangらの治験論文などをエビデンスとした。軽中度の入院患者150人をHCQ群とSOCだけの群に無作為化割付してウイルス検査陰転を比較したが有意差がなかったというものだ。
米国はトランプ大統領がCQ/HCQをゲームチェンジャーと呼び、ホワイトハウスのスタッフから感染者が出た後は自ら、予防目的で服用した。報道によると今回のFDAの措置に不満を示しているようなので、また首のすげ替えが起きないか、心配だ。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Tangらの治験論文(BMJ)
COVID-19:FDA、レムデシビルとCQ/HCQの相互作用リスクを警告
(2020年6月15日発表)
FDAは、COVID-19治療薬としてEUA(非常時使用認可)を受けているギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesvir/USAN・INN、レムデシビル/JAN)に関して、chloroquine phosphate(CQ)/hydroxychloroquine sulfate(HCQ)と併用しないよう勧告した。非臨床試験でremdesvirの抗ウイルス作用が低下したため。臨床的な影響は確立していない。CQ/HCQはオックスフォード大学主導試験で救命効果が見られなかったため、相互作用懸念が確立していようがいまいが、今後は併用されなくなるだろう。問題は、他の薬との相互作用の情報だ。
米国のファクトシートによると、remdesvirはCYP2C8、CYP2D6、CYP3A4、OATP1B1/P-gpの基質で、CYP3A4、OATP1B1、OATP1B3、BSEP、MRP4、NTCPのインヒビターであることがin vitroで示された。定量情報は記されていない。これらの薬物代謝酵素/トランスポーターを誘導/阻害したり依存したりする薬との相互作用がどの程度なのか、今後の発表を期待したい。
リンク: FDAのプレスリリース
COVID-19:ノバルティス、HCQのCOVID-19試験を打ち切り
(2020年6月19日)
ノバルティスは、hydroxychloroquine(HCQ)のCOVID-19治療試験を打ち切ると発表した。Johns Hopkins大などの施設で440人を組入れてHCQやHCQ・azithromycin併用の臨床的反応率やウイルス駆除奏効率を偽薬と比較する計画だったが、組入れが不調であるため。
HCQは疫学的研究で安全性懸念が指摘されたため、WHOがSolidarity試験のHCQ群を中断してデータ安全性監視委員会に検討を求めたり、英国の大規模試験で当局の要請を受け中間安全性解析を行ったところ、問題なかったが救命効果も見られなかったため、HCQ群を打ち切る顛末になった。
上記疫学論文は結局撤回されたし、英国試験のデータはまだ論文発表されていないが、COVID-19治療の特徴は、不確かなデータでも敏感に反応することだ。第943回で取り上げた、NY地区入院患者に関するRichardsonらの論文を呼んで一番印象的だったのは、入院中にACE阻害剤やARBを止めた症例が多かったことだ。理由が記されていなかったので私も言及しなかったが、ACE阻害剤やARBがSARS-CoV-2の増殖力を高めるという一部の学者の指摘が影響したのかもしれない。
多くの学会が懐疑的な意見を表明しているので油断していたが、代替的治療法が多く存在する中で回避可能なリスクを取りたくない、転ばぬ先の杖、と考える医師が多いのだろう。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
COVID-19:アストラゼネカ、ワクチンの先行予約が11億回分に
(2020年6月13日発表)
アストラゼネカはオックスフォード大学ジェンナー研究所が開発したCOVID-19用ワクチン、ChAdOx1/AZD1222の臨床開発を進めているが、政府などからの先行予約が10億回分を越えた。英国政府向け1億回分、米国政府向け3億回分、感染症対策推進組織であるCEPI及びGavi向け3億回分に加えて、新たに、欧州のInclusive Vaccines Alliance(IVA:現時点ではイタリア、ドイツ、オランダ、フランスが加盟)向けに4億回分を供給することを決めた。
アストラゼネカが現在計画している生産体制は、自社で年10億回分、主として低中所得国に供給するインドのSerum Institute of Indiaが年10億回分となっているので、日本などの高所得国に供給する余力は小さくなった。
このワクチンはチンパンジーに感染するアデノウイルスをベクターとしてSARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白の遺伝子を導入するもの。霊長類試験では感染予防効果がそれほど高くなかったが、肺炎合併率は対照群が66%であったのに対してゼロだった。
チンパンジー・アデノウイルスベクターを使ったワクチンの過去の投与実績は320人と、ワクチンとしては話にならないほど少なく、今回初めて真価が問われることになる。4月に第1/2相試験入り、5月に結果が出る見込みだったが、まだ発表されていないようだ。5月に1万人規模の第2/3相試験を開始、全てが上手く行けば9月に本格供給を開始する予定。
開発が成功するとは限らないが、アストラゼネカは、非常時対応として、先行して生産体制拡充を進めている。今回の先行予約は、政府などにリスクをシェアしてもらう意図もあり、その見返りということなのか、同社はパンデミックが続く限りは利益ゼロで供給することをコミットしている。米国の補助金額は調達本数と比べてかなり大きかったが、報道によるとIVA向けは一回分が約300円となっており、この辺りが変動費相当額なのではないか。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
COVID-19:免疫パスポートは期限切れが早い?
(2020年6月18日発表)
COVID-19ワクチンが続々と臨床入りし、初期試験の免疫原性データが出始めたが、最も重要な点が明らかになるは未だこれからだ。本当に感染・発症予防に役立つのかどうかは大規模な試験の結果が出るまで分からないが、免疫の持続性は自然感染者のデータが参考になる。Nature Medicine誌に新しい研究結果が論文発表された。重慶市万州区で陽性判定され隔離のため入院した、14日間以上に亘り症状が無い感染者37人と軽症患者37人を追跡調査したもので、小規模なので誤差も大きそうだが、エビデンスの一つにはなるだろう。
興味深いのは、まず、ウイルス排出期間。無症候者の中央値は19日(レンジは6~45日)、軽症患者は14日で有意な差があった。ウイルス検査が陽性でも感染力があるとは限らないが残念なことに、感染試験は行われていない。無症候者の自然歴に関する情報はあまりないが、もしうつす可能性が長期間続くのなら、感染リスクが高いのは発症前後の数日というような、専ら顕在化した患者の所見に基づくプロファイリングだけに依存すべきではないかもしれない。
次に、抗体とその持続性。ウイルス暴露の3-4週後時点で無症候者も軽症者も8割以上がIgG陽性だったが、IgG量の水準は軽症者のほうが数倍高かった。回復期早期の変化を調べるべく退院の8週後に検査したところ、どちらもIgG水準が7割以上低下し、無症候者は40%、軽症者も13%が、血清陰転した。回復期に抗体が急減する現象はこれまでも指摘されてきたが、多寡だか2ヶ月で陰転してしまうのだとしたら、次の冬まで持つことを期待するのは難しそうだ。
もっと大規模、長期間の追跡データが欲しいところだが、ワクチンの効果が数年続くとか、抗体検査で陽性だったからもう自粛せず自由に行動できるとか、楽観しないほうが良さそうだ。
リンク: Longらの論文(Nature Medicine)
【新薬開発】
ロシュ、AKT阻害剤の第三相試験が成功
(2020年6月19日発表)
ロシュは、RG7440(ipatasertib)の第三相転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)試験の共同主評価項目の一つが成功したと発表した。症状がないか軽症の患者を組入れて、Zytiga(abiraterone)とprednisone/prednisoloneに加えて偽薬またはRG7440を経口投与したところ、腫瘍抑制遺伝子であるPTENの欠落が見られるサブグループのrPFS(放射線学的無進行生存期間、担当医評価)が有意に延長した。もう一つの主評価項目である全被験者のrPFSはフェールした。データは学会発表の予定。
RG7440はロシュ・グループのジェネンテックが04年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)と開始した創薬プログラムの成果で、AKTの三種類のアイソフォーム全てを非ATP競合的に阻害する。PTEN欠落は転移CRPCの40~60%で見られ、PI3K/AKTパスウェイの異常活性化をもたらしている。
AKT阻害剤の開発はなかなか上手く行かず、RG7440もPTEN変異などを持つトリプルネガティブ乳癌の一次治療paclitaxel併用第三相試験は今年1月に中止された。
リンク: ロシュのプレスリリース
テセントリクのTNBCネオアジュバント試験が成功
(2020年6月18日発表)
ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の早期トリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)ネオアジュバント試験、IMpassion031試験が成功したと発表した。エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体、her2の何れも陰性の早期乳癌333人を組入れて、術前化学療法(nab-paclitaxelとdoxorubicin、cyclophosphamideをシーケンシャルに投与)に追加したところ、pCR(病理学的完全寛解)が偽薬追加群と比べて統計的に有意な、臨床的にも意味のある改善を示した。
術後アジュバント療法における効果を検討するため治験は続行されるが、ネオアジュバントにおける承認を得るために欧米当局と相談する考え。
Tecentriqはイタリアの研究者が行った同様な試験、NeoTRIPaPDL1 Michelangeloで、化学療法(nab-paclitaxelとcarboplatin)に追加する効果が検討されたが、pCRは化学療法だけと大差なかった。IMpassion031試験のデータが公表された段階で改めて整合性が検証されることになるだろう。
リンク: ロシュのプレスリリース
ベージニオの早期乳癌アジュバント試験が成功
(2020年6月16日発表)
イーライリリーは、Verzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)のmonarchE試験が成功したと発表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌で摘出術を受けたが再発リスクが高い患者5,637人を組入れて、内分泌療法に追加する効果を検討したところ、中間解析で主目的である無浸潤疾患生存期間延長効果が確認された。データは学会などで発表する予定。適応拡大を申請する予定。
VerzenioはCDK4/6阻害剤で、類薬は複数あるが早期乳癌アジュバント試験が成功したのは初めて。ファイザーのIbrance(palbociclib)はリスクがもう少し小さい患者も組入れたPALLAS試験が中間解析で無益認定されてしまった。やや異なった患者層を組入れたPENELOPE-B試験の結果が年内に判明する見込みなので巻き返しに期待することになる。
リンク: イーライリリーのプレスリリース
ダラザレックスのALアミロイドーシス試験が成功
(2020年6月13日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、daratumumabの皮注用製剤を用いた新患ALアミロイドーシス試験、ANDROMEDAが成功したと発表した。計測可能な血液学的疾患で一つ以上の臓器が影響を受けている患者388人を組入れて、cyclophosphamide、Velcade(bortezomib)、dexamethasoneの三剤を併用するCyBorDレジメンに更にdaratumumabを追加する効用を検討したところ、血液学的完全反応率が53%とCyBorDだけの群の18%を大きく上回った。主要臓器が増悪したり死亡したりするリスクはハザードレシオ0.58だった。但し、死亡率自体は13-15%で同程度のようだ。
ALアミロイドーシスは免疫グロブリンの軽鎖由来のアミロイドが臓器に蓄積、障害を与える。米国では年4500人が罹患と推測されている。daratumumabは多発骨髄腫用薬Darzalex(和名ダルザレックス)として承認されている抗CD38完全ヒト化抗体。皮注用製剤はハロザイム(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換えヒトヒアルロニダーゼを配合することにより皮注を可能にしたもので、Darzalex Fasproとして今年、欧米で承認された。
リンク: JNJのプレスリリース
FDA、エピザイムのEZH2阻害剤を濾胞性リンパ腫に適応拡大
(2020年6月18日発表)
FDAは、エピザイム(Nasdaq:EPZM)のTazverik(tazemetostat)を再発/難治濾胞性リンパ腫に用いることを加速承認した。EZH2活性化変異を持ち二次以上の治療歴を持つ癌と、他に適切な治療オプションがない患者が適応になる。
Tazverikは遺伝子発現に係るヒストンメチル基転換酵素を構成するタンパク質の一つであるEZH2を阻害する。FDAは今年1月に全摘不適の転移/局所進行性類上皮腫用薬として加速承認した。
今回の承認も第二相試験のORR(客観的反応率)に基づくもの。EZH2活性化変異42例のORRは69%(完全反応率12%)、メジアン反応持続期間は10.9ヶ月、野生型53例では各34%(完全反応率4%)と13ヶ月だった。
FDAは、ロシュのcobas EZH2 Mutation Testをコンパニオン診断薬として承認した。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: エピザイムのプレスリリース
クリースビータが腫瘍性骨軟化症に適応拡大
(2020年6月18日発表)
Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)と協和キリンは、Crysvita(burosumab-twza、和名クリースビータ)をリン酸塩尿性間葉系腫瘍による腫瘍性骨軟化症(TIO)に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。腫瘍切除不能な2歳以上の患者が適応になる。米国のTIO患者数は年500~1000人で、その半分が切除不能と推定されている。
抗FGF23抗体で、18年に欧米で、19年には日本でも、FGF23の過剰分泌が見られるX染色体遺伝性低リン血症用薬として承認された。TIOでもリン酸塩尿性間葉系腫瘍がFGF23を過剰分泌、血中リン濃度が低下し骨の成長・維持に障害を来す。今回の承認は協和キリンが日韓で実施した14人の第二相試験のデータに基づくもの。
両社は13年に共同開発提携を結び、米国では利益シェア、EUは協和ロイヤルティ・ベースで開発販売している。
リンク: 両社のプレスリリース
キイトルーダが高TMB腫瘍に承認
(2020年6月17日発表)
FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)をTMB(腫瘍遺伝子変異量)高値(百万塩基当り10以上)の固形癌に用いる適応拡大を承認した。切除不能または転移性で、前治療歴を持ち、他に適切な治療オプションが無い成人小児が適応になる。反応率に基づく加速承認。
KeyNote-158試験では、TMB値を取得した790人のうち102人が10 mut/Mb以上だった。ORR(客観的反応率)は29%で、反応持続期間のメジアン値は未達だが、反応者の50%は24ヶ月以上持続している。
制約は、まず、小児中枢神経系腫瘍に対する効果や安全性は確立していない。また、MSDのプレスリリースによると、TMBが10 mut/Mb以上、13 mut/Mb未満の患者におけるORRは13%と低い。
TMB高値は、17年に承認されたMSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)/dMMR(DNAミスマッチ修復不全)と同様に、遺伝子変異の多寡に基づいて抗PD-1/PD-L1が効きそうな患者をスクリーニングする。変異が多ければ異常蛋白が多く作られて免疫機構の注意を惹くので、抗PD-1/PD-L1抗体のような免疫強化療法の応答性予測因子として使える可能性がある。
尤も、話は単純ではなく、BMSはTMB高値の非小細胞性肺癌の一次治療にOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用する適応拡大申請を欧米で行ったが、申請撤回になった。PFS(無進行生存期間)の解析とは異なり、全生存期間の解析ではTMB低値でも化学療法群を有意に上回ったため、適応を限定する妥当性に疑問が生じたからだ。Opdivo・Yervoy併用や抗PD-L1抗体単剤の第二相試験の事後的分析でも、TMBはPFSの応答予測因子であったが全生存期間に関してはワークしなかった。
今回は癌種が異なるので一概には言えないが、全生存期間ではなくORRによる承認なので、承認後薬効確認試験で延命効果が確認されるかどうか、注目したい。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース
FDA、小細胞性肺癌の新薬を承認
(2020年6月16日発表)
FDAは、イタリアのPharma Mar社が開発したZepzelca(lurbinectedin)を白金薬治療中または治療後に進行した転移性小細胞性肺癌に用いることを加速承認した。天然の海洋物質であるecteinascidinsの類薬でポリメラーゼIIを阻害する点滴静注用薬。第二相試験では確認ORR(客観的反応率、RECIST 1.1)が35%、メジアン反応持続期間は5.3ヶ月だった。有害事象は骨髄抑制など。
米国市場はJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)が、日本は中外製薬が、ライセンスした。
リンク: FDAのプレスリリース
ノバルティス、コセンティクスがnr-axSpAに適応拡大
(2020年6月17日発表)
ノバルティスは、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)をnr-axSpA(非X線的体軸性脊椎関節炎)の治療に用いる適応拡大が、4月のEUに続いて米国でも、承認されたと発表した。特徴的なX線兆候を伴うr-axSpAに関しては、従来の病名である強直性脊椎炎で既に適応を取っているので、体軸性脊椎関節炎ならどちらにも使えることになる。
Cosentyxは抗IL-17A抗体で、プラク乾癬などに承認されている。類薬であるイーライリリーのTaltz(ixekizumab、和名トルツ)も今月、nr-axSpAに適応拡大が米国で認められた。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
ノバルティス、イラリスが米国でもスチル病に承認
(2020年6月16日発表)
FDAは、ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)を活性期成人スチル病(AOSD)の治療に用いる適応拡大を承認した。欧州では16年に承認されている。
Ilarisはクリオピリン関連周期性症候群やSJIA(全身型若年性特発性関節炎)の治療薬として承認されている。AOSDはSJIAと病態が酷似しており、類似した疾患と考えられているので、自然な適応拡大だ。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
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