2019年1月27日

2019年1月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、業務再開 
  • BMS、高TMB非小細胞性肺癌の承認申請を撤回 
  • キモセントリクス、C5a受容体阻害剤の承認申請を撤回 
  • EMA、イーライリリーのLartruvoの新患投与を禁止 
  • EUもビーリンサイトを微小残存病変治療薬として承認 


【今週の話題】


FDA、業務再開
(2019年1月25日発表)

FDAは1月26日付で業務を再開した。連邦政府は昨年12月にトランプ大統領が予算承認を拒否したため一部閉鎖となったが、2月15日まで3週間の暫定予算が成立したため、35日間という過去最長記録を残して終了した。新薬承認申請の受理も行われる。

本格的な予算法案が成立するかどうか、あるいは、一部閉鎖による遅れをどこまで取り戻せるか、不透明な点が多々あるが、議会や大統領の駆け引きで政府機能がしわ寄せを受ける米国の茶番劇が取り敢えず終わった。

リンク: FDAのHP


【承認審査・委員会】


BMS、高TMB非小細胞性肺癌の承認申請を撤回
(2019年1月24日発表)

BMSはOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を併用で高TMB転移性非小細胞性肺癌の一次治療に充てる適応拡大を欧米で承認申請していたが、欧州で審査期間が延長されたのに続いて、米国は申請撤回となった。2018年決算と合わせて公表された。これ自体は予想されたことだが、他の適応拡大も含めて、抗PD-1抗体のライバルであるMSDと比べて製品開発の稚拙さが目立つ。

この承認申請はCheckMate-227試験に基づくもの。複雑な試験で、パート1aはPD-L1陽性を対象にOpdivoとOpdivo・Yervoy併用を化学療法と比較、パート1bはPD-L1陰性を対象にOpdivo・Yervoy併用とOpdivo・化学療法併用を化学療法と比較、パート2はオールカマー方式でOpdivo・化学療法併用を化学療法と比較した。主評価項目はパート1aと1bの高TMBサブグループのPFS(無進行生存期間)と、パート1aの全生存期間の解析。

TMBはTumor Mutation Burdenの略。癌に関連する様々な遺伝子の変異の多寡を検査するもので、BMSは、過去の試験の事後的解析に基づき、メガベース当り10以上の変異を高TMBと定義した。変異が多いほど免疫を刺激しやすいと考えられるため、免疫腫瘍学薬の応答予測因子として注目されている。

PFS解析の結果はOpdivo・Yervoy併用のハザードレシオが0.58となり、統計的に有意だった。対応する全生存期間はハザードレシオ0.79と数字は悪くなかったが95%信頼区間は0.56-1.10で未成熟なのか有意ではなかった。

問題は、承認申請後に追加提出された全生存解析。高TMBサブグループはメジアン23.0ヶ月と化学療法群の16.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.77となったが、95%信頼区間は0.56-1.06と依然として有意ではなかった。一方、低TMBサブグループは16.2ヶ月対12.4ヶ月、ハザードレシオ0.78、95%信頼区間0.61-1.00だった。

TMBに基づくスクリーニングは、BMSやロシュがTecentriq(atezolizumab)で行った事後的分析でも、PFS応答性を予測することができたが、全生存期間はTMBに依存しなかった。従って、227試験の結果に特別な違和感は私にはない。今回はYervoy併用なので話が変わっても不思議はないが、副作用も増加するので、出来上がりの数字がその分、悪化することになる。

尤も、ハザードレシオの点推定値は悪くないのに信頼区間が広がってしまったのは二兎どころか、三兎も四兎も追った欲張りなデザインであることが敗因と推測することもできる。薬ではなく試験がフェールしたと考えれば、『総合的判断』の余地がある。

何れにせよ、ボールはBMSの手に戻った。今後のアップデートが注目される。

リンク: BMSのプレスリリース

キモセントリクス、C5a受容体阻害剤の承認申請を撤回
(2019年1月24日発表)

キモセントリクス(Nasdaq:CCXI)はCCX168(avacopan)をANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の治療薬としてEUに条件付き販売承認を申請していたが、撤回した。順調なら年内にもCHMPの肯定的意見を得ることが可能なはずだが、今年第4四半期に第三相試験の結果が出るのを待って本承認申請する方針転換した。承認が1年以上遅れることになるので、本意とは思えず、CHMPのフィードバックが思わしくなかったのではないか。

CCX168はC5a受容体を選択的に阻害する経口薬。申請の根拠であった第二相CLEAR試験では、rituximabまたはcyclophosphamideによる標準療法に加えて、prednisone(開始用量60mg/日)、prednisone(半量)とCCX168(20mgを一日二回投与)の併用、またはCCX168だけを投与したところ、12週時点の奏効率が各70%、86.4%、81.0%となり、CCX168の二群ともprednisone群比非劣性だった。

ドイツのフレゼニウス(Xetra:FRE)とスイスのVifor Pharmaの合弁会社が米国や中国以外の商業化権を保有しており、日本はキッセイ薬品がサブライセンスしている。

リンク: キモセントリクスのプレスリリース

EMA、イーライリリーのLartruvoの新患投与を禁止
(2019年1月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、イーライリリーのLartruvo(olaratumab)による治療を新規に開始しないよう勧告した。16年に治癒的放射線療法・手術が適応にならない軟組織肉腫の治療薬として条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため。すでに治療を受けていて臨床的便益を得ている患者は、現段階では、医師の判断で継続することが可能。現在、EUで1000人程度が治療を受けていると推定される由。

先週号で書いたように、イーライリリー自身が新規治療停止を勧奨しているのでサプライズではない。注目されるのはトップライン・データが公表されたこと。

このANNOUCE試験はdoxorubicinにLartruvoを併用して全生存期間を偽薬併用群と比較したもの。結果は、メジアン生存期間が20.4ヶ月と偽薬群の19.7ヶ月と同程度、ハザードレシオ(HR)は1.05だった。平滑筋肉腫のサブグループ分析でも各21.6ヶ月、21.9ヶ月、0.95と大差なかった。二次的評価項目であるPFS(無進行生存期間、全ユニバース)は各5.4ヶ月、6.8ヶ月、1.23と悲惨な結果。有害事象は各群大差なかった由なので、副作用による寿命短縮が敗因ではなさそうだ。

Lartruvoは08年に65億ドルで買収したイムクローン社のパイプラインの一つ。軟組織肉腫で高発現・高活性となっているPDGF受容体アルファに結合する完全ヒト化抗体で、第二相試験のデータに基づいて16年に欧米で条件付き承認/加速承認された。市販後薬効確認試験がフェールしたので、欧米共に承認取消の公算がある。

第二相試験では、主評価項目のPFSがメジアン6.6ヶ月と偽薬併用群の4.1ヶ月を上回り、階層化HR0.672、p=0.0615だった。p値は一般的な閾値である0.05を上回っているが、第二相試験なので閾値が甘く設定されており、Lancet誌の治験論文は主目的達成と胸を張っている。

PFSはともかくとして、全生存期間はメジアン26.5ヶ月対14.7ヶ月、階層化HR0.463、p=0.0003と大変良い数字が出た。ORR(客観的反応率)は18.2%対11.9%と、有意ではなかったが数字は良い。主評価項目がフェールした以上、二次的評価項目は仮説生成的解析に留まり、別途仮説検証的試験を行う必要があるのだが、全体像は決して悪くなかった。

なぜ異なった結果が出たのか?第二相の薬効解析対象は129人で第三相の目標組入れ数の460人と比べかなり小さい。第三相は主解析が二つあったようなので通常よりサンプル数を増やす必要があったのだろうが、第二相は、p値の閾値が甘く設定されたことも考えると、アンダーパワーでノイズを拾いやすかったのかもしれない。また、PFSとOSのメジアン値の差が大きいことに注目すると、第三相では治験離脱後の治療に偏りがあったのかもしれない。

迅速承認制度は日米欧で導入されているが、薬効・安全性が確立する前に承認するので、市販後薬効確認試験がフェールし取消になるリスクを秘めている。重要なのは、再審査のプロセスや審査後のアクションを明文化して粛々と実行すること、そして、何を見誤ったのか、承認審査奏効率を向上するには何が必要なのか、を十分に検討し今後の臨床試験、承認申請、承認審査に生かしていくことである。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース(1/18付)
リンク: Tapらの第2相試験論文抄録(Lancet、2016年)


【承認】


EUもビーリンサイトを微小残存病変治療薬として承認
(2019年1月22日発表)

アムジェンは、Blincyto(blinatumomab、和名ビーリンサイト)をMRD治療に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。BlincytoはCD19に結合する可変領域とCD3結合可変領域を持つ二価抗体。14年に米国で、15年にEUで、そして18年に日本で承認された。今回の適応拡大は、対象疾患は初承認と同じフィラデルフィア染色体陰性CD19陽性前駆B急性リンパ性白血病だが、第1/第2完全寛解期にあるもののMRDを有する患者の追加治療である点が異なる。

MRDは高感度検査を使わないと探知できない微小残存病変で、通常の検査に基づき完全寛解と判定されても、MRDを有していることがある。Blincytoはこのような患者を組入れた第二相試験で約8割の患者でMRD探知不能(完全MRD反応)となった。

CHMPは一度は否定的意見を出したが、エキスパート・ヒアリングなどを経て肯定的意見に転じた。米国では昨年3月に承認されたが、諮問委員会では賛成8人、反対4人と、予想外に票が分かれた。どちらも、MRDを治療する意義が論点となった。今後の臨床研究が期待される。

リンク: アムジェンのプレスリリース






今週は以上です。

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