【ニュース・ヘッドライン】
- ニューデクスタは主用途におけるエビデンスが弱い
- オプジーボ、食道がんの第三相が成功
- マイトマイシン・ゲルの第三相上部尿路上皮癌試験が成功
- Sage社、産後鬱の第三相試験が成功
- FDA諮問委員会、多くの委員がフェブリクの心血管死リスクを憂慮
- ウリプリスタル、カナダも使用制限を強化
【今週の話題】
ニューデクスタは主用途におけるエビデンスが弱い
(2019年1月7日発表)
大塚製薬の米国子会社であるアバニア・ファーマシューティカルズのNuedexta(dextromethorphan, quinidine sulfate)に関する医療保険データ分析論文がJAMA Internal Medicine誌に発表された。主としてALS(筋萎縮性側索硬化症)とMS(多発硬化症)を組入れた第三相試験に基づき2010年にPBA(情動調節障害)治療薬として承認されたNMDA受容体拮抗・シグマ-1作動剤だが、専ら異なった原疾患に用いられていることを明らかにした。
Brigham and Women's HospitalのFralickらによると、ALS・MS患者向けは需要の15%に過ぎない。57%は認知症・パーキンソン病向けだが、便益の裏付けは薄弱。転倒や不整脈の副作用があることや、心不全やQT延長リスクを持つ他の薬を服用している患者への処方が少なくないことなどを考えると、安易に使用されている疑いが残る。
Nuedextaは抗不整脈薬であるdextromethorphanの用量を10~20分の一に減らしてquinidineの2D6薬物相互作用で補う固定用量合剤。初承認当時のレーベルには、アルツハイマー性などの認知症にしばしば付随する情動障害に対する安全性や便益は示されていない旨の注記があったが、大塚製薬がアバニアを35億ドルで買収した15年1月に文言が削除された。第二相試験でアルツハイマー病のアジテーション(焦燥性興奮)を改善する効果が示されたことが寄与したのかもしれない。
精神・神経疾患の薬はオフレーベル使用が珍しくないが、Nuedextaをアルツハイマー病の患者に処方することは情動障害治療目的ならオフレーベルではないことになる。とは言え、エビデンスが確立していない用途が過半を占めるのは歪である。第三相試験が進行中で、今年以降に開票する見込みなので、大塚製薬の仕上げを御覧じろ。
リンク: Fralickらの論文抄録(JAMA Internal Mediine)
【新薬開発】
オプジーボ、食道がんの第三相が成功
(2019年1月9日発表)
小野薬品とBMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相食道癌試験が成功したと発表した。5-FU・プラチナ薬に不応不耐の切除不能進行再発食道癌に対する延命効果をタクサン系の化学療法と比較したところ、有意に上回った。PD-L1発現陽性・陰性を問わず効果が見られた。チェックポイント阻害剤でこれらを兼ね揃える成果を上げたのはOpdivoが初めて。データは学会で発表する予定。
リンク: 両社のプレスリリース(和文、pdf)
マイトマイシン・ゲルの第三相上部尿路上皮癌試験が成功
(2019年1月8日発表)
UroGen Pharma(Nasdaq:URGN)は、UGN-101(mitomycinゲル製剤)の第三相OLYMPUS試験の途中経過を発表した。完全反応率57%、その全例が6ヶ月時点でも完全反応持続と良好な結果になっている。昨年12月にローリング承認申請が始まっており、順調なら年内に申請完了できるのではないか。米国で希少疾患指定、ファースト・トラック、ブレークスルー・セラピー指定を受けている。
同社は低温では液状だが体温でゲル化し長時間に亘り薬剤を放出する製剤技術を持っている。リードコンパウンドがUGN-101で、既存のmitomycinと同様に尿管カテーテル点滴注入する。第三相試験では低悪性度上部尿路上皮癌の71例に7日毎に6回投与して効果を確認、完全反応なら維持療法を更に11回施行した。今回の解析は結果が出た61例のもの。昨年12月に組入れ完了したので、残りの症例も下期までに結果が判明するだろう。
治療時創出有害事象は尿管カテーテル処置に伴うものが主で、尿管狭窄、水腎症、尿道感染など。
膀胱がんと異なり、腎盂や尿管の上皮癌は薬物療法が少なく、mitomycinはオフレーベルで切除後のアジュバント治療に用いられているがエビデンスは十分ではない。ゲル製剤が既存製剤と比べてどの程度優れているのか曖昧な面があり、承認後に既存の製剤が代替使用されるリスクが残っているがるが、現時点では、きちんとした試験で薬効を証明することに意義があると評するべきだろう。
この試験の被験者の45%は切除不能なので元々治療の選択肢が限られているが、もし奏功持続期間が長いようならば、切除可能例でも第一選択になる可能性がありそうだ。
リンク: UroGen社のプレスリリース
Sage社、産後鬱の第三相試験が成功
(2019年1月7日発表)
Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)は、SAGE-217の第三相産後鬱病試験が成功したと発表した。通常の鬱病の第三相二本の結果を待って承認申請に向かう予定。
SAGE-217はGABA-A受容体に対する選択的ポジティブアロステリックモジュレーター。本来のレガンド結合部位とは異なる箇所に結合してレガンド結合時のシグナル伝達を増強する。類薬ではSAGE-547(brexanolone)が昨年5月に産後鬱病治療薬として承認申請され、11月の諮問委員会で18人中17人が承認を支持したが、REMS(リスク評価緩和戦略)精査のために審査期限が今年3月に延期された。
両剤の長所は効果のオンセットが早いこと。SAGE-547は入院患者に60時間連続点滴したところHAM-Dトータルスコアなどの薬効評価項目が偽薬比有意に改善した。SAGE-217は経口投与で第三相として2週間外来治療したところ、HAM-Dトータルスコアなどが偽薬比有意に改善した。3日目から有意な差があった由なので、SAGE-217と同様にオンセットが早いことになる。治療効果の数値は異なるが、臨床的に意味のある差なのかどうかは不明。
懸念されるのは、SAGE-547の試験で見られた失神・意識喪失リスク。140例中6例なので頻度が低いとは言えない。数日間の連続点滴投与なので転倒や事故の可能性は低いだろうが、SAGE-217は在宅治療なので話が別だ。特に、通常の鬱病に用いる場合は長期間使用される可能性が高く、また、治療が奏功して活動意欲が改善すると転倒・失神時の被害が大きくなってしまう。
幸い、今回の第三相では一例も発生しなかったが、SAGE社の諮問委員会用資料を読むとクラス・イフェクトと考えているようなので、他の第三相試験の結果を確認する必要があるだろう。
有害事象発生率は58%で偽薬群の51%よりやや高い。偽薬より多かったのが傾眠、めまい、上部気道感染症、鎮静、少なかったのが頭痛、悪心嘔吐、異常夢、多汗症など。自殺思慮・行動は増えなかったが、これも、メタアナリシスが必要だろう。
SAGE-217は米国でブレークスルー・セラピー指定されている。日本や韓国、台湾の開発商業化は塩野義製薬がライセンスした。
リンク: SAGE社のプレスリリース
【医薬品の安全性】
FDA諮問委員会、多くの委員がフェブリクの心血管死リスクを憂慮
(2019年1月11日発表)
FDAは関節炎諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共同会議を開催し、武田薬品が帝人からライセンスして米国で販売している痛風治療薬、Uloric(febuxostat、和名フェブリク、フランスなどではAdenuric)の心血管リスクについて意見を聞いた。選択肢には承認取消あるいは販売中止もあったが、22人の委員のうち19人は便益が危険を上回る症例がありうると回答。棄権が一人、上回らないと答えたのは2人だけだった。
Uloricはキサンチンオキシダーゼ阻害剤。同じ作用機序を持つallopurinolと異なり尿だけではなく便でも排泄されるので腎機能低下患者にも使うことができる(重度腎障害は半量を使う)。
米国では09年に承認されたが、薬効確認試験のプール分析で心血管疾患リスクの兆候が見られたため、FDAが市販後心血管アウトカム試験を実施するよう要請。武田は15年1月までに結果を報告するとコミットしたが、このようなケースでしばしば見られるように、大きく遅延した。
このCARES試験のデータは昨春のACC米国心臓学会やNew England Journal of Medicine誌で発表された。MACE(主要有害心血管イベント)はallopurinolを投与した群と非劣性だったが、なぜか、心血管死はハザードレシオ1.34、p=0.03、Number-Needed-to-Harmは91だった(91人に投与すると心血管疾患で死亡する患者がallopurinolより一人増える)。全死亡もハザードレシオ1.22、p=0.04だった。
非致死的心筋梗塞などは増加していないのに、なぜ心血管死が増加したのか、メカニズムは明確ではない。血小板数など血球細胞に影響するせいかもしれないが曖昧である。また、痛風はQOLに大きな影響を及ぼす可能性があり、尿酸治療薬はallopurinol以外の薬も含めて安全性が十分ではないため、この程度のリスクなら許容せざるをえないかもしれない。思い出すのは、自主回収されたVioxx(rofecoxib)の諮問委員会で、痛みを緩和するためなら重篤な血栓性イベントのリスクが倍増しても構わないと証言した患者がいたことだ。
これらのことを考えると、FDAが販売中止に動く可能性は低そうだ。枠付き警告や禁忌追加などの規制強化に留まるのではないか。
リンク: TCTMDの報道
ウリプリスタル、カナダも使用制限を強化
(2019年1月11日発表)
ヘルス・カナダは、子宮筋腫治療薬Fibristal(ulipristal acetate、欧州名Esmya)の使用制限を追加すると発表した。カナダと欧州などで承認されているが、市販後に深刻な肝障害症例が複数報告されたことを受けた措置。欧州でも昨年5月に規制強化が導入されたが、その時の深刻肝障害例は投与実績765000人中8人だった。今回のカナダの発表ではulipristalと関連する可能性のある症例が20例と、ベースが同じかどうかは不明だが、数値が増加している。
子宮筋腫を治療する便益と稀だが深刻な副作用の危険を天秤にかけた結果、カナダも欧州と同様に適応を絞り込んだ。具体的には、肝疾患(既往を含む)は禁忌。二回以上の間歇的な治療を行うことができるのは、子宮摘出術を受けられない妊娠可能年齢の女性に限定した。
Fibristalは選択的プロゲスチン受容体調節剤。フランスのLaboratorie HRA PharmaのライセンスでGedeon Richterが販売している。日本はあすか製薬が権利を取得、ファンドとリスクシェアリングしながら開発している。米国は未承認。
尚、同じ活性成分が事後的避妊薬Esmyaとして多くの国で販売されているが、こちらでは肝毒性は見られないようだ。一回用量は6倍だが一回服用するだけだからだろう。
リンク: ヘルスカナダのプレスリリース
リンク: ヘルスカナダのSummary Safety Review
今週は以上です。
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