2018年10月28日

2018年10月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アムジェン、米国でレパーサを6割値下げ 
  • ESMO:リムパーザがBRCAm卵巣癌に大きな効果 
  • ESMO:キイトルーダ、頭頚部癌の一次治療試験が成功 
  • ESMO:テセントリクも肺癌一次治療試験が成功 
  • ESMO:タカラバイオのHF10は日本のP2試験が今一つ 
  • バイエル、非転移性去勢抵抗性前立腺癌の第三相が成功 
  • CTAD:BAN2401の追加解析は説得力が弱い 
  • ルンドベック、新規向精神薬の最初の第三相がフェール 
  • FDAがゾフルーザをインフルエンザ流行前に承認 


【今週の話題】


アムジェン、米国でレパーサを6割値下げ
(2018年10月24日発表)

アムジェンは、コレステロール治療薬Repatha(evolocumab、和名レパーサ)の米国における価格を年14,520ドルから年5,850ドルに引き下げると発表した。トランプ大統領が医薬品の高価格を批判していることに応えたり、メディケア患者の自己負担緩和に加えて、同社やリジェネロン/サノフィの抗PCSK9抗体の売上が伸び悩んでいるのを梃子入りする狙いもあるのではないか。

高薬価批判に対する製薬業界の反論の一つは、医療保険や薬品給付管理組織における『薬価差益』だ。製薬会社は優先使用薬リストに収載してもらうためにリベートを払っているが、加入者の自己負担額は定価に基づいて決定されるので、リベートが還元されない。そこで、製薬会社は、薬を買うだけの余裕のない患者にクーポンを提供しており、Repathaの場合、月5ドルで足りる。

ここで問題になるのが、米国にはメディケア/メディケイドという民間の共助組織とは性格も考え方も異なる制度が存在することだ。最恵国待遇条項があるため最も有利な条件と同等以上の条件を要求できるが、民間の契約形態が変化していく中で、何がリベートで何が違うのか、何がOKで何が禁止なのか、色々な意見の食い違いが発生している。最近も、複数の製薬会社が司法省との和解に応じ、巨額の和解金を支払った。

民間保険加入者にクーポンを提供するならメディケア加入者にもそうするのが公平だが、メディケアは。自分たちの得にはならないせいか、禁じている。このため、自己負担に耐えられない高齢者や、65歳になって民間保険からメディケアに移行した患者が、Repathaの処方箋を貰っても薬を買わないケースが多いようだ。

今回の新価格は、65%のHMO/PBMに対するリベート控除後の価格と同じとのことだ。年5,850ドルなら日本や英国の保険薬価と大差ない。要するに、今までの定価が、値引きを大きく見せかけるために下駄をはかせた『通常価格』だったのである。

WAC(問屋取得価格)と正味価格の格差を縮小する動きは他社でも見られるようになった。製薬会社が高い薬価を付けてHMO/PBOが薬価差益で潤う、Win-Winの関係は変わりつつある。

リンク: アムジェンのプレスリリース


【新薬開発】


ESMO:リムパーザがBRCAm卵巣癌に大きな効果
(2018年10月21日発表)

アストラゼネカとMSDは、Lynparza(olaparib、リムパーザ)の第三相SOLO1試験の結果をESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表した。3年PFS(無進行生存)率が倍増という大きな成果を上げた。

この試験は、BRCA遺伝子変異を持つ末期卵巣癌で白金薬レジメンによる一次治療を受けて部分反応以上だった患者391例を組入れて、300mg錠を一日二回服用する維持療法群と偽薬群のPFSを比較したもの。結果はハザードレシオが0.30、36ヶ月PFSは60.4%と偽薬群の26.9%を大きく上回った。2年経って完全反応の患者は投薬を中止するプロトコルが導入されており、抵抗もあった模様だが、中止後の経過は良好のようである。アストラゼネカは適応拡大申請に向かう考え。

BRCAはDNA損傷の修復に係る蛋白の遺伝子で、有害変異を持つ患者は卵巣癌や乳癌のリスクが高まる。LynparzaはPARP(ポリアデノシン5’二リン酸リボースポリメラーゼ)阻害剤。DNA損傷の修復メカニズムを妨げるのでBRCA有害変異細胞は遺伝子損傷や複製ミスを修復できず、大きな打撃を受ける。アストラゼネカは06年にKuDOSを買収して入手、14年に欧米で初承認された。その間には、買収時に発生した無形資産の減損を計上したり、米国では審査途中で適応が大きく変わったり、紆余曲折の連続だった。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:キイトルーダ、頭頚部癌の一次治療試験が成功
(2018年10月22日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-048試験の結果をESMOで発表した。難治性転移性扁平上皮頭頚部癌の第三相一次治療試験で、Keytrudaモノセラピーと白金薬・5-FU・Keytruda併用レジメンを白金薬・5-FU・Erbitux(cetuximab)を併用するEXTREME試験レジメンと比較したところ、中間解析で成功認定された。

モノセラピー群のOSは、CPS(腫瘍や腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現度)が20以上のサブグループ分析でOSのハザードレシオ0.61、同じく1以上のグループでは0.78と統計的にも臨床的にも有意な結果になった。次に、Keytruda併用群のOSは、PD-L1発現度を問わない全ユニバースの解析でハザードレシオ0.77となった。

奇妙なことに、PFSはどの解析でも有意差がなかった。OpdivoやTecentriqの効果とTMB(腫瘍変異負荷)の関連性を検討した試験ではPFSと異なりOSでは関連性が見られなかった。これらの事例が示唆するのは、抗PD-1/PD-L1の真価を探るにはPFSではなくOSを重視すべきということだ。

リンク: MSDのプレスリリース

ESMO:テセントリクも肺癌一次治療試験が成功
(2018年10月22日発表)

ロシュはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower130試験の結果をESMOで発表した。非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療試験で、carboplatinとnab-paclitaxelの標準療法と、Tecentriqを追加する三剤併用の効果を比較したところ、共同主評価項目のOSとPFSのどちらも成功した。

OSはハザードレシオ0.79、p=0.033、メジアンは18.6ヶ月で標準療法の13.9ヶ月を上回った。PFSはハザードレシオ0.64、p<0.0001、メジアンは各7.0ヶ月と5.5ヶ月だった。

抗PD-1/PD-L1のうちOpdivo(nivoluman)は非小細胞性肺癌の試験成績が見劣りする。Opdivo自身の問題なのか、検出力や除外基準など治験デザインの違いが原因なのか、事例が積み重なるにつれて明らかになっていくだろう。

尚、Tecentriqの併用試験でしばしばnab-paclitaxelが採用されているのは、免疫を抑制するステロイドでプリトリートする必要がないからであるようだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

ESMO:タカラバイオのHF10は日本のP2試験が今一つ
(2018年10月19日発表)

タカラバイオが開発している腫瘍溶解性ウイルス、HF10(canerpaturev)の日本で行われた第二相試験の結果がESMOで発表された。黒色腫の二次治療としてYervoy(ipilimumab)と併用したところ、最良客観的反応率(ベストORR)が7.4%(27例中2例)だった。通常の薬効確認試験で用いられるORRはベストORRより低く出ることが多いので、この併用療法の効果はこれ以下ということになる。

米国で実施された第二相Yervoy併用試験は43例のベストORRが49%、うち完全反応は18%だった。類似した薬であるアムジェンのImlygicはYervoy併用でORR39%だったので、同程度の効果があるかもしれないと思っていた。

日米の成績の差異はYervoyが犯人である可能性も指摘されている。今回の試験では9割の患者がOpdivoによる治療歴があったが、日本における藤沢らの後顧的研究によれば、Opdivo歴を持つ患者にYervoyを使った症例のベストORRは3.3%、60例中2例だけだった。

しかし、Yervoyという薬は伝統的な免疫強化療法と同様に延命効果はあるがORRは海外でも低い。米国承認の根拠となった試験では、Yervoy単剤投与群のベストORRは10.9%だったが、Yervoyとgp100を併用した群では5.7%だった。gp100単剤投与群は1.5%だったので、Yervoyの効果は3.2~10.9%の範囲という計算になる。単剤投与群と併用群の95%信頼区間の重複に注目すると、6.3~8.4%の範囲と推定することもできる。

何れにせよ、今回のベストORRだけでは併用の必要性は感じられない。OpdivoをYervoyと併用するのと比べて効果もエビデンスの質も見劣りする。もっときちんとした試験で延命効果を確認すべきである。

HF10は名古屋産業科学研究所の技術を用いて開発した弱毒化自然変異株HSV-1。承認のハードルが低い再生医療等製品として承認申請される見込み。国内の開発販売権は大塚製薬が保有している。

リンク: タカラバイオのプレスリリース

バイエル、非転移性去勢抵抗性前立腺癌の第三相が成功
(2018年10月24日発表)

バイエルは、BAY-1841788/ODM-201(darolutamide)の第三相試験が成功したと発表した。非転移性の去勢抵抗性前立腺癌(nmCRPC)を組入れてdarolutamide群(600mgを一日二回経口投与)と偽薬群に2対1割付して無転移生存期間を比較したもので、データは後日発表予定。

オライオン(OMX:ORNAV)から共同開発販売権を取得したアンドロゲン受容体阻害剤。前立腺癌は次々と新薬が登場しており、nmCRPCではジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide)が今年2月に、アステラス/ファイザーのXtandi(enzalutamide)の適応拡大が7月に、米国で承認された。

リンク: バイエルのプレスリリース

CTAD:BAN2401の追加解析は説得力が弱い
(2018年10月25日発表)

エーザイは、抗アミロイド・ベータ抗体BAN2401の第二相早期アルツハイマー病試験の追加解析をCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表した。この試験は主評価項目である12ヶ月時点のベイズ確率による進行抑制効果の解析がフェール。18ヶ月時点の伝統的な手法による解析は最高用量群が成功したが、伝統的な考え方では主評価項目がフェールしたら事後の解析は仮説検定的と見做すべきでない。

内容的にも、最高用量群は治験の途中で欧州の承認審査機関がApoE4陽性患者の組入れを止めるよう要請したため、偽薬群や他の用量の群と比べて当該症例数が少なく、患者背景に偏りがある。

今回の追加解析では、偽薬群の患者はApoE4陽性でも陰性でも疾病進行スピードに大差なかったことが示された。ApoE4陽性は老人性アルツハイマー病のリスク因子だが、進行スピードに大差ないなら、最高用量群のApoE4陽性比率が30%と偽薬群の71%と大差であったとしても、大きな影響はなかったのかもしれない。

一方、最高用量はApoE4陽性サブグループの進行を63%抑制し、ApoE4陰性群は7%のみという解析は説得力が弱い。ApoE4陽性サブグループの解析対象は、最高用量群は10例に過ぎず、残りの、無作為化割付数の8割に相当する多くの患者が対象外になっているのだ。偽薬群の解析対象は113例で打ち切りは35%だけである。

もし忍容性に難があり8割がドロップアウトするなら普及しないだろう。ApoE4陽性の新規組入れ中止を伝えられた医師が心配して既に組入れられた患者を早めに離脱させたのだとしたら、試験結果にバイアスが生じていることになる。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)
リンク: エーザイの学会発表スライド(pdfファイル)

ルンドベック、新規向精神薬の最初の第三相がフェール
(2018年10月25日発表)

ルンドベックは、Lu AF35700の一本目の第三相難治性統合失調症試験がフェールしたと発表した。薬物療法に十分に反応しない患者をrisperidoneまたはolanzapineで治療するランインを行い、不応例を継続投与群と試験薬群(10mg群と20mg群)に無作為化割付けしてPANSS総合スコアの10週後の変化を比較したが、有意な差はなかった。

Lu AF35700はD2受容体と比べてD1受容体選択的で、5-HT2Aや5-HT6受容体にも作用するため、D2受容体選択的な向精神薬に反応しない患者や、錐体外路症状に不耐な患者に適していることが期待される。FDAが難治性統合失調症用途でファーストトラック指定している。

リンク: ルンドベックのプレスリリース


【承認】


FDAがゾフルーザをインフルエンザ流行前に承認
(2018年月日発表)

FDAは、Xofluza(baloxavir marboxil、和名ゾフルーザ)を12歳以上の合併症のないインフルエンザ感染症の治療薬として承認した。ロシュやジェネンテックが塩野義製薬から導入したCap依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤で、一回経口投与で足りる点が最大の長所。インフルエンザ罹患期間を短縮する効果はタミフルと大差なさそうだがウイルス量減少は有意に早いので、もし他者にうつすリスクが小さいなら、学生や高齢者施設入居者などに特に適しているだろう。

インフルエンザの治療方針は国により濃淡があり、米国は日本同様に前向きなほうだが、治療薬の承認審査では高リスク患者(喘息症や糖尿病などの持病を持ち合併症のリスクが高い)とそれ以外を区分けしている。Xofluzaは高リスク患者試験も成功したのので、早晩、対象患者拡大が認められるだろう。

トランプ大統領に言われるまでもなく、米国は薬価が高い。ゾフルーザは日本の一日薬価は約4700円だが、米国のWACは150ドルと3倍に跳ね上がる。タミフルなど既存薬の日米格差が影を落としている。こうなると、ロシュの分も含めて世界年商30億ドル以上という塩野義の野望が現実味を帯びてくる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース





今週は以上です。

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